GATE 一方通行は異世界で何を見る   作:4649 ヤマト也

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第二話「炎龍」

「起きて一方通行。ご飯出来たよ!」

 

 

テュカは一方通行を起こそうとするが謎の壁の様な物のせいで、一方通行を揺さぶるどころか、触れることさえ出来ない。こちら側からはどうする事も出来ないので、彼が自然に起きるのを待つしかない。テュカが暫く一方通行をどう起こそうか苦悩していると一方通行の目がパチリと開く。

 

 

「…………あァ」

 

 

一方通行は静かに上体を起こす。するとテュカは怒ったように

 

 

「もう!起きてるなら何か言ってよ。心配するじゃない」

 

 

一方通行は顔をしかめ

 

 

「お前は俺の親か何かか?」

 

 

そう言うとテュカは顔を赤くして「バカ!!」と言った。

 

 

 

 

 

たったの一週間と一日が経過しただけだというのに一方通行はすっかり集落の住人の一員となっていた。住人達が友好的なのもあるだろうが、テュカとずっと一緒にいるため(テュカが勝手に着いてくる)、一方通行の印象が良いように感じられているのかもしれない。最初こそは目つきの悪さと見た目の影響や、違う世界から来た異端者のため、地味に避けられていたが今は全くそんな事は無い。

 

 

 

 

朝食を取っているとテュカが一方通行に笑顔で話し掛けてきた。

 

 

 

「ねぇ一方通行、今日は一緒に散歩に行こうよ」

 

 

「今日は駄目だ。1日だけでも放っておいてくれねェか?」

 

 

最初にこの世界に来た時、反射が展開されていなかった事がある。一方通行にとってこの事象は死活問題である為、今日は反射の設定を一から組み直すことにした。その為には長い時間一人でいる必要がある。周りに人がいても迷惑極まりない。

 

 

「今日は書斎で本を読みてェンだ。それにずっとお前が俺とベッタリしてたら変な噂もたったら迷惑だしな。」

 

 

一方通行からしたら変な噂が立っても、痛くも痒くもない。だがテュカは違うはず、こう言えばテュカも考え直すだろう。

 

 

「大丈夫!私バイセクシャルだから!」

 

 

予想の遥か斜めを行く返答が帰ってきた。

そういう問題じゃ無い

 

 

「お前が大丈夫でも俺が迷惑すンだよ」

 

 

一方通行がそう言うとテュカは悲しそうな顔をする。

 

 

「一方通行は私と一緒にいるのは嫌なの……?」

 

 

普通の男性なら「やってしまった」と後悔するだろうが、一方通行はそんな事は微塵も思わない。邪魔だから切り離す。

 

 

「そうじゃねェ、”今日だけ”だ。一日だけでもいいから放っておいてくれねェか?」

 

 

テュカは唸ったが「半日だけ」を条件に半日だけ離れる事になった。一方通行にとっては半日は十分過ぎるくらいだ。だが何故テュカはそんなにも自分を気にかけるのだろうか?そんなに深い関係を築いている訳では無いし、赤の他人に等しいというのに。

 

 

「今の話で聞いたと思うが、後一日書斎を借りるぞ」

 

 

一方通行がホドリューにそう言うと彼は快く了承してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、やっと静かになったな……」

 

 

一方通行は深い溜息をつく、主に自分に付き纏うテュカのせいだが。まぁ一旦離れる事に成功したので、良しとする。

 

 

「ンじゃ、死ぬ程怠ィが始めるか……」

 

 

コキコキと首を鳴らし床に座る。そして、壁を背にすると深呼吸をしてから目を瞑る。一人で反射の設定をするのは初めてだ。今まで使用してきた反射は木原数多と組み上げた物である。一方通行にとっても余りいい思い出では無い。あのクサレ外道の顔を思い出すだけでも腹が立つ、もし今木原が目の前に居たらすぐにでも殴り掛かれる自信があるが今は反射の設定に集中する。

 

 

 

能力を全てOFFにして集中的に反射の設定に全て注ぎ込む。反射膜をもう少しだけ身体の近くに寄せる。その分、前のスペースまで反射膜を分厚くして強度を上げる。有害なものへの対処は前回の反射のを併用して設定。ンなもンだろ。

 

 

「……ハァ……頭痛ェ」

 

 

一方通行は頭を抑え、汗を拭う。

 

 

 

何時間経ったか分からないが取り敢えず設定は完了した。能力を手にした初期の頃とは違い大分複雑な演算も出来るようになったため、木原数多が居なくとも反射の設定には余り苦労しなかった。それでも木原数多が居た方が早く済んだと思うが。

 

 

 

「そろそろ出るか」

 

 

書斎から出ると目の前の部屋からホドリューが丁度出てくる所だった。

 

 

「ん?もう書斎での用は済んだのかい?」

 

 

「あァ」

 

 

ホドリューは「そうか」と言った。

 

 

「どうかテュカと仲良くしてやってくれ」

 

 

突然名に言い出すのだろうか?不思議に思ったが一方通行はその質問にこう返した。

 

 

「……無理だな」

 

 

ホドリューは再び「そうか」と笑いながら言った。そしてこう続ける。

 

 

「だが、君がここにいる時だけはテュカの事を気にかけてやってくれ。あの子がこんなに他人にベッタリしているのは私以外無かった事だからね。君は特別なのかな?」

 

 

「それは嬉しい限りだな。嬉し過ぎて笑っちまいそうだ。」

 

 

一方通行はそう言い残し、家から出て行く。暗く閉塞感渦巻く書斎に籠っていたからか、風を受けたいと思った。

 

 

 

一方通行は外に出ると空を仰ぎ見る。そろそろ夕方になる。そんなに時間が経っていたのか。一方通行が黄昏ていると何処からか一方通行を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

「一方通行〜!」

 

 

一方通行が声をした方向を向くと案の定テュカがこちらに手を振っていた。テュカは近所のエルフ達と集落の中心にある井戸に集まっていた。一方通行はふと、何故か先程のホドリューの言葉を思い出す。

 

 

『 君は特別なのかな?』

 

 

「……………くっだらねェ」

 

 

 

突然、生温い突風が巻き起こる。強い風ではないが高温で温められたような風が一方通行の頬を撫でる。

 

 

「…………」

 

 

今日はどこかいつもと違う。ねっとりと纏わり着くような嫌な雰囲気がある。今夜は何かが起こるのかも知れない。それに最近、夜な夜な遠くで何か衝撃が起こっている気がするのだ、爆発に地面が揺れているような。

一方通行は怪訝な顔付きになるが遠目にテュカの笑顔が見えた途端、どうでも良くなった。

 

 

 

「はっ……何が起ころうが関係ねェだろ。なる様になるだけだ」

 

 

 

一方通行は再び太陽が赤く染まり始めた空を見上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行は今、ホドリュー達と食事をとっている。先程からテュカやホドリューが騒がしくしているが、一方通行はもう慣れたようで自分の胃の中にエネルギーを流し込むことに集中する。

 

 

「そうそう、一方通行聞いてよ」

 

 

テュカが話し掛けてきた、無視しても良いが、一方通行は目だけをテュカに向ける、目だけでも相手に向けた時は話をしてもいいという合図だ。それを確認したテュカが話し出した。

 

 

「えっとね、この集落を抜けてずっと行くとね?他の集落に行けるんだよ?そこは一方通行と同じ人間の人達が居るから。また今度にでも、一緒に行かない?」

 

 

「…………」

 

 

一方通行は黙ってホドリューを見る。ホドリューはそれに気付くと

 

 

「君が良いなら行ってきたらどうだい?でもそこまで結構かかるし今から行った方がいいかもしれないね。朝方には着くはずだよ。」

 

 

「やっぱりこうなンのかよ……」

 

 

コイツ(ホドリュー)を当てにした俺が間違ってたのか……

つーか、注意くらいしろよ。

コイツ等何でンなに危機感ねェンだよ……

 

 

「ほら!お父さんもこう言ってるし行こうよ」

 

 

「…………何しに行くンだよ。」

 

 

行くと決まったわけじゃないが、何をしに行くかくらいは聞いてもいいだろう。

くだらない用事だったら確実に行かないが。

 

 

「その集落だけが用事なんじゃなくてね。なんか最近一方通行とは別に遠くの方で違う世界から来た人達がいるらしいの。」

 

 

自分とは別に、違う世界から来た人達というのには多少興味が湧いた。

 

 

「あぁ、そうらしいね」

 

 

どうやらホドリューも知っているらしい。エルフの情報網も侮れないと、一方通行は思った。

 

 

「確証はあンのか?」

 

 

一方通行が食い付いたのが嬉しいのかテュカが笑顔になる。

 

 

「確証は無いけど実際に見てみる価値はない?」

 

 

そう言われるとそうだが、もし無駄足だったとしたらどうしてくれよう。

 

 

「確証ならあるさ、最近帝国の兵士達が進軍してるのを狩りをしている時に遠目で確認した仲間がいるからね。」

 

 

どれだけ離れているかは知らないがよく帝国の兵士だと分かったものだ。

 

 

「……分かった……行ってみる価値もありそうだしなァ」

 

 

本当の事ではないのか?と思ってしまっては断る理由も無くなる。気分はあまり乗らないが「なる様になる」と言ったのは一方通行だ。何とかなるだろう。

 

 

「やった!決まり!」

 

 

テュカは笑顔で嬉しそうだが、一方通行からしたら面倒臭いの一言に尽きる。自分の他に別の世界から来た人達と言う物に会ったとして、どうする気も無いのだが。今更何も言えない。

 

 

「それじゃ今から出発しようか?」

 

 

気が早い。それに一方通行は置いておいて、テュカには準備があるだろうに……

 

 

「お前には準備があるだろうが、俺が先に出るから後で追ってこい。お前の身体能力なら直ぐに追い付くだろ。」

 

 

一方通行が本気を出したら追っては来れないが、そこの辺りは一方通行も承知しているだろう。

 

 

「うーん……じゃぁ、私の準備も長くなるだろうから先に行っていて、ひとりで大丈夫?」

 

 

「あァ、自分の身を守る方法は心得てる。」

 

 

テュカの心配など毛程も必要無い。もし仮に一方通行に歯向かう者がいた場合は一瞬で挽肉になってしまうのだから。

 

 

「あっ、そうだ一方通行君、ちょっと待ってなさい」

 

 

ホドリューはそう言うと席を立ち自分の部屋に入って行った。

暫くしてホドリューが出て来た、その手には一本の得物が握られていた。

 

 

「これを持って行きなさい」

 

 

ホドリューが渡して来たのは一本の長剣、これをどうしろと言うのか?

 

 

「何の真似だ?」

 

 

「まさか丸腰で行くつもりだったのかい?君では無茶だろう」

 

 

ホドリューは一方通行のとても細く、弱々しい体を見る。一方通行は察したのか溜息を吐く。

 

 

「…………使い方わからねェよ」

 

 

「また今度私が教えてあげるよ」

 

 

「一朝一夕で覚えられるモンじゃねェだろ」

 

 

「それもそうだね。あっ…一方通行先に行くんだよね?じゃぁさ、この集落を出てずっと歩くと丘があるの。そこに一本だけ大きな木があるから、そこで待っててくれない?」

 

 

「あァ」

 

 

一方通行は席を立つ、テュカも席を立ち直ぐに自分の部屋へ向かった。この場には今、ホドリューと一方通行が居るだけだ。

 

 

「…………」

 

 

一方通行は何も言わずに外に出て行こうとする。

 

 

「剣は置いていくのかい?」

 

 

一方通行は振り返らずに「邪魔になるからな」と言った。

ホドリューは、いつもの様に「そうか」と笑いながら言う。

ホドリューもどこか察しているのだろう。

一方通行が普通の人間ではない事に。普通ならば気付かないはずが無い、圧倒的な学習能力、”特殊な事例”による常人とは違う目の色や髪色。

 

 

「もう少しだけ……君の事を教えてくれないかい?」

 

 

「その内にな」

 

 

これは嘘だ。一方通行にその気など無い。深く関係を持つことを拒否する一方通行には到底話せはしない。

 

 

「そうか……なら頼んだよ。」

 

 

「……あァ」

 

 

一方通行は振り返らずに外に出るための扉を軽々と開く。その場にはホドリューだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行は今日二度目になるが空を仰ぎ見た。空は雲一つ無く月の光と星の光が良く見えている。相変わらず纏わり付く雰囲気は変わらない。この集落に何かが起こる。何故かそんな気がしてならないのだ。だが一方通行はその直感に良く似た何かを胸の奥底に終い込む。

 

 

「……」

 

 

一方通行はテュカが言っていた待ち合わせ場所の丘を見る。急ぐ必要も無いがゆっくりする必要も無いので、彼は彼を見ている誰かがいないか確認すると、能力を発動させる。

 

 

ゴウッ!!ととてつもない突風吹き、渦巻く空気が一方通行を包み込んだ。段々と彼の体を包んでいた風が渦を巻きながら一方通行の背中に移動していく、彼の背中の中心あたりで風は固定され竜巻が彼の背中に生えているかのように見える。

 

 

一方通行は何かにピクリと反応する。

 

 

「……風が微妙に変わったな」

 

 

彼はこの付近の空気の流れを掌握し、今竜巻を展開し操作している。何が言いたいかと言うと、「不規則な空気の動き」つまりは一方通行が予測していない空気の動きがあると、一方通行はそれを感知することが出来る。今現在、彼が予測していない風の動きがあった。

 

 

展開していた竜巻を分散させる。

 

 

「何かデカイのがいるな」

 

 

この不規則な風の微妙な変動……何かが空を飛んでンのか?

 

 

一方通行は全演算力を注ぎ込む。

 

まずは風の微妙な動きをデータ化し物体が何km離れた位置に居るかを計算する。

 

 

 

「割と早い……この調子だとあと数分でここに来るな。」

 

 

 

一方通行はその場から数歩前に進み集落の一番端に移動する。小さな集落のため直ぐに移動できた。そこで一方通行は大きな何かが向かってきている方向をただ見据えた。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし!準備出来た!弓もちゃんと引けてるし大丈夫かな」

 

 

テュカは自分の部屋で1人黙々と準備を進めていた。その手には狩りに使うには少し大きいような弓が握られていた。弦を引くのにも相当な力が必要だろう。信じられないが軽々と引いている。矢倉にも20本程の矢が入っている。

 

 

そろそろ、一方通行もここから丘まで半分位の距離かなぁ。ちょっと早いけど出発しよう!

 

 

テュカは自分の部屋から出て、先程まで食事をしていた机で本を読んでいる父に声を掛ける。

 

 

「お父さん、それじゃぁ私行ってくる……」

 

 

テュカは父に声を掛けたがホドリューが座っている椅子に立て掛けられている剣が目に入る。先程ホドリューが一方通行に渡していた筈の物だ。

 

 

「お父さん……その剣、一方通行に渡したんじゃないの?」

 

 

テュカは途端に一方通行が心配になった。もし丘に行く途中で猛獣にでも襲われていたら。この森には狼もいるし他にも色々な動物が棲息している。

 

 

「これかい?一方通行君が要らないと言っていたんだ。きっと彼ならもし襲われても対処できると思うよ?あの彼が考えも無しに森に入っていくわけないだろうしね。 」

 

 

「それもそうだけど……」

 

 

「彼なら大丈夫だよ」

 

 

根拠ならある。彼は話さないがホドリューには分かるのだ。彼には常人とはかけ離れ過ぎた存在であると。そうでなければあの様な顔付きになろうはずが無い。彼はその年齢に見合わない目をしている、どれ程の絶望と苦労を味わったら、彼の様な狂気を含んだ目になるのだろうか。

 

 

「さぁ、早く行っておいで。彼を待たせちゃいけないよ。」

 

 

テュカはホドリューにそう促され、心配そうな顔付きながらもコクりと頷く。

 

 

「行ってきます」

 

 

テュカは家から出て行く。

 

 

「…………」

 

 

ホドリューは机の上にある、冷え切った飲物を口に運ぶ。それを飲み込む。

 

「……ふぅ、冷たいな」

 

 

ホドリューは中断していた読書を再び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テュカは家から出るとすぐさま丘に向かって歩き始めた。今日はとても月が綺麗で星も良く見えている。だが、昼から纏わり付く様な嫌な感じは健在だ。生温い風が未だに吹いている。

 

 

「うわっ!」

 

 

そこでいきなり突風が吹き荒れる。近所の家の窓がガタガタ揺れる。テュカが「もう……何?」と風がした方向を向く。テュカが向いた方向。そこは自分が今目的地としている丘から全く逆の方向。そちらを向くと月明かりに照らされた白いモノが見えた。

 

 

「……一方通行?」

 

 

間違いない、一方通行だ。あの白い髪に間違えようの無いおかしな服装だった。彼はこちらに背を向けている。彼が向いている方向に何かがあるのか?そう思ったテュカはゆっくりと視線を上げる。

 

 

「あっ!アレは!!」

 

 

 

 

「着やがったな……随分デケェ、トカゲだな」

 

 

一方通行はクックッと笑いを漏らす。その目は狂気に満ち。こちらに向かってくる物体を見据える。自然と口角が吊り上がる。一方通行はただこちらに向かってくる物体を見ていたが突然後ろから声が掛かった事に少し驚き振り返る。

 

 

「一方通行!!」

 

 

テュカだその手には弓が握られている。そうか、もうそんなに時間が経っていたか。一方通行はずっとこちらに向かってきているモノを返り討ちにするため待っていたのだが、もう数分の時間が経っていたらしい。

 

 

「おい、あれが何か分かるか?」

 

 

「一方通行そんな事言ってる場合じゃないよ!!早く皆に知らせないと!!」

 

 

テュカがとても取り乱している、何をそんなに取り乱しているのだろうか。ただ空飛ぶデカイトカゲがこちらに向かって来ているだけだと言うのに。一方通行がそう思っているとテュカが叫んだ。

 

 

「皆!!大変!!早く逃げないと!!!!」

 

 

一方通行は初めてここまで取り乱すテュカを見る。それ程まで大変な事態が今から起きるのだ。テュカの声に気付き集落の住人たちが続々と家から出てくる。まだ状況が把握出来てないのが全部だ。

 

 

「炎龍が来た!!逃げないと!!!!」

 

 

「炎龍」と言う単語を聞いた途端、エルフ達の顔付きが変わる。酷く取り乱す者、そそくさと家に武器になる物を取りに行く者。だが、どんな武器を持ってこようが、あの大きさの怪物には無意味だろう。

 

 

「ほら一方通行も早く逃げよう!!お父さんにも知らせないと!!」

 

 

テュカは一方通行の手を掴もうとするが謎の壁に弾かれる。

 

 

「っ!?」

 

 

テュカは弾かれたことに驚く。二回目の体験だが全く意味がわからない。なぜ弾かれたのか?一方通行は微動だにせず冷たく言い放った。

 

 

「逃げたいなら勝手に逃げろ。だが俺は無理だ」

 

 

一方通行が言った事にテュカは驚いたが直ぐに抗議した。

 

 

「どうして!!駄目だよ早く逃げないと!!!!」

 

 

こうしている間も「炎龍」は集落に近付いている。もう迷ってはいられない。一刻も早く逃げなければここに住んでいるエルフ達は皆殺されてしまう。

 

 

「テュカ!!一方通行君!!」

 

 

テュカが一方通行を説得しているとホドリューが急いでやって来た。こちらに来る途中に他のエルフ達にすぐに逃げるよう促す。

 

 

「お父さん!!!」

 

 

「テュカ、炎龍は!!」

 

 

ホドリューがそう言うとテュカは「炎龍」がいる方向に指をさす。その方向には確かにとても巨大な物体がこちらに向かって来ている。

 

 

「くっ!テュカ!早く逃げなさい!!一方通行君も早く!」

 

 

ホドリューがそう言うと初めて一方通行は動いた。テュカは「ほっ」と胸をなでおろすが、直ぐにそれは砕け散った。

 

 

「一方通行!!??何をしているの!!」

「一方通行君何をしている!!早く逃げるんだ!!」

 

 

一方通行は炎龍のいる方向に向かって歩き出す。

 

 

「勘違いすンな、俺はただ借りを返すだけだァ」

 

 

もう数10mまで近付いてきた炎龍を見やる。近くで見るととても迫力がある。ビル程大きなトカゲは大きく羽ばたいた。

 

 

 

「きゃっ!!!!」

 

 

「テュカ!!!」

 

 

風圧にテュカとホドリュー、他のエルフ達も吹き飛ぶ。唯一吹き飛ばなかったのは一番炎龍に近い一方通行だった。

 

 

「……ったく、トロトロしてンじゃねーよ」

 

 

一方通行が吹き飛ばされたテュカやホドリューを含むエルフ達に吐き捨てる。一方通行がエルフ達方を見ていると、炎龍が集落に降り立った。丁度一方通行の真ん前だ。

 

 

「一方通行!!!逃げて!!!」

 

 

吹き飛ばされていたテュカは傷付いた体を何とか起こし、一方通行に向かって大声で叫ぶ。

 

 

だがもう遅い。炎龍の口からブレスが発せられる。超高温の炎は一方通行を包み込み、家を包み込んだ。近くにあった木々も一瞬で炭化する。離れていたエルフ達にも超高温の炎が襲い掛かる。

 

 

「っ!!テュカ!!」

 

 

ホドリューはテュカを庇うように炎を立ち塞がる。だがそんな行為は全く意味が無い。超高温の炎はたかが一人の壁で防げる程優しくない。

 

 

 

チリチリと皮膚が焼ける感覚がする。全てがスローに見え始めた。

炎がゆっくりとこちらに向かって来ている。

 

 

あぁ、私死ぬんだ……

 

 

テュカは諦めて、静かに目を閉じる。

 

 

その時聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

「……だからトロトロしてンなよ」

 

 

 

テュカがハッ!と目を開く……テュカ達の前には今さっき炎に呑み込まれたはずの一方通行が立っていた。

 

 

「一方通行!!??」

「一方通行君!!!!」

 

 

 

テュカとホドリューが思わず叫ぶ。

 

 

 

「さっきからうるせェな……お前らも、馬鹿でけェトカゲも」

 

 

 

一方通行は軽く手を振った。ただそれだけの運動でとてつもない風が吹き荒れる。テュカ達は突然の出来事だがギュッと目を閉じた。

先程炎龍が羽ばたいた時以上の風を感じるが、何故か自分達は吹き飛ばされない。

 

テュカ達はゆっくりと目を開ける。

先程の風のせいだろうか、自分達を包み込もうとしていた炎は消えていた。何が起こったかわからないエルフ達一同は一方通行を見る。

 

すると目の前の一方通行はこう言った。

 

 

「生きてるか?」と

 

 

 

「死なれたら俺も後味が悪いからな」

 

 

一方通行がそう言っていると再び炎龍が超高温のブレスを吐くが同じ事。一方通行が起こすハリケーンクラスの風がブレスをかき消す。

 

 

「同じ事するしか能がねェトカゲ風情が……」

 

 

一方通行は炎龍に近付く。炎龍は羽ばたき空中に飛び立つ。一方通行はそれを見て、自分も空気の流れを操作し自分の背中に4本の竜巻を接続する。

 

 

「逃がすかよ、そのデカイ羽切り取って愉快なオブジェにしてやンよ」

 

 

一方通行は狂気に満ちた目を炎龍に向ける。炎龍は飛びながら一方通行にブレスを吐く。

 

 

「意味無いってのが分かンねェのかァ!?あァ!?」

 

 

一方通行は今度は腕を大きく振る。

 

 

今まで発生させた風とは比べ物にならないほどの風圧が炎龍を襲う。

巨体がぐらりと揺れる。羽を上手く動かせず、頭から地面に落下する。

 

 

 

 

大きな土埃が巻き上がる。

 

 

 

 

炎龍は何とか起き上がろうとのた打ち回る。

 

 

「ギャハ!!!何だ何だよ何ですかァ?そのザマァ!!??」

 

 

一方通行は地面に降り立つ。そして地面を思いっきり踏み込む。

 

 

「おらァ!!起こしてやっから感謝しろォ!!」

 

 

地面を踏み込んだ瞬間、炎龍の巨体がドンッ!!と浮き上がり集落から更に離れた所に吹き飛ぶ。次の瞬間には炎龍は落下し再び土埃を巻き起こした。炎龍の体からはメキメキと変な音がしており、炎龍も苦痛の咆哮を上げる。一方通行は再び上空に移動する。

 

 

「そろそろ遊びは終わりだ。」

 

 

一方通行はそう言うと腕を上空に掲げる。

 

 

「オラオラ!!へばってンじゃねェぞ!!」

 

 

一方通行よりも遥か上空、そこでは風が吹き荒れ、中心では何やら青白く輝く物体が作られていく。

 

 

「これをやンのは二回目だけどよォ、あン時よりもデケェの見舞ってやらァ!!敗者復活戦は無しだ!!」

 

 

上条当麻と戦った時より大きなプラズマが出来上がっていく。土埃を巻き込み、木々も巻き上げながら。

 

 

「ヒャハ!!まだ!まだだ!!!もっと圧縮しろ!!」

 

 

プラズマは半径10程の大きさになる。とてつもない演算量で頭が割れそうに痛いが、今回は上条当麻との戦闘とは違い自身の身体には全くダメージを受けていないため、演算の障害は無い。心置きなく能力を全力で使える。そして遂に彼の頭に限界が訪れる。

 

 

「ッ!!そろそろ限界か……」

 

 

一方通行は自身が作り出したプラズマを見る。そして今までに無いほど口角を吊り上げる。

 

 

 

「……落ちろ。」

 

 

 

一方通行がそう言うとプラズマが落下を始める。

 

 

 

集落には極力被害を出さないよう調整はするが、間違いなく炎龍を中心とする半径数100mは確実に吹き飛ぶ。摂氏10000度を超える超プラズマだ炎龍がいた痕跡さえ残らない全てが気化する。

 

 

 

炎龍が逃げようとする、だが 悪魔はそれを許さない。

 

 

 

「その羽邪魔だろ?とってやるよ」

 

 

 

プラズマが降ってくるまで少し間がある。

一方通行は炎龍の巨大な翼に近付く。

 

 

炎龍は抵抗しようと暴れるが一方通行には関係無い。

一方通行が翼を切り取ろうとした時に何かを思い付く。

 

 

「アッハァ!!面白ェ事思いついた!!試してェ事あンだけどよォ、試してもいいよなァ!?」

 

 

一方通行は演算をフルに行う。プラズマの複雑な演算に加え、とてつもない演算量に脳がパンクしそうだが何故か演算は止まらない。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

彼は叫び、頭を抑えながら空を仰ぐ。プラズマがそろそろ地面に着弾する。だがまだ間に合う。息を荒らげながら一方通行は言った。

 

 

「……演算完了……行くぜ」

 

 

一方通行が脳をフルに動かし掌握したのはこの惑星の自転、このベクトルを使う。彼が思いついた事、それは

 

 

「なァ、トカゲ。空飛びてェヨナァ!!??」

 

 

一方通行は目の前にあった炎龍の巨体に思いっきり手を押し込む。抑え込まれた腕は段々と掌から炎龍の体にめり込んで行き、最終的には肘の当たりまでズッポリと炎龍の体に食いこんだ。

 

 

「ァァァァァアアアアア!!!!!」

 

 

一方通行が叫んだ刹那。

 

 

炎龍の巨体がプラズマ目掛けて吹き飛ぶ。

 

 

一方通行は自転のベクトルを自分の腕に集中させ炎龍を投げたのだ。とても無茶苦茶なことをする。これで自転の回転は数分遅れた。

 

 

 

プラズマに炎龍が接触する。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、世界が白くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった。」

 

 

 

 

一方通行は呟く。辺りにはクレーターが出来上がり、彼はそのクレーターの中心にいた。巨大なプラズマが炎龍に接触したことにより、プラズマが崩壊し大爆発を起こしたのだ。一方通行が気体を圧縮したことにより出来たプラズマ。圧縮されたエネルギーは一気に放出され想像以上の被害をもたらした。集落の家や森は吹き飛び、炎龍がいた痕跡は遠くに腕の一部が千切れ飛んでいるモノ以外残っていない。

 

 

 

「戻るか…… 」

 

 

 

一方通行は集落があった所まで戻ろうと能力を使う。

地面を踏み込み、足の裏にかかるベクトルを逆向きにする。

彼の体は勝手に前に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一方通行…… 」

 

 

集落跡地に戻ってくると、テュカやホドリュー、その他のエルフ達が黙って一方通行を見ていた。

 

 

「……」

 

 

一方通行は何も言わずに黙っていた。だが、遠くから何かが近づいて来る音が聞こえる。一方通行はテュカ達の元に歩いて行く。その姿をエルフ達は何も言えずにただ、一方通行のしている事をただ見ているしか無かった。

 

 

 

「……」

 

 

一方通行はエルフ達の間を通り過ぎ、何が近づいて来ているかを見据えた。段々と音が近づいて来る。音が近づいて来るに連れ太陽が昇り始めて、辺りが明るくなってくる。こちらに向かって来ている物は太陽の光を反射し輝いている。

 

 

「あれは何?」

 

 

ここで口を開いたのはテュカだ、テュカが口を開くと他のエルフ達もザワザワしだした。

 

 

「さァな……だが、俺は知ってる。あれは……」

 

 

この音は間違いなくエンジンの音。この世界にも車があったのか……

 

 

段々と近づいて来ている物体が見えてきた。暗い緑の色をした車。一方通行はその車に向かって歩いて行く。テュカも一方通行を追おうとするがホドリューに腕を掴まれ止められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車は一方通行の目の前まで来て止まった。

車の中から四人ほど人が出てくる。迷彩服を着て小銃をこちらにこそ向けていないが、いつでもこちらを撃てる準備は整っている。乗ってきた車はどうやら装甲車のようで、車の屋根には機関銃が取り付けられている。

 

 

 

車から降りてきた人物達の中で30歳辺りの男性が一人の小柄な女性を連れて一方通行の真ん前に歩いてくる。一方通行はいつでも目の前の人物達を挽き肉にできるように身構える。

 

 

 

一方通行の近くまで来ると、30歳辺りの男性がメモ帳の様なものを出し、不慣れながらも話しかけてきた。

 

 

 

「私達、敵じゃない、話、聞いて欲しい。」

 

 

グダグダだがちゃんとこちら側の言語だ。

一方通行が言葉を返そうとすると隣にいる小柄な女性が話し出した。

 

 

「本当に通じてるんですかね」

 

 

一方通行は確信を持った。日本語で話す人間、間違いない。これが自分の他にいると言う「この世界に来た人達」。

 

 

「いや、大丈夫伝わってるって」

 

 

一方通行は日本語で話す。

 

 

「日本語で大丈夫だ。」

 

 

「!!??」

 

 

二人はとても驚いている。ポカーンと口を開いてアホヅラでいる。とても滑稽だ。

 

 

「に、ににに日本語話せるの!?」

 

 

男性がとても驚いた顔で一方通行を見る。

 

 

「話せるっつってンだろうが」

 

 

この世界に日本語を話せる人物が居るとは思っていなかったらしい、まぁソレも迷彩服の人物達を除きこの世界に一方通行しかいないが。

 

 

「ンで?何しにきやがった。」

 

 

一方通行が質問すると男性が慌てながら答える。

 

 

「えっ、えっとこの先に集落があるって聞いて来てみたはいいんだけど……あっ!そうだ!さっきの爆発は!?ドラゴンは!?怪我人はいるの!?」

 

 

ドラゴンの事を知っているということは離れていた所で見ていたようだ。あれ程の大きさのドラゴンなら遠目でも分かるだろうが、それならプラズマもちゃんと見えていたようだ。

 

 

「怪我人はいねェ。あのデカイトカゲなら腕だけだが向こうに転がってるぜ」

 

 

一方通行は先程ドラゴンを滅した方向を指さす。

 

 

「それよか話の続きだ。お前らは何者だ?別の世界から来た奴らってのはお前らだろ。」

 

 

一方通行が捲し立てる。男性は頷きながら

 

 

「うん、僕は伊丹。自衛隊所属だ。今は特地……じゃなくてこの世界を調査しに来てるんだ。」

 

 

自衛隊、聞いた事があンな……日本の平和と独立を守り、国の安全を保つ為に国民と領土を防衛する巨大な組織……だったか

 

 

一方通行も一応の知識はあるが学園都市と言う独立国家のような場所にいる彼には全く関係の無い存在だった。

 

 

「そろそろ君の事を教えてくれないかい?僕だけ教えるのは不公平だろ?」

 

 

伊丹と言う人物がそう言うと一方通行が答える。

 

 

「学園都市が分かったら十分だろ。」

 

 

一方通行は興味なさげに気だるそうに言う。

伊丹と隣の女性が顔を地味に歪める。

 

「学園都市ってあの?………」

 

 

伊丹は黙り込んでしまった。

 

 

こんな反応も無理は無い。学園都市は確かに日本にあるが、学園都市自体が交流を避けているため。日本政府は学園都市にほぼ介入していない。学園都市と日本政府はあまり仲がよろしくない。

 

 

 

しかも、この一方通行は学園都市の第一位、学園都市の最高重要機密だ。そんな一方通行が日本政府側である自衛隊と接触した。これが世の中に知れたら大騒ぎになる。

 

 

「驚いたか?俺はその学園都市の10万人いる生徒の中の頂点ってところだ。」

 

 

一方通行は自分の胸に手を添え、口角を吊り上げる。

二人の人物は一瞬怯む。だが

 

 

「あっはっはっは」

 

 

「伊丹隊長!?何笑ってるんですか!?」

 

 

伊丹が急に笑い出した。隣にいる女性もひいている。

 

 

「はー……ごめんごめん。おっかしくてさぁ」

 

 

伊丹は息を大きく吐いて落ち着くと、一方通行に向き直る。

 

 

「僕は君の名前を聞いたつもりだったんだけどな。まさか急に学園都市なんて言い出すんだもん驚いたよ。」

 

 

「…………」

 

 

一方通行は怪訝な顔付きで伊丹を睨みつける。

 

 

「そんなに睨まないでくれよ。謝るからさ」

 

 

「……ッチ」

 

 

一方通行が舌打ちする。

 

 

「俺は学園都市序列第一位の一方通行だ。」

 

 

「これはこれは随分とビッグな人だ。ねっ?栗林ちゃん」

 

 

「はぁ……私にはとてもそうとは思えませんけどね。」

 

 

栗林ちゃんと呼ばれた小柄で強気な顔をした女性はジッと一方通行を見る。

 

 

「あァ、別に信じなくてもいい。俺からすればどうでもいい事だ。」

 

 

一方通行はテュカ達の居る方向を見る。テュカ達は心配そうにこちらを見ている。

 

 

「俺の事より、住む場所失くしたアイツらの事の方を気にかけたらどうだ?半分は俺のせいで何とも言えねェンだけどよ。」

 

 

「それは彼達を僕等自衛隊に保護しろって言う事かな?」

 

 

伊丹は一方通行に問い掛けた。一方通行は鼻を鳴らすと

 

 

「お前らの目的はここの資源、またはこちら側の世界の住人達と友好的に交渉をする事。違うか?もしアイツらを助けたなら相当プラスになると思うがな」

 

 

一方通行はこう言うが自衛隊にテュカ達を押し付けているに過ぎない。炎龍からテュカ達を守った事で一方通行はもう借りを返したと思っている。

 

 

「……元々彼等を見た時からそのつもりだったよ。もう少し待ってくれるかな?栗林ちゃん、早くおやっさん達に報告しないと。」

 

 

伊丹は車で待っている自衛官たちに現状を説明しに戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テュカ達は日本国政府に保護されると言う形になり、後に輸送ヘリで自衛隊が設置したキャンプに移送され、そこで住むことになった。

 

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