やぁ先日、愛紗さんと摸擬戦をして相手をプチ記憶喪失にしてしまった凌統君だよ。
幸いなことに早朝ということもあってか目撃者がゼロっていうのに救われたぜ。 もし、誰かが見ていたとしたら俺の醜態をさらすところだったぜ……
さてさて、愛紗さんとの摸擬戦から数か月が経過し、俺はさほど変化しない日常を満喫……いや、一つだけ変わったことがあるな。
あの後、なんやかんやしているうちに桃香さんが旗揚げしていたんだ。 そして、彼女について行ったものは愛紗さん、鈴々ちゃん、諸葛亮ちゃん、鳳統ちゃん、凌統君……あり?
まぁ、白蓮さんのところで客将をさせていただいていたんだけれど、なんでも『もっと多くを見てこい』と星さんに言われて気がつくと俺も桃香さんたちについてきていたというのが現状だ。
しかし、それ以外には変わることのない日々を過ごしていた。
朝は母と旅をしているころから半ば日課になりつつある自主鍛錬をして、昼は街中をパトロール。 夜は副長さんと一緒に事務的な仕事……まぁ、凌統隊の事の関する仕事や軍師'sからあてがわれた仕事もろもろをこなすという生活だ。
初めのころは俺に事務仕事なんて絶対的にできないと思っていた。 だって、一応大学は出ているけれど、専攻って医療系だし……あ、これは初出か?
兎に角、この国でもらう事務的な仕事って国の経済とかに関することだから絶対に役に立たないと思うんだ。
それに加えて、凌統隊での給与や隊員一人一人を確認して隊列とかを考えたりするんだぜ?
ひどい時とかは徹夜の作業になる。 っていうか、何が悲しくて副長とはいえ同性と一晩同じ部屋ですごさにゃならんのだ?
まぁ、たまに愛紗さんが竹簡の処理を手伝ってくれたり、桃香さんが差し入れにお菓子を持ってきてくれたり、鈴々ちゃんが遊びに来て場を引っ掻き回したり……あり? 鈴々ちゃんって邪魔しかしていない……だと!?
……まぁいいか。 そう言えば今更なんだけれど、仲間になったはわわ&あわわ軍師と仕事以外で会話した事ないんだよなぁ~
って言うか、何度か話してみようとトライしてみたんだけれど、避けられているような……いやいや、こんな人畜無害で将来の夢が平穏無事な生活を送るという、いかにも平和主義者の俺を避けるなんて……気のせいだよな?
――――ムムッ! 噂をすれば二人の登場だ。
二人は俺がいる様子に気付く様子もなく、楽しそうに話をしながら通路を歩いている。
よ、よ〜し……今こそ千載一遇のチャンスだ!
なるべく、フレンドリーな笑顔を浮かべて……表情筋を使うのは久しぶり――――寧ろ、使った覚えがほとんど無い気がするな。
……と、とりあえず俺ができりうる最高の笑みを浮かべて二人に話し掛けてみよう。
「――――でね~雛里ちゃん……はわっ!?」
「どうしたの朱里ちゃ……あわわ~」
そして、二人は遥か彼方へと走り去っていき、気が付けば誰もいなくなって――――
……本当に気のせい…だよね? ってか折角、いままで作ったことの無い最高の笑みを浮かべていた筈なのに逃げられるなんて……
俺ってそんなに嫌われているのかな?
少し…少しだけ涙が出てきちゃう。
「あ、おに~ちゃ~ん!」
そんな感じで落ち込んでいると、俺の後ろの方から聞きなれた少女の声が聞こえた。
きっと、今の時間帯だとお昼を一緒に食べようという誘いだろう。
同じくらいの年齢の少女だというのに、なんでここまで俺に対する関わり方が違うのかと、内心ため息を吐きながら鈴々ちゃんの声が聞こえた後ろを振り向いた。
「お昼食べに――――にゃわ!?」
ん? どうしたんだろう? 俺の顔を見た瞬間に鈴々ちゃんの満面の笑みが崩れ去って、すごく引きつった笑いにかわったような……
「お、お兄ちゃん、鈴々とご飯食べに行くのイヤなのか!?」
……は? この子は一体何を言っているのでしょうか?
寧ろ、俺的には鈴々ちゃんとご飯を食べるとその食べっぷりに癒し効果があるとふんでいるのですが……
「そうでは……ない」
「でも、お兄ちゃんスッゴクここに皴よっているのだ」
そういいながら鈴々ちゃんは眉間を指差した。
釣られて俺は自分の眉間を触ってみると……
――――成る程、確かにこれでもかって言う位に皺がよりまくリングな状況で……はい!?
ちょ、おまっ! なんで笑顔を作っただけで眉間によるかな!? 触っただけでも不機嫌な顔をしているって実感するんだけれど!?
ま、まてよ……確かさっきの二人って俺の顔を見て逃げていったよな?
つ、つまるところ……避けられているのは事実で、更にその原因を作ったのは……俺自身!?
「どうしたのだお兄ちゃん?」
「いや……自分…の……浅はかさ…を…痛感し…た」
「ん~……鈴々、難しいことはよくわからないけれど、きっとお兄ちゃんなら何とかなると思うのだ!」
そう言いながら鈴々ちゃんはいつもの元気な笑みを浮かべた。
うぅ……鈴々ちゃんの優しい言葉が身にしみやがるゼ……でも、その根拠のない言葉が何よりも心をエグるのは何故だろう?
そんな事を思いながら俺は鈴々ちゃんに手をひかれながら昼食をとるために町へと向かうのであった。
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「はわわ~驚いたね雛里ちゃん」
「うん……やっぱり、怖いね朱里ちゃん」
彼女たちは凌統の前から逃げ出したのち、城下町へと来ていた。 彼女たちは凌統を一目見た瞬間から、その何を考えているのかわからない表情に恐怖を覚えていた。
元々、軍師である彼女たちは他国の使者等と腹の探り合いも仕事の一環として行っている。 そのため、かかわる人間の人となりを見抜くことに長けている。
もちろん、この国の太守である劉備、関羽、張飛と関わり、彼女たちの人となりを把握し、彼女たちを信頼し真名を交換していた。
しかし、その中でたった一人だけ彼女たちが把握できない人物がいた。
それが凌統その人である。 別段、彼に何かされたとかそういった部類の事はなかったが彼の内面が見ることができない、まるで彼との間に見えない壁が立ちはだかっているかのように他の人とは違った距離を感じていたのだ。
更には凌統が男性と言うことも、只でさえ近づきにくい状況に拍車をかけている。
彼女達は水境の下で学んできた。 そこは男性はおらず、いわゆる女学校と同じような塾だったのだ。
その為、只でさえ男性に慣れていないのに愛想はなく何を考えているのかわからない凌統は彼女達にとって恐怖の対象でしかないのだ。
勿論、彼女たちはそのことを他の仲間たちにも相談した。 凌統はどんな人物なのか、自分達はどう接すればいいのか?
しかし、皆からは同じような言葉が返ってくるだけなのだ。
『柚登殿か? うむ……そうだな、見た目は冷淡なお人だが、内に秘めし想いは誰よりも熱く常に誰かを想う事のできる人……うん、そうだな』
『お兄ちゃん? ん〜とね、鈴々と同じくらい沢山食べて鈴々と同じくらい強いのだ!』
『柚登さん? 凄く良い人だよ。 誰かのために涙を流せる心の温かい人だし、それに本気でこの戦乱の世を正そうって考えているみたい。 だから、私も愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも柚登さんの事を信頼しているんだよ』
弱冠一名、あまり参考になりにくい人もいるのだが、他の二人からの評価は上々のようであり、その所為で二人は余計に凌統という人物の人となりが分からなくなってきているのだ。
自分の目を信じればいいのか、それとも皆の意見を信じればいいのか……
もちろん、彼女達も凌統に対して申し訳ない気持ちは持ち合わせている。
今までだって散々、目の前で逃げ出したこともあったし、なるべく視線が合わないようにとあからさまに顔を背けたこともある。
しかし、明らかにこれは失礼過ぎる態度だ。
「やっぱり……よくないよね?」
「うん……どうしよう朱里ちゃん」
二人は互いの顔を見合いながら深いため息を吐いた。
そんな時だ、遠くの方からたった今、彼女達が噂していた人物が歩いてきたのは。
二人の少女は反射的にその小さな体を路地へと滑り込ませて姿を隠した。
そこから火中の人物を見てみるとその人物の肩には自分達の知っている少女が器用に腰掛けていた。
「お兄ちゃん、鈴々ラーメンがいいのだ!」
「了……解」
肩に座っていたのは張飛こと鈴々だ。
凌統達は隠れた二人の存在に気が付いていない様子である。
二人は安堵の表情を浮かべて息を付いた。よく凌統達を観察しているとどうやら昼食に向かう途中らしい。
「……ねぇ雛里ちゃん、後を付いてみようか?」
「えぇ!? それって尾行って言うんじゃ……」
「ち、違うよ雛里ちゃん! 後を付けて凌統さんを見極めるために……」
注)人はそれを尾行と呼びます。
そんなこんなで、朱里と雛里の二人は凌統達の後を付ける事にした。
しかし、そこで思わぬ弊害があった。
敢えて言う必要があるかは疑問だが、この付近は建てたばかりとは言え劉備達が善政を行っている町だ。
勿論、外部からは商人や移民達で町中は溢れかえっていると言っても過言ではない。
そんな中の移動は非常に困難である。
そんな中、凌統は一般人と比べて体格が大きい。
少し歩きにくくはあるが、前方を視認することが出来る。
凌統と一緒にいる鈴々に至っては、あまりの人の多さから歩くことを諦めて逸れないようにと凌統の肩にまでよじ登ったので特に息苦しさなどは感じておらず、こちらも問題ない。
そして、一番の問題となるのがチミッ子軍師sだ。
二人の体格は間違いなく一般人のそれと比べて小さい。 寧ろ、小さすぎる。
そんな彼女達が人でごった返している通りを人一人を付けながら歩くのは用意ではなかった。
結果的に――――
「はわわ!? ひ、雛里ちゃーーーん!」
「しゅ、朱里ちゃーん!」
人の波にもまれてアワや二人とも人通りの多い町の中でモノの数秒も経たないうちに離ればなれになり遭難するところであった。
反射的に孔明が鳳統の手をとり自分の元へと引き寄せたので離ればなれになる事は無かったが、いかんせんこのままでは凌統を追いかけるどころの話ではない。
二人がそんな風に手をこまねいていると、そこに数人の男性が近寄ってきた。
「へへっ嬢ちゃん達、何か困っているようだが俺たちが手を貸してやろうか?」
人数にして五人ほどの集団ではあるが、明らかに一般人というよりも素行の悪そうなニヤついた目付きをしているチンピラ紛いな男達である。 善政が行われるということは、ただ人が集まるだけではなく、彼らのような人物をも引き寄せる事は理解していたが、まさかこんな形で遭遇してしまうとは彼女たちも予想外であった。
もちろん、見た目は幼いとは言え彼女達も一端の軍師をやっている間柄、明らかに害意をもって自分たちへと近づいてきたということを瞬時に理解した。
しかし、ここはかなりの混み合いを見せる大通り。 周りの人間達は困っている彼女達に気づく様子もない、しかも男等と彼女達との距離は近く、逃げることは難しそうである。
「い、いえ! 私たちは大丈夫ですのでどうぞお気遣いなく!」
「ゲヘヘ、そんなつれねぇ事言わずにさぁ、ちょっと俺たちに酌してくれりゃあいいんだよ」
「しゅ、朱里ちゃん……」
気丈にふるまって見せる孔明ではあるが、明らかに語尾が震えており、恐怖心が少なからずあるということが傍から見てもわかる。
鳳統はあまりの恐怖で男たちへ顔を向けることができずに、瞼を固く瞑り親友と繋いでいる手に力を込めた。 その目尻にはジワッと涙も浮かべている。
そんな二人の様子を見て男たちは下賤な笑いを浮かべる。 明らかにその様子は二人が怖がっている様子を楽しんでいるようであった。 そして、そのうちの一人が彼女達へと手をゆっくりと伸ばしてきた。
――――しかし…
「何を…してい…る」
そこに思いもよらぬ人物が登場したのであった。
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いやはや、驚きの光景が目の前に広がっている。 俺は鈴々ちゃんと昼食へ行こうとしたのだが、街中を歩いている最中財布を持ってくるのを忘れたことに気がついたんだ。
流石に無銭飲食はいただけないし、自他ともに小市民な俺にツケにするという考えが浮かぶはずもない。 しかも、連れの鈴々ちゃんは俺同様に財布を持ってきていないようだ。
初めは彼女に『ツケにするのだ~』と言われたが、先述のとおり俺にはそんな選択肢はない。
仕方なく、財布を取りに城へと戻るために俺はきびすを帰したんだ。
突然だが、この国の大通りは半端なく混んでいる。 正に乗車率100%と言ってもいいくらいの混みようだ。
そんな中を流れに逆らって歩くのだ、流石に自称ごっどぅさんによって身体能力を高めてもらった俺といえども、そこいらの民間人を薙ぎ倒しながら歩くのは出来ないことはないが、迷惑極まりないのでやらない。
そのため、大通りの端っこを体を縮こまらせながら歩いていた。 鈴々ちゃんは空腹がピークなのだろう、先ほどまでは俺の肩に座っていたのだが力無いように俺の頭の上でたれ●ンダ並みにへばっている。
一応、俺の視界に入らないように移動させたので特に邪魔ではない。
そのような感じで城に向かって歩いていたのだが、俺の進路上にどこか見知ったマジカルハットがあるのに気がついたんだ。
もう言うまでもなく、見た瞬間に俺を若干避けている鳳統ちゃんの三角帽子だと気がついた。 そして、よく目を凝らすとその横には同じく俺を避けている節のある孔明ちゃんがいる。 二人は通りにある人の流れが少ない所にいるもようだ。
……少しだけ頬を温かい何かが流れたような気がした。
おとと、話がそれちまったな。
兎に角、俺を避けている二人が進路上に居ることを確認した俺は二人に不快な思いをさせないように二人の周りを回るように歩こうと思ったんだ。 だけれど、ここは乗車率100%並みの混んでいる大通りだ。 流石にそんな無駄すぎる動きができるわけもなく、俺は人の波にはじき出されて再び大通りの端っこまで来てしまった。
……仕方がない、二人に会った時は偶然を装って早々に退散するとしよう。
俺はそう判断して再び前に歩き出した。 しかし、そこで俺は予想外な声を聞いてしまった。
「い、いえ! 私たちは大丈夫ですのでどうぞお気遣いなく!」
何やら孔明ちゃんが叫ぶような感じで誰かに何かを訴えていたのだ。 ……なるほど、確かに二人の目の前には見た目が明らかに『私、チンピラッス!』的な主張をされている方達が五名ほど見える。
なんだか明らかに危なさそうな感じがするゼ……うん、二人には悪いけれど、俺は何も見なか……
そう判断した俺は再びきびすを帰して困っていそうな二人を尻目にその場を離れようとしたんだ。 しかし、そこでショッキング的な出来事が起きた。
「はい、今日お持ちしたのは南蛮から取り寄せた果物だ! このあたりじゃ滅多に手に入らない貴重品だよ! お、そこの奥さんこれどうだい?」
「凄く……大きいです」
「だろぉ? こいつを食すには……ほれ、こうやって皮を丁寧に向いて中の実を食べるんだ。 一口食べれば甘酸っぱくて芳醇な香りが口の中を駆け巡るよぉ!!」
……なんで聞こえたのかわからないけれど、孔明ちゃん達を挟んでちょうど俺とは反対側で街頭販売を始めたオッサンがいたんだ。
ってか、その果物ってバナ……まぁいいや。 しかし、人間という生き物は新しいものを目にすると興味がわいてしまう生き物なんだな。
俺。流れに逆らって歩く
↓
孔明ちゃん達発見! 俺Uターンして流れに沿って歩き始めようとした。
↓
街頭販売開始! 再び流れに逆らうように……
ついさっきまでの流れとは明らかに人の流れが変わっちまったよ。
その所為で再び流れに逆らって歩くことになった。 しかし、今度の流れはいかんせんその勢いが違いすぎた。
気がつくと俺はその人の流れに乗ってしまい、再びUターンする羽目になってしまい、またまた孔明ちゃん達に近づくルートを歩き始めた。
しっかし、困った……明らかにこれはよくないことが起きそうだ。 気がつくと二人との距離は二メートル位まで狭まっている。
だが、流石にここまで近づいてしまった以上、無視することはできないか。 俺は意を決して二人に声をかけた。
「何を…してい…る」
どうやら俺の声は二人だけではなく、そのそばにいた男たちにも聞こえたようで、二人を含めて皆が一斉に俺のほうへと視線を動かした。
……な、なんだよ。 そんなに見つめられたら照れちまうじゃねぇか!!
「りょ、凌統さん……」
「あわわ……」
な、なんでだろう? 二人の少女が男に囲まれたとき以上に怯えた表情で俺のほうを見ているのですが……鬱だs――――
「あんだぁ兄ちゃん邪魔すんじゃねぇよ。 俺たちはこの嬢ちゃん達に酌を頼んでいるだけなんだからよぉ~」
いや、俺も出来るならなるべく関わろうとは思わなかったんだけれど……はぁ、なんだか面倒くさくなりそうな予感しかしない。
「……二人を見逃…せ」
「ああん? あわふいてんじゃねぇぞ!! んだごだぁきっけるわきゃねんだぁ!!」
お願いですから俺にもわかるような言語で話してくださいな。
しゃあない、ここは誠心誠意お頼み申しあげてみましょうかね。
「もう一度言う……さっさと…消えろ」
あ、あり? いつもの事ながらいろいろとすっ飛ばしたセリフが俺の口から出てきた気がするのですが気の所為でありんすか?
しかも、今の言葉で激怒してくると思いきや、なんだか男達+軍師sがめっさ青い顔しているのですが気のせいですか?
いや、それだけじゃなくてさっきまで混んでいたはずの通りで何故か俺たちの周りから人が離れて行っている気がするのですが気のせいですか?
「お、おい……この人ってまさか…!?」
「ま、間違いねぇ……数ヶ月前にたった一人で黄巾党の軍勢を退けたっていう…」
「そうよ、確か凌統っていうこの国の将で…」
「確か先日も黄巾党の残党を捕まえたって…」
なんだか野次馬の方から明らかに俺の噂話をしているのですが? ってか、最後の人、確かに黄巾党の残党は捕まえたけれど、あれは半ば勝手に自白したってだけで……
しかも、将扱いされてはいるけれど、俺的にはさっさと辞めたい職業で……
そんな俺の心の叫びは当然のことながら周りには聞こえない。 しかし、野次馬の声は間違いなく孔明ちゃん達に絡んでいた男達に聞こえていたわけでして……
「お……おい、まずいんじゃないのか?」
「しかも、凌統って言ったよな? 確か凌統って」
「お、俺知っているぞ! 『戦乱を凌ぎ全てを統べる者』って字が……」
「――――くっ! きょ、今日のところは勘弁してやる!」
そう言い残して男たちはその場から逃げるように走り去って行った。 最後に『これで勝ったと思うなよーー!!』と言い残していたところをみると、また出てくるのかな?
そして、残されたのは俺と孔明ちゃんと鳳統ちゃんだけになってしまった。
「「……」」
し、しかも、空気が滅茶苦茶重いぃ!! なんだか二人とも凄く驚いた表情で俺を見上げているし。
そんな重い空気の中救世主が現れた――――
「んにゃあ……お兄ちゃんご飯~」
――――具体的に言うのなら俺の頭の上というしまりのない場所からだけれど。
どうやら、結構限界値まで達したみたいだ。 そう言われれば俺も結構腹が減ってきたな。 さっさとお金を取りに行くとしますかね~
そうだ、折角だしこの子たちも一緒にご飯行こうか聞いてみようかな?
「あ、あの――――」
「飯……」
あ、孔明ちゃんと声が重なった。 声が重なった瞬間、孔明ちゃんは身を少し引いて目を固く瞑った。 その姿はまるで両親に怒られて叩かれるのを待っているかのような雰囲気だ。
別に叩くわけがないんだけれど……そして、雛里ちゃんは俺の顔を見て半分以上泣いているんだが……これって結構、心の内側を抉られる感覚なのですが。
そのままの状態で十秒ほど膠着の状態が続いた。 どうするか考えていると半分死んでいるような状態の鈴々ちゃんが再び口を開いた。
「朱里と雛里も……ご飯……行くのだ……」
なんだか話し方が俺に似ていないかな? まぁいいや、そして鈴々ちゃんの言葉を受けて孔明ちゃんと雛里ちゃんはキョトンとした顔をして一斉に俺の顔を見た。 明らかに俺の顔色をうかがっているのは明確だ。
別に俺は誰とご飯行くのも構わないからな。 俺は『一緒に行こう』的な返事をした。
「で、でしたら……!」
「わ、私たちがお支払いします!!」
……なんだか半分脅されて仕方なくお金を出します的な印象を受けたのは決して気のせいではないはずだ。
でも、お金がない現状としてはとても嬉しい申し出だ。 俺は断ることなく軽く頭を縦に振った。
俺が頭を振ったことにより頭の上の鈴々ちゃんが盛大に揺られて何かを言っているみたいだったが、あえて放置しておこう。
そして、俺たちは四人で鈴々ちゃんのリクエスト通りラーメンを食べに行くことにしたのだが……流石に四人となるとこの道の混雑様によっては、はぐれる率も高いな。
それに、鈴々ちゃんは俺の頭に乗っているから良いとしても、この二人はほおっておいたら人の波で流されてしまう。
かといって、手を繋いで歩くとこの人通りでは流れを止めてしまって歩きにくくなる事受け合いだし……
しゃあないな、ここは鈴々ちゃんと同じ手法で行こうかな。
「二人……とも…少し…我慢…しろ」
「ふぇ――――はわっ!?」
「あわわっ!?」
俺は少し身をかがめると孔明ちゃんと鳳統ちゃんを担ぎあげて先ほどまで鈴々ちゃんがしていたように左右の肩に二人を座らせた。
うむ、こうすればはぐれる事は無いし、尚且つ人にぶつかって危なくなる事もない最高の形だな。
ただ、一つ難点があるとしたら頭に鈴々ちゃんを乗せて、左右の肩に孔明ちゃんと鳳統ちゃんを乗せているというとてつもなく不可思議な格好をした俺が不審者感満載ってことかな!
……グスン
「あ、あの凌統さん!?」
何かを訴えようと孔明ちゃんが口を開いた。 ……そう言えば、何か違和感があると思ったらこの子たちって俺の事を名前で呼んでいるんだよな~
同じ城に居るのに……そうか! これが何か壁を感じる理由の一つかもしれない。 だったら俺の真名を呼んでもらえるようにすればいいんだ!
「柚登……」
「「……え?」」
「柚登で…いい……」
「で、でも私達……」
「り、凌統さんの事を避けて……」
孔明ちゃんと鳳統ちゃんが何かあわてた様子だ。 ってか鳳統ちゃん、やっぱり避けていたのは本当だったんですね? お兄さん、少しだけ泣きそうになっちまったよ。
でも、避けるような仕草をしているのは決して君たちだけじゃないから気にしなくていいよ~
昔から変な目で見られることとかに離れているからさ。
「気に……するな………慣れて…いる」
「慣れているって……」
「今までは……どうされたのですか?」
なんだか、真名を教えただけでここまでおもっ苦しい空気になるとは予想外だったな。 それと、鳳統ちゃん? わざわざ俺の傷口を広げるような質問はやめていただきたいんだが……でも、答えるけれどね。
「どうも……しない…俺は俺…だから……しかし…理解される…と嬉しい……のも…また事実」
「「……」」
そして再び黙ってしまうお二人さん。 えっと、これはやはり無理です的なお断りな返事なのでしょうか?
別に、二人の真名を教えてくれと言っているわけではないのだが。 やっぱり、俺の真名は呼びたくないのかな?
「わ、私は朱里です」
「え、えと……ヒナ、雛里…です」
あ、あり? なんか真名を教えてもらえたのですが?
「私たちは誤解していたみたいです」
「りょう……柚登さんの事を怖い人って……で、でも本当は優しい人ってわかりました」
やっぱり、怖い人って思われていたんだ。 でも、なんだかよくわからないうちに考えを改めてくれたみたいでよかったよ。
うっわ、なんだか無駄にテンションが上がってきたぜ!! 今日の調子でいけばラーメン超特盛が十杯位をペロリと完食できそうだぜ!!
「……柚登…だ…」
そうして、俺は朱里ちゃんと雛里ちゃんの真名をもらうことができたとさ~
追伸:テンションがMAXの俺と空腹度MAXの鈴々ちゃんの食欲を見て再び朱里ちゃんと雛里ちゃんが涙目になったのはまた別のお話だったりします。
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに~(^o^)ノシ