mother2 ギーグの逆襲   作:黒まめちこ

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 お久しぶりです。
 もう毎回、投稿ごとにお久しぶりしか言っていない気がしますが、新しい話が完成しましたので、早速投稿しました。
 一部原作で出てきた記述の内容について変更はありますが詳しくは後書きにて。
 ではでは、もう少しで50万字に到達しそうなMOTHER2の小説をどうぞ!



無口なやつら

 

 DXスターマンの敗北。

 さらにストーンヘンジの地下基地の制圧。

 特にそれを管理していた制御室の壊滅。

 ネス達の活躍により発生したこの二つの出来事。

 地球に潜んでいた最大規模のアジトを潰せた事は彼らにとって大金星だった。

 そのおかげか基地内に潜んでいた敵の多くは姿を暗まし、敵の大戦力であったDXスターマンも敗れた事により、思わぬ打撃をギーグ軍は被る事となった。

 

 そして、その情報は勿論……。

 

「……その報告は……真実……なのだな?」

 

 地球内の何処かに存在する敵の総本部へと渡っていた。

 いずれかの国に属している訳でも無く、定められた地名も存在しない地。

 底の見えない切り立った崖が道の様に連なる土地。

 まるで雪国の様に真っ白い世界。

 

「はっ……はい! DXスターマン様は……敗北……され……誠に申し上げにくいのですが……『例の制御装置』もDXスターマン様の攻撃の影響で……修復は不可能なものでして……」

 

 人も動物も存在しない謎多き果ての世界。

 地球上にありながら人間からは認識されない空間。

 

 そんな場所で震える声をあげ、現状を報告するのはギーグ軍の兵士スターマンだった。

 殺される、消される。

 敗北、撤退と情けない報告をする中で彼の頭の中はそんな恐怖の感情で埋まっていた。

 

 

「……これは聞き流してくれて構わん。これは私の独り言だ」

 

 

 そういった恐怖を向けられる人物。

 跪き、見上げるようにして兵士の眼前に悠然と立ち尽くす存在。

 彼はギーグ軍最高司令官にして最強。

 加えてスターマン一族を束ねる三兄弟の長男。

 名をキング・スターマン。

 

「我ら三兄弟は戦で例えるならギーグ様の剣であり盾であり頭脳だったのだ」

 

 銀や金といった配色の一般兵とは格が違う禍々しい黒みを帯びた姿。

 さらに複雑な紫色の模様が刻まれており、最早スターマン達とは別物とすら感じる程。

 

「私が敵を殲滅する絶対的な剣、次男である知識武力共に均整がとれたカイザーは絶対的な盾、そして……私達二人を凌駕する知能を持ち、策略に長けていた絶対的な頭脳がDXだった……」

 

 その身から発せられる気配も尋常では無い。

 下手をすれば気配だけで気を失うまでの存在感。

 報告していた兵士は圧倒されつつも、命令通り頂点に君臨する者の話を黙って聞いていた。

 むしろそれ以外に彼が意識を保っていられる行動が無かったからである。

 

 

「…………最強だった……」

(だ……大丈夫だ! ただ俺は聞くだけでいいんだ。何も考えずに聞くんだ。キング様の話を)

 

 

 兵士は震えが止まらなかった。

 ハッ、ハッ、ハッ、と息も絶え絶え。

 気が狂いそうな恐怖感。

 

「…………そう、我らは無敗だった……」

 

 眼前の王に恐れる中で、兵士はある事に気が付いた。

(あ……あれ? どうなっているんだ……)

 周囲にいた筈の同志たちが一人残らずいなくなっている事に。

 いや……正しくはそうでは無かった。

 彼が微かに感じ取った同時の気配はあった。

 ただ距離は遠かった。

 まるで……『見捨てられたように』……孤立していたのだ。

 

「DXに任せていた基地内の装置……あれは……あれはな……」

 

 ここで彼の声が変わる。

 さっきまで本当に独り言のように何処か遠くを見つめ、自身に言い聞かせるような暗示にも似た言葉を続けていた。

 けれども今度は跪く兵士の頭部へ視点を映し、言葉を続ける。

 

 

「あれは、ギーグ様のお力を抑え込む為の兵器『あくまのマシン』の制御装置だ!」

 

 

 次の瞬間放たれたのは一喝だった。

 

(ウグッ!?)

 

 彼は一瞬で気が飛びそうになった。

 いや、正確には彼だけでは無かった。

 同様に恐れる周囲の兵士も正気を失いかけた。

 

「知っているだろう! ギーグ様は最早『まともな精神状態』を保っておられないのだ。我らが付き従っていたあの頃にはもう戻れんのだ。あのお方はあくまのマシンという楔が無いと自分を抑えられんのだぞ!」

 

 あくまのマシン。

 DXスターマンが戦闘の際に着用した特殊な鎧に一部利用されたという兵器。

 それはギーグ自身が己の危機を危惧し、部下に命を下して製作させた物。

 その正体は、生命維持装置に近いものだった。

 使用者の持つ能力の多くを封じ込める代わりに、最強の防御を得る事が出来る。

 矛を失う代わりに、最強の盾を得る事が可能。

 だが、なぜそれが生命維持装置に近いかというと……。

 

 

「私は先日、『逆襲の計画』についてギーグ様に意見を賜りに行った。だが、あのお方は苦しんでおられた。時々自我を失いそうになると。自分の中に、自分では無い恐ろしいものが入り込んでくると仰っておられた。一刻も早く地球を侵略しなくては……と」

 

 

 ギーグは強すぎたのだ。

 ネス達の親世代との戦闘。

 それは一度目のギーグの地球侵略の時。

 この時、彼はまだ幼かった。

 幼いが故にまだ己が持つテレパシーの強さは把握し、充分に扱えた。

 

「この地球に侵略する意味を再確認したい奴がおるか。何故ギーグ様が地球侵略に固執されるのか。それは『この星の持つエネルギー』があのお方に『安らぎ』を与えてくれるからだ。あの方の育て親がおられた影響もあるだろう」

 

 だが、彼の持つ潜在能力は本人が想像する以上に膨大だった。

 人間達に敗北を喫してから数年後に彼は急激に成長した。

 特にテレパシーの強さについては。

 

「地球上に基地を置いた理由もそこにある。地球上のエネルギーを基地にあった制御装置からあくまのマシン内へと送っていたのだ。それ故にギーグ様は『まだ話せる』。あのお方の留まる事を知らぬ力の進化を食い止めていたのだ」

 

 それはもう本人すらも飲み込む溢れんばかりの力。

 日に日にそれは増していき、あくまのマシンの制御も間に合わない事もあった。

 

「DXはその為に装置から最も近い場所。つまり地球上最大の基地へと渡らせた。奴はある意味私以上にギーグ様の容態を随時警戒し、その度にマシンの調整を行っていた」

 

 キング・スターマンの言葉は軍全体に自分たちが置かれた現状を再認知させた。

 今はまだ明確に大きな異常は起こっていないが、主がまずい状況にある事。

 その制御が次に必要となる前に決着を付けねばならぬ事。

 そして何よりキング・スターマン自体がこれ程取り乱している事に。

 

「最早、一刻の猶予もならんのだ。分かったか、我らが同志たちよ。私に怯えている暇があれば、己らが立たされているこの苦境に怯えよ! 地獄の業火は既に我々を焼いている。動け、我らの主の為に。戦に備えよ! これが我らと人間の最後の決戦だ。ギーグ様の逆襲、必ず成功させるのだ!」

 

 軍の頂点である彼は『この最後の基地』中に轟くように、大声で発した。

 指揮官として、主を案じる従者として戦の支度を整えるように命令した。

 

 

「「「ハッ! 我らの意思はギーグ様と共に!」」」

 

 

 いつからか、兵士たちの震えは止まっていた。

 報告していた兵士だけでは無い。

 周囲で様子を眺め、耳を傾けていた者達も。

 残存する全ての兵が彼の意思に賛同し、返答した。

 覚悟が出来たのだろう。

 人間が持つ勇気という感情はまだ理解出来ないが、少なくとも肝は据わった。

 負けられないという勝利への執着は彼らをさらに手強くするだろう。

 果たして、彼らはどういった形でネス達の前に立ちはだかるのだろうか。

 けれども、まだ少なくとも彼らには時間が必要らしい。

 全軍が『逆襲』の準備を整えるまでは……まだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔境最深部。

 ネス達は雪国ウィンターズより帰還した。

 肌寒かった寒地よりジメジメとした湿気に満ちた地へ。

 空気もドンヨリと深呼吸していても、体内へ入るのは沼地から漂ってくる異臭。

 寒地ならではのさっぱりとした冷たい空気とは一変。

 だが、彼らはこんな危険度マックスの地帯を。

 大人ですら裸足で鼻水垂らして涙ぐんで、母親にこれまでの罪を懺悔しかねない程の劣悪で厳しい環境をネス達は先に攻略を終えている。

 元を辿れば、本来ならば先へ歩を進めていた筈だが、敵の幹部の襲撃というハプニングの為、どうしても戻らざるを得ないという事でウィンターズへと足を戻しただけなのだ。

 そう言った様々な出来事が重なった中で、ネス達四人は冒険の道筋を戻し、探索が完了していなかった魔境の最深部に大口を開けて待っていた洞窟へと入っていくのだった。

 

 

 

 

「まあ! なんて幻想的な風景なのかしら!」

 

 静かに内部を探検する中で初めて声を上げたのはポーラだった。

 しかし、彼女の言葉は仲間たちの感想の代弁。

 恐らくネスかジェフ辺りが口にしただろう。

 

「確かに美しいな。俺もこんな景色は見た事が無い」

 

 彼らの視線に映っていたのは光。

 それも只の光では無い。

 

「多分、これは……いやこの洞窟内は……」

 

 一行は洞窟の入口内からネスのPKフラッシュで作った光を松明代わりにして進んできた。

 薄暗い内部の道を進み、魔境の生物も寄りつかないまでに進んだ少年達。

 戦闘も無く突き当たりまで向かっていった彼らを待ち受けていたのは開(ひら)けた空間。

 そして壁、床、天井に至るまでビッシリと輝く光。

 壁に掛かった松明も無い、本来であれば暗闇が支配する筈の洞窟内だが……。

 空間内の景色が一望できるまでに輝く『金緑色の光』が彼らの目を照らす。

 

「やっぱり……苔だ。光苔だ」

 

 ジェフは近くの岩に生えていた『光』を指でなぞり、手持ちの虫眼鏡で正体をチェックした。

 そう、まるで翠玉(エメラルド)の中にでも閉じ込められたような360度、洞窟中を照らす美しい緑色を帯びた光の原因は苔だった。

 

「ジェフ……ヒカリコケって何?」

 

 と、一概に苔と言われてもピンと来ないネス。

 ポーラも同様に動植物において知識があまり無いのかポカンとしている。

 というよりかは、むしろ幻想的な風景で夢の様な気分になっていたのだろう。

横でその正体をあっさりと解明された事に不服を抱いているように見えなくもない。

 

「えっとね、光苔っていうのは、ざっくり言うと苔の仲間でヒカリゴケ科ヒカリゴケ属のコケで……って聞いてる? って言うかそもそも二人共『苔』って知ってる?」

 

 ヒカリゴケ科という名前を出した時点でメトロノームの様に首を傾けだした二人。

 それを見兼ねてか、ジェフはまず第一前提として植物の知識の有無を確かめる。

 

「「ごめん、知らない」」

 

 ジェフ自身分かってはいたが、即答で返事が帰ってきた。

 

「そっ、そっか……」

 

 まあ、年代的に仕方ないといえばそれで終わる。

 苔など日常的にも目にする事も少ない。

 まして苔が生える岩場などもあまり立ち寄る事も無かった。

 冒険した洞窟内でも生えていたかもしれないが、別に表立って取り沙汰する事も無い。

 

「ジェフ、別に学名とかまで詳しく言わなくていいだろう。二人共これは苔っていう植物なんだ。その仲間に光苔っていうのがいるんだ」

 

 何から説明しようか悩んでいたジェフをサポートしたのは、まさかのプー。

 彼は光の原因に興味が湧いていた二人にレクチャーすべく、単純に分かりやすく教える。

 

「苔って言うのは、普通は光らない。光るから光苔なんだ。コイツ等は中にあるレンズみたいな小さな細胞があってな、それが洞窟の隙間から入ってくる僅かな光を反射して、色を出しているんだ。だから自分たちでは発光していない。正確には金緑色……エメラルド色っていう光で反射しているらしい。どうだ、何となく分かったか」

 

 かなり掻い摘んだのか、大まかな特徴と内容だけをプーは二人に教えた。

 

「なるほどね。特徴は分かったよ。苔って植物の一種なのか」

「なんだ……植物が光っていただけなのね。でも綺麗な事に変わりないわね」

 

 教え方が良かったのか、二人の理解力が高かったのか、ジェフが口出しする……いや下手に専門知識を加えるとネスとポーラの頭の中が疑問符まみれになる事もあってか、黙っていた。

 

「あれで大体あってるだろう、ジェフ」

「まあ、大きな特徴はあってる。けど……詳しいね、プー」

 

 時々忘れる事があるが、プーは仲間の中で最年長。

 さらに王族という事で多くの教育や経験を積んでいる。

 

「まあ、今回は洞窟生活で聞いた仙人様譲りの知識だけどな。でも、ここまで派手なのは驚いた。なんか相当に特殊な光苔みたいだな。普通ここまで明るくないだろ」

 

 割と博識なんだなとジェフが驚きを隠せない中で、彼はそう疑問を口にしていた。

 そう、光苔とはあくまで本体が輝いているだけ。

 言うなれば、足跡の様な目印に近く、辺りを明るくするまでの力は無い。

 だがこの苔のおかげか洞窟中の景色を一望出来ている。

 床の土の色、天井、壁。

 苔に覆われてなくても、月の光が夜の暗闇を照らすように。

 自分の立っている位置、散策する仲間たちの様子も同様に見えていた。

 彼の口にする通り、人がまだ知らぬ特殊な性質を持っているのだろう。

 そんな何とも現実離れした風景の中に四人と一匹は立っていた。

 

 ぺちょっ。

 

「ヒャッ!?」

 

 不思議な苔を眺めていた三人の耳に飛び込んできたのは何とも形容し難い可愛い声。

 冷たい手でいきなり首元を触られた時の様に驚いた声をあげたのはポーラだった。

 

「どうしたんだい? ポーラ、突然声をあげて」

「天井から雫でも落ちてきた?」

 

 掛けていた石の上から腰を抜かして、崩れゆくポーラの様子を眺め、声をかける仲間。

 すると彼女は太ももを軽く擦りながら、自分が座っていた場所を指さすと、

「ち、違うわ! なにか、なにか『ぺちょっ』とした奴に足を触られたの。何だか湿りっ気のある感じの奴に!」

 

 急な事に激しく取り乱す彼女はそう大きな声で仲間に告げる。

 けれども、三人の目には何も映らず。

 

「ポーラ、そう言っても指の先にあるのは苔だけだけど」

「別に敵意の様な強い気配も感じないぞ」

「まるで乙女みたいな可愛い声だったね」

 

 悪かったわね、私は乙女よ! と反感を買う失言を口にしたネス。

技を出すための精神力を奪い取り、自らに還元するPKサイマグネット。

 それを使用し、リーダーから力を吸収しつくそうと躍起になっている乙女を放置し、動くのは彼女の証言を検証すべくプーとジェフの二人。

「やめて! ポーラ! ミイラになる! スカラビのピラミッドの敵みたいになる! ぎゃああああああああ、吸い取られるぅぅぅ!」

 背後から聞こえる断末魔にも似たリーダーの声を聞きつつ、悲鳴の原因を究明する。

 

「やっぱり、石についてるのは明らかに苔だけだな。異常はなさそうだ」

「そうだね。むしろ後ろにいる『乙女らしき何かの方』が異常だと思う」

 

 彼女が腰かけていた石には特に異常は無かった。

 周囲と同じ、良く光る苔が生え揃っていただけに過ぎない。

 しかし……。

 

 ぺちょっ。

 ぺちょっ。

 

「うおっ!?」

「いひぃっ!?」

 

 石に近づいた彼らも同じ被害に遭う事となった。

 二人が被害を受けたのは首筋。

 ヌメヌメとした水分を含んでいるであろう冷たい何かに触れられた。

 

 

「えっ!? 何、あれは?」

 

 

 仲間から容赦なく精神力……ゲームで言うとMPやPPと言った力の源を吸い取っている最中のポーラは二人が声をあげた瞬間を見逃さなかった。

 むしろ、どんどん血の気が引いていくネスからの懇願の声を無視してまでも見逃さなかった。

 

『それ』は背中にいた。

 

 的確に答えるならば、プーと身を寄せるように石を見ていたジェフの背中に乗っていた。

「……………………」

 苔と似たような緑色の生物で丸い頭に丸い胴体。

 頭部には点の様な目、漢字の一に似た口が付いた二等身の生物が乗っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『グミ族の村』

 現れた生物の名はグミ人という種族だった。

 なんでも元々は砂漠の国スカラビの辺境で暮らす生物だったが、大人しく戦いを望まない野生の生物らしからぬ性格故に他の生物に住処を奪われ、ここへ流れ着いてきたらしい。

 

「なるほどね、文章が断片的だったけど、この人達の正体が分かったね」

 

 ネス達がいたのは洞窟のさらに深部だった。

 先程と変わらず、内部を覆う光苔のおかげか洞窟中がハッキリと映った村。

 彼らに触れたのは見慣れぬ人間という生き物に警戒していたグミ族の見張り。

 臆病ながらも身をプルプルと震わせ、残っている微かな戦闘本能を表に出して、住処へと侵入してきた者達に立ち向かったらしい。

 だが戦闘の意思など全く無い事をネス達は必死で伝えた。

 すると、彼はついて来いと口には一切出さなかったが、約30cm程の身長の低さゆえかネスの服を引っ張るようにして奥へと案内したのだった。

 こうして静かな原住民に案内されるようにして到着した場所。

 村というには住宅の様な建造物もなく、ただ同じグミ人が多く住んでいる集落に近い。

 初めは住民全員が怯えるように石の隙間や壁を盾にして隠れてはいたが、ネス達から邪気を感じなかったのかは不明だが、すぐに歓迎を受ける事となったのだった。

 

「しかし、不思議な生き物もこの世にいたものだな。歩く緑の生命体か。まるで妖精だ」

「いいじゃない、妖精でも。プニプニして可愛いし」

「『どせいさん』と同じ感じがするよ。こんな生物見た事ない」

 

 信頼されたのか彼らは古き時代のグミ族が書いたらしき書物が保管された横穴にいた。

 グミ人の一匹は可愛いもの好きのポーラに捕まり、好き放題にこねくり回されている間、他の仲間たちは情報をかき集めていく。

 文字を書くという習慣が殆ど無かったのか、一応ネス達が読める文字では書いてあるものの、文章というよりは単語の羅列に近く、字も杜撰(ずさん)だったが何とか読み解いていく。

 因みにグミ人の説明が書かれた内容はこうだった。

 

 

【おれたち れきし

 おれたち グミじん よわい 

 つよいやつ スカラビ おいだした まきょう きた

 ここ しずか じめじめ いい すむ おれたち

 でも した うえ すむやつ わかれた さみしい】

 

 

 こんな内容が見開きの一ページに載っていただけ

 残念ながら後のページは全て白紙。

 ネス達はこの内容を目の当たりにし、彼らの生態を知った。

 だが、これはそもそもがおかしい話。

 なにがおかしいのか?

 文章の内容面では無い。

 それは……情報の取得方法について。

 何故に、わざわざ書物から住民の情報を仕入れる必要があるのか?

 横穴を出れば、ポテポテとそこいらを歩き回っている住人が多くいるのに。

 

 

【ここのちか すごい

 きらきら する きいた

 こころ もじ でる

 かんがえ ばればれ?

 るみねほーる なまえ】

 

 

(『るみねほーる』って何だ? 心がバレバレ?)

 

 三日坊主なのか中身の殆ど無いメモ書きの様なページを眺めるネス。

 聞き覚えのない単語や一部意味不明の内容出てくる中だったが、答えは無い。

 理由は『返事が無い』から。

 

「だぁー! きっと言葉は理解している筈なのに、なんでだろう」

「俺達だって聞きたいさ。なんで相手の事を調べるのにメモを読むんだ。歴史の偉人じゃあるまいし。しかもネスのテレパシーだって反応が無いって、お前達はどんな生物なんだ」

 

 さらにハッキリとした理由。

 付け加えるならば最早返事どうこうの問題では無かった。

 

「………………」

「………………」

 

 それはプーの質問も全く受け付けない程。

 そう、彼らは『一切話さなかった』のだ。

 いや、逆に『話せない』の方があってるだろう。

 遭遇からここまでグミ人たちは、体全体を使ってジェスチャーの様に喜びを表す事はあっても、言葉を交わすどころか発言すら一切しなかった。

 ひたすら黙ったまま。

 

「………………(ピョンピョン)」

「………………(フルフル)」

 

 首を左右に振ったり、上下に飛び跳ねたりと愛らしい動きはするが、鳴き声も何もあげない。

 極めつけはネスのテレパシーですら彼らの心に介入できない事。

 余りの寡黙っぷりに心まで閉ざしているのか、意図も汲み取れなかった。

 加えて泣きっ面に蜂かの如く、文字も書けない。

 恐らく、文字を書けたのは過去のグミ族であり、今は文字を書く文化が無いのだろう。

 よって殆どの情報が憶測。

 

「口が利けない、テレパシーもダメ、文字も書けない。こんなにコミュニケーションに苦労した事は無いよ。どせいさん達ですらまだ話せたのにね」

 

 加えて数少ない情報の手掛かりとして読んでいた書物も多くは無く、懸命に得ていた情報源もすぐに底をつき、もう魔境探索はこれにて終了かと思われた。

 別に彼らの住まうこの洞窟内でも特に大きな収穫は無い。

 あるとするなら天然で出来た温泉があるのと、奥にやたらと目立つ巨岩があるのみ。

 

「うーん……皆どう? 何か気になる内容あった?」

 

 最後に落書きの様な紙の束を棚へ収めたネスは仲間へとそう尋ねる。

 

「ダメだ。後書いてあるのは、日記くらいだ」

「僕もダメだよ。全然さ。誰かがしゃべってくれたら一番楽なんだけどね」

 

 話さない、聞けない、そもそも言葉を理解しているかも不明。

 けれども自分たちに害は全く無いと、少年達は核心を持ち、グミ人もまた彼らを敵とみなしていないのか不明ではあるが、互いに歩み寄れる可能性はあった。

 ただし……その手段が浮かばなかった。

 

「でも、ヒエログリフの写しに魔境の先ってある以上、ここに何かが眠っているとしか考えられないんだけどね」

 

 ネスはリュックサックの中から取り出した羊皮紙の内容を壁にもたれながら再度読み返す。

 そこに記されるは古代人が残したとされるヒエログリフの内容。

 

 

【天よりの侵略者に、我々は四角錐の要塞を建造し、戦いに備えた。しかし我々は奇しくも敗れた。だが、我々の要塞はスカラビの神が身によって守られた。しかし天から来た侵略者は千年毎に生まれ変わり襲ってくるという。侵略者は時の彼方へと隠れ、悪の『巣箱』を置いた。時の彼方は我らが故郷より南に位置する魔境のはるか先、地の底の向こう側。魔境は暗き闇。『タカの目』だけが闇を払い、光を見る。我らが守り神スフィンクスが全てを護り、真の勇者の訪れを待つ。スフィンクスの前で星を描くように踊れ】

 

 

 過去に舞い降りたとされる侵略者との戦いとその住処についての情報。

 

【魔境のはるか先、地の底の向こう側】

 

 ネスがどうも引っかかっていたのは後半部分。

 スフィンクスもタカの目はもう終わった情報。

 だが一行はまだ魔境の遥か先へは到達していない。

 

「はるか先……別の島って事なのかな?」

 

 彼が広げている写しの内容を思い返し、ジェフは近くの古ぼけた木製の椅子に腰かける。

 懐から布を取出し、曇ってきた眼鏡を拭うとそう告げた。

 

「いや、そうは考えにくい。俺はお前達と再会する時に空から降りてきただろ? その時にこの一帯の風景を見たが、ここは完全に孤島だ。島どころか陸地すら無かった」

 

 情報集めを中断し、近くのグミ人の顔をプニプ二と触り遊んでいるプー。

 辮髪(べんぱつ)が珍しいのか、いつしかグミ人に集(たか)られている彼は否定した。

 

「はあ……結局手掛かりなしか」

 

 写しをリュックの中へしまうと、振出しに戻された疲労感に苛まれるネス。

 大きく一つため息を漏らすと、彼の視線は横穴内へと戻る。

 すると、彼は……。

 

 

「あれ? ポーラは?」

 

 

 仲間が一人忽然と姿を消していた事に気が付いた。

 今更ながらもあるが、彼の発言に続いて二人も遅れて反応した。

 

「本当だ! いなくなってる!?」

「俺達が情報集めに躍起になっている間に……」

 

 愛らしい二等身姿のグミ人と戯れ、情報集めを完全に無視していた困ったちゃんポーラ。

 よくよく考えると、彼女だけでは無く弄り倒されていたグミ族も共に消えていた。

 けれども、心配する様な時間はいらなかった。

 何故なら、少年三人が動き出すより先に、

 

「ねぇねぇ、皆! 見つけたわよ! 言葉を話せるグミ人を!」

 

 本人が戻って来たからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポーラが連れてきたのは村長のグミ人だった。

 八の字の様な髭を口元に携え、頭に角らしきものが生えていた個体。

 場所を書庫から広場へと移し、拙く形は不格好ではあったが、石を削り作った椅子とテーブルで四人と村長は顔を合わせるのだった。

 本当に話せるグミ人なのか気になる所ではあったが、すぐに問題は解決された。

 

 

「よく きた」

 

 

 話した。

 もごもごと少し聞き取りづらかったが、四人へ届いたのは言葉だった。

 早くここの村の情報を聞きたいという欲求が少なくとも三人にはあったが、今はグッと堪え、村長の話を聞く事に意識を向ける。

 

 

「わし そんちょう」

 

 

 少し感動したのかもしれない。

 やっと言葉を話せる存在と出会えたのだから。

 安堵し、胸をなでおろしつつも、村長の言葉を聞く一行。

 

「……………………………………」

「……………………………………」

 

 ネス達は黙って聞いていた。

 紛れもなく、飛び飛びで断片的ではあったものの言葉を口にする者の声を。

 これにて情報収集に大きな進歩があると信じて。

 

「……………………………………」

 

 信じて。

 ただ、ただ、信じて。

 

「……………………………………」

 

 人の話というのはまず聞く事が大切である。

 相手の意図を理解し、返事をする。

 またはそれを要として同調できれば話が盛り上がり楽しめる。

 そうやって初めて会話は成立する。

 

「……………………………………」

 

 対して一方的に話すのは会話と定義づけるのは難しい。

 会って話すと書いて会話。

 それは相手がいるからこその意味。

 

「……………………………………」

 

 言葉のキャッチボールとはまさにその通り。

 相互の言葉が飛び交う事が重要なのだ。

 だからこそ、ネス達はじっと『口を一切動かさない村長』を見つめていたのだった。

 そうして彼らはこんなやり取りが数分続いた頃にようやく気付く。

 正直周回遅れも良い所と言える程待ったが。

 

 

「えっ? 終わり? よく きた わし そんちょう で終わり?」

 

 

 もう、とうにキャッチボールは終わっていた事に。

 投擲されたボールは見えない速度で銀河の彼方へでも消え去ったのか、投げ返す暇どころかその球すら見つからない現状。

 

「こ、これじゃあインコとか変わらないよ。RPGの町のキャラクターじゃないんだから。『◆ここはグミ族の村』って何回話しかけても同じ返事しか返ってこない人と似たようなもんだ」

 

 ネスらは大きな期待を寄せていたのだろう。

 言葉のボキャブラリーが圧倒的に足りていないのか。

 彼の口から出たのはたった11文字。

 それ以降は他の住民と同じくだんまりを決め込んでしまった。

 

「ショックでこっちまで黙りそうだよ」

 

 期待の反動としてか、凄まじい徒労感に潰されそうになる一行。

 流石に目で分かる程の人間達の動きに村長も、あたふたと慌てていた。

 そうすると……。

 

 

「ごめん わしたち むくち。 むくち なおしたい。 ほん あるらしい むくち なおる」

 

 

 なんと続きが聞けた。

 話すのに慣れていないのか、また拙い言葉遣いだが、必死で教えてくれたのだ。

 そのうえ、なんと原因までが判明した。

 

「無口……そっか、なるほどね。丁度いいや」

 

 心まで無口とは多少度が過ぎているだろうと感じながらも、ネス達は納得した。

 そうしてラッキーな事に、彼らは『それ』を持っていた。

 村長が絞り出した言葉の中に含まれていた『ほん』を。

 

「アップルキッドさんに感謝だね。はい、村長さん。これをあげるよ」

 

 彼はテーブルに一冊の本を出すと、村長の前へと押しやった。

「くれる なに?」

 対して村長は糸の様な細い腕で、それを手に取り何かを確認する。

 彼の小さな目にはこう文字が映っていた。

『無口を直す本』と。

 

 

「!? 『ほん』だ。これ なおる むくち みんな よんで きかせる……おお、凄い。持つだけ無口直ってきた。ありがとう、とりあえず一晩休め。起きたら皆と話せ」

 

 

 元々はオネットの図書館で管理され、アップルキッドがそれを借り、ある事情から期間内に返却できず、果てには図書館から貰ったとされる無口を直す本。

 何故かペットのネズミまで話せるようになったという摩訶不思議な書物。

 その異常性は最早、生物であればお構いなし。

 さっきまで拙い言葉遣いだった筈のグミ人が持っただけで改善。

 誰が記したのか、魔力でも籠っているのか改めて疑いたくなる代物だったが、これにてグミ族との会話が成立するだろうと確証を持って、彼らは藁が敷かれた寝床用の穴へと案内され、言われた通り一日を終えるのであった。

 

 

(グミ族の長老はその夜『無口を直す本』をみんなに読んで聞かせた)

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます! 皆さま! 今日も素敵にジメジメとした魔境の朝ですよ」

 効果覿面(てきめん)だった。

「随分ゆっくり寝ていましたね。でも、ずっと眺めていたので私も眠たい」

 たった一晩。

 たった一夜を越えた四人は朝から大声で村人たちから挨拶を受けた。

「あっ、こんにちは、おやすみ、おはよう」

「人間の人達、ありがとう。本、凄く効いた」

 昨日まで無口で徹底されていたグミ族たち。

 心の声を聞くテレパシーすら弾く程の無口な筈がすっかり解消。

「もごもご……何喋ればいいのか、分からない」

「あっ……うぅぅ……ぐ、ぐんまけん!」

 

 まだ『話す』という慣れぬ習慣に戸惑い、口下手や理解に苦しむ発言をするものも少なくは無かったが、ネス達は何とかグミ族の度が過ぎた沈黙を解く事に成功する。

 中にはお礼だと言って、動物の肉を唐辛子、胡椒、山椒などの香辛料の入った壺に数日漬け、それを干して作ったというグミ族特製の御馳走『スパイシーほしにく』や、装飾品であり、身に着けると技の封印を防ぐことが出来る『まふうじのコイン』などをくれる者もいた。

 そうして起きたてから何人ものグミ族に絡まれ、若干疲れ気味のネス達。

 彼らは、起きたら広場のテーブルに来てほしいと村長の言付けを聞き、まだまだ話したり無さそうなグミ族たちを制止しつつ、テーブルに着き村長と対面するのだった。

 

 

「おかげ様です。皆、無口が治った。私達……いや私達の先祖はどうも話すのが苦手で、遺伝かはたまた習慣のせいか、別に話さなくても何となく意思疎通出来たから、こうなったのかもしれない。でも、やっぱり話せるって素敵。言葉を発する事で自分の存在を感じられる」

 

 

 昨日まで11文字くらいしかまともに話せ無かったような村長。

 彼も例外では無く、無口からお喋りへと変貌。

聞いても無い自分たちの先祖の話までペラペラと話し始める。

余程嬉しかったのか、待ち望んでいたのか。

 

「見ての通り、みんなも喜んでいる。本当に君達が持ってきてくれた本。あれはとても役に立ったよ。もう皆の前で本を広げただけで、何人か話せるようになった。だから、もう返す」

 

 普通に会話できるネス達が読んでも、さっぱりだった内容。

 しかし言葉を話さない存在の手に渡ると、どうも訳の分からない能力が発動する様で、

(一体、どうなってんだろう。この本は……)

 もう人智を越えた書物として、博物館に寄贈すべきなのではと一考に値する無口を直す本。

 

「あっ、それとこっちはワシからのお礼です。すっごい臭いけどすっごい旨い、ワシらグミ人の大好物、大人の味がする『グミドリアン』です。すっごい臭いするから被っている布は食べる時まで開けるな、危険」

 

 と貸していた本の返却を受けると同時に、気を利かして被せてくれている布越しからでも異臭が漂うグミドリアンなる果物を受け取った。

 形はその名の通りドリアンの様にイガイガとした皮に包まれた果実だったが、小柄なグミ人が食すという事もあり、大きさもリュックサックに十分仕舞える大きさだった。

 今受け取った本や中の物が臭くなるのではという危機感はあったが。

 

「あっ、そうだ。すまんが……少しおかしな質問に付き合ってもらっていいかな」

 

 本とグミドリアンを収納したネス達へ続けて村長は話す。

「いいですよ。どんな質問ですか?」

 ネスからの承諾を得ると、村長は村人が持って来た古ぼけた紙を受け取り、それを眺めつつ、ネス達に……まあ、とりあえず、【誰か】に質問を投げかけた。

 

 

 

「えっと……【ヤシノサケ】? 今、画面越しにワシらの様子を文字にして描いている『ぷれいやー?』『さくしゃ?』の名前はこれで良いかな?」

 

 

 →いいえ。

 

 

「よくなければ直せ」

 さくしゃのなまえ

【ヨシノスケ・・・・・・・・・・・】←ENTER

「ヨシノスケで、良いのだな。ちゃんとペンネームになっているか? 最近は個人情報については非常に厳しくなっているし犯罪にも繋がるからな。大丈夫か? まさか本名とか入っていないだろうな?」

 →はい。

「ワシもいいと思う」

 

 

 

 何か抗えない力の片鱗を感じ取ったネス達。

 村長の変わった質問とやらは気が付くと終わっており、その髭を眺めていた。

「さて、ワシは話せて満足したが、YOU達からの質問はあるかね?」

 まだ話し方が安定していないのか、突然の横文字でこちらの呼び方を変えてきた村長。

 対してネス達が聞きたい事は既に固まっている。

 

「村長さん、ぼく達は地底に行きたいんです。多分この魔境の何処かから地底へと繋がる場所があるって手掛かりは得ているんですけど、何か知りませんか?」

 

 会話が成立する様になったからこそ、彼は大声で尋ねた。

 恐らく人類がまだ辿りついていないであろう『地底』へ繋がる道を。

 大声は少し焦りを見せていたからなのかもしれない。

 まだ見ぬ地を探索する未知の冒険というワクワク、高揚感。

 それともギーグ達へ近づく手がかりがあると感じ取っていたのか。

 いずれにせよ、村長から飛び出した返事はネス達が驚く結果となる。

 

「地底……か。もちろん知っておるとも。ワシらグミ族は、地底とここで生活が分かれているからのう。今のワシらみたいにお喋りなグミ族は地底へ、無口な奴らはここでと別れた」

 

 ここまでは書きなぐりの書物と照らし合わせ、納得できる内容。

 問題はこの先だった。

 

 

「まずはこの村の巨岩の下へ。その先の洞窟を進み、最深部の穴を落ちた先に地底はある。だが、問題はその洞窟じゃ。そこは喋る岩や邪悪な魔物が巣食う別名『ルミネホールの洞窟』。この名が指すルミネホールとは言う所の聖地、『パワースポット』なのじゃよ」

 

 

「パワースポットだと!?」

 

 話を聞いていて、初めに声を荒げたのは腕を組み、座っていたプー。

 そう、偶然なのか必然なのか。

 ネス達はこれまで巡ってきた六つに加え、遂に七番目の音の場所の手掛かりを得た。

 

「八個中、遂に七番目……村長さん、ぼく達は、すぐにでもそこに向かいたい。巨岩ってこの村の奥にあるおっきな岩の事だよね。アレを壊せばいいんだよね?」

 

 手がかりを得たネスの姿はまさに水を得た魚。

 もう今すぐにでも飛び出しそうな彼の姿を見て、仲間たちも続いて出発する気満々になるが、

 

「まあ、待て。急がば回れという。とりあえず岩は実は力持ちなワシ達が『壊すから』、その間、お茶でも読みながら、早朝届いた手紙でも読め。お前達宛てみたいだ。読んだ後は温泉も入っていけ。その間に石は粉々。OKですか?」

 

 慌てるように動こうとするネス達を諫めながら、村長は『ネス君達へ』と記された手紙を渡し、重みのある石製のコップにお茶を注ぐと、住民を何人か連れて地底への道を開く為に巨岩破壊へ向かうのだった。

 

 

「一体誰からだろう?」

 背後から金槌などでガンガンと巨岩を叩いている音を他所に、ネス達は手紙の差出人を探る。

 丁寧に封がなされた手紙。

 裏面を向けても差出人の名は無い。

 

「でも、なんか見覚えというか、懐かしい感じしないかい?」

 

 まだ中に込められた便箋を取らず、封の外をまじまじと眺めるネスを見てジェフは告げる。

 正直、彼の中では察しはついていた。

 

「ほら、どせいさん達の所でもあったじゃないか。確か、あの時はコーヒーを飲んでいて……」

「あっ……まさか、私達のファンっていう」

「もしかして……」

 

 彼の発言に、その時同じ場にいたネスとポーラは即座に察した。

 そう、こんな辺境の奥地でも。

 例え人跡未踏の地であっても。

 彼らに向けて手紙を送る人物は一人しかいない。

 

「「「イトイさんだ!」」」

 

 性別も姿も全く知らない謎の人物、イトイ。

 名前も本名なのか定かではないが、ネス達のファンという存在。

 何処で会ったか、または救ったのか。

 一度ネス、ポーラ、ジェフの三人はイトイから送られた手紙を読んだが、その内容も特殊。

 まるで彼らの冒険に随伴し共に歩んできたかのように語った内容だった。

 

「早速、読んでみよう」

 

 ネスは手紙の封を切ると、中に入っていた数枚の青い便箋に記された内容を音読し、仲間に聞かせた。

 

 

【まるで、不細工なタピストリーのように。

 物語の縦の糸と横の糸とが出会い別れ、絡まり合って、大きな絵が表れてきた。

 君はここまで何度となく、この果てしない旅を呪ったことだろう。

 

 

 傷つき、倒れたことだって数え切れない程あったのだと思う。

 時には敵の強さに圧倒され絶望した時もあっただろう。

 それでも、ここまでたどり着いたのは、君に元々備わっていた知恵と勇気のおかげだ。

 仲間達と、互いに信じあい、励まし合ってきたおかげだ。

 

 

 君の力がどれほど大きくなったのか、考えてみたことがあるかい。

 今の君にオネットやツーソンで出会った敵が襲い掛かってきても、きっと一撃で倒されてしまうのだろうな。

 

 

 もう、戻ることはできない。

 しかし! ギーグという、とてつもなく大きな敵は怖れている。

 ネス! 君を怖れているんだ。

 非力だったはずの少年が強敵たちを撃破して進んでいる事に。

 だからこそ、君の前進を妨げようとしている。

 これからの先の旅は、今まで以上にスケールの大きな冒険。

 想像を遥かに絶する冒険になるだろう。

 

 

 けれども安心するんだ。

 ギーグの懐へ確実に君は近付いている。

 自覚は無いだろうが、運命の糸は必ず引きあう。

 君がつらい場面は敵も苦しい状況だ。

 それをいつも覚えていてくれ。

 

 

 それにしても、あのポーキーはどこへ行ったのだろうか。

 君は彼を心配しているのは良く知っている。

 だが、先述の通り糸は必ず出会う。

 一つの終着点へと冒険とは集約するものなんだ。

 だからポーキーも君の前に……君達の前に絶対に現れるだろう。

 その時がネス! 君の大きなチャンスだ。

 

 

 さあ、お茶を飲んだらまた出発だ。

 運命は君を、良い方へ、良い方へと導いてくれるはずだ。

 信じて、前へ!

 

 

 ネス!

 

 ポーラ!

 

 ジェフ!

 

 プー!

 

 

 君達に、いつも幸運の女神が

 ほほえみかけてくれるように…。

                                   BYイトイ】

 

 

 以上が手紙の内容だった。

 相変わらず、自分たちの後ろを追ってきたかの如く冒険の進捗に合わさった文面。

 けれども、ネス達には不快感は無かった。

 

「イトイ……随分と的確に書く人物だな。だが何故か心の底からやる気がこみ上げてくる」

 

 むしろ、その励ましのメッセージに彼らの士気は上がる。

 初めてイトイの文章を聞いたプーですら、違和感をあまり覚えない。

 自分たちのファンという名目があったせいなのか、応援のメッセージに一行は安らいだ。

「よし! じゃあ、お茶を飲み終えたら地底を目指そう! 一応道中はルミネホールを守護する音の番人がいるみたいだけど……」

「いつも通り倒してやりましょう! 私達は進まなくちゃね!」

「僕にとって勝算は敵を見なくちゃ測れない。まずは行くしかないさ」

「ネス、強敵ってのは倒しがいがある。俺達を成長させてくれるにはもってこいだ」

 こうして休息を挟み、村長の言葉に甘え温泉にも入り、疲れも眠気も吹っ飛んだ四人。

 まずは村人全員で巨岩を砕いている中に参加し、地底への道を開こうと動くのであった。

 

 

 敵もネス達も大きく動き始める。

 どちらにとっても敵とは対峙する以上、激突は免れない。

 ネス達もギーグ軍も。

 この先彼らはどう戦っていくのだろうか。

 互いに背負うものがある中で時間だけは刻々と経過していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 私生活に大きな変化があり、若干精神がまいりつつもいつもの後書きです。
 早速今回の話を作った感想について。
 まず、コーヒーブレイク(今回はお茶ですが)について。
 オリジナルのまま引用でも良かったのですが、これが原作的に最後のメッセージなので、少し深みのある内容に一部変更しました。
 なんというか、このシーンは私の中でも大好きです。
 勿論ゲームの方ではありますが、自分で書いていてもお気に入りです。
 
 次にあくまのマシンについて。
 これは原作でもハッキリとした描写が為されていない為、自分なりにアレンジしました。
 DXスターマン戦でも少し出ましたが、原作では完全防御を誇っていたなどの面もあり、防御と力の制御という性能が備わった兵器としました。
 まだギーグ本人が登場しない為、ハッキリとした描写はその時に。
 
 次にグミ族の村について。
 ゲームだとダンジョン内や洞窟は視覚的に明るくて当然なのですが、現実はそうはいかないので、光苔というオリジナル展開で内部を見渡せるようにしました。
 苔の生態等はwiki頼りの為、間違っている可能性は勿論あります。
 一応『スーパーヒカリコケ』という特殊な苔がここで自生しているという描写を入れようか悩んだのですが、別に次の展開に生きる訳でも無く説明もこれ以上はくどいと考え、あくまで特殊な苔という事で抑えました。
 グミ族自身も話す奴は原作ではいたのですが、今回は度を越えて話さないという事で彼らの生態を描きました。
 後、原作では無口を直す本は又貸しという形で戻ってきませんが、これをそのまま書くのは教育上よくないので(多分、読んでくださっている方々はアダルティーでマナーを弁えておられる方なので無意味な気もしますが)貰ったものを返すという形にしました。
 
 とりあえず、以上が内容面についてです。
 ここからは投稿について。
 まず投稿期間についてですが、少し小説家になろうのサイトの方でオリジナル小説を投稿しようかと考えている所で、また開いてしまうかもしれません。
 どちらにせよ、ここからは物語は終盤。
 ゲーム的にも後一時間か二時間くらいで最終決戦まで行けるような展開。
 終盤程、物語を熱くする展開は無いです。
 質を高め、次も楽しんでもらえる様に書いていきます。
 
 冒頭にもあった通り自分のいる環境が大きく変化し、不安に押しつぶされそうではありますが、小説を書く事は大好きなので、消えたりはしませんよ(真剣)
 挿絵についても後から追加でも描く気なので……というより今回は描く気でいました。
 二等身サイズの少年をあまり描いた経験が無いので、下手になりそうで、一旦断念しましたが、また描いていきたいとは思っているのでこちらもお楽しみに。
 ではでは、長くなりましたがこれにて今回は筆を置かせていただきます。
 批判、感想など、色々送ってくださって結構なので随時コメントお待ちしております!
 
 それではまた次のお話でお会いしましょう。
 ではでは、さらばでございます!
 
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