たった一人で汜水関に突貫していった母をなんとか連れ戻す(?)事に成功した凌統だよ。 ただ、人として城壁を飛び越えるという非常識極まりない行動をしてしまった為に、自分の行く末が少しだけ心配になってしまったと言うのは誰にも言わずに心の宝箱にしまい込んで大海原に流しておこうと思う。
さてさて、あの後だけれど俺と母が蹴り破った汜水関の城門に兵達が次々へと流れ込んできたんだ。 理由は単純明快、董卓軍が一人残らず汜水関を捨てて虎牢関へと撤退していったからだ。
何でも話を聞くと、次の虎牢関にはボスキャラとして名高い呂布がいるとかいないとか……は、果てしなく不安になってきたんだが?
あ、そうそう母なんだけれど戻るやいなや孫策さんと周瑜さんに両腕をホールドされて捕われた宇宙人見たいな感じで連れていかれたんだ。 ……きっと、今頃お仕置きされているんだろうなぁ〜
決して連れていかれる際に『ユトーー!』と叫んでいたり、俺の脳内BGMでドナドナが流れていたりはしないはずだ……多分。
「柚登さん、私達も進軍しましょう?」
おっと、少しばかりトリップしちまっていたな。 あまりにもボーッとしていたもんだから心配してくれたのか、桃香さんが俺の顔を覗き込むかのようにみていた。
……上目づかい…イイッ!
「……了解…した」
こんなちょっとした邪な気持ちを抱いている時は表情が現われにくいのって得だなと割と本気で思った。
――――トスッ
そんな事を考えていると、何時ものごとく後頭部に何かがしがみ付いたかのような軽い衝撃が走った。
そして態勢を崩さないようにするためなのか、俺の頭を抱え込むかの養にして腕が回された。
……うん、前科がある母は孫策さん達にお灸をすえられているナウ。 だから母以外でこんな事をスルのは……一人しか思いつかないや。
「だ~れだ、なのだ!」
なんとベタな……ってか、語尾が全て物語り過ぎてわらえてくるんだけれど?
しかし、これは狙っているのか? あえて珍解答を引き出すためのブラフだっていうのか!?
……やめよ、前に星さんの冗談に付き合って大火傷した事あるし。
そして俺は頭を動かすことなく、俺の頭にしがみ付いている人物へと話し掛けた。
「なん…だ? ……鈴々」
「――――にゃ!? 凄いのだ、お兄ちゃん! きっとお兄ちゃんと鈴々は『こころのとも』なのだ! だから、孫策の所には行かないで欲しいのだ」
――――――え、どこのジャイ……コホン。
鈴々ちゃんはそう言うと、俺の頭を抱える手に力を込め始めた。
成る程……どうやら自分で言うのも変だけれど、かなり懐かれているみたいだ。
確か陣内で話をしたとき、鈴々ちゃんって反対していたんだよな。 あの後、何も言ってこなかったから納得したと思っていたんだこれど……納得していなかったんだ。
俺は胸中で苦笑いしながら鈴々ちゃんを引き剥がすべく手を回した。 しかし――――
「にゃあ~イ~ヤ~な~の~だ~!」
全く離れないんだよね……でも、鈴々ちゃんも今言わなくてもいいのに……そういった文句なら後から幾らでも聞くよ?
ってか、たった今汜水関を落としたばかりだっていうのに……この後、虎牢関があるっていうのに……呂布が待っているっていうのに……洛陽では董卓もいるっていうのに……そして何より――――――
――――――三国一の美女と謳われた貂禅がいるっていうのに!
おっと、煩悩に塗れた電波が発生しちまうところだったな。
しかしながら、鈴々ちゃんもその話題はこの反董卓が一段落してからにしてほしいな。
そんな俺の意志を汲み取ったのか俺でも鈴々ちゃんでもなく、行動をした人がいた。
「コラ鈴々、あまり柚登殿を困らせるな。 それに、その事については話がついたはずだ」
流石、鈴々ちゃんの義姉である愛紗さんだ。
愛紗さんは俺の頭にへばりついている鈴々ちゃんを引き剥がしながら宥めてくれた。
しかし、それでも鈴々ちゃんは納得がいかないのだろう、頬を口いっぱい膨らませて不満気な表情をしている。
……うん、あちらは愛紗さんに任せてしまおう。 それよりも俺は次(虎牢関)の事を考えておこうかな。
鈴々ちゃんが離れたのを確認した俺は傍に控えていた副長さんに向き合った。
「次は……どうくる…と思う?」
「そうですね、恐らくは袁紹様が何らかの動きをすると思われるのですが…最悪な展開と致しましては、全てを凌統様に擦り付けるのでは――――「失礼致します、袁紹様より虎牢関への編成譜をお届けに参りました!」……噂をすればというやつですね」
現われたのは袁紹さんの使者と思われる全身金ピカの鎧を身にまとった兵士さん。
彼は書状を手にしている。 多分、あれが次の虎牢関に向けての作戦及び陣の編成表なんだろうな~
……とまぁ、そんな他人事みたいになっても始まんないや。
さっきの汜水関では俺と母での二人という少人数攻略したとはいえ、仮にも俺達凌統隊と桃香さん、孫策さんが先陣を務めたんだ。 きっと次は後ろに回されるに違いない。
俺はそんな安易な気持ちで使者から書状を受け取った。
袁紹さんの所の兵は俺に書状を渡すと、直ぐ様この場から駆け足で立ち去っていった。見たところ、書状は何枚もあったみたいだから他の陣にも回るのだろう。 ……ホントご苦労なことで。
兎にも角にも確認……――――――――!?
「如何なされましたか凌統様? 何やら動きが制止しておりますが……」
突然動きを止めた俺を不審に思ったのか、副長さんが心配そうな声をかけてきた。
しかし、俺はその声に答えられるほどの元気はまるでなかった。 それ以上にたった今、届いた書状の中身に驚いているんだ。
それこそ某宇宙スポーツマンで切腹をスポーツと勘違いしている人の最期の言葉の『なんだと!?』と叫びたくなるくらい驚いている。 ……この例えって今の子供はわかんないか。
おとと、脱線しちまったな。 取り敢えず、書かれている内容が問題だ。
掻い摘んで説明すると――――『汜水関を簡単に落とせたのですから、虎牢関も優雅に攻略なさい! オ~ッホッホッホ~』……との事だ。
まるなげされちまったじゃねぇかよ……トホホ。
兎に角、兵を再編成……させる必要はないか、被害は文字通りゼロだし。
「副長…兵を…集…めろ……行軍…する」
「行軍? ……つまり!」
「……ああ…次も先陣…だ」
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――――深夜
ふぅ、何とか桃香さん達を説得する事に成功したぜ。
汜水関の籠城戦の後、新たに虎牢関攻略の司令を受けた俺たちは又もや先陣をきることになった。
そして気が付けば虎牢関城壁から少し離れた場所にて陣を立てて明日への英気を養っているところだ。
いやはや、あの後は大変だったぜ。 俺のところに来た書状が発端となり愛紗さんや鈴々ちゃんがマジギレしちまって危うく袁紹さんの所へと乗り込みに行くところだった。
何とか二人は宥めたんだけれど、口には出さないものの他のみんなも渋い顔をしていた。
無理もないか、兵に直接的な被害こそ無かったものの、連続で先陣をきるとあっては兵達のモチベーションもガタ落ちだろう。
更に悪いことは続き、袁紹さんから借りていた兵一万を返さなくてはいけない事態に陥ってしまったんだ。
あちらの言い分としては『約束は汜水関だけでしょう? それ以外なんて知りませんわ』との事だ。
俺もなんとか説得しようとしたんだけれど、結局兵を借りることはできなかった。 代わりに兵籠は分けてもらえたんだけれど……幾ら何でも俺達に不利な状況へと傾き過ぎている。
何とかここいらで逆転の策が欲しいところなんだけれど……頼りになる我等がチミッ娘軍師'sは何を考えているのか、すっごい思案顔になったまま別れちまうし……マジで困るぜ。
――――グゥギュルルル~
……はぁ、こんな切迫した状況でも腹は減るんだなぁ、泣きたくなるぜ。
こんな時位は大人しくしていればいいのに自己主張ばかり強い腹を擦りながら俺は深く溜め息を吐いた。
普段だったら腹が減ったら非常食(豚の丸焼き)を食べたり、そこいらの店で食べられるんだが、残念ながらここは戦場で嵩張る非常食(豚の丸焼き)を持ってきていないし、荒野が広がるこの地に店なんてものがある筈もない。
それに、流石に兵籠に手を出すのも気が引ける。 つまり、今は我慢するしか道は無いというわけで……
――――――グゥギュルルル~
我慢出来ないかもしれないや。
……しゃあない、幸いなことに近くに雑木林みたいなものが見えるし、夜通し狩りをすればなんかとれるだろう。
幸いな事に、火打ち石や松明といったサバイバルキットは持参しているし。
用意がいいな俺! 気が利く男な俺! 次期生徒会長候補だ俺!
……学校行ってねぇよ俺。
こ、コホン。 一人ツッコミをしてもつまんないな。 とにもかくにも、予定が決まったんなら副長さんにでも伝えておこうかな。 流石に何も言わずにいなくなるのもマナー違反だし。
そう決めた俺は早速副長さんが待機している簡易兵舎へと向かった。
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さて、やってきました雑木林!
副長さんに腹が減ったから近くに行ってくる事を掻い摘んで説明したら何でか知らないけれど――――
「ハッ! 畏まりました、御武運を……!」
何でか知らないけれど、コレでもかっていう位、励まされてしまったんだが……一体何が起こったのだろう?
……うん、考えても仕方ないや。 取り敢えず俺は今現在ナウの空腹が満たされれば満足だからね。
俺はそうして、副長の言葉を特に気にも止めずにたった一人で食材を求めて夜の視界が悪い林へと突入していくのであった。
――――副長
汜水関攻略後、我等凌統隊の面々は反董卓連合総大将である袁紹様より新たな任務を言い渡された。
内容は言わずもがな、次なる虎牢関を落とせというあまりにも馬鹿馬鹿しいものであった。
……いえ、コレは失言でしたね。 隊長である凌統様が何も仰らない以上、私は不当な発言をするべきではありません。
ですが、恐らく袁紹様は自軍への被害を最小限に抑え、先にある洛陽を攻め入るおつもりなのでしょう。
しかし、そこに至るためには次なる虎牢関の飛将軍、呂奉先を相手にしなければならない。
そこで、凌統様を先陣へと置き自分達は後衛へと周り最大の障害をやり過ごすおつもりなのでしょう。
……私でも容易にこの結論に達したと言う事は、間違いなく凌統様をはじめ劉備軍の方々も把握しているはずです。
ですが、それでも凌統様は袁紹様の命を受け先陣をきるおつもりなのでしょうか?
……いや、凌統様の事です。 きっと私が思いも付かない方法で解決されることです。 こんな時に不謹慎ではありますが、凌統様がどのような策をもちいるのか……今から気になって仕方がありません。
そしてその晩、私の予想通り凌統様は行動に移されたのです。 夜も更けた頃、凌統様は私が駐屯している簡易の兵舎へと尋ねてまいりました。 そして直ぐにこのようにきりだしたのです。
「獲物を…狩って…くる……俺が戻らない…時は……劉備軍の指示を…きけ」
内心で私は『来た!』と叫び、小踊りをいたしました。 きっと凌統様は私にこう仰りたい筈です。
『呂布は俺が引き付けておく、お前達は劉備軍と結託し虎牢関を攻め入れと……』
私自身、凌統様の副官として御供したかったのですが、上二人が抜け出す事はやはり兵たちの士気にも関わります。 そしてなにより凌統様の瞳が『俺一人で十分だ』と言っているように見えたのです。
全てを引き受け、私は闇夜に消えゆく凌統様の背をお見送りいたしました。
その威風堂々とした凌統様の御姿は昔、父に読んでいただいた架空の英雄の姿を彷彿とさせ……
「……いや、彷彿ではなくコレから現実となるんだ」
ありがとうございました。
前回もお知らせしましたが、ストック分がこれでラストとなります。
次回は少し間が空いてからの投稿となりますのでご了承ください。