これからもガンガン続けていきますよ!
金の像が姿を暗まし、教祖のカーペインターも力を失った事で村人全員の洗脳が解けた事により、ハッピーハッピー村は元の姿を取り戻した。
青色に染まっていたペンキを必死で洗い流す者、遠方から幸せになれるというデマに踊らされ入村し、洗脳が解けた事をきっかけに村を去る者、主人に体を洗ってもらっている青かった牛や鶏など……。
「すまなかった……今では自分がどんなに愚かな事をしていたか身に染みるよ」
「私、これからはもっと大切なことを信じるようにする。人の言葉に左右されない自分の強い心をね」
「あの時は石ころ投げちまって悪かった。お詫びと言っちゃあ何だが、これウチの手作りのクロワッサンなんだ。どうか、受け取ってくれ」
カーペインターがネスの活躍を話していたのか、村人が自身の過ちを悔いながら、村を救った英雄に謝罪や贈り物をしていた。
「ふふ、ネスったらもう人気者になってるんだから」
悪の手から救ってもらったポーラは両手いっぱいにプレゼントを貰う彼の姿を見て、小さく微笑む。
「おっとっと、貰ったお昼ごはんを一緒に食べよう」
ネスは持っている荷物の中からパンの包みを彼女に譲ると、教団本部だった村長の家の近くへ移動していく。
そうして村の憩いの場として設けている広場のベンチに二人が腰かけると、一部のグッズを脇に置いて、それぞれ中に入っている好きなパンを取り出して、口に含む。
「もぐもぐ、こんがりしていておいしいや」
出来立てでこんがりとした焼き加減のクロワッサンを食べながら、ネスは一息ついたようにリラックスする。
「ええ、ここの人達は料理が得意みたいで、私の食べてた料理も村の人が作ってたのよ」
野菜やハム以外にも唐辛子のソースを入ったスキップサンドをゆっくり食べながら、ポーラも言葉を口にする。
冒険や捕らわれの身から解放され、一時ではあるが気の休まる時間を堪能する二人。
村の老人が気を利かせて、食事に合う温かいお茶も用意していたおかげで、二人は危うく昼寝をしそうになるくらいにまで体を休めていた。
「どうだね? ネス君、ポーラちゃん。休憩できたかね」
ベンチに腰掛けていた二人に声をかけて来たのはカーペインターだった。
「村の人達のおかげでのんびりできました」
ネスの返事にカーペインターは表情を柔らかくすると、何か尋ねたい事があったのか、向かい側にベンチを引きずってくると、腰を落ち着かせる。
「ネス君、君は儂を倒す際にテレパシー……まあ、超能力のようなものか。とにかく君はそれを使いこなせているんだね?」
少し変わった質問ではあったが、ネスはこくり大きく頷いて肯定の返事を返す。
「じゃあ、君はこれから『リリパットステップ』に行くべきかもしれないな」
「リリパットステップ?」
残っていたサンドイッチを食べながら聞いているポーラを置いて、聞き慣れない単語にネスは相手の言葉に質問で返す。
「そうだ……あそこは所謂『パワースポット』らしくてな。君がこれから強くなるためには必須かもしれないと思ってね」
ギーグを倒すための力を得るために巡らなければならないとされている不思議な場所『パワースポット』
ネスは以前地元であるオネットのパワースポット『ジャイアントステップ』を巡り、成長を遂げた。
「……ここにあるんですか?」
命からがら攻略した危険地帯ではあるが、彼は危険を顧みずにカーペインターに在処を尋ねた。
「ああ、そこの洞窟の最奥部じゃよ。奥には熊やコウモリが出るから誰も気味悪がって立ち寄らんが、儂が昔行った時は凄まじいエネルギーを感じたんじゃよ」
村の東に大きく口を開けた洞窟をカーペインターは指さすと、ネスが欲しているエネルギーについての話をした。
「とにかく、危なくなったらすぐに戻ってきなさい。なにか必要な道具があれば用意しよう」
そのありがたい言葉にネスは今一番欲していた物を口にすると、カーペインターは笑いながら『それ』が置かれている家屋へと案内してもらった。
「ネスじゃないか! 久しぶり……じゃあないな。随分と大人びた声になったな、ハッハッハ」
ネスが求めていたのは電話だった。
ポーラの方も両親に無事を伝えるために別の家で電話を借りていた。
「どうだ、冒険の方は?」
父親の明るい声にネスは心配をかけまいと、宇宙人の侵略についての事は話さずに、掻い摘んで今までの経緯の一部を話していた。
「そうか! ネスも超能力を使えるようになったのか! ママが聞いたら拗ねちゃうかもしれないが、お前はパパ似だな!」
(えっ?)
ネスは父親の言葉に困惑の色を見せた。
ネス『も』という部分に反応を示したのだ。
「パパもこんな技使えたりしていたの?」
素朴な疑問だった。
自分だけが出来るものではなく、親も使えていたのかという疑問が湧いて出たのだ。
「ああ、パパも小さい頃から出来てたぞ。懐かしいなあ、お前が冒険を始めたって聞いた時から昔の事を思い出しちゃってなあ。まあ今じゃあ、使う機会も無いしな。テレパシーでズルをしちゃあいかんぞ、ハハハ」
自分が一度も聞かなかったから、今になって新しく知った事実に少し驚きながら、ネスはさらに質問を続ける。
「ねぇ、パパって昔どんな少年だったの?」
あまり昔話をする父親ではなかったせいか、親から受け継いだ共通点が浮上し、気になり始めたネスだった。
「そうだな、お前が良く外に遊びに行く縞々姿とよく似た格好して遊んでたな。好奇心が強い子供だった。周りからは赤帽子が良く似合う子供って認識されてたよ」
自分が無意識に気に入った格好も、父親譲りだったのかと思うと何処か複雑な気持ちにはなるが、ネスは久しぶりに父親の話を聞いて、ホッとしていた。
「パパ、ありがとう! また何かあったら電話して冒険の話を聞かせてあげるね」
「おう、楽しみにしてるぞ。じゃあグッドラックだ!」
ガチャン、ツーツー。
別れの言葉を言って借りていた黒電話の受話器を本体に戻すと、自分は本当に両親から大切な物を多く貰って存在しているのだと安心を覚えると、電話を終え外で待っていたポーラと合流し、そのまま件の洞窟へと向かった。
『リリパットステップへの洞窟』
ハッピーハッピー村東部の入口から入った二人は、高低差のある洞窟内を進んでいった。
「中が明るくて良かった」
天井には日光が差し込む幾つかの穴が開いているせいか、光源が無くともある程度は内部が把握できている。
その為、高低差のある足元に気を配りながら、二人は進んでいった。
「キー!」
だが、洞窟ダンジョンは彼らを歓迎などしなかった。
住処に入って来た人間達を攻撃すべく、地面からは『悪ぶるモグラ』鍾乳洞のような天井の尖った岩にへばり付いていた『こうもりさん』などが襲い掛かる。
「くっ!」
悪ぶるモグラの地面に潜ってからの飛びかかりの攻撃にネスは目ですぐに対応することが出来ずに、バットを振り回す。
「キー! キー!」
相手の隙を見て仲間も呼び寄せたのか、モグラたちは数を増やしながら、次第にネスを追いつめていく。
「……ポーラは大丈夫?」
一方でこうもりさん達をおびき寄せると言って、洞窟に入る前に貰った懐中電灯を振り、囮になったポーラ。
勇ましく敵に立ち向かう姿を見せた彼女の身を案じるようにネスは彼女の戦いぶりに目をやる。
「…………キュ……キュウウウ(こんな戦い不毛だ)」
「……キュキュ……(そうそう、この子の言う通りだ)」
すると、そこには異様な光景が広がっており、
(そう……いい子ね。もうこのフライパンで叩かれたくないでしょ。本当に痛いのよ)
こうもりたちは自分のいる立場をポーラのテレパシーによって諭されたのかは不明だが、一部のこうもりたちは気分を悪そうにフラフラと安定しない飛び方をして洞窟の天井の隙間から外へと逃げ出していった。
だが……。
「キュウ!(腰抜けどもめ、こんな人間一撃だぜっ!)」
まだ何匹かのこうもりさんは彼女に屈せずに牙をむいて勢いよく飛びついたのだ。
「危ない!」
モグラたちの猛攻をうまく掻い潜り、ネスは目を瞑ったまま念じているポーラを危機から救うべく、こうもりさんたちへと突っ込んでいった。
(ごめんなさい……私も負けるわけにはいかないの)
ポーラは背後から向かってくるこうもりさんたち、ネス、その背を追うモグラたち……の区別はつかずに、彼女は意識を集中すると、そのまま振り向き手を前に伸ばした。
すると、彼女が振り向いた事に反応した三つの存在は……直感的に彼女から何かの強い気配を感じた後に、
「PKファイアー」
その可愛らしい手の先から、勢いよく飛び出した炎に巻き込まれる羽目になったのだった。
「うわああああああああ」
技の方に意識を集中しており、まさか自分の技を撃つ方向に距離を開けたはずのネスがいるなどとは思わずに、一定の範囲の敵を赤く弾ける炎で攻撃したのだった。
「ごめんなさい……まさかネスが来てたなんて」
コウモリやモグラたちに大きな火傷を負わせ、撃滅したポーラは近くに湧いていた洞窟内の湖の付近でネスの治療をしていた。
「い……いやあ。驚いたよ、まさかポーラも特別な技を持ってたなんて」
大人しそうな見た目に反して、炎を繰り出せるという大きな攻撃を持つ彼女にネスはそう口にした。
比較的、火傷の症状が軽く、ネス自身の持つ技のライフアップにより完治に近いまでに回復させる。
「昔から危ないって思って使わなかったけどね」
彼女の話によれば、他にも氷の技であるPKフリーズといった生命体や機械など熱を発する敵に効果的なものや、敵のテレパシーの技、PSIの効果を和らげられるPKサイコシールドなどを使えるらしい。
「あまり使ったことが無かったけど、これからは頑張ればもっと役に立てる技を使える気がするわ」
自身のテレパシーが日増しに強くなることを自覚しているのか仲間として頼もしい言葉をネスに向ける。
「よし、じゃあ傷を治ったし、どんどん進んでいこう」
治療、休憩を済ますと二人は再び進路を歩んでいった。
だが、その後もネスとポーラはモンスター達の奇襲、戦闘を繰り返していた。
「グオオオオ!」
中でも激しい運動にそこまで慣れていない身体の子供二人に、十分以上にも及ぶ苦戦を強いたのが、二足歩行をする『顔立ちだけは可愛い』クマの『かいりきベア』の集団だった。
「なんてタフな奴らなんだ!」
ネスの念動力による爆発のPKキアイ、ポーラのPKフリーズで何体かは大人しく出来たものの、それでもしばらくして傷を癒すと、また立ち向かってくる。
「PKファイアー!」
通常、動物は炎を怖がる性質があるはずだが、かいりきベア達は臆することなく、その茶色の巨体を生かした突進や鋭く尖った爪で引っ掻いて来る。
「こんな所で足止めを喰らっていたら、音の番人なんかに勝てやしない……もっと……もっと強くならないと!」
ネスは消耗していた気力で意識を集中して、牙を剥きだしにして威嚇をしているかいりきベア達への切り札になりえる技をイメージする。
「ガルル! ガウッ!」
その為か、今のネスは隙が出来てしまっていた。
それを野生の勘で察知した熊たちの何匹かは彼に向かって、鋭い爪を振り上げて飛びかかった!
「ネス!」
ネスの危機にポーラは…………。
「大切な人を護る為なの……さっきひらめいた強力な技」
戦いの中で急成長を遂げた彼女は、目の前で邪魔をしていたコウモリさんをPKファイアーで追い払い、
「PK……フリーズ……」
ネスを救うべく、かいりきベアに向かって技を詠唱。
ただし、これは彼女が今まで使っていたものでは無く。
「β!」
進化を遂げた新しいPKフリーズの形だった。
「ギギ、ギャギャ……」
これまででは敵に水色の球体のオーラに当てて、直撃した場所から僅かな範囲を凍り付かせるものだったが、
「グルルル……グゥ」
進化したPKフリーズ『β』は波動を命中させた生物の体表の殆どを凍り付かせた後に、
「ギャア!?」
命中した部分に吹き出るように飛び出した氷塊が破裂し、かいりきベアを勢いよく吹き飛ばしたのだ!
「グルル……ウウウウ」
氷の爆弾の様に進化したその技に呆気を取られていたかいりきベアだったが、勇ましい彼女の目的は時間を稼ぎである。
「よし……準備できた。ポーラに負けないよって、あれ?」
……の筈だったのだが。
「クウウン……」
かいりきベア達はポーラの新特技に怯え、ジリジリと前線を退き、彼らに道を譲っていった。
「ウォ……ウウウン(もう、勘弁してください。あんなの受けてたら友達がいなくなっちゃうよ。オイラ達は奥にいる『あの人』の為に来るものを追い払う為に戦ってただけなんすよ)」
戦闘の意思を無くし、冷静になったかいりきベア達の一匹から言葉が聞こえるようになった二人。
「あの人って番人の事?」
動物の声を解するネスにベアたちは周囲とアイコンタクトを取るようにして動揺していたが、違う種族だから深く考えても仕方がないと思い続けた。
「ガウ、ガウ!(ええ、随分前になんでも特別な強い力を持つ者だけを奥へ通しなさいって言い張る方が現れまして、俺達の憩いの場だった『広場』を封じちゃったんですよ)」
口達者でお喋りが特徴のかいりきベアによると、小さな足跡が残っている広場『リリパットステップ』は昔に強力なボスが現れ、以降ずっとその通路の番人として道を封鎖し、動物側としてもお気に入りの場所を奪われ迷惑をしているという。
「クウウン、クウウン……(だから皆、気が立っちゃって。広場を返してもらおうと言う通りに観光客や荒らしに来る人間を追っ払ってるうちに暴力的になってたんすよ)」
何とも言えない動物社会の話だが、今回の戦いでPSIという通常の人間では行使できないような特別な技を目の当たりにし、尚且つ苦境を乗り越えようと奮闘した二人の姿。
「ガウガウ!(アンタらこそ俺達の望んでた人たちだ。さあどうぞ)」
彼らは憩いの広場がパワースポットである事を知りもしないが、本能的に癒しの力と感じている場所を取り返してくれると信じ、ネス達を歓迎していた。
「ガウ!(さあ、この坂を上がって、湖の縁沿いを沿っていけば、『キラキラしている奴』の所へたどり着けますよ)」
戦いの時の緊張感が嘘のように、出かける時に足りないものは無いかと子供を心配する母親のようにやたら親切になったベア達。
「あ、ありがとう……」
おまけに体力回復になればと、人間が落としていったビンに詰め込んだ甘いハチミツまで恵んでくれる始末。
「ゴクゴク……とっても美味しい。ありがとう!」
かえって不気味ともいえる程の豹変ぶりに動じずに嬉しそうにビンのハチミツを飲み干すポーラと、
「じゃ……じゃあ、頑張ってくるね……ハチミツ、あ……えっと、しっかり飲ませてもらう……よ」
男子として情けない程に冷や汗を掻きながら動揺を全く隠せていないネスの両名は、故郷から旅立つ成人を送るかの如く表情を柔らかくして、手を振り続けるベア達に見送られた。
(ここまで……リリパットステップの番人は嫌われてるのか……蟻の味方だったジャイアントステップの番人の方がまだマシだったのかな)
ネスはパワースポットによって、周囲の生物からの番人の好まれ方が違う事を心中で実感するのだった。
洞窟最深部。
案の定、ネスは見た事がある神々しい光を纏い、その存在の正体を隠す番人の元へとたどり着いた。
今回は頼れる仲間ポーラと共に……。
「よく来た。ここは2番目の『お前の場所』だ。しかし、今は私の場所だ。奪い返せばよい。……できるものなら」
ネスの特別な力に反応した『嫌われ者の番人』は、そう独特の決まり文句を言い放つと、バシュンッ! という衝撃音と共に纏う光を消し去った。
「こんな大きいのが……番人なのね」
「そうだよ、こっちも死ぬ気で戦わないと倒せないと思った方が良い」
二人の眼前に立つ番人の正体。
ネスが以前に『音』を取得したジャイアントステップの番人は、洞窟内に生息していた『アリアリブラック』がスポットの力を吸収し進化した『巨大アリ』だった。
そして今回は『悪ぶるモグラ』の進化形。
その名も前になぞって『巨大モグラ』
暗い目元の奥で瞳を赤く輝かせ、両腕の逞しい腕に生え揃った白銀の爪など、体の大きさだけではなく、様々な面で場違いな強さであると感じられる。
「グモッ!」
そしてこの考察は戦闘面で的中する事となる。
「ポーラ、気を付けて!」
ブンッ! と腕を振り回し、目の前にいる少年少女に容赦なく攻撃を仕掛けて来る巨大モグラ。
ドシッ、ドシッと重量感のある体を動かし、二人の試練を受ける者達へと攻撃を仕掛ける。
「モグッ! モグッ!」
リーダーで主力と判断されたのか、ネスに向かって鍛えられた腕を振り回す攻撃の緩めない巨大モグラ。
鋭い刃のように発達した爪と防戦に徹するバットがぶつかり合い金属音が鳴り響く。
「コイツ……見た目通りの凄い力だ。攻撃を受け流すのでやっと……ぐっ!」
バットを振るう余裕も無く、横、縦と縦横無尽に攻撃を続けるモグラにネスはジワジワと追い詰められてゆく。
剛腕から繰り出される攻撃から上手く逃れる術を思いつかないネスは、上がって来た崖下に叩きだされないように背後に気を配りつつ、彼は相手を引きつける。
「ネス! 熊さんたちの為にも一気に倒しましょう!」
前の戦いとは違い二人になった強み。
苦戦こそしているものの、その隙を付いてポーラが、
「PKフリーズβ!」
早速、気力こそ多く消費するものの強力な氷の技であるPKフリーズの弾丸を巨大モグラへと放つ。
「!?」
バキィ! ピキピキピキ!
防衛本能からか咄嗟に腕を交差させた巨大モグラだったが、直撃をまともに受けたせいで体から凍結する冷凍音をあげて、光が届かない薄暗い壁へと飛ばされた。
「ネス! 今よ、貴方の必殺技で追撃を!」
「分かった! 行くぞ……PKキア……」
腕を凍結されたまま壁に背中から激突し、相手が怯んだ薄暗闇へとネスはすぐさま技に意識を集中させた。
させた……筈だった。
「えっ?」
ポーラは次の瞬間に起こった出来事が信じられず、目を見開いて、唖然としていた。
「ぐあっ!? ゲボ……ゲボ……」
巻き起こったのは暗闇からビュンッと風を切る速度で何かが動いた事、加えて今度はネスの体が勢いよく壁に叩きつけられた事だった。
「何が起こった……の?」
ポーラは開いた目を何度も開閉し、瞳に映る現実を受け止めようとした……。
「嘘……でしょ」
ネスを壁に飛ばしたのは怯んでいたはずの巨大モグラ。
そして彼に大きな傷を負わせ、追いやったのは凍結していた筈の逞しい二本の剛腕から繰り出される測り知れない殴打だった。
分厚い毛に包まれていたせいなのか、はたまたパワースポットによって異形の進化を遂げていたのか、真相は不明だが……腕に纏わりついていた氷の幕は動きを封じる事無くメッキのように剥がれていたのだ。
「ピ……PKファイアー!」
壁に弾き飛ばされたネスを、今度は逆にこちらから追撃しようと巨躯に見合わない素早い動きで動く相手に、ポーラは炎攻撃を放った。
「グモッ!」
だが、相手は生物を越えた『怪物』。
飛んできた炎に怯えるどころか、技に反応し鋭く生え揃った爪で引っ掻き、技ごとを打ち消したのである。
仲間を呼ばぬ孤高の王一匹であるが故に、その戦闘能力が半端ではない。
「ポーラ……ゲホゲホ! 君は身を守る事だけ考えるんだ! 君のPSIじゃ、コイツには効果が薄い!」
衝撃が強かったのか体に激しい痛みを覚え、埋まっていた壁から脱けだしたネスは、頭から血を流しながら大声で指示を下した。
「あっ……あああ」
彼女の人を助けるために使った技は相手からすれば煩わしく、怒らせる原因となってしまったのだろう。
ネスを狙っていたモグラは視界をずらし、腕を構えなおすと、技が無効化された事から恐怖の色を見せるポーラの方へと向かう。
「PKキアイ!」
傷ついた体で自身の体を回復するより先に、ネスは必死で意識を集中させ、火花を散らした後に爆発を引き起すPKキアイを巨大モグラに放った。
「モグッ!?」
爆風と衝撃に巻き込まれ、ポーラを巻き込むことなく巨大モグラは二、三転して倒れ込む。
「良かった……ゲホッ……何とか効いたみたいだ」
身を包む豪毛の一部も焦げてチリチリと焼けており、効果は現れている事に少し安心を覚えていた。
けれども……彼らのピンチは免れない。
二メートル以上はある巨体を剛腕で支え、起こすと、
「グモモモモ……」
気絶することなく立ちあがり、獲物を視野に入れ直す。
「「ハア、ハア…………」」
相手の肉体の強靭さに言葉も失った二人は、技の反動で体力を消耗し、息をあげていただけだった。
「モググゥ!」
攻撃を受け、頭に血が上ったのか体毛を逆立たせると、ネスへと赤い眼光を向けて、四つん這いになり向かう。
ドスンッ! ドスンッ! と地を鳴らすその姿はモグラなどではなく猪の様に猛突進を仕掛けてきたのだ。
(PKキアイ……いや……多分直撃させないと意味が無い。でもまだ使った事の無い技だ。上手く当てられるか!?)
ネスはそんな恐ろしい相手の姿を見てはいたが、ポーラの為にも世界の為にも敗北は許されないせいか、妙に落ち着いていた。
PKキアイの効果が表れていた事が大きいのだろうか。
「モグググググ!」
ドゴンッ! ドゴンッ!
激突した壁に大穴が開くほどのとんでもない勢いで突進を仕掛ける巨大モグラを、何度も避けながら、彼は決定打と考えられる『新技』を撃つ瞬間を狙っていた。
(ネス……狙っているのね。タイミングを……)
彼の攻撃のおかげで再び、注意の目を逸らされたポーラは一撃受ければ致命傷という命がけの戦いを目の当たりにしつつ、ネスの意図を把握する。
(でも、なんてスピードと体力……あれじゃネスが先に息切れを起こしてしまうわ)
だが彼女の考え通り、異常な怪物を相手に、少年少女が体力勝負などはなから結果は見え透いている。
(一体、どうすれば……えっ?)
そう考えを巡らせ、サポートの手段を練っていたポーラの脳内にある声が響く。
声の主たちは……。
「キキ、キキキ(ベアの旦那から聞かせてもらいやしたぜ。ここの平和を取り戻すために、あの怪物番人を倒すんですよね)」
「キィ―! キィ―!(我々が気分が悪くなるまで考え付いた結果、貴方達はあの怪物の動きを止めてほしいと思ってますね)」
天井に張り付いていた『こうもりさん』達だった。
上から果敢に戦う二人の姿勢を見て、加えてかいりきベア達から事の詳細を聞き、駆けつけたのである。
「キッキッキ!(あっしらにお任せあれ、臆病なベアの奴らと違って数も多いし、度胸もあるんだぜ!)」
光が届きにくい天井から話しかけていたこうもり達。
ポーラはその声を聞いた途端に、彼らのいる場所を目を向けると……。
(凄い数……お願い! ほんの少しでいいから時間を!)
「キッキッ! キキキキキ!(合点招致! おい、全員で行くぞおお!)」
話していた数匹ではなく、30匹以上の大群がバサバサと激しく羽音を立てながら、その小さな体で巨大モグラの方へと舞い降りていく。
「グモ!?」
足を地面に擦らせ、次の突進の勢いを付けている所にコウモリの大軍が襲い掛かってきた事に流石の巨大モグラも表情に焦りが出始める。
すぐさま突進を止め、腕を大きく振り回してコウモリ達を追い払おうとするが、何匹かがその視界を塞ぐように目元で羽を広げ滞空している為、思ったように動けていない。
(ありがとう……こうもりさん、もし怪我をしたらちゃんと治してあげるからね)
ネスは巨大モグラが上手く足止めを受けている隙に、意識を集中させ、一気に『二つの』新技を使う事にした。
「いくぞ! こうもりさん達、離れて!」
ネスの合図を機にコウモリたちは巻き添えを喰らわないように一斉にその場から飛び去る。
そして巨大モグラが戦闘の態勢を取り戻す前にネスは人差し指を前に突き出すと、技を放った。
「PKパラライシス!」
彼の伸ばした指先から黄緑色の電磁波のような波動が巨大モグラの体を縛るように動き始めると、すぐさまその体を拘束する。
「!? モ……モギュ……ギュギュ」
電磁波に纏わりつかれた巨大モグラの体は手先が僅かに動かせる程度で殆ど自由が利かなくなっていた。
対象に強力な麻痺状態を引き起こさせる技、PKパラライシス。
これにより、もう鎖で継がれた囚人のように己が意思で動けない巨大モグラは只の丈夫な生き物に変化した。
「これでとどめだ! PKキアイ『β』!」
追撃として、残っている力の殆どを注ぎ込んだネスの新たなバージョンのPKキアイを放った。
前が火花のように光が放たれていたのとは違い、今回は独特な三色の光が狙った場所にピロリ、ピロリ! と独特の音を放つ二つの波動が交差するように集まる。
そうして……波動が集中し、重なった巨大モグラの懐では、
「モグゲェ!?」
洞窟中が振動するまでの高威力の大爆発を起こして巨大モグラは断末魔をあげながら、そのまま消し飛んだのだった。。
何とかネス達は巨大モグラを倒したのだ。
『リリパットステップ』
リリパットとは1726年に出版され、1735年に完全版が販売されたイギリスの作家ジョナサン・スウィフトが描いたガリバー旅行記に登場する小人たちが住まう小人国の名前である。
巨大モグラを倒し、洞窟を抜けた二人の目に飛び込んできたパワースポットの光景。
深緑の芝生の上をまるで小人たちが歩き回ったような小さな足跡が点々と残っている光景から先人たちは『小人国に住まう者の歩み(リリパットステップ)』と命名。
「とても落ち着くわね。自分の家にいるみたいな安心感があるわ」
パワースポット独特の安心感に中てられながら、ポーラは大きく深呼吸をして、体力、気力共に回復させる。
「ベアさん達の憩いの場って分かる……あれ、ネス?」
ポーラの言葉はネスの耳には届いていなかった。
(…………)
言葉に反応もせずに、ただその小人の足跡らしきものが集中している地点に操られるようにして歩いていく。
そして瞳を閉じると……。
《オギャー! オギャー!》
彼が初めてジャイアントステップ、特殊な力を呼び起こすパワースポットを訪れた時と同じだった。
(この赤ちゃんの鳴き声は……)
再び彼の脳には記憶の片鱗の映像が映りはじめたのだ。
ボヤーっと微かな映像ではあるが、確かにリリパットステップはネス自身に影響を与えたのである。
《こらこら、パパ。その赤い帽子を取らないの。ネスはその赤い帽子が気に入ってから、放そうとしないんだから、お気に入りの帽子まで一緒なんて血は争えないわね》
映像に出ていたのはもっと若かりし頃の母親と父親、あと一人は……。
「やっぱり、この記憶は……」
父親から取り戻した赤い野球帽を頭に乗せてもらい、泣き顔から一変して、満足そうに笑う赤ん坊の姿だった。
そこで映像がプツリと途絶え、無意識に蘇る記憶に浸っていたネスは意識を取り戻し、パワースポット全体を見つめる。
「…………」
そうしてネスは赤い帽子をかぶった赤ん坊の幻を見た。
♪~♪~~♪~♪。
続いて映像に乗って流れていた心地よい波長の音を確かに聞き届けていた。
ネスの持っている『音の石』がしっかりとリリパットステップの音を記憶したのだ。
「ネス、大丈夫? 随分と集中してたみたいだけど」
言葉が通じずに、意識を持たずに動いていた彼を心配してポーラは優しい声をかけ気遣う。
「大丈夫だよ、ちょっと不思議なものを見ていただけだから。さあ、帰ろう。用事は終わったよ」
パワースポットの力に反応する音の石に聞こえるメロディーを記憶させ、この場所が持つ癒しの力によりお互いの消耗しきった気力、体力が元通りになった所で、
「じゃあ、ぼく達は帰るね。後はベアさん達やこうもりさん達に任せます」
洞窟に住まう動物たちの休憩所を取り返した二人の様子を見ていたかいりきベアやこうもりさんに、そう告げるとネスはポーラの手を掴んで、仲良くその場を後にした。
こうしてネスは新しい仲間、新しい力を獲得し、また一つ強く逞しく成長したのだった。
しかし……彼……いや、二人の前にこの後息もつかせぬ間に新たなる脅威が立ち塞がる事になる。
そしてその脅威との遭遇は彼らのこれからの冒険に大きな影響を与えることになるのだった。
今回は文字数や内容自体が多かったので、時間がかかりましたが、これにて第二の音の場所クリアです。
次の話では通常のマザー2ではないオリジナルキャラが登場します。
やっぱり只同じものを書くというのも同人としてどうかと思ったので、自分なりに書きたいキャラを書いていくつもりです!