家を出て住むことに決まったところは
決してオシャレでも綺麗でもなく
1Kのロフト付のアパートだった
安いというだけで1階にした
ベランダはないので洗濯物は自宅内
洗濯機置き場はないのでコインランドリー
トイレと風呂は一緒のユニットバス
冷蔵庫は60cm四方ほどの小さな備付があるだけ
帰宅して玄関の扉を開けると
大量の黒いものが一斉に出迎えてくる。。。
だから玄関にはかならず殺虫剤が常備
隣の住民はバンドやってるのか
夜中にいきなりギターが大音量で始まる
終わったと思ったら女の大きな喘ぎ声が聞えてくる
この部屋は空いてるわけだ。。。
バイトは増やして
毎晩ろくに寝れずだから
結構辛い
だけど
心は毎日穏やかだった
どうせ眠れないからと
梅ッシュ片手にチーズつまみながら
見るプロ野球ニュース、そして読書
怒鳴られない
殴られない
罵られない
みじめな想いをさせられない
あそこの生活に比べたらここはパラダイスだ
週末は高校からの友人を呼んで過ごす
山盛りのマカロニサラダ
山盛りの切り干し大根
山盛りのきんぴらごぼう
山盛りのパスタ
山盛りのポテトサラダ
山盛りの豚の角煮
それをテーブルに並べ
昼ごろから夜の8時くらいまでひたすらしゃべり続ける
笑いが絶えない空間
ただ
大学3年になってから喘息がひどくなった
最初は偶然かと思った
金曜の夜に必ずひどい喘息になる
土曜日は大宮まで自転車で病院へ行く
さすがにどうにも自力で移動できなくて
近くに住む高校からの友人が免許をとったので
お願いすることもあった
あまりに毎週なのでよく考えてみると
金曜日は有機化学実験の日だ・・・
まさか。。。
テスト期間中で実験のない日は
喘息にならないことに気付く
だが無機化学実験では大丈夫だ
無機化学実験では使わないけれど
有機化学実験では必ず使うもの
ベンゼン系の物質
薬品アレルギーがある、そうあたしは確信した
化粧品も食品も繊維も
実験をする開発職にはつけない
つまりは化学専門的な職にはつけない
そして何より・・・
有機実験の単位は3年次には取得できなかった
事故で休んだ回数が多かったからだ
ゆえに
4年になっても履修しなくてはならない
金曜日はまた1年間、点滴と友達
働く学生としては
月に1万の医療費は結構きつかった
それでも
自宅に戻る気にはならなかったが
ある日、玄関のチャイムの音がする
扉をあけると花束を持った内田くんがいた
「やりなおしたい」
あたしは少し逡巡してから
彼を部屋に招き入れた
未来に何が待っているのかあたしは知らない