突然ですが、この破天荒な母を如何にかしてください。父が亡くなり、母と二人で旅に出る事になった俺だが、旅に出て早々…
「よし柚登、これ持って賊を潰してこい!」
…だぜ? そう言って母の愛用している三節棍を今迄見た事が無い位の笑顔で渡された時の俺の気持ちが解るか!?
血がべっとりと付いているんだぞ!! 正に年代物なんだからな~!!
一体母は小市民の俺に何を求めているのかを教えてほしいです!! じっくりコトコト5時間位説明してほしい位です!!
しかも、あれだぜ? 旅に出て直ぐって事はまだ俺10歳の出来事だぜ!!?
マジで母は正気かと思ったですとよ!! あ、やっべ何かテンパリすぎて訛っちまったぜ。
……いやいや、そうじゃなんだよ!! 流石に渋っていると…
「大丈夫だ。さっき俺が軽く潰しておいたからお前は弱った賊を倒せばいいんだよ」
……あれですか? ライオンやチーターといった肉食動物が自分の子供に獲物の狩り方を教える時と原理は同じなんですか?弱らせた獲物を狩って来いってか!?
ソレの人間バージョンを実施しろって事ですか!? どんだけ千尋の谷から突き落とす気なんだよこの母は!!
しかし最終的に半ばゲンナリしながらも俺は母が軽く潰したという賊の塒がある林の中へと足を運んだ。
正直、逃げ出したかったんだが母が遠くの方で俺を見ている気がしたんだ。
いや、実際に見たわけではないが何と無くそんな感じがしただけだ。一度試しに振り返ってみたが、母は何処にもいない…だがあの母の事だ、油断は出来ないな。
俺はほぼ強制的に覚悟を決めさせられて林の奥へと進んでいった。
そして、賊の塒に着いた俺が目にしたものは……
「…………………う、うぅ…」
「……………た、たすけ…て…」
「……眼……俺の眼がぁ…」
正に地獄絵図と言ったものだと思う。
床にのたうち回っている者……既に虫の息状態の者……両眼に相当な衝撃が加わったのだろう。両方の眼球がひしゃげて、深紅の血の涙を流している者…数にすると20人程の小さい規模ではあるが、皆が一様に重症者だ。
幾ら何でもやり過ぎではないんですか!?
明らかに軽く潰したって言う表現は間違っていると凌統君は思いますぞ!!
これは所謂、半殺しではなくて八分殺しと言うヤツではないかと判断いたします!!
普通の10歳児が見たら一生モノのトラウマものですよ!! 赤ん坊の頃から母に連れられてそう言った事柄に対してある意味で耐性が出来ている俺じゃなかったらマジで心に大きな傷を残してしまうレベルですよ! いや、耐性あってもエグ過ぎだぞコレは!!
あまりの酷い状況に賊たちに向けて同情をこめた視線を送りながら、この場をどうしようかを悩んでいると、八分殺しにあった一人の賊が俺の存在に気が付いたようだ。
「な、何だょ……もぅ…もう許してくれよぉ~」
どうやら、あまりの恐怖で俺のことを母と間違えているみたいだ。
俺は慌てて訂正しようと右手を顔の前に持ってきて手を振り、自分が母では無いことをアピールしようとした。
……しかし、そこで悲劇は起きてしまったんだ。
――スッ……ポン―――――――グシャ…
なんと、勢いよく右手を上げてしまった所為で右手に握られていた三節棍が俺の手からすっぽ抜けて前方に向かって飛んでいってしまったのだ。
しかも、無駄に身体がハイスペックな為、三節棍はかなりのスピードで前方に飛んでいく。
俺は例のハイスペックな身体のお陰で視認出来るが、恐らくは弓で射る矢とそんなに変わらない速度だと思う。
そして、ソレは真っすぐ………………………………………俺の存在に気が付いた賊の脳天にクリーンヒットしてしまったんだ!
母からの八分殺しに加えて俺のお馬鹿により、+二分殺し…哀れこの賊は全殺しになってしまったとさ…………マル
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………………………冗談じゃねぇーーーーーーーーーー!!!!!!
こんなギャグみたいなノリで人殺しのレッテルを張られてたまるかぁ!!
俺は慌てて三節棍がクリーンヒットした賊に駆け寄ろうとしたんだが……
―――――――――――――――――グチャ……
「ぎゃぁぁああああああ!!!!!!!!」
何やら足から生々しい感触が伝わり、直後に響いた苦痛に満ちた悲鳴…ま、まさかねぇ~…
俺はゆっくりと今し方地面に接地させた足へと目を向けた。
あってほしくはないけれど…今の感触ってもしかして…
下を見やると股の部分から大量に出血をして泡を吹いている男が一人…そして、股に力のかぎり踏み抜いてしまったと思われる誰かさんの足が………………って俺だ!?
俺は慌てて屈み、その人の無事を確認しようとした。しかし、如何せん足元が悪すぎた。
粘性の高い血液は俺の足と床の間にてまるで潤滑油の様な役割を果たしてしまったんだ。
瞬間的に前方に倒れる俺の身体……咄嗟に保護伸展反応が働き、手を前に突き出した。しかし、その手がある意味で決定打となってしまう。
―――――――――――――――――拳に生暖かく、肉と骨を同時に潰すような感じがした。
「―――――――――――――――――――――ゲハァッ!!!!」
それとほぼ同時にカエルが潰された時のような声と水が跳ねるような音、更には枯れ枝が砕けるような音が同時に聞こえてきた。あまりにも生理的に受け付けない触覚と聴覚に全身に鳥肌が立ってきた気がする。
あまり視覚的に確認したくはないが、このままというわけにもいかず、意を決して俺はゆっくりと音の発生源と思われる自身の右手へと目を向けた。
あら方予想はついていた。やはりと言っていいのか、音の正体は俺の右の拳が急所を踏んでしまった男の顔面に炸裂した音に間違いなかった…
―――― 母
うへぇ~柚登のやつ、えげつねぇ事するなぁ~
柚登を賊がはびこっている場所へと送り込んで一刻程経過しただろうか?
俺は愛する息子の姿を見失わないように遠くから見守っていたんだが…
これは、俺の想像以上の育ち方をしていやがる。
まず、かなり距離を空けているはずなのに柚登のやつは俺が見ているのを気付いていやがる。
なるべくばれねぇ様に気配は殺していたはずなんだが…
そして二つ目…敵に対する冷酷さ。
齢10にして、ここまで熟していやがるとは思わなかったぜ…
獲物を手放したのはいただけねぇか、三節棍を自然な動作で投擲し、賊の頭(かしら)を仕留めた後、地べたに転がっている頭の右腕とされている男の急所を躊躇なく踏み抜くたぁ…更に追撃として全力の拳を顔面に打ち込むとは…もしかして、俺が弱らせておく必要なんてなかったんじゃねえのか?
…兎に角、これにより頭を殺され、更に頭に一番近い人物を潰したことになる。
そんな光景を目の前で見せ付けられちまったら賊なんかみたいな上下関係の希薄な奴らは一気に有象無象の集団になり下がっちまう。案の定、あの場に居るもの全てが抗う気力を潰えちまったみたいだ…
集団を相手にするにはまず頭を狙うのが鉄則だが、柚登は俺が教える間もなく自分自身でそれを開拓したんだ。
「やっぱり、柚登は戦の才があるな…こりゃあ俺なんかを、あっという間に抜いちまうぜ」
嬉しいような寂しいような…自分の息子が自分を抜いて行くという成長は嬉しいが、抜かれちまったら俺が柚登に教えられることが少なくなっちまうのは寂しいもんだなぁ。
そんなことを感じた母であった。
―――― 柚登
まぁ、こんな事を俺と母は数年続けたんだ。
時には村から賊の討伐を依頼されたり…時には村を荒らす猛獣を相手にしたり…そんで報酬として一夜の宿を提供してもらったり、食べ物を貰ったり…残念ながら賊に襲われたせいで村にはその日暮らしがやっとの所もあった為、何も貰わないことだってある。
あぁ……色々と大変すぎた数年間だったなぁ~
……え? 今までのトラウマ描写は回想ですが何か?
そんなこんなで俺は、年齢的に大人になった。イキナリすぎる展開かもしれないけれど、まぁ許して。
そして、この数年間で廻った村や国の数と言ったら…正直数えきれないくらいある。
そして、色々と見聞を広めてみてわかった事なんだが…今の世の中は三国志にあるような戦争はあまり起きていない。賊による略奪などは横行しているみたいだが…
やはり、戦乱の引き金となるべき出来事は何時起こるか分からない『黄巾の乱』のようだ。
えっと……張角だったっけか? そいつが頭になって農民やら何やらを巻き込んだ事件だったよな?
確かに、この大陸を回るにあたって徐々にだが賊たちの勢力が広まっている事を肌に感じた。
つまりは、遠くない近い将来に三国志の始まりと言える出来事が起こる筈だ。
………あれ?凌統が生まれたのってその後だった気がするけれど……俺の勘違いだったか?
そうだ凌統と言えば、正史から行くと亡き父の跡を継ぎ呉で将として仕える筈だ。
しかし、俺がいる世界ではあの男が呉にいたと言う事実はなく、凌統である俺自身が母に連れられて修行の旅に出るという、歴史に描かれていない出来事が起きている。
つまりは、この世界は三国志通りに事が運ばれていないと言うことになる。
しかし、今この世界では賊が蔓延してきている。
これらのことから、歴史に残るような事件、事柄は正史通りに進むが将の細かい設定などは色々と都合の良いように捻曲げられている可能性があるということだ。
うっわ…なにこの何でもありな世界って…そういえば、言葉が前世のまま通じる時点で本来の三国志って言う選択肢は無いんだったな。
……そうだ!聞いて聞いて~かなり成長してから気がついたんだけれど、俺の容姿ってのが正に無双さんに出てきた凌統にそっくりなんですよ~…まぁ、あそこまで皮肉めいた口調では無いいだけれどさぁ~
だから、髪型とかはあの後ろ縛りを意識してみたんだよね。
最も、幾ら格好を似せても中身は小市民な俺だけれど~
そんなこんなで俺は母と修行をしながら今後の事について考えていた。
そんなある日、俺と母は幽州のとある村に辿り着いたんだ。
この日は早朝にお世話になった村を出て丸一日歩きづめだったのだが、未だに次の村には辿り着けていなかった。
辺りは既に夕闇に包まれており、このまま野宿をするかと言う選択肢の色が濃くなったその時、遠くの方で何か光る物を見つけたんだ。俺と母はその光に向かって歩いてみると、小さくはあるが村を見つけたのだ。
元々現代っ子の俺としては、なるべく野宿をするという選択肢を選びたくなかったので、正にピッタリなタイミングであった。
「おう柚登、今日はこの村で世話になっぞ~」
母もどうやらこの村に一夜のお世話になる事を決めたみたいだ。
そうと決まれば、早速村長のお宅に向かわねば!! 俺と母は足取り軽く、村で一番大きな屋敷を探した。
村を半刻程歩いた頃だろうか…ふと、母がその足取りを止めた。
暗闇でよく分からなかったが、何やら少し顔を顰めているような感じもする。
たいてい母がこういった表情になる時は良くない事が起こる前兆なのだ。それこそ、賊が出たとか、猛獣が出たとか、食糧が底を付いたとか…
「……どうし…た?」
「柚登、気付かねえか? この村…人の気配が殆どしねぇ…いや、人の気配はするが、何て言うか…獣じみた感じがしやがるぜ」
え"!!? 人が居ないって事は…今夜の宿は!? 飯は!!? ふかふかとまでは言わないが、せめて屋根がある所で一夜を過ごすスローライフは!!?
母の発言で半ばテンパリながら俺は辺りを見回した。
………そこでふと、遠くの方で夕闇には不釣り合いな黄色い派手な何かが浮かび上がった。
それも、一つや二つでは無い。かなりの数だ。更には何だかこちらに近づいてきている感じもする。
母はゆっくりと臨戦態勢を取った。俺も母に習い同様に臨戦態勢を取る。
何故か何て今迄何度も見てきた集団だからに決まってるじゃんか。…そう、俺達の前方の集団は間違いなく賊…そしてその頭には先程夕闇に栄えて映った黄色いバンダナが巻かれている。
「…柚登、どうやら並の賊じゃねえみたいだぜ? あいつ等…賊のくせして陣形なんかとっていやがる」
マジか!?……いや、少し待てよ。黄色の……賊?
少し待ちんしゃいな……確か、ついさっきソレと同じような事を考えていた気がするんだが………………………って、黄巾!!!!!?
おいおい…それってまさか…
「数百人規模か…こりゃあ、俺と柚登の二人じゃあ五分五分って位か? しかも、なんだぁ、あの悪趣味な旗は?『蒼天己死、黄天富立』?……………なぁ柚登、説明頼む」
え、え?いきなりなキラーパスですか!?
えと、えっと……確か…
「………蒼天………漢王朝は死に絶え……黄天…恐らく………奴ら自身が、それに代わるものになる………か…」
確か、こんな意味だったよな?
「な、なんだってーーーー!!!?」
やっぱり、かなりヤバ気な事が書かれているんだよな?
中身が日本人の俺からしてみたら、あんまり危機が迫っている感じはしないけれど、この世界産まれでこの世界育ちの母からしてみたら考えられないことなんだろうな~
「ゆ、ゆゆ柚登がこんなに長く話すなんてぇぇぇーーーー!!!?」
そっちかーーい!! いや、確かにこれまで長く話す機会なんて無かったけどさ~今現実から目を背けないで~!!
いやいや、それどころじゃないってば!!あの有名なスローガン…更には黄色のバンダナって言えば…
「おうテメェ等…この村のもんじゃねえな? 金目の物…出して貰おうか?」
「そっちの女は上玉だなぁ…可愛がってやるぜぇ」
「男は殺すか?」
この世界で黄巾の乱が始まった瞬間であった……
つーか、何にもしてねえのに俺の死亡フラグ的なものが立った!!?
ありがとうございました。
また次回も宜しくお願いします( ̄▽ ̄)ノシ