妖世界の半人半妖   作:九戸政景

14 / 16
政実「どうも、裁縫は学校の授業ぐらいでしかやった事が無い片倉政実です」
龍己「どうも、稲荷龍己です。裁縫か……出来れば結構助かる場面も多いだろうし、これを機にやり始めたらどうだ?」
政実「うーん、そうだね……手先は器用じゃないから、しばらくは痛い思いをする事になるだろうけど、確かに良い機会かもしれないし、やり始めるのもありなのかな?」
龍己「少なくとも俺はそう思うけどな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・龍己「それでは、第11話をどうぞ」


第11話 世界を繋ぐ扉と新たな仲間

 大天狗の涼風丸(すずかぜまる)さんや火鼠(かそ)(かがり)と離れで話をした日から一週間が過ぎた頃の朝食後、俺は自室である離れで篝がのんびりと眠る横で人間の姿のまま読書をしていた。別に妖狐の姿で読書をしていても良いのだが、妖狐の姿はあくまでも事情を知らない妖達に元人間の半人半妖である事を隠すための物であり、人間の姿の方が楽と言えば楽なため、離れにいる時は結構人間の姿で過ごしている。

 ……まあ、主の龍三郎さんを始めとしたこの『狐雨福屋』の人達は、皆俺の事情を知っていてくれるから、店の中を人間の姿でうろうろしてても本当は問題無いけど、龍三郎さんを訪ねてくるお客様の事もあるから、今の所はこの離れぐらいしか人間の姿でいられる場所も無いな。

 そんな事を考えながら本のページを捲っていたその時、突然廊下の方から足音が聞こえ、俺はその音に耳を(そばだ)てながら本をパタンと閉じた。

「……まだ足音だけじゃ誰かは分からないし、何があっても良いようにとりあえずいつもの姿になっておくか」

 そう独り言ちた後、体の奥にある妖力を目覚めさせ、金色の耳と尻尾を生やした妖狐の姿へと変化した。そして、程なくして足音の主は姿を現すと、いつものように穏やかな笑みを浮かべながら俺に話し掛けてきた。

「龍己君、1つお願い事をしてもよろしいですか?」

「あ、はい。もちろん大丈夫ですけど……お仕事に関する事ですか? 龍三郎さん」

「ええ、まあ」

 足音の主──妖狐の龍三郎さんは、笑みを崩さずに静かに頷くと、そのまま離れへと入りながらそのお願い事について話を始めた。

「実は、ある場所に私の昔からの友人であり反物を織る事を生業にしている方がいまして、その方にいくつか依頼をしていたので、それを貰ってきて欲しいのです。因みに代金は前払いしているので、貰ってくるだけで問題ありません」

「分かりました」

「そして、そのお店がある場所が少し特殊なので、今回は同行者が付く事になります」

「同行者……ですか?」

「はい。()は幾度もそのお店まで行った事がありますので、彼の言う通りに着いて行けば大丈夫です。本来であれば、私と彼で行ってくるべきなのですが、先日から龍己君にはお店の事も手伝ってもらっていますし、少しお店の方も忙しくなってきていたので、今回は龍己君にお願いしようと思ったのです」

「そうだったんですね……分かりました、それじゃあすぐに準備をします」

「ありがとうございます。彼にはお店の前で待つように言ってあるので、準備が出来たらそちらへ向かって下さい」

「はい。それじゃあその間、篝は離れで留守番をさせておきますね」

 そして、留守番を頼むためにスヤスヤと眠っている篝を起こそうとした時、龍三郎さんはニコリと笑いながら手で制すると、そのまま笑みを浮かべながら再び話し始めた。

「篝さんは連れて行ってもらっても大丈夫ですよ。篝さんもお留守番をしているよりは、龍己君と一緒の方が安心するでしょうし、何より篝さんのご家族の手掛かりも見つかるかもしれませんから」

「……そうですね」

 返事をしながら大人しく眠っている篝の背中を静かに撫でた後、俺はここまでの調査の成果について思い出した。篝は行方不明になった妹──朱夏を捜すためにこうして俺に付いてきたが、瓦版屋である鎌鼬(かまいたち)の風之助や妖狐の草吉さん、更には別の街──深水に住んでいる化け蛇の七之助さんや少し離れた場所にある山に住む涼風丸さんの力を借りても未だその行方が分からずにいた。

 俺も篝を連れてこの不忍の街を歩いて捜したり知り合いに訊いてみたりはしたけど、結局分からずじまいだったからな……。本当ならもう少し範囲を広げて捜したいけど、『火の外にいる時に水が掛かると死んでしまう』という火鼠の特性上、あまり遠くに行くのは危険だから、篝を連れて行くには結構な装備が必要になるしな。ただ、そういうのに適した妖術でもあれば、また話は別なんだけど……。

 そんな事を考えながら篝を撫でていた時、「んぅ……」という声を上げながら篝が目を覚まし、まだ眠そうな目を俺達へと向けてきた。

「……あ、皆さん、おはようございます……」

「おはよう、篝。その様子だとよく眠れたみたいだな」

「えーと……はい、朱夏が中々見つからない事で、気持ちが落ち込んでいたんですが……少し眠ってみたら少しだけ楽になりました」

「そっか、それなら良かったよ。無事に見つかるように俺達ももう少し努力してみるから、これからもお互いに頑張っていこうな」

「……はい、これからもよろしくお願いします」

 ニコリと笑いながら言う篝の頭を撫でながらコクンと頷いた後、龍三郎さんから受けた依頼について話すために口を開いた。

「さて……今から龍三郎さんからの依頼で出掛けるところだったんだけど、お前も付いてくるか?」

「え……お仕事なのにボクも付いていって良いんですか?」

「はい。確かにお仕事ではありますが、お手伝いに近い内容ですし、この不忍とは別の場所へ行ってもらうので、もしかすれば篝さんのご家族の手掛かりも見つかるかもしれません。それに、篝さんには碧葉(あおば)とも仲良くして頂いてますが、やはり龍己君と一緒の方が安心するでしょうからね」

「龍三郎さん……本当にありがとうございます」

「いえいえ。それでは……龍己君、篝さん、どうかよろしくお願いします」

「「はい」」

 一緒に返事をすると、龍三郎さんは安心した様子でコクンと頷き、そのまま仕事の方へ戻っていった。

 今回の仕事の内容とか同行者が誰なのかとか気になる事は多いけど、こうして手伝いレベルでも仕事を頼まれるようになったのは、やっぱり嬉しい物があるよな。

「……これからももっと色々な仕事をさせてもらえるようにまずは今回の仕事を頑張っていかないとな」

 頼まれた仕事に向けてのやる気を高めながら独り言ちた後、再び篝の方へ顔を向けた。

「それじゃあ早速行こうぜ、篝」

「はい!」

 そして、篝と一緒に荷物の準備を整え、筆や(すずり)などが入った風呂敷を軽く背負った後、俺は篝を抱えながら縁側に置いていた草履に足を通し、同行者との待ち合わせ場所へと向かった。木戸を通り抜けて『狐雨福屋』の前に行くと、そこにいたのは『狐雨福屋』の手代であり龍三郎さん達と同じ妖狐の羅紗(らしゃ)さんだった。羅紗さんは濃い青色の着流しに身を包んだ俺と同じ金色の耳と尾を持ついつも落ち着いた雰囲気を漂わせている妖狐で、俺が半人半妖になる原因になった妖狐でもあるのだが、今日は俺と同じように小さな風呂敷包みを背負っていた。

 それにしても……同行者が羅紗さんだったのは、ちょっと驚きかな。何というか、羅紗さんは番頭の伊織(いおり)さんと同じく中での仕事が多いイメージだったしな……。

 羅紗さんの姿を見ながらそんな事を考えていた時、「……来たか」と羅紗さんは一言呟くと、ゆっくりと俺達の方へ視線を向けた。

「思っていたよりも早かったな、龍己」

「あ、はい……やはりお待たせするのは良くないと思って」

「……そうか。まあ、その姿勢は悪くない。仕事に限らず、待ち合わせ相手を必要以上に待たせるのは良くは無いからな」

 静かに頷きながら言った後、羅紗さんは篝の方へ視線を向けると、そのままの様子で篝に話し掛けた。

「旦那様より話は聞いている。行方不明の妹の手掛かりを探すために付いてくるのだったな」

「はい、お邪魔にならないようにしますので、どうぞよろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。……では、そろそろ行くとしよう。あまり遅くなってしまっては、旦那様や伊織殿が困る事になってしまうからな」

「「はい」」

 そして、俺達は羅紗さんと並ぶようにして不忍の街を歩き出した。不忍の街は、相変わらず様々な妖達で賑わっており、その様子は見ているこっちまで楽しくなってくる程に明るく楽しげな物だった。

「そういえば、不忍っていう名前の由来は、静まり返る事が無い程に賑やかな街になって欲しいからって聞いた事があるな」

「え……そうなんですか?」

「ああ、この世界に来た日に龍三郎さんからな。思えば、あの日が俺の新しい人生の始まりだったんだよな……」

 そんな事を話していた時、「龍己」と小さな声で俺の事を呼びながら羅紗さんが不意に立ち止まると、申し訳なさそうな様子で俺に話し掛けてきた。

「……あの日、勘違いをした上にお前を殺めてしまった事、本当に申し訳なかった」

「羅紗さん……もう謝らないで下さい。あの日だって謝ってもらっていますから」

 そう、あの日──俺が『人間としての死』を迎え、『半人半妖として生まれ変わった』日にも俺は羅紗さんからしっかりとした謝罪を受けている。そして、羅紗さんの言葉の通り、俺は羅紗さんの勘違い──その時に一緒にいた碧葉さんに取り入ろうとしていたように見えた事が原因で、俺は羅紗さんが放った矢で心臓を射貫かれ、そのまま息を引き取った。しかし、龍三郎さんが使ってくれた反魂の秘術によって俺は人間から半人半妖へ変化した状態で生き返り、羅紗さんの事情を知った上で俺は羅紗さんの謝罪を受け入れ、そのまま羅紗さんを許す事にした。

 確かにやり方は少し良くなかったのかもしれないけど、羅紗さんはあくまでも碧葉さんを助けようとしただけで、そういう風に見えるように接してしまっていた前の俺にも当然のように非はある。だから、あの時の俺は羅紗さんを許した。羅紗さんを憎み、その憎しみのために罰を与えるよりは、あの時の選択の方が良いと感じたからな。

「だから、もう謝らないで下さい。俺は羅紗さんの事を憎んだりや怒ったりはしていませんし、出来る事なら羅紗さんとも他の皆さんと同じように仲良くしたいと思っていますから」

「龍己……」

「綺麗事に聞こえるかもしれませんけど、憎しみ合うよりもお互いに手と手を取り合って助け合う方が、俺はずっと良いと思っています。それに……今の俺がやるべき事は、羅紗さんを憎む事じゃなく、お世話になっている『狐雨福屋』の皆さんのために出来る事をする事ですから」

 ニコリと笑いながら自分の考えを口にすると、羅紗さんは真剣な表情を浮かべながら俺の顔をジッと見つめたが、やがて「……そうか」と言いながら小さく笑みを浮かべ、少し安心した様子で言葉を続けた。

「……恐らく、涼風丸殿も仰った事だと思うが、お前は旦那様に似ているな」

「え……そうですか?」

「ああ。だが、それは顔などの身体的特徴では無く、その考え方や物腰などが旦那様に似ているという事だ。普段の旦那様は誰にでも優しく接しているが、あの日の私のような行動を取った者に対しては、それへの反省を促しながら行ってしまった事に対してしっかりと怒りを見せるお方だ」

「……そうですね。俺はまだ叱られた事はありませんが、あの日の龍三郎さん──旦那様の姿からは、店の主としての責任感などに満ち溢れていたと思っています」

「……時には優しく時には厳しく、これは店の主として基礎的な事だからな。私は旦那様に拾って頂いた事で、今『狐雨福屋』の一員として過ごしているが、あの日の旦那様との出会いには心から感謝している。旦那様と出会った事で、私はかつての私から変わる事が出来、その上で様々な事を学ぶ機会を得られたからな」

「……かつての自分から変わった……」

「その通りだ。そして私は、一生を掛けてこの恩に報いる決心をしている。もっとも、妖の一生など本当に気の遠くなるような話だが、私の決心は絶対に揺らぐ事は無い。それが私の決意だからな」

「一生を掛けて、か……」

 羅紗さんの真剣な目と言葉から、俺は羅紗さんの強い決意を感じ、羅紗さんと龍三郎さんとの間にある強い絆がとても羨ましく思えた。

 羅紗さんと龍三郎さんとの間にどんな出来事があったのかは分からないけど、今の俺には誰かのために一生を掛けるなんて事は出来ないし、そう言われてもその思いを受け止められる自信は無い。だけど、羅紗さん達にはそれだけ強い絆がある。それって何だかスゴい事だし、羨ましい事だよな……。

 羅紗さんを見ながらそんな事を考えていたその時、羅紗さんは静かに笑みを浮かべながらポツリと呟いた。

「……まあ、まだ()()1()8()()()の妖狐の決意など大した物では無いかもしれぬがな」

「いや、俺は本当にスゴい事だと思いま──あれ……?」

「龍己さん、どうかしましたか?」

「いや、ちょっと気になる事があってな。あの……羅紗さん、一つ良いですか?」

「……何だ?」

「羅紗さんの年齢って18歳だったんですか?」

「そうだが……もう少し年上に見えていたのか?」

「えっと、それもあるんですけど……確か妖狐は『長い年月を掛けて修行をした狐が成るモノで、およそ100歳になってから成る地狐』が一般的な妖狐だったような気がするんですが……」

 そうだ、今日までこの『妖世界』になれるために精一杯だったり、色々な出来事に関わったりで気づけていなかったけど、羅紗さん達が本当に妖狐だとすれば、確実に100歳は超えている上に様々な修行を積んだモノだっていう事になるよな。けど、前に聞いたところによると、龍三郎さんは今年で3()5()()、碧葉さんは今年で1()7()()になるって言ってたような……?

 羅紗さん達の話と自分が持っている知識との齟齬(そご)に混乱していたその時、「……なるほど、そういう事か」と羅紗さんは納得顔で独り言ち、ふうと息をつきながら歩き出した後に俺に話し掛けてきた。

「龍己、この『妖世界』にはある()()()が存在している」

「特異性……ですか?」

「そうだ。確かにお前が持っている知識は正しいが、それはあくまでも『人間世界』の常識であり、この『妖世界』が持つ特異性の前にはその常識も通用はしない。そして、その特異性というのが、『この世界に住む妖狐などの長い年月を経た上で成るモノから生まれた子は、生まれたその時からその種族としての力を持つ』という物だ」

「えっと……つまり、羅紗さんや旦那様はこの『妖世界』の出身であるが故に、生まれながらにして妖狐としての力を持っているという事ですか?」

「その通りだ。よって、この世界では100歳未満の妖狐や気狐などは珍しくは無い。もっとも、天狐である番頭の伊織殿は『人間世界』からいらっしゃった方であるため、お歳は1000を超えてらっしゃるようだがな」

「あ、そうなんですね……。けど、どうして伊織さんは『狐雨福屋』で働いてらっしゃるんですか?」

「……そこまでは分からない。だが、先代の主──旦那様の御父上に関係があるらしいが、詳しい事は知らないな」

「そうですか……」

 前に『狐雨福屋』の主達は、周囲で起きた事件に首を突っ込んでいた上、先代の主もその例に漏れなかったと聞いた事がある。という事は、伊織さんとの出会いもそういった事件や何かしらの出来事がきっかけだったのかもしれない。

 ……いつかは、その真相を伊織さんから聞く機会もあるのかな……?

 伊織さんの顔を思い浮かべながらその事について考えていたその時、篝は「あ、そういえば……」と声を上げると、不思議そうに小首を傾げながら羅紗さんに話し掛けた。

「羅紗さん、これから私達はどちらへ行くんですか?」

「……そういえば、まだ話してはいなかったか。これから私達は、『人間世界』にある旦那様のご友人が営まれている店へと向かう」

 その瞬間、俺と篝は同時に「……え?」と驚きの声を上げてしまった。『人間世界』は、俺がかつて住んでいた世界に当たるわけだが、俺は向こう側では行方不明という事になっているため、俺がふらりと向こう側に行こうものなら騒ぎになるのは間違いない。

 恐らく羅紗さんが持っている風呂敷包みの中には、その問題を払拭する物が入っているんだろうけど、それでも詳しく調べられたら流石にアウトなんじゃないのか……?

 そんな不安そうに顔を見合わせる俺達の姿に対して、羅紗さんは落ち着いた様子を崩さずに話し掛けてきた。

「安心しろ。最初から私の妖術で人間達の認識を誤らせた上、この風呂敷包みの中にある物で龍己の正体を隠す手筈になっているからな」

「……それなら確かに安心ですね。けど、どうやって『人間世界』へ向かうんですか?」

「それには、この『妖世界』と『人間世界』を繋ぐ扉のような穴──『時空穴』を使う」

「『時空穴』……ですか?」

「そうだ。『時空穴』は世界のあらゆる場所に存在しているのだが、大きく分けて2つの種類が存在する。1つは専用の術で開け放った後にその場に留まり続ける物、もう1つは時空の歪みという物の影響で偶然開き、一定期間内のみ開き続ける物だ。その内、今回使用する物と龍己をこちら側へ連れてきた時に使った物は前者に該当する」

「世界にはそんな物が……けど、そんな物があったら間違って向こう側から入ってきてしまう人もいるんじゃないですか?」

「いや、基本的にそれは無い。『時空穴』は妖力やそれに相応する力を持つ者、またはそれらの力を有する道具の所有者にのみ視認や通行が許される物だからな。そしてそれは、力や道具の所有者の生死を問わないため、お前も通る事が出来たというわけだ」

「なるほど……という事は、俺がそれを通る事が出来たのは、この水晶の勾玉のおかげという事ですね」

 首から掛けている水晶の勾玉を手に載せながら言うと、羅紗さんの視線が水晶の勾玉へ一瞬注がれたが、羅紗さんはすぐに視線を元の方へと戻した。

「……そうだな。だが、たとえそれが無くとも、手元には同じような道具があったため、その時にはそれを持たせるなり首から掛けるなりしてそのまま連れて行っただろうがな」

「同じような道具……ですか?」

「ああ、そうだ。私も幾つか妖力を有した道具を持っているから、いざとなればその内の1つを使う事も出来たというだけだ。だが……お前の言う通り、あの急がなければならない時にその水晶の勾玉があったのは幸運だったと言えるな」

「はい。今の俺にとってこの水晶の勾玉はお気に入りの1つですけど、状態の良さから見るとどうやら前の俺にとってもお気に入りの1つだったみたいです」

「……そうか」

 羅紗さんはこちらに顔を向けず答えたが、その声にはどことなく嬉しさのような物があるような気がした。そして、歩き続ける事約数分、近くにある廃寺の辺りまで来た時、羅紗さんがピタリと足を止めると同時に立ち止まると、羅紗さんの視線の先に妙な物があるのに気付いた。

「もしかして……あれが『時空穴』ですか?」

「その通りだ」

 視線の先にあったのは、およそバランスボールと同じくらいの大きさの藍色の渦のような物で、それは宙に浮かびながら音も無くただそこで渦を巻いていた。

「何と言うか……穴と言うよりは渦巻きみたいですね」

「そうだな。だが、これに近付いたその瞬間、『穴』と名付けられた理由が分かる。では、早速行くとしよう」

「「はい」」

 そして、羅紗さんと一緒に『時空穴』へ近付いていったその時、渦の中心に突然小さな穴が開き始め、それは近付くにつれて徐々に大きくなると、最終的には渦の全体へと広がった。その事に俺達は驚いたが、立ち止まるわけにはいかなかったため、羅紗さんの後に続いてそのまま『時空穴』を潜った。すると、辿り着いたのは綺麗に掃除が為された一山の寺の境内であり、周囲を軽く見回しながら妖狐モードから人間モードへと切り替えていると、羅紗さんが風呂敷包みから何かを取り出し始めた。

 そういえば、妖術と風呂敷包みの中にある物で正体を隠すって言ってたけど、一体何を使うつもりなんだ……?

 そんな疑問を抱きながら羅紗さんの事を見ていたその時、風呂敷包みの中から出てきたのは1枚の狐のお面だった。

「それはお面……ですか?」

「ああ。この面にはある(まじな)いが掛けられていて、この面を被った者やその者が手にしている物などの姿を妖力などを有した者以外から隠すと言われている」

「つまり、これを被っている間は『力』が無い普通の人間からは俺や篝が見えなくなるという事ですよね?」

「そうだ。では、早速被ってもらうぞ」

「あ、はい」

 羅紗さんから狐のお面を受け取った後、俺は一度篝を足元に下ろしてから狐のお面を着けた。すると、視界は思ったよりも狭くならず、まるで狐のお面の目が自分の目になったかのようだったため、足元に下ろしていた篝を持ち上げる時も苦労はしなかった。

「スゴいな、このお面……特定の存在から姿を隠せるだけじゃなく、まるで着けていない時と同じくらい視界がハッキリしてる……」

「高名なる術者だった職人が作り出した一品だからそれは当然だ。ところで、着け心地はどうだ?」

「あ、はい。息苦しさなども無いですし、大きさもピッタリなので、着け心地はとても良いです」

「そうか。まあ、旦那様がその職人に直々に依頼をして作ってもらった物らしいから、それは当然だろうな」

「え、そうだったんですか?」

「ああ。だから、その面はこれからもお前が使え。今回は私が付いているが、この先お前1人での頼まれ事もあるだろうからな」

「分かりました。それでは、ありがたく頂きますね」

「ああ、そうしておけ。では、そろそろ目的地へと向かうぞ」

「「はい」」

 俺達が返事をした瞬間、歩き出しながら羅紗さんがブツブツと何かを唱えだすと、羅紗さんの姿が徐々に変化し、境内を出た頃には落ち着いた雰囲気を漂わせた1人の人間へと姿を変えていた。

「これが妖術……」

「これも変化の術の1つだが、旦那様が使われる変化の術はこれの遙か上を行く。お前も妖狐の力を持つ者ならば、これくらいは覚えておけ」

「そうですね。向こうに戻った後に色々な妖術の指南書を探したり読んだりしてみようと思います」

「ああ、それが良いだろう。妖術というのは、覚えておいて損は無いからな」

 そんな会話をしながら久しぶりの『人間世界』の街中を歩いていた時、『妖世界』とは違うその風景や空気の感じに少しだけ懐かしさを覚えたが、不思議とこのままこっちにいたいという気持ちにはならなかった。

 これはたぶん、もう俺自身が人間じゃなく半人半妖として生きる事を決めたからなんだろうな。人間だった頃の俺の両親や友達なんかには悪いけど、今の俺にとっては向こうでの生活こそが今の俺が為すべき事だと決めたし、そろそろ何かしらの手は打たないといけなそうだな。

 そして、境内を出てから約十数分が過ぎた頃、俺達の目の前に一軒の和風な外装の店が見えてきた。

「羅紗さん、もしかしてあれが……」

「ああ。あれが私達の目的地である『福来和裁店』だ」

「『福来和裁店』……ふふ、何だか縁起の良さそうな名前ですね」

「まあ、そうだな。ここでは旦那様のご友人である妖狐の店主とその方がお世話をなさっている双子の妖狐の姉妹が働いていて、店主と旦那様は小さい頃からの仲だそうだ」

「つまり、幼なじみなんですね」

「ああ。その縁もあってか、数年前にこのお店を建てた時から旦那様は時々暇を見ては様子を見に来たり茶飲み話をしにこのお店を訪れている。そしてその際に仕事の相談や依頼もなさっているようで、今回もそういった経緯で依頼をなさったようだ」

「そうなんですね」

「ああ……さて、それではそろそろ行くぞ。あまり遅くなってしまってもいけないからな」

「あ、はい」

 そして、『福来和裁店』の入口へと近づき、引き戸をゆっくりと開けると、店内にいた緑色の着流しの人物が静かにこちらへ視線を向けた。

「あ、いらっしゃいませ。何かお求めですか?」

「……以前、私共の主の依頼の件で参ったのですが、店主はおられますか?」

「店主……あ、はい。今、裏で作業をなさっていたので、すぐに呼んで参ります」

「ありがとうございます」

 そして、着流しの人物──男性の店員が店の奥の方へ入っていった後、羅紗さんは不思議そうな表情を浮かべた。

「ふむ……見た事が無い顔だったな」

「新しい店員……なんでしょうけど、恐らくあの人は普通の人間ですよね?」

「そうだろうな。だが、あの男から何か妖力のような物を感じた事を考えるに、お前と同じように妖力を有した道具の所有者なのかもしれんな」

「ですね」

 話をしながら狐のお面を軽くずらしていたその時、店の奥の方から手に風呂敷包みを持った先程の店員と一緒に藍色の着流しの妖狐の男性が現れた。そして、妖狐の男性は羅紗さんの姿を見ると、ニコリと笑いながら話し掛けてきた。

「お久しぶりです、羅紗さん。お元気そうで何よりです」

「お久しぶりです、友禅殿。友禅殿もお元気そうなようで良かったです」

「ええ。いつも元気な若い人達に囲まれているせいか、私も病気に罹ること無く毎日を過ごさせてもらっていますよ」

 店主──友禅さんは穏やかな笑みを浮かべながら答えた後、今度は俺達の方へと視線を向けた。

「そちらは……もしや半人半妖の稲荷龍己さんと火鼠の篝さんですか?」

「え……そうですが、どうして名前を知ってらっしゃるんですか?」

「ふふ、先日龍三郎が依頼をしに来た際にお二人のお話をしていましてね、それを聞いてどのような方なのか少し気になっていたのです」

「あ……そうだったんですね」

「まあ、心配しなくても大丈夫ですよ。龍三郎の話し方から察するに、彼は龍己さんの事を頼りにしているようですし、人柄や知識などをとても褒めていましたから」

「そ、そうですか……」

 それは嬉しいけど、何だか照れくさいな……。

 そんな事を思いながら一人照れ臭さ感じていた時、羅紗さんが不意に周囲を見回しながら友禅さんに話し掛けた。

「……友禅殿、本日はあの方々がいらっしゃらないようですね」

「ああ、朱子(しゅす)綸子(りんず)ですね。あの子達には、ちょっとしたお使いを頼んでいるので、今は二人揃っていませんが、こうして彼がいてくれるので何かあった時でも安心できます。そうだ……綾己君、せっかくなので自己紹介をお願いできますか?」

「あ、はい。えっと……4月から『福来和裁店』で働かせてもらっています、織部綾己(おりべあやき)と言います。皆さん、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。私は妖狐の羅紗という者で、こことは違う世界──『妖世界』にある『狐雨福屋』の手代を務めております」

「初めまして、友禅さん、綾己さん。俺は稲荷龍己という半人半妖で、『狐雨福屋』では客人という扱いですが、世間体的には小僧見習いという形で通している者です。これからよろしくお願いします」

「そして、ボクは火鼠の篝と言います。友禅さん、綾己さん、これからよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。私は妖狐の友禅と言いまして、この『福来和裁店』の店主を務めております。綾己君共々よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします」

 一通り自己紹介を終えた後、綾己さんが興味深そうな様子で俺と篝の事を見始め、しばらく眺めた後に驚きを含んだ小さな声でポツリと呟いた。

「……今日まで色々な妖怪を見てきたつもりだったけど、半人半妖と火鼠を見るのは流石に初めてだな……」

「まあ、そうだと思います。そもそも半人半妖なんて中々いないですし、火鼠は中国に伝わる生き物ですから」

「なるほど……道理で見た事が無いわけです。けど、『妖世界』というだけあってそういうモノも普通にいるんですね」

「そうですね。俺も最初は様々な妖がいる事に驚きましたけど、元々妖が好きだった事もあってか、今はよほどの事が無い限り驚かなくなりましたよ」

「あ、それは分かるかもしれません。最初はその見た目とか向こう側の常識に驚かされたり戸惑ったりしますけど、何かで話をしたり一緒に何かをやってみたりする内に段々そういう物なんだっていう気持ちになるんですよね」

「ふふ、そうですね」

 綾己さんと人間側から見た妖談議に花を咲かせていたその時、それを見ていた友禅さんが面白そうな様子で小さく笑った。

「ふふ……やはり、若い人同士はすぐに仲良くなれるところが本当に羨ましいですね。何だか私と龍三郎が初めて会った日を思い出すようです」

「友禅さんと旦那様が初めて会った日……ですか?」

「はい。桜の花弁がヒラヒラと舞い散る中、彼は木にもたれ掛かりながら本を読んでいましてね。偶然それを見掛けた私が、その本について質問をした事で私と彼は仲良くなったんですよ」

「桜の木にもたれ掛かりながら読書……何だかスゴく絵になる光景ですね」

「ええ。それに、彼は小さい頃から異性からの人気が高かったので、他の友人達からもかなり羨ましがられていましたよ」

 とても懐かしそうな様子で友禅さんは龍三郎さんとの昔話を語っていたが、「……おっと、これ以上話していては龍三郎が困ってしまいますね」と穏やかな笑みを浮かべながら独り言ちると、綾己さんの方へと顔を向けた。

「では、そちらを羅紗さんへ渡して頂けますか?」

「あ、はい。それでは、ご依頼の品をどうぞ」

「ありがとうございます。それでは、そろそろ私達はこれで失礼させて頂きます」

「はい、分かりました。またいつでもいらして下さいね」

「はい。それでは、失礼致します」

「「失礼します」」

 そして、友禅さん達に一礼をしてから店を出た後、友禅さん達に見送られながら来た道を戻っていた時、「龍己」と羅紗さんが落ち着いた声で話し掛けてきた。

「はい、どうかされましたか?」

「お前とあの綾己という人間は良い友人同士になれそうだな」

「……そうですね。話をしていてとても楽しかったので、これからも彼とは仲良くしていきたいと思っています」

「……そうか。まあ、これからは今回のような頼み事もお前に任される可能性は高い。そういった時にでも親睦を深めると良いだろうな」

「はい、そのつもりです」

 羅紗さんの言葉に微笑みながら答えていたその時、「あ、そういえば……」と篝は何かを思い出した様子で声を上げると、受け取った風呂敷包みを見ながら羅紗さんに話し掛けた。

「羅紗さん、その中には何が入っているんですか?」

「これか? これは先日龍己が持ち帰った火鼠の毛を使った反物だ。涼風丸殿のご依頼の時には必要な分しか反物にしていなかったからな」

「火鼠の毛の反物……という事は、それを使った着物を売り出すのですか?」

「……いや、そういった話は旦那様からは聞いた事が無い。ただ、『福来和裁店』にも半分程度は分けたとは仰っていたな」

「となると……碧葉さんや龍己さんの着物を作るためかもしれないですね」

「はは、どうだろうな。けど、火鼠の毛で作った着物は、絶対に燃えて無くなる事が無い綺麗な着物になるのは間違いないだろうな」

「……それについては同意だ」

「ふふ、そうですね」

 そんな事を話しながら俺達は『時空穴』がある境内へと戻り、来た時と同じように『時空穴』を潜って『妖世界』ヘと戻ってきた。その瞬間、不思議なほどの安心感を覚え、この『妖世界』が自分にとって『帰る場所』になっていると感じた。

 本当なら()()()()が俺の帰る場所だけど、今の俺にとっては()()()()が帰る場所になってるのは、やっぱり人間だった時の自分に関しての記憶を失ってるからなのかな……?

 自分が抱いた思いに対してそんな疑問を抱いていた時、いつもの妖狐としての姿に戻った羅紗さんが声を掛けてきた。

「……さて、そろそろ『狐雨福屋』へ戻るぞ。旦那様も私達の帰りを待ち侘びていらっしゃるだろうからな」

「「分かりました」」

 そして、俺達は頼まれた物を届けるために『狐雨福屋』へ向かって話をしながら歩いていった。

 

 

 

 

『狐雨福屋』に着いた後、俺達は龍三郎さんに頼まれた物を渡し、中での仕事へ向かう羅紗さんと龍三郎さんの部屋の前で別れた。そして、裏口で脱いだ草履を一度取りに戻った後、そのまま自室の離れへ向かって歩いていた。

「……ふう、結局篝の妹についての話は聞けなかったけど、『時空穴』の存在が分かったのは、結構な収穫だよな」

「そうですね……火鼠の里にいた頃は、それについての話は聞いた事が無いですけど、もしかしたら朱夏はそれを通っていったかもしれませんからね」

「そうだな。ただ……そうだとすると、どうやって捜したら良いかな……」

「そうですね……『人間世界』も『妖世界』に負けず劣らず広いでしょうし、人間からするなら火鼠は珍しいモノですから、悪い人に捕まるなんて事もあり得ますからね……」

「……ああ。だから、次に向こうに行った時にでも、綾己さん達に火鼠について何か新しい情報が入っていないか訊かないとな」

「……はい」

 そして離れへ着いた後、草履をいつものように縁側へ置き、そのままクルリと離れの中へ視線を向けたその時、文机の上に何かが置いてあるのが見え、俺はそれを不思議に思いながらもその正体を知るために文机に近付いた。するとそこには、綺麗な字で書かれた一枚の手紙と麻紐が通された白い宝石の首飾りが一つ、そしてロイヤルブルーの宝石が填め込まれた黄色の腕輪と菫色の宝石が填め込まれた紅色の腕輪が一つずつ置いてあった。

「えっと……白い奴が確かゼオライトで、他のがアズライトとアイオライトだっけ……?」

「それがこの石の名前なんですか?」

「ああ。俺の水晶の勾玉もそうだけど、こういう石にはそれぞれ宝石言葉やパワーストーンとしての力なんかがあって、それを元にその石を使った装飾品を身に付ける人もいるんだよ」

「なるほど……それで、これらの宝石言葉はどういう物なんですか?」

「えーと……ゼオライトが『癒し』や『浄化』で、アズライトが『清浄』や『洞察』、そしてアイオライトが『平和』や『愛』だったかな。けど、それよりも気になるのは──一緒に置かれてるこの()の方だな」

 篝を文机の上に降ろしてから手紙を静かに持ち上げながら言うと、篝は不思議そうな様子で小首を傾げた。

「え、この紙がそんなに重要なんですか?」

「ああ。前に、俺と風之助が深水の事件を追ってた時にシトリンっていう黄色の水晶と一緒にある情報が書かれた紙が置かれてたから、今回もこの紙に何か重要な事が書いてある可能性は高いと思う」

「なるほど……」

「さて……それじゃあ見てみるか」

「は、はい……」

 そして、軽い緊張感に襲われながらも俺達は手紙の内容に目を通した。

「えっと……『人と妖の架け橋となれる半人半妖、稲荷龍己殿。

 先日、そして此度の勝手なる離れへの二度の訪問、誠に申し訳ないと思っている。しかし、勘違いしないで頂きたいのだが、私は貴殿らの味方であり、二度の訪問は貴殿の助けになる物を置きに来ただけだという事は理解して頂きたい。

 さて……それでは、そろそろ今回の本題へ入るとしよう。今回貴殿の文机に置かせて頂いた3つの宝石達は、私からの応援の意味を込めた贈り物だ。聡明なる貴殿ならば、宝石達が持つ力や言葉を理解し、その力を高めながら保持させてくれると思い、先日に続いて宝石を贈らせてもらった。しかし、これらについて貴殿が申し訳なく思う必要は無い。私の故郷では、それらを含めた様々な宝石が産出され、それらの知識や加工法を修得する事が必須だったため、職人に依頼をしたりや私の身銭を切ったわけではない。なので、宝石については遠慮無く受け取って欲しい。そして、これらは既に貴殿の所有物であるため、その宝石が持つ言葉に当て嵌まる者への贈り物にするなり、貴殿の水晶の勾玉と同様に身に着けるなり好きにして欲しい。

 最後に重ねて言うが、私は貴殿らの味方であり、この先も何か困り事があれば、進んで助けたいと思っているため、それだけは信じてほしい。

 ……さて、それでは貴殿らのこれからの成功と日々の平和を願いながらそろそろ筆を置かせてもらう。稲荷龍己殿、これからも調和を求めるその純粋なる精神を大切にしながら妖と人間の架け橋となれるよう頑張ってくれ。

 黒幻(こくげん)

 ……ふむ、どうやらこの黒幻という人は、俺達の味方らしいけど、相変わらず謎が多いな……」

「そうですね……ところで、その宝石はどうするんですか?」

「うーん……せっかくだから、この黒幻さんが書いてるようにそれぞれの言葉に当て嵌まる人が見つかった時にその人にあげる事にするよ。それに、宝石──パワーストーンを俺だけが多く持っているよりもその力を必要としてる人にあげた方が黒幻さんも宝石達も喜ぶ気がするからな」

 篝の問い掛けに対してニコリと笑いながら答えた後、俺は手紙と宝石を文机の引き出しへとしまった。すると、昼九ツを告げる鐘がちょうど良く不忍の街全体に鳴り響き、それと同時に「旦那方ー! 一緒に昼飯を食いに行きやしょうぜー!」という風之助の元気な声が外から聞こえため、俺と篝は顔を見合わせて同時にクスリと笑った。

「さて……風之助からのお誘いも来た事だし、まずは昼食にするか。この手紙や宝石の件も風之助に話しておきたいからな」

「そうですね。では、早速行きましょうか」

「ああ」

 文机の引き出しから愛用の財布を取り出した後、俺は篝を静かに抱き抱え、風之助が待っている向かって歩き始めた。

 謎の人物──黒幻さんについては相変わらず何も分かっていないけど、悪い人では無いのは確かだ。だから、常に頼るわけにはいかないけど、これからはこの未だに姿を見た事が無い新しい仲間とも手を取り合いながらこれからの未来を明るい物にしていくために頑張っていこう。

 草履を履きながら心の中でそう誓った後、俺は新たな仲間の登場で春の陽気のように心がポカポカとするのを感じ、快晴の青空へ向かって静かに微笑んだ。




政実「第11話、いかがでしたでしょうか」
龍己「今回もここまでの総括回みたいな感じだったわけだけど、人間世界の方で出てきた新キャラ達はこれからも度々出て来るのか?」
政実「そうなるかな。尚、彼らがメインになるスピンオフ短編作品『俺と機織り狐さん達との一ヶ月間』を今日から6話程度の予定で投稿していきますので、そちらもよろしければ読んでみて下さい」
龍己「そして最後に、この作品と上記の作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けたらとても嬉しいです」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
龍己「ああ」
政実・龍己「それでは、また次回」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。