魔力がないからってパワハラされるのはゴメンだ! 作:シンナー
ではよろしくお願いします。
目を覚ますとそこは知ってそうで知らない天井だった。つまり病院だ。腕には当たり前のように点滴が繋がれ、俺の横ではベットに顔を預けて寝ている天使な彼女の姿があった。それにずっといたのだろうか、少し髪が乱れている。俺は一体どのくらい寝ていたのだろう。
と……思ったが3日程度だった。カレンダーの日付がそう俺に語りかけてくる。すると天使が目を覚ます。だから俺は右手を上げてこう言うのだ。
「おはようございます! 」
「ん〜? ……あ……ポンコツ!? よかった、目が覚めたんだ。待ってて、先生呼んでくるから」
「あ……はい」
何ていい上司だ。そう心の底から思う。俺はこれまでロクな上司に出会えなかった。もしあったとすれば、先輩の鏡と言えるヴィータさんだけだ。もう一緒の部隊になる事はないはずだが。
逆に最悪の上司と言えば、前の上司。リンディ統括官。だがそれは俺の上司ランキングの中としては甘い方だ。1番はあのクソエース様だ。冗談じゃない程のクソ上司。俺はあの人が大っ嫌いだ。
そんな事を考えている間に先生が。しかし先生の最初の言葉を聞いて俺は叫ばずにはいられなかった。
「やっと目を覚ましたか『ポンコツ君』」
「おいぃぃぃぃいいいいい!? 」
「ちょっ!? 落ち着いてポンコツ。ダメだよ安静にしてなきゃ」
「そうだぞポンコツ君。それともどこか悪いのかね? まさか頭をやられていたのか!? 名前だけじゃなく頭でポンコツになってしまったのかポンコツ君」
「ポンコツポンコツうるせー!? 何で先生まで俺の事ポンコツ呼んでんだ!? 」
あのクソ上司は一体どこまで俺のあだ名を浸透させているのだろうか。俺は怖くなった。この2人は2人でキョトンとしている。きっと純粋に俺の言う事が理解できないのだろう。だから俺は思う、何て世の中だと。
「ポンコツその……やっぱり頭やっちゃったんじゃ」
「やめませんそれ!? 俺どこもおかしくないですから! 」
「よしポンコツ君、精密検査をしよう。頭の検査だ。さっそく部屋を移動して」
「だからやめろっつってんだ!? それに俺はポンコツじゃねー! 」
「そんな……記憶まで……ぐすっ」
「どうして!? どうして信じてくんないの!? フェイトさんマジやめてくださいよ!? って、何泣いてんすか! 」
顔を背け、片手で口を押さえるフェイトさん。悪気はないのはわかる。完全に信じているだけだ。というか誰1人としてこいつら俺の本名を知らないんじゃないだろうか。
ならばと俺は自分の名を叫ぼうとする。だがフェイトさんが言わしてくれなかった。俺は無理矢理検査室に連れて行かれ検査を受ける。当然だかそれで悪いところなどない。
しかしそれでフェイトさんはホッとしているのだからとりあえずいいだろう。
「これで満足ですか? 」
「そ、その……な、何もないってわかったんだし。結果……オーライ! みたいな? ……ごめんなさい」
フェイトさんは右手の人差し指を立てて俺のむける。何て可愛らしいポーズだ。だがそれで騙されはしない。俺は最初から何ともないのだ。決して頭がおかしくなったわけではない。しかし天使なこの人のレアポーズを見れただけで今回はよしとしよう。
「はぁ……いいですもう」
「そ、そういえばよく助かったね? ポンコツあの爆発直撃だったみたいだから」
「運が良かっただけですよ《名前言ってなかった。でももう言える雰囲気じゃ》」
「そうなんだ。ポンコツってどんな魔法使えるの? 」
「使えませんよ? リンカーコアないですし《正確には違うけど》」
どうしてそんな不思議そうな顔をするのかはわからないが何となく納得したようだ。それにしても可愛いは正義なんて言うが俺は限度があると思うのだ。たとえ悪気がなくても限度が、限度があると思うのだ。例えばフェイトさんが今言った言葉。
決して悪気はないのだろう。悪気はないのかもしれないが本当に刺さるからやめてもらいたい。
「ポンコツはしばらくお休みだね。今忙しくなりそうだからちょっと辛いけど、私が頑張るから大丈夫。だからゆっくり治していこう? 『私はポンコツはポンコツだからこうなっちゃった』と思ってるから」
「……はい……お、お気遣い感謝します。フェイトさん」
わかっている。わかっているのだ。フェイトさんは決して俺を蔑んでるわけじゃない。ただ俺の名前だと思ってる単語を連呼しているだけだと。本当は俺は俺だからと言いたいのだ。
だがその単語が異様に心に刺さる。グサグサと俺を苦しめる。これも全てクソ上司の所為だ。その場にいなくてなお俺を苦しめるとは、恐るべきクソ上司。
「それじゃポンコツ、私はそろそろ行くね。ん? ふふ、ポンコツってばそんな寂しそうな顔しないでよ。そのうちまた来るから、ポンコツお大事にね」
「はい、ありがとうございます《あの呼び名を何とかせねば俺の心が持たない》」
フェイトさんは帰った。そうなると病室では静けさが際立つ。落ち着くがさっきまでの賑やかさがない。余談だが俺の怪我は全治1ヶ月。そこまで大した怪我じゃないが、爆発をモロに浴びた事もあり、そうなった。
すると突然俺の体に悪寒が。俺は知っている。この悪寒はあの感覚。俺の嫌いなあの人が近くにいるときの前兆。俺は震えが、震えが止まらない。怖いのだ。会いたくない。この無抵抗な状態で何をされるかわからない。だが来ないでくれと願う俺の願いは粉微塵に消え去った。
病室のドアが開く…………
「あ……ああ……ひっ!? 」
「やほー! お見舞い来てあげたよ? 私の永遠の部下1号君! あ! ……そう言えば今はポンコツ君って言われてるんだっけ? にゃはは、変なの」
「ぎゃぁぁぁああああああああああ!? でぇぇぇぇぇぇたぁぁあああああああああ!? 」
俺は悪魔。その顔を見た瞬間かけていた布団を放り出し、3階なのを忘れて窓から飛び降りようとした。だがそれを悪魔な彼女は全力で俺の腰をホールドしながら止める。
しかし俺は嫌だ。早く逃げ出したい。死んでもいい。死んでもいいから楽にしてくて。それだけが俺の願いだった。
「ちょっと!? いくら何でもその反応は傷つくよ! 大人しくベットに戻りなさいぃぃぃ! 」
「いやだぁぁああああああ!? 殺して!? 嬲られるくらいならいっそ殺して! 死なせて! 」
男として、力で女に負けたのは豪語できない。だが今弱っていると言うのを考慮すれば当然ではないかと自分を納得させる。でもどうせ、力で勝てなければ俺の魔力がない事をいい事に自分だけ魔力で強化して押さえ込みに来るに決まっているのだが、それは言わない事とする。
さて、俺は今ベットに投げられ、悪魔な彼女に馬乗り状態にされているわけなのだが、両手まで押えつける必要性を是非問いたい。絶対答えてくれないと思うのだが問いたいのだ。
俺はこの満足そうな彼女の表情が大っ嫌いだ。怖気が走る。
「へ、へ、へ〜もうお終い? 」
「何を勝ち誇っているのか知りませんが俺は病人ですよ? 上司ならそこんとこよく考えてくださいよ」
「ふ〜ん。しばらく見ない間にずいぶん生意気になったね? 同じ部隊だった時は私にペコペコして可愛かったのになぁ〜《う〜ん……なかなか体硬くなったのかな? 前と比べると俄然男らしくなった! うん! 》」
「当然でしょ……口ごたえなんかした日にゃ、訓練だ何だって俺を演習場まで連れてって俺を的に的当てするんですから」
「え〜ただのスキンシップだよ? 私達、上司と部下だし! 《だっていくら撃ってもピンピンしてるんだもん、ちょっとムカつくよね》」
彼女は右手で自分の胸を誇らしく叩く。だがこの人は嫌いだ。何故みんな慕っているのか俺には理解できない。ただ、この人が嬲るターゲットが俺だけだった気がするのは気のせいだろうか。
「ところでポンコツ君? 」
「ちょっと待ってください? 何故その呼び名をもうナチュラルに使い始めてるんですか? あんた俺の本名知ってるだろ!? 」
「え〜と……こっちのほうがいいかな」
「よくねーよ!? 」
この人はいつもそうだ。思いつきのごとく俺をいじる。名前に関してもこれはもうダメだろう。完全に気に入ってしまったらしい。彼女の無邪気な笑顔が余計それを物語っている。
「だってほら、ポンコツって壊れかけって事だよね? ならもうすぐスクラップだし。何だか素敵だよ?《君をスクラップにするのは私だけどね、うへへ》」
「……意味わかんねーよ!? 何だよそれ! あんた俺を殺したいのか!? 」
「う〜ん……殺すぐらいなら上司の立場を利用してこのまま君を犯すのも面白そうだよね? どう思う? 《そろそろ私の気持ち、気づいてもいいじゃないかな? けど私からは言わないよ? 君から言わせる事に意味があるんだから。今に私の虜にしてあげる》」
「……いや……女のセリフじゃねーよ…………《くそ……そのうち本当にされそうで怖い。俺は逆らえないのか…………》」
俺は思う。そろそろ下りてくれないだろうかと。両手だってまだ押さえつけられたままだ。しかしこのまま終わらせる人じゃない。何故ならこの人はまだ満足などしていないからだ。
すると案の定この人は動き出す。押さえつけてる自分の手をスライドさせるように手を広げながら俺の手に恋人つなぎすると、俺の耳元まで顔を近づける。
いくら嫌いだと言ってもこの人は美人だ。そして俺も男。これで鼓動がはやくならないわけがない。さらにこの人からはいい匂いがする。だから不覚にもドキッとしてしまった。なんて恐ろしい罠だろうか。
「ねぇ? 私って割とスタイルいいと思わないかな? 《君は私を好きになりかけてるんだよ? 気づかないかなぁ? なら分からせてあげるよ》」
「あ、あの……離れてください。その……当たって」
「にゃはは、当ててるんだけどなぁ〜? ふふ、どうかな? 私じゃ……ダメ? 」
「ちょっ!? 《やべっ!? 》」
「ぷっ……何興奮してるの? うわぁ〜変態。君のあそこ『ズッキュ〜ン』してるし。上司の身体で欲情するなんて最低だね。変態ポンコツだね。ぷっふふ《勝った! 》」
ハメられた。悪魔な彼女は俺の上からどいてはくれたものの、俺はだいぶ精神的なダメージを受けた。この人はそんな俺を見て満面の笑みを浮かべている。
こんな調子で俺は昔嬲られる続けてきた。ここまで刺激的なのは初めてだが、それでも精神的にキツイのはたしか。だから俺はこの人が嫌いだ。いや、大っ嫌いだ。
「へへ、やっぱり君みたいな部下が欲しいなぁ〜。フェイトちゃん羨ましいよ。次は私のところに戻ってきてね? ポンコツ君」
「死んでもゴメンです」
「素直じゃない! ま、いいや。そろそろ行くよ。仕事残ってるから。それじゃ〜お大事に。また来るからね」
「……はぁ……やっと帰った…………」
あの人……今更だが管理局のエースオブエースと名高い高町 なのははお帰りになった。と言うかやっと帰ってくれた。会う度にこれではいつか壊されそうである。あの人なら俺が壊れても屍で遊んでそうで怖いのだが、それに引き換え、フェイトさんはなんて天使な上司かと俺は涙を流して喜ぶ。
管理局は普通の会社と違って相手の階級が上なら上司と差し支えないのが悲しいところ。直属かそうじゃないかの違いだ。それに俺は特殊で階級が壊滅的なのだ。そのうち子供に使われる時代が来そうで怖い。
と……そんな事を考えていた時だ。先生が俺の病室に入ってきた。そして第一声。
「言い忘れてたんだがポンコツ君」
「先生? 俺はポンコツじゃないと何度言えばわかっていただけるんですかね? 」
俺は精一杯の皮肉を込めて言った。先生は悪くないのかもしれないが、違うと言っているのに名前を聞こうともしない先生が悪いのだ。
「うむ。だが君の情報はたしかに管理局から回ってきているのだが……オマエハ・ポンコツっていうのだろう? ちゃんと管理局の方からまわってきているよ? 」
「…………」
「お、おい。どうしたんだね。君の名前だろう? オマエハ・ポンコツとは。違うのかね、ポンコツ君」
「先生、気づこう!? 気づこうよ! 語呂悪い上にそれただの悪口! いや、それ以前にそんな名前つける親いないでしょう!? 」
「いや……そんな事言われてもだなポンコツ君」
「先生、喧嘩売ってんだよな? 言ってなおそれで呼ぶって事は喧嘩売ってんだよな? よし、相手になってやらぁぁぁあああああああ! ぼっ!? ぱぽっ!? へぶしっ!? 」
俺は我慢できずに先生に襲いかかった。大きくベットからジャンプし、先生の元へ。しかし俺がここで思い知ったのは、見かけで人を判断してはいけないという事だ。
先生は高齢のじいさん。恐らく70はいってるのではという高齢。だが俺は知らぬ間に3発くらった。
最初は腹。そしておデコに一撃。ラストは首。先生は強かったのだ。故に……俺の意識はそこで終わった。
「残念だが……暴れる患者の対処は心得ている。にしても……リンカーコアがない身体にも関わらず魔力を巡らせた形跡がある。と言うより、リンカーコアがないのに魔力を巡らせる神経系が存在する時点で異常なのだが……まるで元々あったリンカーコアを抜き取った後のようだ。まったく、興味深い患者だよ君は」
次回もよろしくお願いします。