――――凌統
やぁ、凌統だよ。 桃香さん達が来てから数カ月が経過した。 しかし、それだけ時間がたっても俺は未だに白蓮さんの所でお世話になっている。
あの時、悪質な横綱出勤をして色々な人に迷惑を掛けたのに俺をクビにしなかった白蓮さんの優しさに俺はえらく感動したからだ。 当時、俺は自分の平穏無事な毎日を暮らす事で頭がいっぱいだったのが恥ずかしくなった位だ。
だから、その優しさに報いる為に俺は働きまくって態度で返そうと決めたんだ。
そして今、仕事の一貫として街中の警邏をしている真っ最中というわけさ。
警邏って言うのは簡単に説明するとパトロールと同じなんだ。 つまりは警察官と同じような仕事ってわけさ。 ……この時代の警察って資格とかいらないっていう事実に驚いたのは俺だけの秘密だ。
さてさて、話を戻そう。 警邏に出て少し驚いたのだが、この時代は現代で言う引ったくり犯諸々の犯罪の件数が半端なく多いんだ。 いや、ひとむかしに比べたらだいぶ減ったんだがね。 この数カ月の間で、曹操が黄巾党を率いていた張角、張梁、張宝を捕えたと知らせが国中にわたった。
ソレを機に黄巾党は急激に衰退していき、各地では賊による被害が少なくなっていった。 ……しかし、人はおろかな人種で脅威が去ったと思ったら引ったくりやらの犯罪が増え始めたのだ。
まぁ、殺しとかに比べたら幾分か凶悪さは低くなったけれど……しかも、黄巾党の残党も結構な数がいるもんだからソレを捕まえるのも結構骨が折れるんですよね。
そして、その余波は白蓮さんがおさめるこの地も例外ではなかった。
城下町だけでもかなり敷地面積が広いから、ある程度は予測していたんだが一日で、百件を軽く超える位の検挙率だ。
たぶん、検挙されずに逃げ延びている数をかぞえると恐ろしい犯罪数になると思う。
しかも、この異常ともとれる状況がこの地に暮らしている人たちにとって『当たり前』な光景になっている。
このままでは、俺の平穏無事ライフプロジェクトに重大な欠陥をつくってしまうことになる。
ぶっちゃけ、そんな物騒なところに住みたかねぇです。
そんなこんなで俺が出した一つの結論が……
「あのぉ…柚登さん?」
「何……だ?」
「警邏が重要なのはよ~くわかるんですけれど、何も愛紗ちゃんと鈴々別れて、しかも路地裏の見回りをしなくても良いんじゃないのかと…」
俺と桃香さん、愛紗さんと鈴々ちゃんの二手に別れて町の警邏をしようと言うものだ。
その際、ある程度この町の地理が解る俺は裏通りを。 まだ来て日が浅い愛紗さん達には表通りを回って貰っている。 因みに、何故この組み合わせかと言うと単純に効率を重視したためだ。
こんな事を言っては失礼だが、俺が愛紗さんと組んだ場合、果たして桃香さんに鈴々ちゃんを抑える事が出来るのかと言う事だ。 ……俺はどうなのかって? いや、俺だと鈴々ちゃんの我儘とか直ぐに聞いちゃいそうだから謹んで辞退させていただくよ。
取りあえず、そうなると見た感じ厳しそうな印象を受けた愛紗さんなら鈴々ちゃんを抑える事が出来ると判断したんだ。
しかし、これを一字一句三人に伝えるには俺のコミュニケーション能力が低すぎるため、正しく伝わっていない気もするけれど……まぁ、その辺は割愛しておきましょう。
「――そうだ柚登さん。 星ちゃんに聞いたんですけれど、柚登さんってお母様と一緒に旅をしていたんですか?」
警邏を始めて一刻もたたない内に桃香さんは俺の母について話を聞いてきた。
如何やら桃香さんは俺とは違って積極的にコミュニケーションをとれる人種らしい。 ――べ、別に羨ましくないんだからね! ただちょっと俺にもそのコミュニケーション能力を分けてほしいと思っただけで……やめとこう虚しくなる。
「……あぁ、豪…快な……人…だ」
「へぇ~……でもでも、私の印象としては何だかんだ言いながらもやっぱり柚登さんみたいに寡黙って印象があるんですけれど?」
寡黙? あの母が? いやいや、その言葉はあの人には程遠い……寧ろ対極に位置する言葉だと思いますよ。
「いや……鈴々の…ように……賑やかな…人…だ」
「……ごめんなさい、色々と想像できないかも」
まぁ、息子がこんなコミュニケーションが欠落しているからね。 親が賑やかな人だなんて想像できないよな。
そういや、死んだ親父も完黙とは程遠い人だったな。 っていうか、俺や母に対して当たり散らしている印象しか残っていないという事実だけでビックリなんだけれど。
「そうだ、柚登さんが使っている三節棍……でしたっけ? それはお父様から御指導されたんですか?」
「……いや、母…だ。 握り方しか……習っていな…い」
――――一方その頃…
「へ、へっ……ぺぷしっ!! うぉお~ぉ……ったく、何だぁ誰か俺の噂でもしてんのかよ? 全く、人気もんは困っちまうぜ」
こんな事を言っているシングルマザーが居たとか居ないとか……
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……何だか今誰かが何処かで盛大に炭酸飲料の名前を叫んだように感じたんだが、気のせいでしょうか? 俺的には王堂のコ……
まぁ、そんなどうでもいい事はさておき、俺が殆ど三節棍を習ったことが無いというのは事実だ。
確かに俺の三節棍のお師匠は母だけれど、ソウル師匠は無双さんの凌統な為、この世界では殆ど我流と言っても良いかもしれない。 母も俺の三節棍の使い方を見て殆ど口をはさんだ事が無いから別に問題は無いと思うんだけれど……
ただ、俺の記憶を頼りに使っているため多少は粗がある。 ……まぁ、その辺は俺のチート気味な身体能力でカバーだぜ!
そう言いながら俺は腰に差してあった三節棍を握り抜いた。 なんて事は無い、ただ単に桃香さんに俺の三節棍の腕前を見てもらおうと思っただけだ。 丁度路地裏で周りには誰もいないしね。
……べ、別に良いじゃねぇかよ! 俺だって女の子の前では少しテンションが上がるんだぞ! 少しはカッコいいところを見せたいじゃんかよ!
「――――――――ッ!!」
……ただ、何でか桃香さんが息をのんだのが気になる所存ではありますが。
そして、俺が手にした三節棍を振った瞬間……
「――げはぁ!」
「――ヒッ!?」
「……」
あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。 俺が三節棍を振った瞬間に、路地の細い道から男が飛び出してきたんだ。
そして、俺の三節棍が奴の脳天にクリティカルヒット!こうかはばつぐんだ状態になっちまったんだ。
頭から噴水のように血を流しながら地面へと倒れていく男の姿は、まるでビデオのスロー映像でも見ているかのような光景だった。
夢や幻でもない。 恐ろしいモノを……イヤイヤイヤ、現実逃避しちゃいけないな。
と、取りあえず落ち着け俺! いつもそうだけれど、俺の三節棍って不幸しか呼び寄せてなくないかな!?
って言うか一般人に三節棍が当たっちまったんだ、それどころじゃねーーーー!!
俺は慌てて地面に倒れ込んだ男を開放しようと近づいた。 その刹那……
「待てぇぇぇ!!」
「待つのだぁぁ!!」
何処か聞きなれた声をした人たちが男が出てきた路地裏から現れた。
「愛紗ちゃんに鈴々ちゃん!?」
「ハッ、桃花様に柚登さん! 今ここに怪しいおとこ……が……」
「……ぶっ倒れているのだ?」
状況を整理してみよう。 路地から男の人出現。 俺、その人を三節棍で半殺し。 同じ路地から愛紗さん&鈴々ちゃんが血相を抱えて出現! 『あ、その男は!?』みたいな表情で地面にぶっ倒れている男を見ている。
……うわ、何か知らねぇうちに不審者捕まえてねぇか俺!?
「流石は柚登殿です。 こやつは表通りにて老婆の持ち物を強奪した者で……」
「えっと……あ、財布見っけなのだ! 愛紗、鈴々はこれをおばあちゃんに届けに行ってくるのだ~」
そう言い残して返答を聞かずに鈴々ちゃんは同じ路地を通り姿を消していった。
「あ、コラ鈴々! ……全く、話を聞かずに」
「まぁまぁ、愛紗ちゃん。 それより、この人を早く衛兵に引き渡しに行こうよ」
そう言って愛紗さんは不審者の足を持ち、引きずりながら同じく路地に消えていった。
そして、その後ろを桃香さんが着いていって……あれ?
気が付いたら俺は路地裏で一人取り残されてしまっていた。 あ、あれ? 俺ってば桃香さんと一緒に警邏をしていた筈なのに、何で桃香さんが愛紗さんについていってしまったのですか?
あれか、俺の事が嫌いで実は早くこの場から離れたと思っていたのですかな?
「……解せぬ」
少しだけ、ほんの少しだけ心の汗が目元から溢れ出てきそうだったのを俺は根性で押しとどめたのは言うまでも無い。
……しかし、このままでは埒が明かないので俺は一人寂しく警邏を再開する事に決めた。
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さて、頭を切り替えて再び警邏に戻ろう。 まぁ、確かに以前と比べたら軽犯罪が増えてきているご時世だが、それとは別に黄巾党の残党が治安を乱しているというのもまた事実。 ……普通に生活している奴がいるのもまた事実なんだけれどね。
ふむ、何が言いたいのか分からないかな? 大丈夫、俺もわかっている様で分かっていない節があるし。 それにだね……
「おや、柚登ではないか。 警邏の最中か? それは重畳」
……真昼間から酒をかっくらっている星さんにあっちまって色々と混乱している節がある訳ですよ。
しかし、俺は仕事の最中だというのに良い御身分で……あり? そう言えば、星さんがまともに仕事をしているのを見たことが無いのは気のせいでしょうか?
「ん? どうした、難しそうな顔をして?」
「いや……(星さん)やる事が…な…い」
やっべ、言ってから気が付いたけれど、一応は仕事場の先輩なんだし敬うべきだったかな?
俺は自分の言った事を少し後悔をして、星さんから視線を外し明後日の方を向いた。
「――――ふはははは! 良いではないか、やる事が無いというのはそれだけ平和の証し……ん?」
星さんは俺が視線を外した事に疑問を思ったのだろう、少し怪訝そうな顔をして俺が向いた方を見た。
いや、別にそちらを見ても何も無いんだけれど……
「――ふむ、流石は柚登……と言った所だな。 成程、一般人に紛れ込んでいるが血に飢えた獣のようなに匂いがするな。 黄巾党の残党……と言ったところか?」
え、星さん何を仰ってんのですか? 残党って…「きゃぁぁぁあああ!!」……ほへ?
俺が向いている先とは反対方向で女の人の悲鳴が聞こえた。 慌ててそちらを向くと……
「クッ、一人じゃなかったのか。 柚登はあの女性の方を頼む、私はあの一般人に紛れている奴を!」
そう言って星さんは俺が始めに見ていた方向へと走り去っていった。
……え、俺がアレを治めないといけないの?
周りを見回すも、そんな直ぐには衛兵も駆けつける事は出来ない為か野次馬に溢れかえっている。
何だか今日は厄日かもしれないなと内心で思いながらもそれを顔に出すことなく、俺は仕方なしに女性を人質に取っている男に近づいた。
男は女性の首元に小太刀を突き付けているようだ。 しかし、誰もいない中で何でこの男は急に人質を取ったのだろう?
「な、何でテメェは!」
「……役…人…だ、その人を離…せ」
「なんだと!? ――――チッ!早過ぎるじゃねえか、これでは我等の……いいや、此方には人質もいるんだ何も出来るわけねぇ。 オイッお前! 馬をよこせ、あと食糧もたんまりと持ってこい!」
俺の言葉を聞き男は一瞬動揺し、小声で何かに対して愚痴を言っているようにも見えたが、直ぐに俺に向かって要求を伝えた。
「無理……だ」
「――――んだっと! この女がどうなっても良いのか!?」
そう言って小太刀を女性の首元にあてがった。 女性が『ヒッ!』と息を声が聞こえた。 それにしても、気丈な女性だとおもう。 人質に取られた時は甲高い悲鳴を上げていたが、小太刀がさっきよりも首元に近づいているのに悲鳴を上げないなんて……
きっと、彼女は肝が据わっているのだろう。 見た目20代半ばくらいの女性だが感心するなぁ……っていうか、俺ってかなり薄情な事を言ってねえか?
人質交換するのにその材料を全て拒否っちまったんだから……普通に考えたらあの女性が殺されるんじゃね?
いやいや、俺にだって断る理由はあるんだぜ! だって、急に馬とか食糧って言われてもこの場に俺以外の城に務める者がいない事、流石にこの場を放置して城に戻るわけにもいかないし……それに、こんな事を言っちゃあれだけれど黄巾党に物を与えたと言うだけでこの時代は罰則の刑がある厳しい時代なのだ。
たとえこの場で物資を渡してあの女性が助かったとしても間違いなく渡した方にも罰が下る。 ……全く、誰だよコンな条例出したのは!?
まぁ、そんな条例諸々の所為で少し無理な状況なのだ。 仕方ない、得意ではないけれど映画で鍛えられた俺のネゴシエータースキルを見せてやるぜ! ……まぁ、映画だししかも作中では結構三枚目な主人公の話だったけれど。
「……取りあえ…ず、話し……合い…といこ…う」
「話す事は何もねぇ! さっさと俺の言った物を持ってこい!」
「まぁ、落ち着……け、腹減った…なら…これでも……食…え」
うんうん、腹が減るとイライラしたくなるよね? 俺もそうだもん。 取りあえずは腹ごしらえといこうぜ。
俺はそんな思いを込めて以前鈴々ちゃんにも食べさせたことのある『アレ』を懐から取り出した。
しかも、今回はスゲェぞ~以前のは子豚の丸焼きだったけれど、今回は子じゃなくて親なんだからな~
どうやって収納したかは……禁則事項だぜ!
「ちょ、おまっ、な何で懐からそんな肉の塊が出てくるんだ!? 色々とおかし過ぎるだろう!!」
「気に…する……な、受け取……れ」
「おいコラ! こっちに投げん……クソッ!」
俺は懐から取り出した豚の丸焼を男に向けて投げ渡した。 流石に色々と予想外の事が重なったのだろう、男は咄嗟に武器と女性を離して肉をキャッチしようとした。 ……あれ? もしかしなくても今がチャンスなんじゃね?
「……詰み…だな」
「う、ウソだろ…おい」
あの後、俺が思っていた以上に事はスムーズに運んで行った。 何を思ったのか豚の丸焼きを受け止める為に色々なものをすべて手放して、尚且つ飛んできた物の受け止めたのは良いけれど、重量に耐えきれずに地面に潰れるとかマジで貧弱すぎね?
そんなこんなで、俺が思っていた以上に事は簡単に運んでいった。
そして、今俺の目の前には縄でグルグル巻きにされた男が絶望に染まった顔をしながら地面に座り込んでいる。
傍らには掴まっていた女性も茫然とした表情で座り込んでいる。 ……ふむ、これは思った以上に肝が据わった女性だな。 解放されたというのに涙の一つも流さないなんて。
その後、駈けつけた衛兵により黄巾の残党である男は牢へと連れて行かれた。 そして、女性の方は俺と、駈けつけた副長さんと一緒に自宅まで送り届けている最中だ。
しかし、何でか分からないけれど女性は凄く挙動不審な感じで俺達の前を歩いている。 なんていうか……あたりをきょろきょろと見回したり、後ろを歩いている俺達の方を向いて凄くぎこちない笑みを浮かべたり。
そんな女性の様子に副長の表情は今まで見た事がないくらい硬くなっている。
……ゴメン、この空気は小市民の俺には耐えられませんがな。
「……副長」
「何でしょうか凌統様?」
「あの男……死罪だな」
ごめんなさい、かなり暗い話題になっちまったけれど正直話すネタが余りねえです。 仕方なしに俺は話をするべく先程捕まえた男について副長と話をする事にした。
「そ、そうですね、黄巾の生き残り……余程優秀なものでなければ死罪はまのがれぬでしょう。 確か、趙雲様が捕えた輩の言うには此処に紛れ込んだのは三人だという話です。 凌統様が捕えた男を含めても後一名何処かに隠れている可能性があると思われますね」
おぉ~副長さん、すげ~説明キャラだな。 しかし、何だろう? 今の話を聞いて女性の方がすっごく震えているように見えるんだけれど?
副長も何か変な空気を感じ取ったのか、少し身構えている。
しかし、俺はお構いなしに話を進めた。
「そいつ…を……見つけた…らどうす……る?」
「恐らく生死は問わないでしょうね」
まぁ、要するに捕まえるか殺すかって事ですかな?
……ねぇ、明らかに今の話を聞いて前の女性の動揺っぷリが半端無い事無いですか?
何だか、俺だけでしょうか? かなり黄巾の残りの目星がついてきたのですが……
「そうですね、自首すれば恐らく温情が…「私が残りの一人です~!!」……見つけてしまいましたね」
気が付いたら女性が地面に頭を擦りつけながら見事なまでの土下座を決め込んでいるのに驚きなんですが……まぁいっか。
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ