妖世界の半人半妖   作:九戸政景

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政実「どうも、会いたい妖はすねこすり、片倉政実です」
龍己「どうも、稲荷龍己です。
それにしてもすねこすりか……歩くのを邪魔されるのに良いのか?」
政実「うん。害があるとしてもそのくらいだしね。それにすねこすりって犬のような姿をしてるらしいから、夜道で会っても安心だしね」
龍己「まあ、そうかもな。
さて……それじゃあそろそろ始めるか」
政実「うん」
政実・龍己「それでは、第4話をどうぞ」


第4話 疑われし蛇と謎を追い始める狐と鼬

「……ん、朝か……」

深水の街へ行った翌日、住んでいる離れの布団から起き上がり、すっかり明るくなった外の様子を見て俺は呟くように言った。

そして、まだ眠気の残った頭でそのまま今日の予定について考え始めた。

「んー……今日はどうしようかな……いつも通り不忍の街を巡るべきか、それか昨日みたいに深水の街にでも行ってみるべきか……」

あれこれと考えていた時、明け六つを告げる大きな鐘の音が街中に鳴り響いた。

そして、それと同時に不忍に住む妖達の声が辺りから聞こえ始めた。

「明け六つか……それならまずは風之助のとこに読売を買いに行くかな。そして朝食を取ってから今日の予定について決めていくことにしよう」

俺は布団から起き上がり、布団を綺麗に畳んで押し入れにしまった後、布団の脇に畳んであるいつもの青い着流しに着替えた。

そして、縁側に置いてある草履に足を通し、体に力を加えて自分の姿が半人半妖としての姿に変わったのを確認してから、店の外へと向かった。

 

 

 

 

通りへ出てみると、そこにはいつものように店の準備や朝食の準備に勤しむ不忍の妖達の姿があった。

ここに来た最初の朝こそこの光景には驚いたけど、二週間も経った今となっては、すっかり見慣れた光景になったな……

街の様子を見ながら、そんな事をしみじみと考えていた。

すると、

「おはようさんです! 龍己の旦那!」

後ろから元気の良い声が聞こえたため振り向いてみると、そこには瓦版屋コンビの鎌鼬の風之助とその相方の妖狐の草吉さんが立っていた。

「おはよう、風之助、草吉さん」

「へへっ、おはようさんです、龍己の旦那!」

「……おはよう、龍己」

俺の挨拶に風之助はさっき同様元気の良い声で、そして草吉さんは小さくともハッキリとした声で挨拶を返してくれた。

風之助達は読売、つまりは新聞を売っている瓦版屋なのだが、草吉さんには少々無口なところがあるため、風之助が主に客引きを担当し、草吉さんが販売を担当するという形を取っている。

それにしても、いつもならこの明け六つには商売を始めているはずなんだが……

「今日は商売を始めるのが遅いみたいだけど、何かあったのか?」

俺は風之助達のその様子に首を傾げた。

草吉さんはいつも首から掛けている板を脇に挟み、もう片方の手には読売を入れているであろう緑色の風呂敷包みを持っており、どう見てもまだ商売をしているような様子では無かった。

ここに来てからまだ二週間くらいではあるけど、こんなパターンは初めてだな……

すると、

「あー……それなんですがねぇ……」

風之助は少しだけ困ったような顔で言いながら周りをキョロキョロと見回した。そして誰もまだ自分達に気付いていないことを確認すると、とても小さな声で俺に耳打ちをしてきた。

「実は……今朝の読売は龍己の旦那に先に読んでもらいたい内容でして……それで龍己の旦那が出て来るのを待ってたんで……」

「俺に先に読んでもらいたい内容……?」

「ええ……それで、その読売というのがこれでしてね……」

風之助が小さな声で言うと、草吉さんが瓦版を一部手に取り、そのまま俺へと手渡してくれた。

俺に先に読んでもらいたい内容……一体何が書いてあるんだ……?

不思議に思いながら瓦版に目を通すと、そこにはとても信じられない内容が書いていた。

「……風之助、これって……」

「……ええ、偽りなんざ一つもねぇ、本当の事でさぁ……」

そこに書かれていたのは、昨夜深水の街で事件が起きたこと、そしてその容疑者として七之助さんの名前が上がっているという記事だった。

 

 

 

 

朝食を取った後、俺は風之助と一緒に離れで今朝の読売の内容について話をしていた。

「風之助、今朝の読売の内容は本当の事なんだよな?」

「ええ、もちろんで。

俺も最初その情報を手に入れたときゃ、本当に目玉が飛び出るかと思うくれぇびっくりしやしたよ……」

「そうだよな……まさかあの七之助さんが下手人として疑われてるなんてな……」

まだ七之助さんとは知り合ったばかりだけど、犯罪に手を染めるような人には一切見えなかったもんな……

まあ、そういう人に限って裏では……なんて事もなくはないけど……

「とりあえず、昨夜の深水の事件の事を纏めてみるか。俺達に謎が解けるとは思わないけど、もしかしたら何か分かるかもしれないからさ」

「合点承知でさぁ、龍己の旦那!」

俺は部屋に備えつけられている文机の上から何枚かの紙と愛用の硯と筆を取った。そして墨を丁寧に擦った後、昨夜の深水の事件の内容についてスラスラと纏めていった。

「まず、事件発生時刻は昨夜の宵五つ(午後八時)、場所は七之屋の近くの川だったよな?」

「へい、それで殺されてたのは七之助の旦那と同じ化け蛇の女で、名は菫と言いやす。この女、深水生まれの深水育ちってんで、つまりは生粋の深水っ子って事になりやす」

「なるほどな……」

「それと七之助の旦那とは幼子の頃からの知り合いだったみてぇで、他にももう一人仲の良かった男のダチがいるみてぇなんです」

「つまり、七之助さんと今回の被害者の菫さん、そしてその男は幼なじみだったわけか……」

幼なじみか……今となっては知る事は出来ないけど、俺にもいたりしたのかな……

俺は風之助の話す情報を次々と紙に書き出していった。すると、風之助がふとこんな事を言いだした。

「そういや龍己の旦那は、昨日家に帰った後は何をしてやした?」

「ん、昨日か?

あの後は……龍三郎さんやお嬢様と一緒に夕飯を食べたり、寝る前に少し本を読んだり、後は日記も付けてたな」

「へぇ-、龍己の旦那、日記も付けてるんですね」

「ああ、この世界に来た日からな。自分の昔の事はもう分からないけど、今からの自分の事くらいは何かに書いておきたかったからさ」

「なるほどねぇ……」

「でも、何でそんな事を?」

「あ、いや……昨日の夜、深水の事件の話を聞く前に、ちょいとこの辺に立ち寄ったら、龍己の旦那みてぇな雰囲気のお狐さんが歩いていたもんで、てっきり龍己の旦那が夜の散歩と洒落込んでるもんだと思ったんで」

「へぇ……そうだったのか」

まあ、不忍には俺や龍三郎さん達以外にも妖狐が住んでるから何とも言えないけどな

そんな事を考えつつ、俺は紙に書いた情報を見返した。

えっと……昨夜の宵五つに七之屋の近くの川で死体が上がって……

その時、俺はある違和感を覚えた。

川……容疑者の中にいるのは、七之助さん……

おかしい……これっておかしくないか?

「なぁ、風之助。たしか七之助さんって、昔の出来事のせいで川とかに近づけなくなったんだったよな?」

「そうですねぇ……たしか、昔に川で溺れかけた事が切っ掛けで、川みてぇな大きな水場には近づけなくなったって……」

その時、風之助が不思議そうな表情を浮かべた。

「妙だな……七之助の旦那は川とかにゃあ近付けねぇ、なのに仏さんが上がったのは七之屋の近くの川……

つまり……七之助の旦那には、この殺しは出来ねぇことになるんじゃあ……!」

風之助はとても嬉しそうな様子で言ったが、俺は静かにそれを訂正した。

「いや、まだ七之助さんを容疑者からは外せないよ」

「え……そりゃあいってぇどういう事で?」

「たしかに『七之助さん』は川には近付けない。けど、もし協力している奴がいたとしたら、七之助さんが殺して協力者が死体を川に捨てることでもこの事件は一応成立するからな」

「あ……そういやそうかぁ……」

ショボンと肩を落とす風之助に俺は静かに笑いながら声を掛けた。

「けれど、この情報はかなり重要だ。もし七之助さんに協力者がいるという証拠がなければ……」

「そうか……! そうなれば、七之助の旦那の疑いが晴れるって事ですね……!」

「そういう事だ。

……まあ、そういう情報くらいならすでに調べられてそうだけどな」

「たしかにそうかもしれやせんね。けど、この情報で七之助の旦那の事を助けられるってんなら、俺は旦那の事を助けたいと思ってやす」

「つまり……同心の人達とは別に、俺達でこの事件を追うって事か?」

「へい、その通りでさぁ!」

「なるほどな……」

たしかに俺も七之助さんを助けたい。けれど、同心の人達を差し置いて素人の俺達が勝手に捜査をしても良いもんかな……?

「風之助、たしかに俺も七之助さんを助けたいと思ってるよ。でも、素人の俺達が勝手に調べても良いのかな?」

「うーん……それはですねぇ……」

風之助は少し考えた後、何かを思い付いたように手をポンッと叩いた。

「そうだ……! 俺は読売屋、それなら読売の記事のために動いてるって事にすれば良いと思いやす!

それで旦那はそれの手伝いって事にして……」

「まあ……それなら自然だとは思うけど……」

俺は一応、ここの奉公人なんだけどな……。

俺が少し答えあぐねていると、廊下の方から誰かがこちらの方へ歩いてくる音がした。

誰だろう……お嬢様は今お出かけになってるし、羅紗さんと龍三郎さんは商売中のはずだし……。

俺は近付いてくる足音を聞きながら、足音の主についてあれこれ考えを巡らせた。そして足音がすぐ近くで聞こえたと思ったその時、襖の陰からこの狐雨福屋の主、龍三郎さんがゆっくりと現れ、ニコニコと笑いながら俺に声を掛けてきた。

「龍己君、ちょっと失礼しま……おや、風之助さんがいらっしゃってましたか」

「へい、こんにちはです、龍三郎の旦那」

「はい、こんにちは、風之助さん」

風之助に穏やかな様子で挨拶を返しながら部屋に入ってきた龍三郎さんに、俺は少し気になったことを訊いた。

「龍三郎さん、お店の方は大丈夫なんですか?」

「ええ。今の時間であれば、羅紗達に任せても大丈夫ですから」

「なるほど。ところで、俺に何か用事でもありましたか?」

「用事というほどの事ではありませんが、何冊か龍己君の本をお貸し願えないかなと思いまし……おや、これは……?」

俺の隣に座ると、龍三郎さんは俺達が纏めていた深水の事件についての資料をまじまじと見始めた。

「これは昨夜の深水の事件の情報です。七之屋の七之助さんが下手人として疑われてるので、謎が解けないまでも、何か手がかりでも無いかなと思って少し纏めていたんです」

「ほう……そうでしたか。それで何か進展はありましたか?」

「はい。

と言っても、七之助さんは昔の出来事が原因で、大きな水場には近付けないという情報から、もし七之助さんが下手人ならば、協力者がいなくてはならないというところまでは分かったくらいですけどね」

「なるほどなるほど。それでもやはり少しは進展があったわけですね」

「はい。それで風之助が七之助さんを助けるために、本職の読売屋の記事のために動いてるように見せ掛けて、俺と一緒にこの事件を解決したいと言ってて……」

「ほうほう。それで龍己君の役どころは?」

「風之助の手伝いをしているただの妖狐、といったところです」

「なるほどなるほど」

龍三郎さんは少し楽しげに言った後、微笑みを浮かべながら俺に話し掛けてきた。

「それで、龍己君はどうしたいのですか?」

「俺は……」

俺は自分の中にある迷いを龍三郎さんに包み隠さず話すことにした。

「俺自身、七之助さんの事を助けたいと思っています。けれど、俺達がやろうとしている事は、同心の人達の真似事みたいなものです。それに俺は世間にはここの奉公人として通しているのに、そういう事に関わる事で、狐雨福屋がお上に睨まれたりしないかが少し心配なんです」

「なるほど、そういう事ですか……」

龍三郎さんは少し考えた後、いつものように穏やかな笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「龍己君、まずお店の方は心配いりませんよ。お上にも昔から親交のある方がいらっしゃいますから、その方々なら分かって下さると思います。それに……」

龍三郎さんは楽しげに笑いながら言葉を続けた。

「狐雨福屋の歴代の主達もそういった事件には少しだけ首を突っ込んでいたと聞いてますから。もちろん、私の父も不忍や他の街で何かしらの事件が起きる度に、その事件についての自分の考えを店の者やお客様に話すような人でしたしね」

「そう……なんですか?」

「ええ。普段は真面目そうなのですが、本当は結構喧嘩見物とかも好きな人だったもので、その度に私の手を引いて見に行ってたような人でしたよ」

「へぇ……って事は、龍三郎の旦那もそういう事が好きだったりするんですかい?」

「いえいえ。私は今と変わらず、喧嘩見物よりも本を読む方が好きな方でしたので」

風之助に返事をした後、龍三郎さんは再び俺に話し掛けてきた。

「なので、お店の評判などについては心配要りませんよ。たとえ知られたとしても、それをその方々との話題に使ってしまえば良いのですしね」

「龍三郎さん……」

「それに、私としては龍己君がやりたい事をやって欲しいですから」

「俺がやりたい事を……」

「はい。たしかに世間的に見るならば、龍己君はこの狐雨福屋の奉公人です。ですが私としては、龍己君にはこの不忍の一町人、そしてこの世界の一住人として様々な人達と出会い、様々な事を知っていって欲しいのです。それに、それは自身が奉公人だから、なんていう事に囚われていたら出来ないことですしね」

龍三郎さんはいつものようにぽかぽかとした太陽のように穏やかな笑みを浮かべた。

俺がやりたい事を……俺のやりたい事、それは……!

俺は心の中で自分がやりたい事を再確認した後、龍三郎さんに言葉を返した。

「そう……ですね。俺はこの狐雨福屋の奉公人であると同時に、この不忍の一町人でありこの世界の一住人、そして七之助さんの一友人です。だから俺は、友人として七之助さんの事を助けたい。そしてもし七之助さんが下手人だった時は、友人として罪を償ってくれるように話をしたい」

そうだ……最初から分かってたことだ。

俺がやりたい事、それは……友人である七之助さんの事を助けたい。そしてたとえどんな結末になろうとも、この事件の真相が知りたい。

俺がやりたい事を頭の中で反芻させていると、龍三郎さんは優しい笑みを浮かべながら俺に話し掛けてきた。

「ふふ……ようやくいつもの龍己君に戻りましたね」

「はい、おかげさまで。龍三郎さん、ありがとうございます」

「いえいえ。私は私の思ったことを述べただけですから。

さて……そろそろ店の方に戻りましょうか。そうしないと、流石に羅紗から苦言を呈されてしまいそうですから」

「分かりました。それでは、俺も早速出掛けてきますね」

「はい、分かりました。気をつけて行ってきて下さいね、龍己君、風之助さん」

「はい」

「へい!」

そして龍三郎さんは俺達の返事に頷くと、静かに離れを後にした。

さて……そうと決まれば、早速準備を始めるか

俺は少し前に買っていた巾着を取るために文机へと近付いた。

すると、人間だった時に来ていたらしい制服のポケットの中に何か光る物が見えた。

ん……何だろう?

俺はそれが気になり、ポケットの中に手を入れ、中にある硬いものを取りだしてみた。するとそれは、上の方に長い麻紐を通した綺麗な青色をした小さな水晶の勾玉だった。

これは……勾玉か。でも何でこんなものが……?

俺が不思議に思っていると、いつの間にか肩に乗っていた風之助が珍しそうに勾玉を見始めた。

「へぇ-、こいつぁ勾玉ですかい? それも大層な妖力を備えた一品みてぇだ」

「妖力か……言われてみれば、たしかに何か強い力を感じるような……」

「それにかなり大切にされてたのか、曇りが一つもねぇくれぇにピカピカに磨かれてやすね……」

「本当だ……

人間だった時の俺にとって、この勾玉は本当に大事な物だったみたいだな……」

勾玉は俺の言葉に返事をするように陽の光を反射してキラリと光った。

水晶……たしか四月の誕生石で幸運を引き寄せる効果とかがある上に、青色は鎮静の効果があるんだっけな。

青か……そういえば俺の名前、龍己の由来にしたのも、映しの泉に映った青龍だったな……

そして四月といえば、青龍が司る季節である春……。

どうやら俺はそういうのによっぽど『縁』があるみたいだな

俺はその数々の偶然にクスッと笑った後、勾玉を首に掛けた。

こうすれば、この勾玉がお守りみたいになってくれそうだしな。

そして文机の上の巾着に財布とメモをするための紙や愛用の筆などを入れ、それを懐へとしまった。

「よし……それじゃあ行こうぜ、風之助」

「へい!」

風之助の返事を聞いた後、俺達は七之助さんのため、そして事件の真相を知るために、狐雨福屋を後にした。




政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
龍己「少しずつだけど、俺の過去にも迫っていく感じみたいだな」
政実「うん。と言っても、ほんの少しずつだけどね」
龍己「了解。
さてと……次回の更新予定は?」
政実「未定だけど、早めに出来るようにするつもり」
龍己「わかった。
そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしております」
政実「それじゃあそろそろ締めようか」
龍己「ああ」
政実・龍己「それでは、また次回」
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