mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

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お久しぶりです。
文字数が……我ながらエライ事に……。
とりあえず積もる話もありますが、全てはいつも通りの後書きにて。
それでは二か月ほど期間が空きましたがオリジナル展開を詰めた最新話どうぞ!


ダンジョン男

 

 無事にタカの目を入手し、ピラミッドから脱出したネス達。

 一応出てきたのは、侵入時の大きくそびえ立っていたピラミッドとは違い、地下で道が繋がっていた別の小さなピラミッドからではあったが、それでも無事に脱出。

 暗かった屋内から皮膚を焼くような暑い熱線を降り注ぐ太陽の下へと出てきた。

 そうして、また一つの苦難を乗り越えた矢先の出来事。

 

 

「よくぞここまでたどり着いた! 其方たちを待っておったぞ!」

 

 

 深い地下部分から階段を上がって出口を潜る四人を出迎えるように、旋風を纏いながらある人物が現れたのだった。

 

「あ……貴方は!」

 

 まだ風を纏い、姿は明確になっていないが、その声に反応したのはプー。

 聞き覚えのある、いや、ついこの間まで聞いていた男性の声に彼は勘付く。

 すると、四人を迎えた人物は自分を知る彼の声にハッハッハと高い笑い声をあげ、体中を包んでいた風を消し去り、自分の姿を露わにする。

 

「久しいのう、プー王子。おっと、其方たちからすれば初めて目にする顔かな?」

 

 ネス達が見たのは簡素な緑の布に身を包み、ヒノキの杖を片手に携える禿げ頭の老人。

 彼はプーの住まうランマ国では『仙人』と呼ばれる徳の高い人物である。

 常人なら気が触れて、逃げ惑うような厳しい修行を幾つも乗り越え、今なお鍛錬を積むべく世界中を巡っては修行を続けている存在。

 

「どうやら運命の存在に無事巡り合えた様じゃな。良かったのう」

 

 彼はプーの近くでポカンとした表情でこちらを見ている少年達へ目をやり、少し前まで悩みを抱いていた時とは違い、より逞しくなった目付きや姿だけでなく、共に歩む仲間が出来ている事に満足そうな表情を浮かべる。

 

 すると、突然の来訪に疑問を隠せていないプーはどうしてわざわざ自分の元へ仙人が現れたのか気になったのか、

「して、仙人様。どうして俺の元に?」

 素朴な疑問を彼に投げかける。

 そうすると問いに対して、仙人は先程まで満足そうに笑みを浮かべていた優しい顔付きから少し険しい表情へ変えると、一度咳払いをし、持っていた杖を砂の上に差して口を動かした。

 

 

「うむ。実は先日ワシが聞いたお告げにて『流星の力』が強さを求める其方を呼んでおった。これ即ち、其方は『星を落とす方法』を会得する資格がある事を認められた。これは非常に強力で珍しい技じゃ。これはお主がこれからぶつかる障壁を砕くため、そして仲間たちの為に大いに役立つ技じゃ」

 

 

 仙人が来た理由。

 それはかつて自分が会得した特別な技を伝授する為だった。

 あまりに強力が故に通常では決して教える事の無い秘術なのだが、彼の素質が天より認められ、お告げという形で神より許可が下りた為、こうして彼の前に再び姿を見せたのである。

 

「星を落とす力か……」

「凄いじゃないか! プー! そんな技があれば百人力だよ!」

 

 仙人の口にする技について考えるプーの傍ら。

 そんな凄い技があるのかと感心し、言葉を発するネス。

 聞くだけで威力が凄まじいことが分かる星落としの力。

 もし彼が技を使えるようになれば、パーティーの強さがまた上がる。

 

 しかし……事はそれほど単純では無かった。

 

 

 その訳は直後の仙人が口にした言葉。

「じゃが! この技の取得には時間を要する。一度【仲間の元を離れ】、ワシと共に暮らし、厳しい修行を重ねなければ、無理じゃ。それでも良いか? 王子よ」

 

 

 大声で注意を促した後に発せられた内容。

 

「………………。離脱……か……」

 

 それは余りに唐突な提案。

 強力な技は魅力的ではあるが、まだ期間は短くとも共に命を賭して戦ってきた戦友たちと別れなくては技を手に出来ないという決断をいきなり迫られたのだ。

 

「皆……。俺は、この修行は冒険に必須だと思っている……だが……」

 

 瞬間、プーは仲間たちと目を合わせ、どうするかを決めかねていた。

 彼を悩ませる原因の一番の理由。

 それは仲間たちからの許可だった。

 結束された彼ら四人で自分だけが勝手気ままに動くわけにもいかない。

 まして一時的とはいえ自分がいなくなっても、ネス、ポーラ、ジェフの三人はさらに冒険を続けて行く、さらに強くなっていくモンスター達との戦闘もあるだろう。

 四人が三人になるだけでどれ程戦闘の難易度が変わるかはよく分かっている。

 

「さて、どうするのじゃ。王子よ、其方の意思を聞くまでは待とう」

 

 だから彼は仲間たちに目を配り、意思の疎通を行った。

 すると……。

 

 

「僕は君に任せるよ。」

「私もジェフに同意見よ。でも最後はちゃんとネスに確認してね」

 

 

 初めに目が合ったポーラとジェフの二人は一時であっても別れは辛そうにしていたが、あっさりと彼の意思を汲み取ってあげた。

 そして最後。

 プーは傍で待機していたネスに自分の思っている事を正直に伝える。

 

 

「ネス。俺は正直まだ心の何処かでお前達の事を心配に思っている。一人抜ければそれだけ戦闘に影響が出る。だからもしお前がダメだというなら修行は止めよう。だが、この修行は確実にこれからの戦闘で役に立つはずだ。それだけは伝えておきたかった」

 

 

 普段は大人しく、底を見せない人物だが仲間思いである彼はそう告げた。

 

 

 対してネスはその言葉を聞くと、非常に明るい笑顔を彼に向け、

「君の心配事はよく分かる。でもだからって君がぼく達の為に成し遂げようとしてくれている事を妨害するなんて出来ない。だから安心して修行へ向かうんだ。君が戻って来る場所は必ずぼくが、リーダーであるこのネスがなんとしても守ってみせるから!」

 

 

 一行を導く者として。

先頭に立ち、仲間を守る立場であるネスはハッキリとした物言いで発言した。

将という自覚を持って、彼は仲間の意思を優先しそんな激励の言葉を向けるのだった。

 

「ホホ、どうやら、あっさりと決まったようじゃの」

 

 そして少年達の談義を眺めていた仙人は決心を決め自分の元へと歩み寄るプーに対して、

「では行こうかの?」

「よろしく頼む、仙人様。では皆また会おう!」

 

 弟子となる王子の確認を終えると同時に、持っていた杖を振りかざす。

 すると、ビュオオオオオ! と現れた時と同じように旋風を発生させる。

今回はプーを巻き込む様に大きめの風を。

 

「では、また会おう。小さな勇者たちよ。まずはここより南に進んだオアシスを目指すがよい。そしてこれより冒険を進めた先で仲間の帰還を楽しみに待つがよい!」

 

 そうして直後、プーは仙人と共に風の中へと消えていき、そのまま場から姿を消すのだった。

 敵から逃げるように出てきたピラミッドから脱出し、息を付かせる間も無く起こった事。

 仲間の一時離脱という少し厳しい状況に対応できるかは不明だが、ネス達はプーを抜いた三人でまだまだ暑さの止む事の無い砂漠の上を歩いていく事になったのだった。

 

 

 

 

 

 仲間が一人抜けても冒険は続く。

 出口だった小型ピラミッドの元から離れたネス達三人は魔境という土地の名を手掛かりに砂漠の上を歩き、途中何度も休憩を挟みながら進んでいった。

 道中、ギーグの配下の手が既に回っているのか、ピンク色のボディをしたUFOのモンスター『こうきゅうユーフォ―』やボディは同色ながら青いリボンを頭に付けた平べったい形状の『気配りユーフォ―』など野生のモンスター達とは違う存在が浮遊し襲ってくる。

 さらには球体の頭部から伸びる触手の様な細い四本脚で直立する銀色のロボット。

 その名も『マル・デ・タコ』

 以上の敵が新たに遭遇するモンスターとしてネス達の前に立ち塞がるようになったのである。

 砂漠という猛暑の中での戦闘。

 そんな状況で正確にこちらの姿を捉え、不規則な動きで急接近する金属製の敵達。

 

「うわ、またユーフォ―とタコ型ロボットが来たよ! 皆、気を引き締めて!」

「あいつらから逃げる手段は無いのかしら……」

 

 ネス側からすれば体力の消耗が激しい戦地にて、宙を舞い素早く動ける四角錐の装置に身を隠して向かってくる敵から、足場の悪い砂上より走って逃げる程の元気がある訳でもないせいでほぼ毎回、回避できずに戦闘へ移行。

 

 

「ごめん、ネス……また『盗まれた』」

 

 

 さらに、ただ攻撃の応酬だけならまだ良かったのだが、ネス達は先述の敵達との戦闘でとある一つの深刻な問題に直面させられていた。

 それは……。

 

「くそ……またあのタコの仕業だね……もうあと一本しかないよ」

 

 マル・デ・タコの戦闘時の行動についてだった。

 ネス達の冒険とは言ってしまえばサバイバルに近い。

 食料、飲み物は全て現地での調達となっている。

 何も蛇や虫、草を燻して食べるという程凄まじいものでは無いが、今回であれば賑わっていたスカラビの町にて日持ちしそうな食材や水をたっぷり購入していた。

 ここを離れれば次に購入できる拠点がどこになるか予想できないからである。

 けれども、マル・デ・タコはそんな冒険の命綱とも呼べる食料等を、戦闘中のどさくさに紛れてこっそりと長い触手で盗み取り、逃げていったのである。

 それも遭遇する個体毎に次々と容赦なく。

 

「とりあえず、プーのお師匠さんの仙人様が言っていたオアシスを探そう。このまま倒れてしまったら、またモッチ―さん兄弟に怒られちゃうしね」

 

 ある意味ネス達を全滅させるために効率の良い行動を取ってきた敵の戦い方により、オアシスへ向かう事を余儀なくされた三人はジェフお手製の方位磁石にて何度か照らし合わせながら、野生や人工的問わず戦闘を重ねていき砂漠を南下していくのだった。

 

 

 

 

 スカラビ南のオアシス。

 飲み物が底を付く寸前にネス達三人は九死に一生を得る形でネス達は水が湧き、周囲にはヤシの木が生え揃った小さなオアシスへとたどり着いた。

 そして付近にはパオと呼ばれる円錐の様な形をしたテントが一つだけ張られており、人が住んでいる形跡らしきものがあったが……。

 

「やっと……水にありつけたね。あのままじゃあミイラみたいに干からびる所だった」

「ゴクゴク……タコロボットに殆ど盗まれたけど、これで水が補充できるよ」

「生き返るわね……砂漠の中で飲む冷たい水ってこんなに美味しいのね……」

 

 喉をカラカラにして来た三人にとっては『そんなもの』を視野に入れている余裕など全くなく、只々湧き出た冷水を手ですくい、無我夢中で口へと運んでいた。

 他にも盗まれなかった殻のペットボトルにも水を入れていき、必死で砂漠を踏破する為の飲み水の確保に専念していたのである。

 

 だからこそ、気にかけている余裕などなかった。

「………………」

 背後に『一人の男性』が見ているなど。

子供とはいえ、自宅の前で、自分の生活にも利用している水を慌てて飲んでいる三人の姿を訝しむ様な鋭い視線で睨んでいるなどとは……。

 

「おい……おめぇさんたち……」

「「「ゴクゴク……」」」

 

 全身をこんがり焼いた褐色の肌に腰蓑一丁。

 首から程よい筋肉の付いた上半身に垂れているのは動物の牙であしらったペンダント。

 

「おーい、聞こえてるか?」

「「「ゴクゴク……」」」

 

 片手には先に黒い矢じりのついた槍を持ち、もう片方の手には狩ってきた獲物。

 倒して来たドザガランの亡骸を引っ張りつつ、彼は見知らぬ子供に声をかける。

 夢中で湧き水に集い、他の音に耳を立てようともしない三人に……。

 

「おーい! そろそろ反応してくれないと俺だって怒っちまうぞ!」

 

 そうやって何度目だろうか。

 無視され続ける事に僅かな苛立ちを覚えるまでに声をかけた結果。

 

「ん? ネス。今何か声がしなかったかい?」

 

 残っていたペットボトル全てに水を入れ終え、次は湧き水に手を伸ばし自分の体に補給しようとした矢先のジェフが耳に届いた声に勘付く。

 

 すると真っ先に水に手を伸ばし、満足いくまで飲み終えたネスとポーラは、彼と順番を交代する様に守り切った空のペットボトルの中に注いでいくと、

「気のせいだよ。そもそもこんな所に人がいる訳ないよ」

「そうよ、ジェフ。こんな地獄みたいな砂漠のど真ん中で人が住んでいる訳ないじゃない。もしいたならその人は『相当な変わり者よ』」

 

 まさか背後でその一言一句を洩らさず聞いている住民がいるとも限らず、目の前に広がる青く冷たい楽園しか目に入っていない二人は言いたい放題であった。

 

 だが、この行き過ぎた発言に対しては流石の男性も表情をムッとさせ、

「変わり者で悪かったな!」

 

 ポカッ! ポカッ! ポカッ! と自分の言葉に全く応答しなかった子供たち各々の頭に槍の柄の先で軽く叩いたのだった。

 

「「「!?」」」

 

 まさか直後に頭部を軽く小突かれるなどとは予想だにしていなかった三人。

彼らはその後、槍の男性が生活するパオの中にて太陽の光から隠れるようにして、彼とここまでの経緯(いきさつ)を話す事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

「へぇ、おめぇたち、サマーズからスカラビに来て、あのだだっ広いピラミッドを抜けてきたと。ほんでもって物好きな事に『魔境』なんかに行きたいと……」

 

 男性はドザガランの肉をパオ内中央にある焚火にて焼きながらそう呟いた。

 彼はこの辺りの動物を狩り、その皮や余った肉をスカラビへと運び販売する狩人だった。

 ネス達はピラミッドの地下を通じてここまできたが、本来ならばスカラビから数キロという長く辛い道のりを踏破しなければ、ここのオアシスにはたどり着けない。

 けれども砂漠の暑さに適応している男性にとっては容易で、生活にも関わる為、ほぼ毎日の様にお手製の槍を使ってモンスターと戦闘、倒した個体の素材を剥ぎ用途に応じて扱い、売る。

 そんな生活を何年も送っているせいで体が慣れているそうだ。

 

「おじさんは魔境ってどこにあるか知っていますか?」

 

 狩人の男性を前に、ネスは余った肉の串焼きと冷たい水を貰いつつ、次の目的地についての数少ない情報を集めるべく、彼に問いかける。

 すると、表面をこんがり焼いた骨付きの肉を豪快に男性は口へと運び、咀嚼しながらだったが、人が滅多に立ち寄るはずの無い魔境という地について話す。

 

「ムグムグ……ここからずーっと南だ。ただし途中で馬鹿でかい川を挟まなくちゃならねぇ。しかもその川は通称ドロドロ川って言われてな、魔境に近づけば近づくほど沼みたいに進みにくくなりやがるのさ。しかも底なし。おめぇらが何しに行くかは聞かねぇが、馬鹿を承知で魔境に行くなら、とにかく『泳いでいく以外の手段』を見つけな……ガツガツ」

 

 スカラビの地より南へ、川を越えた向こう側にあるとされる魔境。

 名前からして不穏な空気漂う地名。

 槍の男性曰く『ヤバくて強くて臭い怪物まみれの沼地』

 明らかに観光目的で行くような楽しい雰囲気は一切感じられない場所。

 

「ガツガツ……馬鹿を承知なのは分かるが、引き返すなら今のうちだ。無策でドロドロ川を渡ろうとしたら、本当に命があぶねぇ。それでも行くってのか?」

 

 骨付きの肉をかじりながら、男性は前に座る三人に強く問い詰める。

 彼としては別に人助けをするわけではないが、これから向かうであろう場所の説明、危険性や忠告までしておいて死なれては目覚めが悪いのだろう。

 だが、ネス達の答えなどはなから決まっている。

 

「どうしてもやるべき事があるんです、途中で放り出すわけにはいかない」

 オドオドした様子、怯える様子を一切見せる事なく彼は男性にそう答えた。

「そうか……おめぇたち……」

 

 男性側としても、命にかかわると脅されても目を逸らすことなくハッキリと物を言う姿勢でネスの覚悟や意思の強さを十二分に感じ取ったのか、

「よし、いいだろう。兄ちゃんの……魔境へ向かう為に役立つか分からねぇが」

 

 彼は食べ終え、残った骨を自分が座っている敷物の傍らに置き、その場に立ちあがり天井からぶら下げていた独特の刺繍が入った茶色の革袋を手探りで漁り始める。

 

「えーっと……あったあった、確かこれだ」

 

 何か金属製の物を詰め込んでいるのかジャラジャラと袋の中で音を鳴らしながら、目的の物を探り当てると、銀に光る物体を袋から取り出しネスへと手渡す。

 すると、それは……小さな鍵だった。

 頭の部分に『ダンジョン入口用』とロゴが描かれた平凡な形の鍵。

 

「そいつはここから北に戻った場所、おめぇたちが出てきたピラミッドからさらに進んだ場所に突っ立てる塔みたいな『ダンジョン男』って奴の鍵だ。そのダンジョン男ってのは言っちまえば『動く建物』でな。時々砂嵐の中でドスドス歩いてるのを見た事ある。大きさも相当なもんだから、もしかしたら足場としてドロドロ川を越えるのに一役買ってくれるかもしれねぇ」

 

 彼が譲ってくれたのはドロドロ川を渡る手段になりえる可能性。

 船に乗って海上を進む様に、動く建造物に乗り川を渡る。

 

「元々、それはスカラビの知り合いから貰って、一、二度建物に訪れた事があるが、すぐに飽きちまってな。確かダンジョン男の主はブロックロードだか、ブラックロードとかいう変な男さ。何でも自分の迷宮(ダンジョン)を作るのが夢だったんだと。まあ悪い奴じゃねぇから交渉に行ってくるといい」

 

 そう告げると、男性は荷物等を収納している藁で編んで作られた箱から、

「ほらよ、おめぇら飲み水に困ってたんだろ。これを入れ物にして汲んでいきな。後もう少しここでゆっくりしていきな。日が落ち始めるぐらいなら暑さも和らぐ。逆にどんどん肌寒くはなるが、その間にダンジョン男の元まで急ぐんだな」

 

 持てる水の量が限られてしまった中で木製の瓢箪をそれぞれ一つずつ譲るだけでなく、さらに男性は気を利かせ休息を取っていくようにまで労わってくれたのだった。

 

「ありがとう……おじさん」

「変わり者なんて言って、ごめんなさい」

「ご飯まで御馳走になって、本当になんてお礼を言えばいいか」

 

 食事、冒険に必要な品の贈り物、目的地への情報提供と至れり尽くせりの施し。

 国を越えようとも、遠く離れた場所であっても助けてくれる親切な人はいる。

 それをひたすら実感するのだった。

 

「なあに、今はこうしてこんななりで暮らしてはいるが、俺も昔はあちらこちらを巡っていた冒険者だったんだ。だからおめぇたちの苦労は分かっているつもりさ。苦しい時こそお互い助け合う、そんな良い仲間を大切にするんだぜ! この槍男との約束だ」

 

 そうしてネス達三人は忌々しい熱を放射し続ける日が傾き始める時まで、男性の言葉に甘えるようにして、日光を遮るパオの中で時間を潰す事にしたのだった。

 

 

 

 

 日が傾き始め、砂漠の暑さが僅かながら和らいだ頃。

 日が完全に沈んでしまえば軽装であるネス達は、夜に訪れる急激な寒さに耐えられるかが不安になった事もあり、槍の男性に少し急かされる形で再び彼らは砂漠へ足を踏み入れた。

 名残惜しかったが水もあり極楽だったオアシスから離れ、一行の足は北にいるダンジョン男を求めて、川を渡る手段として新たな手掛かりを基に向かってゆく。

 胃袋も心も満たされ、飲み物にも僅かな余裕が出てきた事からかその速度は以前とは見違える程のスピードで進む。

 

「皆、今度は盗まれないように! 気合いを入れて戦おう!」

「「勿論!」」

 

 それでも日が落ち始め、自分の住処へと戻っていく野生動物たちは違い、昼夜問わずネス達の行く先をマークしているギーグ配下のロボットたちとの戦闘を交える。

 親切心で貰ったアイテム等をマル・デ・タコに奪われない様に。

 細心の注意を払いながら、ネス達は立ち塞がるロボットたちをどんどんとポンコツにして倒していくのであった。

 そうして……今回は何もアイテムを失う事なく彼らはたどり着いた。

 

 

「で、でかい……」

「思っていた以上に大きいわね……」

「ついさっきピラミッドで逃げ回っていた石像なんか目じゃない位だ」

 

 

 予想を大きく超える巨体の建造物。

 高さで言えば二十メートル程を超えるだろうか。

 それこそ男性の言っていた事が真実であれば、一度両足を動き始め、砂漠中を闊歩されれば同じ地に住まう生物から恐怖や畏怖の感情で警戒される事待ったなし。

 人型を模した形象埴輪に似た寸胴な体に首の部分が存在しない頭部が一体化している形状。

 コンクリートなのか塗り固められた塗料は不明だが、くり抜かれた目と口に尖った鼻。

 頭頂部には何やら小さな建物と草が生い茂っているという実に奇妙で珍妙な物体。

 これが外から見たダンジョン男である。

 

「あった、多分ここだね。鍵を使うのは」

 

 そうしたインパクト溢れる物体をぐるりと見て回る中で一行は裏側。

 もしこの建物を人体に例え、明確に記すなら尻の部分に裏口らしきものがあった。

 初めての来客にも分かりやすいようになのかは不明だが、ドアの上には『ダンジョン男入口、初めて来た人は誰かにここの鍵を貰ってきて欲しい』と丁寧な説明文まで彫られている。

 

「よし、行くよ!」

 

 事前に槍男より受け取った、中に入る為の鍵を使用したネス達はそのまま『体内』へと潜入していくのだった。

 

 

 

 

 

『ようこそ、あるいはウェルカム。ここは私の体の中』

 一行を真っ先に出迎えたのはそんな文章が書かれた木の立て看板。

 内部へと入り込んだネス達の目に入った中の様子。

 そこは高低差のある、自然の洞窟に非常に酷似していた。

 

 まだ入ってきた玄関とも言える場所から道なりに進んだだけの三人だけだったが、

『入口にマップを配置してあるのは優しさである。人生には初めから道標など無い』

主の優しさなのか、洞窟内部の構造を鮮明に記したマップが太い釘にかけられる形で存在しており、描かれていたのは広さも高さもあり入り組んだ場所、さらに図の下側には、

『ダンジョンがあるとやがてモンスターが住みつくものだ』

 と、そこまでご丁寧に記されており、さらには×のマークでプレゼント箱ありと、モンスター、アイテムの入ったボックス、洞窟とまさにダンジョン男と呼ぶに相応しい作り。

 

「なんだろう、これまでのダンジョンとは雰囲気が違う」

「ここ、明らかに人工的なダンジョンね。物好きな人は世界中にいるものね」

 

 看板だけでは無く、高低差のある足場など視野に入る景色を見つつ、ネスとポーラは目をキョロキョロさせつつ、そんな感想を述べていた。

 勿論、外見は巨像にも思える建物……自然が生んだ産物な訳がない。

 何者かが丹精を込めて創造したとしか思えない。

 ただ、そんな事実を一人だけ理解している人間がいた。

 それはまず目に入った看板の裏側を未だ眺め、場に留まっているジェフだった。

 

「そうか……『あの人』か……ブロックロードとかって聞いて浮かんだけど、やっぱりあの人だったんだ。あの時ダンジョン男になりたいって言っていたから……」

 

 彼が目にしていた先。

 看板の裏の隅っこに小さくそれは書かれていた。

 

『看板の裏まで読もうとする貴方の探求心、グッドです。その探求心を忘れずにアッシの元までたどり着いてくだせぇ。作者ブリック・ロードより』

 

 ジェフはその内容をチェックし終え、何故か設置してあった敷物有りのベンチで一服して待機しているネス達の元へ小走りで向かって行くと、手に入れた情報について話すのだった。

 

 

 

 

 

「よし、外の砂漠で消耗した体力も回復したし、進もう!」

 

 ジェフからの情報共有を終え、やたらと居心地が良かったベンチで一休みした一行。

 ひんやりとした屋内でのんびりとくつろぎ休息を終えた三人は早速疑似洞窟であるダンジョン男の体内を元気に満ち溢れた状態で進み始める。

 だが、意外な事に外殻となるダンジョン男の見た目こそ巨大だったが……。

 

「なんというか、見た感じややこしそうだったけど道なりに進めば先へ進めるね」

 

 高さや分かれ道などは複数存在しており、散策する通路は豊富にあった。

 道中ではこれまでに一度戦ったプレゼントボックス内に身を潜めるオモチャモンスター。

電撃の衝撃波を発生させるムジカギター『ムジカ』

記録された心地よい曲を流し、眠りへ誘う『あやかしのレコード』

熱々に熱せられたコーヒーをまき散らす『キラーカップ』

どこからどうして迷い込んだかは不明だが、ネスとジェフはフォーサイドにて対峙していた事があり、危険性も攻撃方法も頭の中に残っており苦戦はあまりしなかった。

 

「そうね、さっきのマップだと確かもうすぐ二階へ続くロープが垂れている地点よ」

 

 一方彼らのいるエリア自体では。

『行き止まりにはアイテムがある。ただし例外もあるだろう、済まぬ』

『残念、ここは行きどまりだ。挫けず他の道を進むといい』

『冒険中でも構わず腹の調子は悪くなる。我慢せずにこの先の厠へ行くべきだ』

『かなり歩いたな、お疲れ様。この先の箱には良いものが入っているぞ』

 

 道が幾重にも分かれてはいたが、進んだ先の多くは行き止まりで戻れば先へと行ける。

 

 加えてその行き止まりの先の多くは丁寧にラッピングされた便利なアイテムが入ったプレゼント箱が設置されている。

 

 そのせいでただ正解のルートを見つけさえすれば容易く前進できる。

 さらに言ってしまえば、広そうに『見えていた』だけ。

 実際は看板を置くスペースや、内部へ侵入して来た人物の数。

 複数人で中へ入り共に進んでいけるように改造された広々とした間隔や空間。

 要約するなら屋内ダンジョンを『楽しんでもらう為』のアトラクションに似ていた。

 

(前と同じでブリック・ロードさんは楽で楽しめるダンジョンを作ったのかな?)

 

 ジェフは前を歩くネスの背中を見ながら、そんな事を思い浮かべていた。

 以前に彼がここの主であろうブリック・ロードの作ったダンジョン。

 ブリック・ロード自身曰く『低予算ダンジョン』を攻略したジェフはあくまでも面白く、冒険者のやる気を削がないように敢えて簡素な構造を残しているのではと考えていた。

 例えば、遊園地のお化け屋敷などと同じ。

 道筋は進めば踏破できるように単純に作ってあるが、中のギミックで客を怯え、怖がらせる。

 要はそれと同じ。

 行き止まりはあってもすぐに戻れる距離。

 さらにその行き止まりまで歩いた労をねぎらうようにあるのはプレゼント。

 この場に訪れた人間を楽しませつつ、進ませるという思いがこのダンジョンには詰められているのだろうと、ジェフは少し口元をニヤリとさせ二人の背中を追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 ダンジョン男 二階エリア。

 複雑に見せかけて単純で簡単。

 これまでに様々な洞窟だけでなく、時には潜む音の番人たちとの死闘。

 何度と命の危険に晒され鍛え上げられたネス一行にとって特にこれと言った強敵もトラップも仕掛けも謎解きも存在しないこのダンジョンはあっさりと進めた。

 道を探り、見つけたロープにて続く上層へと上がった先。

 そこもまた作者の拘りというべきなのだろうか。

 

「随分と平和な場所だね……なんか気が抜けてくるよ」

「落ちない様にさえ気を付ければ戦闘にもならなさそうね」

 

 そこは動物園ならぬモンスター園だった。

 フロアの構造はここも至ってシンプル。

 地面には大きな窪み、凹凸が激しい場所が数か所とあり、窪みの中には捕獲された野生のモンスターが暴れる様子を見せる事なく、大人しく生活している。

 高低差も数メートルあるだけでなく、その周囲には侵入&脱走防止用の柵が備え付けられており、余程大胆な行動でも起こさぬ限り被害を受けない作りで構成されている。

 

 ちなみにブリック・ロードが捕獲したモンスターの名前は既にダンジョン男内で恒例となっている説明役を担っている立て看板にて確認でき、

『つっぱりダック。離れてさえいれば良きペット』

『あばれゴート。暴れるタイプのヤギである』

『ぐちゃぐちゃ。沼地にて生活していた変な生き物、ゲップが臭い』

『オレナンカドーセ。変な生き物2、一体誰がこんな名前を付けたのだろうか』

『ネガティブマン。別のMOTHERからやって来たらしいモンスター。戦わず話そうとするだけでこちらまで気が滅入ってしまう。声掛けしないように』

 

 ギョロ目が特徴の白いアヒルモンスター、つっぱりダック。

 鋭い二本角を携えた気性の荒いヤギ、あばれゴート。

 そして何故か捕まっている緑色のドロリとした体をしたギーグ軍下っ端のぐちゃぐちゃ。

 他にも様々なモンスターが同じ場所で生活を共にしている空間がこの二階だった。

 

「色んなモンスターを見るのもいいけど、先へ進もう。ネス」

「そうだね、さっき見た看板に『寂しいが、このフロアに興味がない人は先にある梯子へウェルカム』って書いてあったから、早く昇ってしまおう」

 

 一体何処から、どうやって、どんな手段で、そもそもブリック・ロード自身にモンスターを捕獲する程の実力があったのだろうか?

 などと色々疑問が残らざるを得ない場所ではあったが、殆どが今まで倒して来たモンスターの姿を見せられても、イマイチ新鮮味も面白味も感じなかった一行。

 そうして特に足を取られる事も止める事無く、襲ってくるモンスターもいない二階層目はちょっとした息抜き感覚で、ネス達はやたらと大人しいモンスター園を後にしたのである。

 

 

 

 ダンジョン男 三階エリア。

 天井へ繋がる穴から垂れた長いロープを伝っていった先。

 そこはこれまで通って来た一、二層と特に変わり映えのしない景色の場所。

 壁や天井、地面も相変わらず土を塗り固めて作った天然の洞窟に近い構造。

 直線では無く蛇の様に緩やかな波を描くように伸びた通路を、三階へたどり着いた三人は道なりに静かに進んでいくのだった。

 すると……その先には。

 

 

「ウェルカーム! お久しぶりでやんすね、ジェフさん。内部の監視カメラで見てましたよ。他の方々もお疲れ様でやんす。ここは言ってしまえばゴールみたいな場所です。あっちに置いてあるベンチで好きなだけHP、PPの回復をしていくといいです」

 

 

 三階へたどり着いて間の無く出迎えたのは開けた空間。

 広々とした場の壁際にはくつろぐ用の宿代わりになるベンチが複数並べられ、何処から線が伸びているのか、果たして通じるのかも不明だが公衆電話、後は観賞用の植物などダンジョンらしからぬ何処かの施設らしい内装となっていた。

 そしてそうした中で訪問してきた子供たちに声をかけているのは。

 

「久しぶりですね、ブリック・ロードさん。その、なんというか……その恰好は?」

 

 声の主であるブリック・ロードと面識のあるジェフ。

 だが、一度顔を合わし風貌を見た事がある彼は相手の『奇妙な状態』に疑問を浮かべる。

 

「ああ、これでやんすか。実は飯とかを食う時以外はこうやって『一体化』しているんですよ。中々面白い絵面でしょう。ハハハハハハ」

 

 そう笑いを浮かべて、顔見知りの質問に答えるブリック・ロード。

 彼は場に立って話をしている訳でも、ベンチで座って会話しているわけでも、ましてや寝転んで発言をしている訳でもなかった。

 それでは彼の言っている『一体化』とは?

 

 

「いやあ、実はこのダンジョン男ね。貴方のお父上であるアンドーナッツ博士と共同で作ったんですけど、お恥ずかしい話こうやって『体をコックピットにはめていないと』監視カメラが動かなくてね。もしもって時の為にいつもこうやって顔だけ壁から出しているわけなんでやんす。ほら、そこの壁にテレビみたいなのがぶら下っているしょう? あれが監視カメラの映像を映し出す機械でやんす」

 

 

 彼の言った通りだった。

 ジェフだけでは無く、言葉に甘えてベンチで腰を下ろして会話を傍聴しているネスとポーラの視線も釘付けになっている彼の状態。

 顔だけだった。

 なんと彼は壁から顔だけ出して話しているのだ。

 そのせいでどんな服を着ているか、どんな体格をしているか分からない。

 ただ鼻から頬にかけて伸びた長い髭、髪の毛が薄くなり肌が丸々見えている顔面だけを出し話をしている、何とも妙ちくりんな姿をしている。

 

 

「まあ、とりあえずアッシのこの状態はそれが理由です。あんまり深く考え込まなくても別にお話は出来ますし、結構この姿勢が気にいっているんで。別に構わんでくだせぇ。とりあえず皆さん疲れているようにお見受けいたしますので、ベンチで寝てると良いです。ジェフさんの連れてきたお仲間さんの事だ。単なる観光では無く、何かしらの用事があって来たんでしょう? お話はその後にお伺いしやすんで、のんびりしとってください」

 そんな初対面の人間からすれば一瞬で変わり者の烙印を押される事待ったなしの人物ではあったが、相手が発する通り深く追及する事を控え、主である彼が監視カメラで内部の安全性の確認を怠らない傍らで一行は敵もおらず涼しいこの場にて休憩するのだった。

 

 

 

 そうやって半時間程だろうか。

ちょっとした仮眠を挟み完全に体力を取り戻した一行は集中力を切らさずに、自作のダンジョンを満足そうに笑みを浮かべて監視するブリック・ロードに説明を兼ねて話を持ちかけた。

そう……魔境への行き方について。

 

「魔境でやんすか……また随分と物騒な所に……。その地を知る者からすれば大人たちですら立ち寄る事を嫌がるってのに、子供である皆さんが行こうって凄い話でやんすね」

 

 過酷な環境で知られる魔境。

 話を聞いたブリック・ロードは呆気に取られた表情でそう彼らに向けて呟いた。

 まさか自分たちの元へやって来た子供たちがその名を話の主題として持ちかけてくるなどとは思いもよらなかったのだろう。

 

 

「何とも信じがたい話でやんすが、今教えてもらった皆さんの言う『敵』がそこに潜んでいるって訳ですね。冒険とはいえあの場所は行かない方が良いと思いやすが……皆さんの話す顔付きから冗談ではなさそうですし、止めたところで諦めなさそうですしね」

 

 

 倒すべき敵がそこにいるからどうしても向かわなくてはならないというほんの概要だけ。

 ネス達からこれまで長い経緯(いきさつ)の殆どを掻い摘んで、聞いた今の冒険について。

 

「危険は承知の上です。でも何が何でもぼくたちは魔境へ行かなければならないんです」

「私たちの大切なものを護る為に、失わない為に」

「もう、貴方と会ったあの時の僕とは一味違います。まだビビりは完全に治ってないけど、この仲間たちの為に、未来の為にやるべきことはやるって決めましたから」

 

 大の大人ですら楽には帰れない場所。

 かつては『恐竜がいる』と噂で持ち切りになり、抑えられない探求心と強い興味で冒険家たちが集団で向かったが、その最深部までたどり着いたものは未だ確認できておらず、皆がそこに住まう怪物たちに恐れを為して逃げ戻って来たと語られる地、魔境。

(この子達……相当肝が据わっているでやんす。目付きもさることながら、悩む様子すら見せる事が無い……これまでにも随分と大変な目に遭ってきたに違いないでやんすね。)

 だが、それの説明を踏まえたうえでも眼前に立つ三人に動揺は無い。

 むしろ声にこそ出ていないが『早く、向かわせてほしい』と訴えかけてくるような目。

 流石にこれほど覚悟が出来ている人物達に、子供だの大人だのくだらないレッテルを張って、やる気を削いでしまうのは悪いと感じたのだろうか。

 

「…………危なくなったら、すぐに戻って来るでやんす。このダンジョン男のブリック・ロードとの絶対の約束でやんすよ」

 

 三人の力強く発せられた意見を素直に受け止めると、きちんと話をするためなのか。

「少しお待ちを。どうせ今日は誰も来ないだろうから。一旦『コックピット』から降りやす」

 壁から飛び出していた顔面を引っこめると、何やらガサゴソと壁の中から物音がした後に壁と同色でまるで見分けがつかない彼専用の隠し扉を開き、全身の姿を場に現した。

 その服装は灰色のインナーに薄汚れた紺色のオーバーオール姿のブリック・ロード。

 小太り気味の彼は片手にこのダンジョンの設計図、片手には赤いペンを持って話を始める。

 

 

「まず、さっき言っていた鍵をくれた槍男さんの提案についてでやんすね。このダンジョン男を動く足場として移動させ、あの毒沼の様な紫色の川を渡り、魔境に着く前の間、皆さんは頭頂部で待機すると……」

 

 

 図上でペンを走らせながら、説明を促し提案の内容を確認する。

 この建物を踏み台にする形で川を越え、魔境へと送ってもらう。

 

「はい、それがどうしても魔境へ行くために必要って」

 

 魔境への行く先を阻む川を直接見た、まして川へ入り水質を調べたわけでもないが、わざわざ教えてくれた槍男の情報を鵜呑みにして、ネスは返事した。

 

 

「…………。まあ、確かに不可能ではありやせんが……それはダメでやんす」

 

 

 すると、彼の返事を聞いたブリック・ロードは大きくかぶりをふる。

 そうして持ちかけられた策を否定すると、そのまま理由を告げていく。

 

「実は……このダンジョンは動けるんでやんすが、壁の材質があまり水に強くないんです。しかも、貴方方が言っているドロドロ川はかなり深くその分、水につかる面積が大きくなるわけですから、下手すればこの丹精込めて作り上げたダンジョン男が浸水する恐れがあるんです。せっかくユニークなモンスターも捕まえたのに、あいつらを危険に晒したくはないでやんす。だから『これ』で川を渡ろうという策は承諾出来ません」

 

 彼が口にしたのは至極真っ当な意見である。

 自分の夢だった居を構え、思い通りに作り替えたこのダンジョン男が倒壊の恐れがある作戦になど、二つ返事であっさりと乗れるわけはない。

 加えて例え全壊はせずとも、管理者としての責任で捕獲した生物たちの安全面等も考えての冷静かつ正論の発言だった。

 

「そう……ですよね」

 

 これに対し期待をしていたせいか、ネスの声のトーンは明らかに下がった。

 けれども、強引に話を推し進めるなど彼らの性格上出来る筈もない。

 また砂漠を放浪し、何とか魔境へ繋がる手がかり探し。

 あるいは危険を承知で、槍男は否定していたが生身で泳いでいくしかない。

「ネス、ブリック・ロードさんの言っている事は正しいわ。また槍男さんに相談して、他の手段が無いかを検討しましょう」

「そうさ、戻ろう」

 

 そう一行が諦めの色を見せ、昇って来たロープから下層部へと降りるべく足を動かした時。

 意外な打開策が、提案を断ったブリック・ロードの口から発せられたのだ。

 

 

「待つでやんす! 皆さんの行く先はそっちじゃないでやんす。別に魔境へと向かう手段が無いわけじゃないんです。『サブマリン』でやんす。実はここから向かえる場所に古びてはいますが、潜水艦がおいてありやす。多分そこのジェフさんが修理をすればまだ充分動くはず! それを使えば川を潜水してあっという間に着きやすよ!」

 

 

 彼がしょぼくれて帰ろうとするネス達三人に慌てて声をかけて出した意見。

 水圧などの圧力から機体を守る耐圧構造が施された潜水艦、サブマリン。

 話が本当であれば、充分に川を渡り魔境へと進める。

 

「それはどこにあるんですか! ブリック・ロードさん!」

 

 その発言に一瞬で目の色が変わったネス。

 諦めようとした直後に飛び出して来た移動手段。

 思わず大声をあげてまでも食いついてきたネスに対して、彼は一行が去ろうとしていた通路とは別に伸びている通路を指さし、

 

 

「この先にお帰り用の『お帰り穴』とお別れ用の『さらば穴』っての穴がありやす。ほいで、さらば穴って方を降りていただいて進んでもらえば、アッシのコレクションが並んでいる場所があって、そこにくたびれたサブマリンが寝ていやす。良いですか? 『さらば穴』でやんすよ。こうして再確認の意味も兼ねて伝えているのに、メッセージウィンドウを読まずにAボタンを連打して読み飛ばして、問答無用でお帰り穴に飛び込み、後で昇りなおしてくる輩がいやすが……とにかく『さらば穴』でやんすよ!」

 

 

 そうやって丁寧過ぎるくらいに向かう場所への説明を終えて、ブリック・ロードは再びコックピットの中へと戻り、また顔だけを壁から露出させた状態になると、

「皆さんが向かっている間に川付近までダンジョン男を動かしておきやすんで、すぐにでもサブマリンを川に出せるように待機してやす。ではまた後でお会いしやしょう!」

 

 コックピットに乗ればダンジョン男を自分の手足の様に動かせる彼は顔を出したままで、内部全体がゴゴゴゴゴと音をあげるまでに大きく機体を動かし始めた。

 

 その傍らでネス達も、

「「「ありがとう。ブリック・ロードさん!」」」

 と非常に息の合ったお礼を告げると、別の通路へと足を進めて行き、丁度主であるブリック・ロードの死角となっている二つの穴が開いている通路へと進んでいった。

 そして……。

 

(頑張るでやんす! ガッツですよ、ガッツ! 何事も諦めないガッツさえあればどこでだって何とかなるもんです! とにかく諦めたら何もかも終わりになりやすから)

 

 操縦席から離れられない仕様上、最後まで見送ることは出来なかったが機体を動かしながら、ブリック・ロードはそう子供たちの身を案じていた。

 そう……ある言葉を聞くまでは……。

 

 

 

「えっと、二人共。『さらば穴は帰る用』だって言ってたよね。さらばだもんね。もうお別れって意味だしね。だから『お帰り穴』で正しかったよね?」

「そうだった……わね。あら、どっちだったかしら?」

「もう、ネスもポーラも……情けない。お帰り穴に決まってるじゃないか! さっさと行くよ!」

 

 

 

 鶏(ニワトリ)は三歩歩けば忘れるという諺がある。

 体格の割に脳の大きさが極端に小さい鶏は物覚えが悪く、すぐに忘れてしまう事が由来の諺。

(ええええええ……さらば穴って散々言ったでしょ!?)

 鶏と違い体格もさることながら、脳の大きさも機能も比較にすらならない筈の人間でさえ、この始末なのだから、人の話はしっかりと聞く事がどれほど重要かを強く実感したブリック・ロードだった。

 そしてその後、何とも言えない苦い顔をして、ロープを昇り上がってきた情けない少年少女三人の姿を彼が見たのは十数分後だったという。

 こうして戻って来たお馬鹿トリオは若干気まずい空気を場に残しつつ、無言で反省する様に一行は今度こそ『さらば穴、いずれも勇気を出して飛び込むべし』と看板が記されたさらば穴へと身を投じていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「よし、これで動かせる! 修理完了だ!」

 ダンジョン男内で無事サブマリンを見つけたネス達。

ブリック・ロードの計らいで冷えた砂漠の温度が少しずつ上がってゆく日の昇り始め。

川までの移動はダンジョン男が請け負い、丁度太陽が地平線から顔を出す頃。

 

「何度も言いやしたが、本当に気を付けるでやんすよ!」

「ありがとう、ブリック・ロードさん」

「また何処かで会いしましょう! さよなら!」

 

 川へサブマリンを運び出し、わざわざ屋外へと出てきたブリック・ロードに見守られつつ、機体のチェックを終えたジェフの合図と共にネスとポーラはハッチを開け乗りこんだ。

 今まで観賞用に飾られているだけで埃を被り錆付きまでしていたが、再び日の光を浴びて活躍の機会を得られた、丸みのあるボディの黄色の小型潜水艦サブマリン。

 修行に出たプーはまだ帰還はしなかったが、すぐにでも新しい技を会得して戻ってきてくれる期待を全員が内に秘めながら、席へと座った。

 

「さあ、目的地は魔境! 未だ見た事ない新たな地へ向かうよ!」

「「オォー!」」

 

 先頭の席で操縦桿を握りしめるジェフの発進前の掛け声に乗る形で、後部座席にもたれかかる二人も楽しそうに腕をあげてパーティーの気合いを入れ直す。

 そうして彼らはスカラビ南部の砂漠から離れていった。

 ゆっくりと丁寧に川の中へと機を沈めていき、水面上の様子を確認する為の潜望鏡のみを外へと露出させ、ジェフは操縦桿を動かし、進めて行った。

 こうしてネス達はなんとか魔境への移動手段を確保した。

 しかしここからは、その厳しい環境ゆえに生活はおろか、まともな理由なしでは絶対に人が立ち寄る事の殆ど無い、人跡未踏に近い地。

 現在足取りを追っているポーキーの行方、そしてサマーズの文化博物館にあった石碑に記されていた魔境の先に眠るとされる悪の巣箱とは?

 今もなお解決できていない謎を解明するべく、彼らは向かう事になるのだった。

 

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
 ここからは四月からの新生活始まっても、関係なく長い後書きとなります。
 まず初めに投稿期間は相変わらず不定とだけ記させていただきます。
 連休だったりの時に筆を進める事が多いのですが、量が量なので、中々すぐに完成というのは難しく、連休自体が少ないので速度が安定しないのが現状です。

 ではここからは小説の内容について。
 突然のプーの強制離脱。
 ゲームプレイ時の初めは驚きました。
 彼はPKフリーズβ等が使えるので、ダメージソースとしてはそれなりに大きい戦闘の要としていたキャラが消えるというのは、当時の私からすれば話の内容をあまり理解していなかった事も相まって訳が分かりませんでした。
 なので彼が抜けた事で戦闘が若干苦しくなったのは事実です。
 
 そして次にオリジナル展開である槍男との絡み。
 原作では鍵と魔境のヒントだけを教えてくれるキャラでしたが、せっかくだからと色々設定を盛って、一人のキーパーソンとして描いてみました。
 敵モンスターのドザガランですが、狩ってきた野生動物の肉を食べるという描写は個人的に書いてて楽しく、お気に入りでした。
 最近モンハンとかをやり過ぎていたからかもしれませんが……。

 最後にダンジョン男について。
 毎回毎回ダンジョンの描写に難儀しているのですが、特に今回の話を書こうとした当初はダンジョン男の描写を全カットしようかと考える程に、難しかったです。
 ちなみにダンジョン男自体は原作ではブリック・ロードがいるフロア含めて四階階建てのダンジョンです。
 ですが文章にメリハリが出しにくいという事で一階をモンスターが襲ってくる普通のダンジョン、二階をモンスター園という形式で今回は変更しました。
 あと、看板も原作と同じ文章を使っていますが、一部私のオリジナルになっています。それが読んでいる方々に何か影響を与えられれば、幸福だと思っています。
 さらに『お帰り穴』と『さらば穴』についてですが。
 これはブリック・ロードの話を読み飛ばしてしまい、何処へ行けばいいか分からなくなった当時の幼い私の思い出のオマージュとなっています。
 いやあ、小さい頃は感覚でゲームをしていたので、ストーリーをあまり詳しく読んでいなかった事を今となって改めて実感しています……。
 
 ではでは、長い長い後書きはこれで締めたいと思います。
 次は皆様といつお会いできるか分かりませんが、次は魔境編を目指して投稿するつもりなので、また投稿した際はよろしくお願いします!
 では、これにて失礼いたします。
 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
 それでは、またお会いしましょう!
 
  
 
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