やあ、袁紹さんとの交渉を終えて無事帰還した凌統だよ。 桃香さんの陣営に戻った俺は久しぶりに母と再会したんだ。
まぁ、言うまでもなく母もテンションAGEAGE状態で手に負えない感じだ。 しかし、そのテンションMAX状態がいけなかった。 よく考えたら母は星さん以外のメンツとは会った事がなく、あまりの振る舞いに愛紗さんがプッチ切れてしまったんだ。 しかも母までもが臨戦態勢になるもんだから大変だ。
もっとも、そこは空気が読める男である俺が見事なまでに母を止めたから事なきを得たはずなんだが……
「は~な~せ~!」
未だに母はぶら下がったままジタバタと手足を動かしている。 勿論、母以外のメンツはポカーンと口を開けた状態で固まっている。 あ、星さんを除いた人達だけれどね。
星さんは何かツボにはいったのか、先ほどまで笑いを押し殺すように肩をピクピク震わせながら笑っていたのだが、今では大口を開けて『ハァーハッハハ』なんて笑っている。 ……俺としては、この星さんを見ている方がポカーンとなりそうなんだが……
「ゆ、柚登殿! そんな輩をかばうのですか!? その者は柚登殿の真名を……」
「あっ! テメェまた柚登の真名を言いやがって! 柚登放せ! 俺はアイツをぶん殴らねぇと気が済まねえ!」
……はぁ、なんでこの二人は人の話を聞かないのでしょうかね?
流石に止めようと俺が口を開こうとした瞬間……俺の言葉を遮るかのように別の人物が声を発した。
「両者共に落ち着け。 我等は下らない言い争いをする為に来たわけじゃない!」
江東の麒麟児こと、孫策さんであった。
しかし、その纏っている空気は先程まであった人懐っこそうなモノではなく、麒麟児と言う名前に相応しい程の迫力であった。
とたんに静かになった場……しかし、愛紗さんと母は未だに憎々しげな顔のまま互いに睨み合っている。
ここは孫策さんにならって俺もガツンと言ってやったほうがいいかもしれないな。今は味方同士で争っている場合じゃないし……
「二人共……頭…を……冷やせ」
「し、しかし! この者は…!」
だが、愛紗さんは未だに納得がいかないみたいだ。
明らかに納得がいかないという顔で俺に詰め寄ってくる。
何だか話がややこしくなってきそうだったから、俺は優しく愛紗さんに諭すように少し静かにするように声を出した。
「二度は…言わん……黙れ」
――――――全然オブラートに包んでねぇ!?
寧ろ、これ以上ないっていうくらい刺々しい言い方になっていないかな!?
ほら見ろよ、明らかにショックを受けた顔をしているよ。 ……まぁ、残念ながら言った張本人だから俺はフォローを出来ないから放置しておくしかないけれど。
――――おっと、何だか色々ありすぎて孫策さん達がここに来た意図を聞いていなかったではないか。
……母はどうするのかって? この際放置で。
「用件……なんだ?」
「その前にうちのモノが迷惑かけたわね」
そう言いながら孫策さんは未だ俺に首根っこを掴まれて空中でプラプラしている母を指差した。
そう言えば母って星さん曰く、今は孫策さんのところで働いているんだよな? 凌統として産まれて、初めて本来の士官先である呉と接点を持った気がするよ。
「気に…する…な……慣れて…いる」
「慣れているって……フフッ、流石は凌統ね。 雪花から聞いたとおり面白いわ~」
……母は俺のことを一体全体どのような感じで紹介をしたのかが気になる今日この頃だぜ。
まぁ、二人のことはこの際放置しておいても良いでしょう。
そんな事よりも孫策さんってば俺の話を見事なまでにスルーされているし。
俺は再度確認の意味をこめて再び問うた。
「用件……なんだ?」
「ありゃりゃ、嫌われちゃったかしら? まぁいいわ、私の用件は一つよ――――私達と手を組まないかしら?」
あれま、それは願ったり叶ったりな申しで……いやっ! 少し考えろ俺、こんな美人さんが俺みたいなコミュニケーションが欠落した人間を誘うのはおかしい……いや、おかしすぎる!
――――成る程、手を組む代わりに何かを要求するつもりなんだな? そうに違いない!
「目的……なん…だ?」
「フフッ……本当に話に聞いたとおりの人間ね。 最も、誰彼構わずに信用するような奴よりもよっぽど信頼できるわ」
――――ふぃ~危ない危ない、危うく孫策さんの術中に陥るところだったぜ…… よくぞ気が付いた自分を誉めてあげたい! ただ、見返りはなんだろう?連合終わったら金寄こせとかかな? 確か今の孫策って袁術の傘下だっていうし……俺の記憶が正しければそのうち独立を果たすっぽいからな。
……ただ、何でだろう? 孫策さんが桃香さんの事を見ているのが気になるな。
「まぁいいわ、簡単な事よ。 それに目的って言っても難しい事じゃないわ。 凌統、あなた――――私達の元に来なさいな♪」
……予想外の本日、二回目の告白だったりした。
―――― ぶら下がりの母君
全く、劉備って奴のところには礼儀のなってねぇ将がいるなぁ。
歳上を敬う事は勿論だが、俺の目の前で倅である柚登の真名を言いやがるたぁ図太い奴だぜ。
まぁ見た感じ柚登の仲間みてぇだが……気に入らねぇな。
しっかし柚登の野郎、逞しくなりやがって~俺の事を軽くあしらえるようになるたぁ……嬉しい限りだぜ!
しかも、首根っこを掴まれているのに痛くないとは……まさに絶妙な力加減だな。 むしろ気持ちいい――――ゲフンッ!
あ、危ねぇ……危うく禁断の領域に足を踏み入れちまうところだったぜ。
しかし、こんな絶妙なまでの力加減が出来るとは……それに、俺が身動ぎする度に腕を軽く振り、俺を動かしにくくしている……
確か、前に聞いたことがあるな。 本当の武の達人は相手(敵)に反撃の余地を与えないって。
……なるほど、俺は達人って言うほど自分の武を高くは見ていないが、簡単にやられるような柔い武では無いと思っていた。
しかし、倅の柚登はそんな俺を遥かに差を付けて追い抜かしていたんだ。
そう、本当の達人の領域まで……
「ちょっと、何ニヤニヤしてんの? ……気持ち悪いわよ」
「うっっせぇな!! 少し感傷に浸っていただけだろうが! 寧ろ折角良い気持ちだったのを邪魔すんじゃねぇよ!」
あまりの物言いに俺は雪蓮に向けて決して軽くはない蹴りを一撃……おっと、柚登に捕まっているんだったぜ。
「柚登、お前の仲間にゃ手を出さねぇ。 だから……は~な~せ~!」
「……少し…大人しく…してく…れ」
ガーン!? ゆ、柚登に叱られてしまった……
「俺のめり……利点が見当たら…な…い」
「まぁ、はたから見たらそうよね。 だけれどね、アナタが今から先陣を務める汜水関の籠城戦……そこにいる将の一人、華雄って言うのが孫家と因縁があってね……」
……なんか疎外感だぜ。
「な~な~ 柚登~」
「俺が…それ…を……受ける…と?」
「えぇ、思っているわ。 少数精鋭の凌統隊が生き残るには短時間で汜水関を落したい……だけれど、汜水関周辺の地形を考慮すると簡単に落とせるものじゃあない、更に唯でさえこちらに不利な状況。 だって、そうよね? 相手は籠城してこちらが疲弊するのを待てばいいんだし……どう? アナタの利点は理解出来たかしら?」
……完全無欠なる無視かよ。
べ、別にいいんだぜ~ 俺は柚登の母ちゃんで大人だから、これくらいでは泣いたりしないもんね~だ。
「なぁ~ ユ~ト~!」
「……なら…ば、孫策殿……の利点…は……なんだ?」
「私の? ……悪いわね、アナタが受けてくれるなら話してあげるわ」
――――グスッ……べ、別に…く、悔しくなんか……ウウッ…
「あのっ! お二人で話しているところ悪いんですが――――」
「なによ劉備? 私は凌統と……」
「どうし…た……桃香」
「柚登さんが捕まえている人……泣いてますよ?」
「……ゆ、柚登ー! あ、謝るがら俺の話を聞いでぐれよーー!」
『――――あ…』
――――劉備
「それで柚登さん、どうするんですか?」
泣き出してしまった女の人を孫策さんが引き摺りながら私たちの陣を後にしてから柚登さんについての緊急会議が始まった。
議題は言うまでもなく、柚登さんが孫策さんの援助を受けるか否か。
実際には柚登さん率いる凌統隊と、孫策さんを筆頭とした孫家の問題で、私がとやかく言う資格が無いのはわかっている。
だけれど、私たちは今まで一緒になって頑張ってきた。 それはこれからも変わらないと思っているんだけれど……
「私は反対です! 孫策殿の助力がなくとも我等がいるではないですか!」
「鈴々もお兄ちゃんと離れるのはイヤなのだ!」
愛紗ちゃんと鈴々ちゃんは断固反対の意志みたい。 勿論私だって柚登さんと離れるのは絶対に嫌だ。 折角仲間に慣れたのに……折角柚登さんの進むべき道に同伴する事が出来たのに……
ここで終わるなんて絶対に嫌だ!
だけれど、そんな私たちの思いとは裏腹に冷徹な言葉を紡ぐ人が居た。
「……いや、俺…は……行こう…と……思う」
他でもない柚登さん本人であった。
あまりにも突然な事で私たちは一瞬、動きを止めて柚登さんの方へと鋭い視線を向けた。
しかし、柚登さんはそんな私たちの厳しい視線にも動じる様子は見られない。
だけれど、私たちの心中は決して穏やかとは言い難かった。 だって、大切な仲間だと思っていたのに……これからも私たちと理想の国を作ってくれると思っていたのに……
しかし、それとは別に柚登さんの事だから何か深い考えがあるのだろうとは思う。 だけれど、その時の私たちは、それ以上に今までの事を全て否定され、裏切られたのではないかと思う気持ちでいっぱいであった。
そして柚登さんは私たちに何も告げることなく陣を後にし、自陣へと戻って行った。
だけれど、私たちはその背中を呼びとめることなく、小さくなっていく柚登さんの背中をただただ見送ることしかできなかった。
「あ、あの桃香様?」
そんな中で朱里ちゃんが申し訳なさそうに私に向かって何かを訴えるかのように私の顔を見上げていた。
「柚登さんをあまり責めないでください。 恐らく柚登さんは今回の戦いの後の事を考えられているのではないかと思います」
「戦いの後ってどういうことなの?」
朱里ちゃんの見解はこうだ。 董卓軍討伐後は諸侯の領土争いもろもろが発生し、この国は戦乱に呑まれ続ける。
ここまでは私たちも想定している事。 だけれど、朱里ちゃん曰く柚登さんはその後の事を考えているのではないのかと……
「私の見解が柚登さんと一緒ならよかったのですが……ですが、色々と考慮した結果、柚登さんはきっと桃香様率いる劉備軍と孫策さん達との間の架け橋になろうと思っているのではないでしょうか?」
「どういうことだ?」
私の疑問を弁明するかのように愛紗ちゃんも話に入ってきた。 鈴々ちゃんは話にこそ加わらなかったけれど、話に内容には興味津々みたいで身を乗り出して聞いている。
星ちゃんは……なんだか雛里ちゃんと話しているみたい。
「はい、この連合軍との戦終了後間違いなく世の中は戦乱に呑まれていく事でしょう。各地の豪族間のいざこざ、勢力争い……その行き付く先、本当の最後に残るべき勢力を予測してみたんです。 きっと、そこに柚登さんの真意が見られるはずかと……」
「真意って……朱里ちゃん、もっとわかるように教えてくれないかな?」
なんだか朱里ちゃんの説明は難しすぎてよくわからないや。
このあと、愛紗ちゃんに通訳してもらいながら私は何とか話を把握した。 簡単に言うと、今後残る勢力は私たち・孫策さん・曹操さんではないのか。
私としては袁紹さんも残ると思ったんだけれど……朱里ちゃんはそうは思っていないみたい。
そして仮にこの勢力達が残った場合、私たちと孫策さんとの間に手を取り合う材料があれば私たちの夢である戦いのない平和は世界の実現が強くなるって。
つまり、柚登さんは私たちの夢のために自らがその架け橋になるべく行動に移しているという事だ。 確かに、この反董卓連合が解散した後の事はそんなに強く考えていなかったけれど……そう考えたら、突然柚登さんが孫策さんのところに行くと言い出したのも納得がいくかもしれない。
だけれど、何だか考え過ぎの気もしないでもないんだけどな……
「しかしだな、いくらなんでも考え過ぎではないか?」
愛紗ちゃんはまるで私の心内が分かっているのではないかと言うくらい私と同じ疑問を持ったみたいで、朱里ちゃんに詰め寄った。
「……そうですね、考えすぎなのかもしれません。 ですが、柚登さんがそこまで考えている可能性は大いにあると思います。元々寡黙な方のため真意は、はかりきれません。もしかしたらそれよりも先の事まで見通している可能性すらあります」
確かにそうなのかもしれない。 柚登さんには柚登さんの考えがあるし……うん、考えても埒が明かないし後で直接柚登さんに聞いてみよう。
「ただ、まずは現状について考えてみると、何故孫策さんが何故柚登さんのことを詳しく知っていたのかということが気になりはしますが……」
私の中で柚登さんについては解決した。 愛紗ちゃんはまだ納得しきっている様子ではないけれど……。 それに、朱里ちゃんにはまだ疑問に思っていたことがあるみたい。
確かに、朱里ちゃんの言うとおり柚登さんの事を孫策さんが知っていたのは驚いたけれど……でもでも、柚登さん自体がこの大陸ではものすごく有名な人なんだからそこまで気にすることじゃなと思うんだけれど?
「それは私も思った。 確か、誰かに聞いたとか言っていたが」
愛紗ちゃん凄い。 私、会話の内容ってそこまで覚えていないのに。
「おぉ、その事ならば私が知っていますぞ」
私達がまた考え込んでいると、それを遮るかのように星ちゃんが話に入ってきた。 って、何で星ちゃんが孫策さんの事情を……ってあぁ、そう言えば星ちゃんって一度孫策さんの所を訪ねたことがあったんだよね。
それなら、星ちゃんが教えたっていうことも考えられるし……
しかし、そんな私の考えをまるで見透かしているかのように星ちゃんは片方の口角を上げて意地悪そうな口調でこう切り出した。
「以前申したではありませぬか、『孫策殿のところに柚登の母君がお見えになる』と。 その母君が教えたのでしょう」
そう言えば、星ちゃんが来たばかりのときにそんなことを言っていたような気が……あの時は気にも留めていなかったけれど、確かにそれなら辻褄が合うかもしれない。
その後、星ちゃんは『それに』と続けた後に私達に驚愕の真実を教えてくれたのだ。
「それに、御主等も先程お会いしたばかりではないか。 ほれ、柚登の頭に引っ付いていた御婦人、あの方こそ孫策殿の将にして柚登の母君である雪花殿ですぞ」
『…………え?』
その後、少しの間だけれど私達のときが止まったのは言うまでもない。
――――一方そのころの凌統君
ど、どうしよう。 つい、勢いで孫策さんの話を受けるって桃香さん達の目の前で言っちゃったけれど……唯単に好みドストライクの孫策さんの告白を断れなかったって言えないし……それに、母が泣いたのって俺が原因な訳で、その後が心配だし……あぁ、自棄酒とかしていないよね? あの人って酒にはとことん弱いからな。 御猪口一杯の酒ですら記憶を無限の彼方にさぁ行こうって言いたくなるくらい飛ばしていく人だからな。それで、人様に迷惑をかけていなければ良いんだけれど。
どうしようか……しかも、よくよく考えたら曹操さんは断って孫策さんは受け入れるって言うのも……明らかにぼでぃ~の見た目で選びましたって言うのがミエミエだし……
更に、桃香さん達の前で宣言したとき明らかに『うっわこの人、美人になびいたよ』とか言いたげな視線を俺に送っていたし。
――――――うがぁぁ!! 困ったぞーーーー!!
……取りあえずは宣言してしまった以上、孫策さんに提案を受け入れる旨を伝えようかな。 はぁ、後のことを考えると胃潰瘍にでもなりそうだぜ。
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ