ハイスクールD×D  一誠の魔神伝説    作:新太朗

34 / 37
収穫と羞恥

北欧オーディンの自称私兵の真神一誠はベッドで寝ている男二人を『クジャク・ボーン』にて回復させた後、自身の使い魔になっているフェンリルのクロを枕にぼんやりと冥界の空を眺めていた。

一誠は今、とても機嫌が良かった。何故なら自分を殺せるかもしれない存在を新たに見つけたからだ。

 

サイラオーグ・バアル。バアル家次期当主にして純血の悪魔にも関わらず魔力をまったく持たずに産まれた異端児。

さらには十三種神滅具の一つ『獅子王の戦斧』を持った悪魔。

 

本来、魔力を持つ純潔の悪魔は肉体を鍛えようとはしないが彼は違った。極限までに身体をいじめ抜いて鍛え上げた強靭な肉体。

だからこそサイラオーグは『獅子王の戦斧』の禁じ手を使用する事が出来た。他の純血の悪魔では負荷に肉体が持たなかっただろう。

 

そんなサイラオーグは更なる高みへと上がった。歴代の所有者で成し遂げられなかった。『覇の理』をコントロールしたのだ。

暴走する力を抑え別の力へと変換する事に成功した。それでも一誠には敵わなかった。

一誠が最後に見せた、ヴァーリですら見た事のない姿になり『一撃』で二人同時に倒されてしまった。

神々しくあり、まさに最凶の魔神に相応しい姿だったと言えるだろう。

 

一誠はヴァーリとサイラオーグに自分の出せる本気にして全力を出して相手にした。一歩間違えれば死んでいただろう。

だが、一誠には二人が死なないと確信があった。目的のために生き強くなろうと高みを目指そうとする二人なら必ず耐えると思ったのだ。

 

(まったく俺の予想通り……いや予想以上だ。ヴァーリ、サイラオーグ。二人に加えて曹操が俺を倒そうとしている。三人も俺を『殺せる』可能性を持った奴が居るなんてな……)

 

これなら魔王の招待で冥界に来た甲斐があると言うものだ。つまらないと思っていた旅行が一変して楽しい楽しい旅行になった。

 

(サイラオーグもヴァーリ同様に俺が鍛えたい。そうすればサイラオーグも……)

 

ヴァーリと同じようにさらに強くなるだろう。魔王も神も……そして魔神である自分すら超える存在になるだろう。

一誠の機嫌が良くなるのも頷ける。

最凶の魔神はここ数日で一番機嫌が良く紫色の冥界の空をぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こ、ここは?」

 

サイラオーグは瞼を開けて天井を見た後、首を左右に振り周りを確認した。そこは自分が与えられたバアル家の屋敷の別館の自分の部屋だった。

次期当主が寝るにはいささか狭い部屋だ。

 

「「「サイラオーグ様!」」」

 

「……お前達……」

 

サイラオーグのベッドの周りには彼の眷属達が心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。

 

「くっ……俺はどうして……」

 

どうしてベッドに横になっているのか、まだ分かっていないサイラオーグは身体を起こそうとした。眷属がすかさず身体を支えた。

 

「真神一誠との修行が終わって我々の前に戻ってきた時にはすでに気絶しておられたので……」

 

「そうか……」

 

自分の『女王』であるクイーシャ・アバドンが何があったのかを説明した。そしてどうして自分がベッドに横になっているのかが分かった。

最後に見た一誠の姿が最後の記憶だ。

 

(あの姿に俺は……)

 

魅せられた。輝く姿に。圧倒的な魔力に。

 

自分がどれだけ小さい存在なのかを嫌でも分かってしまった。目の前の魔神との差を。

だが、ここで諦めるほどサイラオーグは弱くはない。これほどの逆境など産まれてから幾度もあった。

 

(いいだろう……いつか必ず……!!)

 

サイラオーグはいつになく燃えていた。その時だった、一誠が入って来たのは。

 

「よお、サイラオーグ。起きたようだな」

 

「真神一誠……ああ、それでヴァーリ・ルシファーは?」

 

「別室でまだ寝ている。お前も寝ておけ。まあ、寝る間に聞きたい事があるんだ」

 

「聞きたい事?」

 

サイラオーグは首を傾げた。今更自分に何を聞きたいのだと言うのだ。その時、一誠はサイラオーグに手を差し出した。

 

「サイラオーグ。お前、俺のもとでもっと強くなるつもりはないか?」

 

「何?」

 

一誠が聞きたい事とはサイラオーグの勧誘だった。ヴァーリ同様に自分を殺せるように鍛え上げようとした。

それに対してサイラオーグはどこか迷っている顔をしていた。

 

「……真神一誠。お前は俺を鍛えて何がしたいのだ?」

 

「俺は死にたいのさ」

 

「……死にたいだと?」

 

サイラオーグは顔を歪めた。自分から死にたいなどを口にするなど余程の事だ。なのに一誠はまるで夕食のメニューを応えるように言ったのだ。

それはサイラオーグにとって不快としか言えなかった。今まで必死に生きてきた自分を否定するような発言だからだ。

今にも怒りをぶつけたかったが、サイラオーグは一旦落ち着く事にした。

 

「……何故、お前は死にたい?その理由は?」

 

聞かずにはいられなかった。答え次第ではここから追い出そうとさえ考えた。すると一誠の表情が少し寂しそうな顔になった。

 

(なんだ?この表情は?)

 

どうして聞いただけでそんな表情をするのか、サイラオーグには理解出来なかった。いや誰にも真神一誠の気持ちを理解する事は無理だ。

 

「そうだな……理由は俺自身って所か?」

 

そこから一誠はサイラオーグに自分の産まれてから今日までの話をした。双子の兄である一樹に言われるがまま、両親に『ボーン』の力を見せて『バケモノ』呼ばわりされ家を追い出されて、北欧の主神オーディンに拾われた。

そこから一樹への復讐だけを考えて生きてきた。そして一樹と再会して戦い、殺そうかと思ったが、急に殺意が消えた。

 

憎しみも怒りも興味すらも消えてなくなった。そこから自分は何をしていけばいいのか分からなくなった。そんな事になるのは一樹への復讐を終えたからだと思っていたからする事が特に思いつかなかった。

そこで死ぬ事にした。だが、自殺ではなく誰かの手で死にたかった。誰かに負けて敗北してからこの世を去りたかった。

 

「……なるほど、お前がどのような人生を歩んできたのかは分かった。だがそれでも俺はお前を殺せないだろ。済まない」

 

サイラオーグは一誠の話を聞いて上で断り謝った。サイラオーグはヴァーリと違い戦闘狂と言うわけではない。

優しい彼にとって一誠は少しの時間だが、拳で語り合った友と言える存在になっていた。それは一誠も同じだった。

答えが分かっていたのか一誠は特に落胆する様子はなかった。

 

「……お前ならそう言うんじゃないかと思ったよ。でも俺を殺せる候補には変わりない。時間があったらまた遊ぼうぜ」

 

「……お前との遊びは命懸けだ」

 

「だからこそだろ?」

 

一誠はそれだけ言って部屋から出て行った。サイラオーグは何も言わずにその背中を見送った。一誠との修行は自分に新たな可能性を生み出した。

まだまだ強くなれる。自分の夢のためにもっと力を付けなくてはと考えてしまう。そんなサイラオーグを心配してか眷属達の顔は少し曇っていた。

 

「心配するなお前達。付いて来てくれるか?」

 

「「「「もちろんです!サイラオーグ様!!」」」」

 

サイラオーグは拳を握り誓いを立てた。

 

(次は勝つ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはグレモリー領のリアス達が夏休みに住んでいる屋敷だ。そこの部屋の一つが悲惨な事になっている。

部屋は荒れ、飾ってあった絵などは引き裂かれ、ベッドは中身が飛び出して部屋を舞っていた。

 

「ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!」

 

部屋で暴れている人物―――リアス・グレモリーはまだ暴れたりないようで部屋の置物を投げては壊していた。

このように暴れる原因になったのは昨日、帰省した時に母親から呼び出されて三時間にも及ぶ説教を聞かさせたからだ。

他にも昇格、行動、金銭の制限を両親ならびに兄に言われからだ。

 

(どうして私が!我慢しきゃいけないの!?)

 

赤龍帝の一樹を眷属にしてフェニックス家とのレイティングゲームも勝ち、評価が上がってきたと思いきや一気に真っ逆さまに落ちた。

周りから向けられた羨望の眼差しも今や失望の見下しになってしまった。自分に懐いていた甥っ子、ミリキャスですら失望の眼差しを向けてきたのだ。

 

リアスにはそれは許される事ではなかった。帰省したさいにはよく抱きついてきたミリキャス。それがどこか親の仇を見るような眼を向けてきた。

一樹と毎晩、肌を重ねて少しずつ解消されていた真神一誠に対するストレスが、一気にぶり返った。

 

そして今、自室で暴れているのだ。人間界で買った置物などお気に入りだったはずの物まで投げては壊していた。

幸いに朱乃が防音用の結界を張ったおかげで音は一切外には漏れていない。

 

「リアス……」

 

「カズキ……どうしてなの?みんな、私にあんな眼を向けてくるの?ミリキャスですら私にみんなと同じ眼を向けてくるのよ?」

 

「ああ、俺は分かっている。全部、あいつ―――一誠の所為だ!あいつが来なければ全て上手く行っていたんだ。だからあいつを殺さないと俺達の評価は戻らない!!」

 

一樹は全て一誠の所為だと思っている。確かに原因が一誠だった事もあるだろうが、評価を下げる結果になったのは一樹達の行動だと分かっていない。

彼らはもう正常な判断が出来ない所まで来ている。もう原因なんてものは彼らにとって些細な事になっていた。

 

一誠を殺す。

 

ただそれだけしか頭には残っていなかった。そのためだったらどんな卑怯な力でも手に入れてみせる。

一樹とリアスはただそれだけのために燃えていた。

 

「あらあら……リアスもカズキ君もまだその時ではないでしょ?もっと確実に殺すために力を付けないと」

 

「朱乃……」

 

「朱乃さん……」

 

朱乃はいつもの―――いや不気味なまでの笑みを見せた。彼女を知っている者が見たらきっと驚きのあまり腰を抜かしてしまうかもしれない。

それだけ彼女達は変わってしまった。変わりすぎてしまったのだ。兵藤一樹に依存したばかりに。

 

そして今夜も三人は肌を重ねる。溜まった鬱憤を解き放ち、獣のようにただ性を貪る。誰も止めない。違う。

もう誰にも止められない。歪められた物語の登場人物はただ一人のイレギュラーによって本来進むべき未来を捨て、行き止まりの現実にやってきた。

 

「いいわ!カズキ!もっと私を求めて!!」

 

「カズキ君!リアスだけじゃなくて、私も愛して!!」

 

「ああ、お前らは俺のハーレムでとびきり可愛がってやる!!」

 

ベッドの上で交わる一樹、リアス、朱乃。朝まで誰も眷属ですら近寄らず朝までただ獣以下に成り下がった三人は性を貪りつくす。

元72柱の悪魔の1柱の次期当主とは思えない。彼らに羞恥などと言う言葉は無い。

 

「「カズキ(君)!私を愛して!!」」

 

「ああ、死ぬまで愛してやるよ!!」

 

ただ、今は性の快楽に身を寄せて今日の事を全力で忘れようとした。もしも兵藤一誠のポジションが奪われる事がなければ、彼女達は今のように堕落はしなかっただろう。

全ては彼から現在を未来を奪った一樹の所為だ。だが、誰もその事には気づかない、ただ一人の男を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠やリアス達が駆王町を離れている時、一人の男いや人型のドラゴンが一誠の家を訪ねていた。三日月の暗黒龍のクロウ・クルワッハだ。

クロウ・クルワッハは一誠が家にいない事を確認すると着た道を引き返した。

 

「今回はタイミングが合わなかったか。日を改めるしかないな。次は会えるのを楽しみにしているぞ。真神一誠……」

 

クロウ・クルワッハはどこかに静かに消えていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。