バカ(嘘喰い)とテストとギャンブル 作:y=ー( ゚д゚ )・∵.ターン
その男はどこまでも鋭く、どこまでも賢しく、どこまでも強者であった。
何者であろうと、その者の前に『嘘』を口にしてはならない
その者は、ありとあらゆる『嘘』を喰らい尽くすのだから
故に、人はその者をこう呼ぶ
――――『嘘喰い』と
その日の夢は奇妙だった。
その夢は『斑目漠』の記憶の中でも、明らかに異質に当たるであろう
《屋形越え》の権利をかけた帝国タワーでの勝負
金を、人材を、血を、生命を賭した――――文字通りの死闘
多くを支払い、多くを得た闘い
斑目漠は勝利を手にし、金を手に入れ、搦手も手にした。
専属立会人の夜行も無事に零の號を手にした。
全てを成し、この時点で遺したものは無い
完璧だ。
(んで…疲れ果てて眠っちまったわけだけど…)
確かに漠はベットに入った。
死にそうなほど疲れ果てた身体を休めるべく、ベットに入った筈なのだ。
なのになぜ
(なーんで学生のカッコなんてしてんのかなー…俺)
彼は今、制服を身にまとっていた。
(顔も違う、名前も違う…こりゃ夢だねぇ、うん)
夢の中でも、斑目漠は冷静だった。
現状を速やかに確認すべく、行った事は二つ
一つ、所持品の確認
二つ、顔の確認
一つ目は、まさに当然であろう
わけもわからぬまま、知らない場所で、知らない格好をしているのだ。
所持品を確かめるのは当然の事
学生服の内ポケットを漁ると、生徒手帳が入っていた。
所属は『文月学園高等部』名は『吉井明久』クラスは『F』とあった。
なるほどなるほど、彼はこの夢の中では全くの別人という『設定』らしい
右のポケットには何故か『カリカリ梅』が入っており《今月最後の食料》なる物騒な文字が小さな袋に器用に書いてあったが…気にしないことにする
二つ目は、生徒手帳のモノと今の自身の顔の比較である
結果は当然『正解』
生徒手帳のそれと、今の顔は全くの同じものだった。
(ふーん…今の俺は、吉井明久君って事ね)
スラスラとパズルを解くように、斑目漠は思考を続ける
その時、夢の中である事が災いしての特有の設定なのか、頭の中に『吉井明久』の記憶が駆け巡った。
(おっ…?!)
初めての感覚
膨大な記憶を一瞬で流し込まれるような不快感が、斑目漠を突き抜けた。
文月学園…Aクラス…姫路瑞希…テスト…観察処分者…試召喚戦争…Fクラス…
(――――へぇ)
成程、どうやら…斑目漠は面白い状況に居るらしい
(好きな女の子の為に身体を張って、今からAクラスのトップとFクラスのトップの最終戦…なぁるほど、コイツは中々の《設定》だね、小説一冊書ける位には面白いかな)
くつくつと喉を鳴らし笑うは『吉井明久 』――――否、『嘘喰い』斑目漠
(んで、今から日本史ペーパーテストの最終決戦かぁ…)
Fクラスのリーダー『坂本雄二』
Aクラスのリーダー『霧島翔子』
互いのトップ二人での闘い
雄二はコレに勝機があると語っていたが、冷静に考えればおかしな話である
いくら得意と豪語しようが、相手はAクラス
真面目に学習を繰り返してFクラスの人間が、頂点に立ち続けるAクラスの人間に『得意科目』と言えども『勉強』で勝てるわけがない
(つまんねぇの)
ただ、斑目漠はそう考えた。
《退屈》
ソレが斑目漠を包んでいたのだ。
(そんな『運任せ』…俺は納得できないね)
坂本雄二の一か八かの『得意科目指定』
果たしてその勝算は…吉井明久の記憶を鑑みるに、限りなく零
冷静に観測してみても、ソレは明らかな事項であった。
(それなら…)
斑目漠がとるべきことは一つ
夢の中であるなら、この《退屈》を《興奮》に変える事だろう
ニヤリと、《嘘喰い》と呼ばれた《勝負師》が嗤った。
「ねーねー、おふたりさん」
決戦に臨もうとその場から立ち去ろうとした二人に、一つの声がかけられた。
霧島翔子は無言でそれに一瞥を加え、坂本雄二は溜め息をつきつつ振り返る
『はぁああ…なんだよ、明久』
せっかく気合い入れたんだぜ?と坂本雄二は続けた。
『あんだけカッコつけて、最後の最後で怖気ずいたのか?』
「いやいや、そんなことはないよ」
ただ…吉井明久はそう続けた。
「つまらない…そうは思わない?ユージ」
周りが、ほんの少しざわつく
「勉強勉強勉強勉強…『俺』はうんざりなんだよねぇ、ユージ」
『…は?』
「いや、だってそーじゃん?一体こんな事になんの意味があんのってこと」
吉井明久は、愉快に、だが諭すように続けた。
「得点を元にして戦争??つまんねーよ、それ」
散々戦ってきた、欲しいものを勝ち取るために
『最低から脱する』
それをFクラスで最初に唱え、最初に実行に移した男の言葉
全てを根底から否定する、赦されざる言葉たち
「なんの意味があんのよ、そんなことってさぁ…」
『…おい、明久…いや…お前…?』
「だーかーらーさっ」
ズイっと、吉井明久は身を乗り出す
その瞳には、ほの暗い輝きが灯っている
「俺と勝負しようよ、霧島さん…」
果たしてその毒牙は、霧島翔子に向けられた。
『…何故?』
「やだなぁ、わかってんでしょ?俺はツマンネーの!この勝負が、この茶番が」
豹変
その一言では片付けられない狂気が、吉井明久にまとわれている
周囲に恐怖が伝染し、教師たちはこの状況を訝しみ始める
『吉井!お前…何を言っている!』
西村宗一
通称『鉄人』が、吉井明久の肩を掴む
『勝負を希望したのはお前達だろう…それをいきなり否定するとは、どういう風の吹き回しだ…?』
周囲の総意
それを問われた吉井明久は、獰猛に笑む
「だって、つまんねーじゃん、それだけ」
ニヤニヤと、不快感が濃縮された笑みが撒き散らかされた。
「そもそもさ、勉強で戦争?それっておかしくない?」
吉井明久は鉄人の手を軽くすり抜け、霧島翔子へと歩を進めた。
「どう考えても不利じゃん、俺達にはさ」
『…挑んだのは貴方達』
「それしか手段がなかったからね、ここまで来るには」
『…?』
「俺が欲したのはこの場所、このタイミングさ」
「霧島さん、俺と勝負をしようじゃないか…《対等に》ね」
全てを喰らう悪魔が、霧島翔子に顎を開いた
明久がカッコよくカリ梅を食べます←