母親とは自身が腹を痛めて産んだ子のためなら、たとえ火のなか水の中へと問答無用に突き進む人種である。
人によっては、自分の子供に対して非常に接することも辞さない。
――――――――――これは、そんなとある武将の母である破天荒な女性のとある一日である……
――――雪花
「(―――――ムシャムシャ)」
なんだ、意外と蛇ってウメェじゃねぇか。旅の途中、柚登が捕まえてきていたのも、よくわかるな。
あの時は村が近かったし、尚且つあんなニョロニョロがうまいはずがないって思っていたからな。しかし、まさか今こうして柚登を否定しておきながら実行している俺がいるとはな…人生ってもんはわかんねぇな〜
ただ、何だか知らねぇが舌がイテェのは何でだ?
やっぱ、身の部分が美味かったからって内臓まで喰ったのは不味かったか?
しかも、途中で火が消えちまったから半生でいったのもまずかったかもしんねぇな……
うん、今度から捌いた後に火を通してから喰ってみるかな。
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「うっし、メシ終わり! さぁて、今日も西涼目指していくぜ!!」
俺の名前は雪花。最近ちまたで噂になっている柚登の母ちゃんだ!
前にも言った事があるかもしんねぇが、俺は今西涼の馬騰って奴の所目指して旅をしている。ワケは前にも言ったからいわねぇぜ。
因みに柚登は今現在、幽州のこ、こう……コウ……………………フゥ、影の薄い奴の所『うおぉい!!』で客将として働いている。
…ん?何か今誰か喋ったか? ……気の所為……か?
まぁいいや。そんなこんなで旅をしている最中なんだが……
「……どうなってんだこりゃ?」
今俺は崖の上から一面に広がる荒野にポツンと存在する村に眼をやる。俺から大体二里(凡そ4km)離れているだろうか?……ん?何だか今俺のしらねぇ言葉が出てきたような……ま、気の所為か。
んん? 誰だぁ? 今俺の事を人間じゃねぇって思った奴、前に出やがれぇ!! ……何だかさっきから変な声が聞こえてしゃあねぇや。
俺は気を取り直して再び遥か遠くに離れし村へと目を向ける。
そして、そこには辺りを覆うように立ちこめる黒煙…さらには、なにやら羽虫ほどに小さくだが人が密集しているのが見える。更に目を凝らしてみると……村の中になにやら旗の様なものが見える。
恐らく、どこぞの軍の将がいるのであろう。俺は興味本位でその旗が立っている場所に意識を集中した。
「…………『夏候』の旗…か?」
如何やら戦の真最中の所のようだ。大方どこぞの豪族が内輪もめっているか、国の侵攻が始まったか…はたまた、賊に攻め込まれてんだろう。こういうのは関わらねぇってのが旅をするうえでの鉄則である。
態々、自分から危険に飛び込む馬鹿なんざ底抜けにバカが付く程のお人よしか、昼夜問わず戦い続ける事を生きがいとする戦闘狂位なもんだ。
…いや、恐らく昔の俺だったら後者に当てはまり、あそこに突っ込んでいく無望な行動を取っていただろう。
しかし、今は違う。今の俺は西涼の馬騰の所に行って柚登の出世街道に色を付けるという使命がある!!
……まぁ、柚登には内緒で勝手にやってんだが。
しっかし、何だか村に籠っている奴らが大分苦戦してんなぁ〜無理も無いか。あんだけ黄色い軍勢に取り囲まれたとあっちゃあ、援軍でも来ない限り巻き返すなんて至難の業だ。
ま、俺には関係ねぇな~俺は柚登の為に生きていくって決めてるしな~
そう心の中で自己完結した俺は勢いよくきびすを返した。…そこでふと、先程の黄色い軍勢について頭をよぎった。
そういや、さっきの黄色い軍……何だか、いくつもの塊が連なって出来ているように感じたな。
おそらく、小規模~中規模の軍を数十単位で大量に合わせていってさっきの大規模の軍勢になっていたのだろう。
俺の見立てでは軽く千は超えていやがる。下手すりゃ万を超えているかもしんねぇ。
…と言う事はだ、あそこの中に中枢にかかわる指揮官の一人や二人が紛れ込んでいるっていう確率がとことん高いって事か?
「………………そういや柚登の奴、何て言ったっけな? 確か…………そう……蒼天己死、黄天富立…だったか?」
確か、ついこの間俺と柚登が壊滅させた黄色い布を巻いた賊どもがそんな事が書かれた旗を持っていた気がする。
俺は直ぐ様、首だけ動かして大量に集まっている軍勢を見下ろした。そこには……………
「当たり…ってか? ニシシ~俺にも運が回ってきたぜ! 俺がここであの軍を軽くプッ血殺して指揮官の首を柚登にもっていきゃあ、柚登の出世街道順調明快!! 俺の夢に一歩近づくってわけか!」
そうと決まりゃあ話が早ぇぜ! 俺はたった今きびすを返した足を再び返してもう一度村の方へと向いた。
俺の予想が確かなら………………お? いたいた〜何にも知らねぇ状態で呑気に部下に指示を飛ばしている気持ちワリィ野郎がいるぜ〜 恐らくは、アレがこの軍の指揮官…もしくは、ソレに近しいものなんだろうな。
大凡二里…俺の力じゃあ三節棍はアソコマデ飛ばねぇ…柚登ならやれちまうんだろうが…ハァ、俺って母ちゃんなのにアイツよりも頼りなくなっちまったなぁ〜
………おとと、物思いにふけっている場合じゃなかったぜ。
取りあえずは、あの野郎をしょっぴきゃあ良いんだよな?だったら………
「俺らしく突貫するだけだぜ!!」
そう結論付けた俺は今俺が立っている崖から勢いよく飛び出したのだった。
少し傾斜になっている崖から俺は滑るように突貫する。さらに両手にはいつも愛用している三節棍を装備するのも忘れない。
未だに距離は離れている為中腹にいる奴らには俺の存在に気が付いていない。しかし、集団の端っこ…崖に近しい所に配置していた奴らは何かが自分達に近づいているという事に気付き始めたみたいだ。
しかし、こっちは俺一人…恐らく出てくるのは数人規模…だがそれでも良いんだ。
向かって来る野郎は全滅! 逃亡する野郎は半殺し! 大将は首だけチョンパ!
これが俺の心情だぜ!!
「オラオラオラオラーーーーーーーーーー!!!! 俺様が相手になってやんよーーーーーーーーー!!!!!!」
そんなこんなで俺は、敵に単身突貫と決め込んだのであった…
――――夏侯淵
少し厳しい状況だな…斥候の話ではこの村を襲撃していた賊は当初千余り。
此方には義勇軍の姿もあり、総勢千程…数のうえでは殆ど差異は無い。しかし、何故か判らないが、奴らは増加の一途をたどっている。今では既に我等の倍以上の数に膨れ上がっている事だろう。
しかし、こちらは先遣隊といっても軍だ。多少なりとも数が劣勢でも一方的に負ける事はない。
しかし、数で押し切られてしまった場合は……
「秋蘭さまっ!西側の大通り、三つ目の防柵まで破られました!」
季衣が慌てた様子で報告に来た。どうやら、黄巾を巻いた賊どもは直ぐそこまで来ているようだ。
その証拠に、奴らの発する轟音諸々が段々と近づいてきている事が容易に理解出来た。
そして、残る防柵は残り二つ……恐らく一刻もつか怪しい所だな。姉者達が間に合うか間に合わないか微妙な所だ。
「如何なさいますか夏候淵様?」
そんな焦った様子を兵達に見られて士気を落とすまいと顔に出すことなく思案していると褐色の少女…楽進が指示を求めに来た。
彼女を含めた李典、于禁は義勇軍に所属している。今回、これ程までに保つ事が出来たのも一重に彼女達のお陰だろう。
しかし、このままでは防柵が持たずに賊の軍勢がこの村に押し寄せてくる。そうなってしまってはどうしようもない。
何としても華琳様や姉者が来るまでもたせなければ…
「夏候淵さまー! 東側の防柵が破られたのー。 向こうの防壁はあと一つしかないの!」
「…あかん。東側の最後の防壁って、材料が足りひんかったからかなり脆いで。すぐ破られてまう!」
まずいな…李典の言う通りならば半刻も持つまい。…こうなったら、西側を最低限まで絞り、残る全ての兵を東側に向かわせるしか方法が…しかし、それでは西側が破られた時、不利な状況に働くか。
「し、失礼いたします!!」
そんな時だ。義勇軍の一人と思われる若い兵が私達の前に血相を抱えた状態で報告に来た。
「何や! 今こっちは手いっぱいで…」
李典が煩わしそうに吠える。仕方ないか、今この状況下で冷静にいろというのが少し無理な話だ。私ですら焦りを隠しきるので精一杯だというのに…
李典の眼光に一瞬身を引いた兵だったが、直ぐ様本来の目的を思い出したかのように口を開いた。
「ハッ! 原因は不明でありますが、東側の賊の数が突如減少の一途を辿っております!」
……何を言っているのか理解できなかった。限りなく優勢の賊が減少の一途をたどるなど信じることが誰が出来よう。
戦場では良くあることだが、新兵などが戦での興奮で気がやられ、本来は見えないモノが見えてくる事はよくあることだ。そして、目の前にいる兵もまだ若い。
恐らくこの場にいる将の器として呼べる者は皆、この兵の気がやられたのだと判断した。………しかし
「更に伝令! 東側の賊、逃走を始めました!」
『……は?(一同)』
どういう事だ? 一人ならまだしも二人も同じ幻影を見たというのか?
…いや、そう簡単にその話を信じては……一つの判断の誤りが後に取り返しのつかない事になりかねない。
ならばここは……
「…李典、于禁はそのまま此処に待機。防壁が破られた時はお前達が指示を出せ。楽進は私と共に東側の防壁まで行くぞ」
「信じるんでっか!?」
李典が意外そうな顔をしながら答えた。…いや、李典だけでなく楽進も于禁も同じ様な表情だ。
…いや、自分でもこれはある意味でかけに近い者がある。仮にこれが兵達の幻影で東側の防壁に押し寄せる賊たちの数に変化が無いとするならば、私と楽進では防ぎきれない。
また、本当だとしても全員で東側の防壁へ向かった場合は西側の防壁が手薄となり、これもまた詰みだ。
…これは一種の懸けといってもいい。私は軽く片方の口角を上げて答える。
「…どの道、ただでは済みそうにない状況だ。ならば、人を信じてみようと思っただけだ」
そうして、私と楽進は数十人の兵を連れて東側の門へと向かったのだった。
――――その日の夜
「…ソレが嘘偽りのない事実だと言えるのかしら?」
「はっ。確かに我等はこの目でしかと…」
「秋蘭、アンタもどっかのバカがうつったんじゃないの? 人一人で黄巾党の軍勢を退けたなんて…普通に考えても出来るわけないじゃない!」
「……なぁ季衣、今のバカってお前の事か?」
「えぇ!? ボクはてっきり春蘭様の事かと…」
「そっか、私なのか。……………なぁぁぁぁぁぁぁにぃぃいいいいい!!!!!?? どういう事だ桂花!!」
「ふん、バカにバカって言って何が悪いのよ!あと、うっさいのよアンタ!!」
「バカってうつるのか!!?」
「そこなんですか春蘭様!?」
「3人とも静かに! …まぁいいわ。それにしても、秋蘭の言うとおり、たった一人で数千もの賊軍を退かせるなんて…敵に回ったとしたら、この曹孟徳の覇道の障害となりうるわね…秋蘭、その者はどこに?」
「ハッ! 何やら『ユトーーーーー』と叫びながら西へ…」
「ふ~ん……どうみる一刀?」
「俺に振るのかよ!? …しかしな、この世界で何千人と相手に出来る将なんて俺は呂布位しか知らないしな…」
「ソレは無いと思う。我らが見たのは全くの別人だ。――――――――――――しかし…」
「『しかし』…ということは何か心当たりがあるのかしら?」
「えぇ…使用していた武器が三節棍であったのが引っかかるのです。確か、ここ最近三節棍を持つ親子の話が話題となっていた筈ですが…」
「それなら知っているわ。確か、『天の御使い』にならぶ『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』だったわね? …世迷い事だと思っていたんだけれど……桂花!」
「ハッ!」
「出来るだけで良いわ。『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』の事について調べてちょうだい」
「御意!」
――――その時、凌統は…
「(―――――ムシャムシャ)」
やぁ、白蓮さんの城がある城下町で絶賛食事中な凌統ご一行様だぜ。
何だかんだ言いながらあの後、俺は劉備さん達と一緒に白蓮さんの所を目指す事になった。
何でも、白蓮さんの所に士官することが目的らしい。…まぁ、断られても俺が何とかする予定ではあるんだけれどね。
そんなこんなで一緒に野営をした後、俺達は再び啄郡に向けて歩みを進めた。道中―――
『私の真名は桃香です。よろしくお願いしますね凌統さん♪』
『私の真名は愛紗と申します』
『鈴々は鈴々なのだ!』
……と、真名をいただいたりもした。一応俺も自身の真名を交換したんだがね。
そんなこんなで一夜が明けて、どうやったら白蓮さんのところに行って話を聞いてもらえるのかをご飯を食べながら話し始めたのだよ。
しかし其処は『俺の胃袋は宇宙だ』と忘れ去られしフードファイターの名台詞をサラリと言えてしまう程の大食漢にランクアップした俺だ。そんな場所で会議も出来る筈も無く気が付いたら……
「(―――――ガツガツガツガツ)………店主……オカワ…リ」
「ヒッ、ヒーーーーーーーーーーー!!!? も、もう!もう勘弁して下せぇ!!」
「おい、今10人目の料理人が倒れたぞ!!?」
「一体何人前食う気だこのあんちゃん!?」
「衛生兵!えぇせぇぇへぇぇぇぇええええええ!!!!!!」
何やら祭りでも起きたんじゃないのかと言う位喧騒に満ち溢れた店内と…
「あは、アハハ~……柚登さんスゴイ…」
「柚登殿…もしや、あの剛腕はこの食事の量に秘密が…?」
「ぬぬ~鈴々も負けてられないのだ~!! おっちゃんラーメン超特盛り叉焼十枚つけてなのだ~!!」
…………解せぬ。
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ