魔力がないからってパワハラされるのはゴメンだ! 作:シンナー
遅くなりました。
それではよろしくです!
「うっ……ここは……知らな……え!? 」
「にゃはは、知らない顔なわけないよね? おはよう、可愛い寝顔だったよ? ポ・ン・コ・ツ・君」
「な、何してんすか…………」
「え? フォワードの訓練終わった後にたまたまシグナムさんに運ばれてるポンコツくん見つけたから拉致ってきちゃった」
目がさめると、そこにはなのはさんの顔があった。天井と言おうとした俺の言葉を返して貰いたい。しかもどういうつもりか顔が近過ぎる。下手をすれば少し動いただけで唇がぶつかりそうなくらいだ。
だが問題はまだある。拉致ってきたという単語。ここは一体どこの部屋だ。間違いなくシャマルさんのいる医務室ではない。となれば、どこかの事務所か?
と……思ったのだが、ふと……なのはさんの着ている服を見ればそれが違うとわかる。つまりは……パジャマ姿だ。しかもわざとやっているのか、胸の谷間が見えるくらい前のボタンを外している。
「あ、あの……ここってまさか……」
「うん! 私の部屋だよ? 《まぁ〜フェイトちゃんの部屋でもあるわけだけど。今日は帰り遅いって言うから2人っきり》」
「そ、そうですか……誰か助けてぇぇぇえええええええ!? んちゅっ!? 」
「んっ!? 」
事故だ。そう、これは事故だ。そう思いたい。こんなにも顔を近づけているなのはさんが悪いのだ。しかし俺はまず謝る。土下座、土下座だ。どんな理由があるにせよ、女性の唇を奪ってしまったのだ。非があろうと無かろうと殴られる覚悟はある。
だがなのはさんは顔を赤くしながら自分の唇を人差し指で何度もゆっくりなぞり、うっとりした目で俺の事を見ている。俺の心は今恐怖でいっぱいだ。
「あ、あのなのはさん……その……すいませっ!? うっ!? ……へ? 」
「ポンコツくんが悪いんだよ? 私ずっと我慢してたのに、ポンコツくんの方から……キ、キスして来るんだもん! 責任とって貰うんだから」
俺はベッドに押し倒され、なのはさんが俺に覆いかぶさる。そしてイヤらしくも、俺の股に膝を入れてきた。俺はどんな状況なのかとパニックになり始める。
「責任って……いや、その…………」
「上司の唇奪っていけない部下だよね? ふふ、私今凄く火照ってきてるんだよ? これは誰の所為? どうしてくれるのかな? これはもう君が『ズッキュ〜ン』して私と『ドッキュ〜ン』『バッキュ〜ン』するしかないよね? 」
「な、何言ってんだあんたは!? やめろ、放送禁止用語みたいになってるだろ!? ちょっ!? あ……やめ……」
なのはさんからするいい匂いは俺の興奮剤の1つになり。俺の股間に当てられている膝は段々と押し付けを強くして来る。俺は抵抗しようにもできなかった。俺だって男だ。我慢するので精一杯。
故に誰か助けてくれと懇願する。しかしここは自室。誰もくるはずはない。
「ポンコツくん……する前に、言ってよ。私の事……好き? 」
「お、俺は……」
「俺は? 」
俺の首筋になのはさんの息がかかる。顔は見えないが、それが余計に俺の興奮を強くする。なのはさんの甘い声、乗せるように俺の胸に添えられた右手。
「にゃは、ポンコツくんのここ、『ズッキュ〜ン』しちゃったよ? ポンコツくんは私で興奮してくれてるんだね。へへ、嬉しいなぁ」
「っ!? 」
トドメの一撃だった。言っておくが、こんな美人の女性に押し倒され、ここまでされてこうならないほうがおかしいはずだ。俺は欲望に負けてしまうのか。震える手がなのはさんを抱きしめようと動き出す。だが、その時、あの天使な彼女。素敵な上司の顔が頭に浮かんだ事で、俺の理性はブレーキをふんだ。
「誰がいうものかぁぁぁああああああああ! 」
「きゃっ!? ええっーー!? ここまで来て!? こ・こ・まで来て! ポンコツくんはやっぱりポンコツだよ! ヘタレ! 甲斐性なし! 」
「だまらっしゃい! 断じてあんたの物なんかになるか! 俺は奴隷じゃない! 部下、そうだ! 部下だ! 甘い罠になどかかってなるものかぁぁぁあああ! 」
俺はなのはさんを突き飛ばし、急いでこの部屋から逃げようと走る。しかし、そう上手くいけば俺もこんなにこの人に恐怖を抱くこともなかったはずだ。
「バ・イ・ン・ド」
「ちょっ!? ぎゃっ!? 」
「ふ・ふ・ふ〜。逃がさないよ? 今日はしばらく付き合って貰わなきゃ」
なのはさんの三重バインドが俺の足首、両手と腰、そして胸のあたりを拘束する。おかげで俺は受け身を取れず、顔面を床に叩きつけた。
だがこの人は心配どころか勝ち誇ったようにふんぞり返っている。
「悪魔!? クソ上司!? あ……」
「いいよぉ? いくら罵倒しても許してあげる。でも今は私の言う事聞いてもらうから。私だけの人形になって? 」
俺はなのはさんに顎をクイっと人差し指で上げられ、自分の顔に俺の顔を向ける。でもその顔はとても楽しそうで、俺は何をされるのかと怯えていた。何故ここまで執着されるのか。俺は早く解放されたい、そう願う。
「な、何して!? やめっ」
「どう? 上司に服を脱がされるのって興奮する? しないわけないかぁ〜。だってポンコツ君……私の事」
「二人共……何……してるの? 」
「「へ? 」」
聞き覚えのあるこの場にいなかった人間の声。俺は恐る恐るその方向を見る。するとどうだろうか。そこにはお土産だろう箱を落とし、呆然とこっちを見て固まっているフェイトさんがいるではないか。俺は慌てて弁解を始める。いらぬ誤解、勘違いをこの人に与えるわけにはいかないのだ。
「ち、違いますよ!? 違います違います!? これはこの人が無理矢理してきただけで俺は抵抗したんです! 」
「何それ!? それじゃ〜私が襲ったみたいだよ!? 」
「何も間違ってないだろ!? え……フェイトさん? ちょっ!? 」
「ちょっと来て! 」
「あ、ちょっと!? ふぇ、フェイト……ちゃん? 」
フェイトさんは俺となのはさんが言い合いをしている中、俺の手を取ると、バインドを解いて俺を部屋の外へ連れ出した。俺は急いで服を直すが、それが丁度終わった瞬間、俺は壁にドンっ! っと叩きつけられる。
少し驚いた俺だったが、フェイトさんの今にも泣きそうな顔を見た事で何も言えなくなってしまった。
「ふぇ、フェイトさん? あの……」
「ポンコツの馬鹿!!! 」
「パブっ!? 」
俺は何か言わないとと言葉を絞り出すが、フェイトさんはそんな俺の頬を思いっきり引っ叩く。これは理不尽じゃないのかと俺はフェイトさんの言葉を待った。
「私……今日ポンコツが怪我して倒れてたからすごく心配した……なのに、なのに仕事終わって、様子を見に医療室に行ってもポンコツの部屋に行ってもポンコツはいないし! 挙げ句の果てにはなのはとあんなハレンチな事して!! 最低だよ!!! 《あれ……何で私こんなに怒ってるんだろ……》」
そう言ってフェイトさんは戻って行った。俺は叩かれた頬を右手で押さえながらフェイトさんが消えていった方を見つめる。そして、何でこんな目に……そう思いながら重い足を上げて俺は自分の部屋に戻った。
◇◆◆◇
「お断りします! 」
「ダメだよ。君の仕事は総雑務。だから今日は私の仕事を手伝うんだよ」
「くっ……なんでこんなところで」
「そういえばポンコツ君……あれからフェイトちゃんと何があったのかな? あの後フェイトちゃん戻ってきてから元気ないし、あまりしゃべってくれないんだけど……どうして? 」
昨日フェイトちゃんがポンコツ君を連れ去った後、すぐに戻ってきたフェイトちゃんはそのままベッドの中に引きこもってしまった。私が何を言ってもフェイトちゃんは教えてくれない。私はこんなフェイトちゃんを見るのは初めてだった。
「知りませんよ。別に何も……なかったし」
「……嘘つき」
「え」
「それじゃ〜訓練始めるよ〜」
「「「「はい! 」」」」
今日のポンコツ君のお仕事は私のお手伝い。フォワードの訓練を手伝ってもらう予定だ。しかしポンコツ君はあまり乗り気じゃない。だがそれも当然の事。ポンコツ君にとっては魔法の訓練などもはや無縁の事なのだから。
「じゃ〜まずはティアナとスバル」
「「はい! 」」
「ポンコツ君と模擬戦して貰うね? 」
「「はい!? 」」
「はぁっ!? 」
私は3人に驚かれた。そんなに驚く事なのかと首を横に倒す。だが当のポンコツ君は不満タラタラな顔をして私を睨む。だから少し私も気分が悪い。ポンコツ君に睨んで欲しくなどないのだ。
勿論ポンコツ君をイジメようとかそんなつもりはない。ただ、今のフォワード達には適任だと思っているだけだ。
「お、俺……魔法使えないのわかってますよね? 一体なんの嫌がらせですか? 」
「別に私はそんなつもりないよ? 私がポンコツ君に嫌がらせなんてするわけないでしょ? 適任だと思うからお願いしてるんだよ」
ポンコツはダメだった。何を言っても信じてくれない。悲しい事だけど、思い当たる節があり過ぎて私からは何も言えないのが現状だ。
「わかりました。やります。はぁ……なのはさんのお手伝いなんて厄日だ」
「……そこまで言う事……それに昔はなのはって呼んでくれた癖に…………」
「はい? なんか言いました? 」
「なんでもないよ。さぁ〜そろそろ始めるよ! 」
時々ポンコツ君の言葉は私の心に大きく刺さる。本来なら……私達の立場など『逆でしかない』のだから。
「よろしくお願いします、ポンコツさん」
「よ、よろしく」
「はい……よろしくお願いします……スバルさんとティアナさん」
「それじゃ〜行くよ? 始め! 」
向かい合った3人は私の合図で一斉に動き出す。互いに距離を取り、相手の出方を見る。だがこれは2対1の戦い。故に、スバル達は先に動き出すのは当然の事と言える。
まずスバルが先行し、ポンコツ君へと攻撃を仕掛ける。単純な格闘ではあるが、ポンコツ君には1発としてスバルの攻撃はヒットしていない。
「嘘……スバルが手玉に取られてる? なんなのよあいつ」
「うおぉぉぉぉ!! へ? ……うわぁ!? 」
「適当に打ち込んでも当たらない当たらない」
流石はポンコツ君。デバイスの補助もなく、武器もなく。彼はスバルを完全に完封して見せている。だがこれはやる前から分かっていた事。
私がここで2人に学んで欲しいことは、相手が誰であろうと、どんな相手だろうと油断してはいけないという事だ。魔法が使えない。でも弱いわけじゃない。それを2人には理解してもらわなければならない。
「スバルに気が向いている今なら……え……」
ティアナはポンコツ君にデバイスを向ける。しかしここでティアナは固まった。でもそれは私から見れば理由は明白だ。ティアナは気づいた。ポンコツ君の視野の広さに。
本来この状況ならスバルに気がいってしまい、ティアナの攻撃を感知するのは遅れる。ティアナの今考えているであろう事は間違っていない。だがそこのいるのはポンコツ君だ。魔法が使えない。秀でたレアスキルを持っているわけでもない。でもだからこそ彼は……戦場で魔法も使わず生き残ってきた。彼が魔法を『失った』が故に…………
「ハァ! 」
「うっ!? ……すげぇ〜いい拳」
「え? あ、ありがとうございます」
「でも正直すぎる。もっと意地悪になれよ」
「へ? (あれ、最初と雰囲気が違うような)」
昔からそうだ。ポンコツ君は戦ってる時が1番カッコいい。だが決してそれが見たいが為に模擬戦を頼んだわけではない。訳ではないが……そんな気持ちもないと言えば嘘になってしまう。
そしてここで一番私が何を言いたいかといえばポンコツ君はスイッチが入るとただのバトルジャンキーでしかないという事だ。しかしだからだろうか。あのシグナムさんにポンコツ君の事を認め、親友、戦友として慕われているのは。
「あとな? そこでジッとしててもつまらないだろ? もっとガンガンいこうぜ? ティアナ・ランスター! 」
「っ!? な、なんなのよぉ! 」
的確に、最初から分かっていたようにポンコツ君はティアナが潜んでいる場所に視線を向ける。よって、ティアナはそこから出ていかざるおえなくなった。もしこれが私ではなく、他の教導官であるならば、ポンコツ君のやり方は止めなければならない。でも私的にはポンコツ君はいい仕事をしてくれていると思っている。
その理由はポンコツ君のようなタイプの敵の対する時の心構えをしっておく必要があるからだ。
「クロスファイアー・シュート! あ、しまっ!? 」
「仲間の居場所は把握していかなければならない。さもなくば……こうなる」
「へ? ちょっ!? ティア!? ぎゃっ!? 」
ティアナの放った攻撃はまっすぐポンコツ君を狙い撃つ。しかしポンコツ君はそれをギリギリでかわすと予定どおりと言わんばかりに弾道上に誘き寄せていたスバルにその攻撃を直撃させた。
「あ……あえぇ〜」
「ス、スバル……」
「はっ!? また俺は無意識に愚かな事を……すいません!? スバルさん、ティアナさん!? 」
「あはは、ここまでかな。はい! そこまで! ティアナはスバルを介抱してあげて? それでポンコツ君には後で罰を与えます」
「はぁ!? なんで!? どうしてよ!? 」
スバルが完全にダウンしてしまったので私は模擬戦を途中で止めた。こうなる事は最初から分かっていたが、この模擬戦の目的はもう1つあるのだ。
「上司に対する言葉遣いとやり過ぎ行為。ふふふ、今日はポンコツ君独り占めだね。楽しみだなぁ〜《計画通り! 》」
「は……ハメられた…………」
ポンコツはうなだれて両膝と両手を地面につく。だがこれがいつもの私達の関係。上司と部下だ。
次回もよろしくお願いします。