青と赤――レイ∨アスカ   作:くーたん局長

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青と赤――レイ∨アスカ

 昼休みになった。教室内は穏やかな日差しで、少し気だるいムードだった。第3新東京市立第壱中学校二年A組。

 クラスの面々は持ってきた弁当を開けて話しだしたりしている。また一部の生徒は購買に行ったり、校庭や屋上で食べるために友人たちと一緒に教室を出ていった。

 碇シンジは授業中は必死で落ちようとするまぶたをグッと見開いて、眠気を抑えていたが、授業が終わると同時に、糸が切れたように机に突っ伏した。机はガタンと音を立てた。

 NERVの激務と学業の両立をしようとしているからだろうか。エヴァに乗る重圧と恐怖から、不眠気味だからだろうか。最近なぜかひじょうに眠いのだ。

 机に突っ伏したシンジはだんだんと頬の緊張が緩んでいくのが自分でもわかる。授業が終わり、起きていなければならないという緊張感が切れるのと同時にシンジは安心感と深い睡魔に襲われた。気持ちのよい眠気。まるでL.C.L.に包まれたような安心感と幸福感だ。このままずっと眠ることができれば、エヴァに乗る必要もないのに……だんだんと薄らいでいく思考。そして思考は夢想へと移行する。

 軽い微睡みのなかで、シンジは自分が真っ白な正方形の空間に全裸で立っていることにきづく。先ほどまで教室にいたのにここはどこだろう。なぜかとても落ち着く場所だ。とはいえシンジは恥ずかしさを感じないから、夢のなかだろうとは気づいている。平和な無音の世界だ。そこに急に父親が天井から現れ、ゆっくりと浮遊して降りてくる。父親の表情はわからないが怒っているような気もする。

――父さん……人使い荒すぎだよ…。

 そのままシンジは眠りの世界へ落ちていくと思われたが……

「バカシンジ!」

 その声と同時に、突然激しい痛みが背中に広がり、一気にシンジは現実世界に引き戻される。慌てて起き上がる。寝惚け眼だったので最初は相手の姿がぼんやりとはしていたが次第に視界がはっきりすると、誰かは明らかにわかった。そこには当然仁王立ちのアスカがいた。

 アスカは傲岸不遜にも顎を突き出し、腕を組んでシンジを見下していた。シンジを見下す眼は、いつかミサトさんの食いかけのアンパンに潜伏していた害虫を発見したときと同じ、嫌悪感と軽侮の眼だった。シンジは我ながら情けないことに、軽い恐怖感を得ていた。

 震えさせまいと思いながらも、情けないことに震える声。

「な、なに……アスカ……」

「何のんきに寝てんのよ! 七光り! あたしの弁当持ってきたのよね! 早くよこしなさいよ!」

 机をドンドンと叩きながら、グッとシンジの鼻先まで顔を近づけ睨みつけて詰問してくるアスカ。眼が怖い。シンジはさっさと弁当を渡して解放してもらおうと、慌ててバックに手を突っ込むが、いつもの感触がない。ガサガサと手を動かすが、やはりいつもの感触がない。それに気づくと血の気が引き、背筋がさーっと寒くなった。歯がカタカタ震えだし、腕や脚が振動しだした。

「ナ・ナ・ヒ・カ・リ……弁当よこしなさいよ……」

 恐る恐る振り返ると、アスカは快楽殺人鬼のような笑みを浮かべていた。つまり殺せる嬉しさでいっぱいだという表情だ。頬の肉はヒクヒクと釣り上がり、歯は剥き出し、瞳は小さく眼はひん剝かれている。鬼の形相といえる。


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