ゲーム自体のシナリオとしましても多くのフラグが必要なため、文章にするのに少し時間がかかってしまいました。
タイトルでもあるツーソンのBGMのボーイミーツガールは聞くだけで散歩したくなるような、不思議な魅力にあふれている曲だと私は思っています!
第二章『ツーソン』
イーグルランドの小さな田舎町、オネットを南下していき、道の両脇を木が埋め尽くす林を抜けた先。
そこは規模や住民の数も全く違う町、ツーソンだった。
田舎町では見る機会が無い、大きなデパートや治安は悪いが様々な種類の商品が出回るヌスット広場。
他にも隣町やそのさらに隣の町へと自由に行き来出来る交通手段であるバスが走っており、交通手段が乏しく孤立したオネットに比べると、人の出入りが活発である。
形としては住民達が固まって生活している町自体が狭いオネットに比べると、ここは広々とし、南北に伸びた土地が特徴であり、その距離は非常に大きいものである。
「凄いや、これがツーソン!」
林を抜けたネスが目にした光景は、まさに別次元。
住民の数によりさらなる発展を遂げていたツーソンはネスにとってはある意味、遊園地のようにはしゃぎまわっていた。
「自転車屋……デパート……劇場……本当に何でもある」
街が広がっていく南西の方角を目指して彼は進む。
すれ違う人の数も多く、活気に満ちた隣町を来訪したネスは道なりに進みながら、その風景を満喫していた。
「あっ!」
その中でもネスが立ち止まって、思わず店内へと魅かれていった店舗があった。
そこは……。
「いらっしゃいませ!」
オネットには店舗こそがあったが閉店していたピザ屋。
幼い頃、時々家に帰ってきた父親がお土産に買ってきたピザが絶品で、ネスはその味を忘れてはいなかった。
(ごくり……もう少ししたらお昼ご飯の時間だし、今日はピザを食べようかな)
自分の中にある食欲に正直な反応を示すと、ネスは財布の中身とにらめっこしながら、店内に展示されたメニュー表に載っているピザを見る。
「お客様、我々はデリバリーサービス専門ですのでお電話番号をお教えいたしますね」
接客をしている女性の店員はネスの姿を観察していると、店頭では商品を購入できない事を伝える。
「はい、こちらがお電話番号の控えとメニュー表です。残念ながら現在Mサイズの生地を切らしておりまして、SサイズまたはLサイズのみのご注文を承っております」
注意を受けたネスはレジへと向かい、女性からメニュー表と番号が書かれた両開きの表を受け取るとリュックサックの中にしまった。
その場で購入こそできなかったもの、ネスは楽しみが増えた事に微笑みながら、ピザ店を出て再びツーソンの街並みを見て回るべく出ていった。
ピザ屋を後にしたネスは一度来た道を戻り、付近にあったバスステーションに足を運んだ。
地元では走っておらず、生まれてこのかた乗車した体験の無い夢のような乗り物に期待を寄せていたのだろう。
「あれ?」
しかし現実は違った。
バスステーションの中には通常ならば、隣町への移動やまたは休憩スペースとして設けられた建造物なのだが、彼の目前に広がる景色にある備え付けのソファやベンチ、あまつさえ立っている人すらほとんどいなかった。
「おんや? 何か用でもあるのかい?」
ソファに腰かけていた老人が、入り口のガラス戸を開けた音に反応して、ネスの方へ振り向いた。
「おばあさん……こんにちは」
「まあ、座んなさい」
すると寂しそうに一人で座り、両手で体を支える杖を持っていた老人はネスに対して、横に座るようにと手招きする。
「随分と人が少ないんですね……もっと人がいる気がしたんですけど」
街に一つしか無い灰色のレンガが組まれて、建てられた四角形の形をしたシンプルなバスステーション。
本来ならばここでバスのチケットを販売し、そのチケットを持って表にある時刻表が立てられた場所で待機すれば、自動的にバスが迎えに来るのだ。
「あら? 坊や……もしかしてこの町に来たのは今日が初めてかい?」
老人はネスの発言に対して、何かに勘付いたのか彼が今日ここに来訪した事を悟った。
「どうして、分かったんですか?」
ネスの疑問は当然のものである。
対して、老人は答える。
「だって……今バスは動かないんですもの」
返答を受けて、ネスはその場の光景の違和感に納得。
なぜならば、チケット購入の受付は無人だったため。
まして受付らしい人間はおらず、残っているのは対話している老人と、休憩で眠っている若者だけだったから。
「ここ最近のニュースになっててねぇ。ある誘拐事件の後、突然『隣町のスリーク』に続くトンネルに『オバケ』が大量に湧き出たって。だから今は停止してるのよ」
誘拐事件に、オバケの大量発生。
「誘拐事件もだけど、一番おかしいのはオバケだ……」
老人の口から飛び出した不穏な言葉に、ネスはこの異変の原因は恐らく、悪の親玉ギーグが一枚噛んでいるのではと考え、老人と少し雑談を交わした後に場を後にする。
その後、ネスはバスステーションを出た後に、時刻が昼を越え、腹がすいていたのか電話で予約をし、待ち時間の間に、町を巡り情報の収集をしていた。
「もむもむ……」
何故かサイズを間違えられ、Sから二段階アップを果たしたLサイズのピザの一部を頬張りながら、ネスはデパートの中や道端の人間から集めた情報を整理する。
「トンチキさんを知らないのか? このヌスット広場のボスだぜ。昔はやんちゃをし過ぎたらしいがな」
「坊や、ヌスット広場は色々な物が売ってるけど、ボスのトンチキっていう人物に会ったら、気を付けるんだよ」
「トンチキさんは善人ではないが、義理と人情にあつい立派な親分でな。気に入った人は絶対に助けるらしい」
町の特徴の面で発覚したことの一つ目は、治安こそ悪いが町の市場のヌスット広場には『トンチキ』という男が広場の元締めを務めている事。
「最近変わった事ねぇ……そうだわ。オレンジキッド様が自動たこ焼きマシンを作ったって事! 隣のアップルキッドも何か作ってたけど、覚えてないわ」
「特別に教えてあげるわ。この先には二人の発明家が住んでいるのよ。イケメンでクールな私たちのアイドルのようなオレンジキッド様。そして奥の家がぐうたらで貧乏くさいアップルキッドの家よ」
ツーソンの南に位置する周囲の民家に比べると、一際目立つオレンジ色、リンゴのような赤色の二件の家屋にはそれぞれ『オレンジキッド』『アップルキッド』と呼ばれる人気こそ分かれるが発明家が住んでいる事。
そして尋ねた人間の多くが口にしたのが……。
「ポーラちゃんが誘拐された事件だね。なんでも青色の集団が攫っていったって話さ」
「綺麗な金髪のお嬢さん……そうポーラちゃんが誘拐された事件だね」
「あの子はとっても可愛くて、優しい子で、家族も恨みを買われるような悪い人じゃなかったのに……本当に気の毒さ」
ポーラスター幼稚園を営む家族の一人娘である『ポーラ』と呼ばれる少女がつい最近、何者かに誘拐され、現在も行方不明という事件を多くの人が証言していた。
以上の三つがネスの入手した大きな情報だった。
「ゴクン……とりあえず、聞いた情報を頼りにしてパワースポットも大事だけど、まずは誘拐されたっていう子を助けに行かなくちゃ……それに……」
ネスはごく少数の人間しか発言しなかったものの、その通常の人間が聞いたなら冗談だろうと聞く耳すら持たない証言を思い出す。
その証言とはバスステーションから西への洞窟へと続く道で休憩していた二人の男性のものだった。
「事件ねぇ。そうだ! 俺見たんだよ! 誘拐事件が起こった日にここから東へ行ったグレードフルデッドの谷にUFOが飛んでたのを!」
「そうそう! オイラもコイツと見たんだよ。夜中に幾つかの小さな円盤が谷の方に飛んでいってたんだよ。もうビックリしちゃって小便ちびるとこだったぜ」
二人も相手が信じないだろうと高を括って、笑いつつそう尋ねて来た少年に伝えた。
だがネスは彼らの言うUFOに心当たりがあった。
(ブンブーンさんはスターマンの事を宇宙の殺し屋って言っていた。それならUFOが来たって事はギーグの手下たちが動いてるってことに違いない)
かつてネスに使命を託したブンブーンと呼ばれる存在を殺害したスターマンと名を持つ謎に包まれた見慣れぬ生命体。
宇宙の殺し屋という別称を持つ者達ならば、地球では見かけないUFOに乗っていてもおかしくはない。
「とにかく……一つずつ問題を処理していこう。慌ててちゃ、ダメだ。落ち着いて片付けていこう」
確証こそないものの、予想以上の速度で敵が迫っている現状に冷静を保ちつつ、余ったピザを商品を間違えた係員が気を利かせて持ってきたタッパーに入れて、ネスは行動を開始した。
彼がまず向かったのは、二人の発明家の家だった。
初めに立ち寄るのは、イケメンでクールだと女性からの人気が高く、知名度も高い天才オレンジキッドの家。
「はじめして、私がオレンジキッドです。噂を聞きつけてやって来てくれるなんて光栄だなぁ。今お茶をお出しするので、少し待っててね」
発明家ではあるものの、工具や機械の破片が一部に置かれているだけで、しっかりと片付けや掃除が成された清潔感溢れる内装、さらに日常で使用するソファ、ベッドなどの家具が完備されており、女性から人気を得ている裏付けがされる場所だった。
「オレンジキッドさんは何を発明されてるんですか?」
お茶が汲まれたコップを盆に乗せ、運んでくるオレンジキッドに対してそう疑問を投げかける。
「そうだねぇ、今は世界の役に立つグレートオレンジマシーンを開発しているのさ、悪いが深い内容は話せないけどね。そうだ、まずは天才である私の成り立ちを……」
発想こそ壮大であるが、いまいちピンと来ないネスはその後、彼の自慢話を延々と聞かされた挙句、最後には詳細が不明な発明品の資金まで要求されたが、丁重に断った果てに彼の家を後にした。
オレンジキッドの家を後にしたネス。
次に訪問したのは隣人と呼べる赤色の家に住まうアップルキッドの自宅だった。
(なんというか……発明家の家らしいや)
先程訪ねたオレンジキッドの家とは違い、今度の家の内装は打って変わって、一言で言うなら不衛生。
空になったインスタント食品の残骸やジャンクフードの空袋など食事の後がそのまま残され、スパナやドライバーの工具なども派手に散らかっていた。
「僕の所を訪ねてくれるなんて感激です。僕がアップルキッドです……よろしくお願いします」
資料をまとめた本棚ど簡素な机と椅子しかない家具の数だけでも寂れた家宅に住んでいたアップルキッド。
見てくれは少しばかり膨らんだ腹が目立ち、何かの装置の作成中だったのか黒いオーバーオールの下に着用している赤い服は油やススで汚れていた。
顔立ちもいまいちパッとこそしないが、何処か愛嬌の感じられる人間だった。
「クンクン……貴方のリュックから良い匂いがするなあ。
あっ、これは失礼しました。最近お風呂どころかあまり美味しい物食べてないもんで。もしよければくれます?」
匂いの原因はネスの食べ残しのピザだった。
「良い匂い? あっ、そうか」
ネス自身言われるまで気が付きはしなかったが、確かにチーズの香りが微かに漂っている。
「全部どうぞ。まだ買って間もないから食べちゃってください」
空腹で困っている青年に、彼はタッパーごと差し出す。
「ありがとう。これで元気になれるよ」
タッパーを受け取ると、アップルキッドは美味しそうに笑顔で中身を取り出して口元へ運ぶ。
そしてピザを一切れだけ残し、後を全てたいらげた。
「ふう、ありがとうございます。貴方いい人ですね。ついでと言ってはなんですが少し資金の援助をしてくれませんか?」
人の好意に甘えるとはまさにこの事だろう。
アップルキッドは空腹だけに飽き足らず、見ず知らずの年下の少年に金銭の要求まで行ったのだった。
「えっと……もしかして200ドルですか?」
値段を把握していたのはオレンジキッドの時に要求された額が以上のものだったからである。
「ええ……出来ればでいいんです」
封を開けっぱなしのピザ入りタッパーを机の上から下に降ろすと、アップルキッドはそう念を押した。
(どうしよう……部屋の中は汚いけど、さっきの人に比べるとすごく熱心に発明をしてるって分かるんだよね)
作業により薄汚れた風貌。
オレンジキッドとは違い、明らかに精を出して物作りをしている精神が伝わってくる彼の姿はネスの心をしばらくの時間、揺るがしていた。
「ご主人、そんな頼み方がありますか?」
「!?」
突如響いた男性の声にネスは驚きを覚えた。
「訪問してくれた客人よ、申し訳ない。先程のピザという物大変美味でありました。まずはその礼を申し上げる」
その声は机の上に乗っていた存在が発した物だった。
「えっ? ネズミ……さん?」
小さな体を机の上に乗せ、ちょこんと二足で立ちあがってネスに話しかけてきたのは、なんとネズミだった。
先に下に置かれたタッパーに残されたピザは彼用だったのだろう。
口元にとろりとしたチーズの破片を付けながら、アップキッドのお手伝いと思われる彼(?)は発言を続けた。
「こんなご主人ではあるが、きっと凄い発明をするとネズミの我輩は確信しているのである。だからここは一つ未来への投資という事で金銭を分けては貰えぬだろうか」
その小さな頭の何処にここまで流暢に言葉を扱う頭脳があるのかはさておき、主人を救う為にネズミは丁寧にネスへと資金援助を頼み込んだ。
「この子が言った通り、僕からもこの通りです……」
人間のアップルキッドだけでなく、言葉を操る礼儀正しいネズミにまで頼み込まれたネス。
(ここまで動物に好かれるなんて……本当に優しい人なんだろう。じゃあ、仕方ないや)
熱意と可能性を感じた彼は、ピザを購入する際に父親から振り込まれ、それを引き下ろした現金の中から高額ではあったが200ドルを譲った。
「おお、ありがとうございます。あっ、そうだ。少し待っていてください」
金を譲り受けたアップルキッドは、それを金庫にしまうと工具箱の近くに放置されていた小型化された受話器のような物を運び、ネスへと渡した。
「これは、なんですか?」
軽量化されているため持ち運びには困らず、リュクサックどころかポケット内に忍ばせることが出来る受話器を受け取ると、ネスは疑問を発する。
「受話電話です。こちらからの連絡限定ですけど、便利な発明品の一つです。どうかお持ちください」
相手からのみだが、使えなさそうで意外と使えそうな無線機に近い物を受け取る。
「では、僕はこれで失礼します。ばっちり発明をものにしてみるので、期待していてください」
そう言い残すと、アップルキッドは工具箱を手にして、奥に一つだけある作業場と思われる部屋へと籠った。
「今回の事はなんとお礼を言っていいやら、貴方様のお名前をお伺いしても?」
客人を残して、作業場へと戻った不躾な主人の代わりにお手伝いのネズミは代理でネスにお礼の言葉を述べる。
「ネスです。貴方はネズミさんでいいですか?」
ネズミは相手の名前を覚えると、今度は自分が名乗りを上げはじめた。
「ネス殿ですな。私の事は好きに呼んでくだされ。一応我輩はネズミでは無く、名も無きマウスである」
ネズミと呼ばれるのがどこか気に食わないのか、そう訂正を入れながらお互いの名前を覚えあった。
「では我輩が玄関までお連れしよう。少し汚れてはいるがまた我輩が整理する故、お気になさらずに」
その言葉にマウスに掃除をさせているのかと、アップルキッドに少し呆れた感情を持ちながら、
「まあ、こんなデコボココンビではあるが、我輩は今のこの環境を実に気に入っている。貴方もいつか主人の良さにも気づくことが出来るだろう。ではお別れだ、ネス殿」
パートナーのフォローの甲斐もあり、ネスは面白い人たちだと思いながら発明家の家を後にした。
中々の印象に残るインパクトを与えた発明家の二人と対話し、自身が選んだ発明家に投資を終えたネスは、行方不明となったポーラという少女の詳細を聞く為に、彼女が住んでいたポーラスター幼稚園へと足を運んだ。
「ポーラかい!? 帰ってきたんだね!」
多くの児童を教育する幼稚園に足を踏み入れた途端、来客のネスめがけて一人の男性が向かってきた。
「えっ……と、ごめんなさい。ぼくはポーラさんではないです」
部屋のドアを勢いよく開け、机で自習をしている園児たちも驚きのあまり、唖然としている中で彼はそう返す。
「あ……ああ、すみません。自分の娘が帰ってきたと勘違いしてしまいました」
自身の望む娘の姿ではなかったことがショックだったのか男性は顔を青くし、体を大きく前へ傾けたまま、フラフラと奥の部屋へと消えていった。
「ビ、ビックリした……」
ネスは狐につままれたようにその場で固まっていると、園児たちの面倒を見ていた一人の女性が彼の元へ近づく。
「ごめんなさい、あの人、ポーラがいなくなってからずっとあんな様子で……あっ、紹介が遅れたわね。私はポーラの母親です。さっきのは父親よ」
先の父親と違い随分と落ち着いている母親。
自己紹介を終えた母親は次に来客の名を聞くのを待つ。
「ぼくはネスです。オネットから来ました」
「えっ!?」
母親は彼の名を聞いた瞬間、目を大きく見開いた。
何かの縁でもあるかのように、信じられない客人の名を聞いた彼女は言葉を発する。
「ネス……『ポーラが言っていた名前』よ。その少年が必ず自分の元を訪ねて、そして世界を救う旅が始まるんだってそんな夢で見た光景をよく話していたわ」
(嘘……そんな事が……)
ネス自身、彼女の話を鵜呑みにしているわけではない。
勿論、奇跡が重なって偶然だってあり得る。
だが、次に彼女が放った言葉が、そんなあり得ない少女の夢を証明し、彼を十分に納得させるに至った。
「ネスさん、貴方には信じられないかもしれないけど。ポーラには神様がついているのよ。あの子にはね不思議な力、言うところの『テレパシー』が使えるの」
ネスも所有する精神の高ぶりなどから発現する不思議な力。
さらにかつて彼に運命を託した未来人ブンブーンの言っていた三人の少年と少女が世界を救う予言。
(じゃあ……まさかポーラっていう子が新しい仲間?)
未だ姿を知らぬ謎の少女に、ネスはそう予測を立てていた。
「ネスさん……大変身勝手なお願いではあるんですが、あの子が名を呼び、話していた貴方ならポーラを救うことが出来るかもしれません。私達両親は勿論、ここにいる園児たちもあの子の事が大好きなんです。ですからお願いします、ポーラを連れ戻してはくれないでしょうか」
ネスは急な要求をすぐに承諾した。
しかし、救う対象が仲間になる人物だからでもない。
まして、か弱い少女だからでもない。
「ぼくは困っている人はなんとしても助けたい。もうあの時みたいに……間違ったことをしたくないんだ」
正義感、助けを求める人を救う精神が彼を動かしたのだ。
「……ありがとうございます」
母親は娘が帰ってこない不安を今まで押し殺していたのか、運命を背負う少年の力強い言葉に堪えていた涙を流し、彼を見送った。
幼稚園を後にしたネスはこのツーソンで名をあげているトンチキという男性に会うべく、町の中央に大きく展開されたヌスット広場へと足を運んだ。
「へいへい、良い看板売ってるよ! 使えば、あら不思議。どんな所からでもお客がやって来て、貴方はすぐに店主気分だよ!」
「美味しい物を更に美味に変える調味料はいらんねぇ。タバスコ、粉砂糖、ケチャップ何でも置いてるよ!」
手前に出来たデパートに宣戦布告をするように堂々と存在するそのヌスット広場は、意外にも多くの人々が訪れて買い物をしていた。
デパートでは販売されていないものや、中には興味を魅かれる奇妙な品まで、フリーマーケットでの販売を目的とした人々が集い、現在ではツーソンの名物となっている。
「へぇ、色んなものを売っているんだなぁ」
ネスはキョロキョロと視線を泳がせながらトンチキという名の人物を探し、ついでに市場の中を見て回る。
中には壺や陶器など骨董品を扱っている店もあり、大体は本物の高級品を模した贋作が出回っているが、時には本物も出回るらしい。
「後はあの奥の家だけか」
お互いの売り上げ競争に燃え、活気に満ちている広場を散策し終えると、ネスは広場の奥にある一軒家だけを残すだけとなった。
「どうも……この中にはトンチキって人はいないみたい」
広場のボスとされる人物がいるならば、少なからず場が騒がしくなるはずだが、彼の出現を示す会話や言動が無かったことからネスは家を調べるために近づく。
すると……。
「ヌハハハハハ!」
豪快な笑い声と共に、いきなり空から何かが落下してくると、家に近づくネスの前を阻んだ。
「!?」
そんな突然の出来事にネスは思わず身を引く。
オレンジ色の服装に目が隠れるサングラス、耳元から顎にかけてボサボサに伸び切った髭を生やしたその男性は、ネスの風貌を上から下まで何度も視線を動かすと、
「……うむ。いきなり勝負をけしかけてやろうかと思ったが、調子に乗って屋根から飛び降りたら足をぐねっちまった。とりあえず小僧、このトンチキ様の家に何か用でもあるのか?」
彼こそが、ネスが探していた男性トンチキだった。
「あの……。お尋ねしたい事が……」
ネスがトンチキに会いにこのヌスット広場を訪れた目的を話そうとした矢先の事。
「分かってる、ポーラちゃんの事だろう。お前が誰だか知らんが、まあ、俺が知っている事を話してやるぜ」
彼は相手が自分の元へ情報を欲している事を見透かすと、口を動かし言葉を続けた。
「ある変わったガキンチョに小屋の鍵を貸してやった。ここから東のグレードフルデッドの谷を越えた先にある秘密の小屋だ」
ネスは少し前にオネットにいたフランクという友人となった人物からも悪さをして住民に迷惑をかけた子供の話を聞いている。
恐らく同一人物なのだろう。
「そういやぁ、変わった連中も一緒だったな。確か青色の服を着た変な集団だった。とにかく、鍵を貸してやった次の日だったか、あのポーラって少女がいなくなったのは」
彼の証言から、行方不明だった少女の足取りを僅かながら掴むことが出来たネスは次の行き先が決まった。
UFOが目撃されたという胡散臭い情報が一部の住民の中で出回っているグレードフルデッドの谷。
「あそこは最近になって宇宙人に襲われたとかで大怪我をして病院で意識を失ってる患者が出たって物騒な話を聞くが……そういや坊主……名を聞かせてくれ」
ネスは相手からの言葉にすぐに返事をした。
するとポーラスター幼稚園で会ったポーラの母親と同じ表情を浮かべて、その名を何度か口にした。
「なるほど……ネスか。時々俺の所に話をしに来たポーラちゃんが話してた名前だ。お前が俺様の所に来たのは運命ってものだろうな……」
トンチキはポーラと関わりのあり、夢の話を聞いた人間の一部に含まれる人間だったのだろう。
どんな姿、どんな顔をしているかは分からないが、その名だけは自身の頭にしっかりと残っていたのか、感慨深い表情で正面に立つ子供の顔をまじまじと見つめた。
「さっき、重傷者が出る程の危険地帯だと言ったが、それでも行くんだろ。ポーラちゃんを助けによ」
「はい」
即座に躊躇うことなく危険地帯へと足を運ぶことを決意した少年にトンチキは、最後にある言葉を残して自宅へと戻っていった。
「二人で戻れ。そしたら絶対に俺の家に来い。お前達の旅の手助けを出来ると思う」
トンチキの親切な言葉を受けたネスは、すぐに西のグレードフルデッドの谷へと繋がる洞窟があるバスステーションの方角へと進んでいった。
新しい展開が多く入ってくる一つの大きなシナリオであるツーソン編。
トンチキさんとのバトルを書こうか悩んでいたのですが、結果として不毛な戦いではないかと判断して、時にはバトル展開の無い話を書きたいと考え、少しだけいじらせていただきました。
ここも無事に書きあげたいと思っておりますので、どうか読者の皆様楽しみにしていてください。