きっとかのじょは、   作:みずい

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なんか2日目までより短くなった、、、
続く………んですかね?これ。()




3日目

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

時計は12時過ぎを指している。

今日で翡翠は現世に帰ることになっているため、短刀たちの要望でささやかながら送別会のようなものを開くことになったのである。

テーブルにはジュースやお菓子、大皿に乗った料理が並べられ、急遽開くことになった割には形になった会となっていた。

 

「ありがとう皆、私のために。光忠さんも大変だったでしょ、朝からお菓子作って」

「いやいや、問題ないよ。可愛い短刀の皆や翡翠ちゃんの頼みなら断るわけにはいかないからね」

そんなのカッコ悪いだろ?と言いながら、光忠がにっと笑う。

翡翠の周りにわらわらと短刀達が集まってきて、各々翡翠にプレゼントを渡している。その手には折り紙で作った花や手裏剣、押し花を使った栞、拙くも愛情の込もった手作りのお守りなどが握られていた。

「いち兄に手伝ってもらったんです」

「ひすいさんはこういうのが似合うと思って!」

「見ろこれ!自信作なんだぜ!」

思い思いに作品に込めた愛を語る短刀達。翡翠の頬はこれでもかと言うほどに緩んでいる。彼女が刀剣なら間違いなく背後は桜吹雪に包まれているのだろう。

 

「じゃあ俺からはこれ!昨日選んだんだよ。初日は疑ってごめんね」

加州がずい、と袋を翡翠に差し出す。桃色のリボンが結ばれた、杏色に白のストライプが入ったラッピング袋。シンプルでいてかつ大人らしさを兼ね備えたお洒落なデザインの袋だった。

「わあ、ありがとう、気にしなくていいのに…開けていい?」

「もちろん。俺の一押しだよ!」

袋を開けるとそこには撫子色のマニキュア。濃すぎず薄すぎない桃色が、瓶の中できらきらと光っていた。

「あんま派手な色とか塗らないかなって思ってさ。仕事の時でも目立たないやつにしてみたんだ。絶対似合うから付けてみてよね」

「ありがとう、帰ったら早速付けてみようかな」

 

 

会は3時間ほど続いた。いくらこちらに来る前に殆どの仕事を片づけてきたとはいえ、3日も空けているので流石に仕事も溜まっているだろう、という事になり、少し早いが翡翠は帰ることになった。

 

「じゃあね、伊織。みんなも」

「ああ、気をつけて。…4日が来る前に一度そっちに向かう」

「了解。……みんな」

翡翠は伊織の後ろに集まっている刀剣男士たちを真っ直ぐに見つめる。

 

「…伊織のこと、よろしくね。気難しい子だけどいい子だから」

「だから君は私の母親か何かなのか?」

深々と頭を下げる翡翠を見て、伊織が気恥しそうに目を伏せる。

 

「母親というより姉かしら。じゃあね、みんな!」

とびきりの笑顔で手を振って、翡翠が外に出る。嵐のようでとても充実した3日間が、終わりを告げようとしていた。

 

 

......................................................

 

 

「楽しい3日間でしたね」

執務室で、茶を飲みながら伊織と長谷部が向かい合っている。翡翠の送別会に参加していたため、この日は仕事を全くと言っていいほどしていなかった。(とはいえ、午前中に少しはしていたのだが)仕事熱心な伊織は、翡翠を見送ってすぐに大広間の後片付けを済ませ、こうして仕事に取り掛かったわけである。

「そうだな」

ふ、と笑みを零しながら伊織が頷く。

「…たまにはいいな、ああいうのも。私も久しぶりに沢山笑った気がする。……却説、仕事をするか」

ペンを手に取り、こきこきと首を鳴らす。長谷部がすかさず、俺もお手伝いします、と言ったところで固まる。

 

伊織はあまり人に頼ろうとしない。自分の仕事は自分で片づけようとする質であるし、余程のことがない限り近侍の長谷部にすら仕事を任せようとはしない。

だが、今日は違った。

『もっと頼っていいんだよ』という、相棒の言葉。

いつでも頼ってください、と胸を叩く目の前の彼。

伊織の表情が、少し緩む。

 

「……じゃあ、少し頼もうかな。この書類に目を通してくれるか。表現等に特に問題が無ければ、この判を押して欲しい」

文机の端に寄せられていた書類の束を長谷部に差し出す。

長谷部の背後に桜が舞う。その顔は、花が咲いたような笑顔なのに、今にも雫が零れ落ちてしまいそうで。

 

「主命とあらば!」

 

 

......................................................

 

 

とても心が軽い。空も飛べそうな心地とはこういう気持ちを指すのだろうか。

普段俺に頼ってくださらない主が、俺に仕事を分けてくださった。ただそれだけの事だと思うかもしれないが、俺にとってはこの上なく嬉しいことなのだ。主が俺達に頼ってくださることがどれだけ稀有なことかというと、光忠が料理を焦がすとか、加州が爪紅を塗らない日があるとか、太陽が西から昇るとか………いや、流石にそれは言い過ぎか。だが、それに近いほどだ。こう言えばどれほど俺が喜んでいるか分かるだろう。

 

…もうこんな時間か。外を見るとぽつりぽつりと星が見える。月は雲で丁度隠れているようで今は見えない。さて、主はお休みになっただろうか。

主の執務室の前に行くと、障子越しに仄かな光を確認した。ああ、まだ起きておられるのか。あれほど夜更かしは体に良くないのでお止め下さいと言ったのに。

「主、入ってもよろしいですか?」

驚かせてしまうことのないよう、そっと声をかける。聞こえるか聞こえないかといった声で、ああ、とだけ返事があった。俺はそれを聞くとすす、と障子を開ける。主はまだ文机に向かっておられた。

「…まだお休みにならないのですか?お体に障りますよ」

「わかっている…あとこれだけだから。お前はどうしたんだ、また眠れないのか?」

目線だけこちらに向けて、俺を気遣ってくださる。これが、ただの臣下に対してのそれなのか、それとも…………

「…主がお休みになったら俺も寝ますよ」

「なんだそれは……私の事など良いというのに」

「そうはいきません、大事な主ですから」

「…っ、…そうか」

一瞬、主の息が詰まったような、動揺の色を見た気がしたが、瞬きの間に、そんなもの初めからなかったかのように、主の表情はいつもの凛としたものに戻っていた。

 

………とくとく、とくとく。

まただ。また、心臓が五月蝿くなっていく。この時間だから他の刀剣達は皆就寝している。今起きていて、ここにいるのは俺と主の二人だけ。全員の寝室は二階より上にあるから、俺達のいるこの一階に来ることはまずないだろう。それを意識してしまうと、さらに鼓動が早くなる。

 

『多分、伊織も――』

 

本当に、本当にそうなのだろうか。このお方は、俺のことを、否しかし、もしそうでなかったら?俺が余計なことを言って主のお気を害してしまったら?俺はこの方に嫌われるのが怖い。嫌だ。…だが俺はこのままうだうだしているのも好きではない。せめて、可能性の有無くらいは知っておいても良いのではないか。はっきり想いを伝えずとも、少しだけ知る事なら叶うのではないか。

 

俺は意を決して口を開く。

 

「……………主、ひとつお聞きしたいことが」

 

 

 

俺の声は自分でも分かるほどに震えていた。だが、もうあとには引けない。進むしかない。

 

「私に聞きたいこと?何だ」

「…………その、主には……」

 

 

 

 

「恋仲である者や、想い人はおられるのですか」

 

 


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