――――公孫賛
凌統は変な奴だ。まだ出会って一日も経っていないがこれだけは自信を持って言える。
初めて見たときは凄い強そうな奴という印象だったが……いや、今でもまだその印象は生きているんだが…
昨日色々とあって凌統が客将として私のところの軍に入ることになったんだ。
そこで、凌統の本質を知るために軍を任せたんだ。しかし奴の顔合わせをさせた時に…
「……一つ…………………死ぬ…な」
まさか、凌統の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。
今の世の中兵に志願する奴らは限られている。家族がいるのに仕事が無いもの、訳合って家を継げない者、元盗賊…
挙げたらキリがない程訳ありな奴が揃った集団…だが、一様に言えるのは命を半ば捨てている奴のたまり場…ソレが軍にいる奴の現状だ。中には心から国を救いたいと思う奴もいる。だが、それはほんの一握りの連中だ。
更に無理矢理徴兵された奴もいる事だろう。
自ら死を望む訳ではないのに死ぬ可能性が一番高い軍に…
しかし凌統は、そんな奴らに死ぬなと言った。
国の為に命を投げうって戦に殉じる…それが今の世の将足る者の常識だ。
そしてソレを部下である兵達に押し付けるのも将…
そんな世の中で放った将である筈の凌統の死ぬなと言う一言…
勿論兵達は呆気に取られている。
かくゆう私もなんだがな。
…いや待て。この凌統と言う男はそこまで人に対して無責任な言葉を吐くか?
『死ぬな』一見、兵達の身を案じているような言葉だが、つまりは凌統自身部下を助けるつもりはないと言う意味に聞こえる。
俺は手を出さない…だから死ぬんじゃない。
とらえ方によっては有り得ないくらい無責任発言だ。だが、短い間とはいえコイツの人となりは何となく理解した。雪花と旅をした数年間、コイツは見ず知らずの民の為に身を擲って賊の討伐をしていたという。それ程までに人の為に何かをなそうとしている人間がそんな意味でこの発言をしている筈が無い。
つまり凌統は戦以外の面で死ぬなと言っているんじゃないのか?
そう、例えば…………………調練か!
そうか、調練で厳しくするから死ぬなと言いたいんだな?って…
「お前…どんだけ、厳しくするつもりだ?」
そして、次の言葉で私の考えは間違っていないことが証明され、凌統の真なる想いを垣間見た。
「……自らを…そして………家族…を……護り…きれる…まで」
……成程な。やはりコイツに軍を与えたのは正解だったかもしれないな。重鎮達からは客将に兵を与えるとは何事かと詰め寄られたが無理を押し通した甲斐があったもんだ。
兵達の息を呑む音が聞こえた。無理もない、本当に自分達を想ってくれる発言を凌統はしたのだ。
兵達の心を射たない訳が無い。
私は凌統のその言葉を聞いてから直ぐに調錬場を後にした。
別に他意は無い。ただ、敢えて理由を付けるのであれば私はあそこに居るべきではないと思ったからだ。
こんな私でも一応太守の身だ。凌統の考えは凄い事だと思うが、明らかに国よりも兵の身を案じている凌統の全てを肯定してはいけない立場の人間でもある。
調錬場を出て直ぐに後ろからまるで勝鬨でも挙げているような怒号が響き渡った。
「ふむ…中々面白い事になっているようですな」
未だ喧騒が納まらぬうちに聞き馴れた皮肉めいた口調の女の声が聞こえてきた。…まぁ誰かなんて聞く必要は無い。だってコイツは…
「何だ?盗み聞きか星?」
少しあきれたような口調で私は調錬場から少し離れた壁に腕を組みながらもたれ掛かっている星に声をかけた。
星は何時ものように何を考えているのか分からないような微笑を作り目を閉じている。
まぁ、聞く迄もなく凌統の様子を見に来たんだろうが…何か大事な場所が捻くれている星はまともに答えないだろう。
そして私の問いに答えようと星は瞼をゆっくりと開いた。
「ふっ…人聞きが悪いですな白蓮殿。あの場に向かうと言うそんな無粋な事…白蓮殿でもない限り無理であろう?」
「イキナリ厭味かよ!? ったく、へいへいどうせ私は空気が読めない女ですよ」
何だか星に会うたびにからかわれている気がするな。
それよか、私を山車にしたな…何だか疲れが増してきた…今日はもう寝たい。
「おや、今頃気がつかれたのですかな?」
「冗談じゃなくて本音かよ!?」
「何をおっしゃいます白蓮殿、私は何時も本当の事しか申しませんぞ?」
うっわ、欝陶しいなコイツ!?
――――凌統
やぁ、凌統だよ。気軽にユートと呼んでくれ。……何故だ?何処ぞのファンタシースターな部族の少年を想起させるんだが…まぁ、そんな事はどうでもいいかな。
何か知らないが兵達がみんな一斉にメダパニを食らった後、俺は一人で公孫賛さんの下を訪ねた。
なんて事はない。只、前世ではバリバリな一般人の俺。更には何の因果か知らないが三国志に産まれでた俺。
前者では争いのない平和な世の中を過ごしてきた俺…後者では根本的に母以外と話した事が無い俺。
つまり何が言いたいのかと言うと……
―――――――――――――――――― 兵ってどうやって纏めれば良いんですか?
ってな訳よ。…ふふ、根本的だと思わないかい? ゴクゴク小市民の俺に兵を渡すなんて根本的過ぎると思わないかい?
…………………どうすればいいのよ俺!? ってな状況だぜ?『ライフカード』なんて横文字、この時代じゃ通用しないんだぜ?
…少し鬱な凌統です、凌統です…りょうとうです……りょーとです…………ハッ!? 何か化石化した芸人みたいだった!?
…ん? 何だか話が270度くらい変化している気がする。えっとえと………おぉ!!そうだった、公孫賛さんの所に行って『Heyってどう纏めれば良いんだYo!!』って聞に行く所だった。
……あり? なんか違う気が……まぁいいかな。
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~会議室~
そんなこんなで着きました会議室。…しかし、今俺は何だか変な状況に巻き込まれている。
いや、特に俺に不利益な事では無い。 …いや、特に得する事でもないんだけれど。
ソレは何かって? えっとな………
「凌統、私の真名を預かってくれ。私は白蓮、よろしくな!」
「ならば私の真名も…私は星と言う。よろしく頼むぞ凌統?」
………世界の中心で疑問を叫びたい凌統です。
そんなこんなで済し崩し的に真名を交換してしまった凌統君だが………あり? 確か何かを聞こうと思っていた気がするんだが………まぁ思い出せないのならどうでもいい事なんだと思いたい今日この頃です。
「……右翼……左翼…前…進………鶴翼の…陣……形」
そして気がつけば何故か俺は城下町から懸け離れた荒野にて演習のフリをしていたりする。
俺の小さな声に反応して兵士さん達が左右に広がり陣形を組む。
…言っている意味がわかるか?少なくとも俺自信は理解不能な状態だぜ?
因みにどんな事をしているかというと、取り敢えずは兵士さん達の動き、更に陣形の確認をしているところだ。
陣形の勉強は前もって母から教わっていたからなんちゃって指揮は出来るけれど…これは俺には向いていないな。
コンマ一秒くらいで理解した。
だって喋らないといけないんだぜ?
何百人と居る兵士さん達全員に聞こえないといけないんだぜ?
そもそも、この時代には拡声器と言う便利道具が無いんだぜ?
……………外面無口な俺にどうしろと?
そっこーで指揮は副長に任せましたが何か?
(―――――――――――――――――ブルル…)
やっべ、少しもよおしてきたかも…急に俺を体全身が冷水に付けられたかのようあ独特の寒気が襲う。
こりゃあ、少し興奮していて気がつかなかったみたいだ。我慢は…出来そうにねぇな。
如何やら指揮系統なんていう緊張しまくりんぐな状況な為に自分の尿意に気がつかなかったみたいだ。
そう言えば聞いた事がある。何か興奮したり緊張したりすると尿意が遠ざかっていくって。
成程ナルヘソ、自分でも気付かない内にハイな気分になっていたのか……………あ、もう無理ぽ…
「先……戻れ」
ちょっと廁に行きたいから先に返ってください〜
俺は近くにいた副長さんに指示を出した。
「いえ、ですが…」
しかし、其処は仕事に真面目な副長さん。やはり、隊長(俺)を残して帰る事は出来ないってか!?
クッソ〜!! 副長って言うのは何でこうも御堅いキャラが多いんでしょうね!?
寧ろ鬼だよね鬼! あれだぜ?新撰組とかいい例だとかおも……あ、無理。こうなったらみんな一緒に…………
いやいや、流石に俺の所用にこんな大所帯を引きつれたかぁねぇっての!
ウッ……かなりヤバイっぽいぞ俺の膀胱!
「……二度は…言わん………帰れ」
「――――――――――――ッ!!? りょ、了解いたしました!!」
やっと納得してくれたぁ!更にどうやらあの焦った表情から俺がもよおした事を察してくれたみたいだ。
帰ったらお礼を言っておこう。
副長は慌てて陣形を立て直し、隊を引きつれて戻っていった。さて俺は……
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しばらくお待ちください
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ふぅ、危なかったぜ。後少しというところで大人ながら地べたに世界地図を描いちまうところだった。
未曾有の危機を脱した俺は意気揚々と啄郡目指して帰還しようとした。
しかし、腰に刺さった三節棍は副長さんに持っていってもらえばよかったな。邪魔で仕方がなかった。ついつい何時も刺さっている所為で忘れていたんだがマジで邪魔くさかった。
…何の時に邪魔だったかを言わないのが大人のマナーこれjk
そんな事を思いながら三節棍を腰から外して何となしに振り回してみる俺。
端から見たら相当ヤバイ人だとは自覚しているが、別に今の時代こんな所を歩くような人なんて……
――――――――――――――スポッ…ヒュウゥゥゥン
………あ、すっぽ抜けた…じゃなくてなんかデジャブな出来事が再来ーーーー!!?
いや、振り回していた俺が悪いんだけれどさ、まさか三節棍が手から離れて回転しながら空高くへと飛んでいくなんて思わないじゃん普通。
まぁ、前方だったり後方だったりしないから人に当たる事はないだろうけど。
それに、さっきも言ったがただでさえ物騒な世の中で人通りが乏しいのだ。
こんな状況下で俺がぶん投げた三節棍が当たるなんて相当運が無い奴以外……
『『『―――――――――――――ぎゃ!!??』』』
……どうやら居たみたいだ。しかも……三人も!!?
だ、大丈夫か!? 一応ギャグみたいなノリだけれど、このノリで何人も葬ってきた俺だが(誤字非ず)また犠牲者を増やす結果になっちまったのか!? つーか何で三節棍みたいな細長い物で三人分の悲鳴が聞こえるんですか!?
…いや、もしかしたら三節棍は回転しながら飛んで行ったんだ。まさかまさかとは思うけれど……偶々三節棍が横になった瞬間に当たったとしたら………うっわ…どんだけ運が悪い…いや、ちょっと待てよ。
もし当たったのが一般人だとしたら……
『一般人を間違って殺すなんて以ての外だぞ柚登!』
『クッ…まさか、我が槍で同僚を討たねばならんとはな…しかし、亡くなった民の為、その血を持って償え柚登!』
…………………………うわ、うわ〜…
絶賛ピンチな俺!!? 頼むから生きていてくださいよ、名も知らぬ被害者さん's〜!
そして俺は三節棍が飛んでいき、尚且つかなりヤバ気な悲鳴が聞こえた現場へと歩を進めるのであった。
――――副長
凌統様の下につき初めての任務は凌統隊の陣形諸々を確認するための演習であった。
今の世、我等一般兵の事を気に掛けてくださる方は少ない。兵とは替わりが効く、捨て駒……恐らくソレが共通の認識だ。
しかし、我等凌統隊を治める凌統様はソレを根本的に覆す発言をなさった。
『――――――――――死ぬな』
それが凌統様が我等に向けて初めて放った言葉だ。
その瞬間私は悟った…
あぁ…この方こそが私の一生涯の主なのだと。
同性の凌統様に向けて正しい言葉なのかは不明だが、一目惚れというものに近いかもしれない。
そして私同様に魄で感じ取った者は少なくなかった。
『――――――――――――――――――ウォォォォォ!!』
少なくとも私を含めた過半数の者達が凌統様の御言葉に歓喜していた。
残りの一部の者は凌統様の真意を伺っているようだが、それは凌統様の下にいる時間が解決してくれるであろう、そう感じた。
「……右翼……左翼…前…進………鶴翼の…陣……形」
そして今現在、私の前で凌統様がその采配を振るっている。
決して大きな声では無いのに皆に響き渡るその澄んだ声…意識されているわけでは決してないだろうに…やはり、凌統様は人の上に立つお方だ。
勿論兵達も凌統様のご期待にお応えし様といつも以上に張り切っているのが肌で感じ取れる。
その様子を只黙って見つめる凌統様。
しかし何処か不満気な御様子だ。……何故? いや、しかし凌統様には何等かの御不満があるのだ。
きっと我等では計り知れない何か譲れないモノがあるのだろう。
そして、凌統様が口を開いた。
「………副長……兵達を……任せる」
一体何を言ったのかが理解出来なかった。 『兵達を任せる』? そう凌統様は仰った。
しかし、何故今更? 私は凌統様の真意を計りしれないでいた。
そして凌統様は矢継ぎ早に更なる支持を我等にだしたのだ。
「先……戻れ」
どういう事だ?軍の指揮を私に任せ、先に啄郡に帰還しろなどと…
凌統様には考えが御有りなのだろうが、当然のごとく一軍を任された将は自分本位に動いてはならない。
私は凌統様に対してその様に進言しようとした。しかし……
「……二度は…言わん………帰れ」
今まで感じたことが無いような強大な殺気を私に向かって放ったのだった。
恐らくこれが一騎当千の将足る一握りの人物が放つことを許された本物の殺気…
まごうことなきソレは一般兵である我等の本能に語り掛けてきた。
『従わなければ……明日はない』
凌統様の指示通り私は兵達を纏めて啄郡に帰還すると言う選択肢以外残されてはいなかった。
しかし私は凌統様に対して失望はしない、落胆もしない。
何故ならあの御方は……………
「我等の光なのだからな…」
小さな呟きが風に乗り消えていく………その後、私達よりも随分遅く、そして私が想像していた以上の成果を手に凌統様は帰還された。だが、この時の私はそのような事は考えもつかなかった。
ありがとうございました。
また次回もお楽しみに〜( ̄▽ ̄)ノシ