妖世界の半人半妖   作:九戸政景

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政実「どうも、好きな蛇は白蛇、片倉政実です」
龍己「どうも、稲荷龍己です。白蛇か、確かに白蛇って見た目も綺麗だし、神様の使いって言われてるから、何か特別感はスゴいよな」
政実「うん、そうだね。もちろん、蛇自体は好きだけど、一番好きなのはって聞かれたら、やっぱり白蛇って答えると思う」
龍己「そっか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・龍己「それでは、第6話をどうぞ」


第6話 事件の終結と哀しみの結末

「ふあ……ん、もう朝か……」

 いつものように縁側から射し込んでくる朝日で目を覚まし、少し眠気が残る中、ゆっくりと体を起こした。そして体に力を入れて半人半妖モードに姿を変えた後、どうにか頭をスッキリとさせながら今日の流れについて考え始めた。

「さて……今日はどうしようかな。昨日のようにひたすら調査に走っても良いけど、そろそろ少しずつ情報も纏めていきたいところだしな……」

 昨日、事件の容疑者である化け蛇の七之助さんと巳介さんから聞いた話、そして瓦版屋の鎌鼬(かまいたち)――風之助(かざのすけ)からもらった情報は、一応簡単には纏めてあるものの、未だ犯人を特定できるような情報は無い。しかし、深水(ふかみ)のやり手同心達が動いている以上、俺達が調査を出来るのは、恐らく今日が最後だ。だからこそ、今日の内にどうにか真相に辿り着けるような決定的な証拠を挙げる必要がある。

 うーん……本当にどうしたもんかな……。

 軽く腕を組みながら何となく住んでいる離れの中を見回していたその時、文机の上に何かが置かれているのが見えた。

「あれ……俺、寝る前に文机の上は片付けたよな……?」

 知らぬ内に起きていた部屋の異変に、少しだけ疑問を抱いたが、それよりも置かれている物に興味を抱いたため、俺は警戒しながらいつも使っている文机へと近づき、置かれている物を観察した。置かれていたのは、形が歪な黄色の水晶――シトリンと細かい字で書かれた何枚もの紙であり、シトリンの方はよく見てみると表面には細かい傷が付いていた。

「シトリン……確か石言葉は、『友情』とか『初恋』とかだったよな。そして、このシトリンの歪み方と傷の付き方、どうにも気になるな……」

 俺の水晶の勾玉とこのシトリンを見比べてみると、水晶の勾玉はとても丁寧な手入れをされていたからか、曇りや傷が一つも無かった。しかし、シトリンの方は小物や御守りに加工する前の形と言うよりは、ただの欠片のように見え、傷も自然に付いた物では無く、誰かがわざと付けた物のように見えた。

 パワーストーンは、別に傷が付いていても意味とか効果は変わらないと言うけど、置いていった人物はもしかしてこの形と傷で何かを伝えようとしてたのか……?

「友情と初恋に傷が付く……つまり、このシトリンは()()を表していて、その誰かの初恋は終わり、友情にもヒビが入っている、という事になるのかな……? まあ、それは後にして――次はこの紙束だな」

 シトリンを文机に置いた後、今度は紙束を手に取り、両手で持ちながらそのまま目を通した。すると、書かれていた内容に俺は思わず声を上げてしまった。

「……これ、本当にどうやって調べたんだ……!?」

 そこに書かれていたのは、七之助が営む小間物問屋『七之屋』と巳介さんが営む小間物問屋『蛇ノ目屋』の最近の評判や収支についての情報、そして奉公人達からの不平不満やそれぞれの主人に対しての意見などだった。『七之屋』については、特に悪い事は書かれていない上、収支にも妙な点は無かった。しかし、『蛇ノ目屋』の方はというと、最近あまり小間物の売れ行きが良くない事や巳介さんが仕事中や夜中に一人でどこかへ出掛けていて困っているといった事などが書かれており、収支表にも妙な支出があるようだった。

「……この紙束に書かれてる内容は、絶対に普通じゃ調べられないはずだよな。少なからず、両店の奥に入る事が出来て、店の帳簿を覗き見る事が出来る人物って事になるけど、たとえどちらかの店の関係者だとしてもそれはムリだ。残るのは、操作の一環で調べられる同心達って事になるけど、一介の奉公人である俺にこの情報を漏らす理由なんて無い。それに、このシトリンもそう簡単に手に入れられる物でも無いと思うし……」

 深水の街の事件を追っている中で見つけた新たな謎、それについて腕を組んで小さく唸り声を上げながら考え始めたその時、明け六ツを告げる鐘の音が不忍の街中に響き渡り、俺の思考はそこで一度中断された。

「……とりあえず、これは風之助にも見せてみよう。俺だけじゃ分からない事でも、アイツも一緒なら何か分かるかもしれないしな」

 そう独り言ちながらシトリンの欠片と紙束を懐へしまった後、そのまま縁側へと向かい、愛用の草履に足を通した。そして木戸をくぐって街中へ出た後、風之助とその相方である妖狐の草吉さんの姿を探すために辺りを軽く見回した。すると、いつもの場所で二人が商いの準備をしているのを見つけたため、俺はそのまま二人へと近づき声を掛けた。

「おはよう、風之助、草吉さん」

「……ん? おっ、龍己の旦那! おはようごぜぇやす!」

「おはよう、龍己」

「うん、おはよう」

 二人の挨拶に微笑みながら挨拶を返していると、風之助が突然周囲を見回し始め、誰も自分達に気付いていないのを確認すると、安心した様子を見せた。

「ん……どうした?」

「あ、いや……実はですねぇ、今朝の瓦版もちょいと龍己の旦那に先に読んでもらいてぇ内容なもんで。けれど、他の奴らが俺らに気付こうもんなら、すぐにわらわらと寄ってきちまうからちょいと他の奴らの様子を見てたんでさぁ」

「今朝のもって事は……まさか、あの事件に何か進展があったのか?」

「んー……進展というよりは、更に謎が増えたってとこですかねぇ……。まあ、とりあえず読んでみてくだせぇ、龍己の旦那」

「あ、うん」

 そしていつものように代金を払い、瓦版を受け取った後、件の記事へ目を向けたその時、思わず「……え!?」と言ってしまった。そこに書かれていた内容、それは深水の街で新たな死体が見つかったという物だった。

 

 

 

 

「……さて、これはまた困った事になったな」

「そうですねぇ……」

 朝食を食べ終えた後、俺は離れに風之助を呼んで今朝の瓦版の内容についての話をしていた。

 化け蛇の(すみれ)殺しがあったのが一昨日の事、そして新たな死体――河童の川吉が殺されているのが見つかったのが昨夜、か……。ここまで連続して殺しが行われたとなると、同心達の捜査も更に厳しくなりそうだし、今日はあまり深水での調査は出来そうにないな……。

 諦め気味に今日の事について軽く考えた後、とりあえず今回の件についておさらいをするべく、件の瓦版を手に取りながら風之助に声を掛けた。

「風之助、ひとまず今回の殺しについておさらいをしてみよう」

「へい! えーと、まずは殺しが起きた時間と場所なんですが――宵五ツ頃、深水の街の外れにある平野で起きた物で、殺されたのは菫殺しの下手人候補だった河童の川吉。そして死体の状況は、心の臓を一突きにされた上、頭の皿を粉々に砕かれ、上物の着流しを上から被せられた形だったみてぇですね。因みに、第一発見者は深水に住む妖で、菫や川吉とも会った事は無いらしく、発見時は酔っ払っていたそうです」

「河童の皿が粉々か……最初の事件と違って、だいぶ恨みが籠もった犯行だよな。加えて、現場が平野だという辺り、川吉が確実に不利になるようにしているし」

「んー……確かにそうですねぇ。つまり、今回の殺しは、菫殺しの下手人が川吉に対してだいぶ恨みを持っていた事による仲間割れと見ても間違いは無さそうですかねぇ……」

「いや、まだそうとは限らないかな。川吉が前々から多くの恨みを買っている事を考えると、その内の誰かが偶然やらかした犯行だった場合もあり得るからな。ただ、今回の殺しがそういうのでは無く、菫殺しの下手人と犯人が同じだった場合、今回の殺しの犯行現場が()()()()()()ところを見るに、真の下手人が元々川吉を始末しようとしていたと考えられそうだな」

「へ……ソイツはどういう事で?」

「さっきも言ったように、河童にとって水が無い場所というのは、やっぱりだいぶ不利になる。本来河童は、頭の皿が傷付いて力が出なくても水の中にさえ入れればまだ何とかなるはず。しかし、今回は近くに水が無い場所を選ぶ事でそれすらさせないようにしている。それに、水場じゃないという事は、()()()()()()七之助さんでも犯行が可能なように見せている事にもなるんだよ。もっとも、本当に七之助さんが下手人の可能性もまだあるけどさ」

「うーむ……そうなると、菫殺しと川吉殺しに関連性を見出さねぇ限り、謎は解けねぇことになりやすねぇ……」

「関連性、か……」

 風之助の言葉を繰り返していたその時、懐からカサッという音が聞こえ、俺は今朝見つけた物達の事を不意に思い出した。

 ……そういえば、まだこれらを風之助に見せてなかったし、今の内に見せておくか。

 そう思いながら件のシトリンの欠片と紙束を懐から取り出すと、風之助はとても不思議そうな表情を浮かべた。

「龍己の旦那、そいつぁいってぇ何なんです?」

「これは、今朝見つけた物なんだけど、起きたらそこの文机の上に置いてあったんだよ」

「ほー……置いてあったってぇ事は、龍己の旦那が寝ている間に置いていった奴がいるって事になりやすよねぇ」

「そうだな。そして、このシトリン――黄水晶もかなり気になるけど、一番見てもらいたいのがこっちの紙束なんだ」

「ふむ……それじゃあ、ちょいと見せてもらいやすね」

「ああ」

 そして、風之助の目の前に紙を1枚ずつ置き、風之助が興味深そうに読み始めたその時、風之助は突然目を大きく見開き、とても真剣な様子で次々と読み進めていった。それから数分後、最後の紙を読み終えた後、風之助は勢い良く顔を上げると、目をキラキラとさせながら興奮気味に話し始めた。

「龍己の旦那……! こいつぁ、本当に貴重な情報ですよ……!」

「だよな。誰がこんな情報を集めたのかは分からないけど、これがあればこの事件は解決へ大きく近付くはずだ」

「まったくでさぁ……! にしても……本当に誰がこんな情報を龍己の旦那に渡したんでしょうね? 誰にも気付かれずにここまでの情報を集められるなんて、普通は出来やせんしねぇ……」

「本当にな。そして、このシトリンにもまだ謎がある。細かい傷が付いた友情や初恋の意味を持つ石の欠片、これはたぶん誰かの事を表してると思うんだけど、それが誰なのかが分からないんだよな」

「ふむ……なるほど。友情と初恋、それに該当する人物となると、だいぶ限られてきやすね。それに、この紙束が一緒にあった事も何か意味がありそうですし……」

「そうだな……」

 もし、風之助の言う通りだとすると、シトリンは紙束の内容に関連した人物の事を表してる事になるけど、そんな人なんていたか……?

 そんな事を考えながら小さく唸り声を上げつつ天井を見上げていたその時、ある一人の人物が頭の中に浮かんできた。

 ……そうだ、この人ならこの証拠達に該当するかもしれない。もっとも、まだこれは推測に過ぎないけど、調べてみる価値はあるはずだ……!

「風之助、川吉って誰かと常につるんでるような奴だったっけ?」

「へ……? いや、基本的には川吉だけで行動してるみたいですぜ? ただ、深水のどこかに自分だけのアジトを作ってるってぇ話は聞いた事ありやすけど……」

「アジト……そこに今までの犯行で奪った物を隠してる可能性は高いよな?」

「そうですねぇ……金品を換金するにも川吉だけで行くわけにはいきやせんし、アジトの中にまだ残してる可能性はあるかと」

「……そっか」

 ……そうなると、ほぼ確定だろうな。これでたぶんこの事件は解決出来るけど、とても哀しい結末が待っているのは確実だな……。

 そんな予感を覚えた後、自分の考えを風之助へと話すと、風之助はとても驚いたようだった。しかし、そう考えた理由を話すと、とても納得した様子を見せたため、俺は風之助にある頼み事をした。風之助はそれを快く引き受けてくれたが、風之助の顔にも少々哀しそうな色が浮かんでいた。そしてそれから数分後、頼み事の準備が完了し、風之助がその依頼をこなすために縁側から飛び立つのを見送っていた時、これから待っているであろう()()()()()()の事が頭を過ぎり、事件が解決するとは思えない程、気持ちはとても暗かった。

 

 

 

 

 それから一週間後のよく晴れた日、俺は離れに座りながら風之助と一緒に『ある人物』の事を待っていた。あの日、俺は風之助にある二つの場所にとある手紙を置いてきてくれるように頼んだのだが、それがきっかけとなって事件は無事に解決し、深水の街には少しずついつもの日常が戻ってきているらしい。そして、俺は風之助に頼み事をした際、自分の名前を出さないようにしていたのだが、その人物はどうやら俺がやった事だと勘づいたらしく、ちょうど深水で記事のネタを探していた風之助を見つけると、俺から事件の事について話を聞きたいから、そのための時間を作ってほしいと頼んできたのだという。

 ……まあ、よく考えてみれば俺がこの件に関わっているのは知ってるわけだし、こう考えるのは自然だったかもしれないな。

 そんな事を考えていた時、廊下の方から小さな足音が聞こえ、それを待ちながら静かに背筋を伸ばした。それから程なくして、足音の主は廊下の方から離れへと姿を現し、()()()()姿()を見ると、とても驚いた様子で「……ほう?」と声を上げたが、すぐにいつものような優しい笑みを浮かべると同じように優しい声で話し掛けてきた。

「……お久しぶりです、鈴蘭さん」

「はい、お久しぶりです、『七之助さん』」

 その人物――七之助さんは、微笑んだまま頷くと、目の前に敷かれた座布団の横に座り、手に持っていた荷物をスッと俺の目の前に置いた。

「先日は本当にありがとうございました、そのお礼になるかは分かりませんが、こちらをお納め下さい」

「はい、ありがとうございます」

 俺はそれを受け取った後、風之助と七之助さんに断ってから3人分の緑茶を用意するために七之助さんから受け取った物――菓子折を持って一度席を立った。そしてお盆に載せた3人分の緑茶を持って戻ってきた後、俺は七之助さんから順番に配っていき、それが終わってから座っていた座布団へと再び座った。

「七之助さん、お店の調子はどうですか?」

「はい、おかげさまでお店は忙しくさせてもらっています。もっとも、蒔絵(まきえ)さんや翡翠(ひすい)さんからは、適度に休むように言われ続けているんですけどね」

「ふふ……そうですか、それなら良かったです」

「ええ。ですが……巳介が下手人だったのは、今でも信じられないです……」

 七之助さんがとても沈んだ様子で言う中、俺と風之助も少し暗い気持ちで顔を見合わせた。七之助さんからすれば、幼なじみの内の1人が起こした事件でもう1人の幼馴染みを含めた2人の死人を出してしまった事は、やはり心に来る物があるのだろう。

 ……幼馴染み、か。()()()にも幼馴染みとか親戚がいたとしたら、やっぱりかなり心配されてるのかな……。

 七之助さんの顔を見ながらかつての自分について考えていた時、七之助さんは緑茶を一口だけ静かに飲み、気持ちをすっかり切り替えた様子で再び口を開いた。

「さて……それでは本題に入りましょうか。鈴蘭さん、今回の事件を解決に導いたのは貴方ですよね?」

「……そう、ですね。ですが、正確には風之助さんや他に手伝ってくれた方の力があってのことですけどね。それに……私は、ただこうなのでは無いかという考えを立て、それを書いた手紙を深水の同心や下手人――巳介さんへ出しただけです」

 七之助さんの目をまっすぐに見つめながら答えると、七之助さんはしばらく俺の目を見つめ返した後、緊張が解けた様子で静かに息をついた。

「……やはり、そうでしたか。瓦版では謎の手紙によって事件は急転直下で解決したと書かれていましたが、そんな手紙を書きそうなのは、貴方くらいですからね」

「その通りです。ただ……私は事件の下手人が七之助さんでは無い事を証明したかっただけな上、目立つ事があまり好きではないので、手紙はわざと筆跡を崩した上で書かせてもらいましたけどね。」

「そういや、そうでしたねぇ……いつもの旦那の字とは全く違うように見えやしたから、目の前で書いているのを見ていても、すぐには信じられやせんでしたよ?」

「ふふ、そうでしょうね。風之助さん、あの時はありがとうございました」

「へへっ、礼にはおよびやせんよ、りゅ――鈴蘭の旦那!」

 風之助はうっかり龍己の方を呼びそうになった事で小さく苦笑いを浮かべていたが、七之助さんはそれには気付いていない様子でクスリと笑った。

「ふふ……風之助さんでしたら、そういった作業には向いていますからね。しかし、どうして今回の事件を解く事が出来たのですか?」

「そうですね……それにはまず、()()の事を説明しないといけないですね」

 そして傍らに置いておいたシトリンの欠片と『七之屋』と『蛇ノ目屋』についての情報が書かれた紙束を目の前へと置くと、七之助さんはとても不思議そうな様子でそれらを見始めた。

「鈴蘭さん、これは……?」

「黄水晶の欠片と『七之屋』並びに『蛇ノ目屋』の帳簿の書き写しと評判や奉公人の皆さんからの意見が書かれた物です。あの日――件の手紙を出した日の朝に、私の文机の上に置かれていた物です」

「……そうですか。しかし、これらは一体どなたが?」

「それは分かりません……起きた時には既に置いてありましたし、それとなく『狐雨福屋』の皆さんには訊いてみたのですが、誰も知らないとの事でした」

「なるほど……つまり、これらのおかげで鈴蘭さんは事件を解く事が出来たという事ですか?」

「はい。七之助さん、事件のためとは言え、お店の帳簿を見てしまった事、本当に申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げながら謝罪をすると、頭の上から七之助さんがクスクス笑う声が聞こえてきた。

「別に謝る必要はありませんよ、鈴蘭さん。貴方がこれを残しておいたのは、私に見せる必要があると思ったからですよね?」

「はい。自分が望んで手に入れたわけでは無いとは言え、コレを処分する前にやはり手に入れた事だけは話さないといけないと思ったので……」

「ふふっ、そうだと思いました。初めてお会いした時から、貴方は恐らく嘘や隠し事が苦手な方だと思っていましたしね。そしてそれは、私に見せた後にすぐ処分するつもりだったんですよね?」

「……はい」

「それならば問題はありませんよ。それに、見られて困る事は何も書いてはいませんから。だから、もう頭を上げて下さい、鈴蘭さん」

 その言葉で俺がゆっくりと頭を上げると、七之助さんはニコニコと笑いながら俺の事を見ており、その笑顔に安心感を覚えた事で、俺も七之助さんに微笑み返す事が出来た。

「七之助さん、本当にありがとうございます」

「いえいえ。それで、これらの力を借りたというのは……?」

「あ、はい。えっと、まず……この事件を解く上で大事だったのは、()()()()()()()()()()()()()だったんです」

「目に見えない物……」

「はい。具体的に言うなら、関係性や思いと言ったところでしょうね。この三人が友人関係であるように、七之助さんと巳介さん、そして第一の被害者だった菫さんは幼馴染みという関係性があり、他人から見れば何の変哲もない仲の良い三人組だったと思います。しかし、巳介さんと菫さんからすれば、それは少し違っていたんです」

「違っていた、とは……?」

「七之助さんからすれば、さっき言ったようなただの仲の良い幼馴染み同士として捉えていましたが、菫さんは恐らく七之助さんに対して恋心のような物を抱いていたのだと思います。そしてそれについて、自分の両親にもそれとなく話はしていた。だから、七之助さんが菫さんに傘を届けに行こうとした時、菫さんの御両親はとても安心したと思います。しかし、この時には既に真の下手人――巳介さんの策が進められていたんです」

「…………」

「菫さんが七之助さんを恋い慕っていたように、巳介さんも菫さんに恋心のような物を抱いていた。しかし、菫さんは七之助さんしか目に無く、七之助さんはそれに気付いている様子は無かった。それに加えて、同じく父親から継いだ店は『七之屋』の人気に押され、あまり上手く行っていなかった。その2つの事から、いつしか巳介さんの中には、七之助さんへの憎しみや妬み、そして一向に振り向かない菫さんへの愛憎のような感情が生まれ、それに突き動かされる形で今回の事件を思い立ったのだと思います」

「……それを示すのが、その水晶と紙束なんですね?」

「はい。水晶などには()()()という花言葉のような物があり、黄水晶――シトリンには、『友情』や『初恋』という石言葉があります。しかし、このシトリンには細かい傷が付いており、形も少し歪んでいます。この事から、これを置いていってくれた方は、巳介さんの中にある歪んでしまった想いに気付き、帳簿の写しなどと一緒に置いておいてくれたのだと思います。

 そして、その歪んだ想いによって、巳介さんはある人物に協力――いや、一方的に利用しようと考えました。それが、第二の被害者であり菫さん殺しの実行犯でもある川吉です。川吉は深水では有名な悪人であり、今までに奪った物をしまっているアジトがあるという噂があります。巳介さんは、それを知っていたため、川吉を利用して菫さんと七之助さんをどうにかした後、川吉も始末した上で、アジトの金品も奪おうと考えた。一番厄介な商売敵がいなくなれば、自分の店が繁盛する上、奪った金品を怪しまれないように少しずつ売っていけば、自分達の生活は安泰ですから」

「……なるほど」

「そして川吉にそれなりの報酬を提示し、連日酒を奢ったり説得を繰り返したりする事でどうにか協力を取り付けた後、巳介さんはまず菫さんの方からどうにかしようと考えました。川吉は相手がいる女性にも手を出そうとする事から、遊廓などにはよく行っていたと思いますので、それなりの口説き文句などは言う事が出来たはずです。そして時間を掛けて菫さんと川吉の仲を深めさせた後、川吉を通して菫さんに七之助さんに関しての悪い噂――今回の場合はお店の奉公人に菫さんに対しての愚痴などを言っていたと吹き込み、菫さんが抱く七之助さんへの感情を悪い物へと変えた。菫さんからしてみれば、それなりに七之助さんに好意は示しているはずなのに、まったくそれに気付く様子も無い上、『七之屋』には七之助さん目当ての女性客も多いため、少なからず悪印象は持っていたと思うので、この策を進めるのは苦労しなかったでしょう。そして、七之助さんに関しての悪い噂を吹き込んだ日、その日がちょうど七之助さんが菫さんに傘を届けようとしていた日であり、私と最初に出会った日だったんです」

「……確かに、そう考えれば菫の態度にも納得がいきますね」

「『蛇ノ目屋』の奉公人からの意見の中に、巳介さんが仕事中や夜中に一人でどこかに出掛けていく事があって困っているという物があったので、巳介さんは時々抜け出しては自分の策の進み具合を確認したり、川吉との打ち合わせをしていたのだと思います。そしてあの日も恐らくそうで、七之助さんに対しての菫さんの態度を見て、そろそろ機は熟したと思い、次の手へと移りました」

「次の手……ですか?」

「巳介さんは、七之助さんの事は殺してしまうか川吉殺しの罪を被せるつもりだったと思いますが、菫さんの事はまだ愛していたため、川吉との手を切らせて七之助さんと川吉の両名を始末した後に、何も知らないフリをして菫さんに近付こうと思っていた。そうすれば、自分は望んだ物を全て手に入れられますからね。しかし、ここで想定していなかった事が起き、少しずつ計画の歯車が狂っていきます。想定していなかった事、それは川吉が菫さんに計画を話してしまった事です。そしてそれを知らない巳介さんは、計画の成功を疑わずに菫さんへと近付きます。しかし、菫さんから知らないはずの計画について詰問され、計画の詰めの甘さを感じながら菫さんから拒絶をされた事で、巳介さんはこれ以上計画が破綻する事への恐れと再び湧き上がってきた菫さんへの愛憎が重なり、菫さんを殺害する事を決意します」

「……では、何故菫は私にこの事を話さなかったのですか? 次の日は、鈴蘭さん達と話していましたが、別に巳介がやっていたように蒔絵さん達に一言声を掛けてくれれば、普通に入ってくる事が出来たはずです」

「……これはあくまでも推測に過ぎませんが、菫さんは罪悪感から七之助さんと話をする事を躊躇ってしまったのだと思います。片思いではあったものの、恋い慕っていた相手に対して酷い事を言ってしまったという不安などから、菫さんは七之助さんと話をする事を躊躇い、気持ちの整理が付くのを待とうとした。しかし、その時に巳介さんから依頼を受けていた川吉に捕まり、菫さんは『七之屋』が閉まって七之助さんが出歩いていてもおかしくない時間までどこかに閉じ込められた。そして川吉によって殺害され、橋の上から川の中へと死体を放り込まれた事で、第一の事件は終了したかのように思われた。ところが、川吉が投げ込んだ場所が、川という()()()()()だった事で、更なる計画の狂いが生じました」

「……私が橋の上からでも川や湖に近付く事すら出来ない事、それを川吉が知らなかったからですよね?」

「はい。しかし、その時に巳介さんは『七之屋』の近くの飲み屋で目撃されていた上、菫さんを失う事への思いなどもあって、その日は川吉に死体の情報について確認する事を怠ってしまった。そのため、死体があってはならない場所にある事を翌日の瓦版で初めて知り、巳介さんは非常に焦ったと思います。一応、七之助さんを容疑者にする事は出来たものの、七之助さんの水場恐怖症については調べれば分かってしまう事ですからね。

 七之助さん、貴方はその事をお客さん達にはもちろん、蒔絵さん達にも話していなかった。そうですよね?」

「……はい。あの時は鈴蘭さん達に話しましたが、この事は特に話す事でも無いと思っていたので、知っているのは今ではお二人と巳介だけです」

「……分かりました。そしてその翌日、川吉に話をしに行った巳介さんを待っていたのは、川吉からの脅迫だった。恐らく、川吉は巳介さんを良いカモだと感じ、菫さんに話したように他の人にもこの事をバラそうとし、そうされたくなければ元の金額よりも多くの報酬を口止め料として払うように言ってきた。しかし、巳介さんにとっては、川吉は既に邪魔者の一人でしか無かったため、今度こそ七之助さんに捜査の目を完全に向けさせるために川吉には話していなかった計画の実行を決意した。そして、巳介さんは川吉の要求に乗るフリをして、その場はひとまず話を終わりにし、今度は七之助さんと『七之屋』の様子を見るために、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として『七之屋』へとやって来た」

「そんな中、ちょうど訪ねてきていた鈴蘭さん達とはちあったわけですね」

「ですね。そして最初は私達の事を警戒していましたが、あれは私達が深水では見ない顔だっただけでは無く、町人に変装した岡っ引きを警戒していたからだと思います。しかし、私達がそういった物では無いと知り、巳介さんは警戒を解いた。その後、私達が帰った後に巳介さんもこれ以上店を空けるわけにもいかないため、『蛇ノ目屋』ヘと帰った。しかしこれは、川吉を殺害するための準備をするためでもあったわけです。巳介さんは川吉が河童だった事や七之助さんに罪を擦り付けるために、待ち合わせ場所を水場が近くに無い平地に定めていた。この事から、巳介さんには川吉を確実に仕留める気があった事や川吉への強い憎しみがあった事が窺えますし、短刀で刺殺していたのもそういった事からだと思います。そして短刀で仕留める上で一番気をつけるべきは、刺した際に飛んできてしまう返り血。それを防ぐためと犯行中の目撃証言に自分の名前が挙がる事を防ぐために、巳介さんは()()()()()()()()()()()()。そしてその後、待ち合わせ場所に来た川吉を殺し、自分は何食わぬ顔で『蛇ノ目屋』ヘと帰ってきた。その心中は、とても穏やかとは言えなかったと思いますが、これで自分の計画はバッチリだという確証はあったのだと思います。しかし、その翌日に自分の計画や同じ物を親分さんに送ってある旨の手紙が匿名で届き、巳介さんは遂にこれ以上の犯行を諦め、自ら自首をした。

 七之助さん、これが一連の事件についての詳細と私の考えです」

 俺が話を終えると、七之助さんは哀しみと悔しさが入り交じったような表情で俯き、涙交じりの絞り出すような声で話し掛けてきた。

「……鈴蘭さん、私はどうするべきだったのでしょうか……? どうすれば、このような事態を招かなかったのでしょう……?」

「七之助さん、たぶんその答えは出ないと思います。昨夜、手代の羅紗(らしゃ)さんが仰っていたんです。

『お前が誰を信じようとお前の勝手だ。だが、心の内では何を考えているのか分からないのは、人間だけではなく妖も同じだ。目に見える物だけを信じていては、本当に見るべき物を見失うことになる』と……。この事件は、様々な人が見えている物だけを信じ、見えない物を見失っていた事で起きてしまった物です。だから、たとえその時は防ぐ事が出来ても、全員が気付き理解してないとまた同じ事が起きてしまう。そういう事件だったんです」

「ですが……!」

「七之助さん、貴方も本当は分かっているんですよね。今論じるべきは、()()()()()()()()()()ではなく、()()()()()()()()()()()だと。哀しい事ではありますけど、起きてしまった事件や問題はもう取り返しが付かない。だから、残された私達は同じ事がもう起きないようにするしかない。それが残された者の責務であり、亡くなった人達への手向けなんです」

「責務であり、手向け……」

 震える声でその言葉を繰り返すと、七之助さんは静かに顔を上げた。それに対して俺と風之助は、静かに微笑みながら同時に手を差し伸べた。

「巳介さんの罪についての裁きはまだ決まっていませんが、罪は重いため死罪の可能性も無くはありません。ですが、もし巳介さんが戻ってこられたその時、巳介さんの本当の裁きを下せて、同じ事が起きないように出来るのは七之助さんだけです」

「俺らじゃあ頼りねぇかもしれやせんが、精一杯七之助の旦那の手助けはするつもりですぜ?」

「だから、一緒に頑張りましょう、七之助さん」

「俺達がついてやすぜ! 七之助の旦那!」

「鈴蘭さん……風之助さん……」

 七之助さんは涙で目を軽く腫らしながら俺達の手を見つめた後、その手を静かに取り、ニコリと微笑んだ。

「お二人ともありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

「お互いにこれからも仲良くやっていきやしょう!」

「はい!」

 そして俺達は、穏やかな日差しが射し込む中で固く握手を交わし、再び顔を見合わせながら外の明るさに負けない程の明るい笑顔を浮かべ合った。

 さて……そろそろあの話をする時かな。

 握手を交わし終わった後、俺は居住まいを正してから静かに口を開いた。

「七之助さん、この離れに入ってきた時、何かに気付いたような顔をなさっていましたよね?」

「ええ、いつも目立つように付いている鈴蘭さんの耳が無かったので、それには少し驚きましたが……鈴蘭さん、何かあったのですか?」

「……実はその事で一つだけ、お話ししなくてはならない事があるんです」

「……なるほど。それで、そのお話しとは?」

「それは――」

 そこで一度言葉を切った後、俺はこれから話す事への緊張で速くなる鼓動と気持ちを落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をした。そして落ち着いた事を確認してから、()()()()()ではなく、()()()()()()()()()として言葉を続けた。

「私――いや、俺が妖狐では無く、半人半妖だという事です」

「半人半妖……一般的に妖と人間の血が半分ずつの存在を指す言葉、ですよね?」

「はい、今まで名乗ってきた鈴蘭も俺の名前の一つですが、それはあくまでも妖狐として振る舞う時の名前で、俺にはもう一つ『稲荷龍己』という人間としての名前があります。その2つがあって、初めて俺は半人半妖なんです」

「なるほど……しかし、どうして半人半妖に?」

「それが――」

 俺は半人半妖になった経緯――人間時に訪れた死や施された『反魂の秘術』、そして『狐雨福屋』においての俺の立ち位置などについて話した。そして話し終えると、七之助さんはとても興味深そうな様子で、「ふむ……」と一言だけ口にし、軽く腕を組みながら納得顔で小さく頷いた。

「なるほど……これで鈴蘭さん――いや、龍己さんが奉公人でありながらこの離れで生活している理由が分かりました。『狐雨福屋』さんは、一奉公人にもまるで実の家族のように接するという話は聞いた事がありましたが、ここまでの待遇を受けられるのは、よほどの事情が無いとあり得ませんからね」

「元々、俺はどこかの奉公先や長屋を紹介してもらえれば十分だったんですが、旦那様――龍三郎さんの好意を無碍にする事がどうにも出来なかったですし、申し出自体はとてもありがたかったので、こうして住まわせて頂く事にしたんです。ですが、いつかは名実共にこの『狐雨福屋』の奉公人の一人として働かせて頂くつもりです。それが俺に出来る唯一の恩返しですから」

「ふふ……なるほど。龍己さんは、本当に律儀な方なんですね」

「全くですぜ……それに、この前だって燃えさかる火の中の子供を助けるために、せっかく助かった命まで賭して、その子供を助け出しやしたしね」

「あ、たぶんその記事は読んだ覚えがあります。龍己さんはあの件にも関わっていたのですね」

「へい、それで火傷の治療のために一週間ほど出掛けられずに、この離れで本を読んだり俺と話したりして過ごしてやしたよ。ただ――」

 風之助はそこで一度言葉を切った後、視線だけ俺へと向けつつ、ニヤッとした笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「そんな旦那だからこそ、俺はこうして一緒にいてぇと思えるし、今回みてぇな時には助けたいと思える。旦那とダチになってからの毎日は、スゴく楽しく刺激的な事ばかりで、飽きる暇すらねぇくれぇですからね」

「……俺も同じ気持ちだよ。いつもありがとうな、風之助」

「へへっ、こちらこそ!」

 風之助の言葉に微笑みながら頷いていると、七之助さんはクスリと笑いながら俺達に話し掛けてきた。

「お二人とも、本当に仲がよろしいのですね」

「ええ、この世界に来て初めての友達ですし、なんだかんだほぼ毎日一緒にいますから」

「へへ、確かにそうだ。俺の仕事が忙しい時は別としても、初めて会った日以降の朝には必ず会ってやすし、その後も朝飯の後には記事のネタ探しを手伝ってもらっていやすからね」

「そうだな」

 ひょんな事から訪れたこの妖世界、そして不忍だが、今の俺にとってはとても住みやすい場所であり、そして龍三郎さんやお嬢様、風之助や七之助さんといったとても大切な存在に囲まれ、俺はとても幸せな毎日を過ごす事が出来ている。住み始めてからまだ日は浅いものの、この妖世界は既に第二の故郷のような物になっていた。

 たぶん、これからも今回みたいな事に巻き込まれる気はするけど、皆の平和な毎日のためにも、皆と協力して精一杯頑張っていく事にするか。

 そんな事を考えながら小さく笑みを浮かべていた時、七之助さんが「……そうだ」と何かを思い出した様子で小さく独り言ちると、ニコリと微笑みながら話し掛けてきた。

「お二人とも、少しよろしいですか?」

「あ、はい。何でしょうか?」

「今回の件や龍己さんの秘密を教えて頂いたお礼に、お二人にお話ししたい事が2つあります」

「お礼って……そんな大層な事はしてませんよ?」

「ふふ、私にとってはかなり大切な事でしたし、()()()が話して欲しいと言うので」

「本人達……?」

「はい、それが……私と蒔絵さんの二人です。昨夜、蒔絵さん本人からお二人に話して欲しい事があると言われまして、その内容があまりにも意外だったので、その理由を聞いてみたのです。すると、お二人なら他言はしないと思った上、お二人には知っておいて欲しいからとの事だったので、こうして私が話したい事と一緒にお話ししようと思ったんです」

「なるほど……分かりました。どんな内容かは分かりませんが、他言はしないと約束します」

「もちろん、俺もでさぁ」

「ありがとうございます。それでは、話を始めますね」

 ニコリと微笑みながら言った後、七之助さんは小首を傾げながら話を始めた。

「お二人は、私が少々特殊な生まれだという噂を聞いた事はありますか?」

「そういえば……風之助からそんな話を聞いた事がありますね」

「そういや、そうでしたねぇ。ただ……どう特殊なのかは、全く分からなかったんですがね」

「ふふ、そうでしょうね。この事は、私も『七之屋』を継ぐ事になった時に教えてもらいましたから。そしてその生まれなのですが、まず私の一族は神様の使いとされる白蛇様の加護を受けている一族なのだそうです」

「白蛇の加護……もしかして、七之助さんの肌が純白なのって……」

「はい、そうだと言われています。もちろん、一族の人は全員が純白の肌です。そして、私が生まれる前夜、母の夢の中にその白蛇様が出てきたようなのですが、その時に神託のような物を受けたらしいのです」

「神託……」

「はい。『そなたの子は、様々な者から好かれる反面、それと同じだけの強さの恨みも受ける事となる。しかし、青龍をその身に宿す者がその助けとなり、白蛇と青龍はお互いに支え合うだろう』

 まだ少しだけ続きはありますが、これが白蛇様の予言の一部なのだそうです」

「青龍を身に宿す者……あれ、青龍ってもしかして……」

「はい、私はそれは龍己さんの事だと思っています。実際、今回の事件で助けて頂きましたし、支えて頂きましたからね」

「七之助さん……」

「ふふ、予言にあったからではありませんが、これからは私も白蛇様の加護と共に龍己さんの助けになれるように頑張っていきますね」

「……はい、ありがとうございます、七之助さん」

「どういたしまして。そしてもう一つ、蒔絵さんの話なのですが、実は蒔絵さんにはある力が備わっているのです」

「力、ですか……」

「ええ。その力というのが、『邪な欲望や心を視認でき、周囲の存在に訪れる危機を予知できる』という物でして、あの日――巳介が訪ねてきた日に少し暗かったのは、その力で巳介から邪なものが見えたからだったようです」

「なるほど……という事は、蒔絵さんもそういった力を持つ一族の生まれなんですか?」

「そうだとは思うのですが……実は、私もよく分かっていないのです」

「わかっていないって……蒔絵さんが奉公に来た時に話は聞かなかったんですかぃ?」

「実は……蒔絵さんは、奉公に来たわけではなく、私が『七之屋』を継いだその日にお店の近くで倒れていた方だったんです」

「倒れていた……?」

「ええ、体も傷だらけで着物もボロボロな上、とても衰弱していたので、とりあえず翡翠さん達にも手伝って貰いながら手当などを施したのです。そしてそれらも落ち着いたところで話を聞いてみたのですが、記憶を全て失っていたようでして、唯一分かったのが先程の力の存在だけだったのです」

「記憶喪失……俺も自分の過去に関する記憶が無いから、他人事とは思えないですね……」

「……そして、蒔絵さんについてどうしたものか悩んでいた時、先代――父さんが蒔絵さんに奉公人として働いてもらうのはどうかと言ってくれたのです。蒔絵さんは、偶然にも私と同じ色白で、普段から笑顔や仕草がとても可愛らしい方ですので、先代からすれば表の方でお客様のお相手をするには合っていると思ったのだと思います。そして私も同意見だったので、蒔絵さんには翌日から奉公人の一人として働いて頂く上、『七之屋』の近所にある長屋に住んでもらう事にしました。因みに、蒔絵という名前なのですが、蒔絵の小物入れを持っていた事から私が付けた名前です」

「なるほど、七之助さんと蒔絵さんにはそんな事情があったんですね……」

「龍己の旦那の話も中々だと思いやしたけど、七之助の旦那達も中々の物だったんですねぇ……」

「そうかもしれません。ですが、私は今の生活がとても好きですし、毎日が幸せだと感じています。蒔絵さんも同じように考えてくれていると、とても嬉しいですけどね」

 頭を小さく掻きながら少し不安げに言う七之助さんに対し、俺は微笑みながらそれに答えた。

「大丈夫ですよ、七之助さん。まだ数回しか会っていませんけど、蒔絵さんの笑顔は本当の笑顔だと思いますから」

「へへっ、確かにそうだ。あんなに良い笑顔を浮かべられるのは、七之助の旦那を始めとした『七之屋』の面々との毎日が楽しいから以外に無いと思いやすぜ?」

「……お二人とも、ありがとうございます。こんな私達ですが、これからもよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね、

 七之助さん」

「こちらこそよろしく頼みやすぜ、七之助の旦那!」

 そして再び固く握手を交わした瞬間、風之助と七之助さんから優しさや信頼といった物の波動みたいな物が伝わってきたような気がした。

 これからも色々大変な事はあるかもしれないけど、皆となら絶対に乗り越えられる。根拠は無いけど、何だかそんな気がする。だから、これからも皆と一緒に精一杯頑張っていこう。

 爽やかな春風が吹き抜け、穏やかな陽の光が射し込む中、俺は風之助達の笑顔を見ながらそう心から誓った。




政実「第6話、いかがでしたでしょうか」
龍己「今回は4話掛けて謎解き要素がある話を書いたわけだが、色々課題は残った感じだな」
政実「そうだね。この作品では、そういう話はこれからも出て来るから、それに向けて色々研究はするつもりだよ」
龍己「分かった。さてと、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん、そうだね」
龍己「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
龍己「ああ」
政実・龍己「それでは、また次回」
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