mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

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 まずは遅ればせながら新年の挨拶でございます。
 この作品に興味を持っていただけたユーザーの皆様あけましておめでとうございます。
 本年度も完結まで精進しながら書き進めていくつもりですので、このMOTHER2の二次創作の小説をよろしくお願いします。
 ではその他諸々は後書きに記しますので、では本編どうぞ!


第四の音の番人とレイニーサークル

『モノトリ―ビル ヘリポート』

 ギーグの手先であったマニマニの悪魔が破壊され、操られていたモノトリ―が正気を取り戻し、フォーサイドを覆っていた闇全てが消滅した事で平和を取り戻したネス達一行。

 そしてモノトリ―が操られる際に悪魔が自分に伝えていた命令。

 ネス達の冒険を妨害しろという内容。

 それを彼自身の口から聞いたネスは、彼の計らいで屋上にある自動操縦付きヘリコプターを譲ってもらい、現在は観光リゾート地として名を馳せているサマーズへと向かうべく屋上のヘリポートにたどり着いた。

 

「どうして…………」

 

 しかし……そう物事は上手く運ばない。

 

「どうして!? どういうことなの!?」

 

 なんと先にヘリコプターは宙を舞っていたのだ……。

 三人がヘリポートへと繋がる扉を開けた瞬間。

 バリバリバリと音をあげて回るプロペラが周囲に風を発生させながら、ヘリポートから離陸を開始したのだ。

 勿論、ネス、ポーラ、ジェフは誰も乗りこんではいない。

 

「一体、誰が動かしているんだ?」

 

 ジェフは次第に高度をあげてゆくヘリを見ながらそう呟いた。

 モノトリ―は操縦士がいるような口ぶりを見せなかった。

 逆にいたとしても何故これからサマーズへ送るはずの人物達を放置して、ヘリポートから飛び去ろうと機体を操縦するのだろうか。

 現状が把握できず三人が謎を深める中で答えはヘリコプターの中から発生した。

 

「いやー! 驚いたよ。まさかマニマニの悪魔を倒してこのフォーサイドを元に戻すなんてさ」

 

 聞き覚えのある声だった。三人とも。

 声はヘリに内蔵されているマイクからだった。

 操縦中のせいか、姿を見せる事は無かったが……誰だか分かる。

 

「ポー……キー……」

 

 その声にネスは思わず頭を抱えて、落胆する。

 そう、操縦していたのはこの街の異変の真の黒幕とも言えるポーキーだった。

 既にモノトリ―ビルから逃げ去ったものとネスが考えていたが、全くの逆で別の出口からヘリポートへ上がり、ネス達が目的地へと向かうのを妨害するためにここで現れたのだ。

 

「俺様は、少しお前達を舐めていたかもしれない。もうあんなお人好しに戻ったモノトリ―に用なんか無くなった以上、せめてお前達……いや、ネス! お前の冒険の妨害はしておかないとな。でも俺は嬉しいぜ、ヘリを運転できるのも、困るお前らの姿を見るのもな! ハハハハ」

 

 相変わらず人を小馬鹿にする癖は健在で、貴重な移動手段だったヘリを奪われネスに次いで困った表情をするジェフとポーラの姿を見て、彼は笑っていた。

 

「ポーキー! これは警告だ!」

 

 だがご機嫌な彼に反して、友人であるネスの堪忍袋の緒は限界まで切れかかっていた。

 二度に及ぶマニマニの悪魔を使った、笑い事では済まされない悪行。

 さらに現在は生死不明だがトンチキを瀕死に追いやった事。

 

「次に君と会った時……。ぼくは……君がまた恐ろしい事を為そうとしているなら……」

 

 いつもは優しく、笑いで済む事なら許すネスとはいえ目に余る彼の行動に怒りを覚えつつ、ヘリコプター内に聞こえるように大声で伝える。

 

「その時は全力で止める! そして君を……『救ってみせる』……悪の道から!」

 

 何が彼をこれ程までに狂わせたのか、誰に従っているのかは不明だがギーグの手先に近い存在となりつつある友人を引き戻すという強い意思でネスは告げた。

 もうヘリポートを離れ、完全に宙へと舞っていく機体に向けて。

 

(………………)

 

 返答は無かった。

 さらに発していた得意の減らず口も無くなり、ただポーキーは黙り込んだまま四人乗りのこのヘリが今も自動操縦である事と指定した目的地を確認して、そのまま飛び去ったのだった。

(次は逃がさない……絶対に君の悪い野望を阻止するから)

 そして段々とその姿が遠くなっていき、地平線の向こう側へと消えゆくヘリコプターを見つめつつネスはそう心の奥で決心を固めると、仲間と一緒にモノトリ―ビル内部へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、戻ってきよったか」

 ポーキーにヘリを強奪され、移動手段を絶たれたネス達。

 他に手がかりも無く、静かにモノトリ―ビルを出た三人を迎えたのは見事に警備ロボットであった油断ロボを撃退し、その後外で待機していたトンズラブラザーズ達だった。

 

「トンズラさん達……」

「なんじゃ、しけた面しおって。せっかくヒロインのポーラちゃん助けたゆうのに……」

 

 仲間を助けて笑顔で戻って来ると踏んでいた彼らの期待とは裏腹に、事情を知らぬ彼らは三人の表情にはどこか曇っている様子が見られ、ナイスは発した。

 

「実は……」

 

 彼の言う通り確かにポーラを救出できたことは喜ぶべき出来事。

 しかしそれでもついさっき起こった事について、ショックを受けたネス。

 その中でも特に衝撃を受けていたネスはナイスだけでなく、眼前のトラベリングバスの周りで溜まっていた他のメンバーにも聞こえるように事情を話した。

「なるほどのう。ワシらでも同じ事が起これば悲しくなるわ」

 返答は同情の言葉。

 自分らに比べればまだまだ若い、生まれたての雛のような存在のネス達。

 だが、流石にその耐え難い話にトンズラ達も一時的に黙り込む。

 

「…………。幾らワシらでもサマーズはすぐに連れていけんわ。船かヘリコプターみたいな空を飛んで海を渡れる乗り物がいるからのう」

 

 少しの思考を挟んだ後にナイスはそう残念な報告を口にする。

 当然である。

 ほんの前まで借金地獄だった彼らがクルーザーやヘリなど持っているわけでもない。

 まして空を飛べるなどメルヘンな話がある訳が無い。

 

「この馬鹿でかいフォーサイドにも一応港はあるけんのう。新鮮な魚を仕入れるために市場があるんじゃき。そこの漁船の人とかに話をすれば送ってもらえるかもしれん」

 

 その中で打開策として一つの提案をしたのは、さきに運転席に戻りハンドルを握っていた言葉に訛りのある打楽器担当のグルービー。

 借金地獄から自由になった後で街を散策し、旨い魚や寿司を食べるために海側を巡っていたのか自分の得ていた情報を少年たちに告げる。

「せやな……それが今できる最善策かもしれんのう。ワシらが港まで送ったるさかい。まあとにかくバスへ乗り込むと良いわ」

 これまでの陸続きだった旅から今度は海を渡らねばならない。

 

 テレポートのPSIでもワープは出来るが、一度誰かが立ち寄った土地で尚且つその人物の目で風景を確認した場所でないと移動することは出来ない。

 

「では、お願いします」

「おう、任しとき!」

 

 望みが薄く、もしかすると少し遅れてサマーズへ向かう可能性があったが、今はただ立ち尽くして時間を浪費する事だけは何としても避けたい。

 そう考えた三人は話し合いの末に彼らに港まで送ってもらおうと動き始めた。

 すると……最後にポーラが車へ乗り込もうとした時だった。

 

 

 スリークへ……。サマーズ……そして第四の音の場所へ向かうには……スリークへ。

 

 

 彼女は突然の目眩に襲われた。

 額に手を当てながら、開いていたバスのドアにもたれるようにして暫く留まった。

 目を瞑り、静かに車体に体のバランス全てを預ける。

 

「ポーラ、大丈夫!?」

 

 そして仲間の体調の急変に反応したネスはバスから飛び降り彼女の元へと駆け寄る。

 けれども彼女はフウーと深く呼吸を行うと、

「少し目眩がしただけよ。大丈夫。それよりも……」

 肩を貸して介抱してくれているネスを脇目にポーラはある言葉をトンズラ達に向ける。

 

「スリークへ向かって。そこにサマーズへ行く手がかりがあるの」

 

 それは新たな提案だった。

 魚船や観光用のクルーザーが集う港では無く、行き先は田舎町スリーク。

 余りの急なお願いではあったがネスとジェフ、さらにはトンズラ達もポーラがこんな事態の時におかしな冗談を口にする様な少女では無いと信じている。

 

「グルービーさん、スリークへお願いします」

 

 だからこそネスは彼女と共に車へ乗り込むと、すぐに変わった行き先を伝える。

 

「任せてくれ! よし、行き先はスリークへ変更じゃい!」

 

 トンズラ側も誰も疑いの目や意見を述べる事無く従ったのだった。

 こうして彼らは港とは真反対のスリークへと戻るべく、車を発進させた。

 途中で油断ロボとの戦闘の際に話していた情報。

 ポーラについての情報をくれた病院から脱走した怪しい男について、この街で聞いた面白い話、旨かったレストランなどで車内は大いに盛り上がり、幾つかのトンネル、ドコドコ砂漠の道路を抜けていき目的地スリークへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

『スリーク』

 ネス達にとっては少し懐かしい町。

 常に賑わう大都会のフォーサイドとは打って変わり、その周囲を深い木々に囲まれた静かな雰囲気を漂わせる平和な町。

 町の中央部には再開されたサーカスのテント。

 そこから円形に広がるように住宅街やピザ屋や食品店などが広がり、北部には墓場。

 ネス達が救う前まではゾンビ達に支配されていた陰気で鬱蒼した闇の町だった。

 それが三人の活躍により本来の平穏に満ちた場所へと戻ったのだ。

 

「何だか久し振りだ」

 

 バスの窓から見える景色にネスは感傷に浸りながらそう口にする。

 ゾンビ達の襲撃予告、遠い地から助けに来た新たな仲間ジェフとの対面。

 北に設けられた墓場の奥から抜ければ、謎の生物どせいさんの住むサターンバレー。

 ギーグの手先にして下品で不潔な恐ろしい怪物ゲップー。

 多くの出来事があったが、もう全ては解決した後なのかと考えていた。

 

「そうか……なるほどね」

 

 そして次に声をあげたのはネスとは逆の窓際に座っていたジェフ。

 町の風景をのんびりと眺め懐かしんでいた彼とは裏腹にジェフは、スリークのとある一点に目をやると、何かに勘付いたのかボソッと一言呟いた。

 

「うん、なんじゃ?」

 するとハンドルを右手で運転していたグルービーもジェフが目を向けているほんの些細な出来事に気が付いたのか開いていた左手でサングラスをずらして確認する。

 

「広場の方にえらい人だかりができとるのぅ……それになんかを囲んどる様じゃ……」

 

 トンネルから道路へ出たバスの左側から確認できる大きな広場。

 かつては化けテントという化け物が身を潜めていた他、ゾンビドッグや幽霊などが住みやすい場所として好き放題に闊歩していた場所だった。

 だがもうその面影はどこにもなく、ネス達が離れた間にベンチや街灯が設置され、住人の憩いの場として生まれ変わっている。

 

「とりあえず、広場の辺りに降ろすさかい。行き方は人に聞くじゃのう」

 

 そんな変化があった中でグルービーは車をその付近へと移動させ、停車させる。

 そうしてブレーキをしっかりかけ、ハンドブレーキをあげて停車を完了させると、

「よし、坊主たちは全員降りな。とりあえずワシらとはここでお別れや。人だかりの中へワシらが行ったらさわぎになるからのう。お前さんらが降りたらワシらは一旦フォーサイドに戻る。ワシらもワシらで少し海を渡りたいと考えとったからな」

 

 劇場を辞めたとはいえ、トンズラブラザーズの名が消える訳ではない。

 一般人に発見されれば、暫く足止めを喰らう可能性を考慮したメンバーはせっかく手に入れた自由な時間を使いたい、今だけはライブから少し離れて満喫したい。

 それぞれがそう思っていたため、誰もバスから降りる事無くネス達だけを広場へ降ろした。

 

「これからは劇場とか無しに自由にライブをする事にするからの。また何処か出会った時はよろしゅう頼むわ。後、これだけは忘れんといてくれ。メンバー全員はいつでもお前達の味方じゃ。苦しゅうなった時もワシらがいたら遠慮せずに言ってくれ! じゃあな」

 

 助手席に座っていたナイスは窓から顔を出すと、降りた恩人達にそう励ましの言葉を向けて、グルービーに発進の合図を出すと、そのまま専用のトラベリングバスは元来た道を戻るように動き、少年たちの前から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 トンズラ達と別れ、何やら物々しい気配を漂わせる広場。

 何やら『球体のような物体』を囲うようにして集まる群衆。

「僕は……何となく分かってるよ。ネス、ポーラ行こう」

 トンズラのバスの中から見えた景色で何かを察しているジェフは敢えて二人に詳細を伝えずに集まる人々の元へと駆け寄るように勧める。

「「?」」

 一方でスリークに向かうべきだと伝えたは良いが移動手段までは把握できないポーラ。

 船以上に楽に海を渡れる手段の見当が付かないネス。

 両者共に疑問が残る中でどんどん前進していくジェフの背後を付いていく。

 すると……彼らが近付くにつれて。

 

「おお、丁度いいところに……一時間くらい待ってたよ」

「来たね、ささ、ズズズイーと奥まで進んで」

「おや、また英雄の子供たちに会えるなんて……おっと、失礼」

 

 背後から近づくネス達の姿を見つけた人間達は次々と三人の前から退き、人だかりの中央へと進む様に皆がそれぞれ口にしていった。

 そして賑わっていた人混みを抜けていくと、『それ』はあった。

 

「やあ、君達。何とか修理できそうな部分は我々機会に詳しい大人たちで補ってみたんだが、やはり乗って来た本人が最終調整した方が良いと思ってね。ぜひ試してくれたまえ」

 

 彼らの目に映るはジェフが乗って来たスカイウォーカー。

 かつて墓場地下に閉じ込められていたネス達が救出する際に墓場の地面に勢いよく墜落し、酷い損傷を受け原形を留めないまでに大破したはずだった『飛行移動装置』

 その後、ネス達がスリークを去った時に住民達が墜落で墓場に開いた穴の奥から引き上げ、次に彼らが戻って来た時に役立てようと技術を持つ者総動員で修理した。

 

「そうか、ポーラはジェフの乗って来たコレの事を言ってたんだね」

「私自身も詳しい事は分からなかったけど、そうみたい」

 

 これにてサマーズへ向かう別の移動手段については明かされた。

 一応念のためにと大人たちが催促する中で、

「きっと大丈夫です! 少し壊れている場所もありますけど十分に飛べます」

 

 一度スカイウォーカーの乗った人物で、尚且つレベルアップを重ねた事でさらに知識を身に着けたジェフが先に乗り込み機器の状態をチェックしていた。

 そうしてレーダーやマップ等の機能を起動させて降りてくると、

「ネス、ポーラ。一応、これは飛べるんだけど一つだけ注意点があるんだ」

 

 IQの成長で機械の扱い方に詳しくなり、何やら新たな事実に気が付いたジェフ。

「調べてみた所、どうやらこのスカイウォーカーは指定された場所と場所を行き来する。つまりこのスリークとアンドーナッツ博士……僕の父さんのいる研究所に繋がっているみたいなんだ。だから行き先変更も少しより道する事になるけどいいかい?」

 

 今の状況をしっかりと述べるジェフの意見。

 そんな彼の提案を邪険にする要素など何処にもあるはずも無く。

「勿論さ」

「早速行きましょう!」

 ネスとポーラは彼に任せるべく二つ返事ですぐに返答を発する。

 対してジェフも、よし! と意気込むとスカイウォーカーを修理してくれた大人たちに向けて礼儀正しく一礼とお礼の言葉を述べていき、コックピットへと乗りこむ。

 続いて少し狭くなってしまったがネスとポーラもしっかりと中へと乗りこんでいった。

 

「よし、じゃあ出発だ!」

 

 二人が乗り込んだことを確認すると、ジェフはスカイウォーカーを起動させ動かす。

 スリークの住民達が温かく見守る中で操作盤を素早くいじって無事に離陸させると、機体を安定させつつ高度を次第に勢いに任せる事無くゆっくりと上げていく。

 そしてある程度の高度を維持し続けると、

「まず目指すは父さんの研究所!」

「「レッツゴー!」」

 自分たちを乗せたまま宙に浮かぶ物体という子供の好奇心くすぐる乗り物にテンションが上がりまくりのネスとポーラを見て、その余りの無邪気さにジェフは微笑みつつ操作レバーを動かし機体を勢いよく動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまで自分達がいたフォーサイドから海を越えると、操縦をジェフに任せ窓から景色を眺めていたネスとポーラにとって今まで育ったイーグルランドを既に抜けていった。

 今から向かうのは別地方のフォギーランド。

 研究所が位置するのは北部にあたる雪国ウィンターズ。

 常時雪とデートしているような感覚が味わえる万年雪続きの寒地。

 雪など冬以外に滅多にあまり見かけないネス達にとっては一つの楽しみでもあった。

 

 

「さて、あそこが研究所だ」

 

 

 そうした中でコックピットから、10数年という生涯で嫌と言う程見て来た白銀の大地が目に入り、ジェフは空から見える地上の景色を楽しそうに眺めている二人に促す。

 勢いに乗るスカイウォーカーの速度もあったせいか周囲が一面銀世界へと変化し、彼はその先に見える人里から離れ孤立したようにポツンと建造された建築物へと近づいていく。

 

「じゃあ着陸だ。僕がしっかり着陸させるから安心して」

 

 そうして凹凸(おうとつ)の凸に似た形をし、スカイウォーカー離着陸が容易にするため天井が開けている施設へとジェフはレーダーを目視しつつ、調整して降りていくのだった。

 スリークで見事に墜落をした時とは違い、今度は自分の手で慎重に動かしていった。

 

 

 

 

 

 ウィンターズ南部・アンドーナッツ研究所。

 玄関からでは無く空からの侵入という一風変わった方法でジェフは自動操縦では無く自らの持ちうる技術を振るい、きちんと機体を安定させ、着陸に見事成功した。

 そして気ままな空の旅を終えた三人。

 ジェフにとっては離れて僅か一か月程だが何処か懐かしく、科学という概念を詳しく知らないネスとポーラからすれば漂う薬品の僅かな臭いや放置された金属片など日常で感じる事の無い感覚に襲われていたのだった。

 

「あれ?」

 

 しかし、訪れてすぐに研究所にはある違和感があった。

 それを即座に感じたのは一足早くに機体から降りて研究所内を見回ったジェフ。

 一階、二階、開けっ放しになっていた二階の隠しラボ。

 第三の音の場所ミルキーウェルにてネスから受けた心強い説得により、過去に事故で深手を負わせてしまった父親ことアンドーナッツ博士と真剣に向き合おうと決心を決めた彼は内部を探し回ったのだが、

「どうしたの? ジェフ」

 

 やたらと研究所をキョロキョロと見回す彼の姿にポーラは声をかける。

 別に他人の家に来たわけでもない筈なのだが、ロッカーを開けたり、ゴミ箱を漁ったりとあちらこちらを探索して回る彼に向けての疑問。

 

「父さんがいない……」

 

 通常であれば絶対にいるはずの人間。

 そう、家主であるはずのアンドーナッツ博士がいなかったのだ。

 さらにジェフは、自分の父親はいざ研究が始まれば滅多に外出しないと知っている。

 例え隕石が降ってこようがお構いなしに没頭する熱心な研究家だと分かっている。

 

「じゃあ、サマーズへは行けないのかい?」

 

 スカイウォーカーの改造をする事が今回の最大の目的だった。

 だが、肝心のスカイウォーカーを改造する人間がいない。

 博士がいない事を聞きつけたネスはジェフに向けてそう発したのだ。

 

「いや……一応、僕向けに書いた手紙とこの改造パーツがあったよ」

 

 対してジェフは二階の隠しラボにて『我が息子ジェフへ』とメッセージカードが置かれた手紙とまるでゲームのコントローラーの様な赤黄緑青の四色ボタンと十字を描く形の方向キーがはめられたコード付きの装置を彼に渡してみせた。

 

 まず手紙。

 内容は以上の通りで彼が目にした手紙をもう一度ネスが音読して場に響かせる。

『息子ジェフへ。君がこの手紙を目にしている時は多分、いや大体95%くらいの確率で私はそこにいないだろう。だが君が仲間を救いここへ戻って手紙を読む確率は100%と疑う余地は無かったぞ。まあ前話はともかく、私が推測するに君はスカイウォーカーを改造するために戻って来るだろうと考え、事前に装置を開発しておいた。行き先を変更するにはその【スペシャルファミリーコントローラー】通称【SFC】をコックピットに差して、Xと書かれた青いボタンを10回押せば行き先をリセットできる。後は十字のキーを動かして行き先を決めるんだ。そしてX以外のどれかのボタンを押せば決定できる。今は【フォーサイド】【スリーク】【サマーズ】しか選べないが、あまり気にするな』

 

 一枚目に記された内容。

 それは息子への簡単な挨拶とタイミングよく製作が完了していた移動装置について。

 どうやら幾ら天才とされているアンドーナッツ博士でも、息子のIQがどれ程成長したかが把握できなかったようで非常に簡単に扱える装置と説明を用意してくれていた。

 そして二枚目にまで連なる文章をネスは続けて音読する。

 

 

『そういえば君がここへ来る際に通って来た洞窟だがあそこには『レイニーサークル』というパワースポットがある様だぞ。また仲間を連れて行ってみると良い。さて、私が今伝えられる事はこれだけだが、最後に私の居場所について記しておこうと思う。以前に話したかもしれないがこんな私にも古い友人がいてな、スペーストンネルの依頼を受けていたんだ。だが煮詰まりつつも半分まで完成していた。しかし今はあまり詳しくは書けないが過去にいざこざがあった悪い連中によって設計図を奪われたんだ。そこで私は手紙でやり取りをしていた友人達と合流し、取り返しに行く事にした。その為あちこちを巡る為場所は特定できない。まあ近いうちにまた再会できる。今は私の事を気にせずに君は君の道を進みなさい。BYアンドーナッツ』

 

 

 二枚目にはそう綴られていた。

 ネス達が巡るべきパワースポットについて。

 そして……。

 

「父さん……会いたかったのに……」

 

 続けていた研究を何者かに強奪され、研究所を留守にしているというメッセージ。

 今まで柵(しがらみ)があり父親を敬遠していたジェフ。

 けれども現在は自分の過ちを認め、その罪と向き合った彼は父親に会いたがっていたのだ。

 怒られてもいい、殴られてもいい、覚悟を決めてもう一度父親と顔を合わせて全てを話したかったのだが、残念ながら今回は機を逃す形となってしまったのである。

 

「ジェフ……」

 眼鏡を外し、目元を軽く手で拭っている彼の姿にネスはそう小声で呟く。

 家族に会えずに切なそうにするジェフの姿。

 ネスとポーラは家に帰れば、誰かが迎えてくれるが彼の場合は違う。

 兄弟はおらず母親とは別の場所で暮らし、唯一同じウィンターズ内で会えるはずの父親。

 さらに会いたいと切望するこの状況で会えないのは相当寂しかったのだろう。

 

「ジェフ、大丈夫よ……今は傍に私たちがいるもの。少しゆっくりしていきましょう」

 

 力も弱く臆病者ではあるが、決して戦闘中や大切な時に逃げ腰になったり諦めたり泣きじゃくって敵に許しを請うといった行動を取らなかったジェフ。

「う、うん……ありがとう……ごめんね。ぐす……ぐす……ひっく」

 そんな彼が弱みを見せているこの時こそ仲間が不安を解消するのが大切だった。

 大声で泣きはしなかったが、眼鏡を外した目からは涙がこぼれ、鼻を赤くしたジェフに二人はその脇に寄りそう様にして、仮眠用のベットに腰かけていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウィンターズの洞窟』

 アンドーナッツ博士の研究所を後にし北へと向かう途中、真ん中に穴があり周囲を輪を描くように石柱が並ぶ遺跡『ストーンヘンジ』を間に挟んだ場所にある洞窟。

 雪国にある洞窟だけあり天井には氷柱や氷の塊などが見られ、モンスター達も冬眠を控えているのか以前リリパットステップの洞窟で現れた【かいりきベア】の上位種で体毛が水色に染まった『かいりきベア・セブン』や何処から潜り込んだのか不明だがこちらも涼しそうな水色の体をした二足歩行のワニのモンスター『強いワニ』などパワー型の敵がのそのそと歩き回っていた。

 だが今回は入り口からすぐの所に毎度恒例の光り輝く番人がパワースポットへの行く先を阻んでいた為、以上のモンスター達と戦闘を交える事無く彼らはたどり着いたのである。

 

 元々この洞窟はネス達と出会う以前、まだレベルも低くまだまだ未熟だったジェフが通って来た空間ではあったが、その際には彼が音の力を引き出せる人物ではなかった事もあり相手にもされなかった。

 けれでも今は状況が全く違う。

 音の力を取得する素質を持った少年ネスを連れて来たのだ。

 博士曰くレイニーサークルと呼ばれるスポットを守る番人の元へ。

 

「よく来た。ここは4番目の『お前の場所』だ。しかし、今は私の場所だ。奪い返せばよい。……できるものなら」

 

 そして動き始める。

 まばゆい光に身を包んだ番人が資格ある者の来訪に反応して動く。

 番の数字が変わるだけの定型的な発言を述べると番人は身に纏っていた光を消し去ると、その隠れていた姿を露わにして戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 敵の姿は人型をしたキノコの生命体だった。

 黄色い斑点が付いた赤い傘に、随分と痩せこけた部分には目玉と口が生えている。

 さらに頭部の下からは丸い胴体を持ち、足をこちらへ投げ出すように座っていた。

 だがサイズはキノコにしてはやたらと大きい、直立すれば成人の男性に届きそうな程。

 

 その名も『きょだいキノコ』

 第三の場所で倒した強い芽の進化形だった兆年寿の芽と同じく、こちらも植物系のモンスター『いけないキノコ』がパワースポットの力を吸収し、何故か痩せてはいるが急激な進化を遂げた。

 さらに仲間意識が強いのか敵の付近には同種のキノコらしきものが栽培されており、姿を現し始めた途端にぐんぐんと成長を始めている。

 恐らく戦闘中に味方を増殖させるつもりなのだろう……。

 そういった複数の特徴を持つきょだいキノコが今回の敵。

 

「ネス、ポーラ、胞子攻撃には気を付けて! 胞子を受けたら混乱状態になるよ!」

 

 植物とはいえ、地面から独立して足を使う事で移動してくる。

 

「常に距離を取りながら戦えばいいのね」

「キノコ状態はPKヒーリングでは治せないから気を付けないと……」

 

 遠距離から手持ちのバンバンガンで援護を行いつつ、ジェフは敵の行動や正体をチェックしつつ前線で戦う二人にそうやってアドバイスを送っている。

 今回の戦闘で特に警戒するは胞子を飛ばす攻撃。

 これまで遭遇したキノコの雑魚モンスター達も同様に行っていた技。

 対象者の付近までにじり寄り、頭部の傘から胞子を発射し寄生キノコを生殖させる。

 人間であれば脳へと菌が入り込んだ胞子が即座に成長、寄生キノコに変わり、ちょんまげの様に頭のてっぺんから生えて敵の動きや思考、感覚を鈍らせて、行動を狂わせる。

 ジェフが言う混乱とはこれにあたり、時折このキノコの毒が行動の邪魔をするのだ。

 

「ブッブブ!」

 

 行動自体は素早くは無いとはいえ、その自由に動ける体を生かした体当たりや彼の言う胞子を周囲にまき散らし、散布された地面の下からは同種のキノコが急成長を遂げモンスターとなった子分の『いけないキノコ』が新しく顔を見せる。

 

「PKファイアーβ!」

 

 とは言え冷静に敵の動きを見つつ、ポーラは頭部を揺さぶり激しく胞子を蒔いてくる巨大キノコの攻撃を避けては、親玉ごと一斉にPKファイアーで攻撃し撃退する。

 可能であれば威力も非常に大きく、敵の攻撃を封じる事があるPKフリーズを使いたいという意思もあったのだが、巨大キノコはこのウィンターズという寒地で育っているせいか、冷気の攻撃には怯むことが無いため断念していた。

 

「ブブブ!」

 

 打って変わって巨大キノコは体中を焼かれつつも、パワースポットを守護する番人らしく耐久が非常に高い影響で一時的に炎で足止めを行ってもまだまだ攻撃に転じていった。

 

 しかし……戦闘中にもかかわらず、ネス達全員は胸の奥で何か引っかかりつつ戦っていた。

 

 

(警戒しているのもあるけど、なんだか弱い気がする)

(何かしら……これまでの音の番人と違って……避けて技を出せば何とかなる気が……)

 

 

 多くの戦闘を経験し掻い潜り、成長したからか一匹で立ち向かってくる巨大キノコは三人にとってそれほど脅威とは思えていなかった。

 確かに胞子攻撃や大きな体格からの体当たりは『当たればヤバい』という認識はある。

 けれどもそれを差し引いても鈍重な動きからの見え見えの攻撃。

 ドスドスと足音を立てての体当たり。

 体当たり同様に近づいて頭を縦に振り胞子をまき散らす大振りの攻撃。

 時々『生えてこない事』もあったが、仮に外れても土に振りかかれば、仲間のいけないキノコが地中から生えて戦闘に加わる程度。

 こちらは生えた瞬間にポーラがさっきと同じくPKファイアーで一網打尽にする始末。

 只々、中々倒れない耐久性のみで新たな攻撃も仕掛けてこない。

 

「ネス、ポーラ。一気に倒そう! PKキアイβとPKファイアーβで止めを!」

 

 珍しく番人をも凌駕する自分たちの成長を認識したジェフは念のため購入しておいたペンシルロケット5の準備を整えつつ、ネスとポーラに敵を倒すように促した。

 

「分かった。いくよ、ポーラ!」

「ええ! 一気に倒しましょう!」

 

 ジェフの助言どおり二人は意識を集中させ、距離を開け三人の中央に立っていたキノコの怪物に向けてPSIを放とうと念じ始める。

 

「!?」

 

 対して巨大キノコは自分の危機を悟ったのか、地面を僅かに掘り新たな仲間を呼ぶべく頭を激しく振って地中に胞子を埋めまくっていたが、もう既に遅い。

 

 

「PKキアイβ!」

「PKファイアーβ!」

 

 

 敵を中心に三角を描くように取り囲み、ジェフを除いた二人は技の放たれる瞬間まで熱心に地中に埋めた胞子に土をかぶせていた番人に向かって技を放った。

 赤黄青の三色を帯びる二つの念動波が衝突して引きおこる大爆発のPSI、PKキアイ。

 そして高熱を帯びた赤い波動が敵を焼き尽くすように暴走するPKファイアー。

 

「ブグォォォ!?」

 

 入り混じる強烈なダブル奥義に流石の巨大キノコも逃れる術は無く、僅かに最後の抵抗と言わんばかりにもがきはしたものの、そのまま消え去ったのだった。

 

 

 

 

「ふう……何とか終わったわね」

 巨大キノコ一匹を見事に撃退した三人。

 場に残っていたのは高熱の熱波により焼け焦げた地面とモクモクと立ち込める煙。

 

「そうだね……ケホケホ」

「僕が思うにこれで一件落着かな?」

 

 ポーラに続きネスとジェフも言葉だけを口にして自分たちも無事だと認識させる。

 それ程広くも無い洞窟の中で大爆発が起き発生した濃い煙のせいかネスは軽く二、三度咳き込みつつも初めに言葉を口にした彼女に返事をする。

 さらに煙のせいで周囲やお互いの状況こそ詳しく確認できなかったが、戦闘終わらせた少年たちは番人が守護していたレイニーサークルへと続く洞穴へと向かうだけだった。

 

 

「私は先に行っているわ。二人も後でついて来てね」

 

 

 そうした中で一番早くに体力を取り返し動き始めたのはポーラ。

 まだ場に煙が立ち込めてはいたもののパワースポットの放つ強大な気配を頼りにして、立ち上がり服の上についた砂埃を何度か軽く払うと、先に歩いていった。

 

「うん、分かったよ。僕もネスを連れて後で合りゅ――ボカッ!」

 

 後半は何かの音に邪魔され、返事を鮮明には聞き取れなかったがポーラは構わずに向かった。

 まだ休憩しているであろうネスとジェフを置いて……。

 だが、次の瞬間だった。

 

 

 ズキリッ!

 

 

「がっ!?」

 

 ポーラの体に激痛が走ったのだ。

 

 何かが『直撃した』腰骨の辺りから体全身へと痛みが一瞬で走った。

 

 過去に味わったことが無いような肉体を抉られる様な凄まじい痛み。

 

 そして命中したのは勢いに乗っていた物体だったのか、彼女の体はそのまま土の壁に激突するように弾き飛ばされたのだ。

 

「がはっ!?」

 戦闘が終わり気を張る事なく、油断していた事もあった為体へのダメージをまともに受けてしまったポーラ。

 そうしてそのまま激突した壁から静かにずり落ちていった。

 

 

「一体……何?」

 

 

 敵の親玉は倒した。

 

 さらに言えば親玉を倒した事で周囲のモンスターは襲ってくるはずが無い。

 音の番人はいわばそのフロアの将軍に似た存在。

 

 敗北すればその場所のモンスター達は自分の意思でネスらに戦いを挑むはずが無い。

 挑んでも勝てないと分かるからである。

 

 では……誰がポーラに攻撃したのだろうか。

 

 

「う……そ……」

 

 

 解答は煙が晴れ周囲の状況が把握できた時だった。

 彼女を攻撃したのは『人間』だった。

 

 それはバットを手に持ち、眼前に立っていた。

 さらに言えば赤い帽子を被った、見慣れた人物。

 

 そう……ネスだった。

 

「ハッ!?」

 

 自分に攻撃した人物が判明したと同時に彼女は殴られた腰を抑えつつ、地面に這いつくばる様にして、彼の、ネスの姿を確かめた。

 すると、頭部から生えていたのである。

 受けていない筈の胞子攻撃により生まれる寄生キノコが。

 

「どうして……」

 

 加えて彼女にはもう一つ信じられない光景がネス以外にも確認できた。

 その脇にはもう『一体』立っていたのだ。

 

「ブブブ♪」

 

『そいつ』は混乱状態のネスにバットで殴られ、すでに地面に突っ伏して気絶しているジェフの姿を嬉しそうに眺めている。

 ほんの数分にも満たぬ時間も流れていない間に、どうした事か蘇っていたのだ。

 まだはっきりと記憶に刻まれている敵の姿。

 

 やせ細った見た目が特徴の番人巨大キノコが。

 

 

「ゼェゼェ……まさか……死んだ番人が地面に埋めていた胞子って……」

 

 

 彼女は激痛に耐えつつも、壁に手を当てて何とか立ち上がると一つの推測にたどり着く。

 だが、その推測は紛れもない解答でもあった。

 

 まき散らしていたのは『いけないキノコ』として生えない同種の胞子。

 それはいわば『自分のクローン』を地面に植えていたのだ。

 

 本体に比べると耐久や戦闘能力では劣るが、戦闘が終了したという敵の虚を衝ける。

 地中に埋まった多くの巨大キノコ専用胞子たちが融合し、新たな巨大キノコを生んだ。

 

 オリジナルである本体が敗北し、ネス達が爆煙の中で互いの姿が見えない時を見計らい指定した場所から地表へと現れ、一番の力持ちであるネスに胞子を振りかけたのだ。

 ネスが咳き込んでいたのは胞子を吸い込み、異物を出そうとしていた体の反応だった。

 

 

「ごめん、ごめん、ごめん、本当にごめんよ。ポーラ…………ぼくはこのままじゃあ、君を攻撃……してしまう! 逆らえないんだ! 早くぼくを倒して!」

 

 

 敵の思い通りに進行した奇襲攻撃により頭にキノコが付いたネス。

 残酷な事に意識はあるらしく、ネスはその手に握りしめるバットで命より大切なジェフとポーラに危害を加えた事に自覚があり、震えたまま唇を噛みしめ、悔しそうに涙を流していた。

 

 しかし体の自由は制御され、彼はバットを構えたままポーラへと近づく。

 彼女を倒せ、とキノコが彼の体を動かすからである。

 

「ブ~ブ~ブ♪」

 

 対して敵がものの見事に策にはまりご機嫌な巨大キノコ。

 元に比べて弱体化している事を熟知し、その欠点を補うべくパワー型のネスを操り敵を撃破させようと動いたのだった。

 

 

「許せない……」

 

 

 大切な仲間を利用してこちらを掻き乱し、自分は満足げに悦に入っている。

 まだ付け加えるなら意識を完全に支配されているなら、まだ言い訳は利く。

 けれどもネスにはハッキリとした自我がある。

 罪の意識がある。

 これまで行動を共にした信頼できる仲間を殴ってしまったというトラウマが残る。

 精神的に救えない、永遠に消えないであろう罪悪感が残るのだ。

 

 

「ネス、ごめんなさい。少し巻き込むかもしれないけど、もう私……キレちゃったわ」

 

 

 その敵の非道な行動はポーラに逆鱗に触れた。

 殴られた痛みなどとうに忘れるまでに激しい怒りを覚え、怒髪天を衝いた彼女。

 壁を背にして立っている彼女は両手に意識を集中させると、ネスがバットを構えて殴り掛かる前に、僅かに離れた場所で戦況を伺う巨大キノコの方角に向かって技を唱える。

 

 

「貴方は許さないわ。これで終わりよ。PKファイアー『γ』!」

 

 

 洞窟中の生物が恐れを抱くほどだった。

 余りの怒りでパワーが異常なまでに増幅されて生まれた、新たなPKファイアー。

 

「ブッ?」

 

 巨大キノコの周囲を煮えたぎる炎の念導波が瞬く間に発生。

 完全に相手を包囲するような動きで逃げ場を失わせる。

 

「ブブッ!?」

 

 さらにその後次第に囲う範囲が狭まっていく。

 そうして敵の足元まで迫って来た真っ赤な波動が最終的には……。

 

「ギギョエエエエエエエエエエ!?」

 

 集中した一点から狂ったように炎の渦が弾け飛び、まるで火山の大噴火を彷彿とさせるまでの、周囲を一瞬だが高熱に支配させるまでの強大にして強烈な威力を誇る炎のPSIにより巨大キノコは『再び消え去った』

 洞窟中に響く凄まじい断末魔をあげながら、耐久が低く動きも遅かったキノコは跡形も無く焼かれたのだった。

 こうして完全に巨大キノコは消滅し、戦闘はポーラ達の勝利で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

『レイニーサークル』

 レイニー【雨降りの】サークル【環状】と名を持つパワースポット。

 通常であればウィンターズにて空から降るものは99%雪なのだが、此処だけは特殊。

 環状に広がる澄んだ池、そして不可思議な事に雨雲は無く通常であればあり得ない現象なのだがこの池の上部には常に雨が降り、雨粒が池に落ち何度も波紋を起こしている。

 この1990年以上経った現在でも不明な点が自然現象を無視した点が多いスポット。

 今回で第四の場所にあたる場所へと苦戦の末に三人はたどり着いたのだった。

 

「さあ、ネス。行って。私の事は大丈夫。貴方の頭のキノコと同じでここで回復したから」

「ネス、僕も大丈夫さ。僕らは背中を預ける仲間だ。君の事を責めたりなんかしないよ」

 

 混乱したネスのバットで腰を力いっぱい殴られ重傷を負っていたポーラ。

 潜んでいた新たな巨大キノコの胞子を受け、頭部から寄生キノコを生やしていたネス。

 同じく不意を突いた混乱状態のネスに頭部を殴られ、気絶していたジェフ。

 三者ともパワースポットが及ぼす治癒の力により全回復していたのだった。

 

「本当にごめんね……ポーラ。じゃあ行って来るよ」

 

 何はともあれ、見事に番人を撃退し無事に生き延びた事。

 信頼で結ばれた強い絆のおかげで互いに言い争いをする事なく、ネスはまたパワースポットの力を引き出すべく不思議な雨降り池の元へと歩み寄っていった。

 

 そして静かに瞳を閉じると、

(クンクン……この匂いは……)

 

 今までは脳に流れた過去の映像、頭に響いた過去の母親の声。

 今回彼に影響を及ぼしたのは嗅覚だった。

 一瞬ではあったがネスはそれを感じ取った。

 

(あれは……間違いない。ママが作ってくれた……)

 

 嗅いだ匂いは実家から離れた今となっては懐かしいハンバーグの香り。

 母親が焼いてくれた大好物のハンバーグの焼ける臭いだった。

 

(えへへ……全てが解決したらまた食べたいな。今度は仲間と一緒に)

 

 そしてネスは少しホームシックになりつつ仲間たちの元へ清々しい気分で戻るのだった。

 

 

 ♪♪~♪~~♪♪♪~♪~♪

 

 

 続けて同時に流れ込んできた心地よい音をその耳に残していたのだった。

 ネスの持っている音の石が『レイニーサークル』の音をきちんと記憶したのだ。

 

 

 

 

 

 




 大晦日前から年始までは完全にプライベート友人や親せきと遊び呆けていた他、今期の冬アニメに釘づけだったり、一部が感動のラストで幕を下ろしたfateのソーシャルゲームやデレステを遊びまくっていたりで、小説を書くという事からから完全に離れていました(汗)
 そのため新しい話自体がここまで遅くなりました。
 
 さて今回のお話についてですが、まず原作では巨大キノコは増えません!
 これはあくまでオリジナル展開です。というより個人的な感想としてこれ以降の音の番人の殆どがこちらが強くなっていくため、相対的に弱くなった事で私自身が苦労ししなかった事もあり、現在どう苦戦させるかで悩んでいる始末です。
 そのため新しい特性を作り、戦わせることにしました。
 ヘリを強奪し飛び行くポーキー、アンドーナッツ博士、様々な場面の展開が増加していく中でこの小説もそろそろ中盤に突入します。

 ※この先MOTHER2のネタバレ注意!




 五番目の音の場所、六番目の音の場所が原作的にすぐに顔を出す場所にあるので、物語としては続けて書いていくつもりです。
 そのため七番目が非常に遠くなりますが、もうそこまでいけばラストに近くなるので、この作品も結構進んでいるのだなとしみじみ感じます。
 ではここまで読んでくださったユーザー様、ありがとうございました。
 次の話でまたお会いしましょう! それでは失礼いたします。
 皆さま2017年もヨシノスケをお願い致します!
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