今回はゲームのオリジナル版同様に少しだけトラウマ成分を含んでいます。
かなり緩和はしているつもりですが最初に注意だけ書かせていただきます。
では色々な展開が多い本編どうぞ!
※内容が前話から繋がっています!
(ネスは薄れゆく意識の中で夢を見た。とてもはっきりしていて不思議な夢だった)
夢か現実。
はたまたその夢はもしかすれば、誰かの現実と繋がっているかもしれない。
自分の見た夢が、誰かの身に起こればそれは立派な予知夢。
故意でなくともその人物は確かに誰かの現実に触れている。
特にネスは強いテレパシーを持つが故に起こった事なのだろう。
これは……そんな彼の夢と現実が重なった奇妙にして運命と呼べる時の話。
その地はランマと呼ばれている。
イーグルランドともフォギーランドにも属さない遥か東に位置する国。
雲よりもはるかに高いチョンモ山と名付けられている山中の上に浮かぶ島国。
まるで天上の国とも呼べる雲上に陸地が形成されている。
専用の気球でなければ周辺国とも触れることが出来ない幻想的な国。
そして世界から孤立したように現存するこの国から今回の物語は動き始める……。
『ランマ国 王子の宮殿』
ある一人の少年が玉座に座っていた。
先程に湯浴みを済ませ、今では白い道着に身を包んでいる辮髪(べんぱつ)頭の人物。
黄金の壁や床、天井と神々しく煌びやかな宮殿の中を見ながら彼は体を任せるように獅子を象った金の玉座で腰を落ち着かせていたのだった。
彼の名はプー。
そう、ネス達の仲間の最後にして運命の少年の三人目にあたる人物である。
同時にこのランマ国を治める王の息子でもあるのだ。
「プ―王子様、いよいよ最後の試練に挑むときがやってまいりました。なるべく早くに『無の場所』に赴いてください。貴方ならば必ずや成し遂げてこられるはずです。最早私から教える事はございません。最後は歴代の王全員が踏破してきた試練へ挑むのです」
場で初めに発言したのは彼のお目付け役であり、同時に鍛錬の師匠である隣の老人。
イースーチーと名を持つ彼は、愛弟子であり尊敬すべき王子であるプーにそう向けた。
「勿論だ、俺は乗り越えて見せるとも。ではまた会おう、イースーチー」
王の風格と厳しい鍛錬で鍛えあげられた落ち着いた精神により、プーはネス達とは一風違った雰囲気を漂わせる武人に似た少年だった。
容姿端麗で、それを鼻にかける事無い国を治めるに相応しい誇り高き人物。
そんな性格から多くの人間から信頼を向けられているプーは玉座から立ち上がると、付き人を付ける事無く自身が生活しているこの黄金の宮殿から立ち去っていったのだった。
雲上に位置する国ランマ。
雲上とは言っても陸地の一部が切り離され宙に浮かんでいるという現象に近い。
その為、頂点にあるプーの宮殿から陸地を降りていくと民の住居が並んでいた。
畑、農場、露店など毎日の様に住民達が懸命に働く姿が毎日確認できる。
そんな何とも絵空事の様な場所に構えている王国ではあるが、国民は地上で生活する人間と何ら変わりなく仙人や修行僧ばかりが住んでいる訳では無い。
それこそ交易と行う以外にもランマが所有する気球に乗り、この国に住みたいと望む者が現れれば、住居を持つ事を許されるうえに、逆に国を離れる事も許される。
「きゃー、プ―様よ! 今日もカッコいいですわ」
「これはこれは王子殿、毎日の修行お疲れ様です!」
どんな修行にも屈しない誇り高き姿から国中からの信頼も厚い王子プー。
修行も大切だが、いずれ治める国の中を確かめるべく巡っていた。
(恐らく……無の試練を越えれば、俺はこの国を……)
ある予感を感じ取りながら……。
ランマの国は言ってしまえば三段の構造で成り立っている。
上段は王子の宮殿がある王の地。
中段は広く伸びている陸地に全ての国民が生活しており、交易用や移住用の気球港や住居などのランマの主要とされる機関の全てが揃っている。
そして出会う国民たちに挨拶を交わしながらプーが今向かっている下段。
中段と比較すると陸地が僅かに狭まり、あまり人の立ち寄る事の少ない地。
ここには大きく『二つ』の聖地が存在している。
まず一つ目は……。
『オイラ達動かない。いくら王子でもこの先いかせない』
『特別で美味しいニンジンくれたらどいてやる』
『でも王子一人じゃあ、ここ意味ない』
それは王国の裏側まで伸びる薄暗い通路を進んだ位置にある洞窟。
国民の多くはその洞窟についての詳しい情報を知らない。
それどころか王族ですら侵入する事を許されない奇妙な場所。
入り口を塞いでいるのは全身が真っ黒なウサギの三匹。
直立する様に行く手を阻むウサギ三人はプーにそう告げる。
果たしていつからいるのか、はたまたこのランマが建国される以前からずっとこうして入口を塞ぐ番をしているのかは一切不明。
だがその洞窟の奥にある場所こそ聖地である。
さらにその名前は判明している。
「無の修行を乗り越えても、俺は通ることが出来ないのか?」
『ダメ、聖地ピンククラウドは人を選ぶ。例え君の様な凄い才能を持った人間でも、聖地の力を得ることは出来ない。だからオイラ達邪魔する』
『通りたいなら特別なニンジン。まずはオイラ達をテコでも動かせない奴は、例え神に選ばれた人間でも通さない。さあ早く、無の修行行く』
ランマの聖地の一つ目はピンククラウドと呼ばれる未開の地。
それがこの大陸の洞窟を抜けた先にあると古来より言い伝えられているものの、門番であるウサギたちがずっと妨害している件もあって誰も検証は出来ていない。
加えて先代の王から仕えているイースーチーでもこの場所については深く知りえていない。
「分かった。では行ってくる。だがピンククラウドとやらはこの目で確かめてやるからな」
『頑張れ、王子。オイラ達待っている。その時を』
最早生物なのかすらも不明な三匹の黒ウサギたち。
無の修行の前に立ち寄ったプーとの対応を終えると、彼ら(?)も大切な王子の事を気にかけているのか、背後から声援を送る形で離れていく彼を見送るのだった。
(…………この地は未だに俺を認めないのか?)
自分たちの向けた言葉が彼に迷いを生むとは知らずに……。
無の場所。
それがランマ国第二の聖地の名称。
国がある大陸から長く伸びた道を進んだ先にある先。
見上げても頂上の景色が見えぬ程の高さを誇る切り立った高台。
プーはそのふもとで、ある人物と言葉を交わしていた。
「王子よ、ついにお前も無の修行をする時が来たか」
プーに向かってそう語る存在。
頭部の毛が無いツルツルとした肌色の頭に、鼻の下から長い白髭を携えた老人。
ヒノキの杖を手に持ち、痩せた体には緑色の質素な布を羽織っている。
彼は名を持たないが、プーやランマの国民からは『仙人』と呼ばれていた。
「仙人様。俺はこの無の修行を乗り越える事で何かが変わるのだろうか? 修行前から僅かに迷いがあるんだ。もし超えてもピンククラウドは俺を認めない。いつか父上が王位を譲ってくださる時が来れば、俺は王になる。だがこの地に認められぬ王などいる事に意味があるのか?」
彼は最近になってからずっとそんな疑問を抱えていた。
普段、滅多に姿を見せる事の無い仙人。
尚且つ過去に無の修行を難なく乗り越えたという逸話を持つ彼にだからこそ尋ねたかった。
国を治める将来を持つ彼にとって、自分はこのランマという地に望まれているのか。
プーは老人の顔を見上げて、真剣な眼差しでそう問うた。
すると、仙人は伸びている髭に手を当てると、
「残念じゃが、その問いには答えられん。ワシはお前では無い、逆もまた然りだ。人の存在価値を他人が決める事程愚行もあるまい。これは全ての人間に言える事なのじゃ」
かぶりを振って、彼はそう冷たく告げる。
「…………」
プーは彼の言う理論には反論できなかった。
さらに仙人はある例えを用いて、迷いが残っている彼に問う。
「では、例えよう。ある一人の人間がお前を王にする事を拒んだ。たった一人だ。それを聞いたお前は王になる事を諦めるか? これまで築き上げてきた全てを捨てて逃げるのか?」
今のプーには少し難しい質問だった。
仙人もそれを承知の上で、敢えて問いただそうとした。
最終修行に赴く前の彼の器を図るべく。
(………………)
対してプーは暫しの間黙って考えた。
(………………)
顎に手を当て、視線をランマに向けて長考する。
(………………)
まだ国を治める行政等の知識は浅いが、それでも長く考え抜いた。
すると……。
「なるほど……そういう事か。すまなかったな、仙人様」
やたらと落ち着き払った表情でプーは何かを悟った。
「うむ、答えを聞こうかの」
表情からいい結果が出たと察した彼は改めてその解答を尋ねる。
そして迷いの概念が無くなった思しき王子の言葉に耳を傾けた。
「俺は王になって【受け入れる事】にした。一人の民が不平を言うのであれば、それは自身の無力さを訴える貴重な意見だ。その人物の不満を解消する事で皆が満足する結果を得る」
「では、次にお前はその答えから何を学んだ?」
雄弁な意見をハッキリと語ったプー。
けれどもそれを己の中で生かせぬならば意味は無い。
仙人は彼が悟った教訓についてそう尋ねた。
「俺は聖地に認められなかった。だがそれで俺の人生は終わりではない。まだまだ多くを学び経験していかねばならない。だからこんな所で迷わずに、諦めずに、現実を受け入れて乗り越えていくしかない。それこそ俺が今の問答で気が付いた事だ」
彼の答えに仙人は静かに頷く。
他人に尋ねずとも自分で立派に答えを導いたプー。
「ならば、行くがよい。この修行を越えた先、世界にはまだまだ其方の知らぬ知識が溢れかえっておる。お前に高度な術を与えてやりたかったが、ワシも未だ修行の身。いずれまた会おう」
彼はプーにそう言い残すと、自分の体を竜巻に変え何処かへ飛び去っていった。
果たして次に彼と出会うのはいつになるのか……などはあまりに気に留めずに、逆に高度な術とやらは僅かに気になりはものの、プーは仙人の去った無の場所を見上げると、
「多くを悩み、時を浪費するよりは一つを片付けるべきだな」
仙人との会話で一つの大きな迷いが払拭できた彼。
清々しい気持ちとなった所で、プーは修行場所である聖地の頂上へと向かうべく上から垂れているロープへと手を伸ばし、力を入れて上部へと昇っていくのだった。
『無の場所・頂上』
昇り始めの下層部が小さく見える高さを誇る無の場所の頂上。
多くの修行者にとって最後の関門とも謳われ、時には『廃人を生む』とされる過酷な地。
その恐ろしい理由は修行方法にあった。
天に最も近いとされるこの高台で瞑想をする。
内容としてはたったこれだけだが、仙人を除いた多くの人間達はこの地で挫折している。
(…………)
頂にて座禅を組んでいるプーも既に瞑想を始めていた。
瞳を閉じ、呼吸を乱すことなく静寂に満ちた時間を感じ取る。
「おお、おいたわしや、プー様。ワタクシはイースーチーの使いの者でございます。今すぐ修行を止めて宮殿に戻られるようにと仰せつかっております。どうか今すぐ宮殿にお戻りを!」
そんな中で彼の精神を掻き乱そうと何度か高台の下から大声をあげる女性が現れる。
随分と慌てた様子で、危険な無の修行をするプーを連れ戻そうと訴えるのだ。
もしかしたら王子の精神が侵されるかもしれない。
それを心配する様に何人もの使いが彼に呼びかけるのだが、
(…………)
一糸乱れぬ姿勢でプーは集中を乱される事が無かった。
……というものの彼は察していた。
イースーチーが自分の集中力を試そうと、瞑想の妨害をして今までの成果を図ろうと。
その為民の行動は全て演技であると。
(…………)
鍛え上げた持ち合わせの集中力と、乗り越えねばならぬ無の修行という壁の認識でプーはいつからか、下で騒ぐ民の声が一切耳に入らぬ『無我の境地』へと入っていった。
ここからである。
ここからこそが多くの人間が正気を失った『無の修行』が始まるのだ。
まるで星空の中に一人だけ取り残されたような静寂と孤独が支配する空間。
匂いも、音も何もない。
助ける人間も誰もいない。
幽体離脱の様に魂だけが体から抜け出たのと似たフワリとした感覚。
『……………………』
一切が暗闇の中で座禅を組むプーに『ある存在』が上から降りてくる。
それこそが多くの挑戦者を追い込んだ、または諦めさせた元凶。
やがて現れた『存在』と静かに佇むプーの体が一体化した時だった。
『さてさてプー王子。私はお前の先祖の霊じゃ。無の修行へとよくやってきた』
耳の奥で男性の枯れた声らしきものが響き渡った。
存在とは『先祖の亡霊の事』だったのだ。
そう、無の修行の番人は自身の遥か遠い血筋の霊の事なのである。
では……先祖の霊の何がそれ程人を狂わせるのか……プーも即座に把握する。
『では試練の仕上げに【足をへし折るがよいな?】、お前は足を失うがよいな?』
これが修行の恐るべき内容。
痛みに耐える事……それこそ生涯で感じた事の無い悶え苦しむ程の激痛。
常人ではとても耐えかねない生き地獄こそが無の修行の姿なのだ。
(………………)
意識を乱さぬためかプーは無言だった。
しかし、心の底で『承諾』した。
すると、先祖の霊は勿論、容赦なくへし折った。
ボキリッ!
そんな骨の曲がる音が二度聞こえ、両足は使い物にならなくなった。
強引に骨をあらぬ方向へ向けられ、耐え難い激痛の筈だった。
既に足の感覚を失い、腰から伸びているのは己の足では無い物がぶら下っている感触。
(………………)
ところが、プーは一言も弱音を吐かずに耐えた。
流石に微かに汗は垂れていたものの見事に耐えしのいだ。
けれども、これはまだまだほんの序の口。
無の修行は始まったばかりである。
『さてさてプー王子。足を失って歩けぬか。良いのだぞ? 怖がって目を覚ましても。ただしお前の足は見るも無残な事になっておろうがな……。では次は【お前の腕を千切る】。腕を千切って、腹を空かせておるカラス共に食わせるがよいな?』
(………………《承諾》)
ブチッ!
それは肉が裂けた音。
今度は折るのではなく、分離。
骨ごと腕を引きちぎられた凄まじい痛みの感覚が体に衝撃を走らせる。
断面からは、どくどくと生暖かい液体がこぼれている認識がはっきりある。
(………………)
ここだった。
殆どの人間が度を越えた凄まじい痛みに精神が崩壊したのは。
『ほう、大した奴だ。まだ若くしてこの痛みに耐えるか』
されど、プーは先祖の霊が感心する程に突破した。
集中を乱すことなく、ただ、『座禅を組んでいた腕』を失い寝そべる形で。
『はてさて、プー王子。腕も足も失い転がり続けるか。しからば次は【お前の耳を削ぐ】。削いでも良いな。音を失うがよいな? 耳を削いでも良いのだな?』
(………………《承諾》)
スパッ!
聴覚を失う直前に耳に響いたのは鋭利な刃物が空を切る音だった。
ナイフの様な切れ味の何かが彼の耳を頭部から削ぎ落した。
腕の時は何処かに投げられ、それが地に当たる音が届きはした。
だが今回は聴覚も失った。
ただ身に残るのは痛みのみ。
(………………)
もう死よりも恐ろしい、拷問の気すら感じられる現状ではあるが霊は問答無用で続行。
『これは、これはプー王子。足、腕も失い、音も聞こえぬか。ではお前の瞑る瞳に言葉を送り問いだしてみせよう。【次にお前の眼(まなこ)を潰す】が……それもよしとするか? お前は一生深み闇、暗黒の中で生きる事を望むか? 眼を潰すぞ! 良いな!』
(………………《承諾》)
グチャリッ!
プーには聞こえなかったが、空間内には確かにそう音が響き渡ったのだ。
頭部の中でも肉で構成されていない眼球が刺されるような激しい痛みを伴い機能を失う。
(………………)
最早プーは孤独の空間の中で『只の肉塊』として倒れ込むのみ。
続くえげつない激痛のせいか感覚が麻痺し、いつからか触覚が無い。
耳を削がれ、聴覚も無い。
目を潰され、視覚も無い。
味覚も嗅覚も完全に麻痺している。
五感を無くし、残るのは恐怖だけ。
(………………)
だが、プーは必死に耐えしのいでいた。
もうこの域に達すると自分がどれ程の汗を掻いているかの自覚は消えていたが、意識を保ち集中力を乱すことなく、無の境地にしっかりと留まっていた。
《プー王子よ、ついにお前の心に直に問いかけるしか出来なくなってしまった。もはやお前には心しか残っておらぬ。では最後の質問だ。最後には【心を奪い取る】が、それだけはお前にも許せまい? おや……返事も出来ぬか? 動くことも出来ぬか? 悲しいか? 辛いか? 切ないか? 心を奪い取られれば、悲しみさえも失うのだぞ! 良いのかプー! 心を奪い取るぞ! プー王子よ! 心を奪い取るぞ!》
彼は最後まで王族らしい気品と風格を兼ね備えた少年だった。
恐怖にも屈せずに、最後まで集中を掻き乱される事なくプーは霊の質問に返事とした。
唯一残った心の奥底で、それを承諾したのだった。
( )
もう彼には何も残らなかった……。
機械の電源を切ったように、プーの意識はそこで途絶した。
いや、むしろ途絶したという感覚はあっただろうか。
今まで違い、何をされたのか感じ取ったのだろうか。
全ての情報が無に帰した所で【王子だった何か】は場に取り残されたのだった。
無の修行とは名の通り完全な無の領域への侵入が目的だった。
自身を脅かす恐怖、絶望、痛み。
その苦しみを何とか乗り越えても、なお平静を保たねばならない。
乱れぬ心こそ戦闘における重要な心構え。
どれ程辛く苦しい状況であっても耐え忍び、芯を持って挑まなくてはならない。
苦しみの中でも希望を見つけ、恐怖に打ち勝つ。
それが厳しい無の修行で体得できる尊い概念だった。
「お見事です! プー王子様! 見事に無の修行を乗り越えられましたね!」
「この目で立派に修行を終えられた王子の姿を見れて、私は嬉しいです」
「私たちは感動いたしましたわ。あっぱれ! プー王子!」
プーは生きていた。
幻覚だったのか先祖に奪われた全ての器官は残っている。
それでも死んでも死にきれない激痛に耐えきった彼は多くの国民に見守られながら無の場所からロープを伝って降りていき、一際勇ましくなった顔つきで宮殿へと戻っていく。
道中も国の民から称賛の声を浴びつつ、足を進め、イースーチーに報告しに向かった。
こうして歴史上まだ二桁にも満たないとされる修行の『到達者』として、無の修行を乗り越えた人物として修行者たちからは大いに称えられる存在となったのだった。
「無の修行によく耐えてくれました。これでこのイースーチーめが貴方にお教えする事は何も無くなりました。私は貴方様の様な素晴らしい人物の元で働けているこの今に感謝いたします」
無の修行で体中に掻いた大量の汗を湯浴みで流し、新たな道着を着用したプーに、イースーチーは跪く様にして玉座にて控える王子にそう大きな声で告げる。
「ありがとう、イースーチー。だが、お前に一つ聞きたい事がある」
礼儀正しく言葉を述べる師匠兼お目付け役の彼にプーはそう尋ねた。
「何度か夢に出てきて察しはついているんだが、お前が俺を【慌てて無の修行に向かわせた】のには理由があるのだろう。この疑問を確信に変えたいんだ、答えてくれ」
本来であれば、無の修行は【成人の齢を超えた者】しか挑む事は許されない。
けれども、イースーチーはそれを重々承知しつつも、まだ成人に満たない彼を向かわせた。
訳は明かされていなかったが、信頼する彼が指示を出した事もあり、プーは不平を一切口にする事なく無我夢中で果敢に修行へと挑んだ。
であれば乗り越えた今こそと彼はそう疑問を投げかけた。
すると、イースーチーは跪いた姿勢から顔をあげて訳を述べる。
「はっ! では私が受けました神の啓示。天からのお告げを伝えまする」
そう言うと彼はさっと立ちあがり、手を後ろに組み目を閉じて神から授かった言葉を告げる。
『全ての邪悪なるものを動かし、それを支配する大いなる闇の神が歴史上最大の戦いを我ら人類に向けて挑んでおりまする。コレを受けて立つはたった四人の少年少女。ポーラ、ジェフ、そしてネスと言う特別な少年がその頭(かしら)でございまする。そして最後の少年はプー王子、貴方なのです。急いで貴方に修行を完遂させたのはこれが理由でございます。さあ最後の修行に打ち勝った今、すぐにネス殿の元へと飛んでくだされ。多くの生命の為、この世の平和の為に……大きな力となってくだされ』
「やっぱり、そうなんだな……」
イースーチーの口にしたお告げ。
その内容はプーも『よく見る夢』にて知っていた。
自分より歳の低い見知らぬ少年二人と少女と共に大いなる敵と戦う。
ネス達と同じくPSIの才能がある彼はおぼろげではあったが把握していたのだ。
そして……改めて自分の遂行すべき啓示を認識すると、
「やるべきことが分かったせいか……何だか力が湧いてきた」
厳しい修行を乗り越えた彼の体が急激な成長を遂げ始める。
まるで体中を拘束していた錠が外れるように溜め込んでいた力の全てが解放されていき、力、IQ、体力、耐久力、スピード等のステータスの上昇だけでなく『シールドβ』『テレポートα』『テレポートβ』の三種をPSIの奥義を会得した。
「では、行ってくる。また会おう、イースーチー」
「ご武運をお祈りしております、あっ、これをお持ちくだされ!」
場を去ろうと別れの言葉を告げた王子にイースーチーは慌てて彼に向けて、何かを渡す。
「これは?」
「金銭をお持ちにならぬ王子への餞別にございます。他国からの献上品である『ルビー』です」
彼は金を持ち歩く事の無いプーの身を案じ、ルビー付きの高価な首飾りを送った。
元々、プーの父親であるランマ王から賜ったものだったが、彼に譲ったのである。
「ありがとう、イースーチー。では行ってくる」
イースーチーが常に大切にしていた宝石を貰ったプー。
そして今度こそ旅立ちを覚悟し、目的地へ向かう為に意識を集中させる。
夢の中で見たネスと言う赤帽子の少年の姿、その他にも金髪の可愛らしい少女ポーラ、眼鏡と機械が良く似合う発明家ジェフの姿をイメージする。
直線状を高速で走るテレポートαでは無く、狭い範囲の中でも空間移動しやすい弧を描くように何度も回転するテレポートβを使用し、宮殿から姿を消すのだった。
一方でマジックケーキを食べて気を失っていたネス達。
原因はケーキに大量に含まれていたワイン等のアルコールだった。
それでいて酒の独特な風味を全く感じさせない味付け。
つまり……気絶というよりはただ酔いつぶれただけだった。
「なんだか酒臭いな」
そして気が付き、三人が目を開くと見覚えの無いべんぱつ頭の少年が正面に立っていた。
アルコールの臭いが自分たちの体表から染み出ているのか、鼻を塞ぐようにして。
「えっと…………君は?」
頭を軽く何度か叩き、意識をハッキリさせるとネスは名も知らぬ人物に尋ねる。
同じくポーラとジェフも酔いを醒ますように頭を軽く振ったり、目を擦ったりして意識を覚醒させる中で、白い道着姿の謎の少年は即座に答える。
「俺の名はプー。お前達と共に戦う者だ」
プー。
かつてドコドコ砂漠にてタライ・ジャブが口にしていた少年。
四人目にして最後の仲間。
「そうか、君が夢に出てきたプーなんだね。ぼくの名はネスだ。これからよろしく!」
どこまでを夢で見ていたか不明だが、ハッキリとした夢の中で彼を目撃しているネス。
さらにテレパシーの強さも、PSIの気配も感じ取り、同一人物と認識する。
夢で見ていたという訳にもいかなかったが、ネスは笑顔で彼を掴みそう言った。
リーダーとして遠き国から駆けつけてくれた彼を優しく受け入れたのである。
「私はポーラよ。よろしくね、プーさん」
「僕はジェフさ。よろしく、プーさん」
続いて二人も敬称を交えつつ挨拶を交わすが、その名にどうも違和感を拭えないのか、
「……まだ出会って数分と経ってないが、俺達は大いなる運命に導かれた仲間だ。だから、さん付けはいらない。呼び捨てで一向に構わない」
自分の身なりや身長から四人の中で大人びている雰囲気をポーラとジェフは感じ取り、そう敬った呼び方をしていたが、これから冒険をする仲なのだからとプーはそう否定した。
こうしてメンバーの中では一番の年長者である少年プーが仲間に加わったのであった。
『スカラビ文化博物館 2階』
改めてネスが自分たちの冒険の目的をプーに詳しく説明した。
ギーグという宇宙人のボスとその僕(しもべ)達が地球へと乗りこみ、この青い星ごと乗っ取り生息する人間や生き物を地獄の底へと叩き落とそうとこちらを伺っている事。
その為に今はスカラビにあるピラミッドについて、そしてギーグの手先と考えているポーキーがこのサマーズにて、考古学に興味を抱くような不可解な行動について。
要点を絞った説明を受けたプーは現在ネスらと共に博物館へと顔を出している。
そう、まだ改装中の二階へと。
賄賂(わいろ)を渡す人間は中への出入りを許す、がめついスタッフが番をしている二階へ。
「へっへっへ、何とも勉強熱心なお子さん達だ。好きなだけ見て行ってください!」
何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはならない。
それを悟り、尚且つ仲間が困っているのならば助けない道は無い。
「ごめん……プー。仲間になった途端にあんな綺麗な宝石を……」
なんと、プーは冒険の為だと師匠であるイースーチーから受け取ったルビーの首飾りを嫌な顔一つせずに、宝石に目が無い男性スタッフに譲ったのである。
よってネス達一行は、まだ改装中で立ち入り禁止の筈の二階へ侵入。
実際、改装自体は殆ど完了しており、後は壁に塗り固めたコンクリート等が固まるのを待つ事と、他の展示品を余っている台座の上に飾る作業を残すのみだった。
とは言え、今まで調べられていなかった二階展示室。
唯一設置が完了していたのは所々ひびが入っている古びた石板。
それはスカラビより出土した物で、古代文字の文が記された石板、通称ヒエログリフ。
聖刻文字、神聖文字とも呼ばれる古代の文字。
現在では解読できるが、それでも紀元前4世紀から19世紀まで、フランスのシャンポリオンというエジプト学の学者によるロゼッタ・ストーンの解読以降でなければ読む事は出来なかった謎多き文字。
三人の前に姿を現す絵文字の羅列とも取れるヒエログリフが持つその意味とは?
「全然読めないんだけど……」
「僕の専攻は考古学じゃないからさっぱりだ」
「そもそもこれは文字なのかしら?」
と現代での解読は一応可能ではあるものの、小学生の年齢で読み解ける訳がない。
ネス、ポーラ、ジェフは茫然としながら部屋の中央に飾られた石板を眺めている。
改装中のせいか、他の展示物も無く三人は只々知識を持ち合わせていないにも関わらず、何とか解読しようとはしていたが、結局は何の役に立てなかった。
すると……。
「この石板の内容は、恐らく…………【天よりの侵略者にむけて、我々は四角錐の要塞を建造し、戦いに備えた。けれども我々は奇しくも敗れた。だが、我々の要塞はスカラビの神が身によって守られた。しかし天から来た侵略者は千年毎に生まれ変わり襲ってくるという。侵略者は時の彼方へと隠れ、悪の『巣箱』を置いた。時の彼方は我らが故郷より南に位置する魔境のはるか先、地の底の向こう側。魔境は暗き闇。『タカの目』だけが闇を払い、光を見る。我らが守り神スフィンクスが全てを護り、真の勇者の訪れを待つ。スフィンクスの前で星を描くように踊れ】」
まるで教科書に載っている内容を話すように。
スラスラとヒエログリフの内容を解読したのは王子プー。
「ネス、簡単に訳すとだな。スカラビに向かうんだ、そして何かの鍵を握っているピラミッドへ何としても向かうんだ。やる事があるなら今のうちに済ましといた方が良い」
余りにもプーが高い知識を身に着けていた影響だろうか。
「はっ!? …………わ、分かった! もうバッチリ頭に入ったよ!」
知識という世界から完全に置いていかれ、呆気に取られていたネス。
ポーラとジェフも同様にあっさりと解読を終えた事に仰天。
(一体、プーは何者なんだ? いくら王子でも古代文字を読めるって……)
(プーって実は凄い偉人なんじゃないかしら?)
仲間内で彼に対する疑念が渦を巻く中。
ドアの脇で待機している男性スタッフが紐で巻いた羊皮紙を持って歩み寄る。
因みに彼は博物館の従業員でありながら、ヒエログリフの解読を出来る程の知識など持ち合わせておらず、どちらかといえばネス達と同じプーの事を感心する側であった。
「いやいや、素晴らしい方々だ。実はこの前ヘリコプターでこのサマーズへ訪れられた小太りの少年がヒエログリフを写真に撮り、一部の資料の複製を高値で買い取っていかれたのです。あの時は美しいエメラルドの原石や小さなダイヤモンドを受け取りましたかね」
ヘリコプターでサマーズへ現れた少年。
大方の可能性のみで、確証が無かったがここでついに判明した。
(やっぱりポーキーはここに来たんだ)
男性の話を聞いて、ネスは少し顔を強張らせつつも続けてスタッフの話に耳を傾ける。
「そこで、貴方方の熱心な姿。特にそこの宝石付き首飾りを譲ってくれたべんぱつの坊ちゃん。お若いのにヒエログリフを読めるなんて私は感動いたしました。是非ともこれを受け取ってください。これからの勉強の為にも役立ててくれれば、ヘッヘッヘ」
賄賂として受け取った金品が大層気に入った事と、まさか解読を出来る少年が現れた。
その二つが相まって、男性は手に持っていた羊皮紙の紐を解き、プーに渡した。
「ヒエログリフの写しです。今の私は非常に気分が良いので特別に差し上げましょう。他の従業員の方には秘密ですよ。人類の文化の為に大いに役立ててください!」
犠牲はあったが、思っていた以上の見返りもある。
正直なところネス達三人からすれば高価な宝石の代償が、情報と羊皮紙だけでは不服。
いっそのこと、スカラビまで船で送ってくれてもまだまだ足りない位。
(これで……俺達は大切な事を知りえた。すまない、イースーチー、だが助かったぞ)
けれども精神が成熟したプーからすれば、情報の価値。
情報は金や物と違い目に見えぬ事もあるが、これからの世界に影響を与えるこの冒険についての先についての希少な情報を手に入れた彼だけは納得していたのだった。
ここまで読んでくださった読者の方々ありがとうございます。
展開がが一気に進み、ついに仲間も揃いました。
使いやすい一人称の『俺』キャラ登場でさらに物語を盛り上げたいです。
では今回の本編についてまず『ム』の修行についてですが、生々しい感じで自分が考えて知っている言葉を使ってR18にならない程度に作ったつもりです。
原作でも同じことをするので、ここはプレイ時も中々怖かったです。
博物館については中ボス(?)『ひびわれ男』というミイラがゲームでは登場するのですが、ここで突然戦うという流れは無しという事でカットしました。
哀れ……ひびわれ男。
ランマの国の描写は非常に苦労して、本当にこれでイメージは伝わるのか? ピンククラウドはこれで良いのか? という疑問が未だ残っています(汗)
ゲームプレイ時の感想としては、ムの修行の時に本編同様、女性が呼びに来て邪魔をするのですが、それで毎回毎回集中を乱して宮殿に戻っては、無の場所に戻るを繰り返して無限ループ地獄に陥った事がありました。
進め方を忘れた二週目以降にこれが多かったですね!
さて、次の物語はストーリーから若干離れて、大切な物を回収に回ります。
展開的に短いので少しでも早く次の話をお届けできるように頑張ります!
ではでは、また次のお話でお会いしましょう!
最後まで読んでくださりありがとうございました!
これにて失礼いたします!