有体に言えば、あれから数年が経過し、俺は肉体的に10歳位となった。
あの後、やはり幻ではないのかと再び考えもしたが、これは覚める事無く、一つの物語を紡ぐかのように進んでいく。…つまりは、そう言う事なんだろう。
前世の記憶を持っているのにその時の名前も知らない俺は死に、新しく三国志の世界で柚登として生きていかなければいけないらしい。
最も、日本語が通じると言う時点で中国かどうかも怪しいんだけれどさ…。まぁ、文字は漢字だったから、やはり中国だと実感した。
そしてこの数年はこの世界の状況とか文字を覚えるのに費やした。
21世紀では他に色々とやる事があった為、中々一つの事を集中して覚えると言う事が出来なかったが、他にやる事が無いこの世界では思った以上に文字を覚えるのに集中できたし、根本的に漢字の文化がある日本生まれの俺は殆どの漢字も読める為、文法や、見た事もない漢字を覚えるだけで済んだんだ。
そして、世界情勢なんかも母や、ご近所の話し好きな奥様方に色々と聞く事により、学んでいった。
その結果、今俺が住んでいる地は揚州と言う地にある小さな村らしい。……うん、地名を聞いても全く分かんないや~そして、三国志の始まりと言っても過言では無い出来事である黄巾党がまだ出現していないとのことだ。つまりは、まだ三国志の主要な出来事が起きる前の時代と推測できる。
最も、三国志の知識に関しては某無双しちゃったぜ的なゲームの受け売りなため、あまり多くの事はわからない。
…話がそれてしまったではないか。話を戻して……しかしながら、俺は少しこの世界でやりすぎてしまったみたいだ。
新たな生を受けたと言う事実だけでは片づけられない程に様々な事を覚えすぎたんだ。
それこそ、生後三日で話すと言う伝説を作ったり、まだ生後一年にも満たない子供がハイハイをぶっ飛ばして二足歩行で全力疾走してみたり、二歳にも満たない子供が文字を覚えたりと普通では無い成長をしてしまった。
しかし、幾らなんでもこれは自分で言うのも変だが、ありえ無さ過ぎる。
脳だって、普通の子供の成長過程を無視し過ぎだし、体の構造上一歳の子供が二足歩行で全力疾走をするなんて不可能だ。
つまり、今俺に起きているあり得ない現象は数年前、俺に語りかけてきた『声』が言っていたオマケの一角と言う事なのだろう。
全く……面倒な身体にしやがって…しかし、幾らハイスペックな身体を有していても前世からの引き継ぎか知らないが、コミュニケーション能力が半端なく欠落していると言うのが悲しいところではある。
…そうなのだ。まるで他の成長と引き換えに俺は何故か感情と言うものが表に殆どで無い顔になってしまったんだ。考えられるか?中身は小市民過ぎる俺なのに、表では鉄仮面ばりに無表情な顔をしているんだぜ?
俺としては其処を一番改善してほしかったんだけれどなぁ〜…まぁ、憂いても仕方ないから其処らへんは今後努力しよう。うん!
…おっと、そう言えばこの世界での俺の名前を言っていなかった気がする。始めに言った『柚登』と言う名前は真名と言うものらしくて、それは文字通り本当の名前…親兄弟他、自分が信頼できる人にしか教えてはいけないモノ…らしい。
元日本人の俺からしてみたらそんな文化が中国に会ったと言う事に驚いている。
そして、一般的に使われる俺の名前は、姓は凌。名は統と言うらしい。つまりは凌統だ。
……やっべ、来たんじゃねコレ!?母が三節棍を使っていた時点で何と無く頭の片隅にあったけれど、凌統だぜ?凌統!
無双ゲームで好きなキャラ『なんば~わん』だったキャラだぜ!?
これで俺も三節棍使って無双が出来る……わけねぇか~俺ってば完全無欠な小市み…やめよう、悲しくなってきた。
それに、考えてみたら同姓同名って可能性も否定出来ないから喜んでばかりもいられないんだよな。
そういや、正史の凌統って父親が水賊に殺されちまうんだよなぁ~って事は、父も殺されるという事なのかな?
最も誰に殺されるとかは覚えては無いし、正直言ってどうでもいい事だしなぁ~
って言うか、そもそも……
今の父の名前って何だっけ?
いや、忘れているわけじゃ無いんだよ!ただ、根本的に聞いたことが無いなぁ~って思っただけで…
いや、誤解しないでよ!そもそも、知りたい情報ってわけでもないんだ。何でも父は軽侠らしくて家には殆どいない。それよか、母の話では余所に女をつくり、俺以外の子供もいる最低な奴らしい。
……因みに軽侠って言うのは軽々しく男伊達の振る舞いをする人…『侠』は本来己の信条に則って正義の為に行動しようという精神を言う。まぁ、現代風に至極簡単に言うと、ヤ○ザと同じだ。
…………何故、母はヤーさんと一緒になったのかが果てしなく疑問だったりする。
まぁ、それだけで嫌う理由にはならない。なら何をしたのかって?
あいつは成長の仕方が異常過ぎる俺に向かって殴る蹴るなどの暴行を加えたんだ。
所謂虐待っていうヤツだな。…いやまぁ、こんな成長の仕方をしている子供なんだから気持ちは解らないでもない。
俺だって正直自分の子供が無表情で尚且つ三日で話し始めたら不気味で仕方ないと思う。流石に虐待はしないと思うが…
だから、アイツの気持ちもわからんでもない。
だけれどさ………
「オラァ!酒持って来いつってんだろうがぁ!!」
「クッ…テメェ……!さっさと柚登を離せってんだよ!!」
俺を人質に母にあたるのはいかがと思うぞ?
所謂『でぃ~ぶい』と言うヤツですな?………ヤベェ、横文字に触れる機会が無かったせいか、スッゴイ発音の仕方が変だ!!?
……とまぁ、こんな感じで父からは虐待されているが、少し話し方は怖いがちゃんと面倒を見てくれた母のお陰で俺はスクスクと成長していった。
その過程で俺は一度興味本位で母にこういった質問をした事がある。
「……何故、父と…居る?」
相も変わらずな欠落したコミュニケーション能力で聞いたんだが…少し間違えれば色々と変な捉え方をしてしまいそうな質問だと我ながら思う。
しかし、そんな俺の言いたいことを理解しているのか母はこう返した。
「ん~…正直、柚登が生まれたから別れてもいいんだが…元々、夫婦になる気なんてなかったからな……いっその事、二人で出ていくか?」
割と本気な顔をして笑顔を浮かべる母に対して心の中で全力投球並みのツッコミが炸裂したのは言うまでもなかったりする。
そんな感じで過ごしていたある日……
虐待ばかりしていたあの男が死んだ。
割とあっけない最期だった。何でも、水賊に殺されたらしい。
ただ、その理由を聞いて俺も母も正直呆れ返った。
――――――――なんとあの男は子供を誘拐しようとしていたらしいのだ!
…衝撃の事実だったりする。しかも、結構日常的に行っていたらしい。ヤ○ザとは思っていたが、其処まで外道になり下がっていたとは…
其処を水賊に見つかり首チョンパとなったんだとさ。………あれ?水賊って海賊みたいな者なんだよな?何故に良いことをしているのだろうか?
…………………………そうか!きっと水賊王に俺はなる!!みたいな思考を持った人にやられたに違いない!それならば、あの男を殺す理由もわかる。
なるほど、なるほど…きっとこの世界のどこかにある水賊王が残したお宝を捜し出している集団なのだろう。
…そう言えば、本来の三国志で凌統の父は殺されていた。ここまではあっている。
だが、凌統が子供の時に死んだわけではなかったような…いや、よく考えたら俺が知っている知識は無双からのものだから、あんまり信用はできないか。
とかそんな事を考えながら俺は日々を過ごしていた。それにしても、この世界の母はこんな気持ち悪い位成長している俺を見離すことなく温かく育ててくれている。其処には凄く感謝だな。ただ………
「おう柚登、今から狩り行くぞ! 付き合え!!」
10歳の俺には明らかにレヴェルが高いことばかりをさせようてするのは止めて貰いたいです。
母よ…10歳の子供に武芸を教え込むのは良いが、殆どが野生の獣を使った実践と言うのはどういうものだろう? 偶の人間かと思ったら、村を襲おうとする賊って……俺に死ねと!?
それに、あの男が死んでから自棄にテンション高くねぇかこの人!?
―――― 母
正直なところ、俺はガキが苦手だった。
何かあったらビービー泣くし、繊細過ぎて力の加減を間違えたら壊れてしまいそうで……それは恐らく今も昔も変わらないと思う。だから俺が妊娠したと知った時は正直本気で喜べなかったんだ。
しかも、よりにもよってアイツとの子供だし…正直言うと折角の命だが、生まないという選択肢も出てきたくらいだ。
勿論、言うまでもなくアイツは全く喜ばない。…って言うか、無関心を貫き通していた。どうせ、余所で出来た女の事でも考えていやがるんだろう。そもそも、俺自身何でこんなのと一緒に暮らしているのかすらわからねぇ。
元々俺の実家は貧しい家柄だった。それに合わせて父が最悪な人であった。博打はやるわ、酒は飲むは…母上はそんな男の為に身を粉にして働いていた。
しかし、無理がたたったのだろう…ある時は母上は体調を崩し、帰らぬ人となった。流石に母上が大変な事になったんだ。あの男も働くだろうと思っていたんだが、よりにもよってあの男は当時10歳位の…丁度今の柚登と同じ位の歳であろうか…その位の俺を売った。引き取ったのはとある国の主だった。
其処の主は俺に優しくしてくれたなぁ~俺は其処で武官として働いた。働いて働き抜いて……既に高齢だった主の為に俺は頑張り抜いた。人だって殺した。それも、数え切れぬほどに…
だが、俺は幸せだったんだ。しかし、元が高齢の主だ。そんな幸せも長くは続かなかった。
割とあっけなく主が死に、その後を柚登の父であるあの男が…躁が継いだ。ソレからは最悪な毎日だった。就任して早々に諸侯の軍勢から城を奪われ、何故か俺を連れて近隣の村へ避難…家臣たちは俺を除いて皆死んだ。
其処でアイツは主の息子だという事を良い事に俺を襲い、軽侠になり下がったんだ。俺は元々アイツの事なんて愛してなんかいない。
アイツをその場で殺さなかったのも恩を受けた主の息子という肩書きがあったからだ。
そんなこんなで悩んでいる間に柚登が産まれた。今でこそ良い思い出だが、当時は焦ったもんだ…
だが、いざ子育てをしてみると生まれてきた子供は…思いのほか可愛くて手が掛らなかった。しかも身体は思っていた以上に丈夫で俺が何度力加減を間違えて握り潰しかけたか解らないくらいだ。更に、何時もケロッとした顔をして泣くことはない。
そして、生まれて三日で喋り出すし…しかも、腹が減ったり、おしめを替えないといかん時は自分で何らかの対処をしていた。…俺は赤ん坊って言うのがよくわからんが、コレが普通で……いいのか?
いや、きっとこれは俺の血を受け継いでいるから特別なんだろう!見た所あの野郎の血を受け継いではいるものの髪の色が黒い所とか、目が吊り上がっている所とか身体が丈夫な所とかは俺に似ている!つまりは、俺の血の方が濃いと言う事だ。
周りは『震動』とか、言っているが……あれ?『心臓』だったか? まぁそんなのは如何でも言いや。取りあえず何か珍しいって騒いでやがるが、そんなのは俺が知ったこっちゃあねえってんだ!
ただ、一度も笑った顔を見たことがねえってのが親心に少し悲しい気もするんだが…だが、決して感情が無いって言う訳ではない。よ〜く見てみると喜怒哀楽の時は微妙に顔が動いていやがる。つまりは、感情が表に出にくいってだけなんだな。それも慣れてくると愛しく思えるんだから子供ってのは不思議だなぁ〜
俺も俺で柚登に面白半分で武術って言うのを教えてみたんだが……これが以外とおもしれぇんだよな。
柚登は習った事をすぐさま吸収して自分のモノにしちまうし…新兵なんかよりも覚えがいい。
コイツは絶対に武官に向いてやがるぜ!! 最近は実戦と称して野獣の棲む森に放り込んだり、賊が蔓延っている地帯に連れて行ったりしているが、表情一つ変えずに10歳とは思えない身体能力でうまくたちあっていやがる。勿論俺は陰で見守っているんだが…やっぱりあいつは武官以外は考えられねぇぜ!!
柚登には悪ぃが、アイツの意志はこの際無視して、絶対に武官にしてやる!!
そうだ!武術を教えるんだったら、俺と同じ三節棍を使えるようにさせて最強の称号を目指すのもおもしれぇな!
……何だか最近、子育てって言うのが楽しくてしゃあねぇや!!
それに、俺を縛り付けていたあの男は死んでくれたし…正にあっぱれって感じだな~
さてさて、これからは自由にやっていけると思うとこれからの未来が晴れて見えるしよぉ!!
取りあえずは…………
「―――――――――――――――――――― 修行の旅に出るぞ柚登!!」
「………わかった、母よ」
柚登10歳の出来事だった…
ありがとうございました
また宜しくお願いします( ̄▽ ̄)ノシ