mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

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アイテムの値段について、一ドルを約100円で換算すると原作ではとんでもない値段になってしまうので大きく変更しています。
ではフォーサイド編の大きな肝の一つとなる本編でございます。
今回は前書きはこれくらいで、どうぞお楽しみください。


借金、停電。狂気溢れるフォーサイド

 埋蔵金の発掘資金や食料で困っていたドコドコ砂漠にいた兄弟に救いの手を差し伸べたネス達は、いい意味での因果応報とはいえ埋蔵金では無かったが発掘された拳程の大きさを誇る800カラットは下らないダイヤモンド原石をお礼として受け取りフォーサイドへと戻って来た。

 しかし、余りの高価な物体を持て余してしまったネス達は金銭に困っているわけでもなく、これと言った使い道も現実離れ過ぎて考えつかなかった。

 

「はい、三人分のチケットを確認しました。ではもうすぐ始めるトンズラブラザーズのライブをお楽しみください。最高の一時を貴方方に……ようこそトポロ劇場へ」

 

 そこで、とりあえず今は少し時間を置く事で何か名案が浮かぶかもしれないと、フォーサイドで遊び回っていた際にまだ巡っていなかったトポロ劇場へと足を運んだ一行。

 さらにネスとポーラは、自由を取り戻し自分たちの望む大きな劇場で歌う事が叶ったトンズラブラザーズ達の生き生きとした姿が見たかったという願望もあった。

 

「ツーソンのカオス劇場とは大違いね、広いわ」

「まるで映画館みたいな感じだね」

「二人はトンズラブラザーズと知り合いなんだよね? 凄いなあ、トンズラはうちの寮でもよく話題になるくらいに人気なんだよ」

 

 演奏開始の時間までまだ半時間程空いており、ダイヤモンドと共に受け取ったライブのチケットを使い、受付を済ませたネス達。

 大都市の人気の的であるトポロ劇場。

 その規模は彼らが腰を落ち着かせている広々としたこのエントランスだけでも、田舎の劇場とは格が違う事が把握できる。

 ネスが口にしたようにまるで映画館の様に開けた空間には土産用のグッズが所狭しと並べられたショップや、空腹を満たすための間食などが売られた売店。

 彼らはあまり興味を持ちはしなかったが、その他にも一定の間を隔てて置かれる景観を彩る為の観賞用植物や、天井からは豪華なシャンデリアがぶら下り、果てには壁の上部には星空のデザインがなされた色鮮やかなステンドグラスなど、内装に対する金のかけ方が尋常ではない劇場。

 栄える都市に位置する劇場という事もあり、入る客数も段違いだからこそ収入に見合った細工が出来るのだろう。

 

「うーん……やっぱりぼくらは田舎者だって実感するね」

 

 ネスは演奏が始まる前に先へ場内に入っていくゲストが着用するキッチリとしたスーツや華やかな赤や黒のドレスを見て、いくら入場できるチケットを持っているとはいえ場違いと感じていた。

 

「聞いた話だと普通の人がチケットを入手してもVIPが何度も見に行きたいとかで、裏では高値の買い取りを行っているみたいよ。だからどちらかというとお金をたくさん持っている人がここに集まるみたい」

 

 最早、富豪たちですら虜にする演奏。

 非常に高い評判が飛び交う彼らの生き様。

 これがトンズラ達のクールで、時々愉快なユーモア溢れるその天才的なセンスがこの街でも認められた成果なのだろう。

 

「場内にお越しの御客様へお伝え致します。本日初めのトンズラブラザーズの演奏まであと5分を切りました。まだエントランス等で待機されておられる方は、劇場内への入室をお願いします。演奏が開始されてからの御入場は固く禁じられております。繰り返します、場内にお越しのお客様へ――」

「あっ、そろそろ演奏が始まるみたいよ。行きましょう」

 

 エントランスで会話を重ねるうちに時間がやって来たのか、場内にはアナウンスが流れ始め、ネス達も見逃すわけにはいかないとチケットに書かれた会場を確認し、動いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ツーソンのカオス劇場。

 劇場と名はついていたものの、彼らがそこで以前に歌っていた舞台はまるでバーの中で新入りの歌手が歌う様な小さなステージだった。

 客数も大人気だったとはいえ、会場に入れる数も少なくせいぜい30人程が限界。

 だが無論、規模も資金も勝負にすらならないまでに作られたトポロ劇場は、劇場という名目に恥じぬ、例えるなら巨大な劇団がオペラでも執り行うのかと思えるほどに客席の数も広さも段違いだった。

 

「あー、あー、マイクテストじゃ。天気は快晴なり、よし大丈夫じゃのう。さあて、今日もこんなにぎょうさんのお客さん達がワシらの演奏を見に来てくれて、ありがとうございます。また儲かるってウチのメンバーも喜びますわ、ガッハッハッハ!」

 

 そうした中で皆が黒いスーツに身を包んだトンズラブラザーズリーダーの小太りした体形が特徴であるラッキーが開幕で集まったファンに向けての言葉をかける。

 

「まあ、ワシらは元々田舎もんやから、着飾ったスピーチみたいなもんは苦手やからのう。そろそろ始めさせてもらうわ。ほないくで、今日も会場中を痺れさせたるわ!」

 

 そうして彼の言葉が終わると同時に会場の照明が一斉に落ち、部隊が紫、黄色、青、赤など色とりどりの光がメンバーのラッキー、ナイス、ゴージャス、オーケー、グルービー、追加のメンバーなのか前回もいたのか不明だがキーボーと呼ばれる人物の六人が照らされ、演奏が開始される。

 

 ♪~♪~♪♪~、♪~♪!

 

 一言で言うならド派手な演奏だった。

 ボーカルであるナイスとグルービーは額に掻いた汗がライトで輝くほどに元気溌剌に踊るように動きつつ、マイクを握りしめ歌っていた。

 打楽器担当のグルービーもリズムに乗りながら、頭を小さく揺らしつつ、演奏をよりリズミカルにするための軸を担って尚且つ本人も楽しんでいる。

 

 ♪♪♪~♪~♪~♪~♪♪!

 

 ゴージャスの吹き鳴らす管楽器、オーケーの操る弦楽器、キーボーの弾き鳴らすキーボードも決してずれる事無く、信頼や積み上げた練習から来る一体感でさらに演奏を盛り上げ、会場の熱気をあげる。

 

(カッコいい……凄いや)

(音楽ってよく分からないけど、なんだろう、元気がモリモリ湧いてくる。流石有名なバンドだ!)

 

 多くの観客見守る暗い会場内で多色なライトに照らされ、一際目立つ中で緊張することなく堂々と演奏や歌唱をこなす。

 このステージの上では完全に主役として役をこなす六人に思わずネス達は感動していた。

 

「いいぞ! トンズラブラザーズ」

「今日も最高よ!」

 

 観客達の中にはその湧き立つ衝動に耐えられない者もいたのか、高価な服装をした貴婦人や紳士まで本能に従うように立ちあがり、声援をあげていた。

 トンズラ側としてもオシャレな場所で静かに歌うのではなく、決して静寂を好まずギャラリーと共に盛り上がる事を重視していたのか、

 

「皆! 立ち上がって弾けてくれ! 俺達の演奏はファンが楽しんでこそなんぼのもんじゃ! チンケなモラルなんぞ捨てて金持ちもワシらみたいな貧しい奴も! 一緒にこの時間を全力で楽しむんじゃ!」

 

 演奏の合間にそう大声で告げたのだった。

 そうして……一人から二人、四人、十人、終いにはネス達を含む会場の殆どの人間がはしたない事とは分かっていても、バーなどでダンスを楽しむ普通の若人のように声援や歓声溢れる大盛り上がり状態に変わっていった。

「やっぱり最高だね! 二人共」

「「うん!」」

 騒がしくも、誰一人として不快な感情を持つことなく全員が有頂天になっていく彼らの魅力あふれる演奏。

 これこそがトンズラ側が求める客の姿であり、逆に客側はこのノリこそが最高の醍醐味と感じ、再び来場したくなる点でもあったのだ。

 周りを覆う壁には防音がなされているとはいえ、外にまで微かにその騒ぐ声が聞こえる大人気の演奏はこうして半時間程続き、終わったのだった。

 

 

 

「これにて午前初めの演奏が終了いたしました。次の演奏開始は××時からとなります。それまでは場内に入る事が出来ません。くれぐれも荷物をお忘れないようにお客様はスタッフの指示に従い、退場をお願い致します」

 

 演奏はまさにあっという間だった。

 熱中する作業やゲームなどでも触っていたように、終了の時間はすぐにやって来た。

 

「いやー、良かったな。また来たいよ」

「今日も元気を貰えたな。近いうちにまた来よう」

「ここへ来ると、はしたないのは分かっているのだけれど、ついつい立ちあがって応援したくなるんザマス」

 

 演奏が終わり、会場内の照明が元に戻ると観客全員がトンズラ達との別れを名残惜しそうに場内から出口の扉へと退いていった。

 

「お客様! 押さずに落ち着いての退場をお願いします」

 

 だが数が数だけに四カ所あるはずの出口は出ていく人間達でごった返している。

 おかげで場内のスタッフたちはトラブルが起きない様に多くの人間を見張りつつ、退場の指示と注意を促す羽目となっていた。

「ぼく達はもう少し人が少なくなってから行こうか」

 そんな客もスタッフもごたごたしている様子を眺めていたネス達一行は演奏が終わっても、まだ立つ事なく席に着いていた。

 特に急ぐ用事もないうえに、わざわざ行列の中に混ざるのは流石に気分が良くないと子供ながら冷静に判断する。

 

 

「うん? 赤い帽子をかぶった少年と傍にいるのは金髪の少女? 貴方達二人はもしかして、ネスさんとポーラさんいう方ですか?」

 

 

 と、三人がそんな待機していた最中。

 背後から、何故か自分たち二人を知っていると思われる人物が声をかけて来た。

 

「えっ? そうですけど……?」

 

 ネス達は声に反応して背後を振り返ると、そこに立っていたのは灰色のスーツを着た爽やかな雰囲気を出す華奢な男性。

 何処かで自分たちと会った事があるのか、という考えもあったが、ネス達が尋ねる前に名前を聞いた理由を男性は続けて言葉を発する。

 

「やはりそうでしたか、実はネスという少年かポーラという少女が来たら、話がしたいから楽屋に連れて来てくれと仰せつかっているんですよ。来ていただけます? きっとメンバーも喜びますよ」

 

 男性はトンズラブラザーズのマネージャーだった。

 彼はトポロ劇場にトンズラ達が来た時から、その二人の子供は大切な恩人だからまた会いたいと何度も聞かされていたらしい。

 子供という情報と姿の説明を受けている為、演奏が終了してギャラリーが退場する際に時々会場内に降りては、あても無く探していたそうだ。

 

「はい、ぼく達も会いたかったのでお願いします」

 

 ネス達もほんの僅かな時間とはいえ、オバケに支配されていたスリークに乗りこむ為の手助けをしてくれた彼らに会いたかったため、すぐにOKの二文字を出した。

「分かりました、でも他の人達には秘密でお願いしますよ。多分ばれると私が酷い目に合うので……ではこちらです」

 気が付けばネス達以外の観客たちが場から姿を消していた中で、マネージャーの背を追うようにして三人は舞台裏から楽屋方面へと続く従業員専用通路へと向かうのだった。

 

 

 

 ネス達の来訪はトンズラ達の疲れを癒す出来事としては非常に高い効果を誇る物だった。

 

「よく来たのう! 聞いとるで。あの暗い町をちっこい子供が救ったって。ワシらはお前らの事やとすぐに分かったけどな、ガッハッハッハッハ!」

「カッカッカ、せやで! やっぱりお前らは只もんちゃうかってんのぅ! ワシらも鼻が高いわ! カッカッカ」

 

 楽屋に入り、顔を合わせた途端にまず出迎えたのは先程も活躍していたボーカルのリーダーのラッキーと体形が細身で相棒とは逆の体をしたナイスの二人。

 大声で笑いながら、新聞の一面や耳にしていた彼らの活躍っぷりを見ていたと話す。

 

「そうじゃき、ワシらはちゃんと見とったで。でもまあ、まずは再開のハグじゃ。よく来てくれたのぅ。そこのメガネ坊主もこいつらの仲間なら、ワシらの仲間じゃ!」

 彼らの後に続くように、話すのは言葉になまりがあるグルービーが新入りで初めての出会いとなるジェフを含めて、唇をほころばせながら三人を抱きしめていく。

 

「金~♪ それはあると嬉しい物~♪ 金~♪ それはあると嬉しい物~♪ でも良い友人との再会はもっと嬉しい~♪」

 続いて相変わらず金の事が大好きなのが口調にも表れている目元を隠す赤いサングラスが特徴のゴージャスも彼らに近寄り、そう口にして口元に笑みを含ませる。

 

「俺、目立ってなかっただろ? えっ、違う? ステージでは皆が目立つって? そんな言葉かけられたら嬉しいのか悲しいのか分からないぜ」

 人生において目立つ事を好まないオーケーはネス達に問いかけを行ったが、主役はトンズラ達全員と返され、褒められたはずなのだが何処か納得がいかない様子。

 最後にキーボーは席を外していたせいで、会う事が叶わなかったがこうしてお互い元気な姿で再会を果たしたのだった。

 

 

「でも夢が叶ってよかったですね。これだけの劇場で多くのお客さんに見てもらえるんですから。凄くリッチな暮らしが出来ますね! アハハハ」

 

 

 こうして場の空気も和んだ中でネスはトンズラ達の成功を祝うような言葉を発する。

 毎日数えられないまでのゲストが支払うチケットの料金。

 その総額の一部を彼らがボーナスかあるいは給与として受け取っていると考えると、それこそ高級ホテルでずっと暮らせるほど。

 かつては強引に背負わされた借金問題で苦しんでいた彼らが真に富豪への道を歩んでいる事に対して向けた言葉だった。

 

「…………」

「…………」

 

 だが、返事は帰ってこなかった。

 

「あ、ああ…………」

 

 それどころか、トンズラメンバー五人の表情が一気に暗くなり、ジョークすら飛ばさなくなってしまう。

 

「え、えっ?」

 

 ネス達はまた笑い話で乗っかってくると思っていたのだが、気分を盛り下げてしまう全くの逆効果に戸惑いはしたものの、原因はすぐに判明する。

 

「実はのう、人生そうは上手くいかへんねん……。ワシらはまた騙されてしもうて、気が付いたら借金の書類にサインしていたみたいでな。ここのオーナーはあのドックフードと知り合いやったみたいで同じ手口でまんまと騙された訳なんじゃ。本当に情けない」

 

 理由は俯いていたラッキーが口にした。

 ドックフードはツーソンのカオス劇場を営むオーナーであり、かつてトンズラブラザーズを騙して借金地獄へ追いやった男性の事である。

 夢の巨大な劇場で歌えることに気を良くし油断していたせいで、契約の書類についての内容を深く確認せずに署名と印を押した為に、今は借金地獄へ舞い戻り。

 

「滅茶苦茶悔しいんやけど、チェックをせんかったワシらにも否があるからのう、お互いの合意の上で成立した事になっとるし。もうどうすればいいか分からんのじゃ」

 

 うっかりとネスが地雷を踏み、彼らが借金の話題を持ち出してしまった事で数分と立たぬ内にすっかり元気を失ってしまったトンズラブラザーズ達。

 この場にマネージャーがいれば、大切なメンバーの気分を害させメンタルに支障をきたさせたネス達は摘み出されていたかもしれないが都合よく彼はこの場にいない。

 そうネス達がこの場にいた事が重要だったのだ。

 

「ひそひそ……ネス……やる事は一つだよ」

「そうよ……『アレ』は私たちが持っていても仕方ないわ、ここで使いましょう!」

 

 既にこの状況について察していたジェフとポーラは彼らを救う『とんでもない切り札』を持っているネスに小さく呟く。

 

「勿論さ……。ナイスさん、そのオーナーさんのいる部屋までぼく達を連れて行ってくれませんか。少しお話したい事があるので。あと一応まだ時間があるならメンバー全員でついて来てもらっても良いですか?」

「ああ、ええけど……一体何の用なんや?」

 

 ネスの言う言葉の意味がイマイチ理解できなかったが、次の演奏まで暇なメンバー達は彼らの後に続く様にして、オーナールームへと案内する事になった。

 

 

 

 

 

 

『トポロ劇場 オーナールーム』

 噂の悪徳オーナーは女性だった。

 モデルの様なスラリとしたスタイルに赤色のスーツに身を包んだキャリアウーマンで、その細い指や耳には大きな宝石が輝く金や銀の指輪やイヤリングなどの高級アクセサリーで着飾られている。

 美しい薔薇には棘があると言うが、太り気味の男性だったドックフードとは違い、美しい女性という事もあり、これがトンズラ達が騙された要因の一つでもあるのだろう。

 

「あら、坊や達。この私に何か用かしら?」

 珍しい子供の来客、ましてや今や一大ブームでもある有名なトンズラブラザーズに紹介されるような少年少女に興味を持っていたオーナー。

 

「トンズラさん達がしている借金っていくら位なんですか? その……契約した書類で」

 

 分かりやすい単刀直入な質問だった。

 相手も忙しい人間と考慮しての、ネスが発した質問。

「フフフ、そうね。100万ドルくらいかしら。眼が飛び出るくらい凄く高いけど、これを無視しようとしたらお巡りさんにコラッ! って叱られてもっと酷い目にあうのよ。でもこれは契約だから仕方ないの、これでいいかしら?」

 まるで、ネス達の紹介を終えて外で待機しているトンズラメンバー達に釘を刺すように大きな声でそう発する。

 100万ドル。

 前回のカオス劇場では1万ドルだったのだが、何処で何の選択を間違えたのか今回はその100倍に膨れ上がった超高額の借金。

「彼らは本当に毎日熱心に働いてくれているわ。このまま人気を維持できれば、後……そうねぇ……お爺さんくらいになれば解放されるわよ、きっとね、フフフフフ」

 

 しかし彼女が笑えない冗談を口にする中で、

 

(よし、行くよ二人共。ぼく達はまた人を救うんだ)

 彼女が笑い声をあげて座っていた事務机の前に座っていたネスは、脇に座るジェフとポーラに無言で意思の疎通を済ませる。

 そうしてリュックの中から布で包まれた重みのある『ある物』を両手で支える様にして取り出して、机上に置き女性の手の届くところに置いた。

 

「あら、何かしら? まさかこの布の塊で借金を消せって言うんじゃないわ……よ……ね?」

 

 彼女はそう言いつつ中身が気になり、包んでいた布を丁寧に剥いでいくと、

 

「ねぇ、これって……もしかしてこの綺麗な石は――」

 

 中身が見えた途端にその手を止めて、硬直した。

 これまで生きて来た人生の中でも見た事の無い、まるで光り輝く夢の楽園である桃源郷を見ているような信じられない感覚に襲われる。

 そうオーナーの思考が凍り付くほどの物体とは、

 

「それはダイヤモンドです」

 

 見ただけで常軌を逸した価値を見出せる伝家の宝刀である巨大ダイヤモンド原石だった。

 ネス達にはある程度の価値こそ分かってはいても、もはや次元が違い過ぎて使い道も無く持て余していた究極のお宝。

 

「う、そ……」

 

 幻覚でも見ているのではと目を何度も擦り、少年たちが突きだして来た美しい鉱石に唖然としていた女性。

 どうしても欲しい。

 こんな物を手に入れたら、この人生は最高に幸せに生きている事が実感できる。

 宝石好きの彼女にとってこのダイヤモンドとの出会いはまさに千載一遇そのもの。

 どうして小学生程の子供がこれほどの逸品を持っているかなど今はどうでもいい。

 なんとしても、なにがなんでも、どうやっても欲しい。

 

「はあ……はあ……の、望みを言ってみなさい……何が狙いなの」

 

 邪推し息を荒くしながら、焦りを見せ、額からダラダラと汗を掻き、いつしか貪欲に満ちた何とも形容しがたい悪い表情を浮かべるオーナー。

 テレパシーを持たぬジェフですら彼女がこれを凄まじく欲していると分かる見幕でネスは一歩も引く事なく強気で交渉を持ちかける。

 

「契約書で騙したトンズラブラザーズを自由にしてあげてください。それだけです、それでこのダイヤは差し上げます」

 

 彼の望む物は土地や劇場の権利でもましてや現金でもない、大切な知り合いの自由のみ。

 その望みに対してのオーナーの反応は、

 

「いいわ! ほら、これが契約書よ! ほらほらこんな紙切れなんか一瞬でビリビリッ! よ。じゃあ、このダイヤは貰うわね。一応この事は内緒よ。本当は100万ドルも価値の無いダイヤだけど、貴方達の人を救いたいって言う誠意に対しての御褒美よ! オッホホホ(すっごい大儲けしちゃったわ、これでセレブの仲間入り確実ね!)」

 

 元々詐欺まがいで行っていた契約の為、詭弁を語りつつも彼女は明るい表情に切り替え、あっさり契約書を3人の目の前で細切れに破り捨て、ゴミ箱に叩き込んだ。

 

「お前ら、最高じゃ!」

 

 すると同時にオーナールームのドアがと勢いよく開かれ、

「今回もお前達の助けを借りる事になるとは思わなかった面目ないわ、本当に……」

「お前らは本当にワシらの恩人じゃき! 一度ならず二度までもこうして救ってくれて……もしかしてお前ら天国から降りて来た天使じゃないのか?」

 外でオーナーとネス達の会話を聞いていたトンズラ達が部屋へとなだれ込み、一斉に感謝の言葉を向けていた。

 流石に今回ばかりは諦めていた彼らに希望の光を差し込ませたのは、またしても勇気と人情溢れる少年少女だったのだ。

 

 

 

 

 

「今までワシらを支えてくれたファンの皆。ワシらは今日、この演奏を持って最後とさせてもらうわ! ワシら最高の友達とファンたちに送る最後の演奏! この時間を永遠の思い出として、楽しんでいってくれや!」

 その後……最後のけじめとして、ネス達に向けた特別なファイナルライブが開かれる事が決定し、急であり尚且つファンたちから別れを惜しむ声や悲しみの声があったものの、自由を取り戻したトンズラブラザーズ達の気の向くままに涙あり感動ありのトポロ劇場内での最後の演奏が執り行われ、短いようで長かった彼らの借金生活は幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

 そうしてフォーサイドの中央の広場にて、役目を終えたトンズラ達は愛車のトラベリングバスを取り戻し、宿もまだ取っていないせいかその場で留まっていた。

 

「他の奴らは皆バスの中で寝とる。ほぼ徹夜で働いとったからのう、無理も無い。礼はこのワシがしっかり言わせてもらう。ほんまにありがとう」

 

 超を越える人気から来る仕事に連日まともに休む余裕も与えられず、馬車馬のように働かされていた一行。

 そのせいかネス達と話すラッキー以外は、先に自由の身から来る安心感で車内では寝息を立てて熟睡している。

「まだワシらは自由とは言えこの都会に残っているから、何か問題があればすぐに駆けつけるからのう。まあオーナーから貰った手切れ金で宿泊する予定じゃから、直接会えるか分からんが、絶対に恩返しはさせてもらうわ」

 二度も人生を救ってもらい、とても恩を返しきれるとは思っていないが、彼らは礼儀と仁義を重んじる為、そう力強くネス達に告げる。

 

「あっ、そうじゃ閉鎖されていたデパートが再開されたのはお前ら知っているか? よく分からんが、ほんの昨日くらいから開いてな。売っているダブルバーガーがかなりのオススメじゃ。早速行ってみると良い」

「えっ、あのデパートが再開したんですか?」

 

 すると早速役に立つ情報を入手した一行。

 奇妙な噂漂うデパートの営業が前触れも無く再開。

 特にネスはこの情報について多くの証言を聞いていた為、驚きの声をあげる。

「ああ、たまに蛍光灯の調子が悪かったが普通に再開しとるみたいじゃ。まあ、それじゃすまんがワシも疲れが溜まって眠たいから寝るわ。また今度会おうや」

 そう言うとラッキーは大きくあくびをすると、トラベリングバスの中に戻り他のメンバーと一緒に寝息を立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フォーサイドデパート』

 トンズラ達の口にした通り、ネス達がドコドコ砂漠の埋蔵金発掘現場から戻って来た時に入れ違いになるように再開されていた。

 急に閉鎖され、また前触れも無く再開されたデパートではあったが、客からすればそんな事はどうでもいいのか既に多くの人間がここを訪れていた。

 一つのフロアが非常に大きい、計四階建ての店舗。

 まず一階は受付と食料品店、次に二階はファーストフード店が所狭しと並び、三階では衣料品や様々な道具が販売されており、そして四階にはゲームや玩具の他にもワンプレイ1ドルのアーケード機などが置かれたキッズ用のフロアやスポーツ用品店が立ち並ぶ。

 なお、この四階には同時に店長が控える事務室も設けられており、何か問題が起きればすぐに駆けつける形が取られているのだった。

 

「へい、そこの坊や。この『守りのコイン』なんてどうだい? 実はこれを装備するだけで、なんとディフェンスの数値が上がっちまうんだ。ちなみにディフェンスって言うのはいわゆるゲームとかの防御力の事だぜ」

 

 それぞれ興味がそそられる物が違う事もあり、ネス達は一時的に解散し、あちこちの売り場を巡っている。

 最終的には一階の入口に集まるという約束で、ネスは一人で四階のおもちゃ屋にて色々な装備品を眺めていた。

 

「キラキラとしててカッコいいし、これからの冒険でも防御力は大切なので友達の分を含めて三人分買います。はい、これお金です」

「まいどあり、確かに三人分300ドル受け取ったよ。そうだ、装備品は装備しないと意味が無いからね。ちゃんと身に着けとくんだよ」

 

 稲妻のマークが描かれた『すっごいヨーヨー』や青色に輝く着脱可能な『安らぎのコイン』など他にも興味が魅かれる物がありはしたが、ネスは一番高価で性能が良い装備品をこれから激化するであろう冒険に備え人数分購入する。

 実の所新しい武器としてヨーヨーも欲しかったのだが、故郷オネットの親友フランクから授かったバットを手放すわけにもいかずに諦めていた。

 

「他には……確かここにはドンキーコングのゲームがあるんだよね。小銭も結構余っているし少しだけ遊んでいこうかな」

 

 他のフロアを巡っているポーラとジェフたちはまた別の場所で楽しみ、それぞれの趣味の道に走っていると思い、ネスはオネットのゲームセンターにも無かったゲームをする為に誰も並んでいない機体に向かっていたのだった。

 

「えい! えい!」

 

 一ドル硬貨を入れ、敵のキャラが落とすタルや襲い来る炎などを掻い潜り、ゴールへとたどり着く単純かつ子供から大人にも人気のアーケード台。

 

「あっ、また死んじゃった……もう一回だ!」

 

 どちらかといえば外で遊ぶ事が多いネス自身はゲームがそれ程うまいわけでは無く、次第に上がるゲームに苦戦を強いられ、一ドル、また一ドルと次々と消費する。

 

「くう……どうしても三面までしか行けない。でもぼくは諦めないぞ! きっと最終面をクリアしてみせるんだ。諦めたらそこで終了だからね」

 

 だが、彼は悪い事にもう少し慣れれば行けそうという闘争心をくすぐるゲームの仕掛けにまんまとハマり、機体を動かしているデパート側からすれば典型的な稼ぎ相手として認識されるのは間違いなしだろう。

 当たるとミスとなってしまう場を飛び交うトランポリンや、行く手を阻む炎の敵に何とか打ち勝つべく、熱中しているネスは一ドル硬貨を消費し続けた。

 ゲームのクレジットが無くなれば迷わず財布から金を取出し、コンティニュー。

 本来、多くの子供が好きなゲームから長い時間離れて緊張走る冒険をしていた事が余計に彼を引き込む要因となっていたのだろう。

 そうして気が付けば……。

 

 

「ネス! 君はまだここにいたのかい。ずっと下で待ってたんだよ」

 

 

 熱中するあまりに時間も経過し、合流場所で待ちくたびれていたジェフが怒りを覚えて、階層を繋ぐエスカレータを上がり彼の元へとやってくる始末だった。

「ご、ごめん。余りにハマっちゃって」

 持っていた一ドル硬貨を全て消化し、我を取り戻したネスはそう弁明を告げて、彼の機嫌を直させようとする。

 対して前に、情報収集し待機していた真面目なリーダーを放って遊んでいた前科がある為、ジェフもその姿勢にあまり怒る気にもなれず、

 

「僕も前に似たような事をしたから、これでお相子って事にしよう。ポーラも一階で待っているから、早く戻ろう」

 既に買い物や用事を終えて、残して来たポーラの元へ戻るよう優しく言葉を発する。

「ポーラにも謝らなくちゃね」

 こうして、よく見たら何やら買い込んだのかゴチャゴチャと荷物を入れたリュックを背負うジェフの後に続く様にして、ネスは一階へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 一階に着いて初めに言葉を発したのはジェフだった。

 何かの違和感を発見したのか、そう疑問の声を述べる。

「どうしたの?」

 エスカレータを降りて、ほんの数秒経過した現在。

 まだ一階に着いた途端だというのに場に留まった彼に対してネスはそう尋ねる。

 すると……。

 

 

 プツンッ!

 

 

「どこにもポーラがいな――――はっ!?」

「なんだ!?」

 ジェフが言葉を発した直後。

 まだネスが彼の言葉を聞き届ける前だった。

 

 『二つの問題』が同時に発生し、動揺を隠せずに思わず二人は大きく声をあげる。

 一つ目は待っているポーラの姿が確認できなかった事。

 そして二つ目は……突然の、恐ろしい程に急な停電。

 

 非常用電源で動く物を除き、デパート内を照らす全ての蛍光灯の光が途絶え、周囲の景色を閉ざす暗闇が二人に襲い掛かったのだ。

「ただの停電じゃないね…………何かおぞましい気が」

 ネスがこの停電が只事ではないと察した理由は気配。

 信じられない事にさっきまで賑やかだったはずのデパートから、停電の瞬間から完全に人の気配が消え去っていたのだ。

 空間を切り離されたように、デパートからいつの間にか人がいなくなっていたのだ。

 

「ポーラがいなかったのと関係があるんだろうか……」

 

 ネスの言葉を頼りに明らかに作為的な何かが働いていると考えたジェフは、大切な仲間が自分たちの前から忽然と姿を消したことについての関係性を考える。

 しかし、答えはあっさりと解決した。

 

 

 ピーン♪ポーン♪パーン♪

 

「オ呼び出しヲ申し上げまス。オネットからヲ越しのネス様……お友達のポーラ様が四階の事務所にテお待ちです。クケッ……クケッ、早ク上がッて来られる事ヲお勧めいたします、クケケケケケ」

 

 

 

 それはデパート内にいくつか取り付けられたスピーカーから流されたアナウンス。

 明らかに人間とは思えない不気味なまでの低い声に次ぐ奇妙な笑い声、さらに所々発音がおかしくその発言には狂気すら感じさせる。

 そしてトドメとしてネスの存在を知っている事。

 

「ネス…………これってもしかして」

「間違いない、ギーグの手先の仕業だ」

 

 いつの間に人々に紛れて一人だったポーラをあっさりと攫って行ったのかは予想もつけられないが、暗黒の空間の中で聞こえた声は確実に宇宙人の物だと判明した。

「ごめん、僕が彼女を待たせずに一緒に来ていれば……」

 自分があの時ネスを向かいに行ってくるからここで待っていてほしいと言わなければ……。

 もし二人でネスを怒りに行こうと言っていれば……。

 ポーラが連れ去られた事実を目の当たりにしてジェフはそう後悔の言葉を口にした。

「君だけじゃない、ぼくだって時間を守っていればこうはならなかったんだ、それよりも今は急ごう。何か起こる前にポーラを救出に行くんだ」

 落ち込む仲間に向けて、自身にも否がある事を伝えてフォローを入れると、なんとか立ち直ったジェフと共に一人いなくなった『二人』で只ならぬ気配漂うデパートの上層へと向かう決意をしたのだった。

 

 

 

 

 ネスが感じ取っていた気配はやはり敵のものだった。

 この停電事件の黒幕である謎の宇宙人が放った強いテレパシーで発生した邪悪なエネルギーや、暗闇という闇が住まうには絶好の環境。

 この二つの影響で、デパートで販売されていたレコードやエレキギター、さらにはコーヒーカップまでもが凶暴化し『あやかしのレコード』『ムジカ』『キラーカップ』というモンスターに豹変しているのだ。

 

「ネス……ライフアップをお願い……やばい」

「ハア……ハア、待ってね……ぼくもかなりダメージを負って……ライフ……アップβ」

 

 まさか多くの人々が動く昼間にも関わらず、デパートという戦闘とは無縁の場所で戦う事になるとは二人も予想だにしていなかった。

 そのせいで戦闘の意識も薄く油断もあり、弱みにつけ込む様に続く敵の猛攻。

 特に強力なPSIでモンスターを一撃で倒していたポーラが離脱している為、戦力が削がれている事が彼らを苦戦へと導く大きな理由となっていた。

 

 安らかな眠りへと誘う音楽を出すあやかしのレコード。

 強力な電磁波を発生させるバチバチ攻撃連発の特攻モンスタームジカ。

 最後に火傷する程の暑いコーヒーをぶっかけて来るキラーカップ。

 いずれも強くなったはずのネス達と互角、またはそれ以上の強さで強引に責めこんでくる手ごわいグッズモンスター達。

「かなり強いけど……ぼく達は進むんだ」

 まだ幸運ともいえるのが、ムジカのバチバチ攻撃がネスに飛んだ場合は彼が付けているフランクリンバッジが反射し、敵に大ダメージを負わせられる事だけだった。

 

 

 

 

「ゼェゼェ……やっと四階だ……」

 それでも精神力を消費しながら、決して攫われたポーラを見捨てる事無く体中に走るビリビリや熱さに耐えながら、子供とは思えないガッツで二人は非常電源で動いていたエスカレータと床を僅かに照らす蛍光ランプの光を頼りにたどり着く。

 デパート最上階の奥にある事務室のあるフロアに……。

 敵が潜むプレゼント箱がまだまだ置かれてあったものの、ここで敗北してはならないと、出来る限りの力を尽くして二人は果敢に逃れられない戦闘を繰り広げていったのだった。

 

 

 

『フォーサイドデパート 四階 事務室』

 ネスが到達したこの部屋も相変わらず、僅かな明かりがあるのみで薄暗いままだった……。

 

「お前が犯人だな……宇宙人め」

 

 しかし姿形だけは本人自身が表面を輝かせていた為、暗闇の中でもネス達でも確認する事が出来た。

 ゲップ―以来となるスターマン以外の敵対宇宙人。

 その風貌はまるで歩くイカの様に何本もの触手が生えており、内二本を自分の腕の様に動かす未知の生命体。

 まだ人型と呼べるとはいえ、口と一つ目が付いた小さな頭部から生えているのは、カタツムリのようにニュッと伸びた二つの目玉。

 ぬるぬる動く多くの触手の体に、口一つ目玉三つという化け物がギーグの手先だった。

 

「クケ……クケ……クケケケケ、よくもマアあのイカレタグッズたちを倒してこれたモンだ。だが、このデパートがお前らの墓場になるンだ。ギーグ様に逆らう奴はこのドムーク・リーダー様こと『デパートの怪人』が相手になってやるぞ! いくぜ」

 

 敵が部屋に入った直後、デパートの怪人を名乗る宇宙人はネスがまだ武器を構え戦闘準備に入る前に素早く先制を仕掛ける。

「とにかくガードしないと……正体が掴めない」

 既に身構えてしまった相手に突っ込むのは愚策と自分から攻撃を仕掛けずに彼はガードの姿勢を取り、敵からの衝撃に備えた。

 だが、直後ネスは敵の攻撃に思わず唖然とする。

 

「クケケ、PKフリーズα!」

「何!?」

 

 なんと敵はポーラが使用する様な強力な威力を誇るPKフリーズをいきなり放ってきた。

 しかも敵の精神力が強いのか威力が跳ね上がり、小型ではあったが冷気が凝縮された、いわば爆弾に似た物が彼に向かってきたのだ。

 

「うわああああああ!」

 ガードしていたとはいえ、威力は絶大。

 着弾時に発生する冷気と、中に含まれていた微小な氷の刃が襲い掛かり、勢いそのままにネスの体を壁へと叩きつける。

 

「ぐっ……ううう。痛い……ライフアップ……」

 予想を遥かに超える致命的な大ダメージを受け、気が飛んでしまう前に慌ててネスはその身を回復させ、意識を戦場に留める。

 

「惨めだ、クケケ。ギーグ様配下の俺達宇宙人の殆ドハ『PSI』を使えルノさ。あんまり他の雑魚敵と一緒にすんな、クケケケ」

 

 ほんの一発で敵の頭目を瀕死に追いやった事に怪人は得意げに語りながら、腕と思しき二本の触手に意識を集中させる。

 

「クケケ、いくぞ……もう終わリニシてやる!」

「う……くそ、急いで動かないと……」

 

 傷は回復したものの、急激な冷気の力の影響か。

 体が思うように動かせずに生まれたての生物の様におぼつかない動きで敵の眼前からなんとか逃れようと必死に移動しようとはするが、

 

「ケケケ、PKフリーズは凍結効果もアルんだ。お前ら人間なンか状態異常耐性なんて無いんだから、まトモに受けたラソウなるに決まッテルだろ!」

 

 残酷にも敵の口にする通り、状態異常で体の自由を奪われ、足元が凍えるようにガクガクと震えなんともおぼつかない動きで何とかバットを構える。

 すると、これほど不利になっても戦闘を諦めないその無謀で愚かな姿勢にデパートの怪人は、PSIを放つ構えを解除すると、

 

「いいなあ、オ前。まだそんな目をシテ、この俺に戦おウトするなんて……俺はスターマンにも次グホド邪魔者を消して来たが、ここまで諦メノ悪い奴は初めてだ。いいせ、かかってこいよ。そして疲れた所を殺シテやる」

 

 持てる力をバットに込めながら、自由の利かない身体であてずっぽうに振り回すネスの攻撃をわざと受ける様にして、その全てをぬらりくらりと回避していた。

 ブンッ! ブンッ! と適当に振り回されるバットの一撃目、二撃目、三撃目。

「おう、いいぞ。モッと馬鹿みたいに振り回せ、クケケ」

 

 コント劇の様ににひらりひらりと右に左に身をかわしていく柔らかい身のこなしの怪人。

 そうして……数撃ほど受け流した後に、

 

「さて、そろそろ冷凍効果が切レルな。それじゃ、お別レノ時間ダナ。今度は部屋中を燃え尽サセテやるよ、PKファイアーαでナ!」

 

 パシッ!

 

 次第に元の動きを取り戻していくネスの様子を察知した怪人は再起の隙を与えずに、

「うわっ!」

 腕の触手で薙ぎ払うように振り回し、自分の座っていた事務机の正面に弾き飛ばすと、再びPSIを発動させる構えを始め、意識を集中させる。

 

「いくぞ、PK…………」

 

 まだ完全に凍結効果が治癒していないネスが満足に逃げられない広範囲に渡るPKファイアーを放つために……。

 

「……ファイ……?」

 

 もう少しでこの最大の敵をこの世から葬り、自分たちの親玉のギーグが喜んだ末に、安心してこの自然豊かな地球を手に入れることが出来る。

 そう思って、最後の詠唱を済ませる直前だった……。

 彼がとある違和感に気が付いたのは。

 

 

 

「待て!? どうして『お前一人なんだ』!?」

 

 

 

 技の詠唱を中断させ、怪人が口にした通りだった。

 そう敵は一人のみだった。

 ネス一人しか事務室のドアを潜り、自分の元へ来なかったのだ。

 

 その事実が発覚した瞬間。

 

 

「全く無茶をするな、ネスは! でも気が付くのが遅いよ! この宇宙人野郎!」

 

 

 事務室のドアを強く蹴破り、この場にいるはずのジェフがデパート内で購入し、リュックに詰めていたペンシルロケット5を起動させて乗りこんできたのだ。

 

 ネスは陽動だった。

 あくまで一撃必殺のペンシルロケット5の起動準備を遂行する為。

 ネス単独で乗りこんだのは、ジェフが行っている事を敵に見せない事で回避や技で相殺させる対策を練らせさせない為。

 おかげでリーダーの強いテレパシーの気配だけで、ジェフの存在が隠され、強い技で攻められるという敵の油断もあり、まんまと策に引っかかったのである。

 

「おの……れ!」

 

 しかし、もう手遅れだった。

 わざと敵の触手のビンタ攻撃を受けて、ネス自身が怪人との距離を離していたおかげで、ジェフはすぐさま容赦なく敵に向けて発射した。

 

 そうしてすぐさま身構えたとはいえ、連続するロケットの爆発には怪人も耐え切れずに、

「グギゲゲゲゲゲ!?」

 武器である触手の殆どが爆風で消し飛び、さらには体の表面からブスブスと煙をあげ、スルメが焼ける様な独特の臭いを漂わせながら、

「ク……ケケ、お前らがどう足掻こうと……ポーラはここにはいねぇ。既にあの男……モノトリ―の……手の内に……クケケケ! ぐふっ」

 最後にポーラ救出という目的を達せられずに敵達へ一杯食わせてやった事を口にすると、そのまま怪人は爆発に巻き込まれボロボロになった机の上に力無く倒れ込み、光と共に消滅したのだった。

 

 

 

 

「ネス、気をしっかり持つんだ。ポーラはきっと無事さ」

「う、うん。ありがとうジェフ、気を遣ってくれて」

 デパートの怪人との戦闘を終えたが、肝心のポーラの居場所は権力者モノトリ―が関係しているという事のみで、行方不明という結果に陥ってしまっていた。

 宇宙人が退治された後に停電が回復し、再び人の気配が戻ったデパートを後にしたネスはジェフにそう温かい希望に満ちた言葉をかけられる。

「モノトリ―ビルがいまのところ怪しいけど、君の友達のポーキーって人と一悶着あったせいでボディガードだけでなく警察も見張ってるし、今はとにかく情報を集めるんだ。行方不明のポーラについての情報を」

 気を落としているリーダーにジェフは冷静に現状を分析し、ポーラの無事を祈りながら、的確な打開策の提案をするのだった。

「……分かった。情報を集めよう。助けよう、ぼく達がポーラを……なんとしても助けるんだ」

 こうして仲間の一人がいなくなり、残った二人はデパート入口で別れ、再び広いフォーサイドの中で情報収集に勤しむ事になるのだった……。

 

 

 

 




 今回はトンズラ達の借金返済とトラウマの停電イベントについてでした。
トンズラ編で切るか、中途半端になるけどデパートまで描くかで悩んでいました。
 ですが結局、次の展開は一つに絞りたいと考えていたのでここまで描くことに致しました。

 ここのゲーム内容については借金についてはプレイしていた頃、またかよ、みたいな感じで進めていましたが、停電イベントだけは声をあげるまでに本気で驚いて、ポーラがいなくなった事で余計に敵が手ごわく、次へ向かう場所を見つけるまで(当時、ヒント屋の存在は知らなかった)詰んでいた事があります。

 さて次はMOTHER2でも有名なみんなのトラウマにもなっているあの場所が姿を現します、出来る限り恐怖に満ちた形で書きたいですが、技術がそこまで成長していないのでトラウマらしさを感じられなければ、本当に申し訳ないです。
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