ガーディアン・フリート❮はいふり×GAMERA❯ 作:濁酒三十六
巨大ギャオスのけたたましい鳴き声が艦橋の硝子をビリビリと震わせ、その音で知床鈴は心中の恐怖に負けそうになっていた。
「無理だよ、戦うなんて!
逃げようよ、私達やられちゃうよう!?」
鈴は皆に訴え、航海科の勝田聡子、山下秀子、内田まゆみが不安げに艦長の岬明乃に視線を向ける。納沙幸子も明乃に顔を向け彼女の反応を窺うが鈴に反論したのは副艦長の宗谷ましろだった。
「もしあの怪物に後ろを見せれば……、その時は
彼女の言葉は脅しなどではない。もし晴風がギャオスに背を向けて逃げても空を音速に至る速さで飛ぶ怪鳥から逃げ切るなど万に一つにも出来はしない。何の障害物や隠れ場所のない大海原であれば尚更だ。それが岬明乃と宗谷ましろの見解なのだ。しかし戦闘に持ち込んだ所で勝てる可能性もまた低い。負けた場合は確実にギャオスの餌食となるだろう。…だが、“戦術”によっては倒せるかも知れない相手なのだ。
「…でも…あのギャオスに黄金色の閃光を撃たれたら一撃で轟沈ですね?」
幸子が呟く。F―15J二機を一撃で撃墜した超兵器…超音波メスは現代の科学では再現不可能な代物である。威力もそうだが恐怖するべきは射程…掃射距離だ。それこそ逃げようものなら一撃の元で両断にされるだろう。其処で明乃は巨大ギャオスの様子を双眼鏡で見ながら答えた。
「多分だけど…、あの閃光は使って来ないと思う…。」
此に対してましろが尋ねる。
「何故そう思う?」
「あのギャオスの目、スゴく貪欲そうに見えるの。あの目は此から戦闘をしようと云う目じゃない…。多分だけど…、私達1人残らず食べてしまいたいんだよ。」
明乃の話を聞いた者達は恐怖にすくんでしまうが、普段無口な立石志摩が眉をつり上げ両拳を握り締めて言った。
「だっ…、出し…抜く!」
志摩に明乃は強く頷いた。
「楽観的かも知れないけど、あのギャオスがその気だったら…、小金井さん達と一緒に晴風も撃沈されてる!
それをしないのは私達を餌だと認識したから…、
…なら、私達はあの怪物に充分付け入る事が出来る筈!」
明乃は艦橋の前方に見える巨大ギャオスを見据える。最早腹を括るしかないのは艦橋の誰もが理解するしかなく、明乃は艦内ヘ伝声管で伝達する。反対反論…、特に機関科の黒木洋美からかなりの反対を受けたが其処はましろと機関長の麻侖が彼女を説得した。此で晴風クルー全員が一旦の纏まりを見せた。正直、明乃にあの巨大な怪鳥を出し抜ける様な戦術がある訳ではない。しかし岬明乃の推測が当たっているなら確かに巨大ギャオスを倒せずとも時間を稼げたなら横田基地や近海にある海上安全整備局の船が来てくれるかも知れない。考えれば望みは幾つだってある。明乃は高らかに晴風クルーに命令を下す。
「晴風、戦闘用意!目標、前方巨大ギャオス!!」
明乃の声は伝声管を通り医務室の鏑木美波にも届き、妙な心地好さを感じた彼女は微笑んで一人呟いた。
「死中に活あり、蒼の乙女よ前進せよ。
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…任せたぞ、新米艦長。」
晴風はギャオスを主砲三基の射程に入れる為に前方へと進み近付く。明乃が低空で羽ばたきながら宙に留まるギャオスの背を取ろうと操舵長の知床鈴に指示を出す。
「晴風速度そのまま、取り舵70度ーっ!」
「とっ、取り舵70度ようそろーっ!!」
鈴は泣きながらも明乃に即座に反応して操舵輪を回す。明乃は双眼鏡で巨大ギャオスを見張りながら志摩に指示を出した。
「主砲発射準備!」
ギャオス側から右ヘ回りながら主砲射程内ヘ入れて砲術長の立石志摩の指示でギャオスに標準を合わせ小笠原光、武田美千留、日置順子は次の指示を待つ。
「面舵、ああっ!?」
しかし明乃の指示…晴風が背後を取る前にギャオスは上空へと逃げて距離を離された。ギャオスはそのまま滑空して反対に晴風の背後を取ろうと滑空状態のままで海面スレスレに飛んで近付いて来た。背後を見るのは見張り台を降りた筈の野間マチコが艦橋の屋根上の見張りを買って出て屋根上にしがみつきながら背後を確認した。
「ギャオス、背後から低空で高速接近!!」
其処で志摩が後方ヘの回頭が間に合った主砲三番基が標準をギャオスに合わせた。志摩が小さくも強い意志を込めて発射を指示した。
「主砲三番、発射!」
三番基の主砲二連装から2発の127mm砲弾が発射、ギャオスはまた上空ヘ回避しようとするがその瞬間、何と先読みをしたかの様に2発の弾が命中した。ギャオスは爆炎に苦しみ悶えながら“グギャアグギャア”と鳴き喚いて上昇する。
『オオオオッ!!!!!』
艦橋の全員が一斉に感嘆の声を上げ、志摩は小さく笑って右手でピースをした。そして次の巨大ギャオスの襲撃に備え360度を見渡しマチコは真上を見ながらギャオスの出方を窺った。そしてマチコが叫ぶ。
「ギャオス確認、上空から左舷注意!!」
マチコの報告を明乃が左舷航海観測員の山下秀子に流す。
「しゅうちゃん、左舷上空からの攻撃に注意して!」
「了解です!!」
秀子だけでなく芽依も艦橋左舷に行って周囲を見渡した。そして芽依の視界に上空から此方に向けて飛んでくるギャオスが入り込んだ。
「しゅうちゃん、彼処!!」
「見つけた、ギャオス左舷11時の方向、空から高速接近!!」
芽依が見つけた巨大ギャオスを秀子も確認、即座に報告をし志摩が標準を指示。砲身を上空から迫るギャオスに定める。
「主砲一番、撃て!」
志摩のかけ声に合わせて主砲一番基が発射。だが今度は紙一重で回避、ギャオスは体制を直して前足の鉤爪を構えた。志摩は思わず声を出してしまう。
「しまった!?」
明乃は即、知床鈴に回避運動を投げかけた。
「晴風全速力、面舵一杯!!」
「おお面舵一杯20度おおおおっ!!」
明乃の指示を鈴が滝の様な涙を流しながら復唱して操舵輪を力一杯に回す。先程の前進指示より反応が早かったのは気のせいだろうか。そのお陰なのか晴風は巨大ギャオスの鉤爪を間一髪で回避、そのまま突っ込んで来たギャオスに向けてもう一度至近距離で主砲二番基の砲弾をギャオスの胸部に叩き込んだ。爆風で船は煽られ、ギャオスは悔しげな鳴き声を上げて晴風から離れた。明乃は直ぐ様伝声管を使い艦内に被害状況を確認する。
「各所、被害状況を教えて!!」
先ずは水測員の万里小路楓から返事が返って来た。
《此方万里小路、ソナー室は異常御座いません。》
次に給食室から給養員の伊良子美甘より返事が来た。
《此方美甘、落ちかけた炊飯器を死守しました!》
《みかんちゃんスゴーい!》
《スゴーい!》
その後ろからか杵崎ほまれとあかね姉妹の声が聴こえた。しかし次の砲術員の光からは先程ギャオスに砲弾を撃ち込んだ主砲二番基が使い物にならないそうだ。それを聴いた志摩はシュンとして項垂れてしまった。そんな彼女を水雷長の西崎芽依が肩をバンバン叩きながら励ました。
「ごめんなさい、調子乗った……。」
「なーに言ってんの、タマちゃんの“撃て撃て魂”見せてもらったよーっ!」
芽依の言葉に艦橋の皆は苦笑いをするが彼女の発砲によりギャオスが船体に取り付くのを主砲一基を犠牲にしてでも阻止したのだから感謝しかない。…だが、砲弾を至近距離で受けた巨大ギャオスはまた上空へと逃げて今度は晴風から見えなくなる程に高度を上げていた。ましろはイヤな予感を覚え艦長の明乃に不安げな表情を向けた。
「艦長、敵の動き…、どう思いますか?」
「…真上からの攻撃ならあの金色の閃光…」
其処で幸子が割り込む。
「あっ、アレは“超音波メス”です。タブレットでギャオスを調べて見ました。」
会話にならない内に入って来た幸子をましろは眉間を寄せて睨み、明乃は反対に幸子がネットで調べたギャオスのデータが気になった。
「ココちゃん、ギャオスのデータ見せて!」
「あっ、ハイ。」
ギャオスに関してネットに書かれていたのはあの閃光の名前とマッハ4以上で飛行出来る。そして天敵が“ガメラ”と云う怪獣である事。過去16年から三度ガメラは現れてギャオスや他の巨大怪獣と戦い此を討ち負かしている。この内容に幸子は嬉しげにガメラを讃えた。
「格好良いですよね、ガメラ!正に地球の守護神!
もしかしたら私達の前にも現れたりして、そして乙女の敵ギャオスに立ちはだかる!!
ヤーヤー我はガメラ、海の底からお前を倒す為にやって来た。覚悟しろギャオス!!
何をこのおカメ納豆が、私のメスで真っ二つにしてやる!
やれるものならやって見ろ、我には晴風クルーの祈りがあるのだからな!」
晴風艦橋組は幸子の一人芝居に呆気に取られるが、明乃はましろに向き直る。
「シロちゃん、戦いが長引けばギャオスは高い確率で超音波メスを使って来るかもしれない。」
「そんな、アレを使われたら私達に勝ち目はない…。」
そして次の瞬間、天上より“バシュン”とあの黄金色の閃光が晴風の右舷側を駆け抜けて水の壁を作り出した。閃光は僅かに海面を割り、その為に起きた波で晴風の船体が揺さぶられた。次は晴風の正面を超音波メスが走りやはり水の壁を作り出して海面を割った。明乃達は激しい揺れに耐えるが、鈴はもう耐えられないとばかりに喚き出してしまう。
「もうイヤ、戦いたくない!!
逃げよう、死んでもいいから逃げよおおっ!!」
「ふざけるな、死んでもいいなんて絶対言うな!!
死んだら其処で終わりなんだぞ!!!」
ましろに怒鳴りつけられて鈴は口をギュッと噛み締める。だがクルー達の脳裏にあの閃光に撃墜されたF―15Jの映像が鮮明に思い出され皆戦意を失っていくのが目に見えて分かった。ましろは叱咤は出来ても皆を奮い立たせる事は出来ず、自身の未熟に唇を噛み、明乃もどうして良いのか解らなくなっていた。超音波メスは幾度と空より放たれ晴風を激しく揺らし翻弄する。
…と、其処へ艦橋の屋根上で周囲の見張りをしていた野間マチコが降りて来た。
「艦長、少しおかしい。」
「えっ、何がおかしいのマチさん?」
「ギャオスはF―15Jを二機…撃墜している。…
ふと明乃は何かに気付きましろに聞いた。
「シロちゃん、ギャオスは超音波メスを何回放った!?」
「えっと、6回…」
ましろが言いかけた時またも天上から超音波メスが放たれた。
「いい今ので“7”だあっ!!」
「…F―15Jは一撃、なのに戦闘機より大きい晴風は当てられない…。
鈴ちゃん、晴風微速前進。真っ直ぐ、急がないでいいよ。」
「嘘おお、誰か嘘って言ってええええっ!!!!」
その悲痛な叫びには誰も答えてはくれず、訳が解らない明乃の命令にまた鈴は号泣しながら操舵輪を握った。明乃は回避運動は反対に当たると言って前進のみを指示。機関部は負担が掛からないのは良いが微速前進の意味が解らず麻侖は艦長ヘの愚痴と文句を言い続け、洋美も明乃ヘの不審を募らせる。そして巨大ギャオスの超音波メスは左舷・斜め前・後方からと
「ギャオスは…、私達を怖がらせたいんだ。
超音波メスを何度も放って晴風を傷付けずに無力化したいんだ!」
思えば戦いが始まった時点からギャオスにとっては手札は少なかったと言えた。音速で飛んで晴風と対決した所で急反転や急停止が出来ず、音速で船に突っ込んでも意味のない“相討ち”にしかならない。ギャオスにとって音速は攻撃の手札にはならず、超音波メスは晴風を一撃の元に沈めてしまう為に
「マチさん、上に戻らずに艦橋内で待機して!鈴ちゃん、晴風停止!タマちゃん、主砲一番を前方に向けて発射準備!!」
何故であろうか、今明乃はあの巨大な怪鳥の思考が手に取る様に解った。もう直ぐ巨大ギャオスから仕掛けてくる。特に理由はなく只そう確信してしまうのだ。
(私は航洋艦晴風艦長…、岬明乃!みんなの命は私が守る!!)
やっとガメラの名前だけ出せました。次回で決着する…と思います。