mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

30 / 38
 なんやかんやでまた文章が伸びました。
 まず初めに今回はオリジナル展開や敵にオリジナルの技が入っているので原作をプレイされた方でも少し新しい内容が含まれている事だけ、先にお伝えします。
 では後の内容は後書きにて、本編をどうぞ!


第六の音の番人とピンククラウド

 第五の音の場所マグネットヒル。

 

 下水道のダンジョンを進み、音の番人である巨大ネズミとの死闘を潜り抜けた先を抜けた四人は大都市フォーサイドの中でまた新たなパワースポットへと訪れた。

 

 人の手が至る所に入った都市の中に孤立するように存在した不思議な空間。

 周囲を高いレンガの壁で隔離され、近寄る物にしかその場所の真の姿を現さない。

 上空からでは只の芝生が見えるのみ。

 

 けれども苦難を乗り越えて到達した者には、パワーの源である磁気を帯びた塊が迎える。

 そう言った幻想に包まれた場所。

そこでネスは仲間たちとの奮闘の甲斐もあり、音の力を取得した。

 

 これにて次なる冒険の目的地スカラビへ向かう前の寄り道が終わり、早速彼らは長く続く海を越えた砂漠の国スカラビへ渡る為の船に乗るべく、港町と隣り合わせに存在しているリゾート地サマーズへとPSIのテレポートを使って移動する。

 

 

 

 

 と、本来ならば……移動する筈だったのだが……。

 

「ネス! 俺の故郷『ランマ』へと向かってもいいか?」

 

 そんな行き先の変更を提案したのはプーだった。

 下水道という戦場で汚れた体を都市内の銭湯で流し、ホテルで一泊。

 そして音の場所を訪れた次の日である現在。

 回復アイテムや便利なグッズをデパートやショップにて買い揃え、戦いに備える準備を整え、これから向かおうかという動き出した時にそんな提案があった。

 

「どうしたの? 何か忘れもの?」

 

 彼の意見を聞いたネスは突然の言葉にそう尋ね返した。

 すると、プーはマグネットヒルにて金属の塊とは別に置かれていた玉手箱から回収した『ある野菜の束』を取り出して見せる。

 

「こんな変な物があの中に入ってたのかい?」

「なんか色がおかしいけど……これはニンジンかしら?」

 

 脇に立っていたジェフやポーラは彼の握りしめている野菜の束を見てそう呟く。

 形は確かにニンジンだった。

 食材店等で見かける茎が切断されたものとは違い、畑で引き抜かれた際の完全な生の状態で長い茎と葉を携え、主根と呼ばれる部位に丸みを帯びた形態をした野菜。

 

 ところがその伸びた茎の部分を持って見せているプーのニンジンは何と『黒色』だった。

 

 

「これはどうやら、どんなウサギも懐き従う効力がある『うさぎごのみニンジン』というらしい。玉手箱の中に同封されていた古びたメモにそう記されていた」

 

 

 多くの人間がイメージするニンジンの特徴である赤色では無く、どす黒い色に変わった物。

 もしかして長い間放置され過ぎたせいで腐り、色褪せてしまったのではないかと疑われる代物ではあったが、プーは続けて言葉を口にする。

 

 

「俺はこれの使い道を多分……知っている。ランマに向かってほしいのは、恐らくあの国も『ぱわーすぽっと』という場所……俺達ランマの民が聖地と呼ぶ場が怪しいんだ」

 

 

「えっ!? 君の国にパワースポットがあるの!?」

 

 

 まだ第五の場所を訪れて一日という間隔にも関わらず、ネス達は次なるパワースポットの可能性が非常に濃いとされる場所の情報を仲間内で入手する。

 

 すると、そうした仲間からの貴重な情報を無視できるはずもなく、彼の故郷である国ランマへ訪れてみたいという願望もあってか、

「よし、じゃあ次はプーの故郷ランマへ行こう!」

「ランマって確か雲の上にあるって伝説の国だよね」

「ジェフ、それ本当!? 私もぜひお邪魔してみたいわ!」

 仲間になって間もないプーの生まれ育った地。

 これからも戦う仲間の事を知る為にも三人はパワースポットの事を頭に残しつつ、それぞれは自分たちが目にした事の無い大地への探求心を燃やすのだった。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 と、新地へ冒険する意気込みこそ良かったが、

 

「どうした? 皆固まって」

 

 仲良く縦一列になり編隊を組んだのは良かったが、ネスはある重要な事を忘れていた。

 それはテレポートという便利な移動技の制限とも言える仕様で、

 

 

「ごめん、プー。ぼくランマの国知らない……」

「あっ、『そういう事』か」

 

 

【技の使用者が知っている土地でなければワープ出来ない】

 それがこのテレポートの大きな穴だった。

 風景どころかランマという国名すら、今聞くまで知りえていなかったネスがワープ先のイメージを湧かせられる訳もなく、意気揚々に先頭に立ちワープの姿勢を取っていた彼は困った表情をしている。

 一行の出鼻を見事にくじいた彼の発言で、シーンとした四人の間に少し寒い風が漂う中、

「じゃあお前には悪いが、今回だけは俺が先頭に立たせてもらうぞ」

 

 ランマの地を知り、尚且つテレポートのPSIを取得していたプーが申し訳なさそうに、今回だけだからと先頭に立ち、自国へのイメージを整える。

 

「よし、行くぞ!」

 

 そしてワープが可能となった瞬間、彼の掛け声と共にテレポートβを開始した。

 直線状を走り時空を超えるαとは違い、その場で弧を描くようにして動き回り、力を溜めた後に時空を超えるテレポートβ。

 グルグルと何度も円を描いた後に四人はフォーサイドから消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲上の国ランマ。

 雲の上に大陸が浮かぶ場所。

 そんな不思議な地にてプーの遥か遠い先祖が国を立ち上げ、発展させた。

 行き方を知らぬ者からすれば、まるでジャックと豆の木の様なお伽噺の産物。

 今回は王子であるプーのテレポートにより、ネス達三人は国へと招かれたのだった。

 

「おお……貴方様がネス殿ですね。よくぞお出でなすった」

 

 まず初めに立ち寄ったのはプーの住まう王宮。

 ほんの少し留守にしていただけだったが、プーは少年らしい寂しさも覚えていたのか、プーのワガママで立ち寄る事を全員が二つ返事で快く承諾したのである。

 

「イースーチー、少し留守にしていたが国を見回した所、上手くしてくれているみたいだな」

 

 戻って来ることは無いだろうと覚悟していたせいか懐かしさを覚えつつ、かつての修行の師匠だったお目付け役のイースーチーに帰るや否やそう言葉を向ける。

 

「いえいえ、国の皆が世界を救い帰る王子の為にと頑張っているだけですとも。しかし、ほんの少し見ない間にまた凛々しくなられましたな、このイースーチー、貴方様の成長した姿を再び見れて喜びの極みにございます」

 

 プーが国を離れ、王子の代理として国を見守る役目を担うようになった老人イースーチー。

 堅苦しい挨拶を述べながら、彼は年相応に老けた顔で温かい笑顔を向けた。

 

「ありがとう、イースーチー。だが俺だけじゃないネス達も凄い奴らだ、彼らのおかげで俺はこうしてさらに強くなれている。今度戻って来た時はお前もビックリするかもな、ハハハハ」

 

 血の繫がりは無いが、幼い頃より身の回りの世話と戦闘の知識を伝授してくれた恩人。

 珍しくプーは声をあげて笑い、大切な【家族】にそう告げる。

 そうした温かい触れ合いの時間をネス達は見守りつつ、その後にイースーチーの使いの者から幾つかの回復アイテムを受け取った。

 中でもランマで人気の栄養満点『さとりのべんとう』を全員分用意してもらい受け取る。

 

「さて、プー王子。この地に戻られたのというのには何か理由がございましょう。よろしければこのイースーチーにお教えいただいても宜しいでしょうか?」

 

 触れ合いの時間を終え、場の空気がしんとした所で老人は尋ねる。

 本来すぐに家族が恋しくなって戻る様な弱い精神力にプー鍛え上げた覚えは更々無い。

 どうした理由から彼が帰郷したのか気になっていた。

 すると、彼は簡単に音の場所というパワースポットについて説明を加え、

 

「だから俺達は6番目と思われるここの聖地【ピンククラウド】を訪れに来た」

 

 それはこの国に遥か昔から存在し、今でも残っている聖地。

 ただし行く手を阻む門番により誰も到達出来ていない名だけの場所。

 その理由は一つ。

 

「なるほど、ネス殿が巡らねばならぬ地の一つがピンククラウドだと……ですが、あそこは門番がおりますゆえ立ち入る事は出来ません。王子もそれは重々承知でございましょう」

 

 二足で立つ黒いウサギの番人が行く手を阻んでいたからだった。

 自身達が認めない存在でなければ何人だろうと聖域ピンククラウドへの侵入は許さない。

 強引に入ろうとした者はウサギたちの力が働き、元いた入口へと引き戻される。

 古来より聖域を守り抜いているとされている謎多き生命体の黒ウサギ。

 

「ああ、分かっている。だが地上の世界で俺はこのニンジンを回収してきた。奴らの言う音が正しければ、これでどいてくれる筈だ。あいつらも特別で旨いニンジンを持ってこいと俺に告げていたからな。多分この珍しい色のニンジンで間違いない」

 

 プーはフォーサイドにて購入した皮製のポーチから、うさぎごのみニンジンを取出し彼に見せつけるように、大きく持ち上げてみせる。

 

 すると、そんな王子の手に持つニンジンを見ると、

「なるほど、確かにこんな色のニンジンは見た事が無い。では早速お向かいください。実はこの所ピンククラウドの洞窟から何やら禍々しい気配が漂っている様なのです。もしかすると何者かが聖地の力を吸い取り怪物になっているやもしれません。どうぞお気を付けて」

 

 プーがこの地を去り、一日と経たぬうちに起きたという小さな異変を聞かせた。

「多分音の番人の仕業だね、プー」

「だろうな。では行こう、ピンククラウドへの洞窟の入口はこの大陸の下段にある」

 イースーチーの助言はピンククラウドがパワースポットである事を明確にする。

 それが音の場所の持つ強い力を吸収し、変貌する音の番人の特徴だから。

 

 疑問が確証に変わった四人はこうしてプーの黄金の宮殿から外へと出ていき、王宮のある上段から国民の住居や畑、牧場、露店などが立ち並ぶ中段部へと降りていき、

 

 

「あら貴方、プ―様とピンククラウドへ向かうの? お気を付けて、あそこの洞窟は変なすがたをしたモンスターがうろついているって、私の友達の父親の母方の従兄の弟から噂で聞いた事があるの。だから信憑性は高いわよ」

「男でも、プ―様と一緒にいられるなんて羨ましいわ!」

「プ―様が選ばれた仲間であれば、私も応援致しますわ。冒険頑張ってくださいまし」

 

 

 国民たちから尊敬され愛されているプー。

 中段部から下段部へと続く通路の向かう間でも民から声をかけられていく。

「皆ありがとう、すまないが俺達は少し急ぐのでな、全てが終わったらまた会おう!」

 対して、民からの絶大な信頼を得ているという事実を再認識した彼は下段部へと降りていく時、自分たちの姿を見守ってくれていた者達に向けてそう言い放ったのである。

「プー王子たちに幸あれ! その道に希望あれ!」

 それが、ネス達一行が居住区である中段部で聞き届けたランマ国民達の声援だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ランマ国・下段部にあるピンククラウドへの洞窟。

 国中からの温かい声援で心が温まった四人を出迎えたのは件の三匹の門番ウサギ。

 ニンジンと同じく真っ黒な体をした人型ウサギが彼らの行く手を阻んでいた。

 

 

『プー王子、よく来た。今回は仲間も一緒に連れてきた、賑やかだな』

『む? その赤い帽子の少年は。そうか王子、連れてきたのか』

『そいつ、ピンククラウド認める人間。偉いぞ、王子』

 

 

 以前とある重要な修行を控え、まだネス達と出会っていなかった時。

 後に国を治める王子ですら門前払いを行い、ピンククラウドへの侵入を許されなかったプー。

 ニンジンの話もあったが、残念ながら彼には『素質』が無い。

 

 聖域の力……即ちパワースポットの力を会得できない特殊な素質が無かったのだ。

 黒いウサギたちはそれを見極める眼を持っているのか、向かっても何も獲得できない筈のプーを聖地とはいえそれを守護する魔物が襲い来る危険なピンククラウドへ行かせぬ為に彼の侵入を強く拒んでいたのだろう。

 

『これで、ピンククラウドへ入る資格ある奴来た。オイラ達ビックリ』

 

 とは言え、こうして無事に素質を持つネスを連れてきた事でプーは今までとは違った反応を見せる黒ウサギたちへの眼前へと近づいていく。

 

 すると……。

『おっと待て、資格ある奴連れてきた。でも王子覚えているか、約束』

 

 無許可で近付くプーに門番三匹は横に並んで肩を組み、壁を作り阻んだ。

 そして彼ら(?)はプーへ過去に話した言葉で問いかけた。

 

『通りたいなら特別なニンジン。まずはオイラ達をテコでも動かせない奴は、例え神に選ばれた人間でも通さない。これが約束』

『くれたらオイラ達は消えよう』

 

 資格があっても求めるものが無ければ通さない。

 見つけたは良いが、容易に開けられない鍵付きの宝箱の様に……。

 鍵となるアイテムを求めるように三匹はそう彼へと向ける。

 

「分かっているとも、このニンジンであっているはずだ……これでどうだ?」

 

 それに対して、彼は腰に掛けたポーチから例のニンジンの束を取り出し、三匹の前に大きく掲げて、相手の反応を伺うと、次の瞬間。

 

 

 

『お前成長した。そのニンジンで合っている、素晴らしい』

『見事に正解だが実はそれ、オイラ達三人が【最後】に食べたかったニンジン』

『【昔住んでいた場所】に隠して、腹が減った時にみんなで美味しく食べようと残していた』

 

 

 

 すると……三匹は語り始めた。

 さらにプー王子からニンジンを受け取ると同時に。

 

 

「!? お前達……体が……」

 

 

 なんと、彼らの肉体から体色とは裏腹に明るい黄色い光の粒が浮かび始めたのだ。

 そしてその理由は門番達本人たちの口から明かされる。

 

 

『でもオイラ達、その時を待たずに【全員死んだ】。オイラ達の小さな住処に真っ黒いドロドロが突然なだれ込んできて溺れて死んだ。多分、人間達が流した物だと思う』

『でも神様、オイラ達にチャンスくれた。ここで門番すれば後悔が残らない最後を遂げられるって。だからオイラ達ずっと待った。ずっとずっとここで仲間たちと思い出の美味しいニンジンを待ってた。資格ある者を待つ役目を終わった』

『だからありがとう、王子。オイラ達これで心置きなく消えられる。じゃあな、王子。オイラ達、お前達の旅を空から見守ってる』

 

 

 そう告げると、三匹は黒色のニンジンを幸せそうに頬張った。

 待ち望んでいた、食べたかった食物を口にしたのだ。

 そして……礼を言いながら三匹の門番は光の粒と共に消えていったのである。

 

 

 

「あいつらは……亡霊だったのか。悲しき過去を背負っていたのだな」

 

 

 

 黒ウサギたちの正体は過去に死んだウサギの生き霊の様な物だった。

 人間達がフォーサイドという大都市のずっと前にあたる時代。

 元々海に囲まれ整った立地をしていたその地に人間は都を作った。

 その際に当時、建造物や火を起こすための材料として用いられていた原油が誤って、彼らの住処だった穴へ流れ、そのまま体の自由を奪い取られ残酷にも息絶えてしまったのだった。

 

 

 

「でも、殺したのはぼく達……人間だ。この事実はしっかりと胸に刻もう。ぼく達の住んでいる『平和な日常』というのは多くの犠牲の元に成り立っている事を。失われた命の大切さを」

 

 

 

 ピンククラウドに入る前だったが、黒ウサギとの対話で少年たちは大きな事を学んだ。

 大切な命を持つ生物として、全員がネスのそんな発言と意味を受け取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ピンククラウドの洞窟。

 そこはランマの国という大陸の中に存在する空間。

 国民に存在を知られながら、今国に存在する誰も立ち寄った経験が無い場所。

 

「凄い広い洞窟ね。ここがプーの故郷の中にあったなんて……」

「俺も自分の住まう国の中にこのような洞窟がある事を不思議に思う」

 

 洞窟は上下とフロアが分かれている洞窟だった。

 高所へと昇る為には土中から生え伸び、下に向けてぶら下っている太い根っこを伝っていく。

 逆に下のフロアへは、所々で見られる地面に掘られた丸い落とし穴で下層へと飛び降りる。

「まだまだ敵もわんさかいるし気を付けよう」

 ネスはそんな天然の洞窟中を自由に飛び回る光に包まれた球体。

 もとい戦闘になるまでその姿を輝く光にて正体を隠しているモンスター達の姿を視野に入れつつ仲間たちにそう警告を促す。

 今までありのままの姿を見せて襲い掛かって来たモンスター達とは違い、今いるこの国も不思議ならば、敵も不思議な光に包まれている。

 そして、そんな敵達とネス達は戦闘を繰り広げていった。

 

 

 

 

 

「またコイツらか! 皆ライフに気を付けて。雷攻撃が来るよ!」

 どうやらピンククラウドの洞窟に潜んでいた敵は四種類だった。

 

 上層部から開いた穴を降りて、下へと向かった先でまず襲い来る魔物。

 一匹目は宙に浮かぶ雲に目が付き、ネス達全体に雷を降らせる他、まるで自分の手足の様に自由自在に動かし対象へと雷へ飛ばす雷雲モンスター『リトルサンダー』

 

「ビジャジャジャジャ!」

 そしてリトルサンダーと共に四人の前へと姿を現したのは『骨の魔物』。

 漫画やアニメなどで創作物において体に雷が走ると、体が黒くなり体内の骨が見える、現実で言う所のレントゲンに似た描写があるが、コイツはそれに近かった。

「ビジャジャ!」

 そんなビジャジャと言う独特な声を上げながら常に体表に纏う黄色い電流で痺れており、常時、雷を纏う全身骨格という奇妙にして珍妙な姿をした魔物『エレショッカ』。

 

 お互い雷を扱うモンスターとして意気投合しているのか、ネス達一行は何度もこのコンビと戦闘を繰り返していた。

「くそっ! あの骨野郎に一回気絶させられてから怖くなってきたよ……」

 魔法の様な特殊攻撃を防ぐPSIサイコシールドをも貫通し、破壊する雷を操る敵二体。

 さらにエレショッカはPKフラッシュβという気絶効果を含む、所謂一撃で戦闘不能に追い込む即死に近い効果を含んだ眩い閃光攻撃でこちら側を翻弄してくる。

 

「段々気配が強くなっている。この場所を切り抜けよう。気絶回復用の『いのちのうどん』だって用意してあるから、とにかく倒して進む事を先決にするんだ!」

 

 まだネスは雷攻撃の直撃を受けていないが、その威力を把握している。

 前哨戦とはいえ下手をうてば誰かが傷つき、あっさりと倒れる。

 だからこそリーダーである彼は全員にそう檄を飛ばし、戦闘の士気をあげていった。

 そうやって一行はダメージを負いつつ何とかリトルサンダー&エレショッカが屯(たむろ)していた洞窟の中腹部から落とし穴を抜け、深部へと向かった。

 

 だが敵はまだに二種残っている。

 さらに言ってしまえばその残っていた二体はさらに奇妙な生命達だった。

 

「うわ! 気持ち悪い! こんなのにチューされたらトラウマになるよ!」

 

 それはもう少しで音の番人の元へとたどり着ける最中に行く手を阻む。

 まずジェフにそんな言葉を吐き付けられつつも、武器を構えて彼を追い掛け回す敵。

 宙に浮くピンク色の唇こと『あくまのキッス』

 分厚い唇で敵にキスを迫り、命チューした者を猛毒状態にする死の口づけという恐ろしい技で、いたいけな少年少女四人に襲い来るインパクト抜群のモンスター。

 

「ポーラ、ジェフを援護してあげて! 取り返しがつかなくなる前に!」

 

 前線で戦っていたネスはもう一匹の敵と戦いつつ、そう銃後にいる彼女に指示を送る。

 そして後ろはあくまのキッスに戦闘を任せ、前線の二人を足止めする四種類目のモンスター。

 ピュルリ♪ ピュルル♪ と武器である笛を常に吹く蛇に似たニョロニョロした焦げた肌色の細く伸びた体に、髷を結った武士の様な顔立ちをした頭部を携える『てんぐどの』

 

 敵のステータスをチェックしたジェフ曰く、殿は自称らしい。

 さらに『てんぐ』と名乗りつつも、日本という国にある伝説の生き物天狗とは一線を画し、鼻が高い赤ら顔の山伏姿の生き物とは似ても似つかない。

 

「あの魔物と言い、こちらを毒に侵す笛の音色といい……おかしな奴らだ」

 

 体を生かして敵へと接吻を全力で迫る唇の化け物、笛を吹き音色を聞かせるだけで眠りや毒の状態異常にさせる蛇の様な謎の魔物。

 以上の二種類敵達が雷攻撃部隊と別れたすぐ後に新たな敵として何度もネス達の前へと現れ、自分たちの親分の元へと向かおうとする彼らの邪魔をするのだった。

「よし、片付いた。もうそろそろだ。状態異常を回復して休憩したら先へ向かおう」

 

 そうやってダンジョン内に出現する四種の雑魚モンスター達との戦闘を繰り広げつつ、偶然からか狙われもしなかったネス以外は雷直撃のダメージ、又は全員が何かしらの状態異常を受けて苦しみながらも、足を止める事無く、誰も欠ける事無く洞窟を進むのだった。

 

 

 

 

 

「みんなやっと着いたよ……大丈夫?」

 

 後半部分は洞窟内に潜むモンスター達との激闘だった。

 餞別の『さとりのべんとう』のおかげで精神力や体力を回復出来たのは良かったが、それでも流石に六番目の音のダンジョンともなれば疲労の蓄積を酷くなっていく。

 

 けれども挫ける事無く進み続けた彼らを待っていたのは僅かな静寂の時。

 

 出会う敵を片っ端から倒し、最深部へとたどり着いたのである。

 

 恐らくその先が聖地ピンククラウドへと続くであろう横穴を守る番人が控えし場所へ。

 

 

「ネス……もう少しだけ休憩していこう」

「そうだね……実はぼくも……疲れが来てる」

 

 

 番人の付近にはあまりモンスターが寄りつく事が無いため、彼ら一行は洞窟の壁にもたれかかり、持っていた食料を口にして回復を行う。

 キラキラとした光を纏う番人の存在を身近に感じつつも、こちらから仕掛けなければ害を及ぼさない事実にネス達全員は心の何処か安堵を覚えて、休憩を挟んでいた。

 

「アリ、モグラ、根っこ、キノコ、ネズミ。今度は一体どんな怪物なんだろうね……」

 

 

 ジェフは弁当以外の選別として貰っていたヤギの乳で作られたバターをふんだんに使った優しく甘い味わいがする『やぎバターがゆ』を食べおえると、そう話題を切りだした。

 

「そうだね……でもこれまで戦ってきたボスは全部そこにいるモンスターの進化形だからね」

 戦闘になればすぐさま判明するのだが、嵐の前の静けさなのかネスはそんな言葉を返す。

「あの気持ち悪い唇が進化して『巨大キッス』なんてのがいるかもしれないわね」

「俺はあの雲だと思う。リトルサンダーが巨大化し『ビッグサンダー』なんてな」

 

 そうして各々がジェフの冗談交じりの話に乗り、盛り上がっていった。

 疲弊していた体力を笑いで回復させるため。

 間違いなく今回の敵も番人の例にもれずべらぼうな力を持っている。

 四人とも会話に笑いを交えつつ、その覚悟を決めてこの僅かな憩いの時間を楽しんだ。

 

 

「よし、元気も出てきた。皆全力で戦おう」

「「「おー!」」」

 

 

 そうやって少しの間ダンジョン内で休憩を終えたネス達。

 リーダーの士気をあげる一言に三人が賛同すると、控える者へと近づいていった。

 これにて六ケ所目となる音の番人の前へと。

 

 

 そして全員が気持ちを切り替え、明確な戦闘の意識……敵意を番人へ向けると、

「よく来た。ここは6番目の『お前の場所』だ。しかし、今は私の場所だ。奪い返せばよい。……できるものなら」

 

 

 すると恒例の問答が始まり、敵は纏っていた眩い閃光を消し去ると四人の眼前で戦闘状態に入った自身の姿を現し、襲い掛かったのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟にいたネス達はいつの間にか『暗い雨雲に包まれた戦場』で戦っていた。

 

 本気を出して戦うとこの聖地へと繋がる洞窟が崩壊すると『番人』が戦闘の開幕で告げると、ネス達四人と自分たちを含めた存在を、独自の空間へと誘ったのである。

 

 足元も暗雲、空と呼べるかは不明だが上空も暗雲に包まれた世界。

 

 それが音の番人『いなずま・あらし』の創造した別の空間である。

 

 そしてそのいなずま・あらしの正体は意外にも細長い胴体が特徴だったモンスター。

 そう、まさかの『てんぐどの』の変異種だった。

 

 

「ヘッヘッヘ! 兄者の暴風と俺っちの轟雷で派手にやっちゃおうぜ!」

「そうだな、弟よ。我らの力を挑戦者に思い知らせてやろうぞ!」

 

 

 てんぐどのの兄弟がピンククラウドの力を吸収し、それぞれが強大な力と知識を身に着けた。

 

 細く伸びた黄色い体に釣り目の卑怯そうな顔つきをした口が達者な弟の『いなずま』

 体内で操る強力な雷を具現化した剣を振るい、ネス達へと雷を叩きつける強敵。

 

 打って変わって、威厳のある話し方をするのは兄にあたる『あらし』

 こちらも名の通り巨大な竜巻……嵐を起こし、攻撃を仕掛けてくる強敵。

 灰色の細長い体に、こちらは少し太った顔付きで常に笑みを浮かべている。

 手元には雷(いかづち)の形を模したギザギザな剣を持つ弟とは別に、強大な風を巻き起こすための竜の姿が描かれた扇を手にしていた。

 

 そのせいで技が雷はまだしも巨大な竜巻を起こす攻撃がある以上、洞窟では戦えなかった。

 

 

「へいへい、ビビってるぜ! ガキンチョ共!」

「ホッホッホ……我らの前に立つ以上、手加減はないと思うがよいぞ」

 

 

 その二匹が互いの蛇の如き細い体を絡ませるポーズをしたコンビこそ今回の番人。

 まるでどこぞの射的上手な眼鏡の主人公を虐める時に協力する、ガキ大将とお坊ちゃんの様な見事なコンビネーションでネス勢力を苦しめる。

 

「ハア……ハア……比べ物にならない強さだ」

 

 そういった敵を前に雲の世界という独特の戦場で苦戦を強いられる四人。

 以前と変わらず戦闘の体系はPKキアイβやバットで攻撃を行うネス、覚えているPKフリーズや体術で接近戦を仕掛けるプー。

 後方はジェフのペンシルロケットやボム。

 ライフが少ないポーラのPSIで応戦していたが、今回は敵の攻撃の範囲が全く違う。

 

 

「それそれ、どんどん行くぜ! 俺得意のバチバチ攻撃だ!」

「ホッホッホ! ワシも行くぞよ! そうれ、大竜巻!」

 

 

 最早、同じ人間を相手にしているように錯覚してしまう程に流暢な言葉遣いで、杖の様に雷剣を振り回し、四度にわたってバラバラに放たれる雷のバチバチ攻撃。

 逆に広げた扇を勢いよく振り、膨大なエネルギーで構成された暴風で攻撃してくる兄弟。

 単体に対する攻撃が多かったこれまでの番人と違い、全体攻撃がメインのモンスター。

 

「回復が間に合わない……ゼェゼェ……どうしたら……」

 

 仲間たちと共に戦場に膝をつき、息を切らすネス。

 今彼が覚えているライフアップのα、β、γの三種は全て一人にしか対象に出来ない。

 こちらの攻撃も当てており、敵も傷ついてはいるが純粋な体力の差では勝てない。

 

「中々やるじゃねぇか……さすがは音を得る資格があるだけはありやがる」

「だが……我ら兄弟の前ではまだまだぞ。もっと力を出して来るが良い」

 

 まさに風神と雷神。

 一つの対を為す存在が合わさる事で生じる異常な強さ。

 風と雷という二つの自然現象がここまで脅威となるとはネス達は思いもしなかっただろう。

 

「ハア……ハア、ネス、あいつらは二人だけど常に一体の魔物として動いている。雷から逃げながら観察してたけど、あいつらは交代で技を出し合っているのであって、決して分離している所を見せた事が無い」

 

 両者とも暫しの間動きを止めているこの時にジェフはそうネスに近づき助言を与える。

 緑色の私服の所々を雷で焦がされ、頭の毛が逆立ちグチャグチャになっている彼は激しい攻防戦の最中でそんな敵の詳細を発見していた。

 

「…………言われてみれば、確かにそうだ」

 

 風や雷の遠距離攻撃で後方を攪乱(かくらん)し、前線に立つネスらには、その黄と灰の肉体を同時にぶつける体当たり攻撃で仕掛けてくるいなずま・あらし。

 後方や前線の回復忙しない戦闘に冷静さを欠いていたネスはその助言に気が付く。

 敵の伸びた体の末端が結ばれている事に。

 

「…………ジェフ」

 

 そして同時に彼はある言葉をジェフに向ける。

 

「この現状で……ぼくの残っている全ての力を使って試したい技がある」

「……あるのかい? 凄い技が……」

 

 それはこの戦況を打破する為の提案だった。

 けれどもジェフはこれ程の強敵を撃退できるのか聞き返す。

 

「……分からない。でも敵に大ダメージを与えられるのは確かだ」

 

 残念ながら確証を得られる答えは返ってこなかった。

 さらに、ネスはその提案の裏に潜むデメリットについても説明する。

 

「ただしこれに集中している間、ぼくはきっと何も出来なくなる、さらに言えばもし技を出せたなら精神力をごっそり持っていかれてしまうかもしれない」

 

 全力を注ぎこむ一撃である以上、その後に待つのはガス欠状態の疲弊するネス。

 下手をすれば足手まといになる可能性を孕んだ提案だった。

 

「俺は構わない」

「私もよ。下水道のネズミの時とは違ってあいつら疲れているみたいだけど、簡単には倒せないわ。それにこのままじゃあジリジリと苦しまれて結局負けてしまうわ」

 

 すると敵の様子を見ながら傍で聞いていたプーとポーラは即座に提案に賛成した。

 体感的に敵の強さを理解している二人は否定することは無かったのである。

 

「ありがとう、皆。ぼくはここで覚えかけの『技』を使う為に力を溜める。それまでに出来る限り、敵を弱らせてほしい。ぼくにダメージが来ても気にせず戦って!」

 

 自分の放てる現状最強とも考える技。

 だがデメリットとして五番目の音の場所のプーの変身同様、凄まじい集中力を要する。

 

 しかし、いざという時の彼の爆発力。

 

 それを信頼しているせいか、全員はこの戦闘間の休憩で取り戻した体力で立ちあがると、

「やりましょう。私たちは私たちの出来る事を」

 手に持ったフライパンを強く握りしめ、ポーラはジェフとプーの二人にそう向けた。

「異存はない。やろう」

「頼んだよ、ネス」

 

 続いてプーは拳、ジェフは光線銃である親譲りのバンバンガン。

 

「へへ……やる気じゃあねぇか、面白いぜ」

「ほほお、どうやら我らもお前達も休憩は済んだな」

 

 対して何やらひそひそと相談をしていた少年達のまだ諦めない眼差しを向けられた、いなずま・あらしは感心を抱きながら、床とも呼べる雲に付けて休んでいた体を動かし、再び雷の剣と台風の扇を構え、戦闘の構えを取った。

 

「よし、行くぞ!」

 

 敵の元へと駆けてゆくプーの言葉が再戦の合図だった。

 ポーラは消費する精神力こそ高いが、威力も高いPKフリーズγ。

 ジェフはリュックに残っていたペンシルロケット5を起動させ、宙にフワフワと浮かぶ敵へと狙いを定め、発射させ敵にその火力をお見舞い。

 プーは残っている精神力でライフアップを行い二人の支援を行いつつ、気を溜め込んだ拳で二匹の番人の頭部や肉体へ打撃を与える。

 

 

「こいつら!? なるほど、窮鼠猫を噛むとは良く言ったもんだな、兄者よ」

「ホッホッホ! 弟よ、人間とは面白いものだ! まだ小さい身でありながらこれ程まで我らを楽しませるなど、大した小僧共である!」

 

 

 確信は無いが勝利という光をこの戦闘の先に見出した三人。

 背後で目を瞑り、時折あらしの持つ扇が引き起こす真空の刃に体を傷つけられつつも、一切の集中を乱すことなく、場に立ち尽くすネス。

 いなずまによる雷攻撃は運よく命中はしなかったが、顔や腕、足に切り傷を生みながらもひたすらに、勝つために、只々無心で集中した。

 

 だが……。

「ぐはっ!?」

「きゃっ!?」

 

 敵は四人で何とか食いついていた相手。

 中でも前線の主力でもあったネスが抜けると、戦況は勿論変わる。

 

「プー! ポーラ!」

 

 再戦直後こそ勢いはあったがそう続かない。

 元より消耗した僅かな精神力で打てるPSIの回数など限られている。

(これが最後の回復アイテムだ……ネス、頼むよ)

 そして雷の衝撃と風の衝撃より被害を被った二人を回復させるべく動くジェフ。

 酷い傷を負った二人に手持ちの最後の食料を与える。

 

「くそ……もう少しだってのに」

「もうPKフリーズは打てない……わ」

 

 さらに付け加えるなら時間の限界が近付いていた……。

 何とか攻撃を受けた二人はジェフから貰った食料で回復したが、この苦しい戦況を覆させるにはアイテムがあと少し足りない。

 

 

「ゼェゼェ……お前ら……ゼェ……思ってたよりしぶてぇな。だが喜べ……俺と兄者のコンビに立ち向かったお前らには尊敬の念すらあるぜ。つええな……へへへ」

「フウフウ……弟の言う通りだ……。よくぞ我らにここまでの傷を与えた……。まだ若き芽にも関わらず、逃げ惑う事なく……フウフウ……正々堂々と立ち向かった」

 

 

 戦況を打破するにはアイテムが『少し』足りない。

 それはあながち間違いでは無かった。

 覚悟を決めた決死の猛攻に全力対処せざるを無かったいなずま・あらし兄弟も息切れを起こし、宙に浮かぶだけで追い詰めつつある彼らへそう告げる。

 そうしてさらに言葉を続ける。

「兄者、俺はコイツらを『いたぶる事』を止める。俺だって一匹の大将だ、こいつらの覚悟を尊重し、受け止めてやりたいぜ。この意味分かってくれるよな?」

 

 続けて場に響くのは、いなずまの奇妙な発言。

 

 対して兄であるあらしはニタリと口元を歪めると、

「勿論だとも、弟よ」

 阿吽の呼吸の様に繋がる弟の意思を察するあらし。

 

 すると二匹は自分たちの対話を聞き、見ていた三人に向かって大声で発した。

 

 

「資格者の仲間よ! お前達は良く戦った。素晴らしい強さと根性だ。だからこそ我らはお前達のその勇気に応え、お前達を苦しめずに一撃で葬り去ってやろう」

 

 

 今のネス達に絶望をもたらす言葉を。

 

 

「嘘でしょ……何よ、『あれ』!?」

「あれをどうやって避けろと言うんだ!?」

 

 

 今いる雲の空間が震え、軽い地響きが起こる程だった。

 

 なんと、いなずま・あらしは両者の力を前方に集約させ始めたのだ。

 それはあらしが作った真空の球体に、いなずまの雷の力が混入された協力奥義。

 空間の雲が乱れ、それこそ嵐の前兆の様に周囲が勢いのある風が吹き荒れ始める。

 バチバチと音を鳴らす雷を纏われた青色に輝く真空の球。

 

「わざわざチェックするまでもない……あれはヤバい……」

 

 優れた観察力を持つジェフですらチェックする事自体に匙を投げるまでに、見え透いた威力。

 これまで受けてきた雷や竜巻の発声させた刃など可愛いもの。

 

 

「「これこそいなずま・あらし兄弟の切り札『風雷豪刃波』だ!」」

 

 

 お互い両手を前に広げ、兄弟は声を揃え必殺技の名を語った。

 そんな二人の表情には勝利に対する絶対的な自身に満ちている。

 持ちうる全ての力を持って、作りだした膨大な力が凝縮された魔球の最終奥義。

 

「「終わりだ!」」

 

 そして余りに絶望的な技を放たれたショックと限界まで蓄積された疲労が同時に襲い掛かって来たのか、三人は微動だにする事が出来なかったのである。

 そう……三人は動けなかったのだった。

 

 

「「「!?」」」

 

 

 三人は雷に満ちた球体が迫る中で信じがたい光景を見る。

 

 

「仲間がピンチの時に黙っていられる程、リーダーは安くない」

 

 

 敗北を間近に士気の落ちた仲間の前を庇うように仁王立ちした存在の姿を。

 仲間たちが苦しみ、絶望した場所に将であるネスが復帰したのだ。

 けれども……。

 

 

「ネス! そこをどくのよ!」

「それを喰らえば間違いなく、死んでしまうぞ!」

「今は僕達よりも技を完成させて!」

 

 

 本来、戦とは大将を討ち取られればそこで敗北。

 例え、その規則の様な定めが無かったとしても一番頼りにされているネスという主力を失えば、なし崩し的に全滅を免れない。

 それを承知している三人は『自分達を守るべく』、敵の必殺技の前へと飛び出した彼に向かって、感謝や恩の言葉では無く、見捨てるように告げた。

 勝つためには、彼の力が必須なのだ。

 

 

 しかし彼は堂々と前に出たまま、引き下がる事なく立ち、仲間に言葉を向けた。

 

「そうだね……君達からすれば、ぼくの行動はおかしいかもしれない。でもね、ぼくは大切な人が目の前で酷く傷つく姿を、指をくわえて見るなんて出来ない。逆にそこまで冷酷になってしまったら、大将として正しくても、人間としては正しくない」

 

 

 そう口にすると、彼は正気を疑った行動に移った。

 その行動とは、なんと目の前で音をあげて近づく破壊力に富んだ球体へと向かう事。

 自ら球体に当たりに行き、直撃すれば周囲を巻き込む様に発生するであろう爆風に似た衝撃波に仲間たちを巻き込まぬようにと。

 

 

「ヒュー! カッコいいぜ! お前。面白れぇ! 一撃KOをお見舞いだ!」

 

 

 勇敢に向かってくる無謀の一言に尽きる少年の行動に有頂天ないなずま。

 

(…………負けを受け入れたのか?)

 

 だが……あらしの反応は全く違ったものだった。

 まだ一応戦闘中だというのに勝利に満ち満ちた弟は裏腹に、彼(?)の表情には焦りを感じさせる疑念に包まれ笑みを失った顔をしている。

 

 

 おかしい。

 何かがおかしい。

 だが、確証は無かった。

 仲間の身代わりになる勇ましいネスの行動に対する疑惑。

 本当に諦めたのか?

 

 

(ならば、なぜ『そんな顔』をしているのだ!?)

 

 

 あらしは向かってくるネスの表情が不可解で仕方なかった。

 怯える訳でもなく、生を諦め、虚ろに向かってくる顔付きでもない。

 覚悟を決めた強い眼差し。

 何かを悟った威圧ともいえる真剣な表情で向かってくる。

 

「まさか!? お前!?」

 

 風雷豪刃波がもう彼の体に命中する直前。

 あらしはある事に気が付いた。

 有利な戦局に立っていた彼が今まで見落としていた事実。

 

 

「弟よ! あの者に『雷の攻撃』は当てたか!?」

 

 

 突然の悪寒に襲われつつ、あらしは顔と言葉を弟に向けて慌ててそう尋ねた。

 そんな気が付きもしない事が今どうしても聞かねばならぬ事。

 

 

「えっ!? どうした兄者。そうだな、実は『当てれていない』、いや狙いはしたんだが、アイツに当てようとしたら、なんでか俺の方に雷が『返ってきたんだ』。いやあ、全く変な体質だぜ」

 

 

 鬼気迫る表情でこちらに質問を向ける兄に、いなずまは正直に答えた。

 

「そうか……ならば……」

 

 互いに顔を合わせ、話した後にあらしは心底落ち着いたようにすると……。

 

 

『我々の負けだ』

 

 

「へっ?」

 

 問答のほんの一瞬だけ目を逸らしていた番人コンビ。

 二匹が戦場へと視線を戻した瞬間。

 

「おい……兄者? これは……どういう事だ」

 

 バチバチッ! バチバチッ! バチバチッ!

 そんな激しい雷音を轟かせる物体が目の前に迫っていた。

 凄まじい力が込められた風と雷を伴った究極の魔弾が……。

 

 

「兄者! 兄者! なんでアレが“こっちに向かってる”んだよ!?」

 

 

 技の発生者である本人たちにそっくりそのまま戻ってきている。

 なんと、ネスに向かって飛んでいた筈の『魔弾が己の元に返ってきている』のだ。

 

 

「あのガキ!? なんだよ、アイツが持っている“バッジみてぇな物”は、おい、兄者!?」

 

 

 余りの変化に慌てふためくいなずま。

 急変した戦況に暴れているが、一心同体であるあらしが微動だにしない為、何とか直撃を避けようと必死に動いても、動けない。

 すると、あらしは弟とは逆に激昂や感情を表に出すことなく冷静に佇むと、

 

 

「ここに住まう魔物共がどうしてあの赤帽子の少年に雷を使わなかったか。それは『本能的』に雷を『反射』されると分かったからだ。我々は知能があったが故に生物が持つ本能という意識が薄れていたのかもしれん。だから技の威力に頼り、相手全員が持つ性質や道具などは取るに足らぬ、無力と考えてたせいで、こうして負けるのだ……」

 

 

 威力は高くとも『雷の成分』を含んだ彼らの必殺技。

 そして、ネスはそれに対する秘密兵器。

 

「これで終わりだ! 音の番人! 自分の技で倒れろ!」

 

 彼は過去にポーラから譲り受けた雷を、完全に反射するという特性を持つ『フランクリンバッジ』を所持していたのだ。

 

 そうして弟と違い、最後は相手の強さを認め、戦士らしく華々しく散りたいと考えているあらしは、胴体が繋がっている弟共にバッジに弾かれ、戻って来た己の必殺技に飲まれつつ、そのバッジを掲げる少年の姿を見たのだった。

 雷に完全耐性を持ついなずまは、兄の込めた強烈な真空の刃にて。

 風に完全耐性を持つあらしは、弟の込めた強烈な雷撃にて。

「ウゴゴゴ……さらばだ!」

 直撃を受けた二匹は周囲を巻き込む程の強大な風圧と稲光の爆発の中心にて散った。

 奇声の断末魔もあげる事無く、散り散りとなり消え去ったのだった。

 

 

 

 

 実の所、ネスは意識を集中し始めた時までフランクリンバッジの存在に気が付いておらず、技を我が物にし、放つ準備をしている段階にて、どうして自分には雷の技が来ないのかといった不思議から、彼らの合体技を見て、対策を閃いたのだった。

 その影響もあってか、結局ネスは集中力を乱し『新技』を使用する事は無かったが、そのひらめきによる奇策で強敵だった兄弟の番人を見事に打ち取ったのである。

 

 

 

 

『ピンククラウド』

 いなずま・あらしとの戦闘を終えたネス達を迎えたのは桃源郷だった。

 

 桃色の雲と名を示すように洞窟から抜けた先に広がっていたのは桃色の聖地。

 

 疲れた足元を癒すようにフワフワとした感覚が足元に伝わる桃色の雲で染まる世界。

 

 何処か甘い臭いを漂わせ、訪れた者の脳に安らぎと癒しを与える雲。

 

 ランマに伝承として伝わりつつも、国民の知る限り誰も足を踏み入れた事の無い秘境。

 

 パワースポットがもたらす人智を越えた癒しの力に全員が回復し、彼らはそんな神秘的な雲の上を歩いていたのであった。

 

 

「ネス、礼を言うぞ。俺は幼い頃よりこの聖地ピンククラウドを訪れたくて仕方が無かった。それが今ではその地に足を付け、この景色を眺めている。これで俺は自分の国の全てを知ることが出来たんだ。本当にありがとう」

 

 

 傷も癒え、ランマ国以上に不思議で幻想的なパワースポットを見ていたネスにプーは深々と頭を下げ、そう礼の言葉を述べた。

 これにて彼の心から完全に迷いが消えた。

 その土地に住みながら全容を知らぬどころか、番人に認められさせしなかった。

 自身が治める地にて己を認めぬ存在がある事。

 ネス達と出会う直前。

 徳の高い存在である仙人に解決法を教わり、大きな悩みとしては払拭できたものの、機会があれば一度訪れ、その姿を目に焼き付けたいと望んでいたのだった。

 

「さあ、恐らくあの場所が力を得られる所だ。また強くなってくれ、ネス」

 

 そうしてプーは最も力が集中しているであろうピンククラウドの中心。

 渦巻きを描くように雲が形を為した場所を指さす。

 

「うん、行ってくる」

 

 彼の言葉に従い、ポーラ、ジェフ、プーの三人が見守る中で彼は中央へと近づき、静かに目を瞑ると意識を集中させ、自身の持つ力をパワースポットと重ねた。

 

 

 すると……。

 

 

『あら、パパ。おかえりなさい!』

 

 

 閉じた彼の瞳に映ったのは一人の女性。

 帰宅した自分の父親を明るい笑顔でネスの母親の姿。

 

 

『ほおら、ネス、大好きなパパが帰ってきましたよぉ』

 

 

 彼女は赤ん坊の自分が寝ているベビーベッドに向けて笑顔でそう向けている。

 今回の記憶の映像は、今よりも若い頃の母親の姿だった。

 

(ぐす……ママ、ここまで育ててくれてありがとう)

 

 今も自分が愛用している柔らかい毛布。

 それにくるまれた赤ちゃんのネスを優しく抱きかかえ、小さく笑いながら帰宅した夫の元へ歩いていった所で記憶の映像は途絶える。

 

 ♪~♪~♪~~~♪♪~♪

 

 母親に抱かれていたもっと幼い頃の記憶に微かに涙ぐむネス。

 懐かしく、いっぱいの愛情で包まれている幸せな記憶の中で彼は『音』を聞いた。

 ネスの持っている音の石がしっかりとピンククラウドの音を記憶したのだった。

 

 

 




 ここまで読んで下った読者の皆様ありがとうございます。

 これにて何とか六番目の音の場所が終了しました。

 そして同時に恐らく私が学生生活中にこの同人小説を完成できないと確信しました。
 勿論書き上げるつもりで続けていきますが、この4月から働いていくので、投稿ペースがかなり狂うであろうことをここで発表しておきます。
 本当に出来る限り三月中までに進めておきたいですね(笑)
 
 さて今回も黒ウサギの過去、いなずま・あらしの必殺技など新要素を詰め込んだ話。
 まさか結局前回と似たような文字数になるとは思いもよらなかったですが、かなり満足の行く展開を書けました。
 本来ならネスの新PSIで止めにしようとしたかったのですが、原作でこの番人の雷をフランクリンバッジで反射して倒したことがあり、思い出深かったので、途中で路線を変えて、こうして書きました。
 
 そして原作でのここの思い出は上記の部分と、単純なダンジョンのうえに敵もそれほど強くなくランマという休憩所がすぐ外にあるので、初見の時はここでレベルを上げまくっていた記憶があります。私的に名前や見た目が大好きなボスも全然強くなかったですし……正直、ここは難易度的に相当マイルドでした。
 そのせいもあってか、このコンビをどう強くするかに非常に悩んでしまい、その果てに巨大ネズミと似た展開になった感触は否めません(笑)
 ちなみにてんぐどのの進化と書いてありますが、この辺からの番人は本当にこいつが進化した物なのか? と疑問を持ちながら書いていますので確証はございません。
 一応、似たような見た目の奴繫がりという事で描写を作りました。

 ではいつもながら長い後書きはここで締めさせていただきます。
 今、同時にもう一つこのサイトに投稿する予定の同人小説も書いておりますので、もし投稿した際にはまたよろしくお願いします。
 ではではこれにて筆を置かせていただきます。
 また次のお話でお会いしましょう! 失礼します!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。