「だぁ〜〜〜〜〜っっ!!!!遅刻だぁ〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
登校初日、俺は愛用のギブソンフライングVを背中に通い馴れた道を自転車で全力疾走していた。
今日も俺のMTBは絶好調だ!!
誰かがMTBで登校を始めると暫くバス通学は出来ないと言っていた気がするが、俺の場合卒業する迄出来ないだろう。
イヤフォンから流れて来る曲は 『 The Michael Schenker Group 』の 『 Armed and Ready』だ。
軽快なリズムが心地好いぜ。
「って浸ってる場合か〜〜〜〜〜っっ!!!!間に合え!!間に合ってくれ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
暫くすると目的地が見えて来た。
俺の通う文月学園だ。
登校する生徒は既に誰も居ないが、ふと俺は校門の前に人が立って居るのを遠目に見つけた。
間違いない。アレは生活指導の鉄人こと西村教諭だ。俺の視力は1,5だ。見間違う筈が無い。
不味いな…MP3プレイヤーなんぞ見つかろう物なら取り上げられるのは確実だ。そりゃもうコーラを飲んだらゲップが出るって位に。
普段なら裏口から回って自転車置き場に自転車を留めてそのまま校舎に入る何て事も出来るのだが、生憎と今日はそんな余裕は無さそうだ。
何より俺だけで無く進級する生徒は全員、今日鉄人に会わねばならない重要な理由が有るのだから。
俺は一旦自転車を止め、イヤフォンとMP3プレイヤーをブレザーの内ポケットにしまうと桜が咲き乱れる道を再びペダルをフル回転させた。
side明久
『人の出会い 』は『運命 』
ならば僕と彼の出会いもまた一つの運命なのかもしれない。
それは僕が文月学園に入学して2度目の春を迎えた日だった。
麗らかな春の日差しと雲一つ無い快晴の空の元で咲き乱れる満開の桜には、花を愛でる程雅な人間でも無い僕でも一瞬目を奪われる。
普通の人なら歌でも一つ歌いたい気分になるのだろうが、僕はこれからのクラス分けの事で頭が一杯でとてもそんな気分にはなれない。
「吉井、遅刻だぞ。」
校門の前で2000年の眠から覚めた様なドスの効いた声に呼び止められる。見るとそこには身長195cmは有ろうかと思われるガッシリとしたスポーツマン然の大男が立っていた。
「あ、鉄じ、西村先生おはようございます。」
「お前今鉄人って言わなかったか?それに何か失礼な事を考えなかったか?」
「ははっ、気の所為ですよ。」
相変わらず感の鋭い人だ。
「ん、そうか?…ムッ!?」
ふと鉄人こと西村先生は遠くに視線を移しフンっと鼻を鳴らした。
つられて僕も同じ方向に視線を向ける。
見ると遠くから何かが物凄いスピードでこちらに向って来るのが見える。
「ーーーーーーッ」
近付いて来るに連れ何か言っているのが聞こえる。
「ーーーーォォォオッ!!」
いや、何か言っているんじゃ無い!叫んでいるんだっ!
「オオオオオオオオオオシャアアアアアアアーーーーーーーッ!!!!!!!!」
MTBだ!!MTBに跨った男子生徒が鬼気迫る表情で雄叫びを上げながらこちらに向って走って来る!!
ギャリギャリギャリギャリギャリィィィィィーーーーーーーッ!!!!!!!!
その男子生徒はF1レーサーも惚れ惚れするのでは無いかと思う位の華麗なドリフトを決めて僕等の前に止まった。
茶色のツンツンした頭にヘアバンドをしていて、背中にはギターを背負っている。
「ッシャーーーーッ!!ギリギリセーフーーーーッ!!」
「馬鹿者!遅刻だ!」
「oh.no!!そりゃ無いよ!!」
全力疾走して来たのに容赦無く告げられた遅刻の宣言に余程ショックだったのか両手を頬に当ててオーバーリアクションを取っていた。
「何がoh.no!!だ!全く…学園始まって以来の問題児二人が揃って遅刻して来おって!本当に貴様らは幾ら罰を与えても懲りないな…」
酷い言われ様だ。まるで僕等が遅刻の常習犯みたいじゃないか。
ん?『学園始まって以来 ?』『問題児が二人 ?』
「先生、学園始まって以来の問題児って…」
「ん?そうか、お前はクラスが違うから知らんかったのか。コイツが文月学園始まって以来の二人目の『観察処分者 』だ。」
「へえ、あんたが記念すべき観察処分者第一号の…」
男子生徒はそう言って僕を見た。
出来れば記念すべきとかそう言う言い方は止めて欲しい。
それにしても驚いた。僕の他にも観察処分者が居たなんて。
「ほれ、二人ともボサっとしとらんと受け取れ。今回の振り分け試験の結果だ。」
先生が箱から『 封筒』を取り出して僕達に渡して来る。
「あ、どうもです。」
「ウッス、ありがとうございます。しっかし何でまたこんなまどろっこしいやり方でクラス分け発表してんすかねぇ。掲示板とかでデカデカと張り出したりする方が効率的だし、先生もこんな面倒臭え役目負わなくて済むんじゃ無いっすかぁ?」
それは僕も思った。一人一人に結果を書いた
封筒を渡すなんて余りに非効率的だ。
何だか彼が僕の気持ちを代弁してくれたみたいで少し有難い。
「普通はな。まあ、うちは世界的にも注目されている最先システムを導入した試験校だからな。この変わったやり方もその一環って訳だ。それに新しい年の節目に生徒一人一人に映えある新しいクラス分けを伝えると言うのも、なかなか乙な物だぞ。」
「ふーん、そう言うもんスかね〜。」
軽いノリで返事をしながら男子生徒は封筒に手を掛ける。
僕も期待と不安の中封筒を開け、中身を取り出した。
『吉井明久 Fクラス 』
「先生!!もう一度採点をやり直して下さい!!これは何かの間違い
です!!」
「吉井、現実から目を背けるんじゃあ無い!!それから東城!!」
鉄人は僕に現実と言う名の刃を容赦なく突き刺すと隣の男子生徒に向き直った。
彼も結果が芳しく無かったのか苦い表情を浮かべている。
「若い内は夢を持つ事も趣味に打ち込む事も素晴らしい事だと俺は思う。が、学生の本分は勉強だ。好きな事にばかりかまけて学業に支障をきたしては本末転倒だぞ。」
「ハハハ…返す言葉も御座いません…ほんじゃ、失礼します。」
「待て東城!!」
苦笑いを浮かべてその場を立ち去ろうとする東城君を鉄人は呼び止めた。
「な、何スカ?」
「内ポケットに入れとる物を出せ。」
?何だろう?
「ゲッ!!な、何の事デスか?」
「惚けるな。イヤフォン外して内ポケットに締まったろう。バレとらんとでも思っとったのか?」
まさか!!あの時遠くを見たのは自転車に乗った東城君が見えたんじゃ無く、東城君がイヤフォンを外して内ポケットに仕舞うのが見えたからだったのか!!
あの距離からイヤフォンを外して締まったのが見えたと言うのか!?
最早人外だ。
一体この人の視力は幾つなんだ!?天体望遠鏡並じゃないのか!?
「こ、コレは…部活で使うんですよ〜。」
「馬鹿者が!軽音部が去年で潰れたのを俺が知らんとでも思っとったのか!」
そうなんだ、軽音部って潰れたんだ。万年帰宅部の僕は全く知らなかった事実だ。
「か、勘弁して下さいよ〜。」
「駄目だ。他の生徒に示しが付かんからな。大体そのギターだって部活でも無いのに学校に持ち込んどる時点で校則違反なんだぞ。」
「ぐぬぬぬ…」
冷たく言い放つ鉄人の言葉に東城君は悔しそうな顔をしている。
「東城、目を覚ませ。軽音部はもう無いんだ。ほれ、ギターだけは音楽の1貫ということで大目に見てやるから、大人しく内ポケットの中の音楽端末だけでも観念して渡せ。」
「…どうしても駄目ですか?」
「駄目だ。」
諦めずに食い下がる東城君に対して鉄人は頑なに首を縦に振ろうとはしない。
相変わらず頭の硬い先生だ。
こうなってしまっては大人しく渡すほか無い。
しかし彼はそうしなかった。
彼は大きく息を吸い込むとまるで高圧の油のバリアーに飛び込むかの如く上体を逸らしながら飛び上がり…
「お願いします!!見逃して下さい!!」
何と土下座したのだ。見事なアーチを描いたそれはそれは素晴らしい位のフライング土下座だ。
「お察しの通り、これはMP3プレイヤーです!!学校に持って来る事は校則違反である事は重々承知しています!!でもコイツの中には、ダチと清涼祭で演ろうって言ってる曲が入ってるんです!!ですからどうか!!取り上げるのだけは勘弁して下さい!!お願いします!!お願いします!!」
何て奴だ!何だか無関係の僕迄申し訳ない気持ちになって来る!
何より…あの鉄人がたじろいでいる!!あの鉄人がドン引きの表情を浮かべてたじろいでるのだ!!入学して一年…初めて見る鉄人の表情に僕は困惑していた。
相も変わらず東城君は地面に頭を叩き付けんばかりの勢いで、コメツキバッタの如く頭を下げ続けていた。
そんな彼を見て鉄人は頭を抱え、呆れたと言う様な表情を浮かべながら大きく溜息をついた。
「分かった、今回だけは貴様のその情熱に免じて特別に見逃してやるから、もう持って来るんじゃ無いぞ。」
馬鹿な!!あの鉄人が折れただと!?有り得ない!!こんな事は有り得ない!!
「マジっすか!?ありがとうございます!!」
その言葉を聞いて東城君はパアッと明るい表情を浮かべてもう一度大きく頭を下げた。
「もう良い!分かったから頭を上げろ!全く…その情熱を少しは勉学にも向けたらどうなんだ…」
「ハハハッ…善処いたします。」
彼はケラケラと笑ながら立ち上がった。
「ほれ、さっさと教室に行け。吉井、お前もマヌケヅラしとらんと教室に行け。」
鉄人に言われて我に帰る。そんな僕は変な顔をしていただろうか?
「ウッス。おいお前、吉井つったっけ?その様子だとどうせお前もFクラスだろ?ちょっとコイツ自転車置き場に持ってくから付き合ってくれよ。」
「う、うん。」
失礼な。決め付けないで欲しい。事実だけど…でもまあ良いか。珍しい物も見れたし…
僕達は校門を後にした。
「いや〜悪いな、付き合わせちまってよ。」
自転車を引きながら彼は言った。
「良いよ。これから一緒のクラスになる仲間だもの。それに珍しい物も見れたし。」
「珍しい物?」
「鉄人だよ。僕あんな顔してる鉄人初めて見たよ。」
「あー、アレな…」
東城君は一瞬遠い目をしてこう言った。
「あの先生よ。確かに怖えし頭固いから面倒臭え所も有るけどよ。なんだかんだで生徒の事考えてくれてるし、話せば意外と分かってくれる物なんだよ。」
むう、そうなのだろうか?記憶を巡らせてみたがそんな風に融通を効かせて貰った覚えはない…そうだ!
「そう言えば自己紹介未だだったね。僕は吉井明久。良ければ名前を聞かせてよ。」
「東城丈也」
「jojoって呼んでくれ。」
これが『 僕』と『 彼』、『東城丈也 』との出会いだった。
最後やっちまったよ…どうしよう…