結果的に俺は袁紹さんから兵士一万と兵糧をわけてもらえる事となった。
これにより幾分かは戦を進めやすくなったと思う。
それにしても、副長さんがあの場でフォローをしてくれなかったら危なかったな。 まさか、あそこまでまくし立てて話す副長さんの姿が見られるなんて……
「副長……先程は…感謝する」
「いえ、凌統様のお役にたつことが出来たのでしたら本望でございます。 しかし、連合の総大将……私は軍義に参加していなかったのですが今のやりとりから袁紹様より凌統様が適任かと思います。 袁紹さまは……腹の探り合いには向いていない」
ありゃりゃ? 何だか副長さんにしては辛辣な言葉だな。
ってか、俺は総大将が勤まるほど大器じゃないからね。 そこらへんは勘違いされては困るぜ。
「勘違い…するな……奴に…は……大将…を…務めて…もらわね…ば…なら…ん」
「――――成る程、敢えて多少裏があったとしても扱いやすい人物を上にたて影で操るおつもりなのですね?」
おっつ……黒い副長爆誕すか?
俺と副長はそんな他愛もない話をしながら陣へと戻る足を進めた。
「ちょっと良いかしら?」
そんな時だ、誰かを呼びとめるかのような女の子の声がしたのは。 だが俺達に無関係な声だと判断してその場を後にしようとした。
「貴ッッ様ァァ! 華琳様がお声をかけてくださっているというのに無視するとは何様だ!!」
何やら血の気の多そうな声がするな……あれだな、イメージ的には【猪、突進、猛発進】って感じだな。
そんなどうでもいい事を考えていると不意に腰辺りが軽くなったような感覚がした。視線を下に向けると三節棍の留め具が外れて地面に落ちている。
全く、これから戦だって言うのにこう言った整備が出来ていないのは感心しないな。 ……って俺の整備不良が原因か。
俺は仕方なしに地面に落ちた三節棍を拾おうと身をかがめた。 その時、俺は気が付いていなかったんだ。 つい先ほどまで俺の真横を歩いていた副長さんが何故か俺から一歩離れた場所に居たということに……
――――次の瞬間、俺の頭上を風が斬るような鋭い音がした気がした。 あれかな、偶々俺の頭上でカマイタチでも発生したんでしょうかね? 髪が切り刻まれてハゲが出来たってことはないだろうか?
重ねてそんなどうでもいい事を考えながらも、俺は何となく格好よく三節棍を拾おうと腕を振り子のように前から振りおろした。
しかし目測は合っていたが、どうにも手を握るタイミングが早かったみたいで握り拳を作った俺の腕は三節棍を後方へと弾き飛ばしてしまったのだ。 しかし、ここでミスってしまってはとてつもなく格好悪いではないか!
俺はとっさに体を捻りながら空振りした方の手で三節棍を空中で掴んだんだ。 そして、この目論みは成功し、ヒヤヒヤしながらも空中で三節棍の端の部分を掴む事が出来た。
だがここでまたもや予想外の事が起きてしまった。 何故か俺の背後には黒いロングヘアーの女性が立っていたのだ。
しかも、俺が空中でつかんだ三節棍はその勢いを止めることなくその女性の肘に激突したではないか。
正に予想外すぎる光景である。 ただ、なんでかしらないけれどこの女の人……滅茶苦茶デカイ剣を持っているのが気になるところなんだけれど…… だが、そんな事は今はどうでもいいことだ。
さて、ここで一つ人間の体について説明したいと思う。 誰しも一度は経験したことがあると思うけれど、肘の凹んだ部分にあるコリコリした所を触ると手全体が痺れたような感じがしたという人は多いはずだ。
じつはここに神経があるのだ。 面倒くさい事は割愛するけれど、今まさに俺の三節棍は偶然にもその神経に激突しているのだ。
触っただけでも痺れる場所に三節棍が結構な勢いで激突したんだ。 当然のごとく女性は手にしていた剣を地面に落してしまった。
流石に焦ったぜ……俺は慌ててその剣を拾おうとしたんだが、身体を捻った状態で無理に一歩を踏み出そうとしたもんだから体勢を崩しちまったんだ。
咄嗟に一歩を踏み出して何とか転倒を防ぐ事は出来たんだが……
「両者そこまで! ……それにしても噂は間違いではなかったようね。 春蘭の一撃を交わし、逆に反撃に投じるなんて……それと、そろそろ足を退かしてくれないかしら? その剣は私の将の魂とも呼べるべきものなの」
気がついたら地面に落ちた剣を踏んづけている状態なんだぜ? しかも、なんでかしらないけれどこの声はさっき誰かを呼びとめていた人の声だ。
どうやら、俺に用があるみたいね。 俺は金髪の少女の言葉に従って剣を踏んでいる足を退かして少女の方を向いた。
隣には鼻息を荒くした黒髪の女性も待機している。 っていうか、何かあったらいつでも飛びかかってきます的なオーラが全開なんですが?
「何か……用か?」
「貴様ッ! 華琳様に向かって何たる無礼な態度か! 叩き斬ってくれ――――「黙りなさい春蘭」で、ですが……」
全く持って俺にどないせいって言うんだよ?
それより、こんな口調でいちいち叩き斬られるんだったら、一体いままでに何度斬られているかわかんないんだけれど。
「私の言うことが聞けないのかしら?」
「うっ……はぁい、かしこまりました」
おっと、少し現実逃避している間にあちらさんは話がついたみたいだね。 っていうか、副長さんが離れた場所から戻ってきた。
「貴方は確か曹 孟徳様でございますね? 我が主の凌統様に如何様でございましょうか」
「下がりなさい下郎。 私はそこの男に用があるのそれ以外の人間には全く興味がないわ」
うわっ……副長さんがバッサリと切り捨てられてるよ……なんか、すっごく不穏な単語というかビッグネームが聞こえたきがする。
え、曹孟徳ですか?曹操さんのことですか?この金髪ちゃんが?覇王なんですか?
な、なんでこんな覇王な子が俺に用があるのさ?
あれだよ、俺ってば口下手だから君みたいな口のキツイ女の子への返しは大の苦手だよ? ってか、そもそも俺みたいな平平凡凡な人間に何ようですか?
「ダンマリって事は話を聞くって捉える。 ――――単刀直入に言うわ。 貴方、私の元に来なさい」
これは告られていると判断してもいいのでしょうか?
「――――えぇ!? か、華琳様! 男を召し抱えるおつもりですか!? お、男は北郷だけで十分ですよ!!」
「貴方に言ってないわ春蘭。 それに、一刀よりも武はある……それは貴方がたった今身をもって味わったところでしょう? それに、噂によると知のほうもあるって聞くわ」
えぇ! どうどうと二股宣言したよこの子!?
男が居るのに俺に告ってくるなんて……将来的に俺は清らかに女性と交際するって決めているんだ。 流石にそれは許容出来やしないぜ!
「――――無理な……相談…だな」
そう言った俺は何となしに地面へ視線を落とした。 すると、そこには紐のほどけてしまった俺の靴が眼に入った。
こう言うのは目に付いたときに直しておいた方がいいな。 俺はそう判断すると、目の前の少女たちの事は言ったん頭の隅っこの方へと追いやって身を屈めて靴の紐を直そうとした。
しかし、次の瞬間……
「――――クッ、貴ッ様! 華琳様の申し出を断るとは何事かぁ!! そして、避けるなぁ!!」
「やめなさい春蘭! それにしても、その身のこなし……ますます気に入ったわ。 凌統だったわね? 今日は様子見だったからここで引いてあげる。 だけれど私は貴方を諦めない。 それは覚えておきなさい」
またもや頭上に局地的なカマイタチが発生すると何故か二人はその場を後にしてどこかへと歩いて行ってしまったのであった。
いったい何が起きたんだろう? それよりも、あの子まだ二股を諦めるつもりはないみたいだな。
確かに、あれだけ美少女だと心も揺らぐけれど、次言われても断固とした態度で臨まないといけないな!
「凌統様……無下に断ってもよろしかったのでしょうか?」
およ? 副長さんの言い方はまるで受けたほうが良いって聞こえるんだが……
いや、少し待てよ俺。 よく考えたらここはここは日本ではなくて平成から数千年昔の中国だ……もしかしたら一夫多妻ならぬ一妻多夫が認められている世の中なのかもしれない。 有名武将も女の子だし……
そして、今の曹操さんの申し出は俺を側室か何かに迎えたいという話しだったのかもしれない。 それを俺は見事なまでに一刀両断して断っちまった……
……楽に暮らそうと思ったら、受けたほうがよかったかもしれないな。 少しだけ考えておこう。
そんな不謹慎な事を考えながらも俺と副長は再び自陣を目指して歩き始めた。
そして、陣が近くなったとき不意に副長が口を開いた。
「凌統様、私は袁紹軍一万人を受け入れた後、陣の再編成を行ってまいります。 凌統様はこのまま皆さまのところにお戻りくださいませ」
そっか、一万人と言う大所帯が来るもんだからある程度は陣の編成をしないと混乱しちまうんだよな。 それよか、副長は細かいところまでサービスが行き届いているな~本当に俺にはもったいないくらいできた人だわ。
「済まない…な……後は頼…む」
「かしこまりました! それでは失礼いたします!」
そのように言い残して副長さんは凌統軍がある陣へと向かっていった。 ……俺、一応隊長なんだけれど行かなくていいのか果てしなく疑問だ。
まぁ、それを含めて副長さんが上手く立ち回ってくれるだろう。
俺はそのように結論付けて皆が待つ劉備軍陣営へと戻った。
「あ! お兄ちゃんが戻って来たのだ!」
俺の存在に初めに気がついたのは鈴々ちゃんであった。 彼女の言葉に皆が反応して一斉にこちらへ視線を動かした。
「柚登さん、お疲れさまでした。 袁紹さんは何て?」
当然だと思うが、桃香さんが袁紹さんとの話について聞いてきた。 他の皆も声には出さないが、その事が一番気になっているようである。
取りあえずは、決定した事でも話しておこうかな。
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俺は袁紹さんに要求した事を簡単に皆に説明した。 真剣な顔で俺の話に聞き入っていた様子をみると皆が俺の事を本気で心配してくれていた事が何となくわかり、若干気分が良かったのは決して誰にも話そうとは思わないぜ。
あっと、帰りに遭遇した曹操さん達の事は今は言わない方がいいかもしれないと思い、あえてこの場では伏せておいた。
「成程……流石は柚登さんです。 それだけしていただけると戦略に幅が広がりやすくなります」
「お、おそらく汜水関では籠城戦になると思います。 それでしたら、先ほど柚登さんが仰ったように下手に策を立てるよりも臨機応変に動く事が重要と思います……だ、だからこそ、兵を増強させる事は今できる最善の事かと……」
な、なんだか軍師二人して凄く俺の事を褒めてくれているけれど、俺ってばそこまで深くは考えていないからね? それにね、ほら見ろ。 君たち以外のメンバーが俺の事を何やらキラキラした眼差しで見ているではないか。
明らかに勘違いした上でのこの眼差しは俺の良心が内側から抉りこまれて逆に心地悪いんだぜ? あ、星さんだけはニヤニヤしながら粘っこい眼差しを向けているけれど……
「邪魔するわよ~」
「相手方に許可も取らずに入るのは感心しないぞ」
そんな折だ、劉備軍へと突然の来訪者が現れたのは。 初めは副長さんが来たのかと思ったが、あの真面目一筋の副長さんがこんな軽い口調で現れる筈がないので速攻で削除した。
しかも、聞いた事のない女性の声が二つも――――
「おう、邪魔するぜ~」
――――訂正。 三人目の声は滅茶苦茶聞いた事のある声だ。
そして、次の瞬間俺の後頭部に決して軽くない衝撃がぶち当たった。 しかし、武器の類ではなく、何か動物的なものが飛び乗ったというような感覚だ。
っていうか、何があったのか言うまでもなく理解できてしまう自分が悲しいぜ。
俺はしぶしぶ声のした方へと振り返った。
「貴方が凌統ね? 私は孫策。 よろしく頼むわね」
「周 公瑾だ。 まずは突然の来訪を謝罪したい」
そこに立っていたのは褐色の肌がまぶしい妖艶なお姉さま方が二人……いやはや、着ている服の露出具合なんかまさにドストライクと言わんばかりにタイプ過ぎて驚きなんだが……それにしても孫策に周瑜まで女性か……本当にこの世界って男の将はいないのかな?
少し現実に嫌気がさしていると、とあることに気がついた。 今しがたこの陣を訪れたのは声から推測すると三人……しかし、俺の目の前にはその三人目の姿が見えない。
つまり、今俺の後頭部にしがみついている奴は……
「ユトーーッ! 久しぶりだなぁ~ 元気してっか?」
言うまでもなく母がしがみ付いているんだよな……はぁ。
後頭部という事で姿は見えないが、こういう子供っぽい事をしてくるのは母しか思い当たら……いや、鈴々ちゃんもよくやるか。
そういえば、星さんを除いて桃香さん達って俺の母に会うのは初めてなんだよね? だったら紹介しておいた方が――――
「貴様! 何故柚登殿の事を真名で呼んでいる! そして、なんとうら……んん、さっさと其処から降りろ!!」
「そこは鈴々の特等席なのだ~!」
「ほう、あの方は……いや、ここはあえて放置しておいた方がおもしろいことに……」
「は、はわわ~」
「あ、あわわ~」
「こんにちは、孫策さん。 私は劉備、字は玄徳っていいます」
……何このカオス? って言うか、確実に星さんってば自分が面白いと思う方向に事を運ぼうとしているよね!? この場では唯一貴女だけが母の存在を知っている貴重な人材だって言うのに!
クソーッ! 俺の周りは敵だらけなのかーー!?
「ほぅ……柚登の真名を呼ぶたぁ良い度胸しているじゃねえか……テメェ等、潰――――――ヒニャ!? って、おいこら柚登ーー! 俺は猫じゃねぇぞ!!」
なんだか危ないくらいに人の頭の上で殺気をぶちまけていた母。
流石に洒落になっていなかったので強制的にシャットダウンさせるべく、俺は腕を後ろに回して母の首根っ子を掴み持ち上げて眼前まで移動させた。
生憎と俺のほうが身長が高いために母は文字通り猫のように腕や足をジタバタさせている。
……何故だろう? 自分の母なのに見ていて和むわぁ~ ってコラッ!星さんは笑っていないで事態の収拾に努めろーー!!
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ