今回の話、タグの純愛を回収するために書いたのに思ったより難しいですね。難産でした。
次回からは、また冒頭でも触れた戦闘シーンへと入ると思うのですらすらいける! と信じています
「―――これで、最後か」
黒曜石を彷彿とさせる髪を揺らし、レインは黒い直剣【シュヴァリエ】を横に振るい鞘へと納剣する。赤い瞳が、辺りを映しこみ敵の影が消えたのを確認し一息ついた。
「リヴェリア達は、無事だろうなぁ……?」
言葉に出して思い浮かべるのは、オラリオ最強と謳われる魔導士の姿。神すらも羨望する程の美貌を持つ翡翠色の長髪の女性、リヴェリアの事だった。
彼女は、ファミリアの副団長。フィンに負けず劣らない頭脳明晰さに状況判断能力は、副団長としての素養をしっかりと兼ね揃えている。
いつもなら、心配なんて無用ではあるし、「私の心配より、自分の心配でもしたらどうだ?」なんて言葉も返ってくると予想できるのだが、
「何なんだよ、
周りを見渡し、改めてその光景に頭痛がした。一面の草木や大地が
―――
レインが持つシュヴァリエは、【ヘファイストス・ファミリア】に頼んだ【
それこそ、武器だろうが防具であろうがなんであろうと。シュヴァリエの様な属性を付加した第一級武器でなければ、例外なく人間さえ溶かすだろう。
「過半数or大半引き付けたけど、野営地に残ったメンバーだけじゃ心もとないか」
後で言われるであろう
「しっかし……気持ち悪ぃ」
ぞわぞわと鳥肌が立つ。脳裏に浮かぶ、モンスターの群れが津波の様に後ろから押し寄せてくる光景。
思い出すだけでおぞましい。レインは嫌いなのだ、
―――――ソロで潜ってたら絶対逃げてた。
一人ごちる。しかも、ぶった切れば体液が飛び散って溶けるのだ。猶更嫌だ。
スキルが発動してなければ、絶対に体のどこかに負傷があるはずだ。と断言できるほど、厄介な相手だった。
「そろそろ、戻るか―――」
バギバキィッ!! 大木が次々とへし折れる音が響き渡った。踵を返そうとしていたレインは、即座に反転し音の鳴った方へと姿勢を向けて右手を左腰のシュヴァリエの柄へとあてる。
タラリと、額から流れ落ちた冷や汗が地面に染みを作る。全身に叩き付けてくる強大な敵の気配、カチリと、スイッチを入れたかの様にスキルが発動したことから、「―――強いな」自分より高位のモンスターである事がうかがえた。自分が引き下がる事による、後方にいる
ビリビリと全身に叩き付けられる存在感は、今までに感じたことないもの。とどのつまり
「……今日は、新種のオンパレードかよ。ふざけやがって、初対面でのぶっつけ本番は好きじゃねぇんだぞ」
前世では、出会うもの全てが初めてだった。その時の記憶が蘇る。どれだけの苦労をまたしなくてはならないのか。
「とりあえず―――」
抜剣。甲高い金属音が響き渡り、百二十セルチメドルある黒い直剣が抜き放たれた。ギラリと、淡い輝きを放つ其れを強く握りしめて―――進撃する。
地面を強く踏み抜いて、初速からトップスピードへと加速。同時に、レインの眼前へと姿を現したのは予想通りの新種。
先ほどの様に芋虫の様な黄緑色を基調とした色合い。まるでケンタウロスの様に、下半身は無数に伸びた短い多足が蠢き、上半身はまるで
その女人型のモンスターが、薄く笑ったかの様な錯覚を見せた。
大きく振りかぶった片腕に対するのは、【
加速力を全て上乗せした全身全霊の一撃を、跳躍し肉薄すると同時にぶつける。辺りに暴風ともとれる程の衝撃波を巻き起こし、レインの体を吹き飛ばす。
重心を引っこ抜くかの様に、体に捻りを加えて衝撃を流し、難なく着地し砂埃を舞い上げる。
知らず知らずの内に、レインの表情に笑みが浮かぶ。強敵との戦いに、心の底から楽しそうに。かつて、ティオネとティオナの戦闘大好きのアマゾネス姉妹が顔を引きつらせて、言った『戦闘狂』とは、まさしくこの表情が言わせたのだろう。
ニヤリと、不敵に笑い半歩足を下げて構えを作る。
「―――こっから先は、一歩たりとも行かせないッッ!!」
―――英雄は高らかに咆哮し、一対一の激戦は幕を上げた。
◇◇◇
時をやや遡り―――、
先ほどまで行われていた大騒ぎの食事会の後、全員寝袋に包まり寝ていた中で、金髪の少女、アイズは瞼を開けた。
(……寝れない)
いつもなら、睡魔に襲われてぐっすりと寝ているのだが今日は何故か眠れなかった。
目を閉じれば浮かぶ情景に、アイズは微かに頬に熱を灯す。
―――――なんで、だろう。
いつもより彩鮮やかに目に浮かぶ少年の姿。無性に、今会いたくなった。いつも会っているハズなのに、話したハズなのに。どうしても、今二人で話したくなった。
そう考えるだけで、胸が高鳴り全身が熱くなる。アイズではどうしようもなく、感情が昂る。なんでこんな事になったのかさえ、何も分からない。ダンジョンに籠りきり、強さを一番に考えたアイズには、検討もつかない症状に戸惑う。
(……けど、レインに会ったらなにかわかるかもしれない)
もそもそと、寝袋が衣擦れの音をたてる。周りを見渡して、誰も今の音で起きてないかを確認しホッとする。そこからは、気配と音を殺してゆっくりとテントから外へと出た。
テント内に籠った熱とは別に、火照る体に吹き付ける冷たい風が心地よく感じた。
カーテンの様に靡く髪を、手で押さえつけて深呼吸する。
(……あ、でも。レイン、寝てたらどうしよう……迷惑かける)
胸の内で靄がかかった。レインに会いたい、会ったら感情のモヤモヤの内容がわかるかもしれない。だけどそれと同時に、自分の為だけに寝ているかもしれない彼に迷惑をかけてしまうのは嫌だ。テントを出て少しの開けた場所で、うろうろ歩き思案する。
【ロキ・ファミリア】の女性メンバーの数は約八割を占める。それというのも、
夜這い、なんてする男性メンバーは一人もいないのだが何かしらあってもおかしくはない、との事でテントが離れている。もしそんなことをすれば、すぐに話が知れ渡りした団員は蔑んだ目で見られるであろう。それが予期されるから絶対ありえないのだが。
(……とりあえず、確認してみていなかったら諦めよう)
そう結論づける。
寝てたら諦めて、皆起きてからでも話をすればいい。
決めてからは早かった。足早に、離れた男性メンバーのテントへと向かう。
幹部メンバーであるファミリア内でも、トップに立つ団長フィンを始め、ガレス、レインは個人テントである。ちなみにリヴェリアも個人テントの一人である。
レインが幹部に昇進したのは、前回の遠征の時だった。Lv.6になると同時に幹部になったのだ。
だからアイズは、レインがいるハズの個人テントへと赴き深呼吸を数回する。いざ、目の前まで来ると緊張して動きが固くなってしまうのだ。
「……よしっ」
内心で気合を入れて、声にだす。そろりと開けてみれば―――
「……いない?」
―――空になった寝袋がそこにはあった。
だとすれば、レインは寝てはいない。どこかで風を浴びているハズ。考えたとき、
―――――……あっちに、いる。
根拠はなかった。もしあるとすれば、勘、としか言いようがない。風が吹いた方向へと、ゆっくりと歩みを進めていく。
草木が生えた獣道、ザクザクと音を鳴らす地面。掻き分ける様にして、道とも呼べない道を進んでいき、「……あーっ、どうすっかな明日」声が聞こえた。
低い声。どこか意気消沈した声。けれども、その声はアイズが求めていた少年のもので、胸がトクンッと跳ねたのが鮮明に分かった。
やや拓けた場所、そこにある少し大きな岩の上で、周りを包んだ暗闇色の髪が風に撫でられて揺れる。やがて、悩む様な素振りでガシガシと、頭を掻き毟る。
「……あんな表情見たら、こっちだって意識するっつぅの」
やや見えたその顔に塗られた色は、赤。頬を薄く染め上げた緋色、神すらも嫉妬する整った容姿の少年の姿に目を奪われる。
(……いつも、見てるハズなのに)
―――――今日は、なんだかおかしい。
アイズのしなやかな両手が、胸を押さえつける。ドクドクと、何かを訴えるかの様な心臓の音が、直接脳内に響く様に全身を叩き付ける。
もう少し、もう少し近くで。更に一歩踏み出して、アイズの履くブーツの底が枯れ木を踏みつけて音を立てる。
「ッ、誰だ……?」
Lv6として、最高位の冒険者としてか。一瞬で緩んでいた顔が引き締まり、警戒と同時に立ち上がる。音が鳴った場所を射貫くように細めた目の色は、鮮やかな朱色。
驚かしてしまった、警戒させてしまったという事にアイズは茂みから姿を現した。
「……アイズ?」
「……うん」
キョトンと、どこか呆けた表情になったレインにアイズは言葉を返す。
「いっ、いつからそこにいたんだ?」
「……どうするかな、明日。って言うところから、かな」
「そ、そうか……よかった」
「……?」
「い、いや! なんでもないんだ」
またしても、頬を赤く染めたレインが大げさに両手を振って誤魔化す。普段見たことないレインの行動に、アイズはふふっと笑いを零す。
そのまま、レインが立つ岩石へと近づいて跳んで傍へと着地する。
「……寝れないの?」
「俺のセリフだよ、それ。……ま、まぁ、色々考えててな」
「なに考えてたの?」
「…………まぁ、色々かな」
よっこいしょ、と年に似合わない言葉を発しながら座り、「横座れよ、疲れるだろ?」ポンポンと、傍に座るように叩いて促す。
「……うん」
促されるまま、膝を抱えて座る。ボール一つ分の空白を開けて、二人は横に並んで景色を眺める。天井から微かに照らされる燐光に、どこからか聞こえる水音。現実逃避したくなる程の静けさに、胸中を満たす安心感。まるで、二人だけの空間かの様な錯覚すら覚える。
ここは、地上なのだろうか。そう思わせる程の平穏が生み出す幻想は、すぐに遠くから聞こえる魔物の声にかき消された。
ダンジョンにいる、その事実が押し寄せる。この一時が過ぎればすぐに、五十一階層への出撃が始まる。
―――――今までとは、違う。
ただの遠征ではなく、【ロキ・ファミリア】の新階層への到達を目標とした遠征。これまでとは違うモンスター、深層へと歩みを進めれば進める程に強くなる。
(……私、迷惑かけないかな)
これまでも散々無茶をしてきた、アイズ自身も答えれる程、身を削る様に戦いに身を投じた。幾度も剣を振るい、『強さ』を求める為に、ティオナ達の制止すら振り切って戦い続けてきた。そこには、高みを目指すためという理由もあるが、他の団員達に被害が及ぶなら自分一人―――アイズ一人の被害で留める為の理由もある。余りにも突貫しすぎるし、感情表現に乏しいアイズが、振り絞って考えた行動だ。
団員の為ならば、己が傷ついてもいい。病的なまでに、危うい思考は苦しくも結果を残している。
だが、今回はどうだ。五十九階層、文献だけでしか見たことのない領域。別名【竜の巣窟】。五十一階層に出現する
果たして今まで通りアイズ一人でなんとか出来るものなのか、手が届かず仲間達が傷ついたら? もしアイズの行動で、周りに被害が及んだら? 考えるだけで恐ろしかった。
「―――安心しろ」
「……え?」
不意にレインの言葉が優しく、アイズの耳に届いた。負の思考に陥っていた彼女は、知らず知らずに体を抱きかかえる様に、掻き毟るかの様にその華奢な体を震わして抱えていた。ギュゥと気づかぬ間に握りしめていた拳は、爪が刺さり微かに血を流していた。
レインの言葉に疑問を持ち、自分の体を確認し認識した時―――背後から抱擁された。
途端に、震えが収まった。背中から熱を持ち、アイズの肩に顎を乗せたレインの規則的な吐息が耳をくすぐる。
「……え、あ」
思考が停止する。レインの体温がアイズにも与えられ、全身が温もりに包まれる。耳から鼓膜を揺らすレインの吐息は甘く、アイズは脳が溶ける様な錯覚すら覚える。思考が定まらない、レインを探していた時よりも、見つけた時よりも激しく脈打つ心臓。それを知覚すると同時に、全身が急速に熱を帯びる。
(……っあ、私、おかしくなったのかな)
異常なまでの心音、真っ赤に熱を灯す頬。口から洩れる呼気に、唇が潤い瑞々しく艶やかさを灯す。
今まで以上に感じたことのない現象に、胸がキュゥッと締め付けられた。
「……く、苦しい」
「わ、悪い。力強くしすぎた」
「……あ」
慌てて申し訳なさそうにアイズから離れるレインに、言葉が漏れた。慌ててレインに、勘違いしてる、と言いたかったが思う様に言葉が出ない。
違う、苦しいのは胸で、レインは悪くない。むしろ、だから。
―――――もう少し、強く抱いてほしい。
その一言が出てこなくて、喉に異物が引っ掛かったかのように詰まって。どうしようもないもどかしさが胸中を占める。
ガシガシと、頭を掻き毟るレインの姿。顔を直視出来ない、見てしまえば更にどうかなってしまいそうだったから。
だから、ほとんど停止しかけていた思考に喝を入れて脳を回転させる。そして、思い浮かんだ言葉。
「ねぇ、どうしてレインは……そんなに強いの?」
これが一番ベストな質問で言葉なハズだ。脳内で、アイズは自分自身にナイスファインプレーだとサムズアップする。
「そんな強くもないけど、そうだな。ずっと
「……ずっと、昔? でも、レインは私と一緒に」
「まぁな。それよりも前、ずっと前の事だよ」
そう答えたレインの表情を見て、アイズはしまった、と思った。同時に、もっと知りたいと思う自身の愚かさに嘆く。
遠くを見つめる様に、赤の瞳は虚空を映し、儚げな、今にもどこかに行ってしまいそうな表情を浮かべていたから。
これ以上聞いてはいけない、けど聞きたい。アイズとレインが邂逅する前の話を、これが初めてではない。何度も聞いてきたけどはぐらかされていた。だから、今回もそうだ、でも―――と希望を持つ。
自身の好奇心が、レインを傷つけるかも知れないという事に心を締め付ける。
―――――それでも、聞きたい。知りたい、レインの事を。
「……私と会う前、【ロキ・ファミリア】に入る前は何をしていたの?」
「会う前……かぁ。そうだなぁ、ううん。なんて言えばいいかな」
はは、と空笑いするレインに、やっぱり傷つけてしまったという思い、胸がキュゥと痛くなった。
「……無理して、言わなくても」
そう告げようとして、「―――英雄、やってたよ」遮られた。
「……英、雄?」
「そ、英雄。意味わかんないだろ? 自分でもおかしいけどさ、まぁ、そうだなぁ……そうだ、いいこと思いついた」
「いいこと?」
「おうっ。アイズがLv6になったら、俺の昔話してやるよ」
「本当……?」
「当たり前だよ、俺が嘘ついたことあったか?」
その言葉に、先ほどの食事会での光景がアイズの脳裏をよぎった。だから、思わず首を横に振る。
「ううん、なかった」
「だろ? でも、普通信じれない話だ。ロキにだって、フィンにだって言ったことない話だ」
「ロキと、フィンにも……?」
「ああ。死んでも話さないって、信じてくれないだろうっ思ってたからさ」
どこか孤独そうに、紡がれた言葉は力なく。アイズは、そんなレインの姿に唇を噛む。
(今まで、どうして気づいてあげれなかったんだろう)
レインはいつも気づいてくれて、気遣ってくれ支えてくれていた。なのに、どうして私は気づいてあげれなかったのだろう。
元気に振る舞い笑う姿に、騙されて―――否、気づけなくて。その実、内心では孤独を感じていたハズなのだ。だって、こんなに儚く笑うレインを初めて見たから。
「―――信じる」
「……えっ?」
思いのほか言葉はすんなり出てきた。
「レインが、私を信じてくれたみたいに……私もレインを信じる。だから」
一呼吸を置いて、一度閉じた瞼を開きレインをその金の瞳に映す。戸惑ったようにはにかむ彼の姿に、笑みを零す。
「だから―――Lv6になったら、話してね」
「……はは、参ったな。わかったよ」
降参だ、そういう様にやれやれと両手をあげて笑うレインにつられて笑う。
(……結局、あの現象がなにか聞けなかった)
風が髪を柔らかく撫でて通り過ぎていく。靡く髪はカーテンの様に広がり、それを手で押さえつける。
―――――まぁ、いいかな。
今回の遠征を頑張れば、もしかしたらすぐに昔の話を教えてくれるかもしれない。
そう考えるだけで不思議と心が温まった。
「―――んじゃ、そろそろ寝る……か……、ア、アイズさん?」
「……まだ」
「ま、まだ?!」
レインの体に寄り添って、再び感じる温もりに瞼を閉じる。隣で顔を赤くして騒ぐレインの口に人差し指を押し当てて、ふふっと笑いを零す。
あと、もう少しだけ。あと少しだけこの穏やかな時間を二人で。
―――――まだ、もう少しこのままでいさせて。
その言葉は、外へと出る前に口の中で溶けて消える。今はただ、この静かな時間を。
【剣姫】は、まだ気づかない。まだわからない感情に心地よさを感じ、レインへと温もりを求めて寄り添う。もし気づいた時に、名前をつけるとするならば、それは―――――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
あらすじ、の方にも書かせていただきましたがルーキー日間と、一瞬だけですが日間ランキング十二位になりましてありがとうございます。
あたたかな感想と評価に胸いっぱいです。
ただ、評価一点の方や五点以下の方、評価をくれて嬉しいのですがどこが悪かったのかなど一言つけてくれればこれからも精進できるのに! と少し思います、我がままですが。
タグに書いてある時点で、こういったテンプレ系はえり好みも激しいと思いますし、見らず嫌いなどもあると思います。好みの内容で、文章が残念。とかなら、頑張れますが、もし日間をいただき、ただのいやがらせで一点! とかであれば、個人的に不快ですので正当な評価でお願いします。
自己満足の小説で、実際自分が見たい内容を書いているだけなので見てて気分悪いかもしれませんが、乗せるだけ、見せれるだけの努力はしていきたいですので酷評でもなんでもいいのでお願い申し上げます。
以上、長々ともうしわけありません。
感想、評価などおまちしております。