――――凌統
やぁ、何やら料理人を十人斬してしまうという失態を犯してしまった凌統君だ。
しかしながら、軟な料理人達だったぜ。客の要望にこたえきれないとは…
「うにゃぁ~ 全然足りないのだ~」
ほらみろ、鈴々ちゃんなんか育ちざかりだってのに腹いっぱい食べれていないんだぞ? その証拠に元気印が付きそうな顔がかなり曇っている。
確か、最後に超特盛りラーメン+叉焼十枚を食べていたが、鈴々ちゃんくらいの年齢だったらアレと同じ量を五杯は食べないと足りないだろう。
俺だったら間違いなくその倍は食べないと足りないかもしれないけれど……
「鈴々、余りはしたない事を言うな。今日の夕餉まで我慢するんだ」
「にゃにゃ!? そんなの待っていられないのだ!」
愛紗さん、以外と酷な事を言うよな……俺的腹時計では現在の時刻は14時を回った位の時間の筈だ。
……以外と当たるって評判なんだぞ俺の腹時計。 取りあえず、まだヒルを少し回った時間だってのに夕食まで待てとかマジで鬼畜すぎやしませんか? ほら見ろ、鈴々ちゃんの顔が絶望色に染まり切っているじゃんかよ。 流石に子供の絶望した顔は俺の精神上良くない。 さてさて、確かこの辺に……
鈴々ちゃんの元気の無さを見て俺は自身の懐に手を入れてとあるものを探した。
「(ゴソゴソ…)……これ……食べ…ろ」
そう言って俺がとりだした物は…
「……肉?」
「……肉…ですか?」
「うにゃ~いただきますなのだ~!」
――さて、鈴々ちゃんに少しだけだが俺の非常食を分けた所で今後の動向についてのおさらいだ。
桃香さん達はこのまま白蓮さんの所に行くことを望んでいるみたいである。おそらく其処で俺の平穏無事な暮らしをする為の手伝い諸々をしてくれるのだろう。
「あの……桃香様? 私の目が変なのでしょうか? あの肉……」
「言わないで愛紗ちゃん。 私の目にも明らかに懐に入る程の大きさの肉じゃないって事は分かるんだから。 ここは、何も見なかった事にしておいた方が良いと思うよ」
「にゃにゃにゃにゃ~ ……でも、お兄ちゃん凄いのだ~豚さんの丸焼を出すなんて鈴々、真似できないのだ」
「「…………はぁ」」
ん? 何だか三人が話している様な気がしたけれど……ま、いっか。
さて、考えを戻して……俺は副長さん達を先に城に戻るように指示を出したのでさっさと報告に行かないといけない。……しかし、よくよく考えたら先に戻る様に指示を出してはいたが、一日あとに帰るなんて相当不味い事をしているかもしれない。だって、日本で営業に行っていたサラリーマンが部下だけ先に帰らせて自分はその日に帰らず、次の日に何食わぬ顔で出社したら、自分の席が無くなっていること請け合いだ。
おそらく、幾ら時代と国が違うとはいえ常識的に見ても不味いと思える。
……どうしよう? このまま戻ったら自分の部屋がないとかいう状態になっていたら。
就職して数日でファイアとかマジで勘弁なんだけれど。 はやくも収入ゼロとか勘弁だわぁ~
……いや、少し待てよ俺。 これはある意味でチャンスなのかもしれない。 ここでクビになっておけば戦争とか危険な事に頭を突っ込む機会も無いし、寧ろ俺の目指す平穏無事な毎日を送る事が出来るのではないのか?
見た目無双さんの凌統とはいえ中身は小市民の俺だ。 こんな俺が表舞台からいなくなったってそんな大きく歴史が変わるなんて考えにくいし、そもそもこの時期には凌統は生まれていなかった筈だ。 だったら、今から姿をくらました所でそれ程お事にはなりにくいんじゃないのか?
……ふふ…フハハハハハハ! よっしゃ、そうだねそうしよう。 このプランで行けば俺の平穏無事な生活が安泰になるではないか! 収入が無くなるのは少し辛いけれど、この身体能力だ。 力仕事関係なら幾らでも働き口が見つかるに違いない。
そうと決まれば、さっさと城に戻って……
「柚登さん、どうしたんですか? 黙ったまま遠くを見つめたりして」
……桃香さんたち、どうしよう?
元々、俺の平穏無事な暮らしを手助けしてくれるために白蓮さんの所に行くって言ってくれていたし……俺が軍から離れると決めた以上、特にやって貰いたい事も無いし……そうだ、彼女達には俺が居なくなった後の隊をまとめてもらおう。 俺みたいな初心者ではなくて、仮にも名前が劉備や関羽、張飛といったビッグネームが揃っているんだ。 俺以上に活躍してくれる事は間違いない。
よしよし、そうと決まればさっさと城に戻ってクビを言い渡されて、桃香さん達に引き継ぎをして、平穏無事な暮らしロードへ猫まっしぐらだゼ!
「なんでも……ない。 ……城…行くぞ」
「はぁ……でもでも、手ぶらで行って大丈夫でしょうか?」
……ん? 手ぶらでって、手土産を持っていく気なのかな?
「いくら公孫賛殿が桃香様の昔の御学友とはいえ、我等は無名。 流石に取り合ってもらえる可能性は低いかと……」
いや、俺がいるし。 一応これでもクビ予定とは言え、軍属だぞ?
「にゃ~お腹一杯! ふぁ~あ、それじゃあお休みなのだぁ……」
いやだから、普通に通して貰えるって。 あ、鈴々ちゃん非常食を食べ終わったみたいだね。
さっきよりも満足そうな顔をしているよ。 そして気が付いたら夢の住人に早変わり……って今この場で寝たよこの子!? どうしよう、こんな所で寝たら風邪引いちまうし、何よりも道端で寝るのは良くない!
俺の持っていた非常食を食べ終わった鈴々ちゃんはお腹がいっぱいになったのであろう。 見事なまでに入眠の早さを俺達に見せつけた。 兎に角、寝れるところを探しに……いやいや、話が変わりすぎだから。 そうだ、城に行けば寝台とかがあるからそこで寝かせれば良いな。
「問題……無い。 …俺に…任せ…ろ」
そう言い、俺は白蓮さん達が居る城へと歩みを進めた。 桃香さんと愛紗さんは少し怪訝な顔をしながらも俺の言った事を信じてくれたのか、黙って俺の後ろを付いてきてくれている。
鈴々ちゃんは爆睡モードに入ってしまった為俺がおぶって歩いている。 時折寝言なのか「ラーメン……チャーハン……餃子……春巻き……回鍋肉……酢豚……肉まん……焼きb」夢の中とはいえ、どんだけ食う気なのこの子!?
そんな事を心の中で突っ込みながらも俺達は白蓮さん達が待つ城へと歩みを進めるのであった。
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そんなこんなで、俺達は城内まで来た。途中、見知った兵士達が番をしていたので軽く会釈をしておいた。 何やら眼を引ん剥く位驚いた顔をしていたが、何も言わずに門を通してくれた。
だけれど、何であんなに驚いた顔をしていたんだろう? もしかして、早々に俺のクビの知らせを聞いたのかもしれない。 いや、もしくは「クビになった奴が女を連れてきたぞ!?」とか考えていたのかもしれない。
いやはや、まずったな……考えてみたらクビになる奴が代わりの人を紹介しても、その人を雇ってくれるのであろうか? さっきは俺の後釜として兵達をまとめてくれたらいいなぁ~って思っていたんだが、よく考えておけばよかったな。
まぁ、こうなってしまったら仕方ない。一応ダメもとで彼女達の登用を頼んでみるとしよう。
「あの……柚登殿?」
そんな時だ、少し小声で愛紗さんが俺に話しかけてきた。 その顔は何処か不安げと言うか、辺りをキョロキョロと見回して何だか居心地が悪そうな顔をしていた。
「勝手に入っても良かったのでしょうか? 寧ろ、外の者をここまで簡単に入城させるなんて警備に問題があるのでは?」
……何を言っているのこの子は? 俺が居るんだから問題なくね? って言うか、白蓮さんだってそう易々と外の人を入れないっての。
「問題……ない」
「はぁ…ならば良いのですが」
まだ納得しきっていない表情をしながら愛紗さんは再び俺の後ろを歩きだした。
再び無言のまま歩き出す俺達。 別段、話す内容は無いけれど何だか少し空気が重い感じがする。……何故だろう?
と、そんな事を思っていると白蓮さん達が居ると思われる会議室の前に到着した。扉の前には兵達が数人番をしている。
どうやら、中で何かを話している最中らしい。 恐らく城内が妙に騒がしい事と関係があるに違いない。
「……通…せ」
「いや柚登さん、何だか会議中みたいだし謁見は少し待ってか「――――ハッ!!」……ほへ?」
桃香さんが何かを言っているが、この際無視をしておこう。
「凌統様、御帰還いたしました!!」
そう言いながら兵の一人が扉を開いた。『ギギギ』と少し軋みながら開いて行く扉。
その先には俺の見知った顔が二つほど神妙な面持ちで並んでいた。
「おぉ柚登、漸く帰ったか!」
「全く、兵達を先に帰らせるとは…一体どのようにして油を売っていたのだ?」
うぅ、星さんにさっそく小言をいただいてしまった。やはり此処はクビになる可能性が高い……
俺は少し足取りを重くして進んでいく。 そうして、俺の眼前にいる二人は俺の後ろに控えていた桃香さんと愛紗さん、更に俺が背負っている鈴々ちゃんに気が付いたようだ。
「ん? 柚登、そこの三人はお主のコレか?」
そう言いながら星さんは少しニヤつきながら小指をピンと立てた。
いや、っていうかアンタはどこぞのオヤジかよ……少し心の中で呆れながらも星さんの言葉を少しだけ無視して俺はこう綴った。
「……白…蓮殿……この三人……雇……え」
「……は?」
少しだけボキャブラリーの少ない自分に腹が立ってしまったのは言うまでも無い。それに、三人を雇うに当たっての色々な経緯とかを無視しまくリングな俺自身の発言にビックリだよ!
ほら見ろ、白蓮さんなんか眼をまん丸にして『コイツ何を言ってんだ?』見たいな顔をしているじゃんかよ~
星さんですら口を半開きにして眼をパチパチと驚いている表情を浮かべているし。
えぇ~い、こうなったら嘘八百でもいいや!
「…強…い……ぞ?」
「そうか、柚登がそういうのなら……ってそれどころじゃないんだよ! 近隣に黄巾党が出現したって報告があったんだが、直ぐに消滅したって訳の分かんない報告が挙がったんだよ。柚登、何か心当たりないか!?」
なんですと! 黄巾党が近くに現れたって!? 俺達がいた場所以外にも黄巾党が現われていたなんて…どんだけいやがるんだよ黄巾党の奴らは。
やっぱり俺命名『Gブリ』とした方が良いんじゃないのか? こんな名前は嫌だから黄巾党脱退します! みたいな人が現れるかもしれないし……
「あの白蓮ちゃん!」
「ん? なんだって私の真名を……ってお前、桃香か!?」
そんな時だ、桃香さんが少し前に出て必死そうな顔で白蓮さんを読んだ。
一瞬だけ白蓮さんは怪訝な顔をしたが、やはり以前、共に勉学を励んだこともあってか直ぐに桃香さんだと気が付いたみたいだ。
「うん、久しぶり! じゃなかった。あのね白蓮ちゃん、今話していた黄巾党なんだけれどね……多分、柚登さんが倒した人たちの事だと思うの」
「そうか柚登が…………ん? 柚登が……倒した?」
「うん、私達が追われている時に――――」
その後桃香さんは俺達が出会った経緯やここに至るまでの過程を話した。
多少誇張表現や俺の知らないようなこともあったが、その辺は空気を呼んでスルーしたぜ。
……あり? そう言えばクビについてはどうなったの?
―――― 一方その頃…
「あぐあぐあぐ~」
おう、俺は雪花。とある理由で馬騰って奴のところを目指して旅をしている最中だ。
そんな俺も漸く馬騰の所にたどり着く事が出来た。
いや~振り返れば以外と短い旅立ったもんだ。 そうして俺はそいつの城の調理場でメシを食っている所だ。 そして俺の目の前には俺の好物である回鍋肉が山盛りになりおかれている。 勿論、ここの待女に作って貰ったんだがな。
……ん? この前の賊の首はどうしたかって? いやな、気が付いたらどっかに落としちまったみたいでよ〜 いやはや、柚登にはワリィ事をしたもんだ。アレさえあれば柚登の出世街道に色を付けることができたのになぁ。
「……あんた誰よ?」
そんな時だ、何か獣の耳が付いたかぶりモノをしたガキが俺の近くに寄ってきた。 恐らくこの城に奉公している奴だろう。 そういや、何だかんだ言いながら待女にはひとこと断ったが、それ以外の奴には何も言わずにメシを貰っているんだったな。 ……取りあえず一言断っとくか。
「よう、メシ貰ってるぜ~」
「いや、だからあんた誰よ!?」
そういや、今更なんだが此処って馬騰の城であっているのか? 俺の勘で来ちまったからな……まぁ、俺の勘は結構当たる筈だが、一つ確認しておこう。
「此処って馬騰って奴の城か?」
「はぁ? アンタ何言ってんのよ? 此処は後に世を治める曹操様の屋敷よ!」
……なんだ、やっぱり違っていたのか。確かにやけに早く着いたな~って思っていたんだよな。いや、残念だ。
そうと分かれば此処にいる理由は無いな。
そう結論付けた俺は残っている回鍋肉を勢いよく口に流しいれた。
「(ムグムグ……ゴックン)―――― ご馳走様でした。 それじゃ世話になったな~」
「いや、だからあんた誰なのよ!?」
そうして俺は再び馬騰を訪ねて旅を再開したのであった。
感想欄を長く放置してすみませんでした。
皆様に対して返信をうたせていただきました。
ではでは、また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ