mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

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個人的な問題で投稿が遅れて申し訳ないです。
書きあげてから発覚したのですが、文字数の量の方も前回の倍以上までかかってしまい、書いていても終わらない感じにも苦しんでいました。

ではボリュームたっぷりに仕上げたウィンターズ編どうぞ!



北の国から

 イーグルランドとは別の地方であるフォギーランド。

 その遥か北に位置する雪国ウィンターズ。

 スリークの地下にて幽閉されたネスとポーラの救助の強い願いはここまで届き、この雪国の北部に存在するスノーウッド寄宿舎にいる人物へとバトンが渡った。

 雪国故ストーブで部屋を暖めながらベッドの布団にくるまり、先程まで寝息を立てていた少年。

『あなたに呼びかけています。この呼びかけが聞こえたら目を開けて南に向かって出発してください。遠くにいるあなただけがわたし達を救えます。ジェフ! この声を信じて起き上がって歩き出して! 南に向かって、すぐに! ジェフ、お願い! まだ会ったことのない……かけがえのない……私達の仲間!』

 聞いた事の無い少女の願いが彼の脳裏に大きな刺激を与えたのか、少年は閉じていた瞼を開き、体を寝床から起こした。

(誰なんだ? でも、不思議だ。僕は待っていた気がする。この時を、この胸のざわめきを……)

 ボサボサとした金髪の頭を掻きながら、彼はポーラという少女、ネスと言う少年の姿など見た事は無かったが、そのテレパシーにより、自らの使命を自覚するように動きだしたのだ。

(夜か……怖いけど、急いでるみたいだから行かなくちゃダメだよね)

 極度の近視のせいか、ベッド横のランプ付近に置いていた愛用している度がきついメガネをかけて窓から外の様子を眺めた。

「ジェフ? 何してるんだい、こんな時間に」

 彼に声をかけたのは、ルームメイトで昔からの付き合いの赤茶色の髪型が特徴のトニーだった。

「トニー……僕、出かけなくちゃいけなくなったんだ」

 布団から身を起こして、寄って来る友人にジェフは正直に事の顛末を話した。

「本当に行くのかい? そんな空耳や夢かもしれないテレパシーなんて非科学的な物を信じて」

 トニーの意見は最もらしいものであった。

 テレパシーなどとにわかには信じがたいものに操られ、大切な人が自分の前から姿を消すことを嫌がるように、彼はジェフに向かって発言した。

「……行く。嘘みたいな話だけど、僕はずっと前からこの機会を待っていた気がする。だから行くよ、冒険に」

 ジェフはそう友人に告げると、着ていた寝具を脱ぎ、寒さに強い分厚い緑色の長袖と同色の長ズボンを着用。

 そして、自身のロッカーのカギを握りしめると、トニーに別れの言葉を向けると、部屋から立ち去っていった。

 

 

 

 廊下で、夜更かしをして話している上級生や研究に没頭し深夜の今から床に入ろうとする教授たちと顔を合わせながら、ジェフは階段を降りて一階へと向かっていく。

 多くの荷物を置いているロッカー室を後回しに彼が向かったのはガウスと呼ばれる教授の研究室だった。

「ジェフか。お前がこんな時間に起きているなんて珍しい。何かこの私に用かい?」

 フラスコに入った薬品や何かの装置のような物を机の上に散乱させながら、入って来た生徒に向かってそう言い放った。

「ガウス教授……実は」

 ジェフは怒られる事を承知で、寄宿舎から離れたい理由をハッキリと述べた。

「うーむ……流石にそれは賛成できんな」

 教授と同時に寄宿舎の管理、生徒たちの安全を第一に考える立場である以上、勿論ガウスは頭を縦には降らなかった。

「だが、お前はどうしても行くんだろう?」

 とは言ったものの、ガウスはジェフの発言する様子を眺めていて、今までは臆病さを持っていた筈の彼が自身の目を逸らすことなく真っ直ぐに見て、意見を述べた事に感心を抱いていた。

「はい」

 返答も同じく、ハッキリとした物言いで返されたガウスは一つ息を吐くと、懐からカラフルなボタンやキーピック、グネグネに伸びた針金などが複数取り付けられた奇妙な装置を取り出す。

「私は今、お前の姿を見なかった事にする。だがこの私の発明品は持っていきなさい」

 そして彼は教え子に対して、餞別にとその装置をジェフの服の内ポケットへしまい込んだ。

「先生、これは?」

「そうだな、スーパーウルトラグレートガウスマシーン、という幼稚な名前じゃなくてだな……うーん」

 ジェフが訪れる少し前に開発を終えたのか、装置の名前を即座に考えるガウス。

 だが、今のが余りにダサいネーミングだった為、こめかみを人差し指でツンツンと抑えながら、考えを巡らせて閃いた名前を口にした。

「『ちょっとカギマシン』だな。良い名前だろう、ちょっとって所がオシャレポイントだぞ。使い方は簡単だ。開けられない扉に引っ付けて光る色のボタンを押す。するとあら不思議、勝手に鍵穴を探して装置が動き開けてくれるって話だ。だが全ての扉を開けれるとは限らないからその意味でも『ちょっと』ってわけだ」

 凄そうで、凄くないのかは現段階では不明だが、とにかく旅の助けになりそうなものをジェフは受け取る。

「あっ、そうだ南に行くのならお前のお父さん……いや、天才アンドーナッツ博士だったか、またあのガウスが面白いもの作りましたよって会ったら伝えておいてくれ」

 もうジェフを旅立たせる気満々のガウスは、そう彼に告げると笑いながら散らかっていた研究材料を持って準備室へと消えていった。

 

 

 ロッカー室。

 自身の荷物以外にも贈り物などが収納される部屋へジェフは危険を覚悟の旅に出る為、回収をしにやって来た。

「えっと、リュックにお金と、他には……」

 ロッカーに詰めていた外出用の荷具を取出し、お守りや簡単な工具などを次々と詰めていく。

 そして、最後に彼が手にしたのはある人からの贈り物であり、運動不足で力もひ弱な彼が扱える貴重な武器。

「これも持っていこう」

 それはバンバンガンと呼ばれる光線銃だった。

 片手で構えられるお手軽な大きさの銃で重さもそれほどなく、簡単に扱えるグッズ。

 命中した相手に強い電磁波を与え、ダメージを与えるといった、携帯しやすく、反動も少なく機械いじりが得意でメンテナンスがしやすいジェフにうってつけの武器。

「確か、お店は24時間営業だから開いてるよね」

 彼の口にした通り、後は食品と飲み物さえ用意できれば、旅の準備は完了する。

 

 

 

 寄宿舎玄関。

(とは言ったもの、勿論開いてるわけないか)

 勢いよく玄関を飛び出したジェフだったが、その門は当然のように口を塞いでいた。

 さらにガウス自身からちょっとカギマシンも錠前には歯が立たず、あっさりと外に出ることは許されなかった。

(急がないといけないのに)

 ジェフは門の格子戸を何度も揺らしながら、強引に出る方法は無いかと思考を巡らしていた時だった。

「ジェフ!」

 彼の背後から声をかけたのは、先に別れを告げたルームメイトのトニーだった。

 玄関前に降り積もった雪を踏み荒らしながら、困っている親友の元へと歩み寄ると、彼はジェフに対して首と視線を僅かに動かして指示を送った。

「扉からじゃなくて、脇のレンガの壁から脱出しなよ」

 寄宿舎を囲む数メートルはある高い塀を昇るようにとトニーはジェフに対して一つの打開策を口にする。

「確かに出やすいけど、少し高いんじゃないかい?」

 大人二~三人分の高さを誇る赤いレンガの塀を見つめながら、彼は問題点を告げる。

 するとトニーはその言葉にニヤリとさせると、玄関に傾けてあった雪かき用のスコップを手にして周囲の雪かきを始めた。

「一体、何を?」

 彼は熱心に雪を掻くトニーの考えを把握できず、ただ立ち尽くしてその様子を眺めていった。

「よし、もうすぐできるよ」

 汗を掻き、ゼェゼェと息切れを起こしながら邪魔な雪を取り除いた彼は最後の仕上げとして、ある物を力いっぱい引っ張って動かし始める。

「ねぇ、トニー。それって……」

 彼が掴んでいたのは屋外用の大型のゴミ箱だった。

 雪かきをしていたのはゴミ箱を支えている滑車を動かせるようにして、大型のゴミ箱を足場として利用する為だったのだ。

「さあジェフ、早く乗って」

「う、うん」

 ジェフは彼の言うがままにゴミ箱によじ昇ったのは良かったのだが、それでも『足りなかった』。

「もう少しで手が届きそうだけど、ダメだ……」

 あとほんの少しで塀の上に手が届く範囲まではゴミ箱のおかげで何とかなったのだが、まだ一歩及ばない。

 けれどもトニーは再びその表情に笑みを含ませると、彼を脱出させる最後の解決策を口にした。

「最後は僕が肩車をするよ。それで充分足りるだろう、ジェフ」

 そう口にすると、トニーは身を低くして彼が頭を跨ぐのを待つ肩車の姿勢となる。

「分かった。ありがとうトニー」

 ジェフは親友の心意気や、旅に出る事を応援してくれる態勢に感謝の言葉を向けると、その絆の力を借りて積もっていた少量の雪を払いのけ、レンガの塀を越えていった。

「とりあえず……さよなら。でも君がどこに行こうと僕らはずっと新友だぜ! 絶対に大切な人を救って戻ってきてくれよ! 楽しみに待ってるから」

 無事に寄宿舎を抜けたジェフが確認したのは、自分を励ましてくるトニーがどこか寂しそうな表情を浮かべながら、寄宿舎へと戻っていく姿だった。

(ありがとう、トニー。行ってくるよ)

 こうして気弱な少年ジェフの僅かな勇気を振り絞った冒険が始まった。

 

 

 

『スノーウッド・ドラッグショップ』

 寄宿舎付近にある店舗にてジェフは財布に残っていた少ないお金で食料や飲み物などを買いそろえていた。

 通常であれば学生が多くの品々を購入する為賑わう事が多く、品数も少なくなるのだが、今は時間帯が深夜に加えて、学校が長期休暇中という事で里帰りをする生徒もおり、寄宿舎にいる生徒が少なく売れ残りが多かった。

「こらこらジェフ。お前、こんな時間に抜け出して買い食いか? あんまり健康に良くないぞ、ハハハハハ」

 知り合いの店員にそう小突かれながら、ジェフは愛想笑いで返して買い物を済ませていた。

「そうだ、これはタダでやろう。最近の流行でな、皆口の中に入れてクチャクチャしてるんだ。よく膨らむからオススメだぞ」

 店員がジェフにおまけだと言って差し入れたのは二つのブドウ味のフーセンガムだった。

 何かを噛むことで脳の活発を活性化させ、尚且つお前のような深夜帯にお腹を空かせて、物を買いに来る奴には最適だと言葉を添えつつ、店員はジェフのリュックの脇ポケットに差し込んだ。

「ありがとうございます……じゃあ」

 残金が少なくなり軽くなった財布とパンや牛乳等を詰め込んだリュックを持ち上げると、彼は店舗から退いた。

 

 

 

「さあ、行こう」

 店を後にしたジェフは栄養価の高い板型チョコレートを口に含み、木々の葉や地面を覆う雪の上を歩いてゆく。

 ブーツや長靴を履いて来るほどではないにしろ、時折高く降り積もった雪に足を取られながら、寒い中彼は南下していった。

「カアカア!」

 それでも寄宿舎付近はまだ安全だったもの、まだ日の光が届かない暗闇の雪原地帯では餌を求めてリュックサックに集る『にくいカラス』や小型ではあるが野犬の『おんしらずなイヌ』が彼の前に立ち塞がる。

「本当にどうして夜なんかに出てきちゃったんだ!? 普通冒険って朝に決まってるのに、馬鹿だな、僕は」

 自分の判断とはいえ、感情の任せるままに深夜の時間に出発した事を悔やみながら、ジェフはバンバンガンで応戦をする。

「ガルル、ガウ!」

 しかし実戦などまともに経験したことが無いジェフに勝ち目は殆どなく、おんしらずなイヌのひっかき攻撃やにくいカラスのついばみ攻撃の痛みに耐えられず、リュックに入れていた食料の一部を囮にして、彼は結局慌ててその場から逃げ去る事とした。

 一応武器で一、二匹は退治できたとはいえ、それでも十分な成果をあげたと言い難く、臆病である彼にとっては戦いというもの自体が好ましくなかったのだろう。

 

 

 

 

「ハア……ハア」

 その後も幾つかの食料を囮に戦闘を切り抜けつつ、彼が息を切らしてたどり着いた先は何者かが建てた黄色いキャンプ用のテントだった。

「ハアハア……中には誰かいるのかな?」

 ひとまず失った体力を回復しようとジェフはテントの中をのぞき込んだ。

「ウキ?」

 すると、中には一匹の赤毛をした猿が座っていた。

「なんでお猿さんが?」

 山から人間達の餌を求めて降りて来た猿なのか、はたまたここの主人のペットなのか、今遭遇したジェフとしては疑問が浮かぶ所だった。

「ウキキ、キキ」

「!?」

 そう声をあげながら、猿が僅かに動き出すと同時にジェフは野生の猿だったら、また襲われるかもしれないと察知し、すぐさまポケットに入れていたバンバンガンに手を伸ばした。

「ウキ? ウッキキキー」

 だが、猿は攻撃を繰り出す姿勢を見せなかった。

 それどころか、敵意を見せる事無くジェフの周りをクルクルと回り、懐いているペットが主人の元に歩み寄ってくるような愛らしい仕草にも見えた。

「キキ、ウッキ、ウッキィ」

 その後、しばらく回り続けた猿は少ししてから立ち上がると、ジェフに何かをねだる様にズボンを引っ張り始めた。

「? 何かを欲しがっているみたいだけど、今リュックに入っているのは本当に僅かな食料しかないよ」

 ジェフは初めこの猿に何かを与える事を拒んでいたが、そのまま立ち去ろうとすると、悲しそうに低い声で鳴きつつズボンから手を離そうとしなかった為、根負け。

「もう、仕方ない。どれが欲しいんだい?」

 ジェフは無人テントの中へお邪魔すると、暖を取る為と明かり兼用のガスランタン付近に座り、隣へ寄って来た赤毛の猿へ次々と食べ物を渡していった。

「はい」

 ジェフが初めに手渡したのはコッペパン。

「キキィ……」

 目的の物と違ったのか猿はかぶりを振り、コッペパンをジェフの足もとへと戻す。

「じゃあ、これかい?」

 次に渡したのは野菜やカツが入ったサンドウィッチ。

「キィ……」

 するとまた違ったのか、小さく鳴き声を発しながらすぐさま彼の元へとそっと置いていく。

 その後もおにぎりやスナック菓子、牛乳などリュックサックの中にある物を渡しては返されを繰り返しながら、ついに最後の一品までたどり着いた。

「そうか、やっぱり猿と言えばこれだよね」

 その残った一品はジェフ自身にとっての最高の回答。

 むしろ猿が欲しがるものと言えば、これが定番。

 自分がやった事のある数少ないゲームでも猿はこれを欲するものだと学んだくらいである。

「買って置いて良かった」

 アジアやラテンアメリカの熱帯域で大規模に栽培されている事に加え、東アフリカや中央アフリカの地方では主食として小規模ながら広く栽培が行われている果実。

 熟す色の段階はオールグリーンからダップルの八段階に分けられる、曲線を描く形をし、現在の色は六段階目のフルイエローをした食べ頃真っ盛りの食物。

「はい、全部食べなよ」

 そうしてジェフは何の疑いも無く、さも当然の様に『バナナ』を手渡した。

 そうすると……。

「キィー、ギャウッ!」

 相手の渡して来たバナナが凄まじく気に食わなかったのか、今まで大人しかった猿が突然激昂してバナナを外へと力いっぱい投げ飛ばした。

「キキィ!(おいおい、バナナが猿の好物って誰が決めたんだよ! そんなくだらない常識に捉われてるから、君はただのメガネなんだよ!)」

 持っていた常識を打ち砕かれ呆気に取られているジェフに向かって、頭に血がのぼった猿は言葉が通じないとはいえめったくそに罵声を浴びせていく。

「ウッキキ! キキッキ!(オイラはバナナが大の付くほど嫌いなんだよ。むしろリンゴやブドウが大好物だっての! 本当にどうして人間てやつは猿を見たらバナナが大好きとか考えるんだ? 俺は超信じられないね)」

 立ちあがり握り拳の両手を上げて、甲高い鳴き声をあげながらジェフに対して物申し続けた猿は痺れを切らしたのか、彼のリュックに差してある物を指さす。

「えっ、これが欲しかったの?」

 猿の指先にあったのはグレープ味のフーセンガム。

「キキィ」

 言葉に対して猿も態度を急変させ、彼の言葉に対して何度も頷き両の手を合わせて拍手をして肯定の意を示していた。

「ムグムグ、クチャクチャ」

 彼から手渡されたフーセンガムを嬉しそうに受け取ると、食べた事があるのか綺麗に封を切り、覆ってあった銀紙まで丁寧に剥がしてから口に含み、満足そうにガムを噛んでいた。

 先程まで凶暴な動物に襲われていたせいか、大人しくなった猿の様子をジェフはのんびり眺めていた。

「ムグムグ……キキッ!(このガムなら成功するかも。よし、オイラの得意技を見せてやる。ついて来て)」

 何かの準備が整ったのか、猿はガムを噛みながら外へと出るようにと手招きする。

「? 何だろう。お礼でもくれるのかな」

 ネス達と違って言葉が通じないジェフは訳も分からずに猿の言う通りに外へと連れだされた。

「一体、何をするんだい?」

 寒さが強くなっているのかリュックに入れていたマフラーを首に巻きながら、彼は猿に尋ねる。

「ウッキッキ(まあ、任せとけって、それ!)」

 すると猿は口に含んでいたフーセンガムを大きく膨らませると、なんとそのまま自分の体ごと浮かせたのだ。

 まるで気球の如く、ある程度の高度を維持したままフワフワと浮き続けていたのだ。

「す、すごい」

 これにはジェフも驚きの表情を浮かべ、降りて来た猿に対して噛んだガムを風船に似た物にして宙に浮くバルーンモンキー、略して『バルモン』と命名した。

「キッキッキ、モンキッキ(バルモンか……良い名前じゃないか。気に入ったぜ。オイラは今日からバルモンだ)」

 彼のネーミングがお気に召したのか、猿もといバルモンはジェフをパートナーとして認識し、彼の後ろを付いて回るようになった。

 時々、周囲に気を取られすぎてジェフの姿を見失う事があるのが玉に瑕だったが……それでも共に戦ってくれる仲間が増えた事で彼自身が戦いへ向ける勇気が強くなったのは確かだった。

 

 

 

 

 新たな相棒、バルモンを味方に引き入れたジェフは襲い来る野獣たちと戦いながら、次に足を止めたのは寄宿舎より離れた南部に位置するタス湖と呼ばれる岸を隔てる程の細く縦長に伸びた湖だった。

 いつものタス湖であれば、付近にボートをレンタルしている業者の人間がいるのだが、今は特別なシーズン。

「おや、見ない顔だね? 君達も伝説のタッシーを見に来たのかい。今のこの時期を逃すと二度と見れないらしいからね」

「今の俺達は『タッシー・ウォッチング隊』。いつもは世界中で見られる珍しい生命体をこの目に入れようとする学者たちの集まりさ」

 そのシーズンとは湖に住まうとされる生きる恐竜タッシーが顔を出すと予想される時期だった。

 ジェフ達の行きついた湖の岸にはテントが幾つも張られており、外にいる学者の皆が灰色のサファリジャケットとサファリハットを着用し、首からは双眼鏡をぶら下げて歩き回っていた。

「いつも……出ないのに。それより、しまったなぁ。ボートの業者さんが来ていないんだ」

 毎年空手で終わり、退散していくこの学者たちの事を知っているジェフはそう口ずさみながら頭を抱えた。

 そう、このシーズンであればタッシーが湖から顔を出すかもしれないと変なストレスや異変に気を付けるようにと、ボート業者はレンタルを禁止されているのだ。

「とりあえず何か向こう岸に渡ることが出来ないか、聞いてみようかな」

 そして彼は周囲で双眼鏡をのぞき込んでいる学者たちに話を聞いて回る事にした。

「向こう岸へ? ダメダメ、強引に渡ろうとしたらタッシーが怯えて逃げちまうよ」

「いつも出てこないのは何となく予想付いてるんだけどね、でも『もしも』ってことがあるじゃん。ほら、宝くじを買う前の小さなギャンブルの気分みたいにさ。期待しちゃうのよ。だからあまり下手に行かない方が良いよ」

 ジェフが話した周囲の多くの学者は否定的な意見を述べて、まともな解決策を教えてはくれなかった。

 タッシー出現の特別シーズンと言っても一週間程度。

 本来であればあまり人が寄り着く事も無く、ジェフ達学生は長期休暇という事で事前に里帰りの予定を組み動くものが多い。

 その為、実情としてボートの業者以外はあまり大きな被害を被る事も無いうえに、少し待てば終わるからという感想が多かった。

「とりあえず。テントで休んだらどうだい。かなりくたびれた顔してるよ。町から離れてHPやMPを多く消費したゲームのキャラみたいになってる」

 彼が聞き込みをする中で学者たちの体調管理を任されている中年の男性が、ジェフの様子を眺めて生徒たちが仮眠を取っていたテントへと誘う。

「ええっと……」

 勿論テントの中で休んでいる事をしている場合ではない。

 彼は強く考えてはいたものの、テントの中から漂ってくるシチューの香りとそれを温めているバーナーの発する温かみに敗北し、この中で対策を考える事にした。

 

 

「さあさ、ゆっくりしていきな。シチューでも食べる?」

 今は殆どの生徒が外に出ているか、別のテントで休息を取っているかで、開いた寝袋や布団が放置されたテントの中は男性とジェフとバルモンだけだった。

「よろしければ、いただきます」

 彼は相手の厚意に甘えるように目の前のバーナーで煮ている小鍋に入った鳥肉やニンジン、ジャガイモが入ったホワイトシチューを分けて貰うようにお願いする。

「勿論いいさ。皆が余らせちゃうからね、食べてもらいたいと思ってたんだよ。そういえば、そっちのお猿さん、手なずけたのかい? 私のテントはその子に乗っ取られちゃってね」

 男性はシチューを木の椀に注ぎながら、先程ジェフとバルモンが出会ったテントが自分の物と口にし、笑ってそう発していた。

「キィキィ(まあ、寝床には丁度良かったからな)」

 相手には意思が伝わっていないが、バルモンは鳴き声をあげなら返事をする。

(ハハ……バルモン、そんなことしてたのか)

 人間という存在を恐れずに敵の縄張りを奪っていくその姿勢にジェフは苦い笑みを浮かべると男性からシチューを受け取る。

「それ食べたら、少し休みなさい。急ぐ事情もあるみたいだし、早朝になれば私が起こしてあげるから」

 雪の国に住んでいて慣れているとはいえ寒さが支配する深夜を離れた場所から体力を削りつつ進んできたジェフ。

 温かいシチューを食べ始めるまで、少し顔色が優れない事を見抜いたのか男性はそう言葉をかけると猿用とジェフ用の布団を用意する。

「色々とありがとうございます。でも……」

 それでも自分には今休んでいる時間などないという焦燥感に駆られて、彼は休息を取ろうとはしなかったが、

「あ、れ?」

 流石に体は嘘は付けなかった。

 寒く乾燥した場所での移動、ましてや戦闘という激しい運動、予言で目を覚ましたとはいえ十分な休息を取れていなかった事が重なって、彼は体のバランスを崩していた。

「ウッキー!(無理すんな、休め休め)」

 バルモンはいち早く彼の体調の変化を察知し、体を布団の方へと押し込む様に動かして、そのまま横にさせる。

(ごめんなさい、ポーラ、ネス。すぐに助けに行くから待っていてくれ。まだ見た事ない僕の大切な友達……)

 意識が遠のいていく中で、彼は姿形を知らぬ二人の安否を気遣いながら静かに目を閉じた。

 スゥスゥと寝息を立て、彼はテントの中でバルモンと共に明日を生き抜くための英気を養う為に眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 早朝五時。

 まだ日の光が完全に昇りきっていない時刻に二人は数時間前に見た男性に起こされて、ジェフはリュックに残っていた食料を、バルモンはガムを朝食として口にする。

「かなり血色がよくなったみたいだ。良かった良かった」

 男性はテントの入口から顔をのぞかせ、彼の顔を見て笑みを浮かべて安心した声をあげていた。

「昨夜はありがとうございました」

 身支度を整え、テントの外へと出て来たジェフは食事だけでなく寝床の提供までしてくれた恩人に頭をさげる。

「ハハハ、気にしなさんな」

 まだ少年だというのに礼儀をわきまえている彼に男性は声をあげて笑いながら、言葉を続けていった。

「そうそう、今だ。この時間帯が一番出るらしいんだ、タッシーが。よかったら君も一緒に見ていきなさい。大発見を見れるかもね」

 男性はそう言葉を残すと、双眼鏡を持ってジェフたちから離れ、観察を続けている学者たちの元へと走っていく。

「ぼく達も行こう」

 ジェフはバルモンの手を引き、男性の後に続いて湖が一望できる地点へと向かった。

 

 

 タス湖は頭を出す日の僅かな光に照らされ、神秘的で美しい水色に輝いていた。

 底は非常に深く、動物プランクトンが多く生息する富栄養湖なのか水の表面は日光が反射しているもの、底の様子が殆ど見えない。

 だからこそ学者たちは湖の底にタッシーがいるかを簡単に調査できないうえ、潜ろうにも皆がカナヅチという情けない現状に苦しんでいるのだ。

「はあ、どうしたら向こう岸へ渡れるんだろう」

 移動はしたもののジェフは白い息を吐きながら、結局解決の手段を見いだせない。

「おや、昨日……とは言わないな。ちょっと前に見た子供じゃねぇか。テントに泊めてもらっていたのか」

 ジェフはここへ訪れた際に聞き込みをしていたため、顔と姿を学者たちに覚えられていた。

「まだ向こう岸に行きたいのか? タッシーが出てくれば喜んで協力してやるんだが、まあ人生上手くいかない事もあるもんだから、大人しく俺たちが帰るのを待った方が良いぜ」

 学者たちも体力の消耗や手間暇をかけてまで、この機会を毎年逃さぬように働きかけている。

 そのため彼に自分たちの僅かな希望を踏みにじられるような真似をしてほしくないのだろう。

 だから学者はそう言ってジェフの意思を汲む事なく、ただ自分たちの出来る事を行っていた。

「うん? なんだ」

 相手の言葉を受けてシュンとしたジェフを脇目に、学者たちはある環境の変化を察知する。

 巻き起こったのは冷たい風。

 周囲の針葉樹の葉の一部が千切れ宙を舞いながら、何かの予兆のように風がヒューヒューと音を立て吹き始めたのだ。

「おい、あれを見てみろよ!」

 すると学者の一人が何かを発見したのか、大声で周囲の仲間たちの注意を引きつけて、着眼した地点を指さす。

「!? あれってもしかして」

「おいおいおいおいおいおい!」

「何だ? どうした――あっ!?」

 一人の発見を皮切りに確認を取る学者たちが次から次へ言葉を発しざわついていく。

「まさか、本当に」

 ジェフも先程話した男性から双眼鏡を借りて、その変化を目の当たりにする。

 その目に映っていたのはタス湖の水面(みなも)に浮かぶ円状の波紋。

 物が落下した訳でもなく中央で描かれる波紋の意味は一つ。

 その下に何かが蠢いている証拠だった。

「タッシー……なのか?」

 学者たちが騒いでいた理由はもう一つあった。

 それは水の波紋の大きさ。

 何年も同じことをしている彼らにとって水面の揺れなど水中に生息する生物がいる以上、小さな波紋など見飽きていた。

「間違いない、あんなの見た事ないぜ」

 けれども今回は非常に大きな波紋だった。

 魚などではない明らかに別の生物が表面で擦れ擦れで泳いでいるのだ。

「!? ウッキッキ!(ガム、借りるぜ!)」

 何かを察したのか、バルモンは慌ててジェフから余っていたフーセンガムをひったくると、タス湖の縦に伸びた岸へと走り始める。

「あっ、バルモン! 危ないよそんな所に行ったら」

 ジェフの心配を聞かずに、バルモンは岸の先端にたどり着くとすぐさま口を激しく動かしフーセンガムを噛み始めた。

「クチャクチャ、クチャクチャ(まあ、見てろって。お前達腰抜かすからな)」

 バルモンはガムを噛み終えると、出会ったジェフに見せた得意技のガム風船を膨らませ、体を宙に浮かせた。

 そしてなんとそのまま彼は何者かが起こした水の波紋の上に移動し、滞空を始めた。

(一体何をしてるのかな、危ないのに)

 相棒が安否を気にした直後場に大きな変化が起こった。

「あっ」

 その時、学者の一人があっけらかんとした声をあげる。

 出て来たのだ。

 大型水棲爬虫類である首長流の子孫とされている長く伸びた首から幅広く扁平な胴体へ繋がり、全体が紫色の伝説の生物。

「タ、タタタタタ、タッシーだぁぁぁぁ!」

「どどど、ど、どぇたあああああ」

 バルモンが呼び寄せたのか、バルモンが呼び寄せられたのか出てきた理由等は不明だが、宙に浮いていた彼を受け止めるように頭に乗せ、タッシーは姿を現したのだ。

「本当にいたんだ……」

 これには思わずジェフも驚きを隠せずに口をポカンと開けながら立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 予想だにしていなかったタッシー登場という事実に学者たちは大興奮を起こしながら、バルモンによって岸へ導かれたその姿を写真やスケッチで証拠を残していた。

「ウッキキ(乗せてってやるってよ)」

 まるでアイドルの周りに集まるファンに似た学者を尻目に、タッシーの頭部から降りて来たバルモンはジェフの背中をグイグイ押しながらそう発した。

「乗れって事なのかな?」

 言葉は通じないが、行動から相手の意思を把握した彼は学者達を退けながら、ゴツゴツとした紫の背中へと乗りこむ。

「キッキッキ(出してくれ、向こう岸まで頼むぜ)」

 そしてバルモンは再び、頭部へとよじ登ると鳴き声をあげて命令する。

(……こくり)

 静かにたたずみ、周囲でフラッシュを焚かれている事を気にも留めず、大人しくしていたタッシーは彼? の命に従うように静かに頷くと動き始める。

「お猿さん、あんがとよ!」

「すげぇ、恐竜の背中に少年が乗ってる。まるで映画だ」

「感動だぁ、でも疲れたから早く寝たい」

 タス湖をゆっくりと前進するタッシーの背後から、学者たちの感謝の言葉が聞こえていた。

 次第に声が遠のく中で、二人は幻の生物である恐竜の体の上でくつろぎながら、周囲の景色を堪能する。

 彼らに届くのはタッシーがヒレで水を掻く静かな音と、時間が経過し雪山の隙間から完全に顔を出す太陽の光。

 静寂ながら心地よい冒険の感覚に触れながらジェフ達は段々と視野に入って来る岸へたどり着くのを待つだけだった。

 

 

 

「タッシー! ありがとう!」

 こうして次なる進路を確保したジェフは岸へ着くや否や、役目を終え再び無言で去っていくタッシーに声をかけて別れた。

 そして再び雪原地帯を進むと、二人は大きな角を生やした猛獣『あばれゴート』と対峙し、以前より少し度胸が付いたジェフとバルモンの猛攻により、退ける。

 戦闘の経験、隠れて持って来ていた攻撃用グッズを使用する事で僅かずつだが強くなっていくジェフ。

 自分でも出来るという自信を付けつつあった彼らの前に次に立ち塞がったのは先へと続く洞窟をくり抜いて建てられたある『ダンジョン』だった。

「もう出口が見えてるし、何なんだろうこのダンジョン」

 洞窟の中に入った彼がダンジョンと決めつけた理由は洞窟の入口直後に建てられた看板を読んだからだった。

 内容は以上の二つだった。

『入場料は取りません、ですがアイテムはあげます』

『ようこそ、低予算ダンジョンへ。ダンジョン好きのあっし、ブリックロードが作った場所へ』

「キッキッ、ウキキキキ(おいおい、こんなの猿でもクリアできるぜ。……そういえばオイラ猿だったな)」

 看板の低予算という表記やバルモンの口にする通り、ダンジョンというよりは子供が遊ぶアトラクションのような場所だった。

 ジェフの腰の高さにも満たない丸太が通路の柵替わりなのか迷路の様に置かれ、その突き当たりごとに看板やプレゼントが置かれている。

 さらに所々入り口に設置された自家発電用の装置からあちこち電気コードが引き伸ばされており、内装としても非常に明るい親切な設計とされている。

「プレゼントはありがたく貰っていこう」

 敵も子供が好きそうなねじれて紫色の形をした、ジェフの素手攻撃ですら敗北してしまう非常に弱い生物の『オレナンカドーセ』や嘴で攻撃してくるギョロリとした目玉が特徴の『つっぱりダック』など、特に強い生物と出くわすことなく、二人は進んだ。

 一応柵替わりの丸太を越えずに二人は真面目にゴール丸見え通路を、途中アイテムの入ったプレゼント箱を開けながら歩いていった。

 

 

 

『大変よくできました。アッシの作品はまだまだこれからです。ブリックロードの次回作にご期待ください』

 以上がダンジョン最後の看板に書かれた内容だった。

 結局半時間も持たないまま、むしろ退屈さえ覚えるダンジョンの出口へたどり着いた二人。

「ちょっと簡単すぎたかな……アッシはダンジョン職人のブリック・ロードといいやす。お疲れ様でやんす」

 そして出口脇に立ち、発言をしたのは鼻の下に長く伸びた髭を蓄えた灰色の作業服を着た男。

「アッシはダンジョンづくりに命を懸けてる変わりもんでやんす、どうでしたかね今回のダンジョンは、初めてのお客さんの感想をお聞かせ願えますかね」

 作者であるブリックロードは殆ど人の来ない自作のダンジョンに客が来た事に嬉しさを覚えていたのか、黒く汚れた歯を見せながら、相手の感想を待った。

「本当に簡単でした。ビックリするくらい」

 出口付近だというのに自分がついさっき入った入口を見ながら、ジェフは正直に感想を述べた。

「うーむ、やっぱりか……なんとか天才アンドーナッツ博士と手を組めれば、アッシは人類史上初のダンジョン男となれるはずなんですがね。おっと、こんな事を言っても仕方ねぇ。貴重な感想ありがとうでやんす。さあさあ、冒険をお続けになってくだせぇ」

 ブリックロードはその感想を一つの失敗例として切実に受け止めると、客の進路の邪魔をしないようにその場を離れていった。

(なんだか、不思議な人だったな)

 奇妙でありながら何処か変わった魅力を持った男性と顔を合わせたジェフは笑顔を手を振り続けるブリックロードと別れた。

 

 

 

 

 

 

『ウィンターズ南部の洞窟』

 先程の手緩い低予算ダンジョンを抜け、中継地の節減地帯を進んだ二人を次に待っていたのは、自然の洞窟。

 内部を照らすための僅かな光である壁に設置された松明の火を頼りに、窪んだ地面に溜まった水や池が凍結する寒さに満ちた洞窟を進んでいっていた。

「ゼェゼェ……さっきのダンジョンとは大違いだ」

 片手にバンバンガンを持ちながら、時折襲い掛かって来るモンスターのこうもりさん、または強い生命力を授かり足の生えた派手な赤色に白の斑点模様が特徴の『あるくキノコ』や二足歩行の双葉『あるく芽』の集団と戦っていた。

中でも後者の二体は、ジェフにとっても苦戦を招き、片方は胞子をぶちまけて脳に寄生するキノコを生やそうとしたり、芽に至ってはライフアップで仲間を回復するなどと手ごわいモンスター達だった。

 

 

「クシュン! クシュン! ズビビ、ウッキー……(オイラ、ヘトヘトのベトベトだ)」

 戦闘を終えた今となってはあれほど勇ましく、特攻の攻撃役として活躍していたバルモンも今ではジェフの背中。

 キノコモンスターによる別の状態異常を引き起こす胞子を嗅いでしまった為か、風邪や鼻炎に似た症状に襲われており、見ていても辛そうにしているのが分かる。

「この縄を昇れば、パパ……いやアンドーナッツ博士の元へたどり着ける。確か回復の機械があった筈だからもう少しだけ我慢してて」

 それでも何とか敵達の隙を掻い潜り、外の光が漏れ出ている出口近くまで進めたジェフ。

 しかし、ここで彼は『ある存在』を目撃する。

「? 一体なんだ、コイツは」

 上部へと繋がる縄を昇り、出口までたどり着いた彼が反対側に続く通路の先で目撃したのは神々しい光の塊。

 自身の姿形を把握させない明らかに異常な存在。

 そう四番目の『おまえだけのばしょ』を守る番人だった。

「我を見るものよ……去るのだ。ここはある人物のみが近付く事を許される。早く、去るのだ。ここはお前では力を引き出すことは出来ぬ」

 だが、パワースポットの力を真に引き出せるネスなど以外ではここに立ち寄る事は許されない。

 その生命体はジェフを脅すように声をあげ、威圧した。

「わ、分かった」

 背中でくしゃみや鼻水が止まらずに苦しそうにしているバルモンの事も気がかりな彼は、関わりや争いをせぬように慌てて出口へと出て行った。

 

 

 

 

 見た事の無い複数の場所を行ったジェフ達が洞窟を抜けた先に広がっていたのはウィンターズ名物の未だ謎が深い遺跡『ストーンヘンジ』。

 中心となる一点から円を描くように石柱が立ち並ぶ過去の原人たちが建築したもの。

 さらに中心の一点には大きな洞穴があるが、学者たちの調査では金属のコケシのような物が道を封鎖しており、深部へと近づけないらしい。

 加えて現在では付近の住人や生物が行方不明、神隠しなどで消えるなど不気味な噂が立ち、観光客どころが現地で有名な巨人の生命体である『ビッグフット』ですら気味悪がって立ち寄らない。

「今はここの探索は目的じゃない。はやく行こう」

と言った不明な要素が多い場所ではあるが、このストーンヘンジを抜けた先がジェフにとっての最大の目的。

「ここからすぐだ。待っていて、二人共」

 立ち並ぶ石の柱を後にして、少しばかり歩いていた先にポツンと建てられた研究所へとジェフは助けを待つネスとポーラの為に入っていった。

 

 

 

『アンドーナッツ研究所』

 知る人ぞ知る有名な発明家天才アンドーナッツ博士。

 ジェフは彼の助けを借りるべく、そっとその中へと侵入する。

「いないのかな……」

 ジェフは体調の優れないバルモンを玄関付近の壁にもたれさせると、研究所内を見て回った。

 天才と言われており、日夜研究で忙しいイメージを持っていた彼だったが、部屋の中は非常に綺麗だった。

 薬品や機械のパーツ、黒電話が置かれた机と椅子が二、三個に冷蔵庫やポットなどの家電用品やベッドと本棚。

 後は彼が発明したと思われる品々などが並んでいた。

「あっ、これだ。早速バルモンを休ませよう」

 ジェフが発明品の数々を見て回り、見つけたのはエナジーポットと呼ばれる空腹以外は治療してくれるという大きな培養器のような物体。

 すぐに彼は鼻づまりとくしゃみに苦しんでいるバルモンを抱きかかえ中に入れると、扱い方を熟知しているのかテキパキと起動させて、治療を行った。

「ウキキ……(ありがとう、助かったぜ)」

 培養器の中では体の調子を整える空気が排出され、体内に残っていた毒素を消し去り、非常にリラックスした状態でバルモンは出て来ると、そのまま眠った。

 敵陣に突っ込んで攻撃する役割だった為、気を張り続け激しい運動をこなして来た影響で疲れがたまっていたのだろう。

「こっちこそありがとう、危ない所まで助けて貰って。じゃあここでお休みなさい」

 その自分よりも小さな体で頑張ってくれた仲間に感謝の念を伝えると、ジェフは幾つか用意されていたベットまで運び、寝かせた。

 そうして再び博士の居場所を探るべく、彼は研究所内を歩き回っていた。

「どこにいるんだろう」

 だが研究所内は僅か二フロアしかないにも関わらず博士の姿を発見できなかった。

 彼自身が今立っている一階とその様子を上から確認できる大きな空間が開いた通路とも思える二階だけ。

 隠れる所なんて皆無と感じられる程にシンプルな作りである以上、博士を発見出来ないなどあり得ない。

「留守なのかな? でも、博士の癖なら」

 知らぬ間柄ではない彼は椅子に腰かけながら、

考えを巡らせて相手の行動を思い出す。

 すると……。

「そうだ!」

 彼は相手が姿を見せない意味を思い出して、すぐさま一階に置かれていたある物の蓋を開けた。

 

 

「おや? もう朝かい」

 なんと博士はポリバケツの中で眠っていたのだった。

 白い髭、髪の毛に白い研究服を身に着け、ジェフと同じ丸いメガネをかけたアンドーナッツ博士は開けた人物の顔を見ずに先にのそのそとゴミ箱から体を出してゆく。

「誰か分からないが、ありがとう。危うく一日中寝てしまうところじゃ……った?」

 幸運か偶然かゴミが全く入っていなかったおかげで、異臭を漂わせる事無く、博士はゴミ箱から体を出すと、相手の顔をまじまじと見た。

「…………久しぶり、博士」

 博士は昔の自身によく似たその少年をしばらく眺め、相手に呼ばれるまで反応を示さなかった。

「……私はもう良いと言ったのに。まだパパとは呼んでくれないんだな……そうかもう五年ぶりくらいか、お互いよく生きてたもんだ、ドーナツ食べるか?」

 博士は大好物のアンドーナツの袋を机の引き出しの中から取り出すと、あまり口を開かない息子にそう尋ねる。

「……遠慮しとくよ」

 どれだけ明るくしていようと、いざ出会ってから気分が沈んでしまうという事は心理としてはよくある。

 ジェフは彼と会う前とは違った暗い表情で袋からドーナツを取り出すその『腕』を見て、一言だけ返した。

「…………うむ、気にするな。私が食べるから」

 気まずい空気の中で好物のアンドーナツの入った袋の封を切り、銀色に光る『義腕』で中身を口へ運ぶ博士。

 静かに口を動かして、栄養補給を済ませていく博士はしばらく見ない間に見違えるように成長した息子を見る。

 まだ幼く、よく雪の中で遊んでいた日々を思い出しながらどこか懐かしい感傷に浸りながら、彼は見ていた。

(もう……私たちはあの頃には戻れないのか)

 同時に父親と息子の関係が崩れてしまった『ある悲しい事件』も思い出し、彼自身もジェフとの距離を推し量らえずにモヤモヤとした気持ちを持っていた。

「…………」

「…………」

 しばらくお互いに言葉を交わさない沈黙が続きはしたものの、アンドーナッツはとりあえず理由はどうであれ、何かの目的を持って来た事を聞きだすために口を開く。

「んー……あー。まあ、なんだ。どうして私の所へやって来たんだ? 何か急ぐ用事でもあったんじゃないのかい?」

 ゴミ箱に入る癖などは遺伝しなかったが、臆病な性格が同じである息子が危険を冒してまで、訪れた理由を彼は尋ねる。

「実は……」

 ジェフは事の顛末を正直に父親へと伝えた。

 時々緊張で言葉が詰まる事があったが、何とかまだ見ぬ仲間たちが自分にSOSを向けている事を話した。

「そうか。ジェフ、君も大きな宿命を背負ったんだな」

 少女からの呼びかけ。

 博士は息子の口にした言葉を全く疑わなかった。

「これは聞かなくてもいい。私の独り言だ。子供の頃だ、私はその時にある大きな運命を背負った事がある。それこそ大人たちが冗談だと小馬鹿にする様な話だ」

 椅子に向かい合うようにして話していた彼は息子に対して自分の経験が何かの参考になればと話し始める。

「いいかい、ジェフ。仲間を大切にするんだ。一時は何かの影響で離れてしまうかもしれない。でも見捨てる事だけはしてはならない。見捨てるって行為は臆病者だからと言って許される事ではない。君がこの先何かの障害や困難にぶち当たっても、逃げずに戦うんだ。それが絆ってやつさ」

 博士は自分自身の過去に起こった出来事や経験足からそう息子に言い聞かせた。

 気まずい空気の上で返事こそまともに聞けなかったものの、それでもジェフは相手の言葉を頭に刻んだ。

「君は嫌がるかもしれないが、そのバンバンガンはかつて私が使っていたものでな、大切に使ってくれ。後で強化パーツを幾つかやるからレベルアップして強化の仕組みが理解出来たら改造すると良い。それと……」

 彼はそう告げると、椅子から立ち上がりジェフを手招きして懐かしい息子の冒険の目的に役立つ発明品の元へと案内する。

「これならば目的地のスリークへ飛ぶことが出来るぞ」

 博士に案内され、ジェフの前に提示されたアイテム。

 それはアンドーナッツ博士がスカイウォーカーと命名した銀色の球体に小さなアンテナと窓、後は着地する為の脚部が供えつけられた飛行装置。

「私は今古い友人から頼まれた任意の二点の時空をつなげられる『スペーストンネル』の開発を急いでいるんだ。本当ならば完成した物を君に見せてやりたかったが、まあ色々立て込んでいてな、完成はしていないんだ。だから少し古いがこれに乗っていきなさい」

 息子の旅を全力でサポートしたいという強い願い。

 ジェフは口に出さずとも、相手の意思をしっかりと受け止めるとスカイウォーカーに乗りこもうとする。

「あっ、悪い悪い。スリークの友人たちに反応して飛ぶように設定をする。だから君は二階の私の隠し部屋に行って好きなアイテムを持っていきたまえ」

 お節介と思われるの承知でそう博士は口にすると、二階の隠し研究室へ続くカードキーを息子に渡す。

「分かった……」

 横から割って中に入った彼がピコピコとスカイウォーカー内部の操作版をいじっている姿を見ながら、ジェフは言われるがままに二階へと向かった。

 

 

 

 

『二階、隠しラボ』

 ジェフは博士から預かったカードキーを二階の壁で発見した怪しげな穴に差し込み、入り口を開いた先に広がる明るい空間。

 先程までの研究室とは違いスペーストンネルの開発に尽力している事が目に見える程に工具や電線、基盤の破片、後は封を切った手紙が床中に散らかっていた。

「持っていけって言っても、パーツくらいしかないよね」

 博士自身も何か強力なビーム砲を開発していたのか、銃の改造に使えそうな部品がまとめられており、ジェフは使えそうな部品の一部を拝借する。

「他には…………んっ?」

 部屋中を見渡しても、もう使えそうな部品やアイテムが見当たらない中でジェフは、壁にもたれていた物体に目を引かれた。

 散らかった部品やパーツを踏まないように注意を払いつつ彼は近づいてより間近でまじまじと眺める。

「これは、ロボットなんだろうか?」

 それは直立させれば、二メートルは優に超える全身赤色の腕が長いロボットの残骸だった。

 あちこちが破損しており修理中なのか押しても引いても声をかけてもピクリとも動かない大きな人型機械。

「腕の付け根に何か書いてある。これを作った人の名前なのかな『ジ……ジ』?」

 ジェフは発見したロボットの製作者の名前を読もうとしていたが、損傷が酷いうえに相当古い物のせいか字が潰れてしまい殆ど読むことが出来なかった。

「パパ……アンドーナッツ博士が作った物じゃないのかな。複雑そうだし今の僕じゃ治す時間も技術も無い。戻ろう」

 こんな所に隠してまで修理する意味を理解できないまま、ジェフは散らかった部屋を後にすると、再び一階へと戻っていった。

 

 

 

「大丈夫だ。ではまた五年後にでも会おう。お猿さんは任せておきなさい、私の助手として役に立ってもらうよ」

 スカイウォーカーの行き先を以前に飛んだ場所から調整し直し、スリーク行きと設定した博士。

 タイミングよく二階から降りて来た息子を素早くコックピットに乗せると、そう励ましの言葉を向ける。

「…………」

 返事は無かった。

 手を振っている父親に向かって、彼からのメッセージは一切なかった。

(ありがとう、博士)

 ただ、心の中では感謝の言葉を向けていた。

『彼の片腕を奪ってしまったのは紛れも無いジェフ自身』

その筈なのに、彼の目に映る父親の姿は自分を心配するように助けの手を差しのべるだけでなく、励ましまで行ってくれた。

(博士が僕の事を恨んでいないのは分かるよ……でも、だからこそ僕は自分を許せない。こんな情けない僕じゃまだ家族へ戻ることは出来ないんだ)

 仕組みを理解したスカイウォーカーを起動し、吹き抜けた天井から機体を外へと浮遊させつつ、彼は窓から見える小さな博士の姿を見て、そう考えていた。

 技術者にとって大切な腕を、家族の絆を崩してしまったジェフは自責の念に捉われながら、父親と別れたのだ。

「今から行くよ。ネス、ポーラ」

 コックピットで機体を操作しながら、彼は消化不良の気持ちを持ちつつスカイウォーカーを大空へ羽ばたかせ目的地のスリークへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「ジェフ……」

 研究所に取り残されたアンドーナッツ博士は、息子を乗せた期待が飛び去った後も空を眺めながら、彼の事を思っていった。

「私は……僕は変わっていない。不器用なままだ、あの時もこんな雪山で小屋のお医者さんに言われたはずなのに。こんな大切な時にまだまだ勇気が足りていない事を痛感したよ」

 眼鏡の下から涙をこぼし、彼は昔と変わらない弱さを悔やみながら暫くの間立ち尽くしていた。

「ごめんよ……僕が不用心だったんだ。僕のせいなのに、君に咎を背負わせてしまって」

 失った腕を補完する義腕に触れながら、彼は息子の笑顔を奪ってしまった事を反省していたのだった。

 




色々とオリジナル展開を盛り込んだウィンターズ編。
勿論原作のアンドーナッツ博士は義腕ではないですが、自分の作りたい展開の為に敢えて含みのある物に変換しました。
ここまで攻略サイト等を確認しつつ、書いていて思ったのですが、MOTHER2ってスリーク編までで大体物語の半分くらいに当たるんですよね。
後半からは割と展開がジャンジャン進む感じで。
これについて少し驚いていました。

ここの記憶はあばれゴートやビッグフットと戦闘になったら、大体の確立でゲームオーバーになっていたので敵から逃げまくっていたイメージがあります!
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