mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

23 / 38
 今までの作品で一部の描写やおかしい部分と、タイトルを修正、変更致しました。
 また長くなりましたが、何とか自分の望む部分まで書き上げることが出来ました。

 では前置きはこれくらいにして本編をどうぞ!



『魔』天楼は終わりを告げる……

 マニマニの悪魔は幻影マシーンだった。

 敵である宇宙人スターマン達によって創造され、人間達に都合の良い幻覚を魅せて、惑わせ、邪悪な心を宿し操る為に地球へと潜伏させ攻撃する兵器だった。

 元々はオネットで発掘されたものだが、ポーキーがそれを盗みハッピーハッピー村へ移譲、今回はトンチキだったがそれをフォーサイドに運び、今度はモノトリ―という精神面で弱いと判断された男性を権力者として操るように動き始めた。

 だが幻覚にも屈しなかったネスの手により見事撃破され、その残骸はジェフと彼が狂気の世界ムーンサイドへ誘われ、気絶していた酒場の倉庫内に横たわっていた。

 そして幻惑の世界へ言っていた二人の様子については暗い倉庫内で食料を漁っていたネズミが、

 

「チューチュー(お前ら、虚ろな目をしていきなり倉庫に入って来たと思ったら倒れて気絶して、急に立って徘徊したと思ったら、また倒れて気絶してで忙しかったぞ。頭大丈夫か?)」

 

 そう口にしており、どうやらマニマニの悪魔の近くをフラフラと歩き回っていたらしい。

 それぞれの空間に区切りがあったのは倉庫の壁にぶつかり進めなかったから。

 ワープの時に起こった暗転は気絶し倒れて意識がほんの一時的に途絶えたから。

 そうしてまだ奇妙な点がいくつか残ってはいたが色々と合点がいった後にネス達は元々散策していた『フォーサイドのボルヘスの酒場』から出ていき、マニマニの悪魔を倒した事で街に変化が起こったかを確かめに行く事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果としてはフォーサイド内には大きな変化は見られなかった。

 相変わらず人は絶えることなく移動を続けており、それぞれの意思の赴くままに栄えている店舗や施設、住居へ次々と姿を消していく。

 道路上でも同様に絶えず車が行き交い、トラック、バス、パトカーなどの多くの種類の車が街の至る所で見かけられ、建造物の前で停車している様子も見受けられる。

 

「何か変わった事? そうねぇ、今日の新聞で読んだんだけど、モノトリーさんの支持率が急激に落ち始めた事かしらね。それはもう信頼を失った企業位に大暴落よ」

「なんだかモノトリーは実は凄い人じゃないって気がついたんじゃよ。どうしてワシはあやつの様な男をまるで神様のように崇めていたのじゃろうか」

「我々警察の仕事はモノトリーを守る仕事ではない。困り果てる人を救う事だったんだ。何故に我々はこんな大切な事も忘れていたのだろうか、とにかく君たちには酷い事を言ったな」

 しかし人間達の心情には大きな変化が生じていた。

 

 モノモッチ・モノトリー。

 

 彼は今までマニマニの悪魔が放つ魔力で民衆の心を掌握する力を手に入れていた。

 悪魔との契約でムーンサイドに幽閉されていた良心を司る魂と分離され、不本意とは言え正気を失い、彼は独裁者の如くフォーサイドを統治してきた。

 かつての雇い主やトンチキなどの邪魔者は容赦なく蹴り落とし破滅へと追い込むほどの強靭な力を持っていたのだが、そのエネルギーの供給をなくした以上、結末は単純。

 

 力を喪失し、幻覚の都市ムーンサイドから解放された良心が取り戻され元の頼りない男性に戻り、今やその呪縛から解き放たれた人間達も無事に正気を取り戻す。

 そうして支持率が80を超えていたモノトリーは今やその支持率が一瞬にして大暴落。

 全てはネスとジェフの活躍によりこの都市本来の息を吹き返したのだった。

 

「とりあえず首謀者を倒したのは良いけど、モノトリ―はまだ街に出てきていないみたいだ」

「そうだね、でも街へ姿を現していないって事はまだビルの48階で身を潜めているって可能性が高いし、ポーキーが番人をしている以上侵入は容易じゃないと思うよ」

 

 二人は街のあちこちで情報を集め回った後に、恐竜や生物の化石が展示されているフォーサイド博物館の裏手に存在する広場にてベンチに腰を落ち着かせていた。

 ポーラが行方不明になって数日が経過し、その安否が気になって仕方が無い二人。

 力を喪失させたとはいえ、それでもまだこの街の権力者として居座るモノトリ―。

 彼に会えば全てが解決する事は間違いないが、彼に会う為の許可はポーキーが下すため、ネスに対して異常なまでにイタズラや嫌がらせをする彼が簡単に通すわけもない。

 

「もう少しで終わりそうなんだけど……決定打が無い」

 手の届きそうで届かないもどかしさ。

 フォーサイドを陰ながら救ったにしろ、最後の仕上げとなるモノトリ―との会見に至るまでの手段が現状としてない為、困り果てていた。

 だが……。

 

 プルルルル、プルルルル……。

 

またしてもこの煮詰まった状況を打開するのは……ある人物だった。

 

「うん? こんな時に電話? はい、もしもし」

 

 突然リュックサックにしまっていた『受信専用の電話』が鳴りだし、ネスは音に反応するように中身を漁り、その小型化された受話器を取り出すとボタンを押し、会話に応じた。

 

「よかった、繋がった! 僕です、アップルキッドです。実はまた変な物が完成しまして」

 

 すると声の主は聞き慣れた発明家の青年アップルキッドだった。

 タコ消しマシンしかりゾンビホイホイしかり、これまでの冒険で役立つアイテムをベストなタイミングで開発し、ネスの元にそれを届けて来たありがたい人物。

 

「本当ですか!?」

 

 対してネスもこれまでその恩恵を受けて困った時を救われてきた身の為、二度ある事は三度あると期待を向けて、そう嬉しそうに返答を述べる。

 するとアップルキッドはハハハと軽く笑い声を会話の最中に挟むと、続きを述べる。

 今回の発明品とは……。

 

「今回は本当に、マジで、真剣に役に立つかは分からないんですけど『ぐるめとうふマシン』っていって色んな豆腐が作れるマシンなんですけど……今はまだ調整不足でイチゴジュースを材料に用いた『イチゴ豆腐』しか作れないんですよ」

 

「へっ? ぐるめとうふマシン? イチゴ豆腐?」

 

 発明品の名はぐるめとうふマシン。

 何でも味の大元となる飲み物や材料を入れ、後はセットで豆腐を入れて操作するだけでお好みの味の豆腐が作れるという豆腐大好きな人間からすれば、夢の様な代物である。

 ……イチゴ豆腐しか作れないという壊滅的な欠陥を抱えてはいるが……。

 

(……どうしよう……三度目にしてよく分からない物が来た……)

 

 一度目、二度目は当てにならないが三度目で成功する諺の三度目の正直とはまさに真逆。

 三回目にして本当に使えない発明品がやって来たことに思わず戸惑うネス。

 味のバリエーションがあろうとなかろうと、美味しい豆腐を作ったからといってモノトリ―に会える訳などあるはずもない。

 

 だが、さらにアップルキッドの口から追加で悲しい報せが発せられる。

 

「後、申し訳ないんですけど、さっき配達を依頼したウッカリ特急便から連絡があって、なんでもドコドコ砂漠で猿がたむろしている洞穴に落としたそうなんで、出来ればもし必要なら取りに行ってください。では研究室の方が少し取り込んでいるんでこれにて失礼します! ガチャン、ツーツー」

 

 発明品の価値を見出せないだけで終わらず、超格安で配達を請け負うが商品の状態や品質、届ける日時、果てには品物を無事に届けられるか保証しない事で悪名高い『ウッカリ特急便』に依頼。

 そうして噂に聞いていた通りに、ドコドコ砂漠で荷物を無くしてきたという報告。

 

 

「取りに行くのかい?」

 

 隣で互いの会話の内容を聞いていたジェフは、自分の目からしても明らかに役に立たない気がするぐるめとうふマシンをどうするのかネスに託す。

 

「…………逆に取りに行きたいかい?」

 

 少し頭を抱えた後に、自分でも判断を下しにくい質問にネスはそう問い返す。

 アップルキッドには悪いと思っていたが流石に使い道が意味不明な物体を、一度生命の危機に陥った厳しい猛暑が襲うドコドコ砂漠へと危険を冒してまで取りに行くかと言われれば誰でもこうなるだろう。

 勿論、質問を質問で返されたジェフも苦笑いを浮かべ首を横に振った。

 けれども……お互い否定の意を示している事など関係無しに二人は取りに行く羽目になる。

 

「ねぇねぇ、坊や達、今イチゴ豆腐とかって話していませんでした?」

 

 そのきっかけは近くで彼らの話を聞いていたメイド姿の女性だった。

 にこやかでとても明るい表情を浮かべた、とても可愛らしい顔つきの大人の女性。

 丁度食品を買ってきた帰りだったのか、両腕に食料品が詰められた袋がぶら下げながら、そう二人にそう質問を口にする。

 

「あ……はい。実は――」

 

 余りの唐突さに戸惑いを覚えていたが別に嘘をついても仕方がないと正直に洗いざらい話す。

 すると女性は満面の笑みを浮かべて明るい表情をさらに輝かせると、

「良かった、実は私モノトリ―様に雇われているメイドのエツコと言うんですが、じつは今来訪されているとても大切な人が珍味らしい『イチゴ豆腐』なるものを食したいと申されていまして、どうしてもイチゴ豆腐を作れるマシンが欲しいんです。もし、望みを叶えていただけましたらモノトリ―様に内緒で色んなサービスが楽しめる『48階』への行き方をお教えします!」

 

「「ええっ!?」」

 

 ネスとジェフは彼女の意見に驚き、ベンチから退き声をあげてその場に立ちあがる。

 まさか、まさかの予想だにしない急な展開。

 なんとここでも彼の発明品は役に立った。

 

 もはや天上の神がアップルキッドに何かを宿らしめているのか、あの優しいネスですら砂漠に行くくらいならいらないと放棄の判断を下した謎の物体『ぐるめとうふマシン』が大役を担うタイミングがこれまた見事にピンポイントで巡って来たのである。

 

「私はこの食材を調理室に戻したら、モノトリ―ビルの入口で待っています。あっ、でも夜だったり用事がある場合は席を外しているので、もしそのマシンが手に入ったら朝か昼くらいに持ってきてください。私、絶対に約束は守りますので! それでは!」

 

 そう言い残すと、彼女は食材を慌てて持って帰る様にしてその場から素早く走り去った。

 こうして急を要する事態の中で残されたネスとジェフは、

 

「前言撤回、行こうネス」

「そうだね、『逆に取りに行きたくなった』よ」

 

 運も味方につけ、やっぱりなんやかんやで非常に役に立つ代物を発明したアップルキッドに最早、恐怖に近い何かすら覚える中で二人はバスステーションへ足を運び、そのままバスを経由してドコドコ砂漠へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドコドコ砂漠 猿の洞窟』

 ドコドコ砂漠の北西部。

 以前ネス達が酷い日射病で生死の境をさまよいながら向かったフォーサイド側とは反対。

 今度は世話になったモッチ―兄弟の注意通りに冷えたぬれタオルや冷たい飲料水を購入して、ネスとジェフは煮えたぎる鉄板の上を歩くような猛暑が襲い来るドコドコ砂漠を進んだ。

 そうして、なぜこんな過酷な環境の中に置いていったのかは仕事をろくに完遂しなかったウッカリ特急便を問い詰めればはっきりするだろうが、とにかく二人は洞窟の入り口前へと到着。

 体調管理も万全に行い、後は猿の洞窟へと侵入し目的の『ぐるめとうふマシン』を回収すれば事が上手く進むはずだった。

 

 しかし……。

 

「ウッキー! ウキキッキ、ウキッキキキ(なんだ! 人間め。ここは偉大なる御方タライ・ジャブ様が納める洞窟だぞ。お前らみたいなチビたちが入ってはいけないんだ)」

 

 一匹の猿が洞窟に入ろうとするネス達を認めなかった。

 人間からくすねたのか赤いバンダナを頭に巻いて、やたらと気合いを入れている門番の猿。

 一応テレパシーで動物の声が聞けるネスに言葉は通じるのだが、

 

「ぼく達はこの奥に大切な物があるんです。それこそ無くては困る物なんです」

「ウッキ! ウキキキ、ウッキウッキキ、キキウッキ(ダメったらだめ! 早く行かないと必殺技モンキーパンチを喰らわせるよ。泣く子も黙る痛さだよ)」

 

 ネスが正直に目的を話しても、門番の猿はその入門を拒むばかりで話が進まない。

 終いにはネス達を撃退するために、素早く拳を何度も振るいスパークリングを開始して目の前で立ち退かない子供二人を威嚇し始める。

 

(困ったな……でも、PSIで攻撃するのは気が引けるし、どうにか通してもらえないかな)

 

 戦闘を行いPSIでコテンパンに倒す。

 最悪の選択肢として挙げられるものではあるが、見知らぬ人の領域に強引に入り込む。

 それこそ自分たちのやっている事は強盗や泥棒の様な悪意のある行動とネスは冷静に考え、しっかり割り切っている以上、可能であれば行いたくない。

 人間に限らず誰だって全く知らない存在が縄張りに入ってきたら攻撃態勢を取る。

 下手をすればそのテリトリーの主に殺されても、戦の火種を作ったのはぶちのめされた本人なのだから完全にその侵入した人物が悪い。

 

「……ネス、僕達には時間が無いんだ。この際何かプレゼントでもして通してもらおうよ」

 

 立ち去るか、戦闘かを猿に問われている間に隣にいたジェフはネスに対してそう助言する。

 けれども聞き耳を立てていた番人の猿はジェフの助言を聞きつけると、

「ダメだ、オイラは梃でも動かない猿で有名なんだ。絶対に通さないよ……ウキキ、ウキキキキ、キッキキ、キッキッキ(しまった、普通に人間の言葉を話している。逆じゃないか)」

 

 慌てて言い返したのか人間が話す通常の言語を解しながら、ジェフの意見を却下。

(こうなったらお猿さんには悪いけど、少し気絶してもらうしか)

 やはりこうなったら戦闘以外の道は残されていないのかとネスが思い、リュックに差しているバットに手を伸ばそうとしたその時。

 

 ある声が二人と一匹の耳に届く。

 

 

 番人を任された猿よ。今日もその重大な任をキッチリと果たす姿は見事である。

 しかし……その者達は私が探し求めていた『運命を背負う者達』だ。

 だからすんなりと通してあげなさい、なぁに、私と少し話をするだけだ。

 

 

 場に響いたのはまさに天の声。

 姿は見えずともまるで母親が眠る前の子供に絵本を読み聞かせるような優しい声。

「!? ウキキ、かしこまりました! タライ・ジャブ様! さあさあ、どうぞ。失礼の無いようにしてください。タライ・ジャブ様は奥におられます、他の同胞もおりますがお気になさらずに、では用がお済になられましたらまたお教えください」

 

 どうやら声の主はさっき番人の猿が口にしていた主人だったようで、洞窟の前で入る事を拒否され立ち往生していたネス達に対して、態度を急変させると洞窟の中へと誘ったのだった。

 猿の言葉で話すことすらあっさり放棄する程までに猿達の意識を乱させるタライ・ジャブ。

 事はうまく運んだとはいえ、一体それがどんな人物なのか、どうして自分たちに用があるのか、どうして、自分たちが運命を背負う者達と知っているのか、気になりつつも門番の猿についていく形で、ネスとジェフは最深部へと案内されるのだった。

 

 

 

 

 

 

『猿の洞窟 最深部』

「よくぞ、ここまで生き残って来た。さあ、私の元に来なさい」

 松明の光に照らされる内部にて待っていたのは胡坐をかいて宙に浮かぶ修行僧。

 断食の修行を行っていたのか、かなりやせ細った姿でネス達と出会った。

 このドコドコ砂漠の猿達が崇拝するタライ・ジャブに。

 彼の誘いを断る訳も無く、二人は何かを知っている不思議な男性の元へと歩み寄り猿達が用意してくれた座布団の上に腰かけて、その話を伺おうと構える。

 するとタライ・ジャブは目を瞑り、体を宙に浮かせたまま意識を集中させて口を開く。

 

 

 

 私は生まれた時から運命に導かれし者を導けと天のお告げを受け、生きて来た。

 

 

 

 その深みのある声は洞窟へ入る前に感じた声と全く同じ。

 何か尊さを感じられるありがたい言葉にネス達は黙って彼の言葉に耳を傾ける。

 

 

 

 宇宙の真理とは、粒の様に波の様に、宇宙を駆け巡り、人という宇宙に語りかけているものじゃ。貴方方がここへ来る事、神に導かれた私がここで待つ事、全てが運命という真理のなかで確定していた事実。ネス、ポーラ、ジェフ、そしてまだ見ぬ仲間プー、勇敢なる4つの力が出会う時ねじれようとする宇宙は……安らかな呼吸を取り戻す。難しいかね、分からんでも良い、貴方方の好きに向かうがよい。じゃが、その希望を、その優しさを、その強い正義の心を喪ってはならない。さすれば全ては上手く進む。

 

 

 

 彼が言った事はネス達にとっては幾つか難解で理解できない点もありはしたものの、タライ・ジャブというPSIではないがとはまた違う不思議な力を授かった存在が自分たちに伝えたかったことは理解出来た。

 

 自分たちが進むこれからの旅路。

 幾多の困難が降りかかろうとも決して諦めない鋼の正義という強い意思が道を切り拓く。

 邪悪なる意思、ギーグを倒す大切な切り札となりえる。

 

 彼はそれを自分たちに伝えたかったとネスとジェフは口に出さずとも理解する。

「恐らく、貴方方はこれを取りに来たのだろう。うっかりな人間が洞窟の前に落としていって、それを猿達が拾ってきてくれた」

 温かみのあるありがたい話を終えたタライ・ジャブは懐から赤い文字で『ぐるめとうふマシン』とネームタグが付けられた奇怪な形をした装置を取り出すと、座っていたネス達に差し出す。

 

「そうです、ありがとうございます。タライ・ジャブ様」

 

 家族がもしウッカリ特急便を用いる様な事があれば容赦なく止めようと、心の奥でネスは座布団から立ち上がりつつ決めると、フワフワと浮遊するタライ・ジャブからイチゴ豆腐しか製作できない欠陥を抱える装置を受け取り、リュックサックへとしまった。

 

「ふむ、ではもう一つ。ネス、貴方にはある特別な力を与えてあげよう。意識を集中させたまえ。今まで巡ったであろう特別な土地であるパワースポットにいた時の様に……」

 

 荷物を渡し、相手が受け取った事を確認すると続けてタライ・ジャブはネスにそう告げる。

「特別な、力?」

「そうだ、貴方には『この力』を目覚めさせ、使いこなせる力量がある。これからの冒険にも欠かせない非常にユニークかつ便利な技だ」

 

 冒険に役立つ特殊な技。

 そこまでの説明しか為されなかったが、ネスは自分たちの味方である彼の発言を疑いを持つことなく、大きく息を吸い込むと目を瞑り体中の意識を集中させた。

 すると技の取り込みの準備を整えた彼の姿を確認したタライ・ジャブは、胡坐を組む際に膝に当てていた両手を合わせ、合掌の構えを取ると同様に目を瞑りネスに伝授を行う。

 

(…………)

(…………)

 

 両者の集中を乱さぬように、部屋の出口付近まで下がって静かにジェフが見守る中。

 

 互いの集中された意識が同調し合い、数秒、数十秒と経過していく。

 

 そして……。

 微かな光だった。

 蛍の様な小さくも輝きを放つ一つの光の球体がタライ・ジャブの体から発生し、場を少し揺蕩いながら最後にはネスの体へと吸収されていく。

 

「ふう、これにて技の伝授は終了じゃ。よく集中したものだ、ネス」

「……ふう……一体どんな技をぼくは受け継いだんですか?」

 

 何やら体に温かいものが入って来たことは感じ取りはしたが、その力を使いもしていないうえ、ネスが発現させた技でもない為どんな技か見当が付かない。

 そう疑問を向けられたタライ・ジャブは合掌の姿勢を崩し、彼に返答する。

 

「テレポートのPSIだ。簡単に言ってしまえば、貴方方の誰かが一度行った領域であれば精神力がある間はワープが可能になる。これからはさらに土地を隔てて冒険せねばならない。もしかすれば一度入れば戻れぬ一方通行の土地もあるかもしれぬ。その時の為に必要な技だ」

 タライ・ジャブはその後続ける様にして使用方法についての留意点について語った。

「使い方は貴方が念じるのみでよい。ただしこれは長距離を高速で移動する事で初めて一つの技として発現する。以前に猿からこれと似た現象で車が過去に行くという物語を聞いたが……確か車名はデロリアンだったか。とにかくそれに近い。失敗しどこかでぶつかれば黒こげになるが、使いこなせば便利な力だ。あの番人の猿だってマスターしたのだ、貴方でも必ず使いこなせる」

 

 まるでファンタジーや夢物語の様な移動技『テレポート』

 恐らく非常に使い勝手の良いタライ・ジャブから受け継いだネスは、

「ありがとうございます、必ずこの地球に平和をもたらしてまた戻ってきます」

 自分たちはやはりこの世界を大きく左右させる測りしれない大きさの運命を背負った事についてジェフを含めて再認識すると、温かみのある笑みを向けてくれていたタライ・ジャブにそう礼の言葉を言い残すと、洞窟から去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

『モノトリ―ビル 48階』

 ドコドコ砂漠の広大な土地を利用し、タライ・ジャブより伝授されたPSIテレポーテーションを失敗こそ重ねたが使いこなし、バスでは無くワープで戻って来たネスとジェフ。

 既に夜になりかけていたので、メイドのエツコが口にしていた通り次の日に出直し、朝にモノトリ―ビル前で待機していた彼女に装置を手渡すと、

 

「ありがとうございます! これであの人の為のイチゴ豆腐を作れます。48階への行き方についてですが、この従業員専用のエレベーターを使ってください。私のカードを使えば48階へ行くことが出来ます。私はVIP専用を使用しても良い許可を得ていますので、もし聞かれたら無くしたといってごまかすことにします。一応私の部屋も48階にあるので何かあれば立ち寄ってみてください。ではまたどこかでお会いしましょう!」

 

 そう言い残しネス達が砂漠まで足を運び回収してきたぐるめとうふマシンを奪い取るようにひったくっていくと、代わりに『VIP専属メイド エツコ』と文字が記されたセキュリティカードを手渡し、彼女はモノトリ―ビル内部へと先に消えていった。

 こうしてネス達は初めここに来訪しポーキーのボディガードにマシンガンを向けられ恐怖した時とは違い、完全に出口が別となっている荷物の運搬の際に使われる従業員専用のエレベーターに乗り、特殊なコードが仕込んであるエツコのカードを使用してたどり着いたのだった。

 力を失いながらも、まだ偽物の権力者として君臨するモノトリ―が潜む48階へ。

 

 

 

 

 これまで戦場や修羅場を潜って来たネス達。

 そのせいかこの48階というフロアに関してはまだ警戒心はあったとはいえ、幾つか安心できる点があり、バットや更なる改良済みバンバンガンなどを構えることは無かった。

 それは敵地とはいえ、時折従業員が通ったりする事もあり敵の気配は感じられない事。

 流石にこんな地帯にまで一般の住民達達が見たら驚愕し、恐ろしいと感じる宇宙人を連れ込む程にモノトリ―やポーキーも馬鹿では無かったようで、今までの敵モンスターが多く生息していた洞窟などとも違い、ここはあくまで多くの人間達が闊歩する大都市の巨大な建物。

 モノトリ―やポーキー、またはそのボディガードがこの薄暗く電灯が付いていない廊下や部屋に潜み、攻撃してくる危険性はあったものの戦闘の心配は無いように思われていた……。

 

「ネス……これは何? 嫌な予感はするんだけど」

 しかし……そんな淡い期待は一瞬にして消え去る事になる。

「その嫌な予感はあっていると思うよ、だってコイツ――」

 

 二人の前に立ち塞がったのは少なくとも生き物では無かった。

 さらに言ってしまえば重要人物がいる階層にて、尚且つその人物を世話するメイドや従業員たちも『これ』の存在について熟知しておけば、あっても違和感があまり無い代物。

 

「ピピピ……貴方のコードナンバーを言ってクダサイ。カードでは駄目デス。10秒以内に言ってクダサイ、10、9、8、7、6,5,4――」

「見張りロボットだ! 急いで戦闘準備をして!」

 

 立ち塞がるは片手に体内の電気をビームに変え放つための発射砲が備わった人物警護兵器。

 そう……人や宇宙人の様な生命体では無く、ロボットに警備を任せている以上気配も感じられないうえに人間であるメイド側からしても承認コードさえ知っていれば無害な警護専用ロボットの『見張りロボ』

 銀行などに備えられている監視カメラの様に一般人を寄せ付けてはならない場所にあっても何の問題も感じられない。

 

「3、2、1。敵と認識シマス」

 

 それ故にエツコのカードは持っていてもコードの存在を知らず、逆に彼女もこの現状に慣れ過ぎて何気なくコードを口にしており日常的過ぎて伝えるのを忘れていたせいか、結果として聞いていなかったネス達は今から戦闘を開始する羽目となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

『エツコの部屋』

 とはいえ、ビーム攻撃がメインだった民間用の警備ロボットでは流石に様々な技を持つネス達を止められるはずもなく、モノトリ―の部屋へたどり着くべく48階内を散策する間に殆どの警備ロボットが破壊され、再起不能のスクラップにされてしまった。

 

「しくしく……しくしく」

 

 そうして48階内を巡っている間に、ほんの一時間ほど前に再会したはずの『メイドのエツコ』がいるキッチンと寝床が揃っている部屋へと二人は偶然やって来た。

 だが、何か悲しい事があったのか彼女はエプロンをハンカチ代わりにして泣いていた。

 彼女がついていたテーブルの上に『イチゴ豆腐』と思われるピンク色の四角形の食品を皿に盛り付けてあり、そこでエツコは泣いていたのだった。

 さっきまで子供の様にはしゃいでいた筈の女性が泣いている事に思わず二人は、

「エツコさん、どうしたんですか?」

 一体何があったのかと事情の説明を求めた。

 すると彼女は自分の元を訪れた恩人二人に向けて、しゃっくりを交えつつ返事をする。

 

 

「私の……ヒック……大切な人が……イチゴ豆腐を食べる前に……消えてしまったの……せっかく『あの人』いえ『あの子』の笑顔を見たかったのに……ヒック……あの子は『ポーキー様』は病気で死んだ私の幼い弟とよく似ていたの。ワガママだけど何処かほっとけない……天邪鬼だけど……本当は優しい子……だから代わりでもいい、性格がとてもよく似ていたポーキー様の幸せな笑顔をこの目で見たかっただけだったの……でも……もういない……ヒック」

 

 

 なんとエツコはポーキーの専属メイドだったのだ。

 そして彼が食べたいと要望を出したのか、イチゴ豆腐を探し続けていたのである。

 

「ポーキーが……いなくなった?」

 

 ネスの後ろにいたジェフはまた泣き始めそうな彼女を必死で慰めようと働きかけていたが、話を聞いたネスは友人が知らぬ間に何処かに消え去った事が気がかりだった。

 逃亡を図った理由は間違いなくモノトリ―を操っていたマニマニの悪魔の破壊。

 後ろ盾であったモノトリ―の洗脳が解かれ、じきに崩れるであろうこの牙城を即座に捨てて、邪魔者である自分たちの手が回らぬうちにそそくさと逃げ去ったのだろう。

 

「モノトリ―さんの部屋はどこですか?」

 

 まだ完全に泣き止んでいなかったが、何とか落ち着きかけてはいたエツコにネスは残る最後の一人が住まう部屋の位置を聞きだす。

「グスグス……ここを出て右に折れて、後は直線状にドアが連なっているのでそのまま進んで行ってください。そうすれば、金のドアがあるのでそこがモノトリ―様の部屋です」

「分かりました」

 48階は迷路のようにこの部屋や倉庫を除いた全ての部屋は四方向にドアが存在している。

 そのせいか二人はこの階層を彷徨っているうちに彼女の元へやって来たのだ。

 

「結果はダメでしたが、ありがとうございました。二人の優しい子供たち」

 

 目的の場所の位置を聞き、部屋から去ろうと足を動かす子供に彼女はお礼の言葉を伝えて二人がドアを開けて去ろうとするまで、礼儀作法を重んじるメイドらしく頭を下げつつ別れた。

 

 

 

 

 エツコの口にした情報通りだった。

 彼女の生活していた部屋を出てから右側のドアを抜け、似た内装の部屋が続きつつも構わず直線状のドア全てを抜けると金色の塗装が施された両開きの扉が視界に入った。

 

 ただし……二人がいるこの手前の部屋には最後の関門があった。

 

「くっ……そぉ。ライフアップβ!」

 そして部屋に侵入した直後、二人は『それ』に襲われた。

「ネス……アイツをチェックしたけど、ボムとかペンシルロケットは通じないみたいだ。どうやら特殊な装甲がされているみたいだよ。ビームにも気を付けて!」

 

 大きさは見張りロボットの大きさの約半分。

 10歳を超える少年ネス達の胴程までしかない身長をした銀色の二足歩行をする物体。

 

「ピピ、ポポポ……ガシャン、ポピー……」

 

 さらにフラフラとした挙動で何処か安定せずに、時折体内から予備の歯車やネジ等のパーツを落としては拾いに行ったりと間が抜けた行動が目立つ兵器。

 その名も『油断ロボ』

 点の様な目と口を付けた大きな顔にアンバランスな小さな体を携えたぎこちない動きをするこのロボットこそがモノトリ―警備兵の最後にして砦、現在ネス達を追いやっている原因。

 

「さっきまでいた普通のロボットとは比べ物にならない。弱そうに見えて強い奴だ……くそ」

「耐久も比較にならないよ。まるで手加減されている気分だ」

 

 そう、ネスが口にする通り油断ロボとはあくまで敵の油断を誘うの意味。

 時々転んだりもするロボットではあるが、戦闘行動は非常にしっかり設計されている。

 

 攻撃を受け損傷が確認されれば、あるアイテムを使用し修理を行った後に瞬く間に全回復。

 

 極めつけは目から放射されるビーム攻撃。

 首をあちこちに向けて素早く乱射し、敵に命中すれば強烈な電撃波を与え、相手が被弾せずに壁に激突した場合はなんと反射して、銃弾の様に跳弾させ最終的には敵の不意を突き命中。

 

「ピピ……ビーム発射!」

 

 ビシュッ! ビシュッ! と音をあげて今度は両眼からネスとジェフのそれぞれに放つ。

 油断ロボのその攻撃に対して、二人は慌てて転がったりサッと走り回避を行おうとするが、

「ぐあああああああああああああああ」

 生命体に命中しないビームは勿論壁や床を反射し、ネス達を狙いはしないものの執拗に部屋中を駆け巡る為、結局はバシッ! ビリビリ! と命中し激しい電流を体内へ流し込まれ、

「ゼェゼェ……くそぅ、ライフアップ!」

 余りの衝撃から悶え苦しみ大声をあげ、電流がおさまった所をネスのPSIで回復を行う。

 

 そして攻撃を当てると油断ロボがドジな行動を取り油断を見せ、隙が生まれた所をバットやバンバンガンで攻撃を行うが何度か攻撃を受けると、その小さな体を生かし素早く二人から離れ、

「損傷確認、コード『テマキズシ』発動、修繕ヲ行ウ」

 

 何とも分かりやすいコードを口にし、具材はネジやボルトやナットが詰め込まれ、酢飯はガソリンがたっぷりしみ込んだオレンジ色の飯が使われ、黒い海苔で巻かれた手巻き寿司を取り出し頬張って食べつくすとあっという間に修繕が完了してしまうのだ。

 

 強烈なビームを乱反射させ命中、まだ意識があれば油断させて敵の攻撃を誘いさらに疲弊させる、そしてコード『テマキズシ』にて回復を行い、また強烈なビーム攻撃に戻る。

 

 単調な行動の繰り返しではあったが、回復を含めた耐久面でも非常に丈夫で攻撃面においても抜かりが無い為、純粋に手ごわい相手である。

 

 

「ふう……ふう……ジェフ、マズい。もうライフアップが使えない……」

「僕もヤバい。回復用の食品も便利なアイテムも……無くなった」

 

 

 ただこちらが疲弊ばかりする戦況であるため、同じ行動を何度も繰り返された果てにネス達はジリ貧となり、完全にピンチへと陥ってしまっていた。

「ピピ……敵ノ体力ノ減少確認、全テノ力ヲ超強力ハイパービーム二移シ、殲滅スル」

 だがこの敵側にとっては勝利確定の時をAIとはいえロボットが見逃すはずもなく、額の部分に電気を集中させると、部屋中を飛び回るほぼ回避不可能とまで断言できるとどめのビームを放つ準備を整える。

 

「実行まで、20、19、18、17」

 

 ネス達にはもう満足に攻撃を仕掛けられる余裕も体力も無い。

 威力抜群の一撃を放つカウント数が次第に減っていく。

 

「16、15、14、13、12」

 

 ここで負けとなってしまうのか……。

 

「11、10……」

 

 そうネス達が絶望しかけた時だった。

 

 

 

「オラァァァ! 救いのヒーロー遅れて参上や!」

「大丈夫か! お前ら!」

 

 

 

 突然ネス達が通って来た扉が勢いよく蹴り飛ばし、ビームの発射準備を整えていた油断ロボットを巻き込む様に壁際へ吹き飛ばして、何者かが戦場へ乱入してきた。

「あ、貴方達は!?」

 黒いスーツを身に纏い、そんな強引な方法で飛び込んできたのは五人の人間。

 その正体はネス達が二度も窮地から救ったトンズラブラザーズだった。

 

「随分と派手にやられたのう! ワシらがここを抑えるからお前らはこの先へ!」

 

「ポーラちゃんがこのビルにいるって、病院からこっそり抜け出した胡散臭い奴から聞いてのう。いてもたってもいられんで従業員さんに無理行ってエレベーターに乗せてもらったんじゃ」

 

 トンズラブラザーズリーダーのボーカルで太った体形が目立つナイス、そして相棒の同じくボーカルのラッキーが傷ついた二人はそう告げると、他のメンバーと共にドアの下敷きになっている油断ロボの方へと向かっていく。

 

 まさに天の助け。

 

 大人たち五人の予期せぬ乱入に油断ロボも対策をろくに練ることが出来ずに、ネス達二人の事など、目もくれずにトンズラブラザーズに一方的に攻められている。

 

「早く行け! まずはこの先におるはずのポーラちゃんに会うんじゃ!」

 ほんの数秒間の間に起こった余りの急展開、戦況は一瞬にして覆り、ネスとジェフはトンズラ達に難敵油断ロボを任せ、モノトリ―の潜む部屋へ繋がる黄金のドアへ手を伸ばす。

 自分たちを待つ少女の為にネスはドアノブを勢いよく捻り、その空間への入口を開いた。

 

 

 

 

 

『モノトリ―専用ルーム』

 以前にポーキーがいたVIPルームと同じく黄金の豪華な装飾が全体に施された、まさに古代の王の間を再現したような美しさが目立つ広々とした部屋だった。

 テーブル、ソファ、柱だけでなく今度は灰皿やコップ、果てには熊の剥製に至るまで金ぴか。

 しかし、ネスとジェフにとってはそんな事はどうでもいい。

 ただ一つ。

 たった一つの事が確認出来さえすればそれでよかった。

「良かった……本当に……良かった」

 

 この場にいる。

 

 ソファの影におびえる様にしてこちらの様子を伺うモノトリ―。

 そして拘束される事なく自由に部屋の中で立っていた、少女ポーラ。

 

 やっと見つけた。

 

 大切な仲間を。

 

 一緒にいてくれなければ不安で仕方がないかけがえのない大切な人を。

 

「ネス!」

 扉を開き助けに来てくれた大切な仲間の姿を確認した彼女は、すぐさま彼の元に駆けつけて涙を流し、寂しさや悲しみの感情を表に出しつつ言葉を紡ぎ出す。

 

「貴方達なら必ず来てくれるって信じていたわ……グス……私は大丈夫よ。それよりモノトリ―さんの話を聞いてあげて、彼は本当に悪い人じゃないの。彼はずっと自分と戦っていたの。悪の心と善の心で。だから傷つけずに話だけ聞いてあげて!」

 

 彼女はそうネス達にモノトリ―についての弁明をする。

 それについてはネス達もマニマニの悪魔との戦闘前に聞いていた。

 分離され幽閉された良心と露出した欲望との狭間で彼の魂は悲鳴をあげていたのだ。

 そして彼女の弁明の甲斐もあってか、モノトリ―はまだ怯えてはいたがソファの影から身を出して揃ったネス達一行の前に姿を現して唇を震わせながら言葉を口にする。

 

「私はもう戦うことは出来ない! 本当だ! この細い腕、薄い胸、白髪になった頭を見てくれ……あの恐ろしいマニマニの悪魔が消え去った以上私には何のパワーも無い! ポーラを攫ったのは本当に申し訳なかった、だが彼女には何の危害も加えていない。それどころか精神がおかしくなって苦しんでいた時に話し相手になってくれて気持ちを紛らわせてくれたのは彼女だ。本当に優しい子だよ。本当に君達には世話をかけてすまなかった。私は君達に大切な良心を取り返してもらった。協力は惜しまないつもりだ、これまでの経緯を洗いざらい話そう」

 

 謝罪の言葉をしっかりと述べ、ネス達も彼の事情を承知していた為反論や文句を言う事なく、静かにモノトリ―が何故彼女を誘拐し、様々な妨害工作を行ったかを口にする。

 

「多分、ムーンサイドに捕まっていた私の魂から聞いたと思うが、マニマニの悪魔は人に幻を見せ、邪悪な心を増し、悪魔の力を与えるのだ。私がまだ正気を保っていた時、それが恐ろしくてボルヘスの酒場の倉庫にアレを隠した。そして一番初めに見た幻の中には謎の言葉が含まれていた」

 

 今度は誰にも阻害される事なくありのままの内容モノトリ―は包み隠さず口にする。

 今回の事件解決の鍵を握る重要な情報を。

 

「言葉にはネス君、君の名前があった。【ネスをお前の手で食い止めろ】や【サマーズへは行かせるな】、【ピラミッドを見せるな】などだ。悪魔の……『ギーグ』などとも聞こえたが、どうやらそのギーグとやらは君達をサマーズやその先へと向かう事を阻止しなくてはならなかったようだ」

 

 まだ会い見えぬ強大な悪にして宇宙最強とされるギーグ。

 今回の目的は順調に冒険を進め、自らの基地へ乗り込む可能性があるネス達の妨害。

 仲間を失わせ冷静な心を乱し、マニマニの悪魔が創造した幻覚の世界で完全に閉じ込める。

 そうして自らを倒すと予言のあった少年たちを潰し、希望の光が潰えたこの地球を支配下に置くための襲撃を行うつもりだったのだろう。

 

「サマーズへは海を越えなくてはならない。ヘリコプターを使いたまえ。ヘリポートは入口とは別のそこの小さな扉の先だ。行き先をサマーズと登録すればヘリコプターが自動で操縦を行ってくれる。さあ行きたまえ、急ぐんだ。よく分からないがギーグとやらの好き勝手にさせてはいけない。ヘリコプターは壊しても構わない。私は私なりにけじめをつけて君達を応援する!」

 

 操られていたとはいえ、自分が行った事に罪の意識を認識しているモノトリ―。

 対して急を要する色々な情報で頭がごちゃごちゃになりながらも、彼の芯の通った行動にネス、ポーラ、ジェフの三人は事情もしっかり聞いたうえで、

「モノトリ―さんは本当によく頑張ったんだ。自分の強力な欲望に必死に抗い続けたうえにポーラを傷つけたりしなかった。だからぼく達も貴方を責めたりしない。これからも頑張って」

 慌ててヘリポートに向かう途中だった為返事こそ聞けなかったが、ネスはモノトリ―が救われた事を喜び、その過程の苦労や葛藤を抑えていた姿を褒めていったのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう……私の英雄(ヒーロー)」

 ヘリポートへ姿を消していく三人を静かに見送ると、元々不動産の一従業員だった彼は金色の机の中にしまってあった『辞職願』を持ってその場から立ち去っていったのだった。

 自分のせいで、転落した人生を歩ませてしまった元の雇い主。

 ボルヘスの酒場にてネス達に情報を与えた男性エンリッチ・フレバーに全ての所有権を返し、今度は自分自身が招いた業の責任を負い、その報いとして生き地獄を味わう為に……。

 一人の男性は覚悟を決めて、自分を縛り付けていた高層ビルから離れて全ての終幕が待っている酒場にいるはずの雇い主の元へ向かうように動いていくのだった。

 

 

 

 




 この先も続けて書こうか悩んでいたのですが、この部分がキリとして丁度良かったのでモノトリ―が立ち去るまでの場面を書かせていただきました。
 今回は原作に近いですが原作ではないオリジナルの場面を多く書かせていただきました。
 ですが、原作で私がエスカルゴ運送を何度も使ってまで、手を焼いた猿の洞窟のお使いの作業については完全カットにしました。
 書いていても盛り上がらないと思えて、タライ・ジャブの所まで直行に変更です。
 エツコのシーンも勿論オリジナルです。このすぐ後でつかいたいので……。
 さて次に残った展開や第四の音の場所があるとはいえ、フォーサイド編の大まかな内容は今回で終了となります。

 この辺りでの原作での感想は、やはりタライ・ジャブのセリフですかね。
 子供向けとは思えない程に深みがあり、何処か凄まじさを感じる悟りきったセリフ。
 ここは私の中でもMOTHER2屈指の名シーンだと思います。
 子供の時は分からずとも、20を超えた年齢になって再開するとセリフの意味が分かる、まさに『おとなもこどももおねーさんも』ですね。

 さて後書きが長くなりましたが、これが今年最後の作品となります。
 本年度の五月に開始したこの作品を読んでくれたユーザーの方々、続けて感想を送ってくださるsuihiさん、他にも温かいコメントをくれたユーザー様、今年は本当にありがとうございました。
 可能であれば来年の3月中に最終局面まで書く予定なので、ぜひ来年度もこのMOTHER2の同人小説をよろしくお願いします。
 では、ここまで読んでくださった皆様、もう残り僅かですがこの2016年を楽しみ、良いお年を迎えてください! ではでは、次のお話でお会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。