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side明久
教室に向かう傍ら僕は丈也に聞いてみることにした。ひょっとしたら気を悪くしてしまうのではないかと思ったけれど、彼は快く答えてくれた。
何故彼が観察処分者になってしまったのかを…
何でも休日街に出掛けた時に、女の子に絡んでいた柄の悪い他校の生徒二人を病院送りにしたらしい。
学校同士を巻き込んだ大きな問題になり、危うく退学処分に成りかけたのだが、鉄人のお陰で二週間の停学処分と観察処分者になる事で事なきを得たらしい。
そんなこんなで鉄人には頭が上がらないと言う。
「でも、見ず知らずの女の子を颯爽と現れて助けるなんて、まるで正義のヒーローみたいじゃないか。僕憧れるよ、そう言うの。」
多くの人は彼を問題児扱いしたらしいが、僕はそうは思わない。純粋に彼を凄いと思った。
「なあに言ってんだよ明久。お前だって似たような物じゃねえか。」
?全く思い当たる節がない。見ると丈也はにやついた笑みを浮かべながらこう言った。
「ちらっと小耳に挟んだんだがよ。お前振り分け試験の日に体調崩してぶっ倒れた女の子介抱しようとした挙句、試験管相手に抗議したんだって?なかなか居ないぜ、そんな事出来るヤツ。」
彼は振り分け試験の姫路さんの時の事を言っているのだろう。でも違う。僕は彼の様な誇り高い人間では無い。
「僕はそんなご大層な人間じゃ無いよ。退席して無得点扱いになるのが嫌で、結果として保健室に向かう姫路さんを見送る事しか出来なかったんだ。僕は下らない男さ。」
「結果として、な。でもよ…」
僕の言葉に対し丈也は優しい笑みを浮かべてこう言った。
「俺は“結果”だけを求めちゃいない。“結果”だけを求めてるとよ、人って奴は近道をしたがる生き物だ…近道した時真実を見失うかもしれない。やる気も次第に失せていくだろうよ。俺は大切なのは『物事に向かおうとする意志』だと思ってる。誰も『 助けようとしなかった』その女の子を、お前は『助けようとした 』。それで良いんじゃねえか?」
「あ、ありがとう。」
何故だろうか?彼の言葉はまるで聖書か何かから引用して来た様で、自然と僕の心を安心させた。
「はあ〜しかしよりにもよってFクラスか〜。気が滅入るよ。」
「いや、そう悲観した物でも無えぞ。」
最低ランクのクラスに配属された事を今更ながらに思い起こし、ネガティブな言葉を吐き出す僕を丈也は否定した。
「コイツは俺の人生哲学なんだがよ。つるんで遊ぶ相手ってのはよ、真面目な奴よりもバカの方が面白れえんだ。だからこれから行く所はバカの掃き溜めかもしれねえが、逆に考えればバカばっかの天国だ。確かに教室の設備は他のクラスに劣るだろうよ。だが場所が何処だろうが関係無え。大事なのは『 自分がどう生きるか』だと俺は思ってるぜ。」
丈也は何処までも前向きで、そしてその視線は何処までも真っ直ぐだった。
side jojo
Fクラスに配属された事に腐る明久に俺は自身の人生哲学を説いていた。
いや、正確に言えばこれは親父からの受け売りだ。俺と同じく音楽に触れてバンドを始めた親父の周りは、先輩後輩友人周りをひっくるめてバカな悪ノリをする人間が沢山居たらしい。そしてそんな周りの人達との関係を、今も親父は大切にしている。「若い内に一緒になってバカやってきた連れは歳食ってからも一生モノになる。」親父が何時も言っていた言葉だ。
そんな親父の信条を俺も受け継いでおり、俺も今だにその持論を曲げてはいない。そしてそうして築き上げられる『 絆』は、時が移ろうと場所が変わろうと揺るぎない物に成ると信じている。
『信じていた。 』
此処に来る迄は…
「…何だよこの馬鹿でかい教室は…」
これが噂のAクラスかよッ!!普通の教室の5倍は有るぞッ!!
見ると明久も中が気になる様だ。俺達は大きめの窓から中を覗き込んだ。
何だ!?あの壁全体を覆う程のプラズマディスプレイは!?アレが黒板の代わりだってのかよ!?それに一人一人にノートパソコンに個人エアコンに冷蔵庫に、椅子はリクライニングシートだと!?
しかもスイッチで開閉可能なガラス製の天井に、バカ高そうな絵画!!もうコレ教室じゃねえよ!!何処の高級ホテルだよ!?
「皆さん進級おめでとうございます。私はこの二年A組の担任、高橋洋子です。よろしくお願いします。」
おまけに担任の先生も美人じゃねえか!!激マブじゃねえか!!
何てこった!!俺の人生哲学が早くも揺らいでやがるッ!!
見ると明久は口をポカンとだらし無く開けて目が点になった状態のマヌケ面だ。
ああ、明久よ。今朝西村先生と俺のやり取りを見た時のお前はこんな顔してたんだな…
ーーーッと!!感慨に耽ってる場合じゃねえ!!
「す、スゲエ教室だな…でもよ!逆に考えるんだ。Aクラスがこんだけいい設備なんだ。案外最低ランクの設備も、想像してたより悪く無いかもしれねえぜ。」
「ーーーハッ!!そ、そうだね。何事も前向きに考えないとね。」
どうやら魂が抜けてたらしい。明久は我に帰ると引きつった笑みを浮かべてそう応えた。
「オウッ!さ、行こうぜ!俺達の教室によ!」
何時までも此処に居てもしょうがない。俺達の教室はAクラスでは無くFクラスなのだから。
「では、最初にクラス代表を紹介したい所ですが、ーーーは所用でーーー呼ばれていーーーますので…」
次第に遠くなる高橋先生の声を後に俺達はその場を後にした。
「オイオイ、何の冗談よコレ…」
割れた窓ガラス…腐った木枠…末付いた匂い…傾いたボロボロの2ーFの木札…
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酷いッ!!コイツは予想以上に酷い過ぎるッ!!まるで廃墟だッ!!
何てこった!!俺の人生哲学が粉々にぶっ壊れそうだッ!!
見ると明久が真っ白だッ!!希望が尽きて命が終わる瞬間みてえな顔してやがるッ!!
イカンイカンッ!!俺が此処でへこたれてどうすんだッ!!思い出せッ!!俺の人生哲学を思い出せ!!
「よ、予想以上に酷えな…でも言ったろ!場所が何処だろうが関係無え。大事なのは『 自分がどう生きるか』ってよ!」
「う、うん…丈也も言ってたもんね…此処はバカばっかりの天国だって…」
良かった…何とか持ち直してくれたみたいだ…
そうだ、例え場所が何処だろうと関係無え。
この扉の先には、これから先俺達が生活を共にする仲間達が待って居るんだ。そいつらは一緒にバカやって過ごせる、素晴らしい仲間達なんだ。
「行くぜ!」
「うん!」
気持ちを新たに俺達は勢い良く教室の扉を開けた。
「「すいません、ちょっと遅れちゃいました♪」」
「早く座れ、ウジ虫共。」
「ドラァッ!!!!」
「ウゴォッ!!」
教卓に立つ男の脇腹に渾身の力とスピードでボディーブローを叩き込んだ。
どれ、綺麗に決まった様だ。
同時に俺の人生哲学は音を立てて崩壊した。