『ハロウィン』という催し物がある。
オバケに扮した子供たちが家々を回ってお菓子を貰う行事だ。
発案者は紅魔館に住んでいる吸血鬼レミリア・スカーレット。
単に本人がやりたいだけの可能性があるが…
とはいえ娯楽の少ない幻想郷、たまにはこういう祭りも悪くはないだろうと、博麗の巫女や良識のある大人たちの監修の元、ハロウィンを開催することになった。
その下準備として寺子屋の一室に子供たちを集めているところだ。
「うわ――ん! 慧音先生!」
教室内にて、着替え終わった子供たちの中、一人だけ普段着のままの男の子がいた。
大方、衣装を忘れてきたのだろう。両手を目に当てて泣きじゃくっている。
「衣装と間違えて ボボボーボ・ボーボボ 持ってきちゃった!」
なるほど。衣装が入っていたであろう箱の中には衣装はなく、代わりにボーボボが箱の中から上半身を出して、伸ばした鼻毛をくねくねと動かしていた。
「はっはっは、しょうがないなぁお前は……って、ボーボボ !!!?」
一体どうやって入ったのか、弁当箱ほどの大きさしかないその箱から「よっこらせ」と出てくる。
「やれやれ、寺子屋の教師ともあろう者が俺たちの存在を忘れるとはな」
「ハロウィンといったら首領パッチ。という言葉があるぐらいなんだぜ」
さらにその後から天の助、首領パッチが続けて出てきた。
突然の乱入者に「ひぃぃっ…」という誰かが漏らした悲鳴が聞こえる。
「おっしゃあ! ガキども、この俺様が正しいハロウィンというものを教えてやる!」
顔面に蝶々マスクを装着し、両手にムチとロウソクを携えた首領パッチが「ついてこい!」とムチを床に打って鳴らすと子供たちを引き連れて教室を出ていってしまった。
首領パッチの突飛な行動に取り残された私は暫し唖然としていた。
「ボーッとしているけど、追いかけなくていいの?」
天の助から問われて気付き、慌てて跡を追う。
少女移動中 NowLoading...
「「 ト リ ッ ク ・ オ ア ・ ト リ ー ト ♪ 」」
首領パッチはあっさり見つかった。
子供たちと一緒に女の子を連れたおじいさんにつぶらな瞳でお菓子をせがんでいるところだった。
前もって通達していたこともあったお陰か、見るからに人の良さそうなおじいさんはイヤな顔を一つせずにニコニコ笑顔で子供一人一人にお菓子を手渡していく。
大事に至らずに済みそうでホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、首領パッチがおじいさんからお菓子を貰うと…
「こんなモンいるか! カネを寄越せ! ジジイ!」
お菓子を地面に叩きつけて、おじいさんの胸ぐらを掴んでそう要求してきた。
「オカシじゃなくてオカネを要求している!? っていうかこれって只の強盗!!」
いきなりの変化に戸惑うおじいさん。
もたもたしてる間に首領パッチが女の子の背後に回り…
「おっと、大人しく言う通りにした方が身のためだぜ?」
人質にするつもりなのだろう女の子の腕を掴むと…
「ぎゃぁぁぁっ!? すいません! 自分、調子こいてました!」
逆に女の子に「えいっ! えいっ! えいっ!」と片腕を後ろに捻られて拘束されてしまう。
「くっくっく、この通り人質は捕らえたぞ。さあ、どうする?」
多少痛いのか涙目ながらも悪どい表情でにやける首領パッチ。
「いや、何でそんなに強気なの?」
女の子を人質に捕らわれて、おじいさんの怒りが頂点に達したのだろう。
獣のような雄叫びを発して胸の前で両拳を打ち合わして鳴らすと、体が倍以上に膨れ上がって衣服が弾け飛び、老人にあるまじき鍛え上げられた逞しい上半身を晒す。
一言でいうと筋肉爺。
「すいません! 俺はそこの天の助に無理矢理やらされました! 本当です!」
強そうな外見に勝てないと判断したのか、天の助を指差して責任転嫁を謀る。
無論、そんな言葉に惑わされるわけもなく…
筋肉爺は膝を抱えたまま空中で高速回転。
次の瞬間、首領パッチの脳天に踵を打ち下ろした。
「マッスル・ジジイ・踵落とし!」
「げふっ!?」
頭蓋骨が砕く音とともに体の半ばまで踵がめり込み、体半分を地面に埋没させた。
さらに他人事のように見物していた天の助の腹に槍のような鋭い蹴りを叩き込む。
「連帯責任!」
「何で俺まで!?」
直撃を食らった天の助は吹っ飛ばされ、石造りの蔵の壁に大の字で激突、血を吐き白目を剥いてそのまま動かなくなる。
筋肉爺は動かない彼らを面白くなさそうに一瞥すると、左肩に女の子を乗せて悠々とその場を去った。
無言で去る彼らを私は無言で見送ることしかできなかった。
「いや~~~、大量大量♪」
能天気な声と荷車を引く音に振り向くと、大量のカカシを荷台に乗っけた笑顔のボーボボがやって来た。
オカシじゃなくてカカシ集めとるぅぅぅ――――っ !!!?
荷台にはカカシだけじゃなく左目を額当てで隠し、顔の下半分もマスクで隠している男性も乗っていた。
「あの~、自分『はたけカカシ』という忍の者なんですが…」
カカシ違い! っていうか何処から連れてきた !?
取り敢えずどう見ても外来人なので幻想郷について説明を、と思ったら…
ドドドドド…という複数の激しい足音が耳に入り、音のする方向に目をやると、チルノを先頭に仮装した妖精と小妖怪の集団を出鱈目に刀を振りかざして追いかけ回す半人半霊の少女――魂魄妖夢の姿が視界に飛び込んだ。
「慧音、助けて! 妖夢を脅かしてたら ぶちギレた!」
チルノたちが私の背後に回り込み、グイグイと背中を押してくる。
そこへ逆上し目が血走った妖夢が到着。両手で持った刀を頭上に翳して斬りかかってきた。
「ま、待て妖夢! 落ち着け!」
しかし、こちらの言葉が聞こえていないのか、問答無用で刀を振り下ろす。
あわや刀の刃が肌に触れる寸前、横からカカシがクナイで刃を受け止め――――カカシと妖夢、両者の視線が交差した瞬間、妖夢がカカシにもたれ掛かるようにして気を失った。
「この子に幻術をさせてもらいました。暫くしたら気がつきますよ」
と穏やかな表情でボーボボが持ってきた荷車の荷台に横たわせる。
ホッと安心し、この元凶を作った当人たちに事情を説明してもらうべく振り向くと…
「チルノはクールに去るぜ!」
冷気を撒き散らしながら仲間とともに後ろ背中をこちらに見せて逃亡した後だった。
やり場のない怒りをいつか晴らすと心に決めた瞬間、今度は大音響で音楽が流れ始める。
音の発生源は即席で作られたステージで騒ぐ山彦と夜雀。
ハロウィンと肝だめしを一緒くたにしたチルノたちと同様に勘違いしたのだろう。
さらに何処から聞きつけたのか騒霊三姉妹も騒ぎに便乗して音楽を奏で始める。
「ギターの九十九 弁々!」 …と琵琶の付喪神。
「ベースの九十九 八橋!」 琴を空中に浮かべて指につけた爪で弾く。
「ドラムの堀川 雷鼓!」 ドラムの上に腰掛け周囲にある小さなドラムを叩いて鳴らす。
「ボーカルの少名 針妙丸!」 ふよふよと浮かぶ御椀に乗っている小人が名乗る。
「「私たち〝 幻想郷 横分金蝿 〟!」」
思い思いの決めポーズをそれぞれが決めた瞬間、背後で色つきの爆煙が発生。
先日の騒動の首謀者とその一味たちが対抗して騒ぎに加わった。
「おいボーボボ! どうにかならないか!? うるさくてかなわん!」
ボーボボが一つ頷くとアフロがパカッと上下に分かれて開き…
小人らしきバンドの一組がアフロをステージにして歌う準備をしていた。
「スカッシュの一夜限りの復活ライブよ――――!」
黄色い声援に振り向くとファンらしき女性の集団が集まっていた。
紡ぎ出される外の世界の音楽。やがて曲が佳境に差し掛かるとボーカルの歌に力がこもる。
「シャケ! シャケ! シャケ!」
目を蕩けさせて「もうダメ…」と倒れる女性が続出。
シャケで!?
「ふむ。これで静かになっただろう」
周囲は失神した女性で溢れていた。
その中には山彦・夜雀の二人組。騒霊三姉妹。幻想郷 横分金蝿も含まれていた。
ボーボボはその光景を感慨深く眺めると…
シャケってスゴいんだな…
ああ、そうだな。
こうして幻想郷の夜が更けていき、幻想郷初めてのハロウィンは終わった。
(´・ω・)にゃもし。
こんな感じで増えていくと思うの。