元文科省職員が学園艦廃艦計画阻止のために奔走する話 作:単細胞
「文科省が一旦決定したことは我々でもそう簡単には覆せないしなぁ・・・」
日本戦車道連盟理事長の児玉七郎は表情を曇らせながら頭を掻いた。
無理も無い、俺、蝶野、角谷から寄ってたかって廃艦を無しにしろと言っているのだ。
今回の廃艦計画、連盟には何一つとして知らされていなかった。我々がその知らせを知った時には既に寄港の手続き、解体業者のシュケジューリングなどが決定した後だった。
「相手の面子が立たないということですか?」
「そういうことになるねぇ・・・」
角谷の問に理事長は肯定するしか無かった。
「面子ということでしたら、全国大会で優勝する学校をみすみす廃校にされては、それこそ連盟の面子が立ちません!」
「蝶野くんも連盟の強化委員の一人だろ?」
連盟の立場は微妙な所だ、文科省の言い分も一理ある。だからといって全国大会で優勝した高校を廃校にしてしまうと連盟の影響力が危ういものになってしまうのだ。
「しかし理事長、戦車道に力を入れるという国の方針にも反しますし何よりもイメージの低下につながります」
蝶野が食い下がる。理事長もかなり参っている様子だ。
実際連盟にはテレビ局や雑誌社が詳細を求めるインタビューの電話がひっきりなしに鳴り響いていた。各社にはFAXやメールで公式な文書を送信することで事なきを得たがファンやNPO法人などからの電話は未だに止まない状態だ。
俺のような下っ端はある程度自由に動き回ることが出来る。しかし理事長ともなるとどちらかの肩を持つ事は今後の連盟の行く末さえも左右してしまうのだ。
「私たちは勝ったら廃校が撤回されると信じて戦ってきたんです。その道が最初から無かったと言われ、引き下がるわけには行きません」
角谷も諦めない。
「今回の一件、世論は言うまでもなく学校側の味方です。これを利用すれば連盟のイメージアップ、ひいては競技人口の増加が望めます」
「敷島くんまで、困ったなぁ・・・」
理事長は顎に手を当てて考える。世論の影響はかなり大きい、戦車道がマイナーな武道となりつつある現在、イメージダウンは避けたい筈だ。
「しかし文科省は今、2年後に開催される世界大会の誘致をするためにプロリーグを発足サせるのに忙しいからねぇ、取り付く島がないよ」
すると角谷の眼の色が変わった。
「プロリーグ・・・それですね」
蝶野と目を合わせる、彼女も角谷の意図に感づいたようだ。
「ここは超信地旋回で行きましょう!」
何を言っているか分からないが。今後の方向性は決まった。
「失礼します!」
蝶野と角谷が去った今。理事長室には俺と理事長だけが残った。
「敷島くん、私には何がなんだかさっぱり変わらないんだが・・・」
「そのうち分かりますよ、では私もこれで。失礼します」
理事長室を出ようとした時――。
「敷島くん」
理事長に呼び止められた。
「今回の件、連盟が表立って動くわけには行かない。そこで一件の処理は君に任せたい」
「・・・」
「分かっていると思うが責任も重いぞ」
室内を静寂が支配した。
「・・・覚悟はできています」
答えは決まっている。そのために文科省をやめて此方側に来たのだ。
俺は理事長室を後にした。
プロリーグの設置、強化委員長は有名な流派の家元だろうな・・・次の行き先は熊本だ。
車に戻りスマホの電源を入れると不在着信が1件あった。相手は俺が文科省に居た時の同僚だ。
リダイヤルするとコール音もなしにすぐ彼は出た。
「よぉどうした?」
『電源切ってたのか?』
「あぁ、ちょっと理事長と話し合いしてたんだ。」
『かなり面倒なことになったぞ』
彼の声は通話越しでもかなり焦っていることが分かった。かなり嫌な予感がする。
「聞きたくはないが教えてくれ」
『大洗女子学園艦の解体日が大幅に前倒しされた』