下ネタという概念が存在しない退屈な文明開化   作:Z-Laugh

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第七話

 拝啓 母さんへ

 

 

 横濱はレンガ建ての建物が雨に濡れると、その色を一段濃くして自然の物ではないにも拘らず雨の多い時期になった事を知らせてくれます。そちらは夏の暑さに備える長雨がちゃんと降ってますか?母さんも雨に体を濡らす様な無理をしては、いないでしょうね。僕はと言えば先頃の女生徒達の批判を受けて学園議会副議長さんの協力のもと近隣のカフェより洋服の制服を借りて仕事をしておりましたら意外な程に好評で、なんと学園から仕事用の背広を二着も支給していただけました。周囲からは似合うと言われていますが信じ切れない気恥ずかしい気持ちで働いている次第です。同封いたしました絵は僕の背広姿を学園の絵画特待生に描いて貰ったものです。どうか一度見てみて下さい。

 

 

 しかし禍福は糾える縄の如しとはよく言った物で先日、学園内に野良犬ばかりか凶悪な活動家までもが乱入してきて一時、学内が騒然となりました。不幸中の幸いで怪我人は出ませんでしたが学園内の混乱は隠しきれず僕も全力で後始末をして学園が一刻も早く元通りになる様に尽力しましたが理事長の御心労は如何ばかりの物なのかと心配でなりません。心配をお掛けした身なりの方もどうにかなりましたので僅かばかりですが仕送りをさせていただきますので村での暮らしにお役立て下さい。それでは筆を置かせていただきます。

 

 

                        狸吉より  敬具

 

 

 

 僕は郵便取扱所で母さん宛ての手紙と最初に送った三倍のお金を入れた長さ二尺(=約六十六センチ)ほどの紙で包んだ竹の筒の郵送を依頼する。僕の身なりの事をソフィア理事長からの手紙で知った母さんは僕が仕送りした金額の倍の金を送り返して来た。しかし僕は母さんから送られて来た金にさらに今月分の仕送りを上乗せして当初の三倍の金を送る事を算段していた。だが普通に送ったのでは、また母さんから金を突き返されないと思い、身なりがちゃんとした証明として僕の仕事着姿を母さんに見せる事を思い付いた。最初は文明開化最先端の街・横濱のあちこちに有る写真館で写真を撮って貰おうと思ったのだが華城さんに言われた新しい普段着と新しい鳥打帽子の購入の出費が大きかった為に高価な写真を撮る事を諦め、その代わりに早乙女さんに僕の仕事着姿を描いて貰う事にした。しかしこの依頼に対して早乙女さんは

「貴様・・・不調で悩んでいるワシにそんな下らない絵をかけというのか。ふざけるなっ!」

 と、一言のもとに切り捨てられてしまったのだが故郷の母さんへ今の様子を知らせたい事を話すと渋々であったが木炭画でいいのならと了解してくれた。その噂を聞き付けた華城さんも絵を描く所を見物に来て、

「あら、裸の絵じゃないの。《S○X》の構成員としてあるまじき行為ね」

「何で家族見せる絵が裸なんです」

「家族に?私はてっきり学園でバラまくのかと思ってたわ」

「うむ、それも面白そうじゃな。生徒達がどんな表情で狸吉の裸を見るか興味がある」

「早乙女さんまで何言ってんですか。僕は仕事着姿の絵を描いて欲しいだけです。それも一枚だけ。バラまく程描かなくていいです」

「あら、狸吉は毎晩、自分の分身をバラまく様にカイているでしょ。なら問題ないじゃない」

「問題ありまくりだよ。それに僕が何をかいてるって言うんです」

「そんなの狸吉の木炭に決まってるじゃない」

「そこまで黒くねえよ!」

 スッタモンダは有ったものの早乙女さんが絵を描き始めるとさすがに華城さんも下ネタを話すを止めてくれて、その様子を黙って見ててくれた。あ!スッタモンダってオッパイをいじった訳じゃないからね。そうして描き上がった僕の仕事着姿の木炭画。見せて貰うと、さすがの一言、それこそ写真の様な出来栄えである。これならと満足していると早乙女さんが

「イカンなコレは」

 何やら不機嫌そうである。更に横から覗きこんで来た華城さんも

「狸吉の親御さんに見せるって事を意識し過ぎたみたいですね。格好良く描き過ぎですよ」

「・・・全くじゃ。これではお主に渡せん。もう一度描き直すぞ」

「え、これで良いじゃないですか」

「イカンと言ったらイカン。不本意な出来の絵を残すのは絵師にとって最大の屈辱なのじゃ」

 絵師って言うのはどうしてこうなんだろう?父さんも良く絵を描き直してたもんな。そのせいで紙や絵の具を沢山使い過ぎて母さんに叱られてたっけ。ヤレヤレと言った感で僕は早乙女さんの絵の描き直しに付き合ったのだが・・まさか五回も描き直すとは思わなかった。そうしてやっと手に入れた木炭画を手紙に入れる為に折り畳もうとすると

「待て!何をする気じゃ?」

「何って、絵を封筒に入れようとしただけですけど」

「バカモン!絵を折り畳むとは何事じゃ。お主それでも絵描きの子か」

「あ!」

「ちょっと待っておれ。ワシの部屋から絵を入れるのに丁度いい竹筒が余っておるから、それを使え。せっかく描き上げた絵を折り畳まれては堪らん」

 そうして僕は絵を折らずに丸めて竹の筒に入れ、ついでに手紙と金も一緒に入れて郵便にしたのである。そんな少し大きめの手紙を送る為にやってきた郵便取扱所であったが、郵便の申し込み用紙を見た所員がハッとした様な顔をして何やら奥へ行ってしまった。しばらくして所員が戻ってくると一通の手紙を持っている。所員は手紙を僕に差し出して来たので宛名を見てみると確かに僕の名前と住所だった。誰からの手紙だろう?そんな事を思いながら封筒を裏返してみると、そこには本居さんの名があった。僕はそのまま本居さんからの手紙を受け取り、竹筒の手紙も出し終えて郵便取扱所を後にすると道すがら本居さんからの手紙を見てみた。

 

 

 御ホリ端桜ミゴトニ咲キ乱ル。

 スリ鉢モ今ヤ遅シトネタヲ待ツ。

 宴ノ準備ハ整ッタ。靴下履キテ共ニ出掛ケン。

  

 

 たった三行の手紙、しかしその内容は極めて嬉しい物だった。さすがは本居さん、手紙一つとっても露骨な物言いを避ける辺りこだわりを感じるな。どうやら彫り師と刷り師が本居さんからの申し出を引き受けてくれて準備は万端の様だ。僕はその手紙を持ったまま例によって学園近くのカフェへと向かう。無論《S○X》の次回活動についての話す為にだ。既に奥の部屋には華城さんと早乙女さんが来ていて、華城さんは珈琲とドーナツを味わっており、多分、顔面ハンバーグを食べ終えたところであろう。口の周りを汚したままお腹をポンポンと満足気に叩いている早乙女さんの目の前には、空の洋食器が置いてあった。

「すみません、遅くなりました。郵便取扱所で手間取っちゃって」

「この間から遅れるばかりね。すこし躾けた方がいいのかしら」

「全くじゃな。文芸復興を目指す仲間に個人の用事で絵を描かせるし、綾女よ、少しばかりきつめに躾けてやれ」

「勘弁して下さいよ。遅くなったのはこれが理由なんですから」

 そう言って僕は華城さんに本居さんからの手紙を渡す。封筒の中から、たった三行の手紙を取り出して瞬時に読み終えると大きな華城さんの目がギラリと光る。その様子を見た早乙女さんも手紙の内容に興味を持って手紙を見ると

「ふぅ・・・これで、あとはワシの絵だけじゃな。」

「そういう事ですね。で、早乙女先輩、どうなんですか?」

「う~ん・・・何とも言えん状態じゃな」

「何とも?どういう事です」

「絵が良い調子に描けん不安は減っておるのじゃ。この間のお主らの活動のおかげで女学生やアンナの今まで見れなかった表情が見れて、ワシの創作意欲を随分と掻き立ててくれた」

「それなら問題ないじゃないですか」

「ただの~、あと少しなんじゃ。あと少しで出口が見えてくる様な感じなのじゃが、最後の詰めが上手く行かなくて調子が戻って来んのじゃ」

 絵師っていうのはそういうモノなのだろうか?素人からすれば、そんなに考え込む事ないのにと思ってしまうのだが、こういう状態で変に急かしても結局、回復の兆しを潰してしまう事になったりする。父さんがこういう状態になった時、母さんは普段の野良仕事の話をするだけにして絵の話をしたりしなかったものだ。

「こればかりは感性の問題だから、傍からアレコレ言える事じゃありませんもんね」

「その様ね。しかし本居さんを待たせる訳にはいかないし、早乙女先輩が不調を脱した時の事を考えれば刷り師や彫り師の人達と顔合わせは済ませておきたいわね。どうでしょうか早乙女先輩?」

「正直、気が進まんがの~」

「じゃあ、とりあえずは僕と華城さんだけで本居さんの所に行ってみましょうか。作品の制作過程の確認をするだけでも話は前に進みますよ」

「そうね、それしかなさそうね」

 それから僕と華城さんは本居さんの家に、早乙女さんは学園の寄宿舎に・・・戻った筈だ。まさかとは思うけど僕の部屋に住み着いたりしてないよね。そんな不安に撮り疲れそうになったが不安そうな表情をして本居さんに会う訳にもいかない。そんな顔をしてたら絵の方に目処が付かないのではないかと勘違いされてしまう。

「やあやあ、よく来たね」

「手紙を見て飛んできました」

「はい、私も手紙を拝見しましたけど、シビレる手紙でした」

「若い女性にそう言って貰えると年甲斐も無く嬉しい気分になるモノだ。さあ上がって」

 そこで聞かされた本居さんの話は以前、本居さんが言っていた通り洋画に客を奪われて彫り師も刷り師も暇を持て余していたそうだ。更に僕達の活動の話を聞いたら二つ返事で話を受けてくれるばかりか同業者にも話を広めてくれて、それこそ浮世絵の工房が開ける程に人手が集まったというのだ。

「凄いですね。さすが本居さんだ」

「ええ、地本問屋さんの人脈というのは凄いんですね」

 僕と華城さん、二人して驚いていると

「まあ、彫り師にしろ、刷り師にしろ元々、お祭り騒ぎの好きな連中だからな。浮世絵の業界が活気づくなら少々お上に逆らうのも面白かろうと話に乗ってくれたんだよ」

「いえ、それでもやはり本居さんのお力が無ければ、ここまでの人手は集められなかったと思います。本当にありがとうございました」

「華城さん、お礼を言うのはまだ早いよ。これで絵を刷る段取りは組める様になったけど肝心の絵の方はどうなっているんだね?それが無ければ何も始まらないよ」

「そ、それが・・・今だに不調は脱していない様なんです」

「う~ん、出来れば話が盛り上がっている時に一気に話を進めたいんだがね」

「それは重々承知しています。ただ、こればかりは絵師の感性の問題ですから、急かせば状況が良くなるというモノでもなくて・・・」

「まあ、確かにそうだろうね。しかし、話がここまで大きくなってしまったのだから、もう学生の遊びという訳にはいかない。ここで職人たちの信頼を裏切る様な事があれば二度とは同じ話は受けて貰えないと思わないとね」

「・・・はい」

 本居さんの当然至極の言葉に華城さんが苦しい表情をする。華城さんが絵師の調子に付いて話された所で何をどうこう出来る訳じゃないし、本居さんもそんな事は重々承知している筈だ。しかし、敢えて僕等に厳しい事を言ってくるのは僕等の《S○X》の活動に期待をしているからだろう。僕等が本居を始めとする職人達を、そしてその人達も僕等を求めている。言わば相思相愛の関係なのだから揃うモノが揃えば絶対に上手く行く筈だ。それだけに早乙女さんの不調脱出があと少しだというのが悔しくて堪らない。

「まあ、無い物がしょうがないが浮世絵版画を新たに作るとなれば絵師と彫り師と刷り師の三者間での打ち合わせが絶対に必要になって来る。だから早乙女さんが調子を取り戻したら、すぐに連絡をくれるかな。出来るだけ早くだよ」

「わかりました。その時は手紙など使わずに狸吉をここまで寄こしますので、よろしくお願いします」

 わずか十分程度で話は済んでしまい、僕等は本居さんの家を後にした。

「ふぅ・・・本居さんて優しいだけじゃないわね」

 華城さんが作り笑顔で僕にそう言ってきた。

「まあ伊達に長年、横濱で地本問屋を営んでなかったという事でしょうね。ただ、確かに厳しい事を言われましたけど、僕らへの期待が前提の言葉だと思いましたよ」

「そうね。それは私も感じたわ。《S○X》への期待の高さが伺える。ひょっとしたら性知識が乏しい若者以上にお年寄りの方が昔の艶や粋を必要としているのかもしれないわね」

「若返りの秘訣とまで言われる物ですしね」

「そうね、こうなると私も少し考えを改めないと、いけないかもしれないわ」

「華城さんが考え方を改めるんですか?」

「ええ、私は若い世代への性知識の流布を中心に活動をしてきたから、これからも本居さんや職人達を味方にし続ける為には中高齢者を対象にした活動をする必要があるわ」

「そうですね・・・理想や理念は同じでも自分達の事を後回しや忘れられたら協力する気が無くなっちゃうでしょうしね」

「狸吉、中高齢者ってどんな卑猥を喜ぶのかしら?」

「う~ん・・・改めて聞かれると何とも答えに困りますね」

「まあ、早乙女先輩が不調を脱して卑猥とは何かを感じ取ってくれれば、きっと良い絵を描いてくれると思うし、古き良き日本が失われてない事を単純に喜んでくれるとは思うのよ」

「それなら早乙女さんが描く絵を量産して学園だけと言わず、人の多い所でバラ撒けばいいですね」

「それだけじゃ駄目よ。女の裸を見ただけで最高に幸せになれるのは童貞だけよ。経験者はその先を知っているから、それじゃあ満足出来ないわ」

「・・・例えはともかく、昔の艶と粋を体感した世代は絵だけでは喜び切れないでしょうね」

「床上手な年増が狂喜乱舞する様な超絶とも言える技術が必要なのよ」

「・・・だから、例えはともかく。他にも何か合わせ技が必要ですよね」

「狸吉、あなたの貧弱な体を投げ出してでも年増どもを満足させなさい」

「だからおかしな例えは止めろ!体を投げ出すつもりはないし、人柱になるつもりも全く無い」

「なら、どうするつもりなの?オジサン達にあなたの菊門を捧げるつもり」

「そんな事、殺されたってやるか。想像しただけで気分が悪くなるわ」

「なら年増とオジサンに挟まれて、前ははめて後ろははめられ・・・」

「悪質な妄想をするのは止めろ。どっちも痛々し過ぎるだろ!」

「ああ、口にも欲しいのね」

「俺に死ねというのか」

「そうよ、死ぬ死ぬ~死んじゃう~って」

「お前が死ね!」

「私を昇天させようというの。童貞のくせに身の程を知りなさい」

「もういいです・・・それで中高年向けの活動に話を戻しますが・・・本当にどうすればいいんでしょうね」

「そうね・・・官憲相手に大立ち回りなんてしたら、さぞ受けるのでしょうね」

「官憲相手に大立ち回り、確かに本居さんも少々お上に逆らうのも面白かろうって言ってましたもんね」

「明治政府になってから便利になった事も多いけど、大衆の不満も大きくなったからね」

「この間も新聞に民権活動家が帝都の米問屋を襲ったって記事がありましたよ。それくらい大衆には不満が溜まっているんでしょうね」

「溜まっているのは狸吉もでしょ。横濱の米問屋を汁まみれにしてはダメよ」

「しねーよ!」

 そうして昼過ぎに僕は華城さんを別れて宿舎に戻って来たのだが、ドアを開けて部屋に入ると何故か朝起きた時に開けておいたカーテンが閉めてあり部屋の中が薄暗かった。おかしいな?と思いながら部屋に一歩足を踏み入れた瞬間だった。突然、目隠しをされて抵抗する事も出来ずにあっという間に後ろ手に縛られ、座敷に放り投げられる様に寝かされた。

「だ、誰だ?」

「・・・」

 返事はない。しかし荒い息遣いが聞こえてくる。そして、その荒い息遣いがゆっくりと僕に近づいて来る。な、何なんだ?何が目的なんだ?そんな事を考えていたら荒い息の主が着物の帯を解き始めた。

「お、おい、何すんだ。止めろ!」

「・・・」

 また返事が無い、しかしその代わりと言わんばかりに更に息が荒くなる。ソレどころが生唾を飲み込む喉が鳴る音も聞こえて来た。その音を合図にそいつは僕の着物を肌蹴させて僕はふんどし姿にする。

「ちょ、ちょっとホントに止めて」

「・・・」

 まだ、返事が無い。

「な、何が目的だよ。ホントに止めろ」

「・・・体よ」

 やっと帰ってきた言葉の内容たるや最悪のものだった。体?僕の体をどうしようって言うんだ?しかしそんな困惑はすぐに無駄の事だと思い知らされる。そいつは僕の胸板の辺りに手・・・いや顔か?を擦り付けて来た。

「はぁはぁ・・・コレですわ。私が変なのはこの匂いと感触のせいですわ」

 いやいや僕の体の匂いと感触のせいじゃないでしょ、明らかにあなたが変態なせいですよね。けど今の言葉、明らかに女言葉。こいつ女なのか?それにしちゃ僕の事を軽々と虜にしてしまったが、筋金入りの女変態か?こんな事は華城さんでもしないぞ。あの人下ネタ好きだけどその反面ウブな所もあるからな。しかしこんな思考は女変態が僕の胸板や乳首を舐め回し始める事で途切れてしまう。ヤメテクレ!僕の初めては海の見える綺麗な旅館で香を炊きながらにするって決めてるんだから。あ、ダメ、そんな!気持ちいい。その執拗な舌使いは僕の体を徐々に痺れさせて行く。悔しい、でも感じちゃう。今まさに、そういう艶話にありがちな設定を体感しているのだが、こんな状況に身を委ねる訳にはいかないと身を揺すって抵抗を試みるが女変態の力強さは本物で体はガッシリと抑え込まれ身動きが取れず、頭を左右に振るのが精一杯だった。

「逃げようとしても無駄ですわ。私の事をこんなに夢中にさせておいて知らん顔なんてさせません。どうか大人しくしてて下さい、きっと私達はこうなる運命の男女なのですわ。この先には素敵な世界が待っているに決まっています」

 こいつ僕が考えていた以上の変態だぞ。ただの肉欲だけじゃない、ほとんど犯罪と言える思い込みまでするなんて。危ない、これは不破さんより危ない。ジタバタというよりモゾモゾと抵抗を続けるも結果は変わらず、それどころか女変態が僕のうなじを舐め始めると同時に体を密着させて来た。胸板に伝わる柔らかい双丘の感触、しかもかなり大きい。更に両方の太ももで僕の右足を挟み込んで擂り付けてきて、その動きが徐々に股間を僕のお尻の横に擂り付ける動きに変わって来る。下着も何も身に付けてない、毛のザラザラとした感触が滑ついた感触と一緒に伝わってくる。

「ああ、やはりあなたは悪い人ですわ。私がこんなはしたない程に《愛の滴》を零れさせてしまうのですから。私とあなたの匂いが混ざり合うと・・・堪りませんわ」

 愛の滴?僕の尻を汚している愛液の事か?確かに半端じゃない濡れ方だが、たかが愛液にそんな名前を付けるなんてどんだけ一人でアレコレしてたんだよ。そりゃ僕だって、蜂蜜とか花の蜜とか、潤滑油とか、オクラの搾り汁とか、潮とか、温泉とか、湧き水とか、唾液より卑猥な液体とか、イヤラシイ滴、とかちょっとだけ想像したけどさ、これはやり過ぎでしょ。呆れる僕を尻目にと言うか、まさしく彼女は僕の顔を太ももで挟む様に尻に引いて、僕の秘宝へとその魔手を伸ばして来た。

「コレですの?私を狂わせる匂い元・・・許しませんわ、こんな匂いは全部舐め取って私の《愛の滴》で清めて差し上げますわ」

「ま、待て!そんな事をしなくても銭湯に行けば匂いは取れる。近所に良い銭湯があるから一緒に行かないか。きっとサッパリす・・・ムグッ!」

「・・・銭湯なんて行ってしまったら・・・この匂いが取れてしまいますわ」

 彼女は必死に説得を試みる僕の口を股間で塞いでから、そう言ってフンドシ越しに顔を密着させて来た。いよいよマズイな!そう思った瞬間だった。突然部屋のドアが開いて「狸吉、活動予算の配分の事を話し忘れていたわ」

 華城さんか?僕は股間で押さえつけられた顔を横に向けてから

「華城さん、助けて下さい」

「なに、最初から見せ場なの?」

「違う!襲われてるんです。助けて下さい」

「わ、分かったわ。コラ離れなさい」

 そう言った華城さんが大きな足音をさせながら、座敷に上がってきてくれた様なのだが次の瞬間に僕の真横でドスンと音をさせて大きなモノが落ちて来た。ひょっとして華城さんが投げ飛ばされたのか?目隠しをされているので確認は出来ないが確実に僕の真横に大きな物が落ちて来て「キャッ!」という華城さんの声が聞こえた。

 

 

 この変態何者だ?

 

 

 華城さんは女だてらに学舎の屋上に昇り、その上の疾走する事が出来る程の運動神経の持ち主で、あのアンナさんの追走からも逃げ切る事が出来る程の運動能力を持っているんだぞ。そんじょそこらの女には遅れを取ったりしない筈なのに。しかし投げ飛ばされたであろう華城さんの犠牲は無駄ではなく女変態は華城さんを投げ飛ばす為に僕の上からどいたのだ。僕はその隙を突いて体を起こし目隠しをされたままではあったが見当を付けて窓に走りカーテンを口で開けた。

「あっ!」

 華城さんの驚きの声が聞こえる。

「まあ!愛し合う者同士の行為を親友の綾女さんに見られただけなのに、何故こんなに恥ずかしいのでしょう」

 え?華城さんを親友呼ばわり・・・まさか・・・

「アンナさんなんですか?」

「今日はもう無理ですわね。狸吉さん、中途半端で残念ですが今日の所はこれで失礼させていただきます」

 そう言うが早いか軽快過ぎる足音が細かく聞こえて来たかと思ったらドアの開く音がして、人の気配が遠のいて行く。とりあえずの危機が去った事が分かった時、華城さんが僕の手を開放してくれて僕は目隠しを外す。

「ホントにアンナさんだったんですか?」

「私も自分の目を疑ったわ。アンナの奴、一体どうしちゃったのかしら・・・それより狸吉何か着て頂戴。今度は私が襲われるんじゃないかって気が気じゃないから」

 相変わらずの減らず口なのだが、その顔は真っ赤に染まっていた。この人、本当に耳年増の口年増なだけだな。そんな感心をしながらも肌蹴た着物を着直していると今度は天袋がバン!と大きな音を立てて開いたかと思ったら大声が聞こえて来た。

「これじゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

「わっ!早乙女さん、また天袋に居たんですか」

「わしの勘に間違いはなかった。やはりわしは天才じゃな、こんなモノを目の当たりに出来るなぞ正に天啓じゃ」

「見てたんなら助けて下さいよ」

「何を言っておる。先日のアンナの様子が変じゃったから、ここで張り込みをしておったのに何故助けなければならんのじゃ。これこそがアンナの中に眠っていたモノじゃ、そしてこれこそが卑猥じゃ!描けるぞ、いくらでも描けるぞ。綾女、明日わしの部屋に来い。素描であるが十枚ほど絵を上げておく」

 それを聞いた華城さんは呆れの顔を嬉しい驚きの顔に変えて

「ホントですか!わかりました。明日部屋に行きます」

「うむ。ではワシは部屋に戻って絵の制作に取り掛かるでの。さらばじゃ」

 今度は早乙女さんが僕の部屋から走り去って行った。

「終わり良ければ全て良しね。じゃあ狸吉は明日、早乙女先輩の素描を持って本居さんの所に行って来て、いいわね」

「なんで僕の受けた被害はなかった事になってるんですか」

「あら、憧れのアンナにあそこまでして貰ったのだから文句はないでしょ」

「冗談じゃないですよ。あれじゃタダの痴女じゃないですか。それこそ二度と同じ目に会わない為に対策が必要な位です」

「確かにね~、何がきっかけでアンナがああなったのかは解からないけど手を打って置いた方が良さそうね。」

「お願いしますよ。アンナさんが暴走すると影響があちこちに出過ぎます」

「・・・学園、学園議会、生徒間、私達にとって利も多そうだけど不利に働く事も多そうね」

「不確定な要素は排除しておかないと、後で大問題になったりしますからね」

「わかったわ。明日にでもアンナと話をしてみる」

「本当にお願いしますね」

「じゃあ狸吉は銭湯に行って来なさい。まずはその汚れた体を綺麗にしてきて。そうじゃないと本居さんに制作費用を渡す段取りの話も出来ないわ」

「え、今からですか。話の後じゃ駄目ですかね」

「・・・」

 分かりました。分かりましたから、そんなジト目で見ないで下さい。僕はまだ日が高いというのに手ぬぐいを持って銭湯へ行く準備をする。

「さっさと行って来なさい。私は待っている間、掃除と部屋の空気の入れ替えをしておくわ。このままじゃ、とても話をする気分になれないもの」

「別に華城さんがそこまで気にしなくても・・・」

「いいからさっさと行く!」

「ハイ!」

 華城さんの一段と強い声とドアに向かって腕を真っ直ぐ突き出す様な指差しに従って僕もアンナさん、早乙女さんに続いて部屋を走り出た。

 

 

 

「ほお、これは!」

「どうでしょうか?まだ素描なんですけど」

「コレは良い。これをあの早乙女さんと言う子が描いたのかい。あの若さで大したモノだ」

「じゃあ」

「ああ、これなら問題ない。とりあえず五点、絵を完成させるように早乙女さんに伝えてくれるかな。それ以上は逆に量産の邪魔になる。絵を完成させたら彫り師と擂り師との打ち合わせに入って貰うからね」

「わかりました。それと制作予算の方は、さっき話した通りで良いでしょうか」

「ああ、私が代表して受け取る形で構わない。彫り師と刷り師にもこの素描を見せて見積もりを出させよう」

「よろしくお願いします」

 翌日の月曜日の夕方、僕は用務員の仕事が終わった後、早乙女さんから素描を十枚、直接受け取って本居さんの元へと走った。まだ線が整理されていない絵であったが男女の絡み合う様子が肉感タップリに描いてあり思わず前屈みになってしまう程だった。この絵が早乙女さんの画力で色付けまでされたら、そう想像するだけで込み上げてくるモノがあり、思わず叫び出しそうになるのを我慢しつつ本居さんの家に向かった。そしてその絵は本居さんからも合格点を貰い、いよいよ早乙女さん謹製の春画が浮世絵版画として制作される運びになった。いよいよ《S○X》の活動が本格化するぞ。そんな期待感を持って暗くなる前に学園に戻ってくると遠くから僕の事を呼ぶ声がした。どこから呼ばれたんだ?とキョロキョロしていると

「狸吉、二階よ」

華城さんが学園議会本部の窓から身を乗り出す様にして僕を呼んでいた。

「どうしたんですか?そんな所から大声出して」

「いいから、ちょっと上がってきて」

「わかりました」

 華城さんの指示通りに二階の学生議会本部に行くと、そこには華城さんとアンナさんが座っていたのだが、何やら雰囲気がよろしくない。華城さんは呆れた様な困った様な表情、一方アンナさんは珍しく不満げな表情を露わにして頬をふくらまして唇を尖らせている。

「どうしたんですか?」

「狸吉さん、いつから綾女さんから狸吉と呼び捨てにされる様になったのですか?」

「は?」

「とぼけても無駄ですわ。昨日、お部屋に遊びに行った時に突然やって来た綾女さんが狸吉さんの事を狸吉と呼び捨てにしておりましたもの」

「アンナ、それはさっき説明したでしょ。アンナが狸吉さんって下の名前を呼んでいるから私も下の名前を呼んだだけだって」

「なら狸吉さんで宜しいのではないでしょうか。呼び捨てなんて・・・ズルイですわ」

「いや、そんなズルイとかじゃなくてですね・・・」

 ひょっとして昨日の事を話してて、こんな状態になっているのか?それにアンナさんの中では昨日のアレが遊びに来た事になってるの?なんの遊びをしに来たんだよ。

「別に華城さんだけじゃなくて、アンナさんも僕の事なんか呼び捨てで良いんですよ」

「そう言う事ではありませんの。私はいつの間にか綾女さんと狸吉さんが仲良くなっていたのが不満なんです」

「いつの間にとか言われても、学園議会の仕事をお手伝いさせていただきましたし、それにアンナさんの助言でドーナツと珈琲を御馳走させて貰ったりしましたしね」

「そ、それはそうですが・・・今は私という者がいるのですから、いくら綾女さん相手とは言え少し二人で会うのは控えていただきたいですわ」

「私という者って、どういう事ですか?」

「酷いですわ。私の唇を奪っておきながら、そんな言い方ありません」

「え?唇を奪ったって・・・」

 アレってただの事故じゃん。しかもその責任は慌てて外に出ようとしたアンナさんにあるのに。意外と言うか、ちょっと不愉快な気持ちになりつつ華城さんを見ると今のアンナさんの言葉に大きく溜息を付いて掌を自分の額に当てていた。

「アンナ、少し落ち着いて。あれは事故でしょ。私もそばで見ていたけどアンナが慌てて部屋の外に出ようとした時に狸吉にぶつかったんじゃない。さすがにそれを唇を奪った呼ばわりするのは良くないわよ」

「しかし口づけをしてしまったら、いずれ近いうちに子供が出来てしまう筈ですわ。それなら私と狸吉さんはもう夫婦になる事が定められた様なモノです」

「「は?」」

 華城さんと僕はアンナさんの言葉に驚きながら顔を見合わせた。口づけをしたから子供が出来る筈って何言ってんだ?

「ア、 アンナ。口づけをすると子供が出来るって誰に教わったの。私は初めて聞いたわ」

 華城さんが混乱しつつも何とか言葉を紡ぎアンナさんに質問をした。

「もちろんお母様ですわ。まだ私が小さい頃、可愛い赤ちゃんが欲しいとお母様に話したら、そう教えて貰いましたの」

「そ、そう・・・理事長から教わったのね。狸吉ちょっと」

 華城さんが僕を部屋の隅に呼び寄せ二人してアンナさんに背を向けてヒソヒソと話を始めた。

「マズイわね」

「マズイですよ」

「アンナの性知識はこの程度だろうと思っていたけど、まさかこんな形で問題になるなんて思いもしなかったわ」

「ホントに上流階級の家の人って何考えてんですか?子供がいい歳になるまで、そんな事を知る機会を与えないなんて絶対おかしいですよ」

「今それを言っても始まらないわ。とにかくアンナを落ち着かせて子供が出来ない事を納得させないと、また狸吉の部屋に押し掛けかねないわよ」

「そりゃそうですけど、どうやって納得させるんですか?」

「そりゃあ、ズバリ言うしかないでしょ」

「誰が?」

「狸吉が」

「ヤですよ」

「しょうがないでしょ。私は表向き他の生徒同様に性知識が無いって事になっているんだから私からは説明出来ないわ」

「あ!そっか、そういう設定でしたよね。けどアンナさんに何て言えば・・・」

 困った僕を見た華城さんは左手の人差し指と親指で輪っかを作り、右手の人差指をその輪っかに差し込みながら

「だから・・・やっぱり、ズバリ言うしかないんじゃない」

「けど、それでも理解出来るでしょうか?何しろ基本的な知識が不足し過ぎてますからね」

「そうね・・・狸吉にイングリッシュを教える様なものだもんね。本当に初歩の初歩まで遡らないと、また暴走しかねないわ」

「暴走ならまだいいですよ。いきなり大量の卑猥な知識が頭の中に入り込んだりしたら人格崩壊しちゃいますって」

「それこそ取り返しがつかないわね」

 二人してヒソヒソと結論が出ない議論をしていると、後ろから殺気を含んだ様な声でアンナさんが

「いつまでヒソヒソとお話をされてますの。それに綾女さん、その仕草はなんです?」

「あ、アンナ。これは、その・・・アンナにもドーナツをご馳走してあげればいいんじゃないかって狸吉に言ってたのよ」

「そ、そうなんですよ。僕と華城さんが今みたいに仲良くなれたのもアンナさんの助言でドーナツをご馳走した事が始まりでしたからね」

「それはそうですが・・・目の前で二人が内緒話をするのは面白くありませんわ」

「あの・・アンナさん。とりあえずですね、事故とは言え口づけをしてしまった事を理事長に相談してみてはいかがですか?」

「え、お母様にですか。そんな事は恥ずかしくて言えませんわ」////

「なら僕から言ってもいいですよ。もし本当に子供が出来るとなれば内緒にしておける話でもないですから」

「狸吉の言う通りだわ。確かに親には言い難い事でしょうけど、子供の事を考えれば内緒にするのは良くないわ」

「・・・そうですわね。隠し通せる事でなし・・・今晩にでもお母様に報告してみますわ」

「それがいいですよ。理事長ならきっと素晴らしい助言をして下さるに違いありません」

「そうよね、なんたって当代随一のインテリ女史ですもの」

「わかりました。では私と狸吉さんの事はお母様に相談してからと言う事で。ただお母様から解答がハッキリあるまでは綾女さんと二人で・・・あまり仲良くなり過ぎないで下さいね」

「わかりました、自重します」

「そうね、私も狸吉に会うなら誰か人を交えて会う様にするわ」

「そうして下さい。では私は先に帰らせていただきますわね。一刻も早くお母様に相談したいですから」

「じゃあ私は本部の後片付けをしてから帰るわ」

「僕も手伝います・・・いや自重すると言ったばかりですしね。華城さんには申し訳ありませんが自分の部屋に戻って大人しくしています」

「あら狸吉さん。私は決して狸吉さんのお仕事を邪魔するつもりで、ああ言った訳ではありませんわ。どうか綾女さんのお仕事の手伝いをしてあげて下さい」

「は、はぁ。なら・・・手伝います」

「はい、ではお先に失礼します」

 そうしてアンナさんが学園議会本部を後にして僕と華城さんが二人きりになると

「エライ事になりましたね」

「まあ理事長なら上手い事言って暴走するアンナを止めるとまでは言わなくても減速させる事は出来る筈よ。期待しましょう」

「本当に藁にもすがる思いですよ。まさか僕がアンナさんに警戒心の抱く日が来るとは思いもしませんでした」

「それは私もよ。狸吉を《S○X》に加入させた時にアンナとの仲を後押しする様には言ったけど、今は全く逆だものね」

「ホントですね。あんな強引な手段に出たのに実は口づけをすると子供が出来ると思ってましたなんて、どれだけ頭の中が偏ってんだか」

「全くよ。けど最初にアンナから話を聞いた時には狸吉は口にも、ちん●が付いていて口づけだけで相手の女性を妊娠させるのかと思っちゃたわ」

「そんなもん口に付いてる訳ないでしょ」

「これが本当のちん獣ね」

「・・・・そうだ。華城さん、本居さんの所に行ってきたんですけど」

「ああ、それで放課後に学園にいなかったのね。で、本居さんは何て仰ってたの?」

「まず絵は合格点をもらえました。それから絵を版画で量産するに当たってはまずは五枚の絵を仕上げて、その後に彫り師と刷り師との打ち合わせに入って貰うと言われました。それ以上の枚数は量産の邪魔になるそうです。あと制作費用の受け渡しもこちらの言う通りでいいそうで予算の見積もりを始めると仰ってました」

「そう、そっちは順調ね。なら私は今から早乙女先輩の部屋に行って本居さんの話を伝えてくるから、狸吉はこの部屋の掃除をしておいて」

 そう言って華城さんは学園議会本部を後にして僕は部屋の掃除をさっさと済ませて自分の部屋に戻った。もちろん、部屋に入る時には部屋の中に誰もいないかを慎重に確認した事は言うまでも無い事だ。

 

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