ついつい書いていると楽しくなってしまうもので、いつの間にか自分でも驚くくらい書いてしまう時があるんです。
でもいくら書いても前に展開が進まない時がちょくちょくあるのでちょっと絶望する時があります。
ではスリーク編の一括りとなる本編をどうぞ!
ゾンビホイホイによって地上のゾンビ全てがいなくなり、ネス、ポーラ、ジェフの三名は墓場から次なる目的へと伸びている薄暗い穴の中を進んでいった。
道中はネスがPKフラッシュの光度を抑えて放ったものを明かりの様に宙に浮かせ、内部の視野を確保する。
一応敵が引きつけられ安全に見えている地中だが、今でも地上班のゾンビに起こされるのを待機しているゾンビ達も彼らの横にある土の壁の奥に眠っている。
「zzzz……」
「ぐお―、ぐおー」
そのせいか、時折寝息やいびきなどが壁越しで三人の耳の中へと入って来るのだ。
けれども彼らは驚く事があっても声をあげる事無く、敵を起こさぬようにとじっと我慢して道なりに進んでいった。
幸い、穴の中の空間自体は一本道となっており、棺桶が安置された幾つかの開けた空間に僅かな敵がいたのみで、三人は戦闘回数と技や攻撃の音を最小限にして、無事に墓場から新たな場所への出口へと到達することが出来たのだった。
『グレープフルーツの滝』
ゾンビ側についていたスリークの男性から話を聞いた通り、墓場を抜けたネス達がたどり着いたのはツーソンのグレートフルデッドの谷に似た場所だった。
北西部から勢いよく流れる滝の水を下流へと流す川があり、生物が歩ける岸がその脇に確保されている地形。
ただしここは以前と違い向こう岸へ渡れる橋も無く、川の勢いもさながら、その幅も広いため、ただ用意された道なりに進む以外に手段は無かった。
「あんれまぁ、めんずらしいもんだっぺ。こんな所に人がいるなんざ、ワシはおどろきだあ」
そんな中でスリークから離れた土地を訪れた事を歓迎するように大きなバックパックを背中に携え、肩からは小銭入れの箱を引っ提げた男性が声をかけて来た。
(凄い『なまった』話し方をする人だなぁ)
土中を歩いていたせいか被った土埃を軽く払いながら、彼らは男性の方向を向く。
「あんさん達、お腹が減ってるように見えるだ。いやそうに違いないっぺ! どうだい? おじさんは色々な物を売ってるさすらいの行商人だ。何か欲しい物があれば持っていきなさい、勿論お金は取るけんども」
自分の正体を名乗ると、男性は菓子、フルーツ、ドリンク、パンなど様々な商品が入ったバックパックを地面に置き、中身を見せつける。
「おじさん、ごめんなさい。ぼくたちは急ぐんだ。だから今は買っている余裕は――」
いつゾンビ達に自分たちが墓場を抜けた事を勘付かれ、追跡されるかも分からない。
それが数秒後か、数分後か、はたまた運が良ければ気付かれないかもしれないが、けれども安心は出来ない。
パーティーのリーダーらしく冷静な判断を下したネス。
そのはずだったのだが……。
ぐぅぅぅぅ……。
少年の胃袋は我慢を知らなかった。
「プッ、ハハハ……君のお腹は嘘をつかないね」
「フフフ……ネス、この先にも敵の気配がするわ。少しでも体力を回復しておきましょう。思えば私達、朝ご飯はまだ食べていなかったでしょ」
ネスの腹の虫を聞いた二人は笑いを挟みながら、自分たちは運命を背負った人間である前に子供だという事を思い出させるように、リーダーに発言した。
宿泊したホテルでのブレックファーストを断ってまで先に進んできたネス達。
おかげで胃袋の中身は空っぽ。
加えて墓下での戦闘で体や気力を使い、食欲を増進させていた。
ぐぅぅぅぅぅ、ぐぎゅるる……。
我慢していたポーラやジェフも併せて、腹を鳴らし食事の重要性を問う言葉の説得力を増させる。
「まあまあ無理せず買っていきな。今日は子供料金にしとくだ。何か訳ありならワシが見張っててやっからよ」
腹をすかせた子供たちの姿を見ている男性はそう念を押すと、慌てるネスの様子を気遣い、自ら偵察の任を買って出るまでの優しい言葉をかけてくれた。
「では……お言葉に甘えます。偵察は危ないので大丈夫ですよ」
彼の返事に男性は二カッと明るい笑顔を向け、その場所に遠足やピクニックで使う大きなブルーシートを敷き、よっこらっしょっと腰を下ろす。
「さあさあ、好きな物を言いな。赤字覚悟の特別価格だ」
「ありがとう、おじさん。じゃあ、私はこのパンを」
「僕はこのカロリーブロックを貰いますね」
今は戦闘前の休息だと、全員が割り切ると男性が気を利かせてくれた格安サービス価格で物品を購入していった。
「ありがたいんですけど、本当にいいんですか?」
ネスも彼の言葉に甘え、クロワッサンやお湯のサービス付きカップ麺を購入してはいたが、財布が殆ど圧迫されない超激安価格に驚いていた。
対して男性は何を小さい事を気にしてるんだと笑顔で声をあげ、返答をした。
「旅は道連れ世は情けって言うだ。ワシもかつてはここから遠く離れた土地で旅をしとったんだ。しかしある時雪山で遭難し、命綱の食料が尽きて、もうお迎えが来るときかと地面に倒れ込んで諦めた時だっただ」
子供に話しても仕方がないと思ってはいたが、男性はこれまで歩いてきた人生の中で、自分の中の価値観を大きく変えた出会いを語り始めていた。
「そう、あんさんらによく似た子供だ。俺に食い物とあったけぇ飲み物を分けてくれた。そのおかげでワシは今もこうして生きている。だからさ、子供には特に優しくして生きて行こう。それが神様……いやあの子達に対する恩返しだとワシは感じとるんだ」
ネスが注文したカップ麺にお湯を入れ終わり待っている三分間の間に話された男性の身に起こった実話だった。
ともあれ心温まる話を聞きつつも、皆は空腹を満たし、しっかりと腹を膨らませた。
スリークとは違い、このグレープフルーツの滝では明るい日の光にも恵まれ、流れゆく川のせせらぎに耳を傾けながら、敵の襲撃が無かった谷で一行は体力を回復していくのであった。
食事を済ませ、気力体力共に最高に回復したネス達は冒険を再開し、川沿いを歩いていった。
道中、硬い鱗を腹部に纏った水中からの二足歩行の刺客『アーマーガエル』やオネットに生息していたアリアリブラックの亜種『アリアリレッド』、そして、体中を泥だらけにし表面から垂らしているアーバンゾンビの『泥付きゾンビ』との戦闘もあったが。
回復した体力のおかげか戦闘自体がスムーズに進み、戦いが全て終わった頃には彼ら全員がそれぞれの成長を遂げていっていた。
それぞれの力や肉体の強度、体力などのステータスだけでなく、ネスとポーラは新しいPSIの取得や強化版の会得。
ジェフであれば、IQが伸びていき新たな機械の仕組みなどを僅かに理解できるようになり、持っていたバンバンガンを改造できるように成長した。
手ごわ過ぎず、弱すぎない敵の強さもあってか、戦闘の経験を多く積み重ねながら、彼らは滝のふもとへと距離を詰めていったのである。
そうして新入りのジェフも戦いに慣れ始めた頃に彼らが向かったのは巨大な滝付近から何処かの場所へと伸びている洞窟だった。
一応滝への道は続いていたのだが、入り口から奥をのぞき込むと、思った以上に光指す出口までの距離があり、この先にゲップ―が潜伏しているアジトがあるかもしれないと進んでいく事にしたのだった。
墓場の地下ほどではないが、暗い洞窟内で『あれ』という人間が非常に忌み嫌う姿をした、黒い虫のモンスターと戦いを繰り広げた先に広がっていたのは集落だった。
周囲が切り立った崖に包まれた中で、人間社会から孤立した様に建造された谷の中の世界。
その証拠に電線は勿論、電線なども通っておらず電力が集落の中を通っているとも考えられないほどだった。
だが、その中でも格段にネス達の度肝を抜いたのが、この謎に満ちた場所に住まう生物の姿や話し方だった。
「いらっしゃいここはさたーんばれーだよぷー」
『いらっしゃい、ここはサターンバレーだよ。ぷー』
「にんげんだあにんげんだあぷーぷーここはぼくたちのむらだよゆっくりしていけ」
『人間だあ、人間だあ、ぷーぷー。ここは僕たちの村だよ。ゆっくりしていけ』
集落に入って来たネス達に気が付き、数体で押し寄せてきたのは、この集落の住民と名乗り非常に聞き取りにくい独特の声を発する存在。
(あの頭のリボンが気になる……)
(可愛い、人形みたい)
(……見た事も無い生き物だ……そもそもこの人達? は地球の生き物なのか?)
聞き覚えのない独特な声にも気を引かれたが、なによりも注目をしたのは全員全く同じ姿というある意味奇妙なそのマスコットキャラのような風変わりな姿。
全身が人間と同じ肌色をした一頭身の胴体とそれを支える為に生えている小さな足。
つぶらな瞳に地面に先端が当たりそうな大きな鼻、そして鼻の脇には猫の様に生え揃った髭。
そしてネスとポーラを魅了したチャームポイントとも言えるのが、頭部に一本だけ重力に逆らうように生えた髪に結ばれた赤いリボンだった。
「えっとぉ……貴方達はなんていう生き物なんですか?」
聞き取りにくいとはいえ、会話が可能と思われるその生き物にネスは率直な意見を口にした。
「ぼくたちどせいさんいうですさんもつけてくださいこれはなまえのいちぶなのです」
『僕たちどせいさん言うです。【さん】も付けてください。これは名前の一部なのです』
すると、姿形が誰もかれも同じなため近づいてきた誰が発言したかは分からないが、彼らは種族名なのか自分たち全員を『どせいさん』と呼称し自己紹介をした。
「とにかくゆっくりしていくですあなたたちはぼくたちにきがいをくわえるひとたちとはちがうようなのでおもてなしするです」
『とにかくゆっくりしていくです。貴方達は僕たちに危害を加える人たちとは違う様なのでおもてなしするです』
彼らはそう言って、警戒心を持つことなく皆がのほほんとした表情でネス達を村の中へと招き入れ、その内の一匹がガイドとして付き、施設などの案内をしていった。
まるで普通の町にでもある様な豊富な施設の数々があるサターンバレー。
ホテルや病院、洞穴を抜け、梯子を上った先の高所に設けてあるショップなど全て形は同じであったが、村の主要な建築物を案内してもらっていった。
だが、平和な村だと感じられる中でネス達が会話を交わしたどせいさんの多くはある奇妙な言葉を口にして、何かに怯えていた。
「いまぼくたちはぴんちですぜつめつするかもしれない」
『今、僕たちはピンチです。絶滅するかもしれない』
「すこしたつとなかまつれていかれるそれからすこしするとひどくつかれたようすでもどってしばらくねこむこわいぷー」
『少し経つと仲間連れて行かれる。それから少しすると酷く疲れた様子で戻ってしばらく寝込む。怖い。ぷー』
他にも証言を得ていく中で、ネス達はある確実な情報を掴みこの場所に滞在する事を決定づけることになる。
その情報とは。
「こわいこわいげっぷ―のひみつきちたきのなかにあるでもかんたんにはいれないこぶんのきょかかあいことばいるなかまいっぱいつれていかれたのぼくみたぽえーん」
『怖い怖いゲップ―の秘密基地。滝の中にある。でも簡単には入れない。子分の許可か合言葉がいる。仲間いっぱい連れて行かれたの僕見た。ぽえーん』
見た目は他と一緒だが村長とされているどせいさんからの情報だった。
そこでネスは他にもどせいさん達から聞きつけた情報と照らし合わせ、この付近で起こっている事件の概要を確認し始めていた。
内容はゲップ―は秘密基地の付近に住んでいた力の無いどせいさん達を拉致し、奴隷として扱って現在も大好物の『はえみつ』の製造を行わせている。
さらにかなりの頻度でその異臭に耐えきれずに疲弊しきり役立たずになったどせいさんを村に戻し、新たな働き手を半ば強引に連れて行くそうだ。
そうしてまた村の中で体調を取り戻したどせいさんと疲れたどせいさんを交換する惨い無限の連鎖が起こっている。
「確かにはえみつの臭いはあまり体にいいとは言えないね、ネス」
「あれをずっと嗅いでたら、しばらくご飯はいらなくなるくらい酷い臭いだもんね」
事情を把握したネスとジェフはアイテム売り場のどせいさんの厚意で貰ったアーモンドもなかと温かいお茶をすすりつつ、村の様子を観察していた。
ポーラはどせいさんともっと触れ合うと別行動を取っており、二人は危機が迫っている割にはのんびりと生活するどせいさん達の姿を眺めていた。
「ズズー、喜怒哀楽が分からないせいで危機感が伝わらないし、見た事ない生き物だから生態とかも不明なせいでいまいちピンと来ない感じだよ」
自分たちの世界ではない生物を目の当たりにしたせいで、ゲップ―から受けている仕打ちに哀れみこそあるが、何処か腑に落ちない点があるのか、ジェフは複雑な気持ちになっていた。
「でもここにいればゲップ―の手先が来るだろうし、その時上手く侵入してゲップ―を倒せば、この人たちも助けられるし、スリークを救えるから一石二鳥だよ」
ネスはインテリのジェフとは違い、ありのままの現状を受け入れ、とにかく目的を達する為にこのサターンバレーに残っておこうと口にする。
合言葉を知っているどせいさんが一足先に基地へ連れて行かれたという情報も得ていた為、どの道敵から仕掛けてくる以外に上手い手は無かったのも理由の一つだった。
「それに…………ここにあるんだ」
残った茶と共に口に中に含んでいたアーモンドもなかを流し込む様に飲み込むと、ネスはジェフにそう一言告げた。
「ここにあるって? 何が?」
ジェフは彼が咄嗟に口にしたその意味ありげな一言について尋ねた。
すると発言より先にネスは首を大きく上げて、ある場所を指さした。
そこは今では敵の基地へと通じており邪魔者を入れないためにと、今では上へ続く梯子を破壊された村の頂上地点だった。
元々、村の名物だった温泉がその場所に今も残っているが、梯子を立てるのに苦労しているだけでなく下手な動きが発覚すれば、ゲップ―によって村をゲロゲロにされると脅されており、誰もよじ登れない場所。
「あそこに何かあるのかい?」
「多分『おまえだけのばしょ』だと思う。あの頂上の奥から大きな力を感じるんだ。まあ今は行けないけどね」
経験を積んで、テレパシー自体が強化されたせいか、サターンバレー奥に眠る強力な気配を察知したネスはそう口にしたのだった。
「……もう少し待とう。とにかくゲップ―を倒さなくちゃ先には進めないさ」
上げていた目線を下げて、ネスの方へと視線を戻すとジェフは握っていた食べかけのもなかの口へ放った。
こうして間食を済ませた二人はポーラが戻って来るのを待つついでに敵が現れないかを監視していたのだった。
「お待たせ、色々役に立つアイテムも貰ってきたわよ」
その後に満足するまでどせいさんと戯れていたポーラが、自分たちの存在をアピールしたどせいさんイラストを載せた特製大型ポーチと、その中身に入るアイテムを触れ合いの証として貰い、帰ってきた。
「えっと……もらったのは……食べ物の詰め合わせに、あとうらカンポ―って言う状態異常の殆どを直せる便利な物も貰ったわ」
冒険の手助けにと優しいどせいさん達が分けてくれたグッズを地面の上に広げて、確認を取るポーラ。
中でも彼女が口にし、外に出した粉末状の薬品『うらカンポ―』この中の誰も見たことが無い程に貴重らしく、
「これは相当珍しい物だよ。えっと説明には気絶、毒、気持ち悪い、風邪、日射病、眠り、涙、変、ダイヤモンド、しびれの状態異常を治せます……」
科学者のタマゴらしく未知の物に興味を持つジェフは、薬の入った袋に綴られている内容に目を通し、その詳細を仲間たちに聞かせる。
「ダイヤモンド状態って意味が分からないけど。凄いや、これっていわゆる万能薬だよ。こんなの調合できるどせいさん達って実は凄い技術を持ってるんじゃないか?」
得体のしれない生態や姿形に加え、未知の領域に飛び込んだ商品をも取り扱う彼らにジェフはますます謎を深めていた。
「ぼくはあまりそういう知識には詳しくないけど、でも確かにこんな何でも治せる便利グッズが町に置いてあったら、お医者さんは涙目になるしかないね」
アイテムをジェフから受け取ったネスはうらカンポ―と書かれた茶色の袋の中にある粉末を見ながら、そう感想を述べていた。
「でもこれで私もアイテムを多く持てるようになったわ」
今まで荷物役を二人に任せていたポーラ。
地面に広げていた荷物と、ネスからうらカンポ―を回収すると自慢気に譲ってもらったポーチに手を当てて、彼女はそう発していたのだった。
そして意気揚々と準備を整えていた頃だった……。
上手くタイミングが重なったのか、そいつは現れた。
「グゲッグゲッ……おい! どせいさんども! お前らが泣いて悲しむお待ちかねの人員補充の時間だ! 早く回復した奴らをここに連れてこい」
現れたのはネス達が通って来たグレープフルーツの滝からサターンバレーに続く洞窟を抜け、たった一匹のモンスター。
「あいつらきたですおきゃくさまにげるです」
『あいつら、来たです。お客様逃げるです』
どせいさん達は相手の姿を確認すると、せっかく訪れてくれた貴重な旅人に危害が及ばぬように、あわててその小さな体で三人を押そうとしていた。
「ぷーぷーこわいです」
『ぷー、ぷー、怖いです』
「でもしかたないですさからえばぼくらのむらきたないげっぷーにくさくされるです」
『でも仕方ないです。逆らえば僕らの村、汚いゲップ―に臭くされるです』
だが、住人に気を遣われる中でネス達は今現実に起きている事を目撃していた。
嫌々とは分かっているが、村の為に自分の身を犠牲にし、その足に鉄球の重りを付けられ連行される寸前の悲しきどせいさんの姿を。
「ごめん、どせいさん。ぼくたちは戦いに来たんだ。あの悪い奴らと」
「そうよ、私達は逃げも隠れもしないわ。優しい人たちを傷つける悪い奴らを倒さなくちゃならないの」
彼らの住居の影に追いやられていたネス達は、彼らの制止を振り切り、まだ見ぬゲップ―の手先の姿を確認しに村の中で一際目立つように接近を試みた。
「なんだ? 人間か?」
相手もこちらに勘付いたようで、どせいさん達の枷を填め終わると、その身を動かして向かっていった。
「お前がゲップ―の手先だな」
相手は思っていた以上に小さな体だった。
ハッキリ言ってどせいさん達でも勝てるのではと考えられる程でその大きさは50センチ位にも満たなかった。
「クンクン……お前、はえみつを持っているな。なんだ? この中間管理職で名高いオエップ様に用でもあるのか」
端的に述べるなら、まるで固まったヘドロの様な紫色の物体に目玉と口が付いている生物。
ドロドロとしたスライムの様な液状ではなく、裏面に足でも付いているのか素早くネス達に近づくオエップ。
「そう、ぼく達はゲップ―様にはえみつを届けるために連絡した者だ。だから連れて行ってくれ」
「「!?」」
思いもしない返事をしたネスに横に立っていたポーラとジェフは驚きの表情を浮かべて、彼の方を見直したが、
「ひそひそ……敵の基地に侵入するには……こうするしかないんだよ」
そうひっそりとした声で機転を利かせた弁明を述べ、ここで戦う気だった二人を納得させる。
「うーむ……。そんな話は聞いてないが……」
けれども、オエップはあっさりと彼の意見を鵜呑みにせず、三人の足もとをベタベタと動き回って警戒の姿勢を解かずに観察していた。
だがここで自分たちが怪しまれてしまえば、基地への潜入が難しいと判断したのか、
「少し前にゾンビ達からの突然の指示があって、何でも化けテントが倒されたという事で緊急として手が空いているぼくたち子供がはえみつ運びを任されたんだ」
とネスは大胆にも敵の幹部相手に大見えを切った妄言を口にして、自分たちの発言の信憑性を増させたのだった。
すると……。
「何だと、化けテントが!? 奴ははえみつの取引場所兼倉庫役だったのに……まあ、確かにここ数時間ゾンビどもからの連格が途絶えているのは事実だ」
『化けテント』という内部の者達しかほとんど知らない情報に加え、こんな年端もいかぬガキ達がゾンビ達の包囲網を掻い潜れるわけがないという見解。
咄嗟とは言え、非常に巧みな嘘を口にしたネスに対して、警戒心を緩めたオエップは彼らの傍から退くと、
「……俺っちについてこい。基地まで案内してやる。ただしそのはえみつの瓶を割るんじゃないぞ。ゲップ―様は怒らせるとおっかないからな」
そう忠告を促すと、ぷーぷー鼻を鳴らすどせいさん達と共にオエップはネス達を先導しつつ基地のある滝へと向かっていった。
『ゲップ―の秘密基地』
グレープフルーツの巨大な滝の裏に建造されたゲップ―達のアジトであり、親分含め子分たちも大好きなはえみつの製造施設である。
「ここが奴らの……。にしても本当に立派な工場だ。人間が作ったと言っても差し支えないよ」
工場内に案内され待機していた三人の中で、ジェフは入口のあった二階から下部に広がる効率化が為された作業工程を目撃すると、そんな感想を述べていた。
ギーグの配下である彼らは同僚である高い知能を有するスターマン達の協力もあったのか、まるで人間が作ったような立派な工場として出来上がっていたのだ。
だが同じく工場内の作業風景を目撃していたポーラが彼の発言に対し、
「でも働いているのはどせいさんよ。可哀想に……身動きも自由に取れない中であんな臭い液体の製造をさせられているのね」
足に鉄球付きの鎖を装着させられ、サターンバレーでも聞いた奴隷の様に働かされている現場に同情の声をあげる彼女だった。
「グゲッグゲッ……やっぱりスパイリストには載っていないが、緊急事態の様だしな。仕方ない、他の奴らやゲップ―様の邪魔にならない様に気を付けろよ。じゃあな」
そんな中で敵が堂々と忍び込んでいる現状にオエップは全く疑いを持つことなく、
「終わったら早く町に帰って新鮮なはえみつを集めて来るんだぞ! 分からない事があったらそいつらに聞け」
姿形は同じだが、体色が緑色をしているのがオエップの部下であり、尚且つ基地内の監視やはえみつ製造を任されている敵。
「ゲルゲル! オエップさんお疲れ様です」
量産型モンスターでその名も『ぐちゃぐちゃ』達に報告を済ませ、オエップはその場から立ち去っていった。
「さて……お前達は工場見学をしに来たわけじゃないんだろ? ゲップ―様ならこの先にある長い梯子を降りて、一階の突き当たりの部屋だ」
すると現場を任されたぐちゃぐちゃの一人はオエップから伺った彼らの要件に応えるように、自分の親分たちの居場所をあっさりと教えた。
「あ……ありがとう」
対して余りにも警戒が緩く、ネスがふとお礼を言ってしまう程に単純な彼らに動揺を隠せていなかった。
しかし、ぐちゃぐちゃ達はその余裕の根拠となる言葉をその後に口にした。
「お前達人間は保身の為ならすぐに裏切るからあまり信用できないが、仮に裏切ったとしてもゲップ―様は普通の人間なんかには絶対負けないからな」
何があっても自分たちのボスが絶対に負けるはず無い。
その強い信頼から彼らはペラペラと話していたという事に気付き、ネス達はまだ姿を見ない彼らの親玉の強さに用心する事にしていた。
工場内を徘徊しており、はえみつなどは関係なく本能的に敵意をむき出して戦いを挑んて来た、赤い円形の体に点の様な小さな目玉を付けたシンプルなデザインの敵『デヘラー』や、スリークにいたよくないハエの亜種で工場内にて放し飼いをされていた『けっこうわるいハエ』など。
管理人たちのぐちゃぐちゃからは警戒されていなかったものの、ネス達を敵と認識したモンスター達との戦闘は免れずに、地味に体力を消耗しつつ三人ははえみつ工場内を進んでいった。
途中、二階から目に入っていた内部を巡るベルトコンベアにて働かされるどせいさん達と遭遇したが、今は下手な揉め事を起こせば、ぐちゃぐちゃ達までも襲い掛かってくる事になり、下手をすれば工場内へ二度と侵入出来ない事を危惧していたため、助けられなかった。
背後からぷーぷーと鳴き声らしき声をあげてはいたが、苦渋の決断で三人はゲップ―が居座る最深部へと歩を進めて行ったのだった。
『ゲップ―の秘密基地最深部』
三人が足を踏み入れたのは、周囲がはえみつの残り汁が幾つも地面に飛び散り、それにより、まるで腐った生ゴミを大量に詰め込んだボックスに押し込まれているかの如くキツイ匂い漂う空間。
勿論、そこには『ソイツ』がいた。
「ゲロゲロ? 誰だテメェら」
周りの酷い匂いを打ち消す程の汚物の様なとんでもない異臭を漂わせる大きな体をした化物が。
「…………くさい」
子は親に似ると言うが、その怪物の姿は子分のぐちゃぐちゃを数倍の大きさにして、鋭い目つきと汚れた牙を携えたもの。
まるで山型に塗り固めたヘドロに目玉と牙を付けたような緑色で気味が悪く、悪い意味で印象に残ってしまう体格と体臭をしていた。
「お前が……うっぷ……ゲップ―だな」
肉ばかり食べている男性は体臭が臭くなるとされているが、この化物の場合は臭い物ばかり好んで食べているからおぞましい臭いをさせているのだろう。
「ゲップ! いかにも。俺様はゲップー様だが?」
口や体表から人間には耐えがたいえげつない異臭を周囲にまき散らせながら、臭いに耐えて向かってくる相手に返事をするゲップ―。
すると、彼は息を止め、鼻もつまみ歩いて来る珍妙な少年たちの姿をまじまじと観察すると、
「ゲップ! そうかお前がネスだな。こんな、ゲップ! 雑魚そうな子供にあのギーグ様が恐れておられるのか、ゲップ! ゴゲゴゲ……笑わせやがるぜ、ゲハゲハゲハ」
いよいよ自分の元に尊敬する主の存在を脅かす悪ガキが現れた事を自覚すると、名の通り下品なゲップを何度も連発しながら、さらに言葉を続ける。
「ゴゲゲゲ……しかしここに来たのが運の尽きだったな。グヒヒヒヒヒ、ゲップ! 子分共の助けなどいらん。俺様自らが今から最悪の戦いの中で始末してやる! ゲップ! グッグッグッグ! ゲロまみれにして殺してやる!」
そして何度も汚れた口から激しい嫌悪感を感じさせるゲップをした、親分らしくゲップ―はすぐさま戦闘の体制に入った。
「ゴゲゴゲ……」
ずるずるとヘドロ状の体を地面に擦り付け、ゲップ―は主人の最大の脅威とされている少年に這い寄る。
「ゴゲゲゲゲゲゲ…………」
さらに口から先ほどまで貪っていたはえみつをドロドロと口から垂れ流しながら、不潔そのものの体でにじり寄っていく。
これまでの強敵とは圧倒的に違い、臭すぎて逆に近寄りたくない。
「うっ!? なんてえげつない匂いだ」
むしろ戦わずして、先に進みたいと願う程に汚らしい敵を前にネス達は感じた事の無い恐怖に固まっていた。
「ゲッゲッゲ……俺様の放つ強さのオーラにビビッて動きも出来ないか……ゲロゲロゲロ」
ゲップ―自身も這いずって動くことに加え、子分たちと比較して大柄な体格で鈍重な事もあり、敵への接近に時間をかけていた。
(ネス! 近づかれる前に何とかして! あんなのが近づいて来たらおかしくなるわ)
(化けテントなんかよりもずっと厄介だよ、こいつ。戦う以前に戦おうとしたら吐きそうになるもん!)
もはや口を使って言葉を発すると、息を吸ってしまいこの不健康になりそうな空気を体内へ入れなくてはならないため、ネスに伝わる様に頭の中でそう強く念じた。
「分かった……オエ……やってみるよ」
人間の肌とは思えないまでに顔色を悪くした仲間二人の懇願に応えるようにリーダーであるネスは距離を詰めてくるゲップ―の前に大きく歩み出た。
「ゲッゲッゲ……お前から死にたいみたいだな」
敵が自ら歩み出てきた事にニタリと表情を歪ませると、口の中で破壊力抜群の体も腐る臭さ満点の吐瀉物を吐く準備を整え始めた。
「グッグッグ……俺の一撃必殺ゲロにやられるが良い」
汚れた口元を動かしながら、その中でくちゃり……くちゃり……と反吐を溜め込んでは、それをガムの様に噛んで場の全体に聞こえる不快な音をあげていた。
対してネスは息を止めてリュックの中から『ある物』を取り出すと、野球のピッチャーの如く相手に向かって大きく振りかぶり、
「そんな汚い死に方をするくらいなら、いっそのこと自殺した方がマシだよ!」
その手に握りしめていた物体を勢いよく放り投げたのだ。
「!? あぶねぇ!」
だが、ゲップ―はその体を大きく歪ませると、投げつけられた物体から体をすり抜けさせた。
そしてゲップ―に命中しなかった為、物体が持つ勢いが死ぬ事無く、ネスが投げたアイテムは割れ物にでも入っていたのか、
バリンッ! ベチョリ!
容器が割れる音と同時に中身であった粘着性のある液体がゲップ―の背後に散乱する。
「残念だったなぁ! これでお前らのとっておきは……」
その瞬間、何を考えてこのガキはアイテムを投げたのか、このゲップ―様にダメージを与えられるとでも思ったのか。
本能が強く頭が悪いゲップ―でもネスの見え見えの無駄な攻撃にそんな小さな違和感を感じてはいた。
少なくとも、この言葉を口にした数秒間は。
しかし……もう遅かった。
(な、なんだ? なんだ、まるで体が言う事を聞かない?)
ネスの不可解な行動の直後、ゲップ―の体は全く制御が利かなかった。
前進をしようと動かしていた体が、何かに引き寄せられるように後ろへと後退していったのだ。
プーン……。
「このかぐわしい香り……間違いない。新鮮な……」
戦場に漂う好ましい香りにゲップ―の戦闘意識は次第に薄れていく……。
「俺の、俺の、俺の大好きな、この臭いは」
そして数秒後……ゲップ―の戦闘に対する意識は完全に消え失せ、ついに……。
「はえみつの臭いだあああああ!」
ゲップ―は本能に従うままに背後に広がっていたはえみつを舐めつくすために、相手から視界を大好物広がる地面に目をやり、戦闘から離脱した。
そうネスが投げたのは『はえみつの入った瓶』だったのだ。
「………………よ、よし」
彼自身もここまでの反応を示すとは思っておらず、呆気に取られていたが、最早ネス達の事など目もくれずに地面をベロベロベロベロベロベロとひたすら舐めつくす不気味な怪物に向かい、
「ポーラ、一気に行くよ!」
「ええ!」
敵を仕留める絶好のチャンスを逃すはずも無く、ポーラに合図を送ると、二人共大きく両手を前にかざして、
「PKキアイβ!」
「PKフリーズβ!」
大声でPSIの詠唱を同時に済ませると自分たちが持てる精神力を全て強力な技につぎ込み、一気に放射した。
テレパシーによる氷結効果と大爆発による連携技。
「ウンゴォォォォォ、ギャアアアアアアア! ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロォォォォォ!」
こうして身が吹き飛ぶ激痛と、肉体が凍結される苦しみに悶えつつも最後まで大好物のはえみつを舐めていたゲップ―は基地中に響く大音量の断末魔をあげ、ネス達に倒されたのであった。
それから数分後の出来事だった。
自分たちの親玉ゲップ―が倒された事に慌てふためいたぐちゃぐちゃ達とオエップが、自分たちを見逃してくれる代わりにどせいさん達を開放する事ともう二度と悪さをしない事を誓う契約をネス達と結んだのは。
結果としてはえみつ製造工場にいた敵は逃亡し、事実上の廃棄。
拘束されていたどせいさんも無事にゲップ―が邪魔をしていた基地奥の洞穴からサターンバレーへと帰還していった。
ネス達の活躍により平和なスリーク、サターンバレーを巻き込んだ一連の事件の黒幕ゲップ―は撃退されたのだった。
これにてスリークの事件は終了です。
書き方を少し変えて読みにくいかもしれないのですが、展開の切り替えだけでなく、目立たせたいシーンや特徴のあるセリフのシーンに空白を与えてみました。
次は第三の音の場所となります。
私の大好きな原作の再現シーンも入れるので、少し読みづらいかもしれませんがご了承ください。
ゲームでのここの感想は、当時初プレイは小学生だったのではえみつを使うゲップ―の倒し方が全く分からずに、知り合いにヒントを教えてもらいクリアした記憶があります。
最近ネットで調べたんですが、一応PKフラッシュの即死効果や、気持ち悪いの状態異常で地道に削っていけば、はえみつ無しでも倒すことが出来る事実を知って驚きました。なおはえみつ無しの状態ではゲップ―の体力は65535(はえみつ使用時、気持ち悪い時ではHPが650となり削りきれば勝てる)という限界数値で尚且つ回復能力もあるらしく通常攻撃では絶対に倒せないらしいです。