この親子に祝福を!   作:よしどら

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この親子にお金を!

「…お父様」

「…なんだ?」

「私わかってましたよ。異世界に行く前に準備しないとどうなるか。ちゃんと準備せずに他の街に言ったら、こうなるんですよ」

 

かなり怒っているアイがこっちを見て恨むような声を上げる。

それを聞きながら俺は冷や汗を隠しつつ、周囲をじっと見つめ…そして小さくため息を吐いた。

今、俺らは少し……いや、かなりやばかった。

それは何故かと言うと…

 

「お金…どうすっかなぁ」

「本当ですよ!どうするんですかこれから!」

 

…数時間前、折角生活をするんだから仕事をしようと考え、周りの人にいい仕事はないか?と聞いてみたのだが…

 

『冒険者になるといい、パーティーを組めば死ぬ事は殆どないだろう』

 

と言ってたので、なら取りあえず冒険者にでもなりに行くかと二人で納得し…気ままに道に迷いながら…アイに道に迷って怒られたが…ギルドに辿り着いて冒険者になるためにお金が必要だと知って今に至る。

 

「…はぁ。こんなお父様が役に立たない糞野郎だとは思いませんでした」

「実の父親に厳しすぎないか?」

「当たり前でしょう!どうするんです!?このままじゃ私達飢え死にしますよ!」

「別に死ねば元気一杯だろう」

「死んだからこの世界に居るんじゃないですか馬鹿馬鹿馬鹿!」

 

ギルド内でアイと話して居ると、遠くの方から一人の男が寄って来た。

大方この酒場で飲んだくれていた酔っ払いだろうし、アイを狙っているのかと思って俺はアイを庇う位置に気付かれない様に移動する。

それを見た男は小さくため息を吐いてから両手を上げ、ゆっくりと口を開いて喋り始めた。

 

「落ち着け、娘さんに手は出さないよ…それより、冒険者になろうとしているんだろう?金を貸そうか?」

「いいのか?俺が返さないかもしれないぞ?」

 

至極真っ当な一言にそれもそうだなと小さく相手が笑い始める。

それを見たアイがお父様!と小声で言ってから俺の背中を全力で叩いた。

…思わず口に血が上りそうになり、俺は振り向いてアイの方を見つめ…顔を逸らしたアイを見て俺は青筋を立てる。

 

「ハハハ。面白い家族じゃねぇか!別に返さなくてもいいぞ?娘さんと一緒に暮らすんだから、少しでも足しにしとけよ」

 

そう言って渡された袋には一万二千エリスが入っている。

流石に多いだろうと思ったアイが袋毎返そうとした時には、もう男の姿は見えなかった。

それを見たアイがどうしますか?と言った様な表情でこちらを見つめるが、俺は気にせず袋を持って受付と呼ばれる場所に向かう。

 

「こんにちは!どのようなご用件ですか?」

「冒険者になりに来た、こいつ…いや、アイと一緒にな」

「へ?娘さんも…ですか?流石に危ないんじゃあ…」

 

その言葉を聞いてやっぱりそうですよね!か弱いですよね!みたいな顔で受付を見つめているアイを見ながら、俺は笑いながらアイが何処まで強いかを喋り出す。

 

「大丈夫だ。こいつはスコップの一振りでゴロツキの二人を弾き飛ばし、銃弾を見てから回避できる。そして力はゴリラ並…み゛ぃ゛!?」

 

アイに全力で足を踏まれた。爪が割れてすごく痛む。

思わず睨むと、アイは明後日の方向を向きながら口笛を吹いている。

それを見た受付が笑い出し、俺は睨み付けるが気にせずに口を開き始めた。

 

「ははは…取りあえず御二人様登録ですね、二千エリスとなります!」

 

痛む爪をどうしようと考えながら二千エリスを支払い、俺とアイは機械の前に行って測定する。

 

「は?はぁぁぁ!?幸運がめっちゃ高いんですけど!?

攻撃力と魔力も少し高いですし知力が凄く高いです!と言うか耐久力と体力が人間やめてるんですが?」

 

俺は元々アルビノだったから体力は無かった気がするんだが…異能の影響だろうか?

まぁあるに越した事はないし、アイを守る為なら良いだろう。

 

「…へぇ、それで、どんな職に就けるんだ?」

「職なら…『はぁぁ!?』ん?娘さんのステータスも凄そうですね」

「…そうか、じゃあアイが職を決めてから俺も決めるか…」

 

そう言ってアイの方に行くと…先程の声に驚いたアイと、ステータスに驚いた受付の声が聞こえた。

アイが思わず耳を塞ぎながら頬を膨らませているが、受付は気にせずに喋り続ける。

 

「ううぅ…耳が…」

「凄いです!筋力と魔力が普通に人間やめてて、知能が年相応なのを除けば他も十分凄いです!これなら殆どの職に…あれ?これは」

「どうかしたのですか?」

 

アイの耳が治ったのか、ゆっくりと背伸びをして上の方を見ようとする。

…それを見た俺はアイを抱きかかえ、上の説明文を一緒に覗き込んだ。

 

「珍しい職業があったもので…墓守と言うのですが…」

『!』

「一人しかなった事がなく、情報がなくて…」

 

そのセリフを聞いて俺はアイを見てから小声で言った。

 

「嫌なら、ならなくていいと」

 

アイは俺を見て、俺と同じように小声で言った。

 

「私は、この世界でも墓守で居たいです。あの丘で、墓守になると決めましたから」

 

…それにと、アイは何かを小さく呟いてから…自分の心臓に手を当てて目を逸らした。

それを見て俺は何かを言おうと思ったが…アイの最期を見た訳でもないのだから。

……本当に、使えない父親だ。

 

「私は…墓守になりたいです!」

 

アイは…正直で嘘つきだ。そして、すると決めた事は絶対に曲げないのだろう。

…それなら、危ない時は助けてやろう。

仲間(ハンプニー・ハンバート)として、(キヅナ・アスティン)として。

 

「…前衛の職業はないか?なるべくアイを守れるのを」

「お父様!」

 

輝くような笑顔でこちらを見ているアイ。

小声で自分の意志を伝えたが、少し不安だったのだろう。

そんな事を考えながら、俺は小さく微笑みながら受付の方を見つめた。

 

「…そうですね。それならルーンナイトはどうですか?防御力はそれこそルーンナイトに劣りますが、ルーンを使った妨害力は他のクラスを凌ぎます」

「……成程な。因みにそのルーンの使い方は?」

「スキルポイントを使って覚えて貰う形になります。詳しくはそちらのパンフレットをご覧ください」

 

その言葉を聞いて俺達は頷いた。

そしてこのカードを受け取った瞬間…俺はルーンナイトに、アイは墓守になった。

…貰った冒険者カードを貰い、ルーンと書かれたスキルを適当に全部手に入れながらアイの方を見つめた。

 

「……墓守。私が…もう一度……」

 

何かに押しつぶされそうな表情でカードを見つめるアイを見て、俺は髪の毛を掻きながら…アイの額にデコピンを行う。

 

「いっ!?何するんですか?!」

「アイ」

 

俺の真剣な表情を見て、アイが小さく震え始める。

…それを見て俺はとある結論が浮かび上がったが、それを口にする事はしない。

 

「辛かったら言えよ。幸いこの世界は職業を変える事も出来るんだ。そうだろう?」

「はい!アイさんの能力なら他の職業も沢山ありますよ!アーク系の職業とか沢山ありますからね!」

「……ぁ」

 

受付の言葉を聞いて、何かを思い出した様な表情を浮かべるアイを見ながら…俺も口を開く。

 

「もしお前がこの世界でも夢を追うならそれでも良い。だが一つだけ言っておくぞ。アイ」

「……何ですか」

 

アイが辛そうな表情を浮かべたまま俺の方を見つめるのを見て、少しだけ笑いながらアイの頭を優しく撫でる。

…前なら子ども扱いしないで下さいなんて言いながら鬱陶しそうに手を跳ねのけたアイを思い出しつつ…

 

「俺は家族旅行をする為にアイを連れてきたんだ。世界を救いたいとか、彼氏と性行為したいとかの願いは戻ってからやれ」

「…なぁ!?折角私が悩んでるのにそんな言い草ないでしょう!?お父様の馬鹿!アホ!ゾウリムシ!」

 

俺の一言を聞いて、アイは怒って俺の背中に蹴りを入れる。

…そんな怒り顔を見ながら、父親らしいことを出来た気がして…俺は思わず笑みを浮かべた。

 

「ほら。そんな元気があるならカエルを殺しに行くぞ!もし着いてこないなら死体を放置するからな!」

「なっ!?何を言うんですか!ちゃんと埋めに行くんですから待ってくださいね!」

「…へ?カエルはギルドに持ってきてくれれば大丈夫ですよ?」

「作戦変更だアイ!カエルをどっちが多く倒せるか勝負だ!」

 

困った様な、けれど少しだけ楽しそうに頷いたアイを見ながら…俺達は外を駆け出した。

アイ以外に為ったという墓守の事を、今だけは必死に考えない様に。


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