魔力がないからってパワハラされるのはゴメンだ! 作:シンナー
遅くなってすいません。
今回はちょい真面目パートです。
「フェ、フェイトさん。頼まれた書類、今データ送りました」
「うん。ありがとう。……ん? ポンコツ? 字間違ってるよ? 」
「え? あ!? すいません、すぐ書き直します」
「いや、いいよ。ポンコツに頼んだ私が馬鹿だったんだから。私が書き直す。他の事やってくれるかな? 」
「え……あ、はい」
ポンコツの1日の仕事のうち、なのはの手伝いの後は私の仕事が入っていた。一緒に溜まった書類の片付けだ。だが私は今冷静ではない。
何故かと言われれば分からないといったほうが正しい。どういう訳か、あの一件以来、ポンコツの事になるとどうしようもなく怒ろっぽくなってしまう。
でも決してポンコツが嫌いなわけではない。嫌いなわけではないのだが、上手く感情を制御できないのだ。たかだか文字の打ち間違え。それも100枚以上はあろう枚数だ。間違えないでやれる方がおかしい筈。
しかし私はたった一回間違えただけでもポンコツに嫌味な事を言い出し、ポンコツを傷つけ始めていた。今の彼の顔は見るからに気持ちのいいものじゃない。落ち込み、やる気を失わせている。一応上司としてよくないことなのは重々承知していた。
「これで……よし! フェイトさんこっちの書類全部終わりです。三重チェックぐらいしたんで大丈夫な筈ですが確認はお願いします」
「あ、うん。でも、ちょっと緊急で現場呼ばれちゃったから帰ったら確認する」
「え? でもこの書類早く出さないといけないんじゃ」
「ポンコツ、私の話聞いてる? 緊急の呼びだしがあったの! だからそんな書類後。と言うかポンコツも行くよ? 今日は私の雑用なんだ。もう、そんなんだからポンコツは使えないんだよ…………あ! あ、ポンコツ!? 違うんだよ今のは!? 今のはその……ついというか…………」
「行きましょう。緊急なんですよね」
「……う、うん」
気がついたら私はポンコツに対して罪悪感でいっぱいになっている。現場に向かう途中もバツが悪くて声もかけられない。間の悪い沈黙が続き、私は困り果てた。
今までこんな事はなかった。言わなくていい事を相手に対して言ってしまう。しかも相手を傷つけるとわかっていながら、それでも言ってしまう。だから今の私はタチが悪いのだろう。でもどうしてポンコツは、こんな私に文句1つ言わないのだろうか。普通なら我慢するところでもない。ポンコツが悪いわけではないのだから普通に文句を言ってきてもいいはずだ。
そんな事を考えている間に現場に。他の局員に状況を確認すれば立て篭り事件だと言う。人質も取られており、今現状の局員では対処できないようだ。
「ポンコツはここで待機して。私は中へ行くから」
「い、いや、1人でですか? それはいくら何でも」
「大丈夫だから。私1人でも十分。ポンコツ手なんか必要ない。危ないから待ってて」
「一体何をムキになってるんですかフェイトさん!? そういう事じゃなくてですね。もっと冷静に状況を! あ、フェイトさん!? 」
結局、私はポンコツの話を聞かずに中へ潜入した。最初は何人かを倒しながら楽に進めたが、ここで私は気がつく。普段なら気づかぬ筈もない事を今更。
私は罠にはまっていた。最初の犯人たちは囮。こんな簡単な物に気付けないほど私は冷静さを欠いていた。誘導され、そこへ足を踏み入れてしまった。
「こ、こんな簡単なぁ……うっ!? ぐっ! 」
「無駄だぜ? それは濃いAMFの捕縛装置。そこを踏んだらもう魔法なんて使えない。あんたは俺たちの罠にはまった。必ず誰かはここに踏み込んでくると思っていたからな」
「お前達の目的は何だ! はやく人質を解放しろ! 」
「おぉ〜怖い怖い。でも今あんたはただの女だ。まさか管理局の執務官さまが直々に潜入してくるとは驚いたが、いいお土産ができたよ」
犯人は数人で私を取り押さえ、身動きを取れないよう抑え込む。私はただされるがままに抑え込まれてしまった。人質を助けるために潜入し、自らが人質となる。何て愚かなのか。
「さて! お楽しみでも始めようか? 」
「何を……んっ!? ちょっ」
「あんたいい体してるよな? へへ、おい! お前ら好きにしていいぞ」
「ま、待って!? お願い、やめて!? 」
数人の男に胸や下半身を弄られ始める。これからどんな末路を辿るかは経験のない私にもわかった。だが抵抗などできない。魔法の使えない私など少し強い一般人女性と変わらないのだから。
助けを呼ぶ。でもそれは届かない。いったい誰に届くのか。ここは敵の巣窟。ましてや自業自得。助けてもらえる理由もない。私は半ば諦め始めていた。
しかし私は今信じられない光景を見ている。こんな事あるはずが無い。信じたくも無い。何故ここに、この場にいる筈も無い人間がいる。どうして……こんな私の為に『彼』はそこに立っているのか。
「今すぐそのうす汚い手を離せ…………」
「あ? 何だ? チッ、1人じゃなかったのか。だが、この女は俺たちの手の中だ。いつでも殺せるぞ? 迂闊だったな? ククク」
「俺はどうなってもいい。フェイトさんを離せ。人質なら俺でいいだろ? 」
「ククク。面白い事を言うな? この状況で。立場わかってるのか? でもそうだな? お前のような管理局で働いてるような『エリート様』には一番効く薬があるぞ? ここへきて土下座だ。額を床に擦り付けろ。そしたら考えてやる」
何を馬鹿な。私は思う。今最低な私の為にそんな事をポンコツがやるわけはない。ここへ来る前、散々言いたい放題やりたい放題ポンコツを傷つけたのだ。そんな事する筈はないし、して欲しくもない。
だが私の思いに反し、ポンコツはリーダーであろう男の前へ行くと、床に両膝をついた。何を始める気なのか。一体何を。そう私は現実を受け入れずにポンコツを見る。やめて、やめてと心が叫ぶ。
こんな奴らに、私の為に下げるほど、彼の頭は安いはずがない。しかしそんな思いは届かず、ポンコツは額を床に叩きつけた。
「彼女を離してください! 」
「ぷっ!? ははっ! くはは!! お前面白いな? 管理局の犬にしては物分りがいい。気に入ったよ」
「なら」
「ここで自決しろ。そしたら約束通りこの女を解放する。後人質も解放してやるよ」
「っ!? まっ!? そんなのダメだ!! やめてポンコツ!? そんな事!? 」
「うるせぇ! 大人しくしてろ女!! 」
下衆だ。こいつらは芯から腐りきっている。どうせ約束など守る気もないくせに、こいつらはポンコツに自ら命を立てと強要している。
今、彼は到底選べる筈もない決断を迫られた。私と人質の命。それと、自分の命。どっちを選べると言うのだ。
こいつらはわかっている。ポンコツに対して、選べるない選択を迫って楽しんでいるのだ。
私は今許せない気持ちでいっぱいだ。この犯人達を。そして何より、ポンコツにこんな選択をさせる状況を作ってしまった自分自身が。
「分かった」
「何? っ!? へ、はは! お前本当に面白いな? 自分の命が惜しくないのか? 」
「やめて!? ポンコツダメ!? 」
ポンコツはズボンのポッケから前に使っていたナイフのような物を取り出すとそこへ何やら太い乾電池らしき物をセットし、その刃先を自分に向け始めた。
私はどうしたらいいかわからず、ポンコツに無様にやめてと叫ぶことしかできないでいた。しかしポンコツの顔は覚悟の決まった顔をしており、止める気がないことは確かだった。
「ふふ、最後に聞いてやるよ。最後の言葉ってやつ。プライドもない無様な管理局の負け犬にな? 」
「プライド……か。悪いが、そんな物、ノーエンブレムになった時に失ったよ。俺にプライドなんかいらない。俺が背負うべきは罪以外何もないからな 」
「ケッ! つまらねー! 最後にして、そんなつまらない言葉を吐いたのはお前が初めてだ」
「最後か……確かにな? フフ……確かに俺も死ぬかもしれないが、お前達も無事でいられると思うなよ? 」
「は? これから自決する分際で何をほざいてるんだ? 」
ゆっくり、ゆっくりとカウントダウンのようにポンコツが手に力を込める。そして次の瞬間、それを思いっきり自分へと突き立てた。
「1秒だけ懺悔の時間をやる。それで己の罪とこれからの生き様をよく考えろ!『 単1』ロード・乾電池!!! 」
「やめてポンコツっ!? いやぁぁあああああああああああああああ!? 」
「うっ!? かっ、あぐっ………ぐがっ、ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 」
ポンコツがナイフをお腹に突き立てた瞬間、私はありえない光景をみた。青いイナズマがポンコツを包み激しく暴れ始める。これは魔力だ。それもオーバーSはあろうかというほどの。
だがどうだ、ポンコツには魔力なんてない。それは病院に立ち会った事のある私にはわかっていたことだ。しかしこの場のAMFを無視し、その魔力はポンコツの身体を蒼くバチバチと帯電させている。
「ポ、ポンコツ……」
「な、なんだ!? ハッ!? ……な、何!? 」
「え……ポン……コツ? え……」
一瞬。たった一瞬の出来事だった。私にもポンコツが何をしたのかが見えなかった。でもただわかることが1つ。私はいつの間にかポンコツにお姫様抱っこされているという事だけ。
「い、一瞬で……全滅……なんだ……お前何者だ!? 」
「さぁ〜な。強いて言うなら、プライドを捨てた負け犬だよ。俺はな」
「なんだよなのは。こんな所にいたのか? ……またあの時の事……考えてやがんのか? 」
「うん……忘れるなんてできないよ。というより、私達は忘れちゃいけないんだよ。ポンコツ君の事。ポンコツ君が何者で、どんな魔導師だったか。それに……」
「言うなよ。そんな事言わなくても分かってる。他の誰があいつの事を悪呼ばわりしても、私達は……味方でなきゃならねぇ。じゃねぇと…………」
私は六課の訓練場で夜風に当たっていた。だがそこをヴィータちゃんに見つかってしまう。どうやら私を探していたようだ。
そして私達は2人にしかわからない話を始める。あの雪の夜、ポンコツ君と『最後』に飛んだ夜の事を。
「そうだね。そうじゃないと……もうポンコツ君に関わる資格なんかない。今でも……負い目しか感じないのに。それに……いくら好きでも届かないの。いくら想っても触れないの。こんなにも近くにいるのに」
「そんな事ないだろ? なのはは……よく頑張ってる。ちゃんとあいつと向き合ってるじゃねーか。それに引き換え私は…………」
「まだ大丈夫だよヴィータちゃん。間に合う。まだ間に合うから」
「そう……だな」
ポンコツ君がどんな魔導師でどんな人間だったかは、私達以外知らない。知りようもない。何故ならそれは調べられる程甘い事じゃないからだ。ポンコツ君に関するデータ、その素性、昔保有してた技能。その全てがトップシークレットの案件。決してほじくり返す事は許されないことだ。
だがポンコツ君をそのような状態にまねいたのは私だ。償いたくても、償いきれない。何をしても許される事だなんて思ってない。けど、ポンコツは許してくれる。だからそれが何よりも私は苦しかった。
「『蒼き雷速の魔導師』……懐かしいよねこの響き。ふふ、カッコよかったなぁ〜ポンコツ君。でも……かつて、そうと呼ばれた魔導師は私の所為で死んだ」
「なのは……けどよ、それを言うなら私も…………」
「ううん。私が殺したの。私が……ポンコツ君の全てを奪ったんだよ」
「ポ、ポンコツ……そ、その……」
「だから言ったじゃないですか。冷静……にっ……くっ、ぐっ……て…………」
「ポンコツ? ねぇ大丈……っ!? 」
ポンコツが私をそっと下ろす頃にはその場は片付いていた。犯人は床に倒れ、全員気絶している。だが、それはこの状況の説明にはならない。
しかも私はポンコツになんて言っていいかわからず、言葉を濁した。
でもその刹那、ポンコツの様子がおかしくなる。辛そうに、私の方を見ようとせずに片手でお腹を抱えていた。
私はこの時何故すぐに気がつかなかったのかと思う。ポンコツは自分でお腹をさしている。よく見れば、ポンコツの足元は血で染まっていた。
「ポ……コツ……ポンコツ!? 」
遅かった。ポンコツは次の瞬間には倒れ始める。だが何とか地面に接するギリギリでポンコツを支える事に成功した私は急いでポンコツを仰向けにしてその様子を確認するが、ポンコツは信じられないくらい弱っていた。
「なんで……なんでこんな…………」
「フェイ……ト……さん……気に……しないでくだ……さい。おれ……頑張って……治し……て……ケホッ、ケホッ……はぁはぁ……復帰します……から……ね? は……は…………」
「ポンコツ……違う。そんな……そんな事言ってもらう資格私には……え……っ!? ポンコツ? ポンコツ!? ポンコツぅぅぅううううううううううううううううう!!! 」
突然この場の空気が終わりを迎えるように、私の手を握るポンコツの手から力が抜けた。
次回もよろしくお願いします。