初めに、今回の文章は難産の一言に尽きました。
詳しい内容は後書きにて、とりあえず殆どがオリジナル展開となっておりますので、これだけここに書き記させていただきます。
では非常に苦戦しつつ書き上げた本編をどうぞ!
殆どの生物は必ず恐怖という感情を持っていると言っていい。
そして恐怖の形や引き起こされる環境は生き物によって様々。
例えば、動物であるならば、意図しない大きな物音によりビクつく。
もし子供がいるならば音に親が真っ先に反応し、子供を守ろうと身を動かす。
知らぬ音という未知なる恐怖を感じながら、親という責任感を感じ取り行動するのだろう。
他の例であれば、捕食動物の出現。
ライオン等の肉食動物がシマウマなどの食物連鎖上で弱い立場の生物に近づいた時。
恐らく、余程本能が緩まっている者でもない限り、その身をライオンに捧げたりはしない。
捕食者と鉢合わせした彼らの行動は勿論、全速力で逃げる。
喰われたくない、死にたくない。
生存本能がそう告げ、シマウマは力の限り尽くし腹を空かせた存在から逃げ惑う。
これも一つの恐怖の形と言えるだろう。
では感情豊かな人間であればどうだろう。
誰もいない暗い場所、暴力や向けられる殺意、人間関係など挙げだしたらキリがない。
所謂広野や草原を駆けるような野生動物とは違い、人間の多くは高い知能を有している為、そう言った環境が多く存在するのだろう。
しかし、人間を含めた生き物という概念で共通して恐怖を感じる場面がある。
「皆、逃げて逃げて逃げてぇぇぇぇ! あんなのと戦っている余裕なんかないよぉぉ!」
そしてスカラビのピラミッドに侵入したネス達一行はそのほぼ全ての生物が感じ取るであろう一つの恐怖の渦中に身を投じているのだった。
王家の墓ピラミッド。
入って来た侵入口を塞がれ、進む事しか出来なくなったネス達四人。
現代の建造物とは違い、壁も床も石で組まれた原始的な場所。
壁には幾つもの絵文字や模様が細かく描かれ、遥か昔に作られた建物でありながら、どれ程の歳月を経て建てられなのか、またはどれ程の奴隷や王の眷属が動いたのかという建造に関わった人間の数も苦労も計り知れない。
最早、王の血筋以外は近付く事を禁ずる聖域。
偶然にも周囲に誰も学者や観光客がいなかったことが功を奏し、誰かを巻き込む。
またはスカラビの人間に彼らの侵入という情報が洩れてしまうと、子供とはいえ文化遺産であるピラミッドに入ろうとしたと厳罰を受けるかもしれない。
そうした中でネス達はひたすらに進んだ。
入り口の脇に落ちていた何本かの松明にポーラのPKファイアーで着火し、進む中で見つけた壁掛けの松明に火を灯し、道中を明るくしつつ内部を歩いていった。
けれども、流石は地を治めた王が眠りし墓。
「うわっ!? この絵、襲ってきたよ! 気を付けて!」
「きっと、ピラミッド中には呪いがかけられているんだ! だから絵が動くんだ!」
性別年齢問わず、番人に認められたとはいえ聖域への侵入者をすんなり通す程甘くはない。
彼らの行く手を邪魔するのはピラミッド内を住処とする蜘蛛のモンスター。
毒持ちである事をアピールするような紫色の体に縞々の模様が付いた『スパイダー!!!!』
そんな名前まで主張が激しいモンスターに加え、他に立ち塞がる敵。
「この毒蜘蛛も煩わしいが、この敵に攻撃は当たっているのか?」
その正体はなんと絵文字。
恐らくモデルはアヌビス神と思われる簡素な絵がウアスと呼ばれる杖を持ち、生を得た存在。
濃く太い黒い線が動き出したこの場所特有のモンスター『のろいの絵文字』。
絵である敵の筈だが、その手に持つ杖を振るいPKサンダーや目が眩むPKフラッシュを自在に操り、時々紫色の吐息を吐き付け風邪の状態異常を引き起こさせる。
倒すことは出来ても、武器で殴打した際の手応えがイマイチ得られず、本当にダメージを与えられたのかと疑いを持つ奇妙さを兼ね備えた魔物。
「まだ絵文字の敵はいるみたいよ……あの動いてる蛇もそうじゃない?」
敵を退けた後に先へ進む最中、新たな絵文字が軍を為して襲い来る。
呪いの絵文字と肩を並べる、生を得た文字『スネーク絵文字』。
こちらも黒い線で描かれた蛇の絵。
蛇の脱皮は復活・再生の象徴とされており、葬祭にて重要視されている。
現王は死ぬが、その魂は次なる新たな王として転生する。
そういった解釈がされていたのかは古代を生きた人間にしか分からないが、牙をむき出しにして襲ってくる相手にネス達はそんな思考を持ち合わせずに戦っていた。
そして警備兵の様な存在達との戦闘を終え進んだ先では、何度も壁の松明に火をつけては視界を確保しつつ、奥へと続いている石の階段を昇り下りしていく。
「ゼェゼェ……運動不足のメカオタクには堪えるよ……」
だが段数は、数十段にも及ぶ急な段差のある階段。
普段から運動には不慣れなジェフは息を切らしながら、そんな愚痴を溢す。
下りこそ楽ではあるが、昇りは戦闘をせずとも体力を奪われる。
「大丈夫だよ……ぼくだってしんどいからさ」
「ふう、ふう……テレビで運動選手が階段でトレーニングしていたのを思い出したわ」
外の熱気を侵入させず、日光の暑さも無かったが、それでも厳しい。
加えて、本来階段途中の休憩場所であるはずの踊り場では絵文字たちが待っていましたと言わんばかりに侵入者たちを壁から抜け出し、攻め立てて疲弊させる。
「……皆、近くから何か冷たい気配がある。ここを昇ったら休憩にしよう」
そんな中で仲間が口々に疲れを訴える中で、汗を掻きつつも弱音を吐かないプー。
修行で苦行や厳しい鍛錬を積んできた彼にとってはこの程度は知れているのだろう。
冷静に現場の状況を把握し、仲間たちに向ける。
「…………。本当だ、まだこのピラミッドで感じた事の無い気配だ」
どんな時でも冷静さを欠いない頼りがいのある仲間の助言に、ネスはそう返事をする。
存在をハッキリとは感じ取れないが、絵文字モンスターや蜘蛛とは違う気配を察知。
まだまだ墓荒らしを叩きのめすための罠や番人は潜んでいるのだろう。
とは言え、次なる場所の入り口が見えている階段の頂上まではあと僅かな事もあり。
「とにかく、敵に気を付けつつ、あそこまで昇りきろう」
仲間たちにそう発しながら、後数段で終わりを迎える長さの階段を上がって行くのだった。
「随分と広い所に出てきたね」
階段を越えた先に広がる景色は行き止まりの大広間だった。
天井も非常に高く宮殿の中に出もいるのかと錯覚する程の高さ。
空間を支える太い柱が一定間隔で佇み、その間には筋骨隆々な石像が立ち並ぶ。
「さっきまで雰囲気が違うけど、敵の姿は見えないや」
その中でネス達は一人一人分かれて、大広間を調べて回っている。
内、ジェフは部屋の中央部に立ち、あちらこちらへ目を向けて様子を伺っている。
「でも、何処に進めばいいか分からないね、行き止まりだし」
そして彼は動く敵の姿が無い事を確認し、とりあえずこの場は安全かと近くで蓋が開かれ、中身が空となっていた石棺の枠の部分に腰掛ける。
対して他の仲間たちは。
「微かに風が吹いている場所があるが、何かの装置を動かさないと開かないみたいだな」
壁沿いを回り、怪しい場所を調べるプー。
目的のタカの目がどこにあるかは不明だが、ここまではほぼ一本道。
ここが行き止まりのはずが無いと他の通路が無いかとこうして探り回っている。
「こういう所って絶対になんか仕掛けとかあるんだよね」
ネスもプーと同様に別の部屋への手がかりが無いかと、立てかけられた空っぽの棺。
または勇ましく腕と足をあげて構える壁際の石像の裏側や足元など。
疑わしい場所を次々と詮索している。
けれども……全員が散策する少しの時間で得た物は。
「ダメだ。何一つスイッチみたいなのは見つからなかった」
何も無かった。
結局部屋の中に見つけたのは以上の物。
柱の間や壁際に並ぶ大人二人分ほどの高さを誇る合計十体程の石像。
遥か昔に墓荒らしが盗んでいったのか、空になり蓋が開いていた石棺。
最後に先へ続く道と思しき入り口を塞いでいる大石像。
墓を守る番人らしい筋骨隆々の男性を象った姿は同じだが色と姿勢が違う。
その像は他の石像と違い胡坐(あぐら)を掻き、全身を紫色に染められている。
大きさもまた然りで、恐らく直立した姿勢を取らせれば、ちょっとした建物くらいの高さ。
言ってしまえば二階建ての一軒家程の高さを誇るだろう。
「他の道は高い石造りの壁で塞がれている。多分、コイツの奥が唯一行けそうなんだが……」
人はとても入れない石像背後の僅かな隙間が見え風が出てきている。
その後全員が確認した所、彼の推測通り何処か別の部屋に繋がっているのは確かなのだが、設置物である大石像は微動だにしない。
「これまでの階段で見逃していた仕掛けがあるかもしれないよ。一旦戻ってみるかい?」
松明を点け、明かりを確保するのみで通路等を調べてこなかったネス達。
ジェフはそれを思い出し、仲間に提案する。
「そうしよう。外から見てもかなり大きなピラミッドだったんだ。これだけの部屋しかないなんて事は無いだろうし」
内装も調べ尽くし、次なる打つ手がなかったネスは彼の意見に賛同。
とりあえずこの間の番人らしき紫の像、別所へと続く通路を塞ぐ石造りの壁。
その二つをどかすべく、こういった場所特有の変わった仕掛け。
例えば一部の出っ張ったブロックを押し込むと起動、または盛り上がった足場に体重をかけて乗ると起動するスイッチの様な仕掛け。
ゲームやテレビで見かけるような仕掛けを見逃してきてはいないかと、彼らは考えると、
「じゃあ、戻りましょう。また階段を上り下りするのは辛いけど」
そうして、四人は鎮座する石像の前から視線を、階段の方へ向ける。
すると……。
(あれ?)
その瞬間、全員がある違和感を抱いた。
自分たちの視線の先に広がる景色に小さな変化が生じていた。
いや、小さなというのは違うかもしれない。
「ねぇ、みんな……あそこにぼく達が入って来た入口あったよね?」
皆が固まる中。
初めに声を出したのはネス。
元来た道を指さし、仲間三人にそう尋ねる。
石像に気を取られている内に下からせり出したのか上からシャッターの様に降りたのか。
それは定かではないが、彼の指差す方向にあったのは『壁』。
階段を抜け、この大広間に入る際に潜った入口。
「ええ……間違いないわ……この石像と対称の位置にあったもの……」
塞がれていた。
誰も逃がさぬぞとピラミッドが自我を持って動いたように、彼らの行く先は無くなっている。
「閉じ込められた? じゃあどうすれば……」
余りの唐突な場の異変に混乱もしないジェフ。
だが途方には暮れていた。
膝から静かに場に崩れ落ちる彼の姿を眺めていると、状況はさらに悪化する。
ギギギギギギギ……。
その重々しい音は紛れもない内部から響いたものである。
起こったのはあまりにも続けざまの変化だった。
「何だ? 周りの封鎖されていた場所が開いていく?」
プーが調べていた数か所の通路を塞いでいた高い石の壁。
ギギギギギ……。
ギギギギギ……。
音の正体はその複数の壁たちが同時に動き出した際に発生したもの。
変わらずネス達の侵入してきた場所は塞がれたままだが、開き始めたのだ。
何故? どうして? とネス達の思惑が入り乱れる中で。
「ウオォォォォアア……」
「アァァァァウォォォォ……」
行く手を阻んでいた壁が脇へと退く中で聞こえたのは呻き声。
不気味でおぞましく、恐ろしい低い唸り声。
「ネス、あれって……」
「ゴクリ……まさかだと思うけど……ここの開いている棺桶って……」
邪魔なものが無くなり普通ならば自分たちが向かうべき新しい通路。
しかしそこには『別の存在』が群れを為して立ち、阻んでいる。
「ウェェェオェ……」
「ウガァァァァ……」
今にもこちらへ向かってきそうな雰囲気を醸し出しつつ、フラフラとしながら。
声を上げて、『彼ら』は相手が動き出す瞬間を伺って待っている。
砂や時間の経過による腐敗で汚れた布で体を巻かれた姿で……。
「ネス……アレ……どうするの……」
対称的に仲間たちの額には嫌な汗が流れ出る。
敵の数も数だが、それ以前に純粋な恐怖が全員を襲った。
墓荒らしによって中身が盗まれて、空になっていたと思われていた石棺。
だが逆に考えてみる事にしよう。
これが……【侵入者を排除すべく、中身が動き出した後】だとしたら?
「い、いい考えが一つある……というよりこれ以外思いつかない……」
様々な憶測、推測が出る中で声を震わせるポーラに尋ねられたネスの返答。
何となく彼の返事の見当がついてはいたが、全員が彼の意見に耳を傾ける。
すると彼は単純明快、聞くだけで命令の意味が理解できる言葉を放った。
「全員! 全力で逃げろ!」
「「「やっぱり!」」」
その言葉が皮切りだった。
四人が一斉に分かれて、開いた通路またはこの大広間内で逃走劇を繰り広げ始めたのは。
そして敵は石棺から抜け出したミイラモンスター『しばきひびわれ』の軍勢。
全身全霊、全ての力を出して一目散に敵から逃れるように走り始めたのだった。
正直な話、距離を置けばPSIの技またアイテムのボムで倒せたかもしれない。
敵も自分たちを包帯で、す巻きにして仲間に加えてやろうと薄汚れた包帯を持って、自分の背中を追いかけ回してくるが、距離や走る速度には差がある。
血の通っていない亡者の足と血も筋肉もしっかりとしている生者の足。
そもそも筋肉を動かせず、走れる力すら入らない筈の亡者が走れるという点で色々とおかしいとも言えるが、生者に対する凄まじい執念、そして自分たちが慕っていた王の墓に無断で立ち寄る者たちに怒りを覚え、執拗について来るのだろう。
とにかく、その速度は少年少女たちでもある程度凌げる速度ではあった。
しかし……ここで真の恐怖が現れるなど誰が予想しただろうか。
『墓ヲ荒ラス者ハ死ヲ! 我ラノ恐ロシサヲ、ソノ身二刻ンデヤレ!』
なんと、声を発しながら『違う物』が追いかけてきていた事を。
当然、ミイラでは無い。
激しい地響きと時折、柱や壁をぶち破り、時にはミイラを踏み潰してでも追ってくる存在。
いくら侵入者を撃退するためとはいえ最早どちらが墓荒らしか区別がつかない程の荒く、凄まじい暴れっぷりを見せるのは、大広間にいた『石像』だった。
「ひぃぃぃぃぃ! あんな奴どうやって倒せって言うんだよ!?」
「神様……死ぬ時はペシャンコじゃなくて、綺麗な包帯でグルグル巻きでお願いします!」
「くそっ……逃げるばかりで手も足も出ないとはこの事か……」
名を『王家の石像』。
ピラミッドを守護する為に古代の術者たちが魂を込めた物。
体中に黄色いオーラを漂わせながらポーラ、ジェフ、プーの三人を追う巨体モンスター。
まるで陸上競技の様に意気揚々に走ってくる姿はまさに鬼。
眼前の敵を追っている最中に壁があれば問答無用で突っ込む。
邪魔な柱があれば腕をラリアットの要領で構え、へし折る。
足元に邪魔なミイラがいれば、何食わぬ顔で踏み潰す。
同様に墓を守護する任を担っているミイラたちもそれは了承しているのか、不気味ではあったが踏まれた後でバラバラになった体のパーツを仲間と共に集めて、肉体をきちんと修復すると石像と共に追跡を再開する。
速度もミイラに比べるとダントツで早い敵の脅威に晒される中で肝心のネスは。
『殺す! 殺す! 殺す! 我が王の墓へ侵入した者は子供だろうと容赦せんぞ!』
「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい! なんで『コイツ』まで動き出したんだ!?」
まさに身の危険に晒されている彼らもそうだが、生きとし生きる者が感じる一つの恐怖。
それは『体の大きさの違い』だった。
例えば、威嚇という行為がある。
大きな音や急な動きで相手を脅かす事や蛇などであれば毒などの武器を持っている事をアピールする見せつけ方、または常時攻撃できる姿勢などある。
その中で体を大きく見せるという行為があり、自分の方が強く優位である事を見せつける。
相手は威圧され、恐怖する事で退き、時には敗北してしまう事すらある。
さらに言えば巨大な存在というプレッシャーに晒され巨像恐怖症といった心理まで存在する。
高所恐怖症と似た心理的な外傷であり、見るだけで手足の震えなどが発生するというもの。
ましてやその馬鹿でかい物が自分を殺そうと意気込んで向かってくる。
言ってしまえば恐竜や化け物が追ってくるのと大差ない。
『踏み潰して、一撃で終わらせてやる!』
そういった大きな恐怖がある中でネスは最悪の引きだった。
彼を追っているのは何と大広間にて鎮座していた最大の石像。
そう、どっしりと胡坐をかいていた筈の紫色の大石像が恨みの籠った言葉を吐きながら、その小さな体めがけて走ってきているのだ。
一匹のアリが象に追われる。
別にアリ側は人間でも構わない。
動かなければ、何の変哲も無い筈の物体が意思を持って己を追い回す。
さぞ、感じた事の無い恐ろしさを含んでいる事だろう。
さらに付け加えるなら、その巨像。
このピラミッドを守護する存在をまとめ上げる最強の存在『石像の元締め』は彼めがけて、距離を詰めれば剛腕で叩き潰そうと少年に向けて縦に腕を振りおろす。
「ひぃ!? 危ない!」
当たればあっという間にあの世への直行便が切られるという拳の一撃。
ネスは足元を覆う敵の影から動きを推測すると、その破壊の拳を避ける。
たまに敵が高い天井に激突し、瓦礫が落ちてくる事もあったが、それも避けていく。
怖い、ヤバい、死ぬ。
衝突で傷つけ、頭部や体にヒビを入れながらも追ってくる巨大魔像。
攻撃などしても間違いなく返り討ちに遭う石像たちに手を焼きながら、四人は常に死の恐怖と顔を合わせながら逃げ惑っている。
「ねぇ! ネス! どうしたら! いいの!?」
「何か! いい考えは! 無いかしら!」
追われながらもあちこちの部屋を巡り、時間が経過した後。
追われている内に何度か全員がこの悪夢が始まった大広間に集合する事があった。
体力も無限にある訳でもなく、仲間たちは必死で足を動かしながらリーダーのアイデアにすがる形で合流するたびにそう尋ねていた。
「そんな事を! 言われても! ぼくの背中を追ってるコイツが! 大きすぎて! 怖すぎて! 打開策なんか簡単に見つけられないよ!」
対して貧乏くじを引き、鉄壁の巨人こと石像の元締めに追われるネス。
彼も逃げる事に必死なのか、仲間たちと顔を合わせても表情に一切の余裕が無い。
軽く地団駄を踏むだけで場所が揺れ動くほどの大きさと重さを兼ね備える敵。
PKキアイも試したが、爆発が分散され、一点にダメージを与えられない。
それ以前に逃げながら放つので、冷静に標準を合わせられない。
(でも……絶対に弱点はあるはずだ。大きくて重いモンスター……そう……石像の敵は)
ひたすら道の続く限り、逃げ続ける彼。
それでも放った言葉とは裏腹に足を止めずに考えた。
何かしらこの窮地を凌ぐことは出来ないか。
この暴君の様に走り回る大石像……勿論他の石像も止める手立てはないか。
(ミイラのモンスターの殆どは踏み潰されたせいか、怯えて今は隠れてる。あの石像たちさえどうにかできればいいんだけど)
彼は追ってくる石像がこちらに向けて足踏みしている背後を眺めながら観察する。
石像たちの弱点を見極めるべく。
太く逞しく、鍛え上げられた筋肉質な足。
だが人間とは違い彼らには足を自由に動かせる筋肉などない。
動きとしては只々敵を追いつめ、拳を振りかざすか足で踏み潰すしかない。
(そうか! そうだ、簡単じゃないか!)
そして、そこまで観察したネスに一筋の光明が差し込む。
(足だ! 足を潰して倒せばいいんだ!)
発想から実践までの経緯を思いつく頭の回転は早かった。
編み出されたのは敵撃破の方法。
その機会が巡ってきたのは五度目の合流の際。
物陰に隠れて、たまに見つかるまでの短時間だが休憩などを挟み、体力の回復を行っていたのか、走っているのが少年達とは思えない程の距離を走らされ、四人は再び大広間に揃った。
ここしかない。
一発で成功させないとそれこそ終わりだ。
そうして意気込みを入れるネスはこの合流時に話した。
周囲を囲む様にして石像がジリジリとにじり寄っているピンチそのものの現状で。
「ジェフ! ありったけのボムをあの親分の石像の足もとにお見舞いして! ポーラとプーは像が迫ってきたギリギリでPKフリーズを使って他の石像の足止めを! ぼくはPKキアイでジェフの援護をする!」
「「「了解!」」」
何も聞かなかった。
疑問を抱く事なく、全員はネスの言う通りに動き始めた!
観念したのかと、走る事は止めて一歩一歩、ドスン、ドスンと遊ゆっくりと歩み出る石像たちからすれば、彼らの行動など無駄な足掻きだと思われていたかもしれない。
もう後、一、二歩で自分たちを踏み潰せるであろう距離まで迫った配下の石像。
「行くわよ! PKフリーズγ!」
「喰らえ! PKフリーズβ!」
だが……賽は投げられた。
渾身の力を込めた二人の技にて敵の足元は凍り付き僅かな時間だが、留める事に成功。
「ネス! 君を信じるよ!」
そしてリュックの中に残っていた爆薬の全てをにじり寄って来た石像の元締めの足もとへ全て投げつけると、
「いけぇ! PKキアイβ!」
さらに爆発力を増すべく、ネスは自分を散々追いかけて来た憎き敵の足もとへ放った。
すると。
BOMB!
凄まじい爆風を発生させながら、石像の元締めを中心点として破裂。
恐らく生物であれば跡形も残らない。
仮に雪山であれば間違いなく雪崩が起きる程の凄まじい衝撃と爆発だった。
すると、風が止み始め、敵の姿が露わになり始めたその時の出来事。
「やった、成功だ!」
作戦を考案したネスは敵の姿を見て、勝利を確信した。
「皆、巻き込まれない様に、今のうちに逃げるんだ! 【倒れてくるよ!】」
彼が確信した際に見えた景色は石像の破損した足。
馬鹿でかいボディの体重を支えている足が爆発によってひびわれ、折れていたのだ。
そう、彼が考えた石像の弱点は自身の抱える重量だった。
ズドォォォォォォォォォン!
その重さのバランスを取っている部分を破壊されれば、無論倒れ込むしかない。
例え、目の前に『足元を凍らされ、身動きが取れない仲間』がいても。
それらを巻き込む様に倒れ込み、他の石像を自分の体で押しつぶす事になろうとも。
足が欠損した以上、後は物理法則に任せるしか仕方が無い。
「凄い……まるでドミノ倒しを見ているみたい」
ポーラの例えそのものだった。
凄まじい振動を起こしながら一斉に崩れる様にして地面へと激突する様はドミノ。
一斉に崩れ落ちる様にして石像たちが勢い任せに倒れる様は迫力に満ちた景色だった。
「「や、やったぁぁぁぁ!」」
「ネスの案も凄かったが、皆もよく頑張ったな。もしあれを外していたら俺も多分死んでた」
「フフ、こんなに疲れる戦闘はもうこれっきりにしたいわね」
そして難儀した戦闘を終え、大喜びする全員。
しかし、敵を何とか思惑通りに文字通り倒せたのまでは良かったのだが……。
ビシッ! ビシビシッ! ビシッ!
予想だにしない出来事が一つ起こっていた。
ビシビシビシ! ビシビシ!
誰も気が付かなかっただけで場には新たな変化が起こっていた。
余りに強い衝撃が伝わり、ピラミッドの床が耐えられなかったのだろう。
ビシッ! ビシッ!
それは床のあちこちに亀裂が走る音だった。
喜びで呑気に飛び上がっている『ネス達の足もと』めがけて亀裂が集中する。
最早崩れる寸前だった。
だが、苦戦の末に勝利を手にした彼らの喜びを誰が邪魔できようか。
「やった! やった! 倒したぞ!」
余りの達成感から大いに『飛び跳ね』はしゃいでいる中で床は限界を迎える。
すると、後はどうなるかはある程度予想が付くだろう。
ボゴッ!
「えっ?」
四人の体は底が抜けた床へと吸い込まれるように落ちていった。
少年少女の体重にすら耐えらない程までに崩れていた床で飛んでいた四人はさらに建物下層へと勢い任せに直行していくのだった。
床の底が抜け、間抜けな感じでネス達が落ちた先。
それはまさに幸運の一言に尽きる場所だった。
「かなり落ちたみたいだが……無事だな。それとアレは何だろうか?」
内部に積もっていた砂の山がクッションになってくれたのか、誰も大怪我を負う事が無かった中でプーは狭い部屋の中央に飾られている物体に目を向け、そう発する。
「プップッ……あの台座の上かい?」
頭から砂の中へ勢いよく突っ込んでいったネスは砂埃まみれになった頭を振り、口の中に入った砂を吹き出しつつ、彼が指さす方向を見つめる。
同じく体を汚しながら体を起こすポーラとジェフの無事な姿も視野に入れつつ、近づいた。
「これは、飲み物かな?」
仰々しくヒエログリフらしき文字が刻まれた台座の上に乗っている品。
それは目玉の様な紋章が描かれた透明な小瓶だった。
瓶の中には白い液体が含まれている。
「プー、一応読んでもらってもいいかな。迂闊に取って何か起こったら怖いから」
一応、何かの罠かもしれないと警戒の様子を見せる彼は、小瓶の手前に三行ほどに渡る古代文字のメモらしき文章の解読をプーに頼む。
そしてネスは台座の前から退くと、恐らくこの物体についての説明と思しき文章を読ませる。
台座に記載されていた内容とは。
「…………。なるほどな。喜べ、皆、これが俺たちの目的の物だ!」
目を動かし、書かれた文を読み解きプーは喜ぶように大きな声をあげて全員に伝える。
続いて刻んであった文章の意味も口にした。
「内容によれば【これ、万物を見通すタカの目なり。これを目に振りかければ魔境の闇も晴れるであろう。目を傷めぬようにかけ過ぎに注意せよ】って書いてある。要するに目薬に近いな」
そう、ピラミッドの守護者の親分であった石像の元締めが倒れた衝撃で開けた穴の先。
なんと、そこはタカの目が安置されていた隠し部屋だったのだ。
結局倒せても、小細工で戦力的には敵わなかったが、何とかタカの目を入手できたのである。
「よし、出口を探そう。早く出ないとまたアイツが襲ってくるだろうし」
ネスはそう発言すると、穴の開いた天井を眺める。
まさかの崩れた破片を修復して復活したのか。
未だに自分たちを探しているのか、彼らのいる下層部の上部からドスン、ドスンと地鳴りを起こしながら石像の元締めと思わる重量感に満ちた存在が足音をあげて動いている音がある。
ダメージを与え、ヒビを入れても問答無用で足を止める事無く襲ってきた鉄壁の紫巨人。
「もうあんな硬い敵とは会いたくないわ……。きっと映画とかならダイナマイトで倒すような奴でしょうけど、まさか現実で会っちゃうなんてね……」
「僕はこれからオカルトチックな出来事も信じようと思ったよ。呪いってあるんだね……」
動き出すミイラ、追ってくる石像、そしてそれを束ねる大石像。
いずれもインパクトは十分であり、捕まればロクな目に遭わない事が目に浮かぶ敵達。
特にどれもフィクションの中だけの存在だと高を括っていたポーラとジェフ。
呻き声をあげて襲い来るミイラのひびわれ男や王家の石像、そして一番はこれまで会い 見えてきた音の番人並みのタフさを持った石像の元締めが相当精神に堪えただろう。
追われる恐怖と実在した恐怖でミックスされ、ピラミッドを抜け出そうとする現在から道中残党である絵文字や蜘蛛達との戦闘を済ませて脱出するまでは終始苦笑いだった。
こうして珍しくコイツは絶対に倒せないと察した存在から逃れる形で進んでいく。
そうやってひたすら道なりに地下を進んだ彼らはその中でついに開かれた出口を見つけた。
今回は閉じられること事の無い、明るい光差し込む出口を。
そしてこの恐怖に満ちた閉所より脱出する際に見えた外の光の安心感が、どれ程心に温かみを与えてくれるかといったまさに映画の様な感動に包まれていたのだという。
何とか一悶着ありながらも、彼らはピラミッドを無事に脱出したのであった。
ここまで興味をもって読んでくださった読者の方ありがとうございます。
もし投稿ミスの時点で読まれた方がいた場合は申し訳ないです。
では毎度おなじみ、ここからは長い後書きでございます。
本当に本当に苦戦しました。
どうやってピラミッドを攻略させよう、マンネリ化してきている展開をどうすればいいのだろう、まず私的にイメージの薄かったピラミッドという存在自体をどう輝かせよう?
色々な思惑が交差しまくりカオスな状況に陥ってしまいながらも、これを完成させました。
自分では書いていて楽しくても読者の方が楽しんでくれないと努力している意味も、MOTHERという名作を取り上げている意味も見いだせないので、本当に今回は何度も申し上げますが、難産の言葉に尽きました。
原作についてのコメントはここらへんでバグがしょっちゅう起き記録が消えていたので嫌な思い出だけでなく、早く抜け出したいと思うばかりでしたね。
バグらないでと祈りを捧げながらやっていた記憶もあります(笑)
ではでは後書きは今回、これで締めくくるとして、またお会いしましょう!
またすぐに書き始めていくつもりなので、この小説に興味を持ってくださった方または続けて読んでくださっている方々、ぜひ次の話も待っていてください!
では失礼いたします、本当に投稿ミスは申し訳ありませんでした。次は同じミスをしない様に心がけます! ではではグッドバイ!