恐らく次も少しペースが遅くなるかもしれません、ですが決して失踪はしたくないので、少しだけ待っていてください。
本当に申し訳ないです。
自分で書いた中でこの話で気に入っているのはトンネルのくだりです。
楽しく読んでいってください!
ネスとポーラは困り果てていた。
理由は冒険を再開してまだ一日も経過していないというのに、その道は閉ざされてしまっていたからだ。
彼らの旅路を邪魔する原因は、オバケだった。
「ダメダメ、トンネルを抜けようとしても中にいるオバケたちが集まってきて、最後にはトンネルを抜けたと思ったらツーソンに戻ってるんだ、不気味だろう?」
「バスの運転手も気味悪がって、運転を再開しないのさ。本当に困ってるよ、早く大都会のフォーサイドに行って都会デビューしてオシャレな生活したいのに」
「何か異常があったらすぐに止めるなんて、電車じゃないんだから。オバケなんかでバスを止めるんじゃないよ」
探索を終えたツーソンで、次のパワースポットを探すため隣町のスリークへ向かおうとしていた二人だったが、
町中でオバケが通じるトンネルを占拠してる事。
強引に突っ切ろうとしても、オバケたちの仕業でツーソンへ逆戻りする怪奇現象。
「どうすればいいんだろう」
ツーソン中央にある多くの露店が立ち並ぶヌスット広場で腰を落ち着かせていたネスは住人から得た情報を思い出しながら、考えを巡らせていた。
「それで私を呼んだんじゃないんですか?」
彼の隣に座っていたのは相変わらず汚れた作業服を着用し、風呂に入っていないのか乾燥した汗の臭いを漂わせるアップルキッドが、露店で安く購入したバナナを食べながら応答した。
「そうなんですけど、流石に今度はタコ消しマシンじゃなくて、オバケ消しマシンなんて作れないですよね?」
アニメや漫画の様に。
何でも便利な物を開発してくれる訳ないと頭で分かっていても、ネスは彼に尋ねる。
「うーん……試してみなくちゃ分からないですけど、約束が出来ません。この前だってタコをイカに変える副産物として出来たわけですし……」
投資をしたにも関わらずに、訳の分からない物体を発明しようとした彼に呆れを覚えていたが、結果的に役立つ物を生んでいたのでネスはその言葉に怒りは覚えなかった。
「もぐもぐ、ゴクリ。とにかく今から家に戻って開発してみます。もし完成すればまた受信電話で連絡しますね」
一束のバナナを全てたいらげると、アップルキッドはそう言い残してヌスット広場を後にして行った。
(あまり期待しないでおこうかな)
まだ小学生という年齢の筈だが、既に信頼する人と、その場を上っ面だけで乗り切り、あまり信頼しない微妙な人間関係の差を歩む術を会得しかけていたネスだった。
ポーラが別の場所で情報を集めている中での僅かな時間の出来事だった。
次にネスとポーラが合流してから情報整理をする間もなく向かったのはヌスット広場を統治する同広場の奥にあるトンチキの家だった。
ネスは以前にトンチキと会った際にポーラを救出したら家に来いという約束を思い出し、向かったのである。
「よくやったな、坊主。まさか本当にポーラちゃんを連れて戻って来るとは。漢だぜ、お前」
仲良く自身の家へ訪ねて来た二人の姿をみて、トンチキは立ち上がってサングラスのレンズを拭きながら、そう口にして言葉を続ける。
「まあ、ともかくこれを受け取りな。俺はすぐに『マニマニの悪魔』っていうお宝を盗みにいかなきゃならねぇ。その身支度を整えるので忙しいからな」
言葉の最中にトンチキはソファの下に隠してあったアタッシュケースの中身を開いて見せると、ネスに手渡す。
「今のって……」
目前で開封されたケースに詰まっていた物に、ネスは思わず言葉に詰まる。
ケースの中に入っていたのは誰もが夢見る物。
「そう、『札束』だ。ざっと1万ドル入ってる……入手法は聞かない方が良い。冒険の為に使えよ」
手にした事の無い1万ドルという余りの大金に、ネスは戸惑いながらも、強引に突きつけるトンチキから受け取った。
「じゃあ、お別れだ。俺はもう少ししたらここからいなくなる。まあ、何処かで会おうや。あっ、そうそう金の使い方が分からないならデパートにでも行きな、ただし無駄遣いはいけないぜ」
二人ではとても扱えないような大金の詰まったケースをトンチキはアドバイスを交えプレゼントすると、お宝を盗む準備を見られたくないのか背中を押して、外へと連れ出した。
「このお金、大丈夫なのかな?」
家から出され、二人はトンチキの言葉通りにツーソンのデパート内にあるフードコートで話し合っていた。
「トンチキさんは、俺はトレジャーハンターって自分で言っていたから、多分何処かでくすねて来たお宝を売ったお金だと思うわ」
昔からトンチキと接点があったポーラは、認知している彼の詳細をネスに伝える。
「それにトンチキさんは、ああ見えてとても賢い人なの。だからここに何かヒントがあるはずなんだけど……」
ポーラは彼のアドバイスを真剣に受け止め、冒険の手助けになる情報が眠っているはずと考えていたが、現在では特に進展は無かった。
「でも、本当にどうしよう。これだけのお金があれば、ピザが毎日のように食べられるよ」
「何でネスはお金を使おうとしてるのよ!?」
大人しいポーラが大声で見事なツッコミを入れると、ネスは思わず、ピザ屋で受け取ったメニュー表を見ながら返答した。
「ほら、見てよ。こんなにおいしそうなピザが何百枚だって食べられるんだ。もしかしたらピザ屋を買収して毎日ピザの旅に出かけられるんだよ」
「そんな生活して脂肪たっぷりのおデブさんになったネスなんて見たくないわ。そんな事よりも人形を山のように買った方がいい……」
「ポーラも欲望に流れちゃってるけど!?」
少年少女が大金を目の前にすると、どうしても自分の欲しい物を買いたくなる物欲に捉われる。
その後もネスはテレビゲームやオモチャ、ポーラは可愛らしい洋服やキラキラした宝石が欲しいと言い争っていたが、少しするとある人物が止めに入った。
「なんか騒がしいかとおもたら、ポーラちゃんやないか。無事戻ってこれたんか、良かったのう」
会話に割って入ってきたのは全身真っ黒。
黒いスーツに身を包み、黒いサングラスをかけた細身の男性と、
「おお、しかもボーイフレンドまで連れてるな」
相棒らしき同じ姿で小太りした男性のコンビが現れた。
「ナイスさん、ラッキーさん。久しぶり」
彼らはツーソンで有名なトンズラブラザーズだった。
このデパートの付近に立っているカオス劇場のミュージシャンであり、彼らの演奏を見るために遠方から足を運んでくる客もいる程の人気者。
因みに小太りしている男性がラッキー、細身の男性がナイスである。
(本物のトンズラブラザーズだ!)
ネスは噂だけで実物を見たことが無い人気者の顔を見られてテンションが上がっていた。
「相席いいかのう? 少し飯食うだけじゃ、二人で食うよりもっと大勢の方が飯は旨いからのう」
「も、勿論です!」
そのせいか、ネスは即座に相席を許可した。
机に乗っていたアタッシュケースを横にずらし、二人は彼らがテーブルに食事の乗ったプレートを置けるように配慮する。
「悪いな、あんちゃん。ほんで、さっきは何で言い争いしとったんや? まるで莫大な遺産を巡る親族の集まりみたいに騒がしかったで」
いきなり核心に近い所を付いて来たナイスはハンバーガーの包み紙を開きながら、そんな言葉を口にした。
「ええと……それは」
ポーラはトンチキと同じく古くからの顔馴染で、両親に劇場に連れて貰った際に楽屋に忍び込んでは、よく話していた彼らに大金の事を伝える。
しかし……。
「カッカッカ! 面白い事言いよるな。どこでそんなオモチャのお札を手に入れて来たか知らんけど、ワシらは騙されへんで」
「そうそう、大人のわてらを騙そうおもたら、紙よりも宝石とか持ってこやなあかんで!」
まるで相手にしないように冗談と受け止め、大笑いをする二人。
この結果は当然と言えば当然である、子供の二人が1万ドルという大金を持ってるはずが無い。
ましてや富豪の娘、息子という特別な肩書があるわけでもないのだ。
「カッカッカ、まあ、でもそんだけ金ががあればワシらも借金地獄からおさらば出来るんじゃが」
けれども、意外な情報の片鱗を彼らは口にした。
((えっ?))
誰が何と言おうと、本物の大金を所持しているネスとポーラはトンチキの言っていたヒントに近づく。
「トンズラブラザーズって人気者だから、借金なんてないんじゃないの?」
売れっ子にもかかわらず、借金地獄という矛盾。
その真相を聞く為に、二人はその話を聞いていた。
ラッキーとナイスも子供に話しても仕方がない事は分かっていたが、疲れて誰かに愚痴を聞いてもらいたかったのか、口はどんどん進んでいき、情報を与えた。
彼らトンズラブラザーズはイーグルランドで有名になる夢を追い求め、まず劇場があったツーソンで初のライブを開いた。
会場は大いに盛り上がり、オーナーのドックフードからここカオス劇場の顔としてライブを毎日のように開かないかという誘いがあり、メンバーはそれを承諾した。
しかし、契約書などの細かい事に対して、彼らは強くなくいつの間にか絶えず借金に苦しみ、それこそ馬車馬のようにドックフードの思うがままに働かされていた。
結果として名は知れ渡っていたが、新たな土地へ移住できない事にメンバーは不満を覚えているそうだ。
「おっと、もうこんな時間やな。ほな、わてらそろそろ戻るさかいに、ほんま長話に付き合わせて申し訳ないのう」
「ポーラちゃん、ネス。また余裕あったらワシらのライブ見に来てくれや。ほんじゃあ、またの」
愚痴を聞いてもらい、スッキリしたのか二人はフードコート内のゴミ箱に食べ終えた包み紙や飲み物の空を捨てて、一階へエスカレーターを伝いデパートを出ていった。
「あったね……お金の使い方」
「そうね、騙されて借金って可愛そうだわ」
トンチキの言葉通り、大金の使い道を発見。
自分の欲望に使うのではなく、人を救いたいというお互いの願いに適った大金の有意義な使い道。
ネスとポーラはその後、フードコートで遅い昼食を済ませると、アタッシュケースを持ってカオス劇場へと向かう事にした。
『カオス劇場』
ツーソンの大きな目玉ともいえる劇場。
デパートから少し西へ歩いた道路の端に存在する赤いレンガの建物で、ショーウィンドーの中にはトンズラブラザースのポスターや、さっき話したラッキーとナイスの二人が歌っている姿を真似た実物大マネキンが置かれている。
トンズラブラザーズの演奏見たさや彼らに会いたいといった望みを持ったファンにより、毎日多くの列が立ち並びチケットが売り切れるまでに収益を伸ばしているカオス劇場である。
その他にも演劇やショーなどもトンズラブラザーズの人気に乗じるように開いているため、彼らの演奏以外の楽しみも作っており、客からは人気となっている。
「ごめんね、二人共。もう外を見ても分かる通り今日最後のチケットも売り切れちゃってるんだ」
その影響か外で並んでいる列が無くなっている時は大抵チケットが完全に売り切れており、劇場に入れない事を意味していたのだが、
「いえ、ぼく達はオーナーのドッグフードさんに会いに来たんですけど、お会いできますか?」
ネス自身はライブを見たいという欲があったものの、優先すべき事がある以上、やむなくそう発した。
「ああ、大丈夫だよ。失礼の無いようにね」
オーナールームの前で立っていたスタッフはそう言うと横にずれて、二人に譲った。
「おや? 子供が私に会いに来るなんて珍しいもんだ。坊やとお嬢ちゃんが私、ドックフードに何の用かな?」
咥えていた煙草を灰皿に擦りつけ、小太りしたオーナーは事務机から立ち上がり、そう口にする。
個人オフィスのように壁紙も床を覆うカーペットも赤紫色をした内装に、一つの事務机と、後は多くの資料や書物が入った戸棚と飲み物が入った冷蔵庫、そしてダイヤル式の金庫が置かれている。
「もしかして、私のファンかな? まあ立ち話もなんだしゆっくりしなさい。ちょうどオレンジジュースを買って置いていた所だったから、飲みなさい」
後はネス達が座るように勧められたソファとドックフードが気を利かせてジュースを置いたテーブル位だった。
二人は相手の厚意に甘える形で飲み物を貰い、何かの書類に目を通しているドックフードとの会話をする隙を伺っていた。
「落ち着いたかい? じゃあ用件を聞こうか?」
そして隙は忙しい相手から作ってもらえる事となる。
目を通していた書類に最後の確認らしき判子を押し、眼鏡を外すと、一息ついてドックフードは二人にわざわざオーナーの自分に会いに来た理由を尋ねる。
「トンズラブラザーズを自由にしてほしいんです」
単刀直入に伝えたネスの言葉の直後だった。
「ガッハッハッハ! また凄い交渉が来たもんだ」
対して腹を抱えて大笑いするドックフード。
トンズラブラザーズも、まだこんな子供に自由にしてやってほしいという要求を出されるとは情けないなという嘲笑も含まれていたのだろう。
「でもね、それはダメだ。なんでかって? あいつらにはね、そう一万ドルの金を貸してるのさ、あの金を返してもらわなきゃ……」
ドックフードがそこまで口にしている途中。
ネスは持って来ていた一万ドルが入ったアタッシュケースの中身を開いて、ドックフードに差し出した。
「じゃあ、これでお願いします」
すると金が目に入った瞬間。
ドックフードの思考が止まった。
「えっ?」
ドックフードは子供がこんな大金を持っていること自体がまず理解できなかった、次に目の前に大好きな金、金、ドル紙幣の束、自分の頬をはたきたくなる札の束がある事が理解出来なかった。
(……私の目の前にあるのは何だ? 金、金か?)
ただの冗談を含む言葉の交わし合いの中で、いつの間にか目の前に大金が転がっている事を理解するまで氷のように固まり、黙り込んでいたドックフード。
暫しの間、両者の言葉と動きが途切れはしたものの、いち早く動き出したのは三度の飯より金が大好きドックフードだった。
行動の方も相当金に目がくらんだのだろう。
「いいだろう! 君達の言う通り自由にしてやるぞ! だからこのお金は確かに受け取った!」
空腹だった動物が餌に食いつくように、金の入ったケースを我が子でも抱きしめるようにひったくったドックフードは目の色を変えて、そう言い放ち、
「これで良いだろう! 今日の予定を完了させれば、トンズラブラザーズは自由だぞ」
机の中にしまってあった借用書を乱暴に破り捨てた。
バタン!
すると、こちらもドアの外で待機し、オーナーに今日のスケジュールについての相談を予定していたトンズラブラザーズ達五人が話を聞いて乱入してきた。
「なんてこった、まさかチビスケたちに助けられるとは」
「ブラボー! お前達に会えて良かったわ」
開幕をデパートで顔を合わせたナイスとラッキーが笑顔でネス達にお礼を言うと、続いてネスは顔を合わせた事がないが残りのメンバーが言葉を述べていく。
「金~♪ それは欲しい物~♪ でも、自由はもっと欲しい~♪ ありがとう、天使たち~♪」
リズムに乗せてお礼を述べる管楽器や作詞担当の赤サングラスが良く似合うゴージャス。
「ありがとう、これでみんな自由だ!」
メンバーの中で唯一サングラスを着用せずに目立たないキャラという特徴を持つ弦楽器担当のオーケー。
「ワシ、車の運転が得意じゃけん。もしよけりゃあ次の町へ一緒にいこうや」
腰にドラムをぶら下げた打楽器担当で、車の運転が好きなグル―ビー。
以上の五人がネスとポーラにお礼を言うと、身を束縛していた枷から解き放たられたように勢いよくオーナールームから飛び出していった。
(まだ他の劇団や芸人もいる、アイツらに頼らなくてもこの劇場はやっていけるだろう)
部屋から出ていくトンズラブラザーズを脇目に、ドッグフード自身も札束の入ったアタッシュケースを満足そうに眺め、極楽気分に浸っていた。
次の日、昨夜ネスはホテルではなくポーラの家でやっかいになり、前日のライブの予定をすべて終了しトンズラブラザーズが旅立つ日。
もう既に二人はカオス劇場に差し押さえられていた六人乗りの黒い愛車を取り戻し、歓喜しているメンバーの元へと向かっていた。
「この車はワシらの象徴みたいなもんじゃき、ほんまにあんがとよぅ」
取り戻した車に一番感動していたのはグルービー。
サングラスを外してこぼれ出る涙を拭きながら、見送りに来てくれた救世主の二人にお礼を言う。
「カッカッカ! 本当に大袈裟な奴じゃのう。でもワシからもお礼を言わせてもらうわ、ありがとう」
ナイスは笑いながら泣いているグルービーを運転席へと押し込むと、二人にお礼を言っていた。
けれども助けた後に思い出したことがあったのか、ネスはメンバーたちに疑問を投げかける。
「でも、どうやって隣町に行くんですか? オバケが出ているって事でぼくたちもスリークへ行けないのに」
そう、彼らは意気揚々と車に乗り込んではいるがネスの口にした通りトンネルではオバケの悪戯により隣町まではたどり着けず、気が付いたらツーソンへ逆戻り。
だからこそネス達は次の町へ進めずに困っていた。
「なんや、二人共スリークへ行きたいんか? なら、さっさと乗りな、ワシらそのさらに向こう側にある大都会フォーサイドに行くからのぅ」
まるで聞く耳を持たずに楽器を車内に詰め込んでいたラッキーは手招きして乗りこむ様に指示する。
「えっ……だからオバケが」
「何がオバケや、そんなんよりも借金地獄の方がずっと怖いわ。それにワシらは普通のバスや車と違って凄い賑やかじゃけん、きっとオバケの方から逃げていきよる!」
グルービーは運転席の窓を開けると、ハンドルの調子を確かめながら、自分たちにとっては些細な事と割り切っているせいか、力強くそう口にした。
「ネス、行きましょう。トンズラさん達なら大丈夫。恐れを知らない強い人たちなんだから、オバケなんて道に落ちてる石ころみたいにしか思ってないわ」
彼らの度胸や面白さを知っているポーラの言葉。
ネスもほかの手段が無い以上、どの道彼らにかけるしかない。
「じゃあ、お願いします!」
「任せろ! ほんじゃあ出発するぜ」
荷積みも完了し、六人乗りの車に少し狭いがメンバー五人に二人を加えた七人を乗せた特別仕様のトンズラブラザーズ専用の車は発進した。
体が傾くほどに勢いよくカオス劇場の駐車スペースを離れ、南のトンネルへと向かう車。
窓から見える景色はヌスット広場、ポーラスター幼稚園と次々切り替わってゆく。
「俺達は~♪ 泣く子も笑うトンズラブラザーズ~♪」
「金は欲しいが~♪ いつの間にか借金地獄~♪」
さらに車内ではメンバーが陽気にリズムを取りながら歌を歌い始めるため、ネスとポーラは否が応にも心が明るくなっていく。
「ヘイヘイヘイ~♪ でもそんな間抜けらしさも~♪」
「俺達~♪ に似合ってる~♪」
ネス達が彼らの実体験から完成されたおかしくもポジティブな歌に誘われている間に既にバスは町の最南端にあるアップルキッドの家の傍を離れ、南に伸びたL字道路の先にあるトンネルに続く意気揚々と走ってゆく。
「そしてこれから~♪ 新しい土地へ~♪」
助手席に座っていたナイスがそう歌詞を口ずさんだ瞬間に車はトンネルへ突入した。
すると……。
((!?))
声こそあげなかったが、『そこにはいた』。
「ケケケケケ、モドレー」
風に吹かれ揺れ動く白い布のようなヒラヒラとした体に真っ赤に染まった眼光、そう件のオバケである。
「ケケケケケ!」
トンネルの出口までは距離が開いており、その区間を多くのオバケが浮いており、侵入者のバスの周囲を一斉に漂い始める。
(不気味だ、確かにバスだったら逃げ出すかもしれない。でも今のぼく達は……)
「ケケケケ、モドレ~モドレ~」
明かりに纏わりつく蛾のように車へ近づくオバケ。
通常であれば集団で憑りつき、不思議な力で進行方向を逆にする技を使うのだが、
「俺たちゃ、陽気な、トンズラブラザーズ~♪」
「毎日、楽しく、元気に、笑顔で、歌うのさ~♪」
だが彼らには『全く効かなかった』。
「モドレ~モドレ~」
理由は恐怖の問題であった。
目の前にユラユラとオバケに漂っているのも関わらず、その図太い根性を備えた五人は恐れなかったからである。
「モドレ~、ケケケケケ!」
オバケたちも躍起になっているのか、彼らがトンネルの半分に達するかというところで、運転席の窓に張り付き大声で、グルービーに不気味な声を向けた。
すると……。
「…………」
流石にオバケに反応を示したのか、ドアに付いているボタンを押して窓を開ける。
「モドレ! モドレ!」
ついにチャンスが巡り、ここぞとばかりに恐怖の芽を植え付けてやろうとオバケはグルービーに対して発声し続けたのだったが、
「なあ、お前ら何の用じゃ? ワシら楽しんどんねん。久々に自由を取り戻せて楽しんどる中、何の用じゃ?」
何とグルービーは畏怖するどころか目の前に漂うオバケに苛立ちを見せながら食いついたのだった。
「エッ? アノ……トンネルカラ出テイッテモラオウト」
恐怖の感情を出すどころか、鋭く睨みつけて来る人間の思わぬ反応に戸惑いつつもオバケは素直に答えた。
「ハア!? 何で出て行かなアカンねん! ワシらの道はワシらのもんじゃ、しょうもない理由で邪魔する奴はいてもうたるぞ、コラ!」
(この人、オバケに喧嘩売ってるよっ!?)
ネスも思わず心の中でツッコみを入れてしまう程の奇想天外な行動に、オバケも勿論反応していた。
「ヒ、ヒィ!」
まあ恐怖を与える側が受ける側になっていたが……。
さらに怯んでいるオバケを放置して、ハンドルに手をかけたままで窓から身を出すと、他のオバケたちに向かって、
「お前らもコイツと一緒で紙みたいにヒラヒラしおって、最近の若者はそんなに薄っぺらいから、やれ軟弱だの草食系だの言われるんじゃ、しっかりせぃ!」
厳格な父親かの如く漂う集団に向かってまで大声で説教を口にしていた。
「「モド……モド……モドリマス!」」
「俺達、若者ジャナクテ『オバケ』ナンダケド!?」
威圧的に刃向かってきた人間に対して、彼の言葉通り精神も薄かったのかオバケたちは次々と逃げるようにしてトンネルの壁の中へ消えていった。
「カッカッカ! グルービー、お見事やで! 心に染みる良い説教だったわ。俺達もあまりに歌を妨害してくるからどついたろか思てイライラしとったんや」
(オバケって何だったのかしら?)
ポーラのオバケに対する疑念が渦巻きながらも、オバケたちを見事に追い払った彼らは再び陽気な歌を口ずさみスリークへ続くトンネルを何人にも妨害される事なく無事に通り抜けることに成功した。
(さすがトンズラブラザーズだ……)
(私たちもこれくらい強くならないと)
ネスとポーラも彼らの愉快さや逞しさを見習わなくてはと考えつつ、歌のリズムに乗って時を楽しんでいた。
さあ、次からは私の最大のトラウマステージ『スリーク編』です。
正直私は怖い物が苦手なくせに墓場とかゾンビとかのホラーチックなダンジョンが好きという変わった趣味を持っています。
その為、自分でも後で恐怖を覚える様な書き方をしたいと思っています!
ではまたお会いしましょう。