禁魂。   作:カイバーマン。

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第四十八訓 七と八

 

志村新八はかぶき町に住んでるとかこのご時世に剣術を学ぶ道場を経営している実家を持ってる事とかメガネを掛けてるぐらいしか特徴のない平凡な高校生だ。

 

実家が実家なだけあって剣術はそこそこ出来るのだが天人や能力者がはこびるこの学園都市ではあまり意味を成さない。

 

こういう一見平凡なキャラクターが実は物凄い強い主人公だったりするのだが、残念ながら彼は物語の主人公でもないし物凄い強い設定や眠っている力も覚醒されない。

 

そして今日もまた、平凡な彼はこれまた平凡な夏休みで平凡な日常を満喫していた。

 

筈だったのだが

 

「あ、あのすみません……ぶつかってマジすみません……土下座でもなんでもしますんで見逃してくださいホント……」

「ああ!? 人の服汚しておいて謝罪だけで許してもらおうとかどんなゆとり教育受けてんですかテメェは!」

「こりゃあ俺達がキッチリ正しい教育を教えてやらねぇとな! とりあえず授業料として有り金と持ってるモン全て出せやゴラァ!!」

 

買い物の帰り道に偶然二人組のガタイのいいヤンキーにからまれ、ジメジメした路地裏に連れ込まれてしまった顔面蒼白の少年、志村新八は両膝を地面に着き震えていた。

 

(マズイ、マズいぞ! 今時こんなビーバップハイスクールみたいなヤンキーにカツアゲされてるなんて! 非常にマズイ! たたでさえ今日は僕が愛してやまない寺門通の待望のニューシングル「お前の妹ブックオフでBL読んでたぞ」を買ったばかりなのに!!)

 

新八の手に持つ袋の中には彼がファンとしている最近売り出し中のアイドル、寺門通のCDやらグッズが大量に入っている。

お金なんていくらでも払うがこれだけはなんとしても死守せねば……

 

「いやあのマジですんませんでした……有り金少ないですけど全部出しますんで……」

「テメェが持ってるその袋もよこせやコラァ!!」

「こ、これだけは勘弁して下さい!」

「ああ? 今テメェが置かれてる状況わかってんのか? テメェみたいなメガネに拒否権なんざねぇんだよ!!」

「ダ、ダメだ! 例えアンタ等に殺されようがこれだけは絶対に渡さない!!」

 

早速袋の方も目を付けられてしまい、新八は断固拒否して二人組の不良を睨み付ける。

 

「侍は大切なモノを護り貫く! コレの為なら僕は侍でもなんでもなって見せる!!」

「おいおい聞いたかよ、今どき侍だとよ」

「とっくに絶滅しちまったモンにどうなれっていうんだよ、仮に侍になれたとしても」

 

不良の一人が懐からチャキっとあるモノを取り出す。

 

「最新科学の整ったこの学園都市でどうやって護るってんだよ」

(ピ、ピストル!? まさかコイツ等こんなものまで所持していたなんて!)

 

得意げに取り出したのは真っ黒な拳銃。そんなに大きいモノではないが、放たれる鉛弾は人間に殺傷を与えるには十分な代物だ。

 

そんなものを突き付けられて怯えない訳がない。

ヤバい、マジで死ぬかも……震えながら新八が内心呟いていたその時

 

「おいおいおいおい! 根性ってモンが足りねぇな兄ちゃん達! そんなんじゃ誰も満足出来ねぇぜ!!」

 

唐突に響いたバカみたいに大きな声

そっちを見ると路地裏の出入り口に仁王立ちする一つの影

拳銃を持った不良の一人はそれを見てしばし黙った後、ドパン!!っと人影の正体がわからない内に脳天の向けて発砲した。

 

「あうち!」

 

最期の言葉としてはあまりにも情けない悲鳴を上げると人影は後ろにばったりと倒れる。

拳銃を撃った少年はそれを見て不敵に笑って見せる。

 

だが

 

「いてぇじゃねぇかコンチクショォォォォォ!!!」

「「「!!!」」」

 

撃たれた直後にすぐにガバッと起きる人影、わずか三秒足らずの間の出来事である。

眉間に直撃したはずなのにどうして……不良二人と新八の疑問をよそにその人影はズンズンとこちらに歩み寄って来る。

 

「名乗る前に撃つ事はねぇだろ、特撮ヒーローが変身する前に怪人が攻撃する事なんてあるか? テメェ等そんなお約束も守れねぇって事はやっぱ根性が足りねぇな、あるいは我慢か?」

「な、なんで死なねぇんだテメェ!」

「強いて言うなら……」

 

シルエットしか見えなかった人影が次第に三人にくっきり姿を現した。

 

「俺が7番目のレベル5、ナンバーセブンの削板軍覇≪そぎいたぐんは≫だからだ! だがんな事よりも、今大事なのはテメェ等の根性を叩き直してやる事が先だぁぁぁぁぁ!!!」

 

両手を大きく広げ、背中を弓の様に反らし、天に向かって吠える様に宣言するおかしな男、削板。そんな彼に不良達は一瞬怯むも自分達が持っている得物を思い出し

 

「7番目のレベル5ってことは7位って事か?」

「一番弱いレベル5だってんなら銃を持った無能力者の俺達でも……」

「ノー!! だからレベル5だとか七番目だとかそんなのはいいんだよ! 大切なのは俺が根性でお前等を鍛え直す! それだけだ!! シンプルに物事の優先順位を考えろ! 俺はシンプルが一番好きなんだ!!」

「何を訳わからねぇ事を……!」

 

勝手な持論を持ち出して話を進め出す削板に拳銃を持ってる方の不良がもう一度彼に向かって銃口を向けたその時。

 

「か、め、は、め……!!」

「え、ちょ、何その構え……どっかで見たような……」

こちらに向かって腰を落として手首を合わせた状態で、何か呟きだす削板。

不良は一瞬その姿に戸惑いを見せるが次の瞬間

 

「波ァァァァァァァァァ!!!」

「ちょげぶッ!」

 

削板が両手を突き出して叫ぶと同時に、手の平から波動を帯びた巨大な衝撃波が丸みを帯びて放たれたではないか。

拳銃を持った不良は突然の出来事になす術なくまともに食らいそのまま豪快に後ろぶっ飛ばされる。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!! テ、テメェその能力、いやその必殺技は一体……!」

「10連……!」

「!」

 

相方を遥か彼方までぶっ飛ばされもう一人の方が慌てて削板に言い寄ろうとするが

 

彼の攻撃はまだ終わっていなかった。今度は右腕を構えて力強く地面を蹴ると

 

「釘パンチィ!!」

「ぶるぅへッ!!」

 

放たれた拳をモロに腹に食らい、不良が痛みで呻く前に何度も同じ衝撃が彼の身体を駆け巡り、そのまま先程ぶっ飛ばされた相方の方と同じように飛んで行ってしまった。

 

残された新八は目の前で行われた超展開の数々にしばし呆然するがすぐに我に返り

 

「あ! す、すみません助けてくれて! このお礼はいつか必ず……!」

「霊!!」

「いやあの、何やってんですか……僕を助けに来てくれたんですよね。なんで僕に向かって両手でさっきのピストルみたいに構えて……」

 

新八がお礼を言っているのも聞かずに削板は

先程のヤンキーの様に拳銃を構えたポーズを取って

「丸!!!」

「びぶるちッ!!!」

 

指の先から飛び出した霊力を帯びた弾丸が新八の腹部に直撃、そのまま白目を剥いてガクッと気絶。

 

「あ」

 

倒れた新八を見て削板はやっと気付く

 

「間違えた」

 

 

 

 

 

 

そして数十分後

 

「……」

「いやー悪かった、ついシンプルに「とりあえず全部ぶっ飛ばすか、ドン!」ってな感じでお前までぶっ飛ばしちまって」

 

削板に物の弾みでぶっ飛ばされてしまった新八はなぜか彼と共に街中を歩いている。

彼にぶっ飛ばされた後に彼に介抱されるという何ともおかしな体験にあったのだ。

まだ納得できない様子だが、新八は大人の対応で彼を許す事にする。

 

「いや一応チンピラ共から助けてくれたからは感謝してるけど、なんなのアレ? レベル5の第七位って言ってたけどどんな能力なの?」

「さあな、よくわかんねぇ」

「わかんないの!? 自分の能力なのに!?」

 

あっけらかんとした感じで自分の能力の事をよくわからないと言ってのける削板に新八は驚く。確かにあんな訳の分からない現象をどう説明すればいいかわからないと思うが、さすがに本人なら把握して能力を使ってると思っていたのだが

 

「とりあえず根性でぶつかればなんでも出せる能力だと俺は適当に解釈している」

「いや適当過ぎだろ! もうちょっと自分の能力解明しろよそこは!」

「最近の目標はスタンド出す事だな、あと北斗神拳の習得」

「なんでそんな頑なにジャンプの主人公の技を会得しようとすんだよ!」

 

自信満々に胸を張って目標を掲げる削板に新八がすかさずツッコミを入れると

 

「きゃー! ひったくりよー!」

 

背後から聞こえる女性の声と後から続くバイク音。

振り返ると左手に女性用のバッグを持ったバイクが新八と削板の方向に猛スピードで走って来る。

 

「ひったくりだと根性がねぇな全く! よーし!」

「え、まさかまた……」

 

新八が不安に思うのをよそに削板は大きく息を吸い込むと口を開けて

 

「んちゃ砲ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「んちゃ砲じゃねぇよ!! どんだけジャンプキャラクターの技パクれば気が済むんだお前は!!」

 

口から放たれた巨大な波動砲がひったくり犯が乗ったバイクに直撃

その激しい衝撃にバイクと犯人は宙を舞い、マンション3階ぐらいの所に到達した時に真っ逆さまに落ちてグシャリと嫌な音を立てた。

 

「うし、なんとかなった」

「なってねぇよ!」

 

一仕事終えたかのように満足げに笑う削板の後頭部を新八がぶっ叩く。

 

「どう見ても事件が一つ増えてんじゃねぇか! 死んでない!? 死んでないよねアレ!?」

「でぇじょうぶだ、ドラゴンボールがあればみんな生き返る」

「ドラゴンボールなんてねぇよ!」

 

まだピクピク動いてる所からして犯人は一応まだ死んではいないだろう。

しかしこれまたとんでもないデタラメな能力である。

新八がそう思っていると背後からタッタッとこちらに向かって駆けてくる足音が

 

「私のお気に入りのバッグごとなにしとんじゃいゴラァァァァァ!!!」

「せんべッ!!」

「あ、姉上ぇ!!」

 

怒りの雄叫びと共に削板の脳天を拳で殴り下ろしたのは。

新八の姉でありかぶき町のキャバ嬢として働いている志村妙であった。

 

「さっきひったくりに遭ったのって姉上だったんですか!?」

「あら新ちゃん、こんな街中で合うなんて偶然ね。丁度いいわ、今私のバッグをおしゃかにしたこの大罪人から持ってるモン全部奪うから手伝ってちょうだい」

「発想が山賊並だよ! 身ぐるみ全部剥がす気満々だよ!!」

 

不意打ちとはいえレベル5に一撃与え、その上身ぐるみまで剥がそうとする彼女に新八が戦慄していると、頭を押さえながら削板がゆっくりと起き上がる。

 

「いててて……いい根性が入った拳だ……お前の姉ちゃん無茶苦茶強ぇな、人間の皮被ったゴリラなんじゃねぇのか?」

「人の姉をゴリラにすんじゃねぇよ! ちゃんと人間だよ! 多分!」

「ちょっとあなた、私のバッグをぶっ飛ばした件についてちょっと話があるんだけど」

 

起き上がりながら失礼な事を言う削板にお妙が拳をポキポキ鳴らしながら笑顔を浮かべる。

 

「ちょっとウチの道場に来てもらおうかしら」

「その言い方止めて下さい! ウチの家がそういうヤバい類の事務所だと思われますから!!」

「ああいいぜ、ヒマしてたから」

「こっちはこっちで軽いなオイ!」

 

かくして削板は合意の上でかぶき町にある志村家に連れてかれる事になった。

 

 

 

 

 

そしてしばしの時間を置いて削板はかぶき町の志村兄弟が営んでいる道場に足を運んでいた。

 

「お前の家道場だったのか、この学園都市で剣術学ぶ奴なんていねぇのにいい根性してんなーおい」

「いやいや、今はもう門下も全員いなくなってあるだけのようなモンだから」

 

早速稽古場にやってきた削板はだだっ広い空間を回りながら見学している。確かにこんな場所は今の時代では珍しいモノであろう。

 

「なのに姉上は死んだ父上の道場の復興をまだ目指してるんだ、今時剣を学ぶヒマがあったら能力を鍛えた方がよっぽど効果的だっていうのに」

「そうなのか、まあ俺は嫌いじゃねぇけどなそういうの、やっぱいい根性してるなお前の姉ちゃん」

「ただの頑固モンなだけだよ、父上譲りの」

 

ウンザリしたように新八がそう言っていると、お妙がお盆にお茶を乗せてやってきた。

 

「またそんな事言ってそれでもあなたはこの道場の跡取り息子なの?」

「跡を継ぐにももう道場自体ないじゃないですか……姉上も諦めて下さいよいい加減」

「大丈夫よ新ちゃん、道場を復興させるならまずはお金が必要、だから」

 

お盆を下に置くとお妙はニッコリ笑って削板に

 

「道場復活の為にお金を出しなさい。それでバッグの件はチャラにしてあげます」

「オイィィィィィィ!! 明らかにバッグより高くつきますよねそれ! 新手の恐喝ですか姉上! そこまでして金が欲しいのかアンタは!」

「金じゃありません誠意の問題です」

「バッグを餌にして道場の建て替えせびってる時点で誠意もクソもねぇよ!」

 

我が姉ながら末恐ろしいと新八は感じているが、削板の方は小指で耳をほじりながら

 

「金か? 仕方ねぇコイツも縁だ、俺も道場の建て替えに手を貸すぜ、ほれ」

「え?」

「俺の貯金通帳だ、こっから好きなだけ下ろしていいぜ、根性の赴く前に」

「いやもう無理矢理根性混ぜなくていいから、てか通帳なんてなんで自然に持ち歩いて……ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

あっさりと貯金通帳を手渡してきた削板に困惑しながらも新八をそれを手に取るとカッと目を見開き

 

「なんだコレぇ! こんな金額今まで見た事無いよ! 末代まで遊んで暮らせるぐらい金持ってるよこの人!!」

「レベル5になると実験とか奨学金すげんだよなコレ。俺はあんま金使わねぇから余計に貯まってんだ」

「いやだからって……ムリムリムリ!! こんだけ金あったら逆に怖い! 道場どころかお城建てれちゃう金額だよコレ!!」

 

レベル5になるとここまでとんでもない額が貰えるのかと新八は開いた口が塞がらない。

ムリも無い、同じレベル5でも家賃滞納するぐらい貧困な生活している知り合いがいるのだから。

 

「マジぱねぇよレベル5!! 見て下さい姉上! そして知って下さい! あの万年金欠がこれ程の金額を貰えるチャンスをドブに捨ててる事に!!」

「まあ凄い、じゃあ私は天守閣に部屋を作ってもらおうかしら」

「勝手に城を造る過程で部屋決めしないで下さい! 志村城は建設しませんから!」

 

削板の通帳を見て俄然金を求めようとするがめついお妙にツッコミを入れた後、新八は困り顔でそれを持ち主に返す。

 

「さすがにコレは返すよ、こっから好きなだけ下ろしていいって言われたらなにか欲望のままに堕ちてしまいそうな気がするから」

「そうか、けどそれじゃあ俺はお前の姉ちゃんに示しつけれねぇぞ」

 

律儀にお妙に何らかのお返しをしようとする削板に、本人であるお妙は妙案を思いついたかのように両手でパンと鳴らす。

 

「それじゃあウチの道場の門下に入ってもらおうかしら」

「え! 何言ってんですか姉上! こんな潰れた道場に門下生を入れるつもりですか! しかもレベル5の第七位を!!」

「それでいいなら構わねぇよ」

「いやだからなんでそんなあっさり承諾するんだよアンタは!!」

 

あまり物事を深く考えないタイプなのかさっきからすぐに返事する削板。

こればっかりはさすがにと新八も止めに入った。

 

「こんなハリボテみたいな道場の門下に入る事ないって、姉上には僕が言っとくからこんな話受けなくていいからさ」

「おいおい男が決めた事に二言はねぇぜ。俺は頭の中でそうだと思ったらその本能に従う、今までそうして生きてきたのさ」

 

止めさせようとする新八に削板はドンと胸を張って誇らしく宣言する。

 

「何より侍のいなくなったこの国に剣術を学ばせるっていう心意気が気に入った、是非入れてくれ姉ちゃん、今日から俺はここの門下生だ」

「んな無茶苦茶な……」

「当の本人が言ってるんだからつべこべ言わないの、それでも侍ですか?」

 

キッパリとそう宣言する彼の表情がどこか清々しく見えた。新八は内心不安になるがお妙の方は呑気に彼の門下生入りを歓迎する

 

「改めてようこそ我が恒道館道場へ、名前なんでしたっけ?」

「名前も知らない相手を門下にしようとしてたよこの人……」

「俺の名前は削板軍覇だ、で? アンタ等の名前は?」

「こっちもこっちで僕等の名前すら知らないで門下に入っちゃったよ! 僕の名前は志村新八です!!」

「志村妙です」

 

互いに自己紹介を終えると「そうだわ」と妙がまた名案を思いついたかのように両手を叩いて

 

「せっかくだから力を見極める為に削板くんには打ち合い稽古してもらうかしら」

「え……姉上?」

「新ちゃん、ちょっと削板くんの相手してくれない?」

「……マジで言ってんですか? レベル5の第七位とやり合えと?」

 

お妙は知らないだろうが新八は彼の強さというのをしっかりと目で見ていた。

とてもじゃないがあんなデタラメな相手とまともにやり合える自信ない。

ここは逃げ出してでも断ろうとする新八だが

 

「俺はそれで構わねぇ、この木刀で打ち合えばいいんだろ」

 

削板の方はやる気十分で壁に掛けてあった木刀を一本手に取る。

 

「こっちは得物なんざ握った事もねぇ素人だ、お手柔らかにな新八先生よ」

「……」

 

得物を使う経験が無いのであれば、父の下で剣術を長年学んでいた新八の方が遥かに有利であろう。

しかし

 

「……じゃあ庭でやりましょうか、また家壊れるかもしれないんで」

 

そんな常識がレベル5に、ましてやこの男に通じるとは新八は到底思えなかった。

 

 

 

 

新八と削板はお妙と共に打ち合い稽古の為に庭にやって来た。

二人で打ち合うなら広すぎるぐらいの庭を見渡しながら削板は手に持った木刀を肩に掛ける。

 

「よーし根性出して行こー!」

「姉上、僕今日死ぬかもしれません」

「そうね、私も死ぬ程嬉しいわ。ウチの道場に門下生が入ってくれるなんて、お父上がいたらさぞ喜んでくれたでしょうね」

「姉上そういう意味じゃありません、その門下生が僕が死ぬかもしれない原因なんです」

 

同じく木刀を手に持ちながらも目が死んでいる新八は遠まわしに姉にSOSを出すが全く違う解釈をしていた。

 

「それでは打ち合い稽古を始めます、両者礼をして構え」

「おねがいしまぁぁぁぁぁす!!! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ええいもう仕方ない! そうだ剣なら僕の方が上だ! 剣でなら!」

 

互いに向き合って木刀を構える削板と新八。

削板は戦う事に燃え、新八はややヤケクソ気味に対峙する。

 

「始め!」

 

お妙の発声と共に二人の打ち合い稽古が始まる。

 

そして

 

「月牙!!」

 

木刀を後ろに大きく振り被ると、削板は叫びながら薙ぎ払う様に木刀を振るう。

 

「天衝!!!」

 

漆黒の三日月状に構成された斬撃が

 

庭の地面を激しく抉りながら新八から真横に数十センチ離れた所を通過していった。

 

硬直して動けなかった新八の背後でドーン!と何かがぶつかる激しい音が。恐らく先程の攻撃が壁を破壊したのであろう。

 

「……」

「あーくっそー、やっぱ得物使うの初めてだから外しちまった、根性が足りてねぇな。よーし今度こそちゃんと当てれるようイメージして」

「どんだけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

悔しそうにする削板だが、新八は声を荒げて叫ぶ。

 

「ホントどういう原理なのその能力! どんだけジャンプに影響された能力だ! 僕の数年に渡る剣術の教えはなんだったの!? 剣を握って数分の男に遥か先に追い越されちゃったよ!!」

「さあ見せてみろテメェの卍解を!!」

「出来る訳ねぇだろ! お前と一緒にするな!!」

 

すると新八はツッコミを入れながら削板に向かって走る。

突っ込んでくる彼に削板は再び木刀を構えて

 

「月牙天衝!!」

「いい加減にしろコラァァァァァァ!!!」

「!」

 

漆黒の斬撃が再び新八目掛けて襲い掛かる。しかし新八はなんと身体をのけ反らしてそれを僅か数センチの隙間しか開いてない状態でギリギリ避ける。

 

「何回も何回もよそ様の作品の技を我が物で使いやがって!」

「んちゃ砲ぉぉぉぉぉぉ!!!」

「せめて刀使えやボケェェェェェェ!!」

「なに!」

 

削板が口から放った波動砲を、新八は両手に木刀を握って真正面から突っ込み。叫びながら真っ二つに叩きわる。

これには削板も驚いたように目を開く。

 

「おいおいマジかよ、こりゃあもしかしたら……かめかめ波ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「かめはめ波だろうが! 悟天みたいな間違いすなぁ!!」

 

気合のこもった削板の一撃を新八はまたとしても木刀で薙ぎ払う。

そして二人の間が木刀が届く範囲に入った時……

 

「飛天御剣流!!」

「だ~か~ら~!!」

 

咄嗟に居合いの構えを取って迎撃態勢に入る削板に新八は声高々に叫びながら

 

「龍つい……ごはぁッ!」

「原作者からちゃんと許可取ってから使えやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

両手に持った木刀を力いっぱい振り下ろし、カウンター技を仕掛けようとしていた削板をそのカウンター事叩き潰したのである。

 

「1本」

 

立会人であった妙がそう言って新八の方の手を上げると

 

削板はガクリと両膝から突いて倒れた。

 

「参ったぜ完敗だ……」

「は! なんかツッコミまくってたら軍覇君が倒れてる! なんで!?」

 

倒れた削板を見て新八は突然オロオロとうろたえる。

まるで今気づいたかのように辺りを見渡し始めた。

そんな彼の下にお妙が嬉しそうに駆け寄って

 

「凄い動きだったわよ新ちゃん! まさか口では道場なんて無理と言っておきながら私が見てない隙に侍としてキッチリと修行していたなんて!」

「い、いや僕そんな事してませんし……ただいつものクセでツッコミを入れてたらいつの間にか……」

「うおー気がつかなかったぜ新八! 全く俺も全然ダメだー!」

 

うろたえている新八に削板が負けたにも関わらずどこか嬉しそうだった。

 

「そのツッコミこそがお前の一番の武器だったとは!」

「ツッコミが武器ってどういう事!? こんなの僕いつも使ってますけど! 武器振り回しまくってますよ!」

「きっとこいつはお前の能力だぜ! 今まさに俺との戦いで開眼したんだ!!」

「ぼ、僕の能力ぅ!?」

 

一撃食らったとはいえさすがは削板、ケロッとした表情で新八に説明してあげる。

 

「ああ、お前はこの俺に対してツッコんでやろうという思いだけでこっちに突っ込んで来やがった。結果俺の新技である月牙天衝や、十八番であるんちゃ砲やかめはめ波をお前はただの木刀で簡単に処理しちまった」

「十八番とか言ってもオリジナルはアンタじゃないからね、鳥山先生のモンだからね」

「シンプルに言うとアレだ! お前の能力は「相手が誰であろうが能力そのものであろうがツッコミを入れる事が出来る」だな!」

「なんかすっげぇバカみたいな能力になってっけどぉ!?」

 

というかそれはそもそも能力なのか? 疑問に思う新八をよそに削板は興奮したように

 

「研究所に行けばいい研究対象になると思うぜ、なにせ未だに解明されていない俺の能力を正面からたた斬ったこれまた未知なる能力だからな!」

「いや誰にでもツッコめる能力なんて何の役に立つっていうの、むしろ恥ずかし過ぎて人前に言えないんだけど……」 

 

いきなり原理不明の能力を習得した事に新八は困惑の色を浮かべる。

しかしお妙の方はなるほどとわかった様子で頷いて

 

「研究依頼を受ければ削板くんみたいに巨額の援助金が私達の懐に入る。つまり新ちゃんのツッコミがこの道場を救う事になるのね」

「なんでだー! ツッコミで成り立つ道場なんて道場としてダメだろ! さっさと潰れろ!」

「これは千載一遇のチャンスよ、新ちゃんがあのレベル5になれば私達の悲願が達成できるんだわ!」

「ツッコミでレベル5になりたくねぇよ! そんなんでなったら他のレベル5の方達に申し訳ないんですけど!? 一人明らか浮く事になるんですけど!」

 

当人を置いて勝手に話を進めて盛り上がるお妙、新八が嫌がっていると削板が近づき

 

「つう事でもう一度勝負だ新八、俺にお前のツッコミを全力でやってみろ! それがお前の能力解明の一歩だ!」

「いやもう解明しなくていい! こんな能力者なりたくないから!」

「根性見せてみろよ! 姉ちゃんの期待に応える為に頑張ってみろよ!」

 

頑なに拒もうとする新八に削板はバンと両肩に手を置いて

 

「とりあえず俺が最近編み出した元気玉って技を食らってくれ!! でぇじょうぶだ! 根性あれば生き返る!!」

「いや生き返るかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なめくッ!!」

 

新八のアッパーカット交じりのツッコミが削板の顎を捕らえ上空に飛ばした。

 

志村新八

 

後にレベル5の第八位として君臨し

第七位の削板軍覇と同じく正体不明の能力を使う謎のツッコミ使いとして成長するのはまだ先の話である。

 

 

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