俺の名はアリババ。一介の町人だ。
今は荷車の運転手などといった小さい仕事ばかりをしているが、俺の夢はもっと別にある。
それはダンジョン攻略の第一人者、シンドバッドのように
そうすれば…世界中の女をこの手に…ぐふふ。
ってそうじゃなくてっ。いや、それもあるんだけどっ。
その前に俺は成し遂げたい夢…というか、果たさなければならない義務があるんだ。
今はまだ遠い話だが、いつか必ず…な。
そうやってあくせく働いている俺だが、毎日すべて良いことばかりじゃあない。ラッキーな日もあれば、ついてない日もある。
そして今日は格段についてない日みたいだ。
まず第一の不運は今日運んでる荷台の中身にある。
いま揺れている荷台の中には、一樽で俺の月給三ヶ月分くらいの高級酒が何個も載っている。なんでも隣町のエロいエロい…もとい偉い偉い領主様に納めるためのものだそうだ。
それだけでも緊張するってのに、その葡萄酒の製造者であるブーデルって奴が一緒に乗り込んで来やがった。
こいつがまたヤな奴でなぁ。絵に描いたような金持ちなんだ。
こいつは葡萄酒製造で財をなした大豪農なんだが、ほかの人間を金の有無で判断しやがる。自分の保身の事ばっか考えているような輩だ。
ほんと気にくわないタイプの人間だ。
まぁそれだけなら適当にご機嫌をとってやり過ごすだけだったんだが、俺に本日第二の不運が降ってきた。
同じ荷台に礼儀も知らないガキンチョが二人も乗っていたことだ。
ちらっと見るだけでも、二人の会話のせいでブーデルの機嫌が悪くなっていくことが分かる。頼むから大人しくしててくれよ…。
「この馬鹿野郎!」
…やりやがった…。この青い髪の方のガキが見事にやってくれた。
「そんな褒めないでよ。」「褒めてねぇよっ!」
こいつブーデルの贅肉がつきすぎて垂れ下がっている胸をもみもみしやがったんだぞ!?(ご存じの通りブーデルは男性です。)
それで謝りもせずに「おじさんは男なのにどうしておっぱいがついているんだい?」だと?
笑うに決まってんだろうが!
それでなんだ?もう一人も「駄目だよアラジン君!その人は自前でおっぱいを調達できるように仕方なくなんだよ!」だと?
「自前で調達ってなんだよ!」
「なんでツッコンだ俺が一番怒られたんですかねぇ…。」
「すみませんでしたっ。」
赤髪の方はきちんと謝ったが、こいつもまだ12歳くらいか?思わず口に出してしまったのだろう。
大目にみてやらんこともない。
「おい青髪の方は反省してんのか?」
「…あのおっぱいはおっぱいと呼べるのだろうか…」「呼べねぇよっ。」
こいつ本当にガキか?本能のままに行動してやがる。…おっぱいの柔らかさはあんなもんじゃないんだよ。さ、触ったことくらいあるもんね!
「いいか。ガキども。あのお方はかの有名なブドウ酒造の大農豪ブーデル様だ。こんどなめた真似したらぶっ飛ばすからな。」
と、釘を刺したが、子供は子供。すぐにおしゃべりを始めちまった。まぁうるさくはないし良いだろう。またブーデルが気になるようなら注意すればいいや。
「それでな、
結局俺も会話に混じっているわけだが。
「そんな不思議な建物があるんですねぇ。初めて聞きました。」
「なんだ赤髪の方も知らなかったのか。お前ら揃いも揃って世間知らずだなぁ。」
そういえば変な服着てるし。なんか首に巻いてるスカーフみたいなやつとか(ネクタイのこと)腰に巻いてる黒い帯とか(ベルト…のことかな?)
ここら辺の奴らじゃないのかもしれないなぁ。
そんな風に、一緒に乗っていた母子も一緒に迷宮攻略の話をしていると、ブーダルの野郎が声を掛けてきやがった。
貧乏人の貧相な夢だとか一生ゴミくずの価値しかない人生だとか、好き勝手言いやがったよ。
でも何も言い返せなかった。
そりゃ悔しいさ。自分の夢を侮辱されて蔑まれて。夢を見ることくらい自由じゃねぇかって思ったさ。
ただなんとなく(確かに俺には分不相応だよなぁ)とも思ってしまったんだ。
俺はこんな時に面と向かって言い返せるだけの度胸はない。ただへらへら笑いながら自分の気持ちにふたをして、おべっかを言うだけなんだ。
こんな俺じゃ…駄目だよなぁ。
なんて人任せにしているから駄目なのか。
……悔しい。
俺が自己嫌悪に陥っていると。
「ねぇ。何か聞こえませんか?地面を這いずるような音が。」
そんな赤髪の声とともに
ズダァァァァン!
「「「「!?」」」」
「何事だ!?」
俺たちの荷車の真横にでっかいクレーターみたいなのができて、その中から長い触手を生やした巨大な花弁が顔を出していた。
「あれは…砂漠ヒヤシンスっ…!」
ちくしょう。よりによってこんな大事な荷物を運んでいる最中に出てきやがって。
そう。通常なら荷物もまとめて荷車ごと乗り捨て、逃げるのが最善だ。
だが今日の俺の荷車の荷台には、俺の命の値段より高級な葡萄酒が積んである。ブーデルの命令に従うのは癪だが、俺は樽を持って逃げようとした。
「きゃっ。」
振り向いた先の光景を目にして、そんなことを考えている場合ではないと察したのは今更だろうか。
俺の目に入ってきたのは小さい女の子が食人植物の待つ穴に落ちていく場面だった。
「捕まれっ」
無意識のうちに俺は手を伸ばした。そこに横から手が伸びてきて。
「わしの酒っ!」
ボチャッ
嘘だろおい。「おお良かった無事だった。」
気がつくと俺はその醜い肉塊を殴り飛ばしていた。
命より大事なものなんかあるわけねぇだろ!
酒樽を持ってクレーターへ飛び込む。砂漠ヒヤシンスはアルコールに弱い。酔って動きを止めている間に。
俺が投げ入れた酒に酔って、触手は動きを止めていた。女の子もどうやら無傷のようだ。意識もはっきりしている。その子を抱えて穴を上ると
「危ないっ」
咄嗟に振り向いたが、そこには猛スピードで迫り来る触手。
(あぁ。これは終わったかなぁ。)とアリババは死を覚悟したが。
「はっ」
横からこぶしが出てきて触手を弾き飛ばした。何発も迫り来る触手をそれは、いや、彼は身体能力だけで防いでいる。
「あなたの勇気に感服しました。僕にも手伝わせてください。」
それは赤髪の少年だった。小さな体では考えられないほどのスピードとパワーで触手を返している。
(いや、いなしているのか…?)
「アラジン君!」
「りょーかいだよっ。ネギ君!」
すると青髪の少年は頭につけていたターバンをほどき、
「飛べ。魔法のターバン。」
転がっていたたくさんの酒樽を載せて浮き上がった。
ヒヤシンスの口の上空まで来ると、
「お兄さん。それにネギ君。僕はこれから凄い事が始まる気がするんだ…!わくわくする冒険が…!」
役者はそろった。
空を飛ぶ不思議な少年。アラジン。
未完の大器。アリババ。
そして、
必死の制止の声を振り切って落下する酒樽の轟音。その音を合図として、後に世界に名を残す三人の冒険は始まった。
と言うわけで、出会い編は終わりです。
次話かその次には迷宮に入れると思います。
あと、更新は土日を予定してます。
それでは、ご意見、感想、お待ちしています。