妖世界の半人半妖   作:九戸政景

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政実「みなさん、お久し振りです。片倉政実です」
龍己「どうも、稲荷龍己です」
政実「不定期更新とはいえ前回の更新からかなりの時間が経ってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
龍己「大体2ヶ月だからな。理由は確かリアル生活が忙しかったからだったっけ?」
政実「うん。色々な変化があったことで、こっち以外も更新が遅れてるというね……」
龍己「まあそこはしょうがないだろ。リアルはリアルで大切だからな」
政実「ありがと、龍己。
さて、気を取り直しまして……今回の話は新キャラの登場回です」
龍己「まだ第3話だからそんなもんだろ。それよりも俺は最後の方が気になるんだけど……?」
政実「それに関しては後書きで話すよ。
さて、そろそろ始めようか」
龍己「了解」
政実・龍己「それでは、第3話をどうぞ」


第3話 雨がもたらした狐と蛇の出会い

「うーん……これは弱ったなぁ……」

 ある日の午後、不忍から少し離れた街、深水(ふかみ)の街で偶然立ち寄った店の軒下で雨宿りをしながら、俺はポツリと独り言ちた。

「折角外出許可が出たから、少し遠くに出掛けてみたらその途中で雨に降られるって、どんな嫌がらせなんだよ……。まあでも、今のところ服とか含めて濡れてるものが無い事だけが唯一の救いかな?」

 降り続ける雨を見ながら苦笑いを浮かべた後、両手に持った風呂敷包みを見た。この風呂敷包みの中には本や半紙などといった濡れてはいけない物達が入っているため、俺は風呂敷包みが濡れないように細心の注意を払っていた。

「さて、これからどうしようかな……」

 降り続いている雨の方に再び視線を向けながら、俺はこれからについて考えてみることにした。

「傘は持ってないから、この雨の中を行くわけにもいかない。……かといってこのまま雨宿りをし続けてたら、店に帰るのが遅くなって、また龍三郎さん達に心配をかけてしまう……」

 そこまで言った瞬間、俺の脳裏に火事のあった日の龍三郎さん達の顔が想起された。

 ……うん、それだけは絶対に避けよう。けれどこの二つがダメとなると、本当にどうしようも無いな……。

「はぁ……本当にどうしたら良いんだろ……」

 ため息をつきつつ、すっかり途方に暮れていたその時だった。

「あの、何かお困りですか?」

「え?」

 声の方を見ると、そこには傘をさした一人の色白の男性がいた。

「えっと、貴方は?」

「ああ、申し遅れました。私はこの近くにあります小物問屋 『七之屋』(しちのや)の主でして、名前を 七之助(しちのすけ)と申します」

「七之助さんですね。私の名前は鈴蘭、ここから少し行ったところの不忍にある呉服問屋『狐雨福屋』の小僧見習いです」

「『狐雨福屋』さんというと……ああ、龍三郎さんのお店ですね」

「はい、そうですけど……ご存知なんですか?」

「ええ、それはもちろん。『狐雨福屋』さんはこの世界に住む妖なら一度は名前を聞いたことがあるほど有名なお店ですから」

「なるほど……」

 つまり『狐雨福屋』はいわゆる老舗の有名店だったのか。

 やれやれ……俺もまだまだ勉強不足だったみたいだな……

 俺が心からそう思っていると、七之助さんが何かを思い出したように声を上げた。

「……っと、申し訳ありません。話がそれてしまいましたね。

 本題に戻りますが、何かお困りでしたか?」

「あ、はい。お恥ずかしい話なんですが、こんな雨になるとは思って無かったもので、傘を持って来てなかったんです。それに雨も止む様子が無いので、どうしたものかと思っていたところに……」

「私が通り掛かった、ということですね。

 そういう事でしたら、こちらを使ってください」

 七之助さんはニコリと笑いながら、持っていたもう一本の傘を差し出してくれたが、俺は少し申し訳なさを感じつつ、七之助さんに話し掛けた。

「それはとてもありがたいんですが……本当によろしいんですか?」

「はい。実は、元々この傘を使う相手がいたのですが、その相手にちょっと断られてしまいましてね。それならば貴方のように必要としている方に使って頂いた方が良いですから」

 俺の問いかけに、七之助さんは優しく微笑みながら静かな声で返してきた。

 まあ……そういう事ならありがたく使わせてもらおうかな?

 七之助さんの厚意に甘える事にし、俺は静かに微笑んだ。

「分かりました。それではお借りしますね」

「ええ、どうぞ」

 七之助さんから傘を受けとった後、俺は早速傘を開き、今までいた軒下から雨の中へと進み出た。

 すると、雨は次々と傘の表面にぶつかると同時に、不規則なリズムで打楽器のような音を奏で始めた。

 うん、何かこの音を聴いてると落ち着く気がするな……

 俺がその音に聴き入っていると、

「鈴蘭さんは雨がお好きなんですね」

 七之助さんがクスリと笑いながら声を掛けてきた。

「そう……ですね。この傘に雨粒が当たっている音を聴くと、何だか落ち着ける気がするんです」

 雨音のリズムを聴きつつ穏やかな気持ちで答えると、七之助さんは再びクスリと笑いながら静かな声で答えた。

「その気持ちは私にも分かるような気がします。

 もちろん、雨粒が何かの曲を奏でているわけでは無いのですが、この不規則な拍子を聴いていると、何故か何かの曲を聴いてるような気持ちになるんですよね」

「はい」

 七之助さんの言葉に静かに返事をした後、俺達はしばらくそのまま雨の音を聴き続けていた。

 

 

 

 

「七之助さんも本がお好きなんですね」

「ええ。本は様々な事を教えてくれますからね」

 雨の音を存分に堪能した後、俺は七之助さんと雨の中を歩いていた。

 歩きながら七之助さんと様々な話をしていた時、お互いに読書が趣味であることが判明したため、そのまま本の話に花を咲かせていた。

「そうですね。それに物語などを読んでいると、知らず知らずの内に話の中に引き込まれていって、時間が経つのを忘れてしまうこともしばしばあって……」

「確かにそれはありますね。

 鈴蘭さんは最近どの様な本を読んだのですか?」

「そうですね……最近は 香大神(かおるのおおかみ)という方が書かれている『へっぽこ同心』や 七天夜鬼童(しちてんやきどう)さんの『妖怪道中記』を読んでいます」

 この二種類の作品、『へっぽこ同心シリーズ』も『妖怪道中記シリーズ』はあの火事の日に出会った本で、その話の面白さに引き込まれて今日も何冊かこのシリーズの本を購入してきていた。

「ふふ、確かにその二冊は読んでいると楽しいですからね」

「そうですね。因みに七之助さんはどうですか?」

「私は……」

 そんな話をしながらひたすら歩いていると、いつの間にか俺達は『狐雨福屋』の前まで辿り着いていた。

 ……あれ、もう着いちゃったのか……

「いつの間にかお店に着いちゃいましたね」

「そうですね。話をしながら歩いていると、時間があっという間に過ぎてしまいますからね」

「確かにそうですね」

 俺は静かに返事をした後、傘を閉じながら店の軒下へと入った。

 そして、七之助さんの方へ再び向いた後、ペコリと頭を下げながらお礼を言った。

「今日はありがとうございました。傘は乾かしてからお返ししますね」

「分かりました。それでは私はこれで」

「はい、お気をつけて」

「ありがとうございます、それでは……」

 そして、七之助さんは再び雨の中を歩いて行った。

『七之屋』の七之助さん、か……

「親切な人……いや妖もいるもんだな。

 ……っと、そろそろ中に入らないとな」

 俺はそう一人ごちてから『狐雨福屋』の扉を開け、中へと入った。

 すると、玄関にはこの『狐雨福屋』の主で、妖狐の龍三郎さんの姿があった。

 そして、俺の姿を見ると、龍三郎さんは少し安心した様子で声を掛けてきた。

「お帰りなさい、龍己君。雨には濡れませんでしたか?」

「ただいま戻りました、龍三郎さん。実は、出先で親切な方に傘をお借りしたんです」

 俺が件の傘を見せながら言うと、龍三郎さんは目を細めながら静かな声で返事をした。

「ふふ、そうでしたか。その方には後ほどお礼に行かなくてはなりませんね」

「はい。なので、早速明日にでも行ってこようと思っています」

「ふふ、それが良いかもしれませんね。

 さて、そろそろ夜御飯も出来る頃ですので、中へと行きましょうか。そちらの傘も乾かさないといけませんしね」

「そうですね」

 俺は頷きながら返事をした後、龍三郎さんと一緒に店の奥へと入っていった。

 

 

 

 

 翌日の朝、俺は龍三郎さんと一緒に店の玄関にいた。

 ……うん、傘はあるし財布もあるから大丈夫だな。

 軽く忘れ物が無いかを確認した後、俺は龍三郎さんに声を掛けた。

「それでは行ってきます」

「はい、気を付けて行ってきてくださいね」

「分かりました」

 俺は龍三郎さんに頷きながら返事をした後、お店の扉を開けてそのまま外へと出た。

「さて、まずはお礼の菓子折りを買いに行かないと――」

 俺が近くにある菓子司に向かおうとしたその時、頭上から不思議そうな声が聞こえてきた。

「……おや? 龍己の旦那じゃないですか、これからどこかへお出掛けですかい?」

「……ん?」

 ゆっくりとその声の方を見てみると、そこにはこの世界で初めて出来た友人――鎌鼬の風之助の姿があった。

「おっ、風之助か。さっきぶりだな」

「へへっ、確かにそうですねぇ。龍己の旦那が家の読売を買いに来てくれたのが、今朝の明け六ツですから」

 小さく笑いながら風之助は俺の肩に乗ると、首を小さく傾げながら言葉を続けた。

「それで? さっきも訊きやしたけど、これからどこかへお出掛けなんですかい?」

「ああ。ちょっと 深水の方に用事があってな」

「ほう、深水ですかぃ?

 深水って言いやぁ……河童や濡れ女みてぇな水に関する妖が多いとこだ。

 ……それで深水のどなたさんに用事なんです?」

「『七之屋』の主、七之助さんだよ。昨日ちょっと傘を借りたから、傘を返しに行くのとそれのお礼を渡しに行くんだ」

 俺が小さく笑いながら言うと、風之助は興味深そうに声を上げた。

「ほうほう! 『七之屋』といえば、若い女達に人気の店だ。それにそこの主、七之助も役者みてぇに顔が整っているってんで、それ目当てに来る客も多いんでさぁ」

「あー……確かに七之助さんは役者みたいな感じだったな。顔だけじゃなく物腰とかも柔らかい感じだったし、女性人気が高いっていうのも納得だな」

「へへっ、そうでしょう?

 それにあの人は生まれが中々特殊って噂があるんでさぁ」

「へー、そうなのか」

 生まれが中々特殊か……それはちょっと気になるけど、機会があったら訊いてみる事にするか。

 俺がそんな事を考えていると、風之助が何かを思い付いたような表情で再び話し掛けてきた。

「そうだ……! 龍己の旦那、俺もそれに着いてって良いですかぃ?」

「んー……別に構わないけど、何でだ?」

「実を言うと、俺はあんまり深水の方には行ったことが無いもんで、街の様子なんかを色々と見てみてぇんですよ。

 それに龍己の旦那と一緒なら、いつもなら拾えないようなネタが拾える気がしやすし」

「あはは……その期待に添えるかは、まったく分かんないけどな」

「へへっ、それは行ってみなくちゃわかんねぇですよ。

 それじゃ、早速行きやしょうぜ、龍己の旦那!」

「うん。

 ……と、言いたい所だけど、まずはお礼の品を買いに行かないとな」

「おっ、そんならスゴく良い店を知ってやすぜ?」

「そうなのか?」

「ええ。口に入れたら、目ん玉が飛び出ちまいそうになる程、旨ぇ菓子を作ってる菓子司がこの近くにありやすから、今回はそこに行ってみるのはどうです?」

「……そうだな、そこまでオススメするんだったら、かなり興味あるしな。

 それじゃあ、案内は頼んだぜ?」

「へい!」

 風之助の元気の良い返事を聞いた後、俺は風之助と一緒に件の菓子司へ向けて歩き始めた。

 

 

 

「……よし、とりあえず深水に到着だな」

 お礼の品を買った後、俺達は小半時程をかけて深水に到着した。

 深水の街には、風之助が言っていたように水に関連した妖達を始めとした様々な妖が住んでいるようで、少し歩きながら周囲を見回しただけでもそれなりの種類の妖の姿を見る事が出来た。

「昨日は気付かなかったけど、ここも不忍みたいにだいぶ賑わってるな」

「確かにそうですねぇ……まあ、暗く湿っぽいよりは明るく活気に溢れてる方が、ぜってぇ楽しくて良い気がしやすけどね」

「ははっ、確かにそうだな。

 ……さてと、それじゃあ早速『七之屋』を探すとするか」

「へい!」

 そして、俺達は深水の街の様子を眺めたり、他愛ない話をしたりしながら深水の街の中を歩き始めた。

 そうやって歩き続ける事数分、俺達はある一軒の店に辿り着いた。

 俺がその店の看板に目を向けると、看板にはとても綺麗な字で『七之屋』と書かれていた。

「よし、何とか着いたな。ただ……思ってたよりもお客さんの数が多いみたいだけど」

「ですね。客の中には男もいやすけど、大部分はやっぱり女みてぇですね」

『七之屋』に来ているお客さんの様子を見て、俺達はそんな感想を漏らした。

『狐雨福屋』にも当然色んなお客さんが来るけど、ここにも色んな妖が来てるんだな。

 俺は店の様子を見ながらぼんやりと思ったものの、今日の目的をすぐに思い出し、風之助に話し掛けた。

「とりあえず、まずは七之助さんに会いに行こう。このまま立ってても時間がもったいないしさ」

「おっと、それもそうだ。それじゃあ、行くとしやしょうか」

「ん、了解」

 そして俺達は店へと近付いた。すると、

「あっ、いらっしゃいませ!」

 店先にいた店員の1人が、とても明るい笑顔で挨拶をしながら俺達に近付いてきた。

 見た目は俺と何ら変わらない様に見えるけど、この人も何かの妖なんだろうな。

 そんな事を思いながら俺はその妖に話し掛けた。

「すいません、このお店の主の七之助さんにお会いしたいのですけど、よろしいですか?」

「あ、はい。お約束などはされていますか?」

「いえ、お約束はしていないんですけど、実は昨日傘をお借りしていまして、それのお礼をお渡ししようと思って参りました」

「そうでしたか、かしこまりました。それでは少々お待ちください」

「はい」

 店員はニコリと笑うと、そのまま店の中へと入っていった。

 そして、それを見届けると、俺は少しだけ肩の力を抜いた。

「ふぅ……やっぱり丁寧語は慣れないな……」

「そうですかぃ?俺にはそうは見えやせんでしたけどねぇ」

「うーん……そうだとすれば、たぶん前の俺は何かしらで使い慣れてたんだろうな」

「そうかもしれやせんね」

 俺達がそんな事を話していると、さっきの店員が戻ってきた。

「お待たせ致しました。どうぞ、こちらへ」

「あ、はい。失礼いたします」

「失礼致しやす」

 俺達は店員の案内に従い、店の中へと入っていった。

 

 

 

 

 店の中を歩く事数分、俺達は少し大きな部屋の前に着いた。

「こちらが旦那様のお部屋です」

 店員は静かに微笑みながら言った後、襖に向かって声を掛けた。

「旦那様、お客様をお連れ致しました」

「ありがとうございます、蒔絵さん。どうぞ、入ってもらってください」

「かしこまりました」

 店員――蒔絵さんは襖を開けた後、自分は横へスッと移動し、俺達が通る道を作ってくれた。

「どうぞ、お通りください」

「ありがとうございます。

 それでは、失礼致します」

「失礼致しやす」

 お礼を言いながら俺達が部屋の中に入ると、そこには昨日見たばかりの七之助さんの姿があった。

 七之助さんは俺達の姿を見ると、ペコリという音が聴こえそうな程、綺麗なお辞儀をしてから静かな声で言った。

「こんにちは、鈴蘭さん。それとそちらは……」

 七之助さんが風之助を見て、不思議そうな顔をしていたので、俺は風之助の紹介をすることにした。

「こんにちは、七之助さん。こちらは私の友人で、瓦版屋の風之助さんです。

 こちらに伺う途中で偶然会いまして、こちらに伺うと話しましたら、一緒に来てみたいということだったので連れてきたのですけど、御迷惑でしたか?」

 俺が少し不安そうに訊くと、七之助さんは穏やかに微笑みながら答えた。

「いえ、大丈夫ですよ。新しい方にお会いできるのはとても良いことですから、むしろ嬉しい限りですよ」

「それなら良かったです。あ、それと……」

 俺は持ってきた傘と菓子折を前へと置いた。

「こちらは昨日お借りした傘とそのお礼の菓子折りです。どうぞお納めください」

「ありがとうございます、後程お店の皆さんと一緒に頂きますね。蒔絵(まきえ)さん、来てもらっても良いですか?」

 七之助さんは俺からその2つを受け取ると、傘を足下に置いてから蒔絵さんの名前を呼んだ。

 すると、襖を開けて蒔絵さんが中へと入ってきた。

「お呼びですか? 旦那様」

「こちらのお菓子を頂いたので、日の当たらない涼しい場所に運んでもらえますか?」

「承知致しました」

「それとお茶のご用意もお願いしますね」

「かしこまりました」

 蒔絵さんは静かに微笑みながら返事をすると、菓子折りを丁寧に持ち上げた。

 そして、部屋から出ると襖を静かに閉め、それを見届けると、七之助さんが俺達に蒔絵さんについて話してくれた。

「蒔絵さんは、少し前から働いてもらっている方なのですが、とても明るく受け答えも丁寧なので、お客様からの評判もとても良い方なんですよ」

「そうなんですね」

「ええ。私としてはここに来てもらって本当に良かったと思っていますよ」

 静かな声で言う七之助さんのその顔はとても明るく、心の底からそう思っていることが他人から見ても伝わるほどだった。

 すると、それを見た風之助がこんな事を訊き始めた。

「因みに……七之助さんとしては、あの蒔絵さんの事をどう思っているんです?」

「どう、というのは……?」

「女性としてどう思っているかですよ。そこんとこどうなんです?」

 風之助……初めて会った人にそれを訊くのかよ……

 心の中でため息を着いた後、俺は風之助に静かに苦言を呈した。

「風之助さん……初めて会った方にそれを訊くのはどうなんです?」

「うーむ……確かにそうかもしれやせんね……不躾な事を訊いて申し訳ありやせん、七之助さん」

 風之助がペコリと頭を下げながら謝ると、七之助さんはクスクスと笑いながら答えた。

「別に構いませんよ。私もこう見えてそういった色恋沙汰には興味はありますから」

「そうなのですか?」

「ええ。それにもっと砕けたような話し方でも大丈夫ですよ? その方がお互いに話しやすいでしょうから」

「確かに……そうかもしれませんね」

「ふふ、そうでしょう?

 それに鈴蘭さんも少々話しづらそうにしてましたしね」

「……やっぱり分かりますか?」

「ええ。ですので堅苦しい事無しで大丈夫ですよ」

「……分かりました。それではそうしますね」

「それじゃ俺もそうさせて頂きやす。俺もあんまり堅苦しいのは好きじゃねぇもんで」

「ええ、どうぞどうぞ」

 七之助さんの一言で話しやすくなった俺達は様々な事を話し合った。

 七之助さんは化け蛇でありながら、とある事がきっかけで川などが苦手になったことや七之助さんには幼馴染みがいて、昨日傘を届けようとしたのはその幼馴染みだったことなど、多くは七之助さん関連だったものの、俺達はまるで昔からの友達同士で話しているかのような雰囲気でずっと話をしていた。

 

 

 

 

「……おっと、そろそろ日暮れの時刻みたいですね」

 ふと、七之屋さんが外の様子を見ながら静かに言った。

 七之助さんの言葉通り、外では他の店の行灯に次々と灯りが灯っていた。

 もう、こんな時間か……俺達はどれだけの時間話してたんだろう……?

 その事を不思議に思っていると、七之助さんがニコッと笑いながら声を掛けてきた。

「少し名残惜しいですが、今日のところはお開きと致しましょうか」

「ですね。でも話している間、とても楽しかったです」

「俺も同じでさぁ。時間を忘れるったぁ、まさにこの事かと思いやしたよ」

「ふふ、私も同じです」

 そんな事を話しつつ、俺達は静かに笑い合った。

 どうやらこの何時間の間に、俺達はかなり仲良くなれたみたいだった。

 ……さて、そろそろ帰らないと龍三郎さん達に心配されそうだな。

「……それじゃあ、私達はそろそろ失礼致します」

「分かりました。それではお店の入り口まで案内しますね」

「え、良いんですか?」

「ええ。お店の皆はまだまだ忙しいでしょうから」

「分かりました、それではお願いします」

「はい。それではこちらの方へどうぞ」

 七之助さんの案内に従って『七之屋』の中を歩き、俺達はお店の入り口まで辿り着いた。

 そして、入り口の扉を開けて外へ出ると、

「今日は本当にありがとうございました、とても楽しかったです」

 七之助さんがお辞儀をしながら俺達に静かな声で言った。

 その言葉を聞いた後、俺達も静かに微笑みながら返事をした。。

「こちらこそありがとうございました。色々な事を話せてとても楽しかったです」

「俺も同じでさぁ。何だかまだまだ話し足りない気持ちでいっぱいですしねぇ」

「ふふ、私も同じ気持ちですよ。

 また機会がありましたら、いつでもおいでください」

「はい、そうさせてもらいますね」

「また色んな話をしましょうや、七之助の旦那」

「ええ。その時までにはまた色々な話題を仕入れておきますね」

「はい、楽しみにしています。それでは……」

 そして、俺達は七之助さんに見送られながら、来た道を戻っていった。

 

 

 

 

「今日は本当に楽しかったな」

「そうですねぇ、龍己の旦那」

 不忍へ向かう道の途中、俺達は今日の事を話しながら歩いていた。

「……何だか七之助さんに、俺が半人半妖なのを黙ってるのが申し訳なくなるな」

「まあ……それはちょいと特殊な事ですからねぇ。

 何かしらの機会があったら、その時に話す事にすりゃあ良いんじゃないんですかぃ?」

「ん……それもそうだな。

 いつかしっかりと話せば良いだけだもんな」

「そうですよ。それに――」

 風之助はそこで言葉を切ると、俺の顔を見ながら言葉を続けた。

「人間だろうが半人半妖だろうが、龍己の旦那は龍己の旦那だと俺は思っておりやすよ?」

「風之助……」

 風之助のその言葉に、俺は少しだけ勇気付けられたような気がした。

「そう……だよな。 半人半妖だろうと何だろうと俺は俺だ。それさえ忘れなければ大丈夫だ」

「へへっ、その意気ですよ、龍己の旦那!」

「……ありがとな、風之助」

「別に構いやせんよ、龍己の旦那。

 俺は俺の思ったことを言っただけですから」

「それでもだよ。

 ……よっし、これからも半人半妖としてこの世界で頑張るぞ!」

「おー!」

 俺はこの1日を通じて少しだけ成長出来た気がした。元人間としても、現半人半妖としても。

 そしてそんな俺達を鼓舞するように、強い風が俺達の後ろから吹きわたった。

 

 

 

 

 龍己達が不忍へ向けて帰っていた頃、『七之屋』の近所にある川に掛かる橋に、二つの影が現れた。

 そして、ドボンッという音を立てて、その川の中へ何かが投げ込まれた。

 橋の上にいる人の形をした何者かは、荒く息をしながら川の中を見つめていたが、程なくしてとても嬉しそうな声を上げた。

『ハァッ、ハァッ……ははっ、これで良い……! これで計画は完璧だ……!』

 そう独り言ちると、その人の形をした何者かは満足そうにその場を立ち去った。

 そしてその人物が立ち去った後、先程投げ込まれた物がゆっくりと浮かんできた。

「ん? あれはいったい……?」

 そこに深水に住む妖の一体が偶然通りがかり、その浮かんできた物の正体を見ようと橋から除き込んだ。

 そしてその妖はその何かの正体に気付くと――

「うっ……うわあぁーー!!!」

 深水の街中に響き渡る程の大きさで叫び声を上げた。

 




政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
龍己「あのさぁ、これってまた俺が何かに巻き込まれる感じだよな?」
政実「申し訳無いけど、その通り」
龍己「今度は命の危険が無いようにしてくれよ?」
政実「うん、大丈夫だよ。
……きっと」
龍己「はぁ……まあそれなりに頑張るとするか。
そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「うん、それじゃあそろそろ締めよっか」
龍己「そうだな」
政実・龍己「それではまた次回」
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