田舎青春物語   作:目覚まし楽器

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第一話・転校生!

アタシの名前は清唯 苺児(きよい いちこ)、花の中学1年生!大工の親父の仕事の都合で、ど田舎に転校する事になっちまったんだ。だけど転校なんか慣れっこだ。なんせ小学生の頃から6回も転校してんだからな。慣れない土地、見知らぬ人、だけど全てが新鮮で嫌なことばっかじゃあない。さあて、今度の学校はいったいどんな学校なんだろうなッ。

 

 

第一話 転校生!

 

 

朝、アタシは早速新しい学校に来た。見知らぬ生徒を見るよーな視線なんかいちいち気にしてちゃ身が持たない。校門突破して、下駄箱を突破。取り敢えずは職員室に行って、先生に挨拶からだ。勿論、挨拶はデッカイ声じゃないとな。

 

イチコ『おはようございます、転校生のキヨイイチコです!』

 

アタシの声を耳にした教師達はなんだか不機嫌そうにしている。その中からオバちゃんが一人近づいてきた。多分、この人がアタシの担任なんだろう。見た目は並で、うーんちょっと面倒そうなタイプだ。こう見えて、アタシの女の人を見る目は確かなんだぜ。

 

教師「あらまぁ、随分と大声なのねえ。おはようございます清唯苺児さん、待っていましたよ。私が貴女の担任になった乍枝 琴(ながらえだ こと)です。それじゃあ早速教室に向かいましょうか。」

イチコ『へへっ、挨拶は大きい方が気持ちいいってね♪』

 

ツンとすましたオバちゃ…いや、先生はヒールの音をコンコン響かせて先陣を切る。それに付いて行きながら、アタシは物珍しそうにきょろきょろ。そりゃそうだよな、全てが珍しいんだから。と、そろそろ教室かな?先生が扉を開け、部屋の中に入った。

 

乍枝先生「皆さん、転校生を紹介します。」

 

なんだ?最初からやけに教室が静かだぞ。普通なら先生が来る前まで好き勝手やってる筈なのに、ここの生徒はみいんな箱に詰まった饅頭みたいに綺麗に揃って、お静かにしていらっしゃるみたいだぜ。そんな空気は気にもせずに、アタシは勝手にチョークを手にして黒板に名前を書き殴る。勿論、デッカくだ。

 

イチコ『転校生のキヨイイチコ、宜しくな!以前は○×中学に居たんだけど、親父の仕事の都合でこっちに来たんだ。まだ色々解んない事だらけだから、そん時は快く教えてくれ!…ン?』

 

大声で自己紹介したつもりだが、皆シーンとしている。アタシを見る目もなんか硝子球みたいだ。困惑しているアタシの背中を、乍枝先生がセッカチに押し始める。自己紹介で授業が潰れたら面倒なのよってな顔してんぜ。

 

乍枝先生「貴女の席はあの空いてる席です。早く着席しなさい」

 

それを言い終えるや否や、黒板に書いたアタシの文字を面倒そうに掻き消した。しかしアタシはやっぱり気にせずに空いている席にどっかりと座り込む。窓際、一番後ろ、最高の席だな。そう思った時、隣に座っている女子と目が合った。

 

イチコ『宜しくー!』

女子「…」

 

何処かのゆるキャラみたいな女の子は、直ぐにアタシから視線を逸らし、授業に没頭し始めた。まあ、世の中は色々な世界があるってのをアタシは転校しまくって知ってるからそんなにゃー驚かないぜ?だけど、この学校…田舎田中学校はなんか妙に感じたんだ。だけどそんな違和感は、お昼のチャイムで吹っ飛んだぜ!

 

イチコ『メシメシっと!ここは学食もあるんだったな、中学校で食堂があるとか珍しいもんだ。なあ、そこのアンタ。アタシを学食まで案内してくんない?』

女子「…別に、…構わないけど…」

イチコ『さんきゅ☆お前、名前なんつーんだ?』

女子「え?…侭田 代(ままだ しろ)…」

 

中肉中背、お上品な制服の着こなしを見て解る。この子はお嬢様で、きっとアタシのような貧乏学生が苦手なタイプに違いない。だけど、頼まれたら嫌だとは言えない奴なんだろうな。そういう奴には根っからの悪い子はいねーんだぜ。

 

イチコ『なあ、このクラス静かだよなぁ』

シロ「別に普通じゃないかな…」

イチコ『そうかあ?まあ、シロ達からしてみりゃ、アタシの方が変な奴に見えて当然か!』

シロ「…」

 

相変わらずあんまり喋らないシロと一緒に歩き、ようやく食堂に辿り着く。おおっ、案外賑わってるじゃん!生徒達がバーゲンセールみたいに食い物の奪い合いをしてんぞ。いいぞ、もっとやれ!いや、でもアタシの分は残しておいてくれよな。

 

シロ「学食でパンやお弁当を買うよりも、お母さんに作って貰って持ってきた方がいいよ。いつも…あんな感じだから…」

イチコ『何言ってんだよ、こんな光景だからこそ俄然やる気が出るんじゃないか!へへっ、シロはどんなパン食いたいんだ?』

シロ「…え?」

イチコ『ここまで案内してくれたんだし、折角行くならお前の分も買ってやろっかなって。ほら、早く言わねーと売り切れちまうぞ』

シロ「……ん、じゃあプレミアムクリームパン…」

イチコ『よっしゃあ、突撃い!』

 

シロの言葉を聞き終える前に、アタシは人だかりに飛び込んだ。本気でパンを買おうとする生徒達とのもみ合いは、さっきみたいな教室とは一味も二味も違う。押されても揉まれてもみんな一生懸命だ。そんな奴等にだからこそ、アタシも負けられねえって気持ちになる。そしてやっとこさ到着だ。

 

おばちゃん「はいッ、プレミアムクリームパンと焼きそばパンだよ。おや…アンタ新顔だねぇ、良く頑張ってここまで来れたもんだ」

イチコ『今日転校してきたんだ!はいよオバちゃん、お釣りは要らないぜっ』

おばちゃん「丁度寄越しといて何言ってんだい。ほら、潰さないようにしっかり持ってお行き」

イチコ「さんきゅ!…っと!」

 

帰りも勿論人だかりがわんさかだ。アタシは手にしたパンの袋を上に掲げ、人ごみの中から飛び出した。さっきの場所から全然動いてないのか、シロの奴が唖然とした様子でアタシを見ている。

 

シロ「…本当に買ってきちゃった…」

イチコ『当然だろ?アタシはそんじょそこいらの奴とは根性が違うからね、えへへ。ほらよっとお前の分だ』

シロ「わ。…本当に貰ってもいいの?」

イチコ『ああ。さっさと空いた席座って食べようぜえ、もう腹が背中とくっ付いちまうよ~』

 

大袈裟じゃなく、本当に空腹なんだ。アタシはシロを強引に連れて行き、適当な席に腰を下ろすとさっき購入した焼きそばパンを食べようと口を大きく開いた。だけどその時、背後からガシャーンと物音が響いたんだ。

 

「おおっと、大切なパンが地面に落ちる所だったぜ!」

「そっ、それは僕が買って来たパン…」

「あぁん?何か俺に文句でもあんのか下級生~!?」

「…い、いえ…」

 

どうやらパンのカツアゲらしい。まあ、どうせ何処でもこういうイザコザは付き物だ。弱い奴はああやってパンを奪われちまうし、泣き寝入りしたらマークされてパシリの対象に選ばれるだけだ。…ってのになぁ。どうせなら戦った方がいいと思うんだけどね。

 

シロ「…上級生は、いつも私達にああなの。先生も、他の生徒も見て見ぬ振り、食堂側の人間はそれどころじゃないから返金とか新しいパンも貰えない」

 

だろうな、とアタシは思いながら騒動を横目にパンに齧りつく。おおっ、流石は食堂で生徒が戦うだけあって極上じゃん!ソースの味が普通じゃないぞコレ。こんなパンを上級生に奪われたら、アタシなら絶対に戦うのになーぁ。

 

シロ「だから…だから私は食堂のパンが嫌い。…こんな気持ちで食べるパンなんか、全然美味しくない」

 

折角買ったパンを口に付ける事もせずに、シロはその光景から目を逸らして震えていた。多分、シロも一度はパンを購入して上級生に奪われた経験があるんだろう。だけど逆らえなかった、そんな顔してやがった。

 

イチコ『…なる程ね。そいつはいけないよなぁ…』

 

口にパンを咥えたまま、アタシは席を立った。何をする気かとアタシを凝視するシロを無視して、アタシは真っ直ぐにパンをカツアゲする上級生に向かう。そいつが口を開いてそれを食べる瞬間、アタシはそれを素早く奪い取った。

 

「それでその女がよう、…もぐもぐ…、あれ?俺のパン…」

イチコ『最初からアンタのパンなんかなかったじゃない、違うの?』

 

普段、こんな光景なんかきっと知らずに過ごしているんだろうな。混雑した食堂が、シンと静まり返っている。やっとアタシが片手に持ったカツサンドに気付くと、上級生が驚きと怒りの入り混じった表情で迫ってきた。やる気か?

 

「おい、てめぇコラ!何のツモリだ、あぁん?」

イチコ『こういう事されるとさ、パンがまずくなるんだってさ。こんなに美味しいパンを作ってんのに、それを味わえないのってあんまりだと思わない?』

「なんだこのアマ、見慣れねぇ奴だな…そんな御託はどーでもいいんだよ。今すぐそのカツサンドを返しな。さもないと…」

 

周囲の生徒達がその場からざざざっと離れている。そう、喧嘩に巻き込まれてくないんだろう。だがその方がこっちは都合が良いんだよな、好き勝手に暴れられるんでね。という訳で、アタシはご挨拶の一発を奴の腹にどーんと食らわしてみる事にした。くりーんひっと!上級生の身体がくの字に曲がった。

 

「ぐおおおふっ!」

イチコ『お腹空いてんだろうから、パンチご馳走してあげたんだ。アンタみたいなのはこっちの方が美味しいんだろ?』

「てっ、てめええ…女だからって容赦しないからな!」

イチコ『上等だい、かかって来な!』

 

おっ始まった。アタシは何発か食らいながらも相手を追い詰めて行った。やっぱり喧嘩は楽しいな!命の火花がバチバチと散る感覚がたまんねえっ。奴のそこそこ速い右ストレートを屈んで回避すると、下からアッパーをお見舞いしてやった。だけどアタシはこの時、上級生グループが一斉に襲い掛かろうとしていた事を気が付けなかった。楽しいと周りが見えなくなる、悪い癖だよなぁ…。

 

イチコ『いいの一発貰っちゃったからね、この程度じゃ済まさな…ン?』

 

迂闊だった、背後から羽交い絞めにされてしまったみたいだ。だけどアタシは伊達に喧嘩慣れしちゃいない。締め上げられた腕を外そうと腕を引いて、っと……ん?なんだと?外れない?

 

「食堂で騒いでんじゃねえよ」

イチコ『な、なんだぁ?…くっそ、全っ然動かねえ…こら、離せ!』

 

暴れようとした矢先、ふっと拘束が解けてアタシは前のめりになる。このアタシの動きを止める奴が居るとは…振り向いてそいつを凝視した。こいつは違う、…何もかもさっきの上級生達とは格が違う、目を合わせただけでわかっちまった。うー、身体の底からジンと来やがる。

 

シロ「し、獅子男先輩っ。違うんです…この人は…」

獅子男「食堂は飯を食うところだ、それの何が違うっていうんだ。こんな所で喧嘩をおっ始める時点で、お前達二人はどっちも間違ってんだよ」

イチコ『…くっ…』

 

一斉に飛び掛ろうとした上級生の仲間達は黙って動きを止めていた。それに気付けずにアタシはただ自分の過ちを恥じていた。この男には二重の意味で助けられた訳だからな。…奴の言葉は正しい。アタシも楽しむ事ばかり考えて、とんだ馬鹿だった。

 

「くそ…獅子男!…さんが言うんなら今回は許してやる。だけど次はねえからな、このメスゴリラが!」

イチコ『メスゴ、…くうっ、ムカツクが我慢我慢…』

 

上級生一同はその場から忌々しそうに去った。片手に握り締めたパンの存在に気付くと、アタシはそれを取り敢えずさっきの同級生に返してやる。

 

イチコ『ほらよ、お前も男なら戦って食い物くらい守れよ。そんなんじゃ女が出来ても奪われちまうぞ。頑張りなっ』

「う、別に頼んじゃいねーっての!面倒事起こしやがって…俺はどうなっても知らないからなっ」

 

パンを取り返したのに嫌われちまったみたいだ。不満が胸にムカムカと溜まり始めるのが良く解る。だけど我慢だ。そしてアタシは屈辱的な羽交い絞めを繰り出したあの男の傍に歩み寄る。立派な体格してやがる…なんか格闘技齧ってんのか。

 

イチコ『あんた何者だ、人の喧嘩に水をさすだなんて粋な奴だね。』

獅子男「俺は獅子男 炎(ししお えん)、3年生だ。女は喧嘩なんてしねえで編み物でも編んでろよ」

イチコ『なにい?』

 

カッコ悪い喧嘩の止められ方されたんだ、しかもメスゴリラとか言われちまったし!アタシとしちゃこのままじゃ治まらないんだよ!って思って拳を握り締めた矢先、シロの奴が背後から警告を放った。

 

シロ「…や、止めた方がいい…だって、獅子男先輩は空手部の主将で全国大会出場してるから…」

イチコ『空手部の主将!?そうか、そんな凄い腕前なんだ。それを聞いちゃ益々止める訳にはいかないぜ』

シロ「へ?」

 

余程驚いたんだろうな、シロは素っ頓狂な声を出す。そんでもって、その後は呆れたような視線を向けてきた。多分、馬鹿だと思ったんだろうな。アタシだって同じ意見だ。だけどアタシはこの男に興味がある!

 

イチコ『食堂だから駄目なんだよな、なら場所変えようぜ』

 

すっかりやる気になっているアタシを見て獅子男は大きな溜息を付いた。だが、奴もアタシと同類の喧嘩好きなんだろう。言ったら止まれないのは解っている筈なんだ。男は胸に組んだ太い腕を下ろし、歩き始めた。

 

獅子男「いいだろう。付いて来い」

 

アタシは奴に続く。シロも来るのかと思って振り向けば、他にも生徒達がぞろぞろと付いて来るのが解る。大勢の人間を動かしたのはアタシじゃない…多分、獅子男だろう。だから益々アタシは心音が、ワクワクが止まらなくなる。暫く歩けば、奴は裏庭で立ち止まった。ようし、先手必勝だぜ!

 

イチコ『行くぞ、はあああーっ!』

 

アタシは奴に突撃し、…そして敗れた。それは多分、そんなに長くない時間の経過だったと思う。多分一発、良くて二発身体に受けただけでアタシは落ちたんだ。だから気付いた時は保健室のベッドで、傍に置かれた椅子に腰掛けたシロがアタシを呆れた様子で見つめていた。

 

イチコ『よ…いたたっ!』

シロ「私は心配なんかしていないから…貴女は私の忠告を受け入れなかったからそうなった」

イチコ『冷たい奴だなぁ…でも、確かにシロの忠告通りだったよ。アイツは強い…心身共に、アタシを超えていたよ…』

 

シーツを悔しそうに握り締めるアタシの横顔を見つめたシロの視線が好奇心で大きく見開かれていた。だけどアタシは今それどころじゃない、だって巡り会えたんだぜ?超えるべくライバルに!

 

イチコ『くそー…悔しいな』

シロ「……何故そんなに元気なの?絶対的権力で貴女は捻じ伏せられ、何も言えずに惨めに落ちた…それなのに…」

イチコ『みっともなかろうと、恥かしかろうと構わないさ。ただアタシは奴に巡り会えただけで嬉しいんだよ。アタシは絶対に奴を越えてみせる、それが元気の源さ!』

シロ「…、馬鹿は死ななきゃ治らない…って、貴女みたいな人の事を言うのかもね…」

 

あんまりな発言なのに、何故かシロは俯きがちに笑っていたんだ。それが自嘲だと解らなかったのは、まだアタシとシロがそんなに仲が良くなかったからだと思う。でも、今の未熟なアタシにだってこれ位は言える。アタシはとても大切な友達と、かけがえないライバルを同時に得たんだな、って事をね。

 

イチコ『馬鹿で結構、コケコッコーだ!よっし、日も暮れたし帰ろうぜ。親父が心配してっかも知れないしな。…ところで』

シロ「?どうしたの」

イチコ『さっきのプレミアムうんたらパン、食ったんだろ。どうだった?』

シロ「え…と。うん、美味しかった…」

イチコ『だろ?いやー良かった良かった』

 

その言葉が今日の二人が交した最後の言葉だった。明日はこの田舎田学校で何が起こるんだろうな、一筋縄じゃいかない生徒や教師がわんさかいそうだ。楽しみ楽しみ!

 

 

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