バカ(嘘喰い)とテストとギャンブル 作:y=ー( ゚д゚ )・∵.ターン
吉井明久は声を高らかに告げた。
《他のゲームで決着つけようよ》
『貴方は…何を言っているの?』
吉井明久の提案に、霧島翔子は淡々と返答する
『自分が何を言っているか…分かってる?』
「当然――――分かってるに決まってるじゃん」
文月学園にとっては何より重要な事項
《試召喚戦争》
殆どの行事、決を取る際など…全てとは言うまいがほぼ全ての事にはこれが絡んでくる
自らの分身たる《召喚獣》を呼び出し、科目別の点数を合計した総合計点数=戦闘力を算出し、ソレを用いて戦闘を行う模擬戦闘に近い《戦争》
それが唯一、FクラスがAクラスに挑む為の選択肢だった。
成り上がり、待遇の改善を求めるには…《戦争》で勝ち上がらなければならなかったのだ。
誰もが否定した、誰もが無理と決めつけた。
最弱が最強に勝る事など、誰にも想像はつかなかった。
だが果たして、Fクラスはここまでたどり着いた。
最後の最後、リーダーとリーダーによる潰し合いにまで持ち込んだのだ。
全校生徒が注目するこの戦い
それに水を指すように、この戦いの発起人がこう言うのだ。
『《試召喚戦争》以外で対決しよう』
と
当然、Aクラスの人間にコレを受ける道理はない
『拒否するわ』
「ありゃりゃ、手厳しい」
何故勝てる勝負を捨てる?
最底辺の学力と、最上位の学力
雲を見るよりも明白な差、天と地を穿つ様な差
その弱者からこう問いかけられたのだ
『つまらないから別のことで勝負しよう』
と
『こちらとしては、それに応える道理もなければ理由もない…当然でしょう?』
周囲の小さかった声が、徐々に大きくなってゆく
霧島翔子に呼応するかのように、Aクラスの生徒達の声は大きくなっていった。
『そうだっ!巫山戯るな!』『ここまでやっておいてそれか!?』『学園の規則を無視するつもりか!!!』『お前達が始めたことだろう!』
糾弾の声が大きくなっていく
不満の種火は周囲に伝播し、Fクラスに焦燥と疑念の篝火を灯す
『お、おい…』『吉井のヤツ…!』『ふざけんなよぉ!?』『坂本のヤツに任せとけば良かったのに…!』『なんてこった!!!!』
不満と焦燥
怒りと困惑
対立する両者の間で流れる空気
その中央で佇むは…霧島翔子と坂本雄二――――《嘘喰い》吉井明久
解せぬといった様子の霧島翔子
顔をしかめたまま考え込む坂本雄二
そして…
「…ふっ…は…」
深く嗤うは、吉井明久
『…何がおかしいの?』
「いやいや…揃いも揃って何を言うかと思ったけど、ケッコービビってるんだ?Aクラス」
ピシり
空気に、亀裂が走る
火に薪を焚べた本人は、徐々に空気を送ることも忘れない
「下々の訴えにも耳を傾けないトップクラス…はぁぁぁあ…俺はチョットがっかりしちゃったなぁ…」
わざとらしく肩をすくめると、吉井明久は俯くように顔を下に向けた。
ゆらゆらと蜃気楼のように、吉井明久は言の葉を紡ぎ続ける
「――――臆病者だねェ、君たちってさ」
『…!!』
霧島翔子が目を見開く
見え透いた挑発に、少しばかり心が焚き付けられたのだ。
ばらまいた火種に薪を送り、送り続けた空気に乗って――――
怒りの炎は、遂には大きく点火した。
『臆病者じゃない』
「なんで?その通りじゃん」
『貴方達のことなんて怖くない、ただ、その行為が無意味だと言っているの』
「無意味?」
『態々優位を崩す程、私たちは愚かじゃない…愚か者を相手する私たちが、愚か者の領域にまで降りる必要は無い』
「愚か者の領域…ねぇ…?」
かかった。
吉井明久は、心の中で笑顔を咲かせた。
「じゃあ、こうしようか…」
ピッと
人差し指が立てられる
「愚か者には愚か者の流儀があるのさ」
ぬるりと、吉井明久の口が霧島翔子の耳元に近づいた。
唐突な行動に、両陣営の生徒達は静まり返る
そしてその耳元で
「そっちが勝ったら、なんでも言う事を聞こう」
堕落への誘いが、かけられた。
『…えっ』
「絶対命令権っつーのかな?…とにかく、Fクラスとしては何でも命令を聞くよ」
信じられない
そういったような表情で、霧島翔子は吉井明久を見た。
なんと自信に満ちた表情だろうか
憎たらしいほどの勝利への確信が、彼の面貌には張り付いてる
――――さっきまでは、こんな雰囲気は欠片も感じられなかったのに
『…なんでも?本当に?』
「なんでも、なんでもさ」
『…………』
「こちらが勝利した場合の報酬はそのまま…クラスの設備を入れ替えさせてもらうだけだよ、追加の条件は無しだ。」
霧島翔子にとって、それは甘美な蜜の様な提案だった。
その権利さえあれば、彼女の目的は達せられのだから
坂本雄二を自分のモノとして獲得するという、究極の目的が
「…どうする?」
この男を下せば
坂本雄二が手に入る
甘美なる誘い、愚か者の領域への誘い
どうする――――乗るか?
霧島翔子は、少ない時間で思考を深く巡らせた。
それに対するリスク――――勿論、Fクラスの人間の得意分野が突き付けられるはずだ。
具体的には、吉井明久に有利なゲームが提示される可能性
それは充分に考えられる
即ちFクラスの人間を使用した『イカサマ』を仕込む余裕が存在すると言うこと
この話に乗るとして、彼らに有利に進む指定があるのは先ず必須だろう
(…優位に立たせるわけには、いかない)
霧島翔子はAクラスの代表である
ならば、勝たねばならない
勝つ事が、仲間達から任された事なのだから
だが、それでも、霧島翔子にとってこの提案は魅力に溢れているのだ。
仲間を度返しにしても…喉から手が出る程に…
この提案は受けざるを得ない
(どうする…どうする…?)
吉井明久に勝つには?
確実に勝つには?
坂本雄二を手に入れるには?
何をすればいい?何を言えばいい?
(…うん、こうしよう)
果たして、霧島翔子の意志は固まる
『分かった。受ける』
「おー!そっか!」
満足げに微笑む吉井明久
だが、霧島翔子は賢い女である
楔を打ち込むことが、唯一できるこのタイミング
霧島翔子は、確かに楔を打ち込んだ
『2つ、条件がある』
「…へぇ?」
霧島翔子は、愚か者の領域へと降り立った。
だが、霧島翔子は気づかない
自らの失態に
《彼女はこの提案をされた瞬間、提案を蹴るということすら考えていなかった》と言う失態に
「…………それが条件?」
吉井明久の言葉に、霧島翔子は絡め取られたのだ。
両者のクラスメンバーがざわつき、教師陣すらも若干のどよめきを見せている
吉井明久の豹変、提案
霧島翔子の同意
霧島翔子を通しての教師陣への直訴
こうして、AクラスvsFクラスの勝負は文字通り「Fクラスの全て」を賭したゲームに突入する
勝負開始まで、10分のインターバルが設けられた。
Fクラス待機エリア…全Fクラスの生徒が、飄々とする吉井明久を睨みつけていた。
「ユージ、カリカリ梅の袋とか持ってない?」
『明久ぁ!!!…テメェ…!』
坂本雄二が、吉井明久の胸ぐらを掴む
『お前!何をしたのか分かってるのか?!…翔子のヤロウに、何を言った!?』
「んん?…簡単だよ?ソッチが勝ったら、何でもいうこと聞くって」
『あ゛…!?』
Fクラスのメンバーがざわついた。
Aクラスのメンバーが、これから行われる何らかのゲームに勝利した場合…Fクラスは何かを行わされる?何かを奪われる?何かをされる?
不満と不安が、一瞬で爆発した。
『おい吉井!!!』
『まさかお前…ここまでバカだとは…!』
『今すぐ取り下げろ!坂本にテスト勝負を続行させるように話をすれば…!』
「…あ、それ無理」
ネクタイをゆるめ、第一ボタンを外し、髪の毛を乱雑に乱した男
吉井明久は、その様な風体で返答を返した。
「向こうさんはノリノリだよ、今更コレを取り下げるなんて無理だろうねぇ」
『でも…!』
「大丈夫大丈夫…大丈夫だから」
吉井明久が、酷く、酷く
「ユージ…俺を信じろ」
酷く、酷く
「俺は、必ず」
酷く、酷く
「勝つ」
残虐に嗤った。
しん…と静まり返るFクラス陣営
いつもとは違う吉井明久に、皆が困惑しているが故か
誰かがこう言った。
《今日の吉井は何かが違う》と
その裏で蠢く、何かを幻視したのか
「大体、こういうのはさ…あるからやるもんだよ?」
『…何が?』
坂本雄二の質問に、吉井明久が高らかに応えた。
「勝算、さ」
『…あるっつーのか?勝てるのか?Aクラスに?お前が?』
「ユージ、俺はさ…負けるとわかっててここまで馬鹿なことはしないよ」
『学園のバカ筆頭の一言だぞ?信じれるか、そんな言葉』
「あーあ、ひーどいんだー!お前も馬鹿のくせにー」
『少なくとも俺の方が――――』
「勝算はあったと?あんな運任せなテスト勝負で?学力最上位のクラスのリーダーに勉強で勝つ??…悪いけど、限りなく勝算は零だね」
『…!!!…じゃあ、どうするんだよ?!お前なら勝てるのか!?あぁ゛?!』
「…だーかーらーさぁ…」
俺は、勝つ、勝てる
「勝負――――ギャンブルってのは勝つ為にやるもんだ…そうだろ?」
勝たなきゃ、意味がない
「だから、俺は勝つ、勝てる」
有無を言わさぬ迫力に、皆は押し黙るしかない
少なくとも『この』吉井明久は『あの』吉井明久ではない
それを感じさせるほどの『知性』が、吉井明久からは溢れ出ていた。
『…本当に…本当に勝てるのか…』
「任せときなって」
誰からかいつの間に手渡されていたカリ梅に、吉井明久は手をかけた。
ぴっッツっシィイイイイイイイイ!
派手な音を立てて開かれたカリ梅の袋
それを投げ捨てた吉井明久が、その中身を口に運ぶ
「俺は、負けないよ」
カリッ…!
「さぁて…行きますかァ!」
風に舞うカリ梅の袋を、皆は呆然と見守るしかなかった。
ただ、その背中には…言い知れぬ迫力が存在した。
誰かが確信する、誰かが叫んだ。
『行け…明久…!!!!』
「やあっと信じてくれたぁ?ユージ」
『行ってこい…!!…勝て!』
「任されたよ」
先程まで胡散臭さしか感じられなかった『バカ』に、坂本雄二は、Fクラスは、全てを賭けることを認めた。
全てが、吉井明久の手腕に託されたのだ。
アリーナの両端から歩み出てくるニ者
愚か者と賢き者
FクラスとAクラス
吉井明久と霧島翔子
二人は向き合い、互いに目線と会話を交わす
『準備はできた?』
「うん、滞り無く…ね」
『それは良かった。』
「ソッチも《仕込み》は済んだの?」
『…そんな事はしない』
「嘘つかないでよ、あんな条件追加したくせに」
『…さぁ、始めましょう』
AクラスvsFクラス
特別ルール
1つ.勝負の内容、及びルールはAクラス代表者が決定する
決定された内容、ルールはゲーム開始前に説明
Fクラスはコレに意義を申し立てることはできない
公平を期す為、ルール作成には教師の監修を一度通すこと
2つ.発覚しないイカサマに関しては、教師陣(学校側)は干渉しない
勝負後にイカサマが発覚した場合も同様の扱いとし、教師陣(学校側)は干渉しない
霧島翔子が、未開封のトランプの封を切った。
『勝負内容は…ババ抜き…その特殊ルール版』
「…へぇ、コレをやるの?」
『そう、ゲーム名は…』
《ハングマン》
「秀吉、それにムッツリーニ」
『なんじゃ?明久』
『…何?』
「頼みがある」