魔力がないからってパワハラされるのはゴメンだ! 作:シンナー
世の中、大抵の職場に上司と部下という関係が存在するが、俺は部下の立場だ。ただ俺の世界には魔法というものがあって、人によってはそれで差別する輩もいる。特に俺は魔法が使えない。だからといって戦えないわけではないが、それだけに上司に恵まれないとキツイものがある。
俺の場合、恵まれている上司にあたる事などごく稀だ。特に今の上司は俺の事が嫌いらしい。いや、嫌いだ。そうとしか考えられない。
「リンディ統括官、報告書です」
「あら、ありがとう。……ここ字が間違ってるわよ? 」
「え? ……あ! 申し訳ありません。すぐに修正を」
「書き直して」
「はい? 」
「修正なんてしなくていいから書き直してって言ったのよ。それとも何か反論があるのかしら? ポンコツ君は? 《はぁ〜はぁ〜、ごめんなさい、ごめんなさい。でも……でも……貴方のその顔堪らなく興奮するのよ! 》」
「わ、わかりました」
ポンコツ君とは俺のあだ名のようなもの。決して本名ではない。きっと俺が使えないからそう言うのだろう。だが言っているのはこの人だけではなく、もはやこの事務所全体でこのあだ名を使われてしまっている。悪気はないのだろうがあまり好きな呼び方ではない。
俺は言われた通り報告書を書き直した。本当ならこの程度の誤字は修正で済ますものだが、俺だけは書きなおしをさせられる。俺だけ……というのも、誤字ぐらい誰にでもあるものだ。他の同僚が俺と同じ事をしても修正で終わる。それでOK。リンディ統括官も全て笑顔で返すのだ。俺以外には。
「リンディ統括官、書き直しました」
「はい。確かにね。ご苦労様」
「では」
「あ! ちょっと待ってくれるかしらポンコツ君」
「あの……その呼び方やめていただけませんか? 」
「あら? 気に入らなかったかしら? でも……残念だわ。ポンコツ君がポンコツ君じゃなくなったら……貴方はどこの誰になってしまうのかしら。ポンコツ君はポンコツ君だからここにいられるのよ? 《はぁ〜、はぁ〜いいわ〜。安心して? どこにも、どこの部隊にだって貴方を渡すつもりなんてない。だって、そんな顔してくれる貴方は私の大事な大事な部下なんですもの! はぁ、はぁ! そそる、そそるわ! 興奮しちゃうのよ! だから……だからもっと……苦悶の表情を私に》」
「ぐっ……それはこの呼び方でなければ俺の居場所はない……ということでしょうか? 」
「言わなきゃわからないのかしら? 《そうよ! 貴方は、貴方は私の部下(気になる男)よ。大丈夫、悪いようにはしないわ。お給料だって、少しひいきしてるのよ? だって可愛んだもの! くっ……もう少し若ければ積極的に狙っていけたのかしら……あ! でも……愛があれば歳の差なんて……ハッ!? ダメよリンディ! そんな事考えちゃダメ、ダメよ。うう……でもでも……少しくらい『食べても』…………》」
リンディ統括官が座るデスクの前で俺は顔を歪める。正直キツかった。俺は普通にしているつもりだ。だが何が気に入らないのか。俺が何をしたというのか。
何故俺だけがこんな扱いを受けなければならない。俺はもう精神的に疲れている。しかし相手は上司。これ以上何も言えない。俺は黙ってリンディ統括官の話を聞く。
リンディ統括官が何を言っているのか。俺は最初理解できなかった。ただリンディ統括官の笑顔が黒く見える。俺は怖かった。
「それじゃ今日の仕事が終わったら夜7:00に待ってるわ。来ないと……分かるわね? 《はぁ〜はぁ〜やっちゃた!? デートよ! デートに行くの! 楽しみだわ! 私の枯れた心の若さを取り戻すのよ!》」
「わかり……ました《来ないとクビか? それとも異動か? クソっ! どうしてこんな目に! 》」
結局のところ俺は断る事が出来ずにリンディ統括官と食事に行く事になった。目的は何か。一体おれに何をするつもりなのか。俺は怖い。この人の笑顔が怖い。しかし時間は止まることなく来てしまう。
俺が待ち合わせのところまで来るとリンディ統括官はもうそこにいた。茶色いコートを羽織り、エメラルドっぽい髪をなびかせ少し寒い夜の中、俺を待っていた。内心怖いがテンプレのセリフで挨拶をしなければならない。
「すいませんお待たせしました」
「ふふ、いいのよ。少し早く来すぎただけだもの。それじゃ……行きましょうか? 」
「……はい」
俺はリンディ統括官と歩き出す。しかしいつもとリンディ統括官の雰囲気が違って見えた。おかしい……絶対おかしい。そう心の中で焦る。何がおかしいって、リンディ統括官が楽しそうに俺と喋っている。
話の内容は自分の孫の事ばかりだが、それでもこんなリンディ統括官は初めて見る。いつもなら嫌みの一つでも飛び出してきそうなものだ。だが今日は……少なくても今は違った。
と……思ったのは最初だけ。
「ここよ! 」
「……すいません、今日は気分が悪いので失礼します」
「まちなさい! どこへ行こうというのかしら? 《逃がさないわよ? 私に恥をかかせようなんて、許されないわ。だって今日はチョメチョメするんですもの! 》」
俺は逃げ出そうとしたが、襟を掴まれこれ以上進めない。誰か……助けてくれ。俺は切に願った。助けを。最初この人は食事といった。だがどうだ、俺は騙された。食事? どこが? そう言いたい。何故ならここは……ホテルだ。しかも、ただのホテルではない。男が右手、はたまた左手を使い、丹念に鍛え上げた刀身……名刀セクスカリバーを振るう場なのだから。
つまり……何が言いたいかと言うと、いわゆる男女がチョメチョメするあの場所だ。そして俺は少し考える。俺がこの人と? ない。ありえない。この人の歳とかそういう問題ではない。俺は今まで何年とこの人になぶられていた。それが今、何故。
それに俺はリンディ統括官の息子、クロノ提督をよく知っている。それだけでもありえない。無理だ。そう強く思う。
「離してください!? ぐっ、離せ! 俺はあんたと何てゴメンだ! ……うがっ!? ……バインド!? 」
「魔法も使えない癖に……抵抗しても私からは逃げられないわよ? 大人しく上司の言う事聞いといた方が貴方のためよ?《何よ……そんなに嫌がることないじゃない。でもそんなに嫌がられるとますますそそられるわ! 》」
「魔法が……使えないからなんだ……魔法が使えなからってこんな仕打ちを受ける理由になんかならない! もう離せ! 俺は! 俺はぁぁぁぁああああああああああああああうっ!? ごばっ!? ……誰……か…………」
「うるさいわね。勘違いされるでしょ? もういいわ。目が覚めた時には全部が終わってるから」
俺の意識はそこで終わった。だが次に目を覚ますと俺は真っ暗なところにいた。いや、正確には目隠しされている。手の自由は利かず、声も出せない。口に何か入れられているためだ。さらに問題なのは……俺は服を着てない。勿論、あって欲しいが下着の感覚もなし。故に冷や汗が止まらない。
部屋は何か甘い匂いがする気がする。するとよく知る声が聞こえる。俺がこうなった元凶……リンディ統括官だ。俺を拘束し、あまつさえ辱めるクソ上司。
「んーっ!? 」
「大丈夫よ、おかしな事なんてしないから《じゅるり》」
「んん? ……んーんっ!? んんん!? んーー!? 」
「貴方本当にリンカーコアないのね? 不思議だわ、よくこれで武装隊のそれもあんな危ないところで生きてこれたわよね。と言うか貴方に関する記録は私でも全部見れないのよ? 貴方は一体何者なのかしら? 」
俺は今下の方を触られている気がする。よくわからんが感覚が薄い。それに俺のリンカーコア? 何を言っているのかわからなかった。俺が魔法を使えないのは記録上届け出ているのだからないに決まっている。
前の部隊だってそうだ。別に特別な事はない。運よく生き残れただけ。と言うか下をこねくり回しながら真面目な話をするのをやめてくれないのだろうか。俺は心中とても……とてもまずい。
「ハッ!? 何て事なの…………」
「んんっ? 」
「何て膨張率!? スフィアが収束砲撃になったわ!? 貴方化け物よ! ケダモノ! 《ああ〜ダメよリンディ!? そんな事をしては、大事な部下に嫌われてしまうわ! でも……でも……我慢できないのぉぉ! 》」
「んーっ!? っんー!? 《ふざけんな!? どんな比喩だ!? それにケダモノはあんただろう! 》んんっ!? 」
このままではヤバイ。リンディ統括官も、相当興奮しているようで、止まる気配がなかった。よって俺は実力行使にはいる。魔法が使えない? それがどうした。俺も武装隊の出。小細工は得意だ。
まず、体を捻ってこの場から脱出を……しようとしたが現実は残酷だった。
「ん? 《あれ……体が回らない》」
「無駄よ! 見せてあげるわ! 」
「んっ……ぷはっ!? ……はっ!? 何だこりゃ!? と言うかここどこだよ!? 」
口に入っていた何かと目隠しを外されたそこは……普通の家だった。さらに詳しく言えば、バインドでそこら中から俺を拘束している部屋。ただ一つわかった事は……ここはリンディ統括官の家であるという事だ。
何故なら部屋の中に顔を真っ赤にした金髪の女性が私服で立っていた。俺は知っている。この人はフェイト。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。管理局でも有名な人でリンディ統括官の娘だ。
「すいません……状況が理解出来ません。これは? 」
「ごめんなさいね。今貴方には……スパイ疑惑がかけられているのよ! 」
「……はっ!? 」
「嘘よ」
「嘘なのかよ!? 」
「本当は……本当は……部下に迫っていたところをフェイトさんに見つかってしまって恥ずかしい思いをしているのぉ…………」
そう言いながら両手で顔を隠す様は……ザマァみろと言いたい。すると俺を助けてくれた天使はバインドを解き、俺を自由にしてくれた。そして申し訳なさそうな顔で言うのだ。
「うちのお母さんがごめんね? 悪気は……あったみたいなんだけど。い、いい人だから許して……くれないかな? 」
単純に思う。この人はいい人だ。思えば俺からするとこの人も上司。こんな人が上司ならば職場は円満だろうと少し想像してしまう。だがどうあがいても、明日も明後日も俺の上司は顔を赤くして悶えてるそこのクソ上司だ。
「はぁ……もういいです」
「あ、ははは……それじゃはい。これ服。早く着て! その……私も男の人の体あまり見ないから恥ずかしい。それとよかったらお詫びにご飯食べて行って? せめてものお詫びだから、『ポンコツさん』」
「……今……なん……て? 」
「え? 名前、ポンコツさんって言うんだよね? お母さんがよく言ってたし……管理局では割と有名な筈だけど……変わった名前だって」
「ふん……これで終わったなんて思わない事ね? 貴方に逃げ場なんてないわ! その名は一生消える事はないのよ? ふふ、うふふふふふ! 」
「こ……こ……このクソ上司ぃぃいいいいいいい! 」
その後……なんだかんだで飯を食わして貰ったわけなのだが、美味しかった。どうやらこのご飯は天使な彼女が作ったらしい。完璧だ……どっかのクソ上司とは違って……と思ったがこの人が作ったおかずはそれはそれで美味しかった。流石はこの人の母であろうか。
次の日、俺はクソ上司に呼び出された。何故呼び出されたといえば……いきなり新聞と言うか記事を俺に見せる。当然俺も唖然とした。
「あ、あの……」
「言い逃れはできないわよ? さぁ〜責任を取って貰おうじゃないかしら! 」
「違うだろ!? これむしろあんたの方がマズイだろ!? いい加減にしろ! 」
「な、何よ! いいじゃない別に! 私は嬉しかったのよ!? と言うか上司に対してその口の聞き方は何かしら? 」
「ああ、すいません…………」
記事の内容はリンディ統括官と俺との熱愛報道。ホテルの前で立っている俺達をどっかの誰かが激写したらしい。俺はともかくとして、この人には地位というものがある。部下を無理矢理ホテルに連れ込んだなんて知れたらただじゃすまないだろう。
だが俺には関係ない事だ。こんなクソ上司の為にどうして俺が焦る必要がある。よって俺は知らんぷりを決める。そうする。
と……いうわけにはいかない。俺を助けてくれた天使な彼女を悲しませそうだ。別に惚れたわけじゃないが、助けてくれて、ご飯までご馳走になったのだ。恩を返さないとバチが当たるだろう。
「それじゃ……俺の所為にでもして丸く収めましょう。俺ならどうにでもなりますし」
「ダメよ! 私の責任を部下に押し付けるなんて」
「そういうところは律儀ですね。はぁ……いいですか? 娘さん悲しみますよ? あと……どっかの提督も」
「うっ!? ……それは……そうよね。で、でも……」
「別に使い捨てにしろって言ってるわけじゃないですし、いいじゃないですかそれで」
俺は甘い。何が甘いかって……この考えが甘かった。何故ならこの件で、俺がリンディ統括官を無理矢理ホテルに連れて行ったなどとクソッタレな理由をつけやがった為に俺はロクな目にあっていない。同じ事務所の女性局員達には冷めた目で見られるし、男共からは事務所の天使を汚したと殺意のこもった目で見られる始末。
流石にリンディ統括官もこのままは悪いと思ったのだろう。ほとぼりが冷めるまで俺は異動になった。正確には補佐といったほうが正しいのか。ある現役執務官の補佐だ。そう……あの天使な彼女の補佐だ。
俺にもツキがきた! そう心で喜んだ。これで恵まれた上司の下で働ける。そう思っていたのだ。あくまで……思っていた。
「ポンコツ、取り敢えず私が先行するからサポートお願い」
「はい……わかりました《何て事だ。あのクソ上司……とんでもないものを刻み込みやがって》」
ある程度フェイトさんと仕事をするようになって、信頼関係は築けた。しかし俺の呼び方はポンコツさんのまま。さらに少し親しくなった事で『さん』も取れてしまい、完全にそう言われてるみたいで心に刺さるのだ。
「あ、フェイトさん? こっちはOKです。後はやっちゃってください」
「了解、ありがとう助かる」
俺達はあるテロ集団の鎮圧に来ていた。フェイトさんは敵の無力化。俺はその建物の防御システムを無力化。人員は限られいている為、2人で連携が必須だった。戦闘は任せればいいがこっちは失敗できない。
まず、敵アジトの中心、コントロール室を叩く。これでセキュリティは無力化されるはずだ。その途中妨害もあったが、この程度の相手なら魔力を使えない俺でも対処できる。しかし物事はそうそう上手くいかないものだ。
何やら俺のいる部屋には動いていないデジタル式のタイマーがあった。その時間ぴったり1分。まさかそんな事ないだろう。などと現実逃避していたが、案の定そのタイマーは動き出した。
「ポンコツ!? ポンコツ聞こえる? 」
「はい、どうしました? 」
「早くそこから離れて! 今敵のリーダーが爆弾を起動させたんだ!? 犯人は全員外に出したけどそっちまで間に合わない」
「ああ〜無理ですね。だって……後20秒ですし」
「え、まさか爆弾の目の前にいるの!? そんなポンコツーー
俺は通信を切った。こいつが爆弾なら逃げるのは無理だ。外までは距離がある。死ぬか? いや、冗談じゃない。こんな所では死ねない。死にたくない。なら解体するか? 無理だ。俺にそんな知識も技量もない。
なら……一か八かぶっ壊す。
「残り10秒か……はぁ……最近ロクな目に合わない。これも全部クソ上司の所為だな。仕方ない」
俺はポケットから取り出す。俺の戦うためのデバイス。魔法が使えない俺が魔法を使う為の相棒。
「ロード……
◇◆◆◇
「ポンコツ!? 返事をして!? ……そんな……嘘でしょ……」
「もう諦めな! あの爆弾はあの建物くらい簡単に消し飛ばす。後10秒って所だな? ククク」
「この……よくも」
「3、2、1……」
「あ、ああ……ポンコツぅぅぅうううう!? ……あれ? 」
「馬鹿な!? 爆発しない……」
私は今悲しみの涙を流していた。しかし建物は爆発しない。犯人も私も固まった。彼は助かったのか。私は再び通信をする。すると数コール後に彼は出た。
「すいません、心配かけまして。何とか爆発しませんでしたよ。ちょっと変な音しますが……《本当にうるさいなこのカチカチって音》」
見たところ怪我もない。彼は助かったのだ。いつもの表情を彼は私に見せてくれる。私はほっとした。ほっとしたのだが……その瞬間、建物が見事に弾けた。
「え……ポンコツぅぅぅうううう!? 」
Take2……今度は本当になってしまった。
次回もよろしくお願いします。