これで小説を好きな時に進められます!
投稿ペースは内容の長さに寄るのですが、大体二週間にしたいと思います。
それではゆっくり読んでいってください!
ジェフの乗るスカイウォーカーは雲の上を舞っていた。
雪を降らせていた雪国ウィンターズの分厚い雲を抜けた機体は安定した高度を維持し、ただ目的地であるスリークへと向かっていた。
「座標ではもうすぐフォギーランドを抜ける。ドキドキしてきたな。今まで寄宿舎からすらまともに外へと出た事ないのに」
部屋に籠って機械いじりを専門に行っていたインドア派の彼にとって幻の様な光景。
機内に備わったレーダーに表示された数値を目にしながら、今生まれ故郷から飛び去ったのである。
「でも悪くない気持ちだ」
けれども操縦席に腰かけレバーやボタンを動かす彼の気持ちは晴れ晴れとしていた。
新天地を求める冒険の楽しさを覚えたのだろうか。
彼の顔に焦りの色は見られなかった。
「予定では数十分で着く。今助けに行くよ!」
フォギーランドから大地を別つ大海を越え、彼にとっては未開の地イーグルランドへと高速で近づく。
自らの使命に突き動かされながら、彼は両の手に力を入れて向かったのであった。
スカイウォーカーが次第にスリークとの距離を詰める中で、時折雲上から降下し、地上の様子を眺めて見える大都市フォーサイド。
そしてスリークとフォーサイドの中継地であるドコドコ砂漠を目撃しては、また雲上へと戻ってを繰り返す。
「あそこに違いない。レーダーも反応してるし、明らかに異変が起きているって感じ」
そしてジェフはスリーク上空へとたどり着いた。
明らかに誰が見ても、空を覆う雲の固まり方が異常なうえに不気味な色を含んだ厚いが太陽の光を塞いでいる。
「早速、降りて二人を探そう」
ジェフは異常気象とも考えられる大地へとスカイウォーカーを降下させ、スリークの町を自分の目で確かめることにしたのだった。
「うわあ……なんてことに」
オバケやゾンビ達が町の支配権を握りつつある、邪悪な気配漂う常夜の町スリーク。
外出している人間の姿も殆ど確認できず、代わりに奇妙な姿をしたモンスター達がはびこっている惨状にジェフはそう感想を述べる。
「早くネス達の居場所を探して、助け出さないと」
町に起こっている異変を目撃しながら、ジェフはスカイウォーカーの上部に取り付けられたアンテナのスイッチをOFFからONに切り替える。
「博士ってば、助かるんだけど……なんでこんな都合のいい物が備わっているんだろう」
彼が起動させたアンテナは『テレパシー受動アンテナ』。
付近で強いテレパシーを発する存在に対して反応し、操縦者に知らせてくれるうってつけの装置である。
(今の二人みたいに知り合いにテレパシーでも使える人でもいたのかな)
何とも出来過ぎた物に疑問を拭えないながらも、アンテナを動かしながら、スリークの上空を巡っていった。
サーカス用の猛獣を入れていた荷台が放置された広場の南部から中央に密集した住宅街を抜けていく。
「どこなんだろう?」
怯えて屋内に閉じこもり部屋の証明を付けたままの住居が多い住宅街を抜け北に進むジェフ。
「まさか……」
嫌な予感を胸に抱きつつ彼は視野に入っている近寄りがたい場所を見つけて、顔をしかめながら近づいていく。
そうすると……。
ピピッ!
テレパシーの反応を検知したアンテナが音をあげた。
「こんな所に閉じ込められてるのか」
反応を聞いたジェフは機体を僅かずつ斜めに傾けながら、現場の状態を調査する。
そこは『墓場』だった。
幸いゾンビ達が多く徘徊する大型の墓場ではなく、東部に設けられた小さな墓地。
ピピッ! ピピッ!
近付くテレパシーの気配にスカイウォーカーは何度も検知音を鳴り響かせていた。
そして、一定時間墓場の上空を探り続けた結果。
「ここだ、間違いない」
中でも音の大きさが最大で、音が連鎖的になり続ける墓場の位置を補足したジェフ。
音を切り、高度を持続した状態でジェフは着陸の準備を整えようとしたのだが……。
「僕、着陸の方法を教わってない」
片手を機体の維持で使っているレバーに取られたながら、彼の頭は真っ白になった。
このまま降りてもいいのか、はたまた何らかの操作で地面に着陸出来るのか、不安になってしまうジェフ。
「うん? これかな」
ここまで来た苦労がもうすぐ報われる中で、彼は足元に降下するスカイウォーカー接する地面の様子が記されたシールが貼られた赤いボタンを見つける。
「何だか大きな!マークが描いてあるけど、衝突に注意って事だよね、よし」
初心者でも扱える様に設計したのか丁寧に着陸のボタンを躊躇わずに押したジェフ。
したらば案の定、スカイウォーカーは着陸態勢に入ったのか次第に動力音などが大人しくなっていった。
「ありがとう、博士。助かったよ」
自動操縦で制御も必要なくなったジェフはレバーから手を離し、機内を見て回る。
「…………」
直後だった。
ジェフの体が本能的に危機を悟ったのは。
「……動力音が無くなった。まだ空中なのに?」
異変の始まりはスカイウォーカー中の全電源が落ち、明かりすら点かなくなった事。
「これって、つまり」
勿論、地面に足を付けていない空中で動力を失った機体が次に引き起こす現象は明白である。
「さっきのボタンってまさか――」
残酷にも流れゆく時間はジェフが最後まで言葉を口にすること許さなかった。
BOOM!
制御も動力も失った機体は勢いよく墓場へと落下していき、大きな爆発音をあげて『墜落』したのだ。
なお、操縦席に備えられたダッシュボードにはある一枚のメモが残っていた。
『開発者とはいざという時の責任の為に自爆、もとい墜落スイッチを備え付けるものなのだ。だからこれを扱う人物はいざという時以外は赤いボタンを押さない様に。 BYアンドーナッツ』と開発者本人以外目にする事なかったそのメモに書かれていた。
「「あ、ああ……」」
ネスとポーラは爆発音と衝撃で腰を抜かしていた。
助けがどこから来るか不明だったとはいえ、まさか天井をぶち破って、見た事の無い機体ごと突っ込んでくるとは予想していない。
「いたた、スカイウォーカーめ。着陸したのか墜落したのかどっちなんだろう、ハア」
墜落し小爆発を起こし、もう原型をとどめないスカイウォーカーから命からがら脱出したジェフ。
服のあちこちにススや煙で黒くなりながら、彼は驚きのあまり声も出ない二人の前に姿を現した。
「びっくりさせちゃって悪かったね。今更説明はいらないよね。名前はジェフ、極度の近視、力は弱い、怖がりで無鉄砲な僕だけど、今ここに参上したよ」
とはいえ待ちに待った救世主のお出ましにネスとポーラも反応を示して、抜けていた腰を上げる。
「よろしく、ジェフ。ぼくはネスさ。これから一緒に旅をする事になるけど、お互い頑張ろう」
「助けに来てくれてありがとう、私はポーラよ。私も力は強くないけど特別な技でサポートするわ」
新たなパーティーの結成を確認し、お互い簡単な自己紹介と握手を交わしていき、これからの旅の面白味が一段と増した事を自覚していた。
「で、あのドアかな? 鍵を開ければいいんだね」
紹介も終え、自分の初仕事を発見したジェフ。
スカイウォーカーが開けた穴から僅かな光が差し込み、全身を土で汚した二人の姿を見て、ドアの開錠で行き詰っていたことを悟る。
「よし、これで開いたよ」
そして彼は寄宿舎にいたガウス教授から受け取った『ちょっとカギマシン』をドアに使用して、あっさりとロックを解除した。
「助かったよ、ありがとう」
「やっと外に出られるわね」
こうして新たな三人目の仲間ジェフを加えたネス一行は墓場地下の幽閉室から脱出して、スリークの町へと戻っていくのだった。
墓場から這い出て、再びスリークの町に戻って来たネス達だったが、少し見ない間に町に小さな変化があった。
「どうしたんだろう……全然外に人がいない」
自分たちが土の下で大人しくしていた間に外出していた僅かな人間達が忽然と姿を消していたのだ。
「テントに行って話を聞いてみましょう」
町の異変の原因を素早く知るべく、ポーラは提案する。
「いや二人共、別の人の方が良い」
彼女の提案に返事を挟ませる事なく、ジェフは何者かの気配を悟ったのか、バンバンガンを構えながら付近の建物の裏へと赴いた。
「しぃ! 静かにしろ。そんな物騒な銃を近づけるな」
すると隠れてネス達をつけ回していた黒人の男性が引きずり出された。
軍人なのか商人なのか、大荷物が入ったリュックを背負い迷彩服を着用した男性は、バンバンガンを付きつけるジェフに背中を押されている。
「貴方は何者ですか。ゲップ―の手先なんですか」
敵かもしれないとリュックに差していたバットに手を伸ばしつつ、警戒を強めるネスは男性に対しての質問を投げかける。
対して、迷彩服の男性は交戦の意思を見せずに両腕をあげて、
「違う。俺は後ろのガキがもっているような変わった銃や攻撃用の道具を販売する業者だ。勿論、お前らと戦うなんて思っちゃいねぇよ。だから武器をしまえ」
不信な挙動をしていた事を詫びるようにそう口を動かすと、男性は武器から手を離す子供の姿を見ながら真意を話した。
「お前達、ゾンビと戦おうってんだろ。それなら良いニュースがある。南の広場、お嬢ちゃんと坊主がバンド連中に降ろされたあの広場に行ってみろ。『化けテント』があるんだ。そこで怪しい取引もあるらしい」
男が言うには子供でありながら健気に町を救おうとする二人の強さに賭けたくなったらしく、町の変化を探っていたらしい。
なお町の異変では、彼が口にした化けテントが現れた事で、住民達はゾンビ襲撃の予兆だと怯える者が急増。
隙を見て外を歩いた人間だけでなくテントで避難していた住民までも慌てて、自分の家に戻っていたそうだ。
「まあ、俺が教えられるのはここまでだ。じゃあな、お互いしっかり生きようぜ。道具が欲しけりゃ俺に言いな。ホテルに隠れてるからよ」
武器の黒人業者はそう言葉を残すと、三人の元から逃げ去るようにして拠点のホテルへと走っていった。
「ここから広場まで近い。行こう、二人共」
貴重な情報を得たネス達。
他に行く当てもまだ見いだせなかった三人は戦闘の準備を万端にして広場の方角へと南下していった。
『スリーク広場』
そこには確かに出現していた。
町の名物であるサーカスの黄色いテントとは違う紫色のテントが。
「これが噂の化けテントみたいね」
三人の前に立っていた奇妙な気配漂うテント。
南の広場にたどり着いた彼らはその外周を二手に分かれてそろりそろりと足並みを合わせて調べてゆく。
「見たところ、普通のテントだけど……」
材質は分厚い布で出来ており、地面にはテントを固定する為の縄を打ち付けた大きな杭が刺されている。
「とりあえず中に入って見ないと。あの人が言っていた取引ってのも気になるし」
巡りながらお互いの姿を確認する事なくそのテントの様子を探りながら回るネス。
「そうだね、でもこれと言って目立ったテントじゃないみたいだ。それよりも……あれ」
するとポーラと一緒に反対をゆっくり調査していたジェフがふとそんな声をあげる。
「あれ、もう終わり?」
すると二人は半周回って逆側を調べていたネスと合流したのだった。
「これって……」
「もしかして……」
何かおかしな所が無いかを見てきた二チームは共通した一つの大きな違和感を感じ取り、三人が言葉を合わせて発言をした。
「「入口がどこにも」」
「無かったわね、これ本当にテントなの?」
そう、彼らの考察通り化けテントには入口らしきものが見当たらなかった。
360度、何処からどう見て回っても紫色の布と縄を支える杭しか存在していない。
自分たちが合流した地点がテントの正面なのか、裏手なのか、はたまた左右どちらかに立っているのかまるで掴めない。
「じゃあ、このテントが敵なんて事ないよね。ハハハハ」
ネスは怪しげなテントを背中にして笑いを含みながら仲間たちに向けてそんなジョークを飛ばした。
「「!?」」
すると二人は思わず身をすくませ、彼の冗談に予想以上の反応を見せていた。
余りにも馬鹿馬鹿しくて笑えないものだったのか、ジェフとポーラの二人は話す彼の方を黙って見つめている。
さらにその顔を強張らせ、一歩身を引いた状態になりながら。
(あれ? 誰か一緒に笑ってくれると思ったんだけど。変な事言っちゃったかな。凄い怖がるような顔してるし)
「…………」
その後に数秒の沈黙があった。
自分が失言をしてしまった事で場の空気が冷たくなったと考えているネスに対して、ポーラが震える声で言葉を絞り出す。
「あ、あのね、ネス――」
「あっ、言わないで。分かってるから、こんな時にごめん、緊張感の無い事言って」
気まずい場の中でフォローを入れてくれる彼女の優しさが辛いのか彼は遮るように反省の意を示した。
「…………」
だが二人は強張った表情から一切変化をさせるどころか、次第に顔色さえも青ざめていき場の空気が悪くなっていく。
その長い沈黙で人間の絆とはこんな小さなミスで亀裂が入ってしまうのかと実感しつつあるネスに、勇気を出してジェフは口を開いた。
「ネス、違うんだ。『後ろ』を見て……お願い」
小刻みに全身を震えさせるジェフはそう口にすると、彼の背後のテントを指さして振り向くように催促をした。
「えっ、一体どうし――――うわあ!?」
ネスは彼の指示通り、謎のテントの方へ振り向くと大声をあげて驚き、距離を開けていた仲間の元へと走っていった。
「ガルルルル……」
なんと『化けテント』はモンスターだったのだ。
紫の厚い布の上から飛び出た鋭い目つきをした目玉に、大きな口には鋭く揃った牙をギラリと輝かせる建物の怪物。
過去に廃棄されたボロテントに怨霊が宿り、さらにゲップ―から戦う力を与えられ、仲間以外には『入り口』を開かない不気味なモンスターなのであった。
「ブシャア!」
すると早速呆気に取られた三人に対して、化けテントは口から緑色の粘着直のある奇妙な液体を吐きだして攻撃を仕掛ける。
「何だこれ、臭い!」
「酷い匂いだわ……うっぷ」
上手く相手の吐き付け攻撃を回避したジェフ以外は頭からドロドロとした汚い液体を受けて、気分を害する。
ポーラに至っては吐き気を催す程に酷い浴び方をして、その場で動けなくなってしまった。
「ガウガウ!」
すると化けテントは身動きの取れない彼女めがけて、テントである巨体ごと強引に引きずりながら、牙をガチガチと鳴らして接近を始める。
「危ない! PKキア……うっ、く」
脇で目を瞑り必死で鼻を押さえているポーラを守るべくネスは必殺技を試みるが、彼も猛毒でも受けたように液体の強烈な臭いにやられてまいってしまっていた。
「ガルガル!」
固定していた杭も地面から引き抜き、身をよじる様に動かし、ずるずると化けテントは近づく。
何度も牙を鳴らして二人に食らいつこうと動いている。
「どうしたらいいんだ」
唯一、身動きが取れるジェフは危うい現状に慌てながら対抗策を考える。
相手の動きが鈍重で一応二人まで距離はあるものの、このままでは確実に大きなダメージを受けてしまう。
「くそ、このままだと二人共やられちゃう。でもこんな光線銃じゃダメだ。何か一撃必殺の武器は……」
まだ改造もしていない銃では、あの強敵は倒せないと考えたジェフは何か特殊な武器は無いかとリュックの中を漁り始める。
食料、銃の改造パーツ、ちょっとカギマシン、財布などごちゃごちゃと物が入っていた中、ある物を見つける。
「これだ! でも何処で見つけてきたんだろう」
ブリックロードのダンジョンで偶然拾った事を忘れてはいたものの、敵を倒す足掛かりとなるアイテムを見つけた。
「多分これを普通に当てても、効果は低い。ならば危険だけど度胸を見せるしかない!」
そしてアイテムを手に持って彼は相手に誘いをかけるべく、わざと接近を試みた。
(こ、怖い。少し前の僕なら気絶していた)
心の中に怯えがあったせいか、ゆっくりと。
走って敵の懐に飛び込むのではなく、震える足並みで彼は敵の元へと歩み寄る。
「ガウ?」
すると化けテントも自分に近づくジェフの気配を感じ取ったのか体を回転させて、獲物を補足する。
(オエッ……ジェフ、一体何をするんだ)
アンモニアでも嗅いでいるような刺激臭に鼻をやられながら、ネスは吐き気を伴いつつ敵に近づくジェフの様子を見守っていた。
「やってやる、やってやるぞぉ!」
すると仲間に見守られながら、ジェフは自分でもここまで命知らずな行動に出たと感心しながら、こちらを伺う化けテントに『走っていった』。
「ガウガウガウガウ!」
雄叫びをあげようが、あげまいが自分の方が強いと思っている化けテントは獲物が増えた事を喜ぶように、大口を開いて、その巨体を引きづり動かしていった。
「初めて出来た旅の仲間なんだ! やっつけてやる!」
地面を強く蹴りながら、彼は持っていた必殺アイテムを握りしめて、狙いを定めた。
「グワァ!」
そうして化けテントは眼前に迫って来た少年を食らうべく、その口を全開にして彼の体ごと飲み込む様に迫る。
「今だっ!」
対してジェフは持っていた『スーパーボム』を起動させて、大口を開いたその中へと勢い任せに投げ込んだのである。
ゴクッ!
中に圧縮された火薬がたっぷり詰められた赤色の高威力の爆弾を大口の中へ放り込まれた化けテント。
喉に直撃したのか、ジェフの身を食らう前に驚きで体内へ侵入した異物を飲み込んでしまった。
「二人共姿勢を低くして!」
簡単ではあったものの策の成功を確信したジェフは、飛び込む様に地面に倒すと頭を押さえて、ネスとポーラに大声で指示をする。
そして……直後。
体に忍び込んだスーパーボムの時限装置が指針がゼロを指し、大きな音をあげて相手の体内で大爆発が巻き起こった。
「ギョエエエァァァァァァ!?」
テントの中から爆発と思える赤い輝きを放ちながら、化けテントは強烈なインパクトを放つ断末魔をあげる。
息もつかせず肉体の布をどんどんと突き破り、巻き起こる炎が外へ漏れ出す。
やがて体中が炎に包まれ、身をよじって抵抗するように暴れていた化けテントは次第に大人しくなり、最後にはそのままかき消えたのだった。
「あ、ありがとう、ジェフ……うっぷ、とりあえず。これ何とか出来ないかな?」
今回の戦いのMVPに対して、ネスは情けないながらも体中に纏わりついた異臭の液体を指さしながら、彼に更なる助けを乞う羽目になったのであった。
「あの化けテントにはもう二度と会いたくないわ」
本来ならば敵のHPを吸い取るアイテムなのだが、ジェフが持っていた『チューチューマシン』により、二人のかけられた謎の液体の全てを吸い取った。
何とか体調面で回復はしたものの、ポーラはトラウマを負うまでに化けテントと液体を憎んでいる。
「まあまあ、もう会う事も無いんだし。落ち着こうよ」
大きく深呼吸して、体内の空気を総入れ替えしているネスは苛立ちが伝わってくるポーラをなだめていた。
「そうだよ、イライラしてても良い事ないよ。でもまあ、気持ちは分からなくは無いかな。確かに凄い臭いだった。腐乱臭の10倍位の臭さだね、あれは」
ネズミの形をした吸引機のチューチューマシン。
液体を吸い取っていたのは勿論、機械の筈なのだが途中ネズミの表情が何処か険しくなっていき、吸い終わる直前では機体が手元で震えていた事を見ていたジェフ。
意思や感情を持たない機械にさえおかしな影響を与える液体の異常さに内心驚いていたのであった。
「とにかくこれで一つの問題が片付いた訳だけど手がかりは見つけられなかった」
そうして一悶着ありながらも、静かになった広場で腰を落ち着かせていた三人。
けれども、ネスが今口にしたように化けテントは消滅。
どちらにせよ自我こそありはしたものの、まともに話を取り合ってもらえる相手じゃなかった以上、進展は得られた可能性は低い。
そうして結局、調査が振出しに戻っていた時だった。
「随分とぶったまげたもんを見ちまっただ」
声は三人の背後からだった。
ネス達が体の向きを変えて、声の主の方角へと身を捻るとそこには寝起き直後の様なボサボサな頭に、顔色が悪く少し痩せた作業着の男性が立っていた。
「おっと自己紹介はいらねぇよ。お前達みたいな勇敢な少年様と違ってオイラは、ゾンビ側のスパイで卑怯で姑息な人間だからさ」
スリーク内でも何人か見かけたゾンビ側についている人間だと男性は口にすると、服の中から酒の入った瓶を取り出し、中身を口にし始める。
「ネス、気を付けた方が良いよ。もしかしたらこの人、僕たちを捕まえて連行する気かもしれない」
急に現れて、語りかけて来た男性にジェフは警戒心を抱くとネスにそう忠告を促す。
「ヒック! 違う違うんだぜ坊主。大人のいう事はよく聞くもんだ。別にお前らを捕まえる気なんてねぇよ」
だが、目の前で囁かれた言葉を聞いていた男性は酒のせいか顔を赤くし、一度大きなしゃっくりをするとかぶりを振って否定する。
「まあ、なんというか。化けテントを倒せるとんでもねぇ強さを持つお前らにアドバイスをしてやるって感じだ」
酒を再び胸元へとしまった男性は、今度は酒の代わりに何かの虫のラベルが張られたビンを取り出して、三人の元へと置く。
「これは一体?」
男性が置いた透過性のある茶色のビンに触れながら、ネスはこの物体が何か意味があるのかと尋ねる。
「それはゾンビ達の親玉ゲップ―が好き好んで貪り食ってるっていう『はえみつ』だ。元々、あの化けテントはゾンビや俺達スパイがコレを溜め込む場所だったんだ」
「はえみつ?」
ネスは彼の言葉を聞いた後に、ビンの白いラベルを確認するとピンク色のハートの上にはハエらしき虫の姿が描かれていた。
蜂が回収した蜜は、ハチミツ。
ハエが回収した蜜は、はえみつというわけである。
「中身は……」
科学の授業で使うような茶色のビンに入っているせいか、中の液体の色が把握できずに開けようとするネス。
「おい、待て! 開けるんじゃない」
だが、男性が慌ててコルクの蓋を開けようとしていた彼からビンをひったくる。
「中身のはえみつはお前達を苦しめていた臭い液体だ。俺もあの臭いは耐えられないから、いつも集める時は鼻栓してるんだぜ」
男性が口にした通りだった。
色々とトラウマを植え付けた液体は、相手の親玉が好物とするものだったのである。
「ひぃ!」
これには思わずポーラは体が咄嗟に拒絶反応を示したのか、その場から立ち上がり付近に生えていた木の影に隠れてしまった。
そしてここで話を聞いてるからと口にして、はえみつのビンから明らかに距離を保つことにしていたのだ。
「……まあ、なんだ。コレをお前さん達にやろうと思ってな。別に嫌がらせって訳じゃないぞ。このはえみつはさっきも言った通り、ゲップ―ってボスの大好物だ。もしソイツと戦うなら、必ず役に立つはずだ。じゃあ幸運を祈ってるぜ」
相手との戦闘に非常に有用なアイテムではありそうなのだが、ネス達はあまり気が進まないまま受け取る。
せめてもの気遣いとして、男性は臭いを和らげる自分で開発した消臭スプレーをセットで付けてくれていた。
「あ、そうだ。ゾンビ達が守っている墓場の奥の大穴だが、『グレープフルーツの滝』って所に繋がってるんだってよ、ほんでそこにゲップ―の基地が隠されているって情報を聞いたんだ。だから何としても墓場のゾンビを何とかしてくれ」
何はともあれ、ネス達に助け舟を出してくれた男性は役立つ情報を洗いざらい口にして、スリークの町中へと姿を消していったのだった。
しかしネス達一行は、より確かな情報を得たものの、結局ゾンビ達をどうにかできないと墓場の奥へは進めない事に変わりは無かった。
さらに化けテントを倒したとはいえ、人も屋内へ逃げ込んでしまってから外へ出てこないせいで何かゾンビ撃退の足掛かりも得られない。
「もうこうなったら強行突破しかない。強引にあの軍団を突破しよう。ゾンビ達が町に襲撃をかける前に」
目的地への道を塞ぐ大きな邪魔者は見張りの筋肉質な肉体をした巨漢ゾンビや大量のゾンビ達である。
一体、二体であればネスはこの強行手段の案を出し、全力で殴り込めばあっさりと突破していたかもしれない。
しかし今回の数の暴力にはいくらPSIを使える彼らでも消耗が激しくなり、厳しい戦いを強いられる事は変わりない。
「僕は反対するよ。危なすぎる、もし僕らの内の誰かがドジを踏んじゃって捕まりでもしたら、人質扱いさ。一人でも捕まれば僕たちは逃げられないし、抵抗できない」
ジェフは焦りの色を見せていたネスにそう否定の案をあげて、冷静に計画の危険性に触れる。
「う……うん、そ、そうだよね。ごめん、ジェフ」
突発的な感情に任せていたネスは、彼の言葉で頭を冷やすと再び考えを巡らせる事にした。
やがて、町中を歩き続け中央部のテント前のベンチに腰を落ち着かせると、ひたすらアイデアを考える。
「………………」
数分……数十分……一時間。
「………………」
目を瞑り頭をもたげて考えるネス、町の風景を眺めながらアイデアを絞り出すポーラ、顎に手を当てて地面を眺めて長考に耽るジェフ。
「………………」
けれども、名案は浮かばなかった。
ただ無為に時間を浪費し、三人は追い詰められていた。
だが、その時だった。
プルルルル、プルルルル……。
「電話だ、こんな時に誰だろ?」
ネスの持っていた『受話電話』が鳴り響いたのだ。
そして彼はリュックから小型の受話器を取り出すと、光っていたボタンを押し、耳元にあてて相手の声を聞く。
「ふぅ、良かった。繋がった、私です、アップルキッド」
電話の繋がっていた相手は発明家アップルキッド。
何か急を要しているのか少し早口で彼はそう口にした。
「アップルキッドさん、どうしたんですか?」
「また発明品が出来たんですよ! あっ、でも前に言ってたオバケ消しマシンじゃないですよ。これはそのなんというか、また偶然の産物でして」
非常にモタモタした口調ではあったが、ネスは黙って彼の発明した品の発表を待つ。
「この世にいないとは思うんですけど『ゾンビホイホイ』っていう死者や幽霊を強烈に引きつけるフェロモンを放つ物が完成したんですよ!」
アップルキッドが放ったのは神の助けともいえる言葉。
また偶然にも窮地に陥っていたネスに、天からの蜘蛛の糸を垂らしたのは彼だった。
「まあ……スーパーなゴキブリホイホイを作ろうとしていましたし、ゾンビなんかこの世にいる訳ないですけど、今貴方の元にマッハピザに宅配を手配したので、すぐ着くと思います。何かの役に立ててください。じゃあ」
ものの数分だった。
「……これで良かったのかな?」
たったそれだけの時間で決定的な打開策を見いだせなかった彼ら一行は、強力な最終兵器を見つけたのだった。
そして少しばかり時間が経過した時……。
スリークのテント前のベンチで待機していた所だった。
「やっと見つけた、子供だ!」
激しい息切れを起こした店員が三人の前に現れ、
「ゼェゼェ、おい兄ちゃん。俺はピザの配達員なんだが、よく分かんねぇ内に赤い服着たデブからこの変な装置をネスって子供に届けてくれって言われたんだけどよ。もう町中駆けずり回っても見つかりゃしねぇんだ。だからアンタがネスって事にしておいてくれ。そうアンタはネスだ。答えなくてもいい! 俺が決めた事なんだ!」
アップルキッドは彼にネスの容姿を伝えなかったのか、子供という特徴だけで品を押し付けると、
「もしアンタがネスって子を見つけたら渡してくれ。じゃあ俺は帰るから、後はそれを自由にしてくれ!」
休む間もなくその場から走り去りオバケトンネルを強引に突破できるのか、ツーソンへと続く道へと帰っていったのだった。
『ゾンビ対策本部』
今度は避難民の多くが自宅へ帰還し、もはや残された大人たちは対策を練る大人たち数人となった寂しいスリークのテント。
もしもの事があれば危ないからと、ポーラとジェフを先にホテルに待機させ単身となったネス。
彼が二度目の訪問となる現在では、もう本部の人間達には覇気が無く、皆が机にもたれかかって戦う気を完全に無くしていた。
「やあ、いらっしゃい。我々は情けない事この上ないよ。自分たちの町を取り返す頭脳も無いんだからね。あっ、そうだ、何の用だい?」
初めてこの場所を訪れた際に優しい言葉遣いをしていたリーダーの男性も、話している現状では目の下にハッキリと隈が浮き出て、ネスにも疲労感が伝わってくる。
「その……試したい事があるので、一日だけでいいです。このテントから離れてくれませんか?」
敢えてネスは男性にゾンビホイホイの事については口にせずに、やんわりと彼に言って聞かせる。
「ああ、任せてくれ。どうせ今はこの有様だからね。我々も少し休息を取る事にするよ、好きにやってくれ」
ネスの意見を快く受け入れた男性は、すぐに意識が虚ろなメンバー全員を呼び寄せて、事情を説明するとテントから静かに立ち去っていった。
こうしてもぬけの殻となったテントでネスは中央部分でゾンビホイホイを取り出す。
灰色の地雷の様な円形をした装置ゾンビホイホイ。
さらにおまけとして取っ手に付けたようなアップルキッド自作の説明書が張り付けられており、急いで書きなぐったと思われる乱雑な字で内容が記されていた。
『ゾンビホイホイ 建物の中、特に広い空間の真ん中にセットするだけ! すると明日にはビックリ! 不気味なゾンビ達が集まって床に張り付いて動けない!』
張り付いた敵の処理方法までは描かれていなかったが、彼はセット方法を確認しつつ、ゾンビホイホイをタイマー式で起動させ、
「これで、いいのかな? 赤いランプもついてるし」
身を低くして装置を床に張り付けると、彼はテントから飛び出してホテルで先に待っている二人の元へと戻っていった。
そして時計が夜中を指し、暗闇が深くなった頃……。
「おい、なんだか体が反応するぞ」
「オレ達、テント行く。見張り、どうでもいい」
「やべぇ、砂漠の歩き続けて干からびかけた時に飲み水を見つけたくらい、魅力的な感じがするぞ」
「いこう、いこう、いかなくちゃ」
「ぐへへ、いい匂いだ。どうしても引きつけられちまう」
夜中に起きていた住人は聞き、目撃したという……。
「もう、オイラ我慢できないよ!」
「デュフフフ……見張りなんかやってらんねぇよ」
「ハアハア、たまんねぇぜ」
「ウヒー! 地中になんか埋まってられるか」
ペタペタと裸足で何者かが地面を歩く音を。
一つだけではない、町中からその足音が……。
「おい、起きろよ。やたらと旨そうな匂いがするぜ」
「なんだろう、向かわなければならないと体が教える」
「ワンワン!」
その住人が気になって窓のカーテンを捲った先には、大量のゾンビ、ゾンビドッグなどがテントへ大行進している奇妙な風景を、畏怖しながら見ていたという。
ゾンビホイホイの効き目は抜群だった。
ネス達が目を覚まし、部屋から出た途端に対策本部の男性が『ゾンビ達を無事捕まえる事が出来た』と仕掛け人と悟っているネスに良き報せを持って来たのである。
その時の彼の表情は一日の休息のかいもあってか、非常に晴れやかで大きな希望を見出した明るいものだった。
空の暗雲はまだ晴れはしないが、この異常事態に町の住民達も外出し、事情を知らない対策本部の他のメンバー達と喜びを分かち合っていたそうだ。
小さな希望が町の住民達に火を点けたのか、まだフェロモンに抵抗して捕まっていないゾンビ達を捕縛しようと今では計画を考えているらしい。
なにはともあれ、こうして無事に墓場の向こう側へ通じるルートを確保できた三人はすぐさま準備を整え、墓場へ向かい、手ごわい見張りがいなくなった件の大穴へと侵入していくのであった。
後半は少し展開が急ではありましたが、やっとスリーク編の中盤まで進みました。
ここをプレイしていた時の感想は、ジェフの火力の無さに絶望していたのが一番の印象です。化けテントのボスならではの多い経験値をジェフに与えるために必死で彼を生かすために動いたのを思い出します。
これは提案としてmother2を知っている方のコメントをいただければ嬉しいのですが、次に出す予定の愛らしく一頭身で一本だけピンと力強く生えた髪の毛に赤いリボンを結んでいる『あの謎生物』の話し方についてで
例でするなら『今日もいい天気です。元気溌剌(はつらつ)で頑張ろう』という言葉を
「きょうもいいてんきですげんきはつらつでがんばろう」だけにして後ろに訳をつけないか、読みやすくセリフの後ろに上記の様な漢字を交えた訳を入れるかで悩んでいます。もしコメントをくださる方がいらっしゃえばお待ちしています!